別紙4
平成13年 3月19日 吉 岡 初 子 |
表記項目について、本日と4月6日に審議することになっております。予定されている審議項目はそれぞれ重要なことですが、特に利用者・消費者の立場から弁護士報酬の敗訴者負担を中心に意見を述べます。
2.敗訴者負担制度の位置づけ
「国民の期待に応える民事司法のあり方」に関する論点のなかで、「訴訟に負けた側が勝った側の弁護士費用を負担する」という、弁護士費用の敗訴者負担制度導入の問題がとりあげられました。
そもそもこの問題については、「裁判所へのアクセスの拡充」の項目の中で、「利用者の費用負担の軽減」を検討する目的で議論をするために取り上げた項目であり、提訴手数料、訴訟費用保険などと同時に検討されたものです。
従って、基本的には利用者の訴訟提起を促進することを目的とすべき課題と言えます。しかし、中間報告35頁では、敗訴者負担制度導入賛成論の紹介としてではありますが、「不当な訴え・上訴の提起、不当な応訴・抗争を誘発するおそれもあるということを理由として、かねて勝訴当事者の支払った弁護士報酬(少なくともその一部)を、敗訴者に負担させる方策を導入すべきであると指摘されてきた。」と濫訴を抑制しようとする考えが記されています。
一方、次の段落で、「他方、この弁護士報酬の敗訴者負担制度に対しては、敗訴した場合の費用の負担が重くなり、事件の種類によっては、換えって訴えの提起を萎縮させる結果となるおそれがあるとの指摘もある。特に、訴訟を通じて社会的に問題を提起し、立法府や行政府に政策の変更や制度の改革を迫る、いわゆる政策形成訴訟について、そのことが当てはまると言われている。」と問題点の指摘も記されています。そして、「弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者に訴訟を利用しやすくするものであることなどから、基本的に導入する方向で考えるべきである。」とし、「労働訴訟、少額訴訟など敗訴者負担制度が不当に訴えの提起を萎縮させるおそれのある一定種類の訴訟は、その例外とすべきである。」と一応の幅を持たせてはありますが、これら敗訴者負担制度を導入しない訴訟は「例外」として位置付けられています。
3.訴訟利用者から見た現実
しかしながら、訴訟の実態は力の弱い利用者・国民にとって非常に厳しく、被害者が無念の思いを抱いている例は少なくありません。
訴訟は、よほどの場合を除いて、証拠開示制度が不十分なわが国において利用者が勝敗を見通すことは出来ません。医療事故で家族の尊い命を奪われた場合でも、証拠収集手段が十分に整備されておらず、また、適正な鑑定人がえられない現状では、病院側に過失があったとしても原告の側が負けることが少なくありません。
家族を奪われた上に相手の病院や医師の弁護士費用まで負担しなければならないかもしれないとなったら、到底訴訟を起こすことは出来ず、泣き寝入りを余儀なくされます(この点は、先日審議会に提出された医療事故情報センターが行った当事者アンケートの結果からも実証的に明らかにされているところです)。
これは医療過誤に限らず、変額保険の被害者や欠陥住宅の被害者など多くの個人被害者にも言えることです。
また、消費者の権利擁護のためにはどうしても行わなくてはならない裁判も少なくありません。主婦連が取り組んできた灯油裁判やジュース裁判、最近でははみ出し自販機裁判など、いずれもそのような性質の裁判です。
これらについて弁護士報酬の敗訴者負担制度がとられるならば、このような裁判をおこすことはとても難しくなってしまいます。
4.中間報告に対する反響
こうした実態があることから、多くの個人や団体、弁護士会などから当審議会に、弁護士報酬の敗訴者負担制度に反対する要望や意見書が届けられています。また、全国各地で同制度に反対する集会が開かれています。こうしたことは、この制度が消費者・国民に危機感を持って受け止められていることの現れだと思います。
平成12年4月28日制定された(13年4月1日施行)消費者契約法の第1章、第1条(目的)には、「この法律は、消費者と事業者の間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ・・・」と消費者と事業者との間には、おおきな格差があることを明示しています。こうした構造的格差を有する場合、ハンデキャップをつけるのは当然です。
訴訟提起の場合でも、格差是正のための措置を講ずるべきと考えられますが、その一つが片面的敗訴者負担制度であると思います。敗訴者負担制度を導入するのであれば、このような形の制度こそが議論されるべきです。
また、諸外国の制度の実態についても、充分に検証する必要があります。
当審議会の基本目的を踏まえて、中間報告における弁護士報酬の敗訴者負担制度を全面的に見直すことを提案いたします。