司法制度改革審議会
司法制度改革審議会 第51回議事概要
- 1. 日 時 日 時 平成13年3月13日(火) 13:30~17:15
2. 場 所 司法制度改革審議会審議室
3.出席者
- (委員・50音順、敬称略)
石井宏治、井上正仁、北村敬子、佐藤幸治(会長)、竹下守夫(会長代理)、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子
(説明者)
但木敬一法務省大臣官房長
- 4. 議 題
- 「国民の司法参加」について
- 但木敬一法務省大臣官房長からの報告
5. 会議経過
(1) 会長、会長代理が、井上委員の協力を得て、訴訟手続への新たな参加制度の基本を示す叩き台として作成した「訴訟手続への新たな参加制度」骨子(案)(別紙1)について、井上委員から説明がなされた(別紙2)。
引き続き、髙木委員から、裁判員制度についての私案が提出され、制度の趣旨、概要について説明がなされ(別紙3)、その後、「訴訟手続への新たな参加制度」骨子(案)に関し意見交換が行われ(主な意見の概要は以下のとおり)、後記のとおり取りまとめがなされた。
- プロである裁判官と国民とのコミュニケーション、協働が重要であるという観点から、訴訟手続への国民参加制度を導入しようとするのであるから、事実問題に限らず、法律問題についても国民の関与を認めるべきではないか。法律問題についての最終的判断は裁判官が行うにしても、国民の意見を聞き、国民の健全な社会常識を反映させる必要がある。
- 法の解釈に国民の良識を反映させる必要があるのは分かるが、例えば、学説が厳しく対立する刑法の解釈で、国民にその選択をさせるというのは難しいのではないか。裁判官が法律問題について説明し、非法律家としての意見を事実上聞くことは良いと思う。
- 裁判員は、国会議員のようないわば「国民代表」として、裁判に関与する訳ではない。無作為で選出された普通の人である裁判員が、違憲立法審査権を行使し、国民代表により構成される国会が作った法律が違憲であると判断できるような制度は憲法の趣旨に反するのではないか。
- 裁判員は、無作為ではあるが、ルールに従って国民から選ばれ、その職務を遂行する使命を託されるのであり、国会議員とは違った意味で、国民の代表と言えるのではないか。
- 違憲審査の方法は種々あり、裁判員が法令違憲の判断をするのは違憲の疑いが強いが、適用違憲、合憲限定解釈等は、別の解釈の余地があるかもしれない。
- 正当防衛や緊急避難の成否の判断をどのようにするかなど難しい問題もあるので、裁判員が関与する場面については、この審議会ではなく、具体的な制度設計の段階で詰めるべき。また、憲法問題については、裁判員が参加する裁判によるのか、裁判官のみによる裁判によるのかの選択を被告人に認めれば合憲ではないかと考えているが、この点も含めて、制度設計の段階で詰めてもらうべきではないか。
- 被告人の選択を認めれば、違憲ではないという考えはおかしい。選択を認めなければ、違憲の疑いのある国民参加の裁判制度がなぜ合憲となるのか説明されていない。国民参加の裁判が合憲であるか否かは、被告人の裁判を受ける権利の保障に限った問題ではなく、司法権を行使する裁判所の在り方の問題でもあるから、被告人の意思によって、その結論が左右されることにはならない。
- 事実問題、刑の量定には裁判員が関与するが、法律問題は裁判官が行うことを基本とすべき。
- 裁判員が、関与する場面において、実質的な役割を果たすべきであるが、その目的は社会常識を反映させてより良い判決を目指すというところにあるはず。現在の裁判に問題があるので、国民が裁判官から独立して判断するということが重要なのではない。裁判官と裁判員の双方向のコミュニケーションが重要であり、裁判体の人数は、全員で6~7人であるべき。評決方法について、「有利」「不利」で区別するのはおかしいのではないか。裁判員のみの多数で決定できないというのは分かるが、裁判官のみの多数で決定できてもよいのではないか。
- 「不利な決定をすることはできない」としている点については、二つの説明が可能。一つは、裁判体の総数が偶数である場合や奇数でも特別多数決制を採用する場合には、可否同数であったり、その特別多数までは得られなかったため有罪ないし被告人に不利な決定ができなければ、当然に無罪となるのであり、有利の方向での決定の要件を問題とする余地はないことなどを考えてのことである。また、裁判を受ける権利が、裁判官の裁判によらずに被告人が有罪とされない権利を保障していると考える説に立つと、被告人に有利か不利かで意味が異なるので、このような記載になる。
- 参加制度を導入する趣旨は、裁判官と裁判員が協働して、それぞれの長所を生かし、事件の処理に非法律家としての裁判員の視点をも取り入れ、より良い裁判を実現することにあるのであって、現在の刑事裁判の否定が出発点ではない。裁判員の数を多くすべきであるという意見は、現在の裁判、裁判官に対する不信を前提にしているのであろうが、裁判官制度改革についても審議会として一定の方向性を打ち出しているのであり、そのような前提に立つべきではない。実際、証拠の信用性等について十分議論し、判決に実質的な理由を付すためには、裁判体のサイズが大き過ぎるのは問題。コンパクトなサイズが望ましい。また、審理が長期に及ぶ事件があることも間違いなく、裁判員の負担も考慮しなければならず、裁判員の数が多ければ良いというような問題ではない。結論としては、裁判官3名、裁判員3、4名が適当。
- フランスでは、有罪か否かを秘密投票で決めており、判決に事実認定等の理由は付されないが、理由が付されない実質的理由は、実効的な合議ができないことにあるのではないか。フランス並の数がなければ、裁判員の主体性を確保できないのではないかという意見もあるが、裁判官3名に対し、国民が2、3、4名という制度を採用する国もある。数が何倍にもならなければならないわけではない。
- 外国の例をも参考にし、裁判員が主体的に判断できる仕組みを考える必要がある。裁判員制度の本質は、国民の主体的・実質的関与を確保することにあるのであるから、裁判員の主体性・独立性を貫徹する趣旨から、事件の性質によっては、裁判員のみで評決するということを認めてもよいのではないか。
- 一部の事件について、裁判官の評決権を認めず、裁判員のみで事実認定を行うことを認めるべきという意見は、裁判官と裁判員との協働という趣旨にも反するし、裁判官による裁判を基本と考える憲法に反する疑いもあり、納得できない。
- プロである裁判官と非法律家である裁判員との協働という見地から、互いに、議論を尽くし、それぞれの知識経験を共有することによって、より良い裁判を実現するということが、裁判員制度を導入する出発点である。裁判員の主体性を確保するための工夫が必要であるのは当然である。しかし、例外的にとはいえ、被告人が求める場合に、裁判官に評決権がなく、裁判員のみによる評決を認めるということは、この出発点を否定することであり、論理矛盾である。
- 公務員犯罪については、裁判官が関与することが相当でなく、裁判員のみの評決で決定すべきであるというが、このような事件で裁判官が偏ぱな裁判をするという根拠は全くない。むしろ、代表的な公務員犯罪である収賄事件では、証拠関係が複雑であり、書証を緻密に検討する必要があるから、国民だけで判断するのは実際困難ではないか。
- それぞれの主張を貫いていたのではこのテーマは先に進まない。裁判への国民参加を国民の権利として位置付けることが重要であり、この点を出発点に考えるべき。その意味で、裁判員の数を「国民の負担」を考慮の上決定するという表現は工夫の必要がある。
- 評議において、「裁判員が裁判官と基本的に同一の権限を有する」というより、裁判員が裁判官と実質的に対等に扱われることが重要。裁判長が評議を主宰する中で、裁判員の関与が従属的・形式的にならないためには、裁判体の圧倒的多数が裁判員であることが必要。裁判官が3名であれば、裁判員9名は必要。裁判員の数を多くすることは、国民の多様な意見・多元的な価値観を吸収するという観点からも必要。
- 判決に実質的理由を付すために、評議の実効性を確保する要請があるとして、裁判員の人数を制限しようという発想はおかしい。裁判員制度の本質、裁判員の主体的実質的関与という観点から、人数を検討すべき。
- これまでの審議でも、判決に事実認定についての実質的な理由を付すべきであるということにはほぼ異論がなかったのではないか。この点から、評議の実効性を確保するという要請を考慮することは当然のことである。もちろん、評議の実効性を確保するために全体としてどれほどのサイズが適当かについては色々考え方があると思う。
- 国民の多元的な意見を取り入れる必要はあるが、そのことから数を多くすべきであるということに直結するわけではない。裁判員を選任する母体となる裁判員候補者群が社会の構成を反映していれば十分ではないか。
- 裁判員の数は、国民がいつか自分に順番が回ってくることを認識できるような数が必要。そのような認識を通じて、司法への関心が高まる。そのためには、理想的には12人の裁判員が必要であり、裁判員が5、6人では問題。被告人が裁判員のみによる判断を求めた場合には、それに配慮する必要があるのではないか。
- 国民の主体的関与は数によって決まる訳ではない。参加する個々人の問題である。協働という趣旨からも裁判員の数は裁判官と同数程度であるべき。取りまとめとしては、会長、代理作成の骨子案に賛成。
- 評決は最終的には多数決になるのかもしれないが、基本的には全員一致を目指す必要がある。裁判官と裁判員の役割の第3段落で、いきなり、「評決は多数決による。」というのが出てくることには抵抗がある。
- 裁判員の選任方法については、事件毎に選任するということに確定するのではなく、任期制という余地も残してもよいのではないか。
- 暴力団抗争事件など裁判員に危害が及ぶ可能性のある事件を参加の対象から外すことを認めるというような制度もあり得ようが、「事件の性質や裁判員の負担等を考慮し、例外的に対象事件から除外できるようにすることも考慮すべきである」という表現は強過ぎるのではないか。
- 裁判員が判決書に署名するか否かはいずれもあり得るが、裁判官、裁判員がともに結果に対して責任を負うのは当然。
【取りまとめ】
訴訟手続への新たな参加制度に関し、「訴訟手続への新たな参加制度」骨子(案)(別紙1)のとおり取りまとめることについて基本的に了解が得られた。
ただし、
- 「2. 裁判官と裁判員の役割分担」第1段落第2文「裁判官と基本的に同一の権限を有する」という表現を工夫すること
- 同第2段落の「国民の負担等」という表現を工夫すること
- 同第3段落の第1文を削除し、第2文冒頭の「多数決」を「評決」に改めること
- 「4. 参加の対象となる事件」第1段落文末の括弧書内の「除外できるようにすることも考慮すべきである」という表現を工夫すること
とされた。
(2) 但木敬一法務省大臣官房長から、福岡地方検察庁前次席検事による捜査情報漏えい問題について、概ね以下の内容の報告がなされた。
- 関係者の処分の概要
- 今回の問題は、検察官一個人の問題としてではなく、検察組織全体の問題として受け止めるべきである。今回の処分に関連し、法務大臣から、以下の4点にわたって指示があった。
a 一定期間、検事を非権力機関で執務させるなどして、市民感覚を学ぶことができるようにすること
b 幹部を含む検事の基本的在り方について教育を徹底すること
c 法務省への出向者が裁判官に偏っている現状の見直し
d 一定の議決への拘束力の付与、建議・勧告の制度の実質化など検察審査会の重視
(3) 第53回会議で予定されている「国民の期待に応える刑事司法」に関する警察庁からのヒアリング項目について、別紙4のとおり確定された。なお、次回会議は、3月19日午前9時30分より、「利用しやすい司法制度」及び「国民の期待に応える民事司法」について審議が行われる予定である。
以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)
-速報のため、事後修正の可能性あり-