司法制度改革審議会
司法制度改革審議会 第50回議事概要
- 1. 日 時 平成13年3月2日(金) 13:30~16:30
2. 場 所 司法制度改革審議会審議室
3.出席者
- (委員・50音順、敬称略)
石井宏治、井上正仁、北村敬子、佐藤幸治(会長)、竹下守夫(会長代理)、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子
- 4. 議 題
- 「法曹養成制度及び法曹人口」について
5. 会議経過
「法曹養成制度及び法曹人口」について、中間報告に対する各界からの主な指摘等を踏まえ、委員間で意見交換が行われたところ、その概要は以下のとおり。
【最終意見に向けた検討の基本的方向性】
- 各界から様々な指摘がなされているが、その内容を見ると、中間報告で明示できなかった点について審議を深めることが、最も大切なのではないか。
- 審議会として、厳しい批判も含めた指摘を真摯に受け止め、謙虚に耳を傾けながら、より良い最終意見を目指して更に前に進むという姿勢が大事だ。
【法学部教育との関係】
- 法学部の在り方については、現在の法学部教育には意義があり、基本的に現状を前提とした上で、法科大学院との役割分担を考えるべきとする考え方と、法律に関する高度な教育は法科大学院へ移行することを前提とした上で、法学部は学際的科目や法学基礎教育をベースにしたリベラル・アーツ教育を目指すべきとする考え方の両方がありうる。このことは、昨年9月の文部省の検討会議報告にも記載されている。
- 審議会は、法学部改革を議論する場ではない。法学部の在り方は、本来それぞれの大学が考えるべき問題だ。
- 法学部をもつ大学は約100校あり、1学年4万7千人の学生がいる。この全てが法科大学院の導入で直ちに見直しを迫られるというのは非現実的。むしろ法科大学院の自由な設立を保障し、認可時の規制を可能な限りゼロに近づけることが重要。
- 様々な大学・学部から、法科大学院やメディカル・スクール等のプロフェッショナル・スクールへ進学していくような仕組みを目指すべき。
- 法制史、比較法、立法政策などの研究後継者養成を目的とした従来からの大学院の在り方は、法科大学院とは別に考えられるべき。この点も含めて、各大学が独自性を競い合えばよい。
- 分野によっては純粋な研究志向の大学院もあってよいが、実定法については、研究と教育の乖離は望ましくなく、法科大学院の導入でむしろ研究が活性化するのではないか。
- 審議会では、法学部教育はこうあるべきと一律に言うことはできないという点については、大方の認識が一致したのではないか。
【教育内容・方法/実務家教員の確保】
- 法科大学院で何をどう教えるのか、イメージしにくいとの意見がある。教育内容・方法について、説得力のあるモデル案を提示すべき。
- 教育内容・方法の方向性は、中間報告で既に示しており、具体的にどう運用するかは、第三者評価で担保すべき問題。法学部の教員が現在の大学教育の問題点を最も熟知しているはずで、審議会が案を示さないと分からないというのでは困る。
- 法科大学院の多様性も重要であり、中間報告で示した以上のことを、あまり画一的に決めるのはいかがか。
- 大学院設置基準は形式的なものなので、望ましい教育内容はモデルとして別途示すしかない。その際、幅広い多様なモデルがありうることを明示すべき。たとえば、純粋な法科大学院ではなく、隣接職種も同時に育成するなど、法科大学院のコンセプトを超える大学院をつくってもよい。
- 実際には、試行錯誤の積み重ねを通じ、よいものが残っていくことを期待。
- 審議会だけで、教育内容を詰めることには限界があり、関係諸機関での検討状況等の情報を十分に集める必要がある。
- 責任をもって検討する仕組みを決めないと堂々巡りとなる。設置基準の策定について、文部科学省と法務省を中心とする検討の場を早期に立ち上げ、法曹三者や利用者の意見も反映させ、審議会が並行してウォッチできるようにすべき。
- 「法科大学院」というネーミングは誤解を招きやすく、プロフェッショナル・スクールという趣旨が明確になるよう、相応しい呼称を考え直すべき。少なくとも、「法科大学院」という名前が現段階では仮称に過ぎないことを明示すべき。
- 「大学院」の前につける名称は、いずれにしても法令上の正式名称ではない。実際には、大学が自由に名称を考え、設置申請すべきもの。
- 絵入りパンフレットを作成するなど、法科大学院を広く国民に理解してもらえるような工夫も必要ではないか。
- 理論と実務を架橋する教育、そして事実からのアプローチを、実務家教員を入れ、小人数方式を基本として行うことは中間報告で既に述べている。問題は、司法試験や司法修習との連携が具体的に明確になっていないこと。司法試験は「資格試験」としての性格を徹底すべきであり、また、司法研修所は一つで済むのかという問題もある。
【第三者評価】
- 司法試験と司法修習がボトルネックとされるが、それが法科大学院の定員に代わるだけではないかとの批判が存在する。認可の最低基準を満たせば自由に設立を認めるが、設立後に一定の教育水準を確保するためには第三者評価が必要だという議論の中で、不適格なら司法試験の受験資格を与えないという部分のみが注目され、法曹三者や文部科学省・大学関係者が数を絞るのではないかという疑念を呼んでいる。
- 法曹人口が文部科学省にコントロールされるのではないかとの批判があるが、中間報告では、合格者数制限は実質的にやめることとなっているはず。それでもなお批判されるのはなぜか、本当に誤解なのか、誤解ならばきちんと解くためにメッセージを発信すべき。「資格試験」化も、実務的な詰めが必要などと言わずに、はっきりと打ち出すべき。
- 法科大学院構想を全否定するような批判にも謙虚に耳を傾けるべき。関係諸機関の検討がうまく進んでないことも事実。その原因は、人数調整をしないということが明確に発信されていないこと。こうした誤解を解かないと、利用者の視点が欠落している、ギルド的利害が混入しているなどといった疑心暗鬼が払拭されず、法科大学院構想そのものが受け入れられない。関係者で合意するだけでは駄目で、対外的発信が重要。
- 第三者評価機関が、司法試験受験資格との関係で適・不適を認定する権限までは持たない方が、需給調整をするのではないかとの疑念を払拭するためにはよいのではないか。客観的評価を公表して、学生が選択すればよいとの考え方も可能であり、その方が現実的にも導入しやすい。強力な権限をもたせると、国の組織の中でどのように位置付けるのかという問題も出てくる。
- 設置基準は外形的評価だけなので、実際の中身の担保は第三者評価によるほかない。単なる評価結果の公表では足りないのではないか。
- 法科大学院修了者の7ー8割を合格させるとして、教育内容がそのレベルに達していることをどう保証するのか明確でないとの批判がある。制度設計の具体化の検討ペースを速めるほかない。
- 第三者評価機関は、文部科学省や法務省から独立した、独立行政委員会的なものとして設置することも考えられるのではないか。法科大学院にとどまらず、司法試験や司法修習の在り方も含めてその機関で対処するようにすべき。法曹養成を「点」から「プロセス」へ移行するなら、プロセス全体に一貫して責任をもつ機関が必要ではないか。
- プロセスの部分部分で重点の置きどころが異なるので、それぞれの第一次的な目的に沿った管理形態をとった上で、各機関が連携するという考え方もありうる。
- 評価の基準を公表し、結果も公表することは不可欠。
- 第三者評価機関の構成や守備範囲については、更に検討が必要だが、権威を持たせること、円滑に導入できること、公平で透明性が確保されることなどが重要。
- 評価の仕組みは、利用者にも、受験生にも分かりやすいものとすべき。従来の法曹像が画一的で多様性を欠いていたこと、法曹三者が司法試験合格者数を決めてきたことに対する反省に立ち、一定の水準に達すれば、合格人数を限定しないことを明確にすべき。
【司法試験の在り方(移行期間、例外措置を含む)/司法修習の在り方】
- 法科大学院構想に対する批判として、誰でも受けられるという現行司法試験の「長所」が失われるのではないかとの意見がある。しかし、試験だけで能力を測ることには限界がある。新司法試験は、法科大学院できちんとした教育を身に付けることを前提に、それを確認する試験とされている。司法修習も、法科大学院の教育内容と擦り合わせを行いながら、随時中身を見直していくべきもの。
- 法科大学院と司法試験が連携することが前提なので、法科大学院の教育内容・方法と、相応しい司法試験はセットで考えるべき。どちらを先に決めるというのではなく、同時に検討すべき。
- 新司法試験の具体的イメージについては、法科大学院との連携を大前提として、大きく二つの考え方の極がある。一つは、大量の生の事実を素材として用い、長時間かけて、論理力、問題発見能力、問題解決能力等を試す試験。もう一つは、科目を多くし、短い言葉で多数の問に答えさせる試験。いずれも諸外国に例がある。
- 新司法試験は、理念としては共通の理解があるが、具体化には試行錯誤を要する。実行可能性も含め今後更に詰める必要。
- 移行期間と例外措置の在り方は関連するし、関係者への影響も大きい。法科大学院の存在理由を減殺しないことも重要だが、法科大学院非修了者の受験が過度に制限的であってはならない。経済的に恵まれない人に、検定試験などを経由して、同じ司法試験を受けることを認めることにより、現行試験の公平性という長所を活かすべき。一定の受験回数制限を課せば、法科大学院を経ずに近道で受験することにはリスクが多いので、法科大学院の趣旨を没却することにはならないのではないか。
- 例外措置をやむを得ず認めるというのでなく、社会経験を積極的に評価するとの発想で、別途の枠を設けることとしてはどうか。経済的に恵まれない人は通常働いているはずであり、例えば3年程度の社会人経験を求めることが考えられる。企業や官公庁などで経験を積んだ人の法曹資格取得を促進することは重要。この別枠の受験者に同じ試験を課すか、別の試験とするか、あるいは同じ試験を受ける前に別途の試験を経由させるか等は検討を要する。
- プロセス教育を前提とすれば、社会人にもできるだけ法科大学院に入学してもらえるようにすることが基本。そうした根本さえ確保できれば、フランスのように資格付与には複数のルートがあってもよい。新司法試験は、プロセスの成果を確認する試験であり、試験だけで資質を測らないという考え方が前提なので、同じ試験を通ったからといって、それだけで資格を与えてよいということには必ずしもならないのであり、法科大学院を経ない受験者には、試験を別に行うというのが論理的といえる。いずれにせよ、司法試験の中身との見合いであり、同じ試験では絶対駄目という訳ではない。
- プロセス重視に立つとしても、プロセスが法科大学院しかありえないとする必然性はないのではないか。
- 法科大学院の非修了者についても、同じ筆記試験を受けさせた方がよいのではないか。ばらつきは、面接・口述試験によりチェックすることもできる。
- 法科大学院を単位制・夜間制・通信制などで入りやすくしたとしても、そこから外れる人は出る。そういう人が資格を目指す途を閉ざしてはならない。
- 社会人については、司法試験受験資格を直接認める方法、法科大学院への社会人入学を拡大する方法に加えて、法科大学院への中途での編入学という方法がありうる。三つの方法をどのように組み合わせるか考えるべき。
- 学歴社会が法曹界にも持ち込まれることを懸念する向きもある。
- 現在の法曹界では、あたかも学歴が司法修習で消え、修習の期こそが全てなどと聞く。悪しき学閥は無用だが、今後は、各大学がよりよい法曹を出すために徹底的に優劣を競うことは、むしろ重要。
- 法科大学院を開放的なものにする努力を基本としつつ、プロセスによる法曹養成の趣旨が変質しない範囲で、非修了者の司法試験受験については、理屈が立つ以上は積極的な位置づけで考えてよいという点では、大方の認識が一致したのではないか。また、司法修習との関係についても、更に検討する必要がある。
【法曹人口との関係】
- 法科大学院の開始時期、新規法曹3000人の達成時期、将来の法曹人口の規模などについて検討すべきであり、少なくとも、最終報告では法科大学院をいつ頃スタートさせるのかについては、示さざるを得ないのではないか。
- 昨年8月の集中審議におけるシミュレーションでは、平成14年から司法試験合格者をいきなり3000人に増加させると想定したとしても、法曹人口5万人になるには、12年かかる。現実には条件が整わないと進めないのは当然だが、政策目標としての数字は出すべき。現在、医者一人当たり人口530人に対し、法曹一人当たり人口は10倍の5549人(平成13年)であるが、これが4千人を切る5年後くらいから、変化が目に見え始めると考えればよいのではないか。
- 望ましい努力目標を示すことはできても、時期を定めることは無理。「できるだけ早く」というだけで十分ではないか。
- 法科大学院の認可基準などの制度設計にも時間がかかり、実際の教育内容等の諸条件も見極めが必要。いきなり大胆な数字を出すことには慎重であるべき。
- 「できるだけ早く」では曖昧に過ぎる。現在40-50校が設置に向けた取り組みをしており、大学にとっても、学生にとっても、目標値がないと準備できない。
- 昨年8月のシミュレーションでは、2050年に法曹人口13万人台となっており、訴訟社会である米国の水準に近づいてしまうのではないか。
- このシミュレーションは、死亡時までリタイアしないとの前提で試算している。法曹の実稼動年数を40年とすると、単純計算で3000人合格を40年続ければ、12万人以下で横這いになる。米国には法曹有資格者が約100万人おり、日本が50万人近くまで増加しないと米国並みにはならない。法曹人口10万人強という数字は、現在のドイツとフランスの中間に過ぎない。
- 法科大学院の設置時期と移行期間については、受験生や大学生にも影響が大きく、何らかの目安を示さないと、関係者の予測が立たないのではないか。
- 法科大学院の設置時期については、認可申請の受付開始時期を示すことが重要。平成14年4月申請受付、15年4月開校がよいのではないか。最近は、3ヶ月か半年で設置審査する例もあり、14年9月申請としても15年4月開校は可能。
- 平成15年4月開校は、準備が全て順調に行った場合の最速ケースではないか。ただ、あまり急ぎ過ぎると特定の大学が有利になりかねないので、16年か17年開校を目標にした方がよいのではないか。
- 公平性に配慮する必要があり、周知期間も必要。
- できるだけ早く法科大学院をスタートさせ、できるだけ早く3000人を達成するとの姿勢が大前提ではないか。
- 移行期間は、法科大学院の第1期生修了時から5年程度を目安とすべき。
- 少なくとも法科大学院の開始時期、新規法曹3000人の達成時期、及び移行期間の長さに関し、最終報告において、努力目標であれ、何らかの目安を示すべきことについては、大方の認識が一致したのではないか。
- 合格者の人数を限定しないという考え方は既に明らかにしているつもりではあるが、新規法曹3000人を上限と誤解する向きもある。3000人は現時点での目標に過ぎず、上限という意味ではないことを、審議会として本日改めて確認したい。
- 3000人も出して大丈夫かという懸念もない訳ではない。3000人を必ず超えるというふうに誤解されないように配慮をお願いしたい。
- 法科大学院の設立を待たずとも、現在の1000人からの段階的な合格者増加に着手すべきことについては、特段の異論はないのではないか。
【裁判官・検察官等の増員】
- 法曹人口の増員目標の内訳として、裁判官、検察官の増員目標も必要であることについては、既に認識の一致をみているところである。
- 裁判官、検察官の増員については、民事・刑事の制度的基盤の改革の方向性を見極めた上で、ある程度根拠のある数字を示すべき。
- 制度を具体的に詰めるのには時間がかかるとしても、裁判官、検察官の大幅増員の目安は、最終報告で明らかにすることが不可欠。弁護士人口の当面の目標を5-6万人とした場合、裁判官も検察官も、最低でも現在の2倍は必要。
- 裁判官の一人あたり担当事件数を半分にするなど、ざっくりした目標を検討してはどうか。
- 平均審理期間を半分にするように裁判官を増やす、という考え方も分かりやすいのではないか。
- 裁判が使いやすくなると、全体の事件数も増えるので、運営の改善も不可欠。
- 裁判官、検察官だけでなく、これを支える職員の充実も必要であり、早期に目標の算定作業に着手すべき。
- 検察官、検察事務官は、行政改革における定員削減の枠組みの例外とすべき。
- 法科大学院の実務家教員の必要性も、法曹人口を考える際に考慮する必要がある。
- 今後、民事・刑事とも更に2回ずつ審議するので、その検討状況を踏まえ、また、関係機関の意見も踏まえ、改めて裁判官、検察官等の増員目標について検討することとしたい。
【今後の審議の進め方】
- 法曹養成・法曹人口については、本日の意見交換を踏まえ、4月24日の第57回審議会において、関係諸機関における検討状況なども踏まえ、会長、会長代理から、たたき台としての具体的な提案を示し、これを基に意見交換を行い、審議会としての考え方の取りまとめを行う予定。
6. 次回の予定
次回(第51回)は、3月13日(火)午後1時30分から開催し、「国民の司法参加」について、1月30日(第45回)の意見交換を踏まえた、具体的制度設計の基本となる点についてのたたき台を基に、審議を行うこととされた。
以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)
-速報のため、事後修正の可能性あり-