2001.2.19 吉 岡 初 子 |
イ 判事補制度自体についても「必要な改革を施すなどして高い質の裁判官を安定的に供給できるための制度の整備を行うこと」(中間報告)が必要とされているのですから、一人前の裁判官として位置付けられている現状をあらため、基本的に裁判は判事が行うと明確にするべきです。
ウ 最高裁判所が提案している、一年程度の期間、法律事務所での弁護士研修をするという方策は、判事補制度の改革案としてはきわめて不十分と言えます。さらに、最高裁の案では、弁護士研修を義務化するのではなく、「留学を含む外部派遣制度のいずれかに参加・・・」としていますので、弁護士研修が必須条件とはなっていません。これまでの審議でも裁判官の身分を持ったままの社会経験や法律事務所で研修として弁護士活動を行うことではお客さん扱いにしかならず、研修としても不十分と認識されています。まして一年間という短期間ではなおさらですが、「留学を含む外部派遣制度のいずれかに参加・・・」すればよいと言うのでは論外です。
エ また、これらの改革を実現するためには、裁判官の数を大幅に増加する必要があります。そして、当然のことですが、司法研修所を出てすぐに任官する判事補を給源とする増員ではなく、社会的経験を積んだ、裁判官としての資質を備えた人員の増員を実現することが重要です。
オ そのためには、弁護士、法律学者などの積極的な判事への任官が促進される条件整備が必要であることは言うまでもありません。とりわけ給源の多様化を実現するために弁護士からの任官が果たすべき役割は非常に大きいと言えます。
従って、弁護士・弁護士会に課せられた使命は重大と言えましょう。
(2) 市民が参加する推薦委員会
具体的には、次のような点を踏まえた市民参加型の裁判官推薦委員会を設け、その推薦結果を尊重して任命を行うという制度にすることが必要です。
最高裁案の「裁判官指名諮問委員会」は、諮問委員会の名称が示すように、最高裁判所の諮問に対して答申することになりますから、制限的で、国民の意向の反映にはほど遠いものとなります。「裁判官指名委員会」または「裁判官推薦委員会」とするべきです。
イ 推薦委員会の委員構成は、法曹関係者以外が過半数を占めることが必要不可欠です。そうすることで、法曹関係者の意見だけではなく、市民の意見が実質的に推薦結果に反映することが可能になります。
ウ 推薦委員会に加わる市民委員の選任方法は重要です。市民代表といいながら、実際には法曹関係者の意向に従うだけの市民委員が選任されるようでは推薦委員会は適切に機能しないでしょう。したがって、市民の多様な考え方が推薦委員会に対して公正に反映されるよう、市民委員の選任方法について、工夫を行うことが重要です。
エ 推薦に際しては、アメリカにおける裁判官指名委員会、イギリスにおける募集広告など、諸外国の制度を参考にしながら制度を構築することが必要です。特に、裁判官の評価をするための情報収集の方法は重要です。アメリカのように、さまざまな方法で幅広い観点から情報を収集し、その情報に基づいて裁判官の評価を行う工夫が必要です。
オ また、委員会の推薦結果と異なった任命が行われるようでは、推薦委員会を設置した意味はなくなります。推薦結果を最高裁判所が適切に尊重することが重要です。
カ なお、この裁判官推薦委員会は、裁判官を新しく任命するときだけでなく、10年の任期が終了した再任の際にも再任するか否かについての推薦も行うことが適当でしょう。
(3) 最高裁判所裁判官の任命
最高裁判所裁判官の任命についても、一般の裁判官と同様に、任命について国民の意見が反映される方法が工夫される必要があります。
また、最高裁判所裁判官については、国民審査が行われていますが、十分に機能しているとはいえないことは衆目の一致するところです。しかしこの制度は、国民の意思で最高裁判所裁判官を罷免できるという意味で、とても重要な制度です。裁判官についての十分な情報が開示されるよう工夫するとともに、せめて○と×をつける方式にあらためるなどして、国民の意思をより反映できる制度にあらためることが必要です。
イ また、裁判所内部での人事評価は、評価される裁判官の独立性との関係で最も緊張関係をもつものです。したがって、評価を通じて裁判官の独立性がおびやかされることのないよう、評価の手続き、内容を透明化することが必要です。
具体的には諸外国の例も参考にしながら、評価基準、項目を明らかにすること、評価の結果を裁判官本人に開示すること、評価の結果に対して裁判官が意見を述べる機会、そして評価結果に納得がいかなければ不服を申し立てる機会を与えることを保証する第三者機関を設けるなどの改革をはかる必要があります。
ウ 裁判官の転勤のあり方についても改革が必要です。裁判所法では裁判官は本人の意思に反して転勤させられることはないと定められていますが、現実には定期的な転勤が当然とされています。しかも、国や大企業に批判的な判決を出す裁判官は地方の小さな支部に転勤させられるなど、転勤制度が裁判官の独立を脅かしているとの批判もあります。そのことの真偽はともかく、国民からそのような疑いをもたれないよう、転勤制度の在り方を検討し、透明化を図り、公正にする必要があります。
また、頻繁な転勤は市民の裁判を受ける権利にも大きく影響します。自分の証言を直接聞いてもらった裁判官が途中で転勤してしまうなど、事件の途中に裁判官が交代したことで、裁判の流れが全く変わってしまったという不満は裁判を経験した市民からよく聞かれるところです。
したがって、転勤については必要最小限にとどめるとともに、裁判官自身が希望した場合はもとより、結審間近な事件や、重大な事件を審理中の場合など状況によっては、利用者の立場を尊重し、転勤時期を延ばす、転勤をさせない等、制度を改める必要があります。
エ 裁判官の報酬制度についてもあらためる必要があります。現在、裁判官の報酬には一般の公務員と同様、とても多くの刻みがありますが、裁判官の独立性を考えるならば、適当とは思えません。せめて簡裁、地裁、高裁、最高裁といった4段階くらいにして、各々の裁判所では基本的に同一といった形にあらためるべきです。