司法制度改革審議会

第52回司法制度改革審議会議事次第



日 時:平成13年3月19日(月) 9:30 ~12:30

場 所:司法制度改革審議会審議室

出席者

(委 員)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、井上正仁、北村敬子、曽野綾子、髙木 剛、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、吉岡初子

(説明者)
金築誠志最高裁判所事務総局人事局長

(事務局)
樋渡利秋事務局長

  1. 開 会
  2. 利用しやすい司法制度及び国民の期待に応える民事司法の在り方について
  3. 閉 会

【佐藤会長】それでは、定刻がまいりましたので、ただいまから第52回会議を開会いたします。
 本日は、利用しやすい司法制度及び国民の期待に答える民事司法の在り方につきまして、意見交換を行うことにしております。
 なお、意見交換に入ります前に、前回お話ししましたように、福岡の件につきまして、最高裁判所事務総局、金築人事局長から御報告をお聞きすることにしております。
 今日は本当にお忙しいところ恐縮でございますけれども、誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【最高裁(金築事務総局人事局長)】それでは、御報告させていただきます。
 平成13年3月14日の最高裁裁判官会議におきまして、いわゆる福岡の問題について、最高裁判所調査委員会による調査結果の報告がなされまして、了承されました。
 この度、司法制度改革審議会において、この問題について説明をさせていただく機会を与えられましたので、調査結果の概要について説明をさせていただきたいと思います。
 調査報告書をお配りしてございますが、調査報告の結論は、報告書の冒頭に書かれた3点にまとめております。これを読みますと、「1 古川龍一判事の妻古川園子を被疑者として、福岡簡易裁判所に対し、平成12年12月13日、12月22日、平成13年1月9日、1月29日、1月31日の5回にわたって各種の令状請求があり、各回について裁判所部内で令状請求関係書類のコピーが取られたが、令状請求のあった事実を含めてこれらの書類の内容が古川判事に漏洩した事実はない。2 司法行政上の目的から、本件令状請求に伴い裁判所部内で伝達された情報が許容される必要最小限度を越えていた点に問題があり、さらに令状請求関係書類のコピーを取って伝達したことは、不適切であったといわざるを得ない。これらの問題点については、司法行政上速やかに再発防止策を講じなければならない。3 古川判事が、妻古川園子の刑事事件に関する証拠を隠滅したと認めるに足りる証拠はない。」というものでございます。
 本件の令状請求関係書類のコピーの問題につきまして、再発防止策を立てることが重要であると考えております。
 本件において結果的に不適切な処理がされたことについて考えてみました場合、本件が裁判官の妻を被疑者として令状請求がされたという稀有な事態であったとはいえ、よるべく準則もなく、日ごろの職員の指導にも、本件のような事態に対処できるだけのものが欠けていたことが原因の一つとして考えられます。この点は率直に反省しなければならないと思います。
 早急に検討すべき再発防止策は、令状請求があった場合において、それに関する司法行政部門に伝達する際の取扱いについての準則を定めることであります。調査委員会は、裁判部門から司法行政部門への情報伝達の在り方を検討しておりまして、これを参酌して、可能な限り限定的で明確な準則を設けるのが相当であるとの提言を行っているところであります。どういった形で準則をつくるかにつきまして、関係部局において直ちに検討に入ることといたします。
 なお、この準則を定めるに当たっては、捜査機関との協議も必要であろうと考えております。
 次に関係者の処分について御説明申し上げます。調査結果報告が了承されたことを受けまして、関係者の処分の手続が進んでおります。
 まず、最高裁事務総長の権限に関わるものとして、コピーに直接関わった渡辺福岡地裁刑事首席書記官と、松元福岡地裁事務局長に対して、3月14日、いずれも懲戒処分として戒告いたしました。
 同日、福岡高裁の青山長官、土肥事務局長、福岡地裁の小長光所長、及び古川判事に対し、福岡高裁におきまして、裁判官分限法に基づく懲戒の申立てをすることが決定され、このうち福岡高裁の青山長官及び土肥事務局長については最高裁大法廷において、福岡地裁の小長光所長については福岡高裁において、それぞれ3月16日戒告の決定がなされました。古川判事につきましては、現在、最高裁の大法廷で審理中であります。
 捜査ないし調査の結果によって、裁判所からの捜査情報の漏洩はなく、古川判事においても、証拠隠滅の事実は認められないという結論が出ましたが、この間の一連の出来事により国民から様々な疑惑の目を向けられてもやむを得ない結果になったことは、誠に遺憾であり、裁判所としては、この度の件を重い教訓として受け止め、平素の検察庁や検察官との関係においても、厳格に襟を正していくべきものと考えております。これからの司法の信頼回復に向けて努力してまいりたいと思います。
 御報告は以上でございます。

【佐藤会長】ただいまの御報告につきまして、時間も余りありませんけれども、何か御質問等がございましたら。中坊委員どうぞ。

【中坊委員】ただいまの福岡の件に関する最高裁人事局長のお話でありますけれども、御承知のように、裁判官問題、特に裁判官の人事問題は、この4月に私たちもう少し審議するということになっていますので、そういう建前から若干詳細にお聞きします。
 まず、ただいまの話ですと、5回にわたって福岡簡裁で行われた令状請求の関係書類、いわゆる捜査書類は、コピーをされて、地裁、高裁へ渡ったということですが、これは同時に最高裁判所へも報告があったわけですか。

【最高裁(金築人事局長)】最高裁にはコピーを取ったとか、コピーがあったという報告はございませんで、令状請求があったという事実と、被疑事実の概要、そのくらいの報告がありました。

【中坊委員】これは5回あったわけでしょう。

【最高裁(金築人事局長)】これはその都度あったわけではなくて、最初の12月13日のときにはあったのですが、その後は毎回ではなくて、最後の逮捕状のときにはあったという記憶でございます。

【中坊委員】2回あったわけですか。

【最高裁(金築人事局長)】その間、12月28日に古川判事が山下次席検事に呼び出されて、告知を受けています。その間のことは、年明け4日に報告がありましたけれども、令状請求に関しては、私の記憶では2回だと思います。

【中坊委員】そのときには、コピーは福岡高裁から最高裁の方にはこなかったわけですか。

【最高裁(金築人事局長)】コピーはきておりません。コピーを取ったということ自体、特に報告ありませんでした。

【中坊委員】しかし、そういうことを簡裁の担当裁判官、あるいは事務局の人が、そういうことをしておるという、コピーなどして上に知らしているということは、勿論存じておられたわけでしょう。

【最高裁(金築人事局長)】最高裁がですか。

【中坊委員】そうです。

【最高裁(金築人事局長)】いえいえ。

【中坊委員】全く知らないんですか。

【最高裁(金築人事局長)】はい。それが分かったのは、報告書にも書きましたけれども、これは新聞に2月の初めころ出たのですが、その前の晩に福岡地裁でしたか、高裁でしたか、取材があったということがこちらへ連絡がありまして、そのときに、そういうことがあったということを知りました。

【中坊委員】でも、担当の方がなさっていることが、少なくとも簡裁から地裁、地裁から高裁へ知らされているということは御存じだったわけですね。

【最高裁(金築人事局長)】令状請求があったということですか。

【中坊委員】令状請求があり、それを上司の方だということで、地裁とか高裁に報告、コピーまで渡したかどうかは知らなかったけれども、報告があったということは勿論御存じなんでしょう。おたくのところへそもそも報告があるのは福岡高裁から来るんでしょう。

【最高裁(金築人事局長)】そうです。福岡高裁からです。

【中坊委員】だから、福岡高裁からおたくの方へ連絡はあったけれども、それは1回まずあって、それから後はもう1回だけあっただけだと。それは年を明けてからですね。

【最高裁(金築人事局長)】令状請求に関してはそうです。

【中坊委員】その間はなかったと。

【最高裁(金築人事局長)】令状請求についてはですね。

【中坊委員】請求についてですね

【最高裁(金築人事局長)】請求の都度あったというわけではありません。

【中坊委員】その令状請求に関する情報が、少なくとも担当裁判所から順番に地裁、高裁と渡ってきているということは、おたくらは御存じだったわけでしょう。

【最高裁(金築人事局長)】それはそうです。

【中坊委員】その渡ってきたことが、事務総局として知られて、何らかの措置はお取りになったんでしょうか。

【最高裁(金築人事局長)】最初に来たときに、そういう令状請求で裁判官が関係していますから、秘密が関係者のところへ漏れると大変だということで、捜査に影響しますから、とにかく捜査に影響のあるようなことをしないようにということを、注意をいたしました。あとは成り行きを見るというほかない、特にすぐに何か動くということはできないと判断しておりましたので、特にそれ以上のことは、最高裁としては指示はしておりません。

【中坊委員】それでは、そういう捜査の秘密が漏れないようにというのであれば、本件の場合はコピーを全部しておって、それが十数人のほかの裁判官にわたって、情報が知れていたということですね。

【最高裁(金築人事局長)】十数人の裁判官に知れていたということはないのですが。

【中坊委員】何人かの裁判官に知れておった。私も調査報告書の詳しいことは分かりませんが、新聞紙上で見る限り、そういうことになっていますね。

【最高裁(金築人事局長)】あの新聞の中に、令状の審査をした簡裁判事の数なども全部入っているのではないかと思うのですが、裁判官でこのことを知っていたのは、所長と事務局長と地裁の刑事の上席裁判官と、大体数名ですね。十数名ということはありません。人数はそういうことです。

【中坊委員】いずれにしても、捜査の関係の書類をその人たちも見たということの話もお聞きになっていないんですか。この福岡の場合は、コピーをして渡されておったようですけれども。

【最高裁(金築人事局長)】そもそも当時はコピーの存在自体を知りませんでしたので、当時は聞いておりません。

【中坊委員】でも、今おっしゃるように、捜査の機密が外に漏れないように注意をしたとおっしゃるんであれば、当然どういうふうにして裁判官内部において、上席にせよ、事務局長にせよ、高裁長官にせよ、どういう情報が知れておるということは、当然最高裁事務総局としては、お尋ねになるのが普通じゃありませんか。それを尋ねなかったわけですか。

【最高裁(金築人事局長)】この種のことは、必要最小限度の人にしか伝えないのが当然のことで、事務局長から連絡がありましたけれども、それは限られた人の範囲でしか伝えていないというのは、当然のことだと思っておりました。

【中坊委員】本件の場合は、不適切だとして処置されたのは、全部の一件記録をコピーまでして、だから、情報が漏れる恐れがあったから、不適切だとおっしゃってるわけでしょう。今度処分されたときにね。

【最高裁(金築人事局長)】情報が漏れる恐れがあったというか、範囲が広過ぎるということですね。

【中坊委員】当然そういうことに関しては、人事権の最高の処分をするところ、権限を持っているところが最高裁の事務総局であれば、そういうことは当然にお尋ねになるのが私は普通だと思うんですけれども、それは尋ねなかったんですか。どういう方法によって、捜査の令状請求があるということが、担当裁判官ではなしに、司法行政上の高裁長官とか、事務局長とか、刑事の上席裁判官が知っているとか、そういうことを、普通ならば、どういう方法で知ったんだというのではないですか。

【最高裁(金築人事局長)】それは令状請求があったから知ったわけで、令状請求があった事実は特に変わった手段で情報を取るということではないと思いますから、特にそこでどういう方法でということを問い詰めるほどのことではなかったと思います。

【中坊委員】そういう感覚ですか。しかし、よそに情報が漏れないようには、自分の方から指示したとおっしゃっていますね。

【最高裁(金築人事局長)】これも当然、念のためですね。皆さんそういうことは当然の前提として気を付けられると思うのですが、当然のことをこちらの方でも言ったということですね。

【中坊委員】だから、当然のことであれば、今、まさに不適切な行為であったように、一件記録が複数コピーされて渡されているということは、当然普通ならばお尋ねの対象になってきているはずです。というのは、そういう質問をわざわざ発しているんだから、情報が外へ漏れないように周知しなさいと。にもかかわらず高裁長官からか事務局長からか知りませんけれども、いずれにしても、最高裁に伝達のあったのは、その方法は全然説明がなかったと言われる。自分も注意はしたけれども、内容については、どういう方法で捜査の情報がよそへ漏れないということについては、具体的な尋ねもしないし指示もしていないということですか。

【最高裁(金築人事局長)】コピーされているなどと、思いもしなかったので、そんなことをしているのか、していないのかということを、尋ねたりはいたしませんでした。

【佐藤会長】中坊委員、途中ですけれども、今日はいろいろほかの議題があり、時間も限られているものですから、できるだけ手短にお願いします。後日また裁判官制度の在り方について、議論する時間がありますから。

【中坊委員】もう1度尋ねることができるのですか。基本的に私個人はこれが単なる不適切なですますことができる行為なのかと思います。しかもこれは非常に重要なことですね。裁判官の独立問題とも非常に密接に関係してきますし、人事権の行使が司法行政上という名の下に捜査に優先して、こういうことが行われたということは、大変なことだろうと思うんです。今後我々が審議する上においてね。それならもう1度お尋ねの機会を与えていただくか何かしないと、と思います。しかも具体的な事実でしょう。それをやはり尋ねていく必要はあるんじゃないか。そのためにわざわざ今日来ていただいているわけでしょう。

【佐藤会長】この間但木官房長から法務省としての処置について御報告をいただきましたが、それと同じような趣旨で人事局長からお話ししたいということで今日来ていただいたわけです。

【中坊委員】私たちは、この間も少し出ていましたけれども、法務省の方は、今回の漏洩事件を法務省全体としての構造的な、身内をかばう意識だとか、いろんな構造的な問題としてとらえて、その改革をしたいとおっしゃっているし、今度の最高裁の方は、そんなもんじゃなしに、本来司法行政上捜査情報を伝達することも許されるんだ、しかも、不適切であったというだけであるからというように、その個人の問題だけのことであって組織的・構造的なことではないということになっていますから、そこにおいては、法務省の取扱いと最高裁の取扱いとでは差があると思うんです。
 しかも、どちらかと言えば、一番重要なのは、まさに司法の中核である裁判所の内部において、しかも我々はこれから人事問題の、そういう問題についてこれから審議するわけでしょう。そのことに関することが尋ねられないで、ここでまた審議をする、いろいろ憶測を加えて、ということはいかがなものかと思います。

【佐藤会長】この問題は構造的な面もあるかもしれませんけれども、私どもが今後審議すべき課題として、人事行政の在り方がまだ残っていますでしょう。それから最高裁の裁判官の任命についてどう考えるかという課題も残っております。ですから、裁判官制度の改革について、まだ審議する機会があると思います。その審議の仕方、どういう方法でやるかについては、少し考えさせていただきます。いろんな方法があるかもしれませんので、そこは少し考えさせていただきたいと思います。

【竹下会長代理】この調査報告書は、今日頂いたところで、まだ中身も見ていませんので、内容をよく読ませていただいてからでないとどう取り扱うかも判断できかねますね。

【中坊委員】今おっしゃるように、裁判官の人事問題をやるわけですから、竹下さんがおっしゃるように、確かに詳細な調査報告書というのは今頂いて、今聞いて、それでいいのかという問題もある。しかも、本当に国民がこれについて多くの行動も疑義が残っていると言っている最中に、審議会が説明だけ聞いて分かりましたというふうにしては、ちょっと問題が多いと思うんです。しかも、裁判官の人事問題を、この4月に論じようとしているときに、このような問題について、ただ何も質問もしないで疑義を正さない、少なくとも私は委員の一人としてそのことに疑義を感じておるわけですが、そういうことについての釈明も行われないまま審議を続けていくということは、私は疑問があると思うんです。

【佐藤会長】私どもの任務は、裁判官制度の在り方について議論をするわけで、おっしゃるように、この問題も裁判官制度の在り方とある種の関連があるかもしれません。私どもにとって、どういう事柄を考慮しながら、裁判官制度の在り方についてどう考えるということの問題だろうと思うんです。議論の仕方、審議の仕方のところで、どういうようにやったらいいのか、今日のやり取りを含めて考えさせていただければ。

【中坊委員】制度は同時に運営されるものですから、制度と運営が問題になってくるわけでしょう。制度と運営について、このような具体的な事態が発生しているわけです。しかも、これは非常に国民に明らかになっておるところでしょう。それを我々が国民の付託を受けて審議をしているわけだから、それに関する要望というものは、きちっと質問さたせり、事案の真相が分かって、審議をしていくのが当然だと思うんです。

【佐藤会長】御趣旨は分かりましたので、具体的な審議の仕方については少し考えさせていただきます。
 12時までにほかの議題も予定していますので、これについて、これ以上時間を取るのは難しゅうございます。今の御趣旨を踏まえて。

【中坊委員】少なくとも私とすれば、4月にもう1度この問題を、いずれにしても裁判官人事問題を審議しますね。そのときには、仮に私が要求すれば、このようにして最高裁の方からヒアリングというか、御説明に来ていただける機会は与えていただけるんでしょうか。

【佐藤会長】今の中坊委員の御意見は承っておきます。それも含めて4月の審議の在り方をどうしたら適切なのかということについて、少し考えさせてください。

【中坊委員】しかし、結論として私として申し上げたいことは、かなり大きな疑問を残しておるということです。しかも、我々がこれから審議する裁判官の制度、運営に関して、今回の事案は大変大きな疑問を残しておるし、それについて私個人は、今回の裁判所の措置は、これでは極めて不十分というか、おかしな方向へ向かっていると私は思っていますので、本質に触れている問題ではないかと思っていますので、よろしく御検討願います。

【佐藤会長】今の御意見は承っておきます。
 それでは、どうも御苦労様でございました。

(金築最高裁事務総局人事局長退室)

【佐藤会長】では、この件は以上で終わらせていただきまして、次に利用しやすい司法制度及び国民の期待に応える民事司法について、意見交換に入りたいと思いますが、その前に、本日の議事の進行につきまして、お話しさせていただきたいと思います。
 この利用しやすい司法制度及び国民の期待に応える民事司法の在り方につきましては、本日と4月6日の第54回会議におきまして、調査審議を行うということになっておりますので、本日は、まず、皆様の意見交換をしていただければと考えておりますけれども、お手元にお配りしておりますレジュメを御覧いただければお分かりのように、意見交換をしていただくべき事項は相当多岐にわたっております。
 そこで、本日は、まず会長代理に御苦労いただきましたADRに関する勉強会につきまして、代理の方からその結果等を御報告いただいて、それについて意見交換をしたいと思います。その次に、民事司法関係の中で改めて意見交換を行うことにしておりました労働関係事件への対応につきまして、意見交換をしたいと思っております。それから、さらにその後、その他の課題につきまして、レジュメの順番にしたがって、時間の許す限り、できればすべての項目についてということなんですが、これは大変ですけれども、すべての項目にわたって意見交換ができればというふうに考えている次第です。
 このような形で本日の議事を進めさせていただきたいと思いますが、本日は、先ほども申しましたけれども、午前中だけ、12時までです。予定時間をいつも少しずつオーバーして大変恐縮しているんですが、時間が非常に限られておりますので、御協力のほどよろしくお願いいたします。
 それでは早速、代理の方からADRに関する勉強会につきまして、その結果などの御報告をいただくことにしたいと思います。代理にはお忙しいところ本当に御苦労様でございました。よろしくお願いします。

【竹下会長代理】それでは、ただいま会長からお話がございましたように、ADRに関する勉強会をいたしましたので、その内容を御報告したいと思いますが、その前に、しばらく民事司法の制度的基盤の整備の問題につき、審議の間があいておりましたので、改めて民事司法の制度的基盤の整備という課題の当審議会における位置付けについて、少し申し上げさせていただきたいと思います。
 これまで人的基盤の拡充、それから国民の司法参加の問題について議論をしてまいりまして、これらの問題は、今後の我が国の司法の在り方を大きく規定する長期的な重要課題ということになると思います。
 これに対しまして、民事司法に関する制度的基盤の整備の問題は、国民に対する司法サービスの拡充、国民の権利・利益のより実効的な救済という、国民にとってより直接的な課題と申せるのではないかと思います。その意味で、同じく21世紀の日本の司法の在り方に関わる重要な課題であり、司法の利用者たる国民の関心の高い問題であろうと思います。
 我々といたしましては、長期的に重要な人的整備、あるいは国民の司法参加という問題に応えるとともに、この国民の直接的関心の高い民事司法の課題についても十分に応える必要があるだろうと考えております。
 中間報告の中でも、勿論、我々はこのことを意識して、種々の提言をし、また、個別の問題を検討してまいったわけでございますけれども、中間報告のこの部分に対する各方面から寄せられた意見を拝見しますと、弁護士報酬の、いわゆる敗訴者負担問題を除いて、今ひとつインパクトが弱かったのではないかという印象を受けます。最終意見に向けまして、提言の内容を一層インパクトの強いものにするとともに、項目の整理等、形式面でも、当審議会の意図が鮮明になるような工夫をすることが望ましいのではないかと思っております。
 それでは、初めに時間を取らせていただいて、お手元に配付されている「『司法制度とADRの在り方に関する勉強会』について(審議会報告用レジュメ)」に従って御説明してまいりたいと思います。
 中間報告では、御承知のようにその41ページ以下で、「裁判外の紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化」を論じております。その結論的部分といたしまして、42ページの上から2番目のパラグラフの最後の辺りですが、「ADRが、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図っていくべきである。」と申しております。その後、(ア)として、ADRの拡充・活性化のための基盤整備、(イ)としまして、ADRと裁判手続との連携強化ということが述べられております。
 そこで、勉強会といたしましては、これらを受けまして、司法制度との関連において、そこにございますマル1「ADRの拡充・活性化のための共通的な基盤整備に関する課題」、マル2「裁判所とADRの連携やADR間の横断的連携に関する現状と課題」、マル3「ADRに関する関係省庁等の間の連携強化の在り方」、等につきまして、現状を把握して、意見交換を行い、当審議会における今後の検討のための素材を提供するという目的で持たれたわけでございます。
 出席委員は、そこにございますように、私のほか、髙木委員、吉岡委員が御出席くださいました。
 出席省庁等は、そこに列挙されておりますけれども、数で申しますと14省庁等が、裁判所、弁護士会も含めてでございますけれども、参加をされました。
 開催回数等は省略させていただきたいと思います。
 そこで議論をされた内容は、大きく分けると二つになりまして、3ページにございます「ADRに関する関係機関・関係省庁等の運用面での連携」という問題、それから、6ページ以下にございます「ADRに関する共通的な制度基盤の整備」の問題と、この二つの問題を主として論じました。
 運用面での連携は、更に3点に分けることができます。一つは、情報提供面での連携、2番目は、担い手確保面での連携、3番目は、関係機関・省庁の連携推進体制の在り方ということでございます。
 まず第1の「情報提供面の連携による利用促進」ということでございますが、そのポイントと書いてございますように、要点は、訴訟、ADRを含む紛争解決に関する総合的な相談窓口を充実させるとともに、インターネット上のポータル・サイトなど情報技術を活用した連携を図り、ワン・ストップでの情報提供を実現すべきであるということが、ほぼ一致した意見でございました。
 具体的には、相談窓口の整備・連携、裁判所、弁護士会をも含めて、地方公共団体や消費生活センター等の窓口を整備して、適切な人員を配置した上で、パンフレット、FAXサービス、ホームページ等を活用した情報提供を一層充実させるべきである。各窓口では、裁判所の手続や各種ADR、法律相談、法律扶助の仕組みなど、司法に関する総合的な情報をワン・ストップで提供できるように、関係機関等が必要な連携・方策を講じるということでございます。
 2番目には、情報技術を活用した情報提供、情報の共有化ということでございまして、インターネット上のADRの総合窓口サイト、これをポータル・サイトと呼んでおりますが、それを整備し、裁判所も含む関係機関が積極的に参加をすることが望ましいということが一致した意見でございました。
 具体的には、現在、既に国際仲裁連絡協議会という国際仲裁に関する各種団体、個人等が集った連絡協議会が行われておりますが、そこでこのポータル・サイトというものの作成が試みられております。かなり整備されており、外国のADRともインターネット上でリンクできるようになっております。どういう分野について、どういうADRがあって、それぞれ担い手はどうなっているか、そこで行っている手続はどうかということが、インターネット上で順次知ることができるという仕組みでございます。
 3番目が、情報内容の一層の充実ということで、これは4ページの点線の四角にあるような、手続に関する情報、機関に関する情報、担い手に関する情報、解決事例や解決基準、その他、括弧内に例示されているような情報をそれぞれの担当機関において提供し、相互に共有化することが望ましいということでございます。
 次は、大きな2として、「担い手確保面の連携によるADRの質的充実」、ポイントといたしまして、ADRの担い手の確保につきましては、人材、紛争解決等を含む情報の開示・共有を促進した上で、必要な知識・技能に関する研修等の充実を図るべきであるということを申しております。
 まず、それぞれのADRが紛争解決を含む、ただいま申しましたようないろいろな情報を、お互いに開示し、共有化した上で、そういう情報をうまく使った紛争解決ができるように担い手を養成していく、研修等を充実して養成をしていくということが必要であろうということでございます。
 その次の「(1)紛争に関する情報の共有」は省略させていただきまして、「(2)担い手の確保のための連携」といたしましては、最初にございますように、担い手リストや担い手の専門分野や実績等の情報の開示・共有化を図るべきであるということ。ADRの担い手に必要な知識・技能等に関して、調査研究の成果も含め、情報・ノウハウの共有を図った上で、担い手の資質確保、向上のための研修の充実等を検討すべきである。その際、法曹養成制度や国民生活センターにおける研修、裁判所調停委員に対する研修等との有機的連携や、評価・認定の仕組みの整備なども視野に入れるべきであるということが指摘されました。
 運用に関する問題の大きな3は、「関係機関・関係省庁等の連携を推進する体制」を整備するべきであるということでございまして、ポイントとして、ADRの拡充・活性化に向けた裁判所や関係機関、関係省庁等の連携を促進するために、関係諸機関による連絡協議会や関係省庁等の連絡会議等の体制を整備する必要があるだろうということが言われました。
 現在でも、そういうことが部分的には行われております。今回ADRに関して関係省庁が一堂に会して検討する機会を持ちまして、このことは大変画期的な意味があったと評価されました。今後とも類似の形態で情報交換、連携をしていくことが重要であろうということが共通の認識となりました。
 現実には、3番目の○にございますように、金融トラブルの分野におきましては、平成12年6月27日の金融審議会の答申を受けまして、金融トラブル連絡調整協議会というものが既に立ち上がっております。消費者が巻き込まれる金融トラブルが、これから多発することが予想されるわけでございますけれども、それをADRで処理をするために、金融関係の各種のADR、これは現在業界別に、都市銀行とか信託銀行とか信用金庫とか、別々にADR機関を設けておりますので、それらの連絡調整協議会というものが必要と考えられて、持たれているわけでございます。
 このほかにも先ほど申しましたように、国際仲裁の分野では、国際仲裁連絡協議会というものができ上がっております。
 その次は大きな2番目の問題で、「ADRに関する共通的な制度基盤の整備」でございます。
 この中で議論されておりますのは、大きく分けると二つの問題でございまして、一つが、「ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための制度整備」、2が、「担い手確保に関する制度整備」でございます。
 まず1の「ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための制度整備」ということでございますが、これのポイントとして申し上げることができますのは、現在、UNCITRALにおいて作業が進行中でございますが、そういう国際的な動向を見ながら、国際商事仲裁を含む仲裁法制を早期に整備すべきである。さらに、ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律の制定をも視野に入れた総合的な検討を行う必要がある。その際、例えば、ADRの申立てに時効中断の効力あるいは時効停止の効力を付与すべきではないか、あるいは、執行力の付与を認めるべきではないか、法律扶助の対象とするべきではないか等の、いろいろな問題が出されておりますが、そのための条件整備をする必要がある。それから、ADRの全部又は一部について、裁判手続を利用したり、逆に裁判手続で部分的にADRを活用するという手続整備等を具体的に検討すべきであるということが言われました。
 その中で、具体的に申しますと、ADRの利用促進に資する制度整備といたしましては、ただいまも触れましたように、時効中断とか時効停止の効果を付与する、あるいは、ADRで調停が成立した場合にその合意に執行力を付与すること、法律扶助の対象化を認めるべきであるということが言われますが、それを可能とするためには、制度整備を具体化するために、その要件などを専門技術的に検討する必要があるだろうということが認められておりました。
 その際、特定の効力付与の対象となるADRを仕分ける方法が問題となります。一説によるとADRは、現在、雨後の筍の如く、いろいろな分野でそれぞれが必要に応じてでございますけれども、発生してきている。いろいろなタイプのものがございますので、ADRにこういう効力を認めるためには、当然仕分が必要になります。その仕分をする手法としましては、担い手に着目する方法、法曹有資格者が入っていることを要するか要しないかということが具体的な問題になるわけでございますけれども、そういう方法。それから、手続に着目する方法、適正手続の保障があるかどうか。それから、機関に着目する方法等が考えられますが、それぞれのメリット、デメリットを更に検討する必要があるであろう。
 2番目は、ADRと裁判所との手続的連携に関する制度整備でございますが、ADRと裁判所との手続的連携を促進するために必要な措置を講じるべきである。
 具体的には、ADRの全部又は一部を裁判に移行する場合の手続については、例えば、後に取り上げます証拠収集手段の充実との関係で申し上げたいと思っておりますけれども、ドイツ法にあるような独立証拠調べというような制度が仮に導入されたといたしますと、そこの部分はその裁判所の手続を活用して、それ以外はADRで処理をするということが考えられるのではないか。そのための手続を整備する必要があるだろう。
 それから、訴訟手続の全部又は一部をADRに移行させるということが考えられるわけでございますけれども、そういうための手続の整備ということが必要になるであろう。例えば、そこにございますように、現在特許法で、特許権の技術的範囲等について争いが起こったときに、特許庁の審判体が判定という制度で、特許権の技術範囲はこれだけであるという判断を示すことが認められておりますし、また、公害紛争処理法では、裁判所から嘱託があれば、公害事件の原因裁定をすることができる。公害事件の原因裁定は当事者の申立てによってこれだけすることもできますけれども、訴訟係属中に裁判所から嘱託を受けたときにやるということにもなっておりますので、そういう形でADRを部分的に使うということが考えられるということでございます。
 その次に、(3)としましては、「ADRに関する基本法制の整備」ということも考えるべきではないかということも、ほぼ共通の認識となりました。
 これまで裁判所が行う民事調停、家事調停についてはその機関、手続、効力などを定める法律ができ上がっておりますが、仲裁法制は、非常に古い形のものが残っているだけでございますので、そういった国内の仲裁法制、さらに国際仲裁法制というものの整備を迅速に行う必要がある。先ほど申しましたようにUNCITRAL等の国際的な動向も踏まえて、可能な限り早急に着手すべきであるということが指摘されました。
 さらに、仲裁だけではなくて、裁判所以外の機関で行われる調停や和解等も含むADRの拡充・活性化のために、個別問題への対応との関係や、仕分も考慮しながらでございますけれども、前の(1)(2)で触れた点も含めたADRに関する基本的な枠組みを規定する、言わばADR基本法というような法律の制定をも視野に入れた検討を、今後行っていくことが必要なのではないかということが広く認められました。
 最後に、「担い手確保に関する制度整備」でございますが、この要点といたしましては、隣接法律専門職種など、法曹以外の専門家のADRにおける活用が望まれますが、これは弁護士法72条の見直しとも関連いたしますので、職種ごとに実態を踏まえて、個別的に判断をするべきであろうということになりました。
 なお、弁護士法72条につきましては、少なくとも規制対象となる行為の範囲、態様に関する予測可能性を確保するために、何らかの形で明確化すべきであるということが、勉強会に参加したメンバーの方から指摘されました。取り分け弁護士法72条は刑罰法規という意味を持っておりますので、その内容が明確である必要があるのではないかという指摘がございました。
 具体的には、隣接法律専門職種など、専門家の活用、それと弁護士法72条の見直しの問題が議論されたわけでございますが、隣接法律専門職種など、法曹以外の専門家のADRを含む訴訟手続外の法律事務への関与につきましては、当該法律事務の性質と実情、各職種の業務内容・専門性、その実情、その固有の職務と法律事務との関連性等を踏まえて、その在り方を個別に検討すべきであるということであります。
 メンバーの中から言われたことでございますが、例えば、社会保険労務士につきましては、裁判外における個別労使紛争処理制度での活用ということが考えられるのではないかということが、厚生労働省の方から提案されましたし、また、土地家屋調査士につきましては、新しく現在、法務省で検討している裁判外の境界紛争解決制度における活用などが必要なのではないかということが、同じく指摘されました。
 ただいま申しましたとおり、弁護士法72条につきましては少なくとも、同条の規制対象となる範囲、態様に関する利用者等の予測可能性を確保するために、ただし書きも含めて何らかの形で明確化すべきであるという声がかなり出されました。
 最後の点は省略させていただきます。ちょっと時間を取りましたが、以上でございます。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。本当によくおまとめいただいて、改めて御礼申し上げます。
 今の代理の御報告につきまして、早速御質問もあろうかと思いますけれども、それは意見交換の中でやっていただければと思います。今の御報告は非常に要領よく取りまとめていただいておりますので、この御報告の整理にしたがって、意見交換をしていただければと思いますけれども、お互いに密接に関連し合っているものですから、その辺は適宜お考えいただいて結構でございます。
 時間の関係もありますので、どの点からでもよろしゅうございますので、どうぞ。

【中坊委員】私、自分の過去の経験に基づいてではあるんですけれども、現実にADRとして大変な活動領域を持ち、実績を挙げているのは、私の存じ上げている範囲では交通事故紛争処理センター、保険会社が共通してやっている交通事故紛争処理センターで、これが今非常に全国的に普及しておって、別の言い方をすれば、裁判所の交通事故に関する裁判が激減している状況を聞いておるんですが、その交通事故センターについての御調査はどの程度いただいたんでしょうか。

【竹下会長代理】今回は、弁護士会の方のことにつきましては。

【中坊委員】弁護士会ではないです。交通事故センターです。損害保険会社が出資されて、交通事故センターというADRをおつくりになって、処理されている。その件数は莫大なことになっておって、その問題についてです。

【竹下会長代理】それにつきましては、前にこの審議会でも部分的に提出をしていただきました各種ADRの内容、それから利用件数等の一覧表を、この機会にもっと充実させまして、皆さんに配付をして、御検討いただきました。
 特におっしゃる交通事故紛争処理センターについてだけ、特別の調査をしたということはございません。

【中坊委員】私も非常に概括的な印象を聞いているだけなんですが、確かに交通事故紛争処理センターができまして、保険を皆さん入っておられるんで、事実上、交通事故の被害者と加害者側との間のことはそこで処理されておる。だから、何十万件という処理がそこでなされているはずなんです。
 それについてのいろんな問題もあるんじゃないかと思います。少なくとも私が多少聞いている範囲では、確かに非常に迅速に、しかも大量のものが簡易に話合いができているという意味における、ADRとしては一番の実績を挙げておられるところではないかと思うんです。
 しかし、同時に反面として、非常に画一性が出てきて、何もかもを、交通事故の対象を非常に画一化されてしまう。そこで実際、いろんな問題も出ておるというようなことも聞いていますので、ADRを私も基本的には、中間報告で我々の言ったように、拡充整備は必要だと思いますが、同時にそれがもたらすことの弊害も考え併せた上で、我々の意見を出していくべきではないかということを思いますので、少し意見を申し上げます。

【竹下会長代理】弊害とおっしゃいますのは、画一的に処理されがちであるという点でございますか。

【中坊委員】そういう事故は類型があるから、これは加害者側が6割とか、被害者側が3割とか、過失相殺がこうだとか、こういうふうに全部決め付けていかれるわけです。だからこそあるいはあるのかもしれないけれども、同時にそのことが、みんなが事故の実際が聞かれていないということになって、大量に処理されていますからね。そこでそういう問題がある。
 しかも、その主体が保険会社において運営がされておるという点もまた問題になってきて、そういうことも少し、私正確に調べていませんが、聞いていますから、少なくとも今、最大のADRは日本国では交通事故紛争処理センターです。

【竹下会長代理】裁判所の調停を除けばね。

【中坊委員】もっと大きいかもしれません。

【竹下会長代理】いやいや裁判所の調停より多いということはありません。

【中坊委員】それはどうか知らないけれども、いずれにしても、かなりの件数がそこにあるんだから、そこが全国的に行われているんで、その実態をかなり詳細にお調べいただいて、そこから何が見えるのかということは、我々としては審議の対象にしてやる必要がある。一部において全部か知らないけれども、そういう意味における弊害をおっしゃっている人も私は聞きますから、そういう点もちょっと参考にして。

【竹下会長代理】冒頭に申しましたように、この勉強会は、各ADR所管官庁の担当者にお集まりいただいたのですが、はじめから個別のADRの問題を議論するのではなく、各ADRに共通の問題、あるいは共通の基盤整備ということを検討することを目的としておりましたので、先生がおっしゃるように、個別のADR機関についてどういう問題があるかということは、直接的に議論の対象にならなかったということです。

【中坊委員】私が言うのは、それだったら交通事故センターと同じ程度のADRなどはほかにないですよ。私も建築紛争審査委員会もやっていましたし、その件数も知っていますし、大体見ましても、けたが違うんですから、何十倍、あるいは何百倍か知らないけれども、そのくらいの件数が行われておって、今のところ我が国社会で行われておるADRとしての活動の実績を持っているのは交通事故紛争処理センターですから、その実態をよく調べていただいて、そこではかなり民事調停法とか、そういう法律というよりか、そういうことで現実に行われていますから、その実態はよく調べてくださいということを言っているだけです。

【佐藤会長】まとめのときに、その弊害の面もということなんだろうと思います。

【吉岡委員】余計に混乱させると申し訳ないんですけれども、確かに交通事故の場合には損保会社が関与をしていることが多く、そのために加害者・被害者ともに不満があるというのは確かなんです。大体の人は保険を掛けていますから、要求される額を保障したいという、これは加害者の意思でもあるわけですけれども、現実には中坊委員がおっしゃったように、前例ということで処理されてしまうので、両方に不満が残るということは確かだと思います。
 命の値段が、女性と男性で全然違うという問題もあったんですけれども、最近、男女差別をしないという計算の仕方で判例が出ていますので、そういうことから言うと、やはり世の中が変わると、少し変わってくるのかなとは思っておりますが、基本的に改善する必要がある分野だと思っています。
 ただ、ADR全体として見た場合ですけれども、やはり裁判に行くほどの問題ではないし、かと言って自分だけでは処理ができない。そういう場合に、第三者として力になっていただける機関があるということは、利用者にとっては非常に間口も広いし利用しやすいというメリットがあることは確かだと思います。
 それが、今いろいろなところで、利用者の期待に沿えないADRがあることは確かですけれど、これは整備しながら、利用しやすくすることという点で検討に値する非常に重要な問題だと思います。これは御報告にもあったわけですけれども、質の確保の問題、これをどうするのか。それから、確保するための制度をどうするのか。その辺の整備がきちんとされなければいけないのではないかと思います。
 勿論、72条の問題も同時に検討する必要があります。これは当然のことだと思いますけれども、やはり国民の期待に応えられるような内容に育てていくということが重要ではないかと思っております。
 もう一つは、これはほかの機関でもそうなんですけれども、情報の漏洩に対して非常に甘いというか、考え方が非常に甘いと思います。個人情報の漏洩だけではなくて、ほかの情報の漏洩についても厳しさが足りないというのが実態だと思います。その辺については、特にIT化を進めていくという中では、かなり厳格な制度設計をする必要があるのではないでしょうか。おおざっぱなことしか申しませんけれども。

【竹下会長代理】おっしゃるとおりで、当然のことなので、読み上げるのは省略いたしましたけれども、レジュメの中では、情報公開については、プライバシーの保護ということは是非考えなければいけないということは明示してございます。

【中坊委員】私先ほど言ったように、交通事故紛争処理センターに関してだけ、私が聞いているのも個人的に聞いているんですから、統計を取ったわけでも何でもないんだけれども、ただ聞いている中では、先ほど言うと画一性という言葉の中には、余りこちらへ、交通事故紛争処理センターの方ばかり行ってしまうと、新しい判例が生まれてこないんです。だから、今、吉岡さんのおっしゃったように、命の値段であるとか、そういうような問題についての論議にいかずに、ある意味において全部そこで、しかも今言う損保会社の方が関与して牛耳ってしまっていると言われている中で、それはそれなりに非常に安定はしているんだけれども、そこにまた新しい問題が生まれていると思っているんで、そういうような問題についても、我々としては、ただ、ADRのよい面だけを言うんじゃなしに、そういう側面もいろいろ調査をしていただいて、我々として結論を出すべきじゃないかということです。

【竹下会長代理】中坊先生のおっしゃる点は誠にごもっともで、重々留意すべきでございますが、交通事故紛争処理センターについて申しますと、あれは損保会社の人がやっているわけではなくて、中立性にはかなり配慮されているはずでございます。しかし、御指摘は一般論としておっしゃっておられるのだと思います。御指摘の趣旨は私ども全く同感でございますが、交通事故紛争処理センターについてだけ、損保会社によって牛耳られていると言うと、恐らく関係者からは異論が出るのではないかと思います。

【中坊委員】メンバーをお調べになられれば分かるけれども、そのセンターの委員が非常に長い間されているんです。10年とかね。普通もっと短い期間で、3年とか4年はやっていただけるのはいいんだけれども、10年、20年。それがそういう身分の方がいらっしゃると、そういうやり方が非常に定着してきて、かえって弊害も起こり得ていると聞いているんです。だから、委員の任期がきちっと替わっていて、大体任期は何年くらいでと替わっていくんならいいんだけれども、それが替わっていない現状もあるようです。
 だから、そこでまた問題が発生しているということも聞いていますので、要するに、よく実態を調べていただきたい。

【藤田委員】私は、二十数年前に、ADRの勉強会に参加している公害等調整委員会の事務局で5年間仕事をしまして、足尾銅山に起因する渡良瀬川鉱毒事件とか、熊本水俣病事件、大阪国際空港騒音事件などがその当時委員会に係属しておりまして、私は渡良瀬川鉱毒事件を担当致しました。公害・環境に関する紛争では、因果関係にしましても、損害額につきましても、被害者側の主張・立証の負担が非常に大きい。渡良瀬川鉱毒事件の場合には、国庫負担で鑑定を実施しました。因果関係についても損害額についてもですが、大阪国際空港騒音事件でも熊本水俣病事件でもみんな同じですけれども、被害者側の負担を非常に軽減できる手続でして、公害環境問題に関する紛争についての特色のあるADRであると思います。それぞれの特性のあるADRの制度を設けるということは、利用しやすい民事紛争処理制度という視点からは望ましいことだと思います。
 ただ、やはりいろいろと指摘されているような問題点があるわけでありまして、私は、現在、弁護士会の仲裁センターと中央建設工事紛争審査会等で紛争処理に当たっておりますけれども、そこで問題になりますのは、裁判制度との連携が、やはり不十分という点です。時効期間満了が迫っている事件について、時効中断の規定がないものですから、ADRに持っていきにくい。あるいは、紛争が解決した場合でも、執行の問題が残っておりまして、和解ですと、金銭請求の場合には、公正証書をつくったらどうかとか、あるいは和解が成立しても、和解と同じ内容の仲裁判断をするというようなことをやっております。それは執行のことをにらんでのことです。ただ、仲裁判断ですと、さらに執行判決を貰うということになりますので、訴訟を起こさなければならない。これも相当な負担でありますから、検討課題でありますけれども、決定手続で執行を認可するというような簡易な執行力の付与を考えてはどうかというようなことを内部で議論しております。
 それから、訴訟との連携の問題でありますが、アメリカの連邦地方裁判所民事訴訟規則でしたか、一定の制限付きでありますけれども、事件をADRに回付することができるという規定が去年辺りから動いているそうでありますが、そういう裁判所との連携を考えてはどうか。これは実際にあった事例だそうでありますけれども、原後山治弁護士に伺いますと、広島の建築紛争の訴訟について、裁判所が県の建築工事紛争審査会でやったらどうかと勧告したそうです。事実上の回付でありますが、その結果、うまく解決したということであります。
 このような制度の整備が重要だと思うんでありますが、さらに、いろいろなADRが、ばらばらにそれぞれの分野で仕事をしておられて、横の連携がないということも一つの問題でありまして、ここで指摘されているとおりだろうと思います。
 それから、情報の提供、これも当然のことでありますけれども、やはりADRを生かすも殺すも、それを担っている人次第でありまして、適切な人材を選べるかどうかが、ADR制度の死命を制する問題だろうと思います。人材の確保という点で相互の連絡、協力ということも必要であろうと思います。細かい点については、これから更に具体的な詰めが必要かもしれませんけれども、積極的にADRに対応していくことがいいのではなかろうかと考えております。

【中坊委員】それから、今の公害調停手続の問題が出ましたので、そこで大きな一つの問題になる点は、情報公開のことなんです。公害紛争処理法そのものにも、調停という手続はすべて非公開とするというふうに書かれています。それが当事者が互譲を図って、結論に達するためであるということに解説されておるんです。しかし、そのすべての行為が非公開でよいのかどうかという問題があります。いわんや、公害という大きな社会問題を提起しておりながら、非公開でよいのかどうか。そういう大きな手続上にも問題がありました。
 私の担当した豊島問題でも、一番最初はそこが大きな問題点でした。だから、そういうふうに、いろいろ手続の中にもいろんな問題点を含んでおるわけですから、十二分にそういう点も御考慮いただく必要があろうかと思います。

【佐藤会長】情報公開の問題ですね。
 この問題についても、更に御意見をちょうだいしたいところですけれども、特にこの点について御発言したいということ、ほかにございませんでしょうか。

【髙木委員】これから御検討いただくことだろうと思いますが、最終的に最終意見では、ADR総論で整理されるということになるんでしょうか。

【竹下会長代理】そのつもりでおります。

【髙木委員】例えば、労働関係などで、分野別ADRみたいな。

【竹下会長代理】労働問題はちょっとまた特別でありますから、特に個別労使紛争についてのADRなどは労働関係事件の方で扱うことになると思います。

【佐藤会長】ADRで全面的に議論するとなると大変ですね。

【竹下会長代理】これは私の個人的な意見ですが、労働関係のことにつきましては、労働関係事件に一体これからの司法制度、広い意味でですが、どう対応していくかという問題がございますので、そちらのADRの問題はちょっと別ではないかと考えております。

【佐藤会長】当然濃淡は出てくるんじゃないでしょうか。ただ、ADR全体として、今後どう描いて進めていくかということは、最終意見に書かないといけないわけです。

【髙木委員】分かりました。

【佐藤会長】まだまだ意見を交換したいところもおありかと思いますけれども、予定時刻を随分オーバーしておりますので、この件についてはこの辺で。4回の会合ですが、これだけ横の連携でいろいろ議論されたのは、我が国で初めてじゃないですか。

【竹下会長代理】そうだと思います。大変好評でしたし、評価されました。吉岡委員、髙木委員にも御協力いただいて、非常に有益でございました。

【佐藤会長】私どもの報告がきっかけになって、ADRがシステマティックに展開していくということになるように、最終意見にも書き込めればと思います。
 では、この件については以上で終わらせていただきたいと思います。
 次に、最初にお話ししましたように、労働関係事件への対応につきまして、意見交換を行いたいと思います。この問題につきましては、お手元にお配りしておりますように、髙木委員から御意見が記載されたペーパーをお出しいただいております。
 まず、髙木委員の方から御説明をお願いします。

【髙木委員】どうもありがとうございます。
 昨年12月1日に菅野東大教授からのヒアリング、あるいは私も意見を申し上げたりして、いろいろ御論議をいただきました。そういった経過を踏まえまして、本日の第52回審議会では、1枚紙に論点を記載いたしました。これは私としてはということなんですが、6点ほどの論点について御論議をいただければと考えた次第でございます。
 我が国は、世界で最も雇用労働者の比率の高い国への道を着実に歩んできておると思います。現在でも5,400 万人くらいが雇用労働者として、それぞれの職場で働き、生計を維持しております。まさに雇用労働者が社会の大宗を占める雇用社会を形成しつつあるんだろうと思います。
 我々は21世紀の初頭に立っているわけでございますが、グローバル化やIT革命、規制緩和等の波に洗われている中で、5%に達しようとする失業率や、デジタル・デバイドの問題、あるいはそういったことの関連もあるんでしょうが、働き方のルールが大変揺らいできておる等々の問題の中で、雇用労働者が自らの雇用の将来に大きな不安を抱いている状況があると思います。
 こうした状況の下で、いわゆる個別労使紛争は増加を続けております。全国各地に設けられておりますいろんな労働相談センター等に相談を持ち掛ける雇用労働者の数は、労働省によれば100 万件を超えているという報告もございます。
 労働という営み、働くことを通じて自己実現を図っていくという言い方もよくされますが、これは人間の最も基本的な営みの一つであり、雇用労働者が額に汗しながら真面目に働き、家族とともに安心して生活していける状況をつくり出し、維持していく、そのことは我が国社会の安定した発展のためにも、大きな要素、ポイントだろうと思います。
 最近の労働を巡るルールの混乱が、雇用労働者に不安と不信を招来しているのではないかという指摘もいろいろございます。こうした労働を巡るルールの混乱が、労働者に不安、不信を与えているとするならば、そういう状況は何としても回避しなければなりませんし、日本の若者に将来への希望をそぐというような事態がもしあるとすれば、それもゆゆしきことではないかと思っております。
 以上のような認識に立ちまして、労働を巡る紛争の解決方法の改善を将来を見据える中で是非図っていかなければならないと思っております。
 よく小さな司法と言われる日本の司法でございますが、その中で労働関係事件も裁判所に解決を求めているのは年間3,000 件に及ばない件数でございますし、ADR等に解決を求めたものを含めて考えましても、多くの雇用労働者が適切な解決の場を得られないまま、こういう言い方がいいかどうか分かりませんが、泣き寝入りしているという実態はあるんだろうと思わざるを得ません。
 21世紀は事後チェックの時代と言われる中で、行く行く6,000 万人に及ぶであろう雇用労働者、そして雇用される経営者の皆さんの間に、安定した、かつ公正な労働秩序というものをつくり出すために、労働関係事件の対応を強化するというのは、まさに喫緊の課題だと思っております。
 具体的にはお手元にお配りしておりますペーパーに沿って申し上げたいと思いますが、まず一番最初に、労働参審制の導入ということについて御検討賜りたいと思います。
 そこにヨーロッパ等の状況等をごくかいつまんで書いております。お読み取りいただきたいと思いますが、そもそもなぜヨーロッパで労働参審制が生まれて、定着してきたかという、これも私も詳しく調べたわけじゃないんですが、2、3の方にお話しいただきましたら、当初は雇用主と被雇用者の間でもめごとがありますと、長老と言いますか、そういった方々が両方を呼んで何でもめているんだということで、ごくごく私的な感覚の強いあっせん類似の行為なんでしょうか、そういうことで紛争の解決を図っていたようですが、やはり当事者同士ではなかなか話がまとまらない。そんなケースも多く出てまいりまして、労働に比較的精通した経営者や被雇用者の代表が当人に代わって解決等を模索するという方法に逐次移されていき、それが現在の参審制に発展してきたとか聞いております。
 そういう意味では、フランスの現在の例は、労使だけで判断するというか、そういう歴史の名残みたいなものを残しているかなと思ったりもいたしております。
 そういう意味では、ヨーロッパでの長い間の経験が咲かした、まさに知恵の所産と言えるんだろうと思います。この知恵の所産を日本の土壌に合うように工夫を加え、導入していくということは、ごくごく至当な話ではないかと思っております。
 その際、私のペーパーでは、労働や労働関係の実情を熟知し、また、公正な労使慣行やその判断の妥当性に精通している労使の専門家という表現、専門家等ということだろうと思いますが、労使関係、あるいは労働現場の実態、実情、あるいは働き方のルールの形成のされ方といったようなことに精通した人、こういった人たちが参審することによって何を期待されているのか。労働者の中にも、良い働き方、悪い働き方とかいろいろあるんだろうと思います。経営者の皆さんの中にも、乱暴な働かせ方、あるいは搾取という言葉は古いのかもしれませんが、そういったイメージを持たせる働かせ方、あるいはルール違反の働かせ方をさせる方、いろいろあるんだろうと思いますが、その良い悪いを、こういった労使関係、あるいは労使関係等に精通した人たちは、見抜く力を長年の経験、知識で持っておられるんだろうと思います。
 こういった方々の良い悪いを見抜く力については、裁判官の皆さんも、こういった見抜く力を持った人の目で見た個別のそれぞれの事件についての判断を参考に、あるいは一緒に判断をする、そういうことを多分期待されておられるのではないかと思います。
 雇用する立場、雇用される立場、その2つの立場の間には、非対等性と言いますか、そういうものもあるわけでございまして、その非対等性を持つ雇用者と被雇用者の双方の見方、スコープが違う面もあり、そういったスコープを変えてみた双方の立場で判断、あるいは内容に関わっていくということで、参審制を理解していけばいいのではないかと思います。
 勿論、先般来議論してまいっております裁判員制度、これを労働事件にも将来的には使っていただくということもあるんではないかと思いますが、いずれにしましても、労働事件は迅速性、コストの安さ、勿論、その前にアクセスのしやすさとか、手続の簡便性等もあるわけですが、とりわけ迅速性に配慮をしなければいけない労働事件の特性から考えまして、裁判員制度は若干装備が重たいかなという感じがします。そういう意味では、参審型の方が計画審理等、いろいろ入れていただく中で、迅速性という意味では、その長所が発揮できる仕組みではないかなと、そんなふうに思います。
 なお、昨年12月には、労働裁判所や雇用審判所のような専門裁判所をつくっていただいたらということを申し上げましたが、そのことにはそうこだわるべきではないと思っておりまして、現在の地方裁判所の中で、労働参審制裁判を行っていただければいいんじゃないかと考えております。
 それから、上訴については、国によっては二審、三審の労働参審制でやっている国もありますが、一審のみにとどめている国もございましたりして、我々としては、とりあえず一審に労働参審制を取り入れることでスタートすればいいんではないかと思います。
 勿論、二審、三審型にしている国では、その裁判所の判断で一種の法創造効果みたいなものを発揮している面もありますので、将来的にはそういったことはどういうふうに考えていくのか、将来の問題として考えていくことも必要かと思っております。
 なお、労働参審制につきましては、参審員が評決権を持つことに関しまして、憲法解釈上の問題等も指摘されており、その中で評決権を与えずに、意見を陳述する形の参与制でいいのではないかという主張がありますが、刑事裁判に評決権を持つ裁判員制を導入しようとすることなど、勿論、大分裁判の意味合いが違いますけれども、広い意味でそういう参加型ということなども考えますれば、労働事件に専門家を活用する制度として、労働参審制を採用することに大きな憲法上の問題点はないんじゃないかと考えます。
 2番目に労働関係訴訟手続でございますが、労働事件の場合、雇用関係の継続性というか、そういった問題に配慮する必要がありますし、訴訟の遅延は、例えば、かなり長い期間経って賃金未払や解雇事件にけりをつけていただいても、その当人にとっては解決の意味が余りないようなケースもままあるわけでございまして、そういう意味では訴訟の遅延が紛争解決の意義を著しく減殺することに留意すべきだと思います。
 そして、訴訟手続は、労働を巡る紛争の最終的かつ公権力に関わります解決方法、そういう意味では唯一のものでございますし、労働を巡る紛争解決のために存在する様々な複線的なシステム、具体的には各種ADR等の扇の要とも言うべき存在です。そういう意味では、訴訟手続が公正かつ迅速に機能することが労働紛争解決システムの要として不可欠なことではないかと思います。
 抽象的ではございますが、解雇事件につきましては、一定の期間内で解決に努力するということを、裁判所及び当事者に努力を促すこと、義務付けるとまで言って良いのかについては、いろいろ御意見があると思いますが、そういうたぐいの感覚を強めるようなことにしていかなければいかぬのではないかと思います。
 それから2番目に、先ほど来申し上げていますように、とにかく迅速な解決という意味で、主張の整理や証拠収集、証拠調べを短期的に集中的に行う必要がある。勿論、このことは一般的な民事事件全部について言えることですが、とりわけ労働事件については、よりその必要性が高い。裁判については直接主義・口頭主義を徹底して、さらに集中審議云々でございます。現状のいわゆる民事訴訟のルールによります裁判は、労働事件の場合も、いわゆる書面主義といいますか、法廷が書面のやり取りの場になるという面等もありましたりして、これに対応するのが証拠収集の限界もあり、労働者には大変な面があります。そんな面も御配慮いただければと思います。そういう意味で、訴訟手続の中で、証拠収集手続等の充実を是非お願いしたい。
 少額訴訟手続については、これはほかの方々からも出ておりますが、現在、30万円、これは大幅に上げていただいたらどうかと思います。
 それから、労働事件全般につきまして、先般最高裁あるいは法務省から出されましたお考えの中に、計画審理促進という考えが出ており、これもそこに記載をしておりますようないろいろな計画審理を促進するための手だてを、是非講ずるべきではないかと思います。証拠の偏在等、非対等性を抱えておりますことを看過したまま計画審理のみ余り過度に言われましてもという側面があること、その辺のことについては御配慮を当然いただかなければいかぬと思っております。
 法律扶助等はお読み取りいただきたいと思います。
 それから3ページで、「民事調停の一環としての『労働調停』スキームの新設」をしたらどうかということを提案いたしております。
 紛争解決システムの一翼を担うものとして、労働関係につきましても、ADRの整備が急務であるわけです。現在、国会に地方労働局の活用案が上程されておりますし、労働委員会において個別労使紛争にも対応するという考え方、あるいは都道府県労政事務所や弁護士会、労働団体等によるいろいろな相談あっせんなど、非常に多元的なチャンネルも想定されておりまして、これに加えまして裁判所が関与する民事調停の一環として、いわゆる労働調停といったスキームができないかという提案が、かねてより日経連等によって唱えられているのは御高承のとおりでございます。
 そういう中で、いろんなチャンネルが、当面は混在しながら、利用者の側が使い勝手のいいものに将来はだんだん淘汰されていくのだろうということを想定し、しばらくは、いろいろなチャンネルがあっても、過渡的にはいいのではないかというふうな思いもいたしまして、民事調停の中に労働調停という形が創設されることについては、頭から否定するのではなく、具体的に検討を行うべきではないかと考えております。
 そのイメージですが、これもいろいろな御意見があるようです。とりあえず、ここに書いたことについても、賛否いろいろな御意見があるように聞いておりますが、その辺はこれから専門的に御検討いただくということで、ただ、現在、簡裁で主として行われております民事調停、これは、調停委員の方を中心に、裁判官の関与はごく一部だというふうに聞いておりました。労働事件の場合に、普通の民事事件と違った意味での対立性もあると思いますので、できましたら裁判官の方々の関与を強めていただくということと、地裁で扱っていただくということがいいのではないか。当初は、裁判官の方にフルコースで付き合っていただきたいという気持ちで案を書こうかなと思いましたが、今の裁判官の人的体制等を考えましたときに、とてもフルコースでお付き合いをしてくださいということは余りリアリティーがないのではないかという意見もあり、関与を強めていただくという表現にしましたが、望ましくはフルコースでお付き合いをいただけたらということでございます。
 それから、調停委員は専門の参審員によく似た感覚で、その他労働問題等にいろいろ造詣の深い人たち、あるいは弁護士、社会保険労務士等の方々にもなっていただいたらいいのではないかと思います。
 あと、迅速な解決という意味で、回数や期間を区切る、いつまでも引っ張られたら、やはりかないませんので、余りけりがつかないときには、例えば、家裁の調停などで非常に長くなって、大変なケースもあるようですが、そういうことにならない歯止めといいますか、そういったことについても配慮する必要があります。
 それから、調停前置するかしないかはいろいろな議論がありますが、いずれにしても労働調停を申し立てるかどうかは当事者の判断によるものだろうと思います。そういうことの兼ね合いだと、ルールで前置を強要するのはいかがなものかなと思います。そんな程度でここのところは御理解いただきたいと思います。
 その他、二つの○はお読み取りいただきたいと思います。
 それから、4番、5番も簡単に申し上げますが、「『労働契約法』等法体系の整備」については、いわゆる判例法理によって秩序をつくってまいりました、例えば、整理解雇の4要件等の判例がございますが、判例では、企業経営者や雇用労働者にその考え方がなかなか浸透しないという面もあり、判例法理の実体法化を求める声は、強いわけでございます。
 日本には解雇制限法的な実体法がまだできておりません。そんな面も踏まえまして、労働契約法等の法体系の整備について早急に検討を行うよう、これにつきましては、本審議会の「最終意見」でどういう方向で改善を行うとまでは多分書けないだろうと思いますから、「最終意見」において、関係省庁や関係機関に、そういう検討を急いでくださいということを促していただくということかなと思ったりしております。
 それから五審制の問題につきましても、五審制がいろいろな背景や事情があってこうなっているという実態、それからまた、その実態がやはり問題だなということについては、皆さん方にも状況認識を共有していただけるのではないかと思っております。ただ、これも労働委員会の関係やらいろいろございまして、審議会でああしなさい、こうしなさいということまでは、とてもおっしゃっていただくことにならないかなと、そんなふうに考え、これにつきましても、早急に改善の方途について御検討を、関係機関等にお願いをしていただくよう強く勧告してくださいということではないか。
 最後の法曹養成のところ、新しいロースクールにおける法曹養成教育、あるいは研修所の関係等でよろしくお願いしたいということです。
 それから、労働事件につきましても、労働調停を導入したり、今後の事件数増加を考えたら、やはり労働事件を担当していただく裁判官の数を、全体の裁判官が増える中で、かなり大幅に増やしていただく必要があるのではないか、労働調停等を導入するとなったら、余計そのニーズは強い、また緊急性があるということかなと思っております。
 時間を長く取りまして申し訳ありませんが、以上のような点について是非御検討を賜り、御賛同をいただきたいと存じます。よろしくお願いします。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 11時に休憩と考えておりましたけれども、時間も過ぎてしまいました。ここで10分間休憩いたします。山本委員の方からも御意見が出ておりますが、山本委員が御欠席なので、再開後、代理の方からかいつまんで御紹介いただいて、そして意見交換に入るということにしたいと思います。その他の問題に入りますと、12時ではとても終わりそうになく、少しオーバーせざるを得ないということを御了承いただけますか。12時に終わるということで御予定の方は結構でございますので、結構と言ったら失礼ですが、ちょっとその辺お含み置きいただきたいと思います。それでは、休憩にして、20分に再開いたします。

(休  憩)

【佐藤会長】時間もまいりましたので、再開させていただきます。それでは、さっき最後に申しましたけれども、代理の方から山本委員の御意見の要旨をお話しいただけますか。

【竹下会長代理】お手元に山本委員のお名前で、佐藤会長あての「『労働関係事件への対応強化』の問題に関する意見」というペーパーが提出されていると思います。山本委員から特に御依頼を受けたわけではないのですが、労働関係事件について今日御議論いただくというので、せっかくペーパーを出してくださったのに、内容を御紹介しないのもいかがなものかと思いますので、私の方から、あるいは山本委員の御趣旨と少し違いがあるかもしれませんけれども、なるべく客観的に御紹介したいと思います。
 具体的には「記」以下の1、2、3点でございますが、第1は表題のとおり「訴訟に代わる裁判外紛争解決手続きの要否、在り方」ということで、結論といたしましては、最後の2行で「方向性としましては、裁判所の民事調停の活用が最も現実的と考えておりますが、紛争解決チャンネルの多様化の観点も含め、幅広い検討が必要と存じます」。
 個別労使紛争についてADRを充実させるということが重要であるが、その方法につきましては、今のように民事調停の活用が最も現実的である。しかし、チャンネルを多くするということには反対ではないということです。
 第2が、いわゆる「『事実上の5審制』の解消」でございます。これは先ほど髙木委員もお触れになったとおりでございますが、地裁段階からの裁判を受ける権利というものは、安易に例外が認められるべきではない。少なくとも労働委員会が地裁での判断に代わり得るほどの実質を持っているかどうかの検証が前提問題になるであろう。その意味での、労働委員会の現状は専門体制の充実などの面では、決して満足のいく状態ではないという現状認識は、ほぼ共通されているのではないか。したがって、この五審制の解消問題については、なお本格的な検討を行う必要があるであろうという御趣旨と思います。
 最後が「労働参審制」でございますが、裁判に一般国民の参加を進めようという方向は、この審議会でも既に出ておりますけれども、労働事件について労使代表が参審員として加わるというのは、双方の利益代表としての面を免れなく、一般の、これまで我々がこの審議会で議論してきた国民参加とは理念が異なるのではないかという御認識でございます。むしろ、労働事件の場合には一種の専門参審制の議論になるのではないかということでございます。
 ただ、実際にそういう専門参審的な理念に基づいて労働参審制を導入するかという点につきましては、労働委員会との役割分担という問題があり、現段階でのイメージとしては、労使関係や雇用関係等々の実情に通じているといった意味での専門性は、紛争解決の最後のよりどころとして、法の公平・厳格な適用、証拠に基づく事実の認定を本質とする裁判での寄与よりも、労使双方の立場を理解し、柔軟かつ弾力的な解決方法を提示するADRのような場において、その本領を発揮させる性質のものではないか。つまり、ADRの方について労使代表を参加させるということは考えられるけれども、訴訟の方については慎重な検討を要するという御趣旨のように承れます。
 以上でございます。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。先ほど、髙木委員の方から非常に示唆に富んだ御意見をいただきましたけれども、そしてまた、ただいま山本委員のペーパーについて代理の方から御紹介いただきましたが、これを踏まえて意見交換をしたいと思います。
 時間の関係で、どの点からでもよろしゅうございますので、自由に御発言いただければと思います。

【井上委員】髙木委員に質問したいのですけれども、この労働参審というものがどういう性格のものかということですが、一般の刑事事件などの参審の場合は、任期制であってもいくつかの個別の事件を担当するという形なのですけれども、それよりはむしろ素人裁判官的なイメージに近いのかなとうかがっていて思いました。
 諸外国の労働裁判所については、詳しく知らないのですが、例えば、フランスの商事裁判所ですと、ビジネスマンのOBの人のような人が、一種の素人裁判官、素人というのは非法律家という意味ですけれども、そういう形で常任で一定期間務めるというものなのです。そのどちらに近いものをイメージされているのかということなのですけれども、その都度、事件ごとに選ばれるのか、それとも一定期間はずっと張り付けということなのか。

【髙木委員】外国、例えば、ドイツの例なんかは一定期間で、多分年間お一人が2、3件とか4、5件とかいうことで参加されていると聞いております。
 私、去年この審議会の調査でドイツに行かせていただいたときに、労働側の推薦で出ている素人裁判官の人たちと直接会っていろいろ話を聞いてきましたけれども、勿論法曹資格者ではありませんし、長い間現場で働いて、職場である種苦情処理だとかそんなことなんかにも携わったことのあるような人たちが、素人裁判官になっておられます。まだ現役の労働者の人もおるし、OBの人たちもおられます。経営側も、それぞれの地域の経営者団体等からの推薦のようでしたが、そういう意味では非常に現場感覚みたいなもので、いろいろな職場の労使関係、あるいは労働慣行といいますか、そういったことに詳しい人たちだなというのは印象としてありました。

【井上委員】髙木委員のおっしゃっているのも、そのドイツ的な、任期はあるのだけれども、毎日のようにやっているわけじゃなくて、年間に何件か担当する、そういうものをイメージされているわけですか。

【髙木委員】日本にはどういうやり方がいいのかという意味でいろんな議論があれば、その辺もっと専門的にいろんな意味で検討していただいたらいいと思うんですが、漠としたイメージは井上さんの言われるとおりです。

【竹下会長代理】やはり労使の代表とか、あるいは中立的な専門的知識を持っている人ということになれば、刑事の方で我々が考えていたような裁判員制ではなくて、やはり一定の、それにふさわしい資格を持つ人をプールしておいて、その人たちに順番で事件を担当してもらうと、そういうイメージになるわけでしょうね。

【髙木委員】軽便でと言ったら言葉はいいかどうか分かりませんけれども、スピーディーに処理していくというのは、現実にも実績としてそうなっている。
 もう一つは、労使ということなんですが、これも抽象的な話なんであれですけれども、そういう役割をもらいますと、裁判所の方で何か勉強会だか研修等を就任後に行い、あなたの立場はこうなんだよ、一方に偏してはいかぬのだよとか、そんなことについてもいろいろ教育されているようだし、組合としても、組合でそういう研修コースをつくったりしているみたいなこともドイツで聞きました。

【竹下会長代理】髙木委員の今日の御提案の中の3番目ですが、民事調停の一環として労働調停という、かなり具体的なイメージを出して提案しておられるのは、私は大変結構なのではないかと思いました。
 やはり個別労使紛争の中には、かなり難しい事件があると伺っていますので、事物管轄も簡易裁判所でなくて地方裁判所でやるという方がよろしいのではないか。更に言えば、土地管轄についても普通の調停ですと、申立人の相手方の住所地ということになっていますけれども、労働調停の場合には、労働者側が申立人になることがかなり多いのでしょうから、申立人の住所地でもよいという管轄の特則が必要だろうと思います。この調停委員に選ばれる人も、御指摘のように、労使関係について豊富な知識、経験を持つ弁護士、社会保険労務士、あるいは労使の団体から推薦されたような人も良いのではないかと思いますが、そういうことになると思います。
 それから、これは倒産絡みの特定調停法という法律がございますが、そこでは資料の収集などについても、調停委員会の方から関係者に対して資料の提出の要求ができるというようなことがありますので、労働調停の場合にもそういう特則を入れてくるということが考えられるのではないか。
 最後に、労働調停法というような独立の法律を制定するなり、民事調停法の一部改正で特則を設けるという立法的な手当てが必要だと思います。これは、どちらの立法形式がいいのかは分かりませんが、いろいろ特則をたくさん盛り込むということであれば、労働調停法というような特別の法律をつくることも十分考えられると思います。こういう仕組みができると、個別労使紛争の解決にはかなり有効なのではないかと思います。
 この点については、関係方面と言いますか、山本委員も御賛成だということですし、それから各委員の先生方のところにも行っていると思いますが、日経連の御意見を伺っても、民事調停、裁判所でやる調停で個別労使紛争を解決するのは、良いというようなことを言っておられるので、関係者の合意も得られるように思います。
 それとの関係で、今の労働参審制でございますが、これは外国の例などをも見てみれば、髙木委員のおっしゃるように、十分考慮に値する仕組みだと思うのでございますけれども、我が国の事情としては、刑事についてこれから裁判員制度を導入しようとしているところで、全く参審制の経験がないものですから、少しそちらの経験を積んでから導入を検討する。それから、また他方では、今申したような、労働調停というものも、かなり実質的には労働参審制に近いような面も出てくると思いますので、そちらの両方の方向の推移というか経験というものを踏まえた上で、検討する方がよろしくはないかと思います。
 現在のところだと、どうも伺っている限りでは関係方面の合意もなかなか得にくいような感じがするものですから、もうちょっと時期を置いてから検討するということの方がよろしいのかなという感じを持っております。

【佐藤会長】さっき髙木委員も触れられましたけれども、従来の簡裁の民事調停が労働について十分機能していなかったとすれば、その原因はどこにあると考えたらいいんですか。

【藤田委員】実際に事件が余り来なかったということもあるんですけれども、調停委員に労働関係についての知識、経験のある人が、現状では余りいないということがあります。事件を持ってくるのはほとんどが労働側ですから、労働側の方で労働事件を民事調停に乗せてというような発想が余りなかったんじゃないかと思います。
 髙木委員の御意見は、労使紛争に関わっていらっしゃる立場としては、ごもっともであると思うんですが、私も東京都の地方労働委員会の公益委員を務めて4年目に入ったところなんですけれども、この5番目の実質五審制の改善の問題は反省が必要で、何とかしかきゃいけないということで、内部でもいろいろ検討しているところでございます。
 労働参審制なんですが、労働委員会がまさに労働参審制であるわけなんですけれども、そこでの事件処理の現状を申し上げますと、事件が来ますと担当審査委員として公益委員が一人指名されまして、それに参与員として使用者側、労働者側それぞれの委員各一人で三人構成になる。調査、審問もその三人でやりまして、命令ということになると、参与員お二人の御意見を伺った上で、公益委員会議で決めるということになっております。
 現状は、それぞれの参与員は、それぞれのお立場の労働者側、使用者側の主張立証を代弁補強する。そして、それぞれの側と公益委員との間のパイプ役を務めておられる。これは大変役に立っておりまして、特に和解とか事実の整理の関係では非常に役に立つんですけれども、どうしてそういうことになったかというと、一つは当事者サイドがそれぞれにそういう機能を期待しているということがあると思います。
 ドイツ、フランスの労働参審の場合には、労使の立場を離れて中立的に処理しているというような話がありました。菅野先生のヒアリングのときに伺ったことですが、かなりたくさんの事件が労働裁判所、労働審判所に来ている。日本では労政事務所とか労働基準監督署のような、行政機関で解決している事案も裁判所に来る。その種の事件では労使の対立は、それ程先鋭じゃないんですけれども、日本の場合ですと、労働委員会あるいは裁判所に来る労働紛争というのは、労使の対立が非常に先鋭で激しいという特徴があります。いわば事件がより抜かれてくるということがあるもんですから、自然にそういうことになっているのかなというような気がいたします。
 フランス、ドイツで最初の和解の段階では、労使の委員だけでやるとか、あるいは判決につきましても労使の委員でやって、1対1で分かれたときに職業裁判官が加わって判決するというような仕組みになっているということを聞きましたけれども、これから労働参審制を採用するということになれば、それぞれの立場を離れて中立的な立場で判断をしていただかなければいけないということになるでしょう。けれども、労働調停のスキームをしっかりつくって、激しい対立の労使紛争を受け止めるようにする必要がある。例えば、調停委員の人材を整備し、地方裁判所で裁判官ができるだけ関与してやるというようにすれば、大変意味があることだと思います。
 調停の場合に、裁判官が余り関与しないというようなお話もありましたが、同時に数件の調停が進行しているという関係もありますので、裁判官が常時一つの事件に入り切るというわけにはいかないんですけれども、調停委員と緊密に連絡を取って事件の節目節目で裁判官が入るというような形でやっております。むしろ使用者側委員と労働者側委員だけで調停作業を行うということにも意味があるのかなと思います。ドイツ、フランスの例を考えますと、そういうような使用者側、労働者側だけでその調停に当たるということも、かえって労働側、使用側の当事者の意識の面でもいいことになるのかなというような気もいたします。勿論、裁判官が入らなければならない場合には、入るということになると思いますが。
 労働調停を参審的に運営して、それを積み重ねていって、その上で専門参審制と同様なレベルで労働訴訟についての参審制を入れるべきかどうかということを検討するのがいいのではないかと思います。

【髙木委員】今、竹下会長代理あるいは藤田委員から同様の御趣旨のような御発言でしたが、やはり調停と裁判は別なんですね。そういう意味で、片一方にこれがあるからこれの推移を見守れとかいうのは、ちょっと裁判と調停は別もんだという意味で言えば、論議の筋としてはおかしいと思います。
 そういう意味では、今、中労委、地労委の話も御紹介がございましたが、労働委員会、特に審問等をやりますのは、労組法7条の不当労働行為事件で、裁判の方はなされた行為に対してそれの良し悪しを判断し、問題があれば損害賠償をしたり、慰謝料を課したりということで、労働委員会の方の不当労働行為の救済というのは、勿論結果の評価もしますが、更にそれを含めて将来の労使関係をどうしていくんだという、そういう目的も持っておりまして、やはり裁判所と労働委員会の機能は、大分違うんだろうと思います。
 私も、地方労働委員会の委員、中央労働委員会の委員を何年かずつさせていただきましたことがありますけれども、藤田先生が言われたように審問の途中で公益委員の先生からいろいろ進め方についての御意見を求められたり、それから一応結審しますと、いよいよ命令作成作業に入りますが、特段留意する点はございますかとか、案ができましたら御意見はどうでしょうかとか、それで意見があるときには意見を申し上げるということになります。最終的には、公益担当委員のお一人だけじゃなくて、公益委員会全体で命令の内容を吟味されて、命令にしていかれる。そういう中で、今の中労委の労働者委員は、いわゆるここで言う評決権がありません。
 もう一つは、和解の仕事がありますが、和解については、かなり貢献できていると思っております。そういう意味で、労働委員会がこうだからという面は、一つの経験にはなっていると思います。委員になったらどうなのとか、やれるのかとか、参審員になったら大丈夫か、いろいろ参審員の選び方に苦労するんじゃないか、などいろいろ御心配の点もあろうかと思います。その辺については、私は労働委員会のイメージがあるせいかもしれませんが、そんなに心配はないと思っております。
 勿論、レベルが非常に高くてという意味での吟味にどこまで耐え得るかは、具体的にやってみなきゃ分からない面もあるかもしれません。
 そういう意味で、労働調停の推移を見てからという御議論ですが、こういったものを一つやりますと、具体化するのに何年も検討に掛かったり、それからそういうのを見てからと言っておりますと、また何年か先の話になってしまうということで、ともかく裁判についてもより充実していこうということがございますので、それを見てから参審制を考えたらという論は、私はちょっとないんじゃないかと思います。
 労働調停スキームを新設するんで、それがあるからしばらく労働参審制の導入は先送りするというのは、納得できません。もしそんなことなら調停の方は嫌ですと言ったらどうなるんですかみたいな議論になりかねません。だから私は両方並進的で十分対処していけると思って、こういう意見を出させていただきました。
 そういう意味で、労働委員会の問題につきましても、さっき藤田さん言われましたように、公益委員の先生方を常勤化し、その中には法曹資格を持った方々も将来は入っていただくような御検討も、東京都の労働委員会ではなさっておられるようですし、五審制の問題等はいろんな解決に向けて、それぞれの努力は始まっていると思うんです。
 あっち行ったり、こっち行ったりで中途半端ですが、調停先行、参審制しばらく待て論は納得できません。

【佐藤会長】中坊委員が手を挙げておられます。中坊委員どうぞ。

【中坊委員】私、今やはり基本的に考えなきゃいけないことは、小さな司法から大きな司法へという問題になってきて、そして労働問題については、確かに先ほどおっしゃったように雇用されている人が6,000 万人以上の人がいながら、しかもそこに紛争が山ほどありながら、ほとんど先ほど会長もおっしゃったように、現在それの救済の枠組みができていない、そのために大半が、表現はともかく泣き寝入りという状況になっている。これをどう解決していくかという命題に向かって、我々は今、話をしているし、そういう方向だろうと思うんです。
 そこで、今おっしゃるように、私は結論から言えば、髙木さんと同じような意見なんですけれども、まずここへ出てくる参審員みたいな方、この方のところに非常に着目する必要があると思うんです。
 一つは、先ほども意見が出ていましたけれども、裁判員、いわゆるみんなの間から無作為で抽出されるという人ではないと思うんです、この参審員という人は。なぜならば、参審員ができて、これが裁判に参加する必要性がどこにあるのかと言われると、先ほど少し髙木さんもおっしゃったように、労使共々の実態をよく知っておって、実務感覚に秀でておって、これはこうだということが分かる人が必要なんです。それは一方においては経営者でもあり、あるいは同じ労働者同士であっても、いやこの人が言っているのであればそうだとか、これが市民感覚の中で分かるということだろうと思うんです。だから、それが職業的裁判官だけでは、そういう意味における市民感覚の入った専門というか、そういう意味における専門なんです。そういう方ですから、そういう意味では、無作為抽出で選ばれてくる裁判員ではいけない。
 2つ目には、先ほど山本さんの意見書にも書かれておるように、労使の利益代表になる恐れがある。これもまた、基本的に非常に問題であって、先ほど藤田さんもおっしゃったし、私も労働事件は地労委でも中労委でもいろいろやってきました。仮処分の事件もやっています。そういう中において分かることは、やはり今の労働委員会の問題点です。これは、まさに労使委員をおっしゃるように利益代表として扱ってられることにある。先ほど藤田さんのおっしゃったとおりです。そして、公益委員というのは、私はそれを推薦した立場にもおったんでよく分かっているんですけれども、要するに今までの労働委員会の公益委員というものに対しては、やはり労使の団体に一種の拒否権みたいなものがあるんです。というのは、集団的労働関係を扱うという以上は、組合の意見とか、経営者団体の意見というのが非常に拒否権のようなものがありまして、現実にはどういう方が公益委員に選ばれているかというと、労使の問題にあまり深くは関係していない弁護士さんが、大概この公益委員に、地方によっては大概どころか100 %公益委員として選ばれておる。そして、そこで今、地労委とか労働委員会とこちらの問題の一番大きな差は、しかも今、一番どこの人が泣いているかと言ったら、組合のない人たち、個別労働の方が今、非常にたくさんあって、しかも問題があって、中小企業にせよ零細企業にせよ、いろんな問題のあるところで働いている人が困っているところにある。
 地労委とか中労委というのは、集団労働関係を扱いますから、相手方は組合の方が出てこられる。それと同時にこっちは経営者団体の方が出てこられて参与員になって、公益委員はその両方ともに全く関係のない人が選ばれているという形になってくるんで、そういう意味における利益代表の参審員では、やはり困るんじゃないかという気がするんです。
 同時に、これは山本さんもおっしゃっているように、知的財産権の問題とか、あるいは医療事件を扱うときに裁判官の知識を補充するという方でもないわけです。これは、まさに裁判官はそんなお医者さんのことやっていないし、それから特許の問題になったって、そういう機械の詳しいことは分からないから、まさに知識を補充するという形です。ところが、ここにおける参審員というのは、要するに労使の経験を経てきて、そして先ほどいみじくも髙木さんがおっしゃったように、表現は良いか悪いかは別問題として、良き労働者、あるいは悪い労働者、良き経営者、悪い経営者というものが、やはり自分の経験の中で見抜ける人、この人が参加するということが非常に実態に即して、労使の関係を正常化させるというのに役立っていくもんじゃないかと思うんです。
 そういう意味では、私は労働参審制というのは、やはりこの際採用していくという方向を打ち出さないと、我々のこの審議会として問題である。しかし、まさに選ばれる参審員が、今の言っているような裁判員でもなし、労働委員会の利益代表でもない人が、どのように選ばれていくかというのは、これは確かに大きな問題だろうとは思います。

【藤田委員】髙木委員のおっしゃった労働委員会の公益委員を一部常勤化するとか、予算人員を飛躍的に増強するというのは私の個人的な考えでありまして、個別的労使関係も労働委員会でやるべきだと考えますと、そういう手当てが必要になるということを個人的に考えているわけでございますので、都自体としてそのようなことを計画しているといいますと、都知事はえっと言って飛び上がるかもしれませんので。
 おっしゃることはよく分かるんですけれども、労使双方がそれぞれに自分の側にも厳しいことを言えるようにするには、それぞれの当事者サイドの意識の改革が必要だろうと思います。労使が常に1対1で対立して、結論を決めるのは職業裁判官ということになると、これは参審制の意味がなくなりますから、まず労働調停で、労使の委員だけで紛争解決に努力していただくというようなことが、一つの過程として必要ではなかろうかと申し上げたわけであります。
 それから、労働仮処分が紛争を迅速に解決できるということで利用されておりまして、労働委員会に出てきた事件も緊急を要するものは、併せて仮処分を申請したらどうかというような助言をすることもございます。労働調停制度がもし完備すれば、仮処分としてはやや異例かもしれませんけれども、労働仮処分を職権で調停に付する、それで労使の委員に調停作業をやっていただくということも可能かなということを考えておりました。
 以上です。

【水原委員】私も労働関係事件について、これを適切に対応、解決しなければいけない、そういうシステムをつくらなければいけないということについては、そのとおりだと思っております。
 しかしながら、今、我々が議論していることは、民事司法についてどういうことをやろうとしているのか、またADRをどういうふうにしていこうとしているのか、ということもまず前提として考えなければいけないんだろうという気がいたします。すぐに労働参審ということではなくて。
 解決には、いろいろ先ほど来髙木委員が御意見を述べられましたけれども、今の制度では非常に審理が遅くなる。それから、必ずしも直接主義じゃないもんですから、十分意見の開陳ができないというようなことを言っておられました。それはそのとおりでございましょう。
 しかし、民事司法一般について、これまでの議論でありましたとおりに、利用者の費用負担の軽減だとか、それから法律扶助の問題だとか、訴訟の充実、迅速化の問題として、計画審理の促進だとか、証拠収集手続の拡充などは、今、取り上げられようとしてきておるわけでございます。それらが実現できるんだという前提でものを考えること。
 もう一つは、本日の審議会で竹下代理からADRの充実について御発言がございました。そういうことを考えてみますと、労働委員会の在り方についても、やはり今日御発言がありましたようなことを踏まえて、対応をきちっと考えていかなければいけないでしょう。
 そういうことを前提として、いろいろ考えていきましたときに、国民の司法参加ではないかも分かりませんが、直ちに労働参審を取らなければいけないんだろうか。我々が刑事司法について、国民の司法参加を議論したのは、裁判官には足りない部分、すなわち国民の常識、素朴な正義感、これを職業裁判官に意見を述べて、そしてより良い裁判をしようということで国民の司法参加が議論されてきたわけでございます。それと、今日髙木委員が御発言なさった労働参審制度とは、ちょっと質が違うような気がいたします。
 そこで、待てと言われたら二の句が継げないんですけれども、今これから取り上げようとしておる刑事事件についての裁判員制度、これが法制化されて実現されて、その状況。それから労働委員会の参審制と、これはまさに労使の利益代表と言いましょうか、労使の代表参加型の労働委員会、これの充実強化。これと、先ほど来提案のありました労働調停の充実の問題。これらを踏まえて、そして将来的にもう一遍考え直してみるのがいいのではなかろうかと思います。

【髙木委員】労働委員会のことが混線していて、妙な議論になったんですが、労働委員会というのは、例えば、不当労働行為を訴えるのは労働組合が訴えるわけです。それから、労働条件についてあっ旋調停等を求めるのも、労働組合です。そういう意味では労働委員会は、当然その制度の前提として労使の対立が生ずるのが予定されている仕組みなんです。
 今度の参審制は、そういう意味では労使というよりは、労働のことについていろんな経験なり知識を持っている人の紛争の本質を見抜く力やら感覚を活用していったらどうかということなんで、おのずと性格が違うものを同じ土俵で、何か双方を比較するような御議論になっているんじゃないかなというのが一つあります。
 もう一つは、なぜ参審制ではいけないのかということです。今、21世紀に向けて司法制度改革を議論している。私は、労働事件の関係は、日本の社会にとって非常に大きな重要な課題だと思います。ますます雇用労働者比率が高まっていく中で、いろいろ出てくるであろう紛争に対して、より国民の信頼、付託に応えられるような裁判制度をつくっていかなければなりません。この審議会はまさにそういう制度改革のために何をやるのかということを議論する場であって、一遍「労働調停」をやってみてからという議論も全く分からぬではないですけれども、これから何十年にわたって日本の労働の在り方等を規定してゆく、その最後の扇の要が労働裁判があるわけですし、なぜ参審制を入れたらいけないのでしょうか。ほかにももっと違う裁判に関する仕組みがあって、これをやれという提言があっての話であるのならともかく、裁判制度の方はしばし待てというのは、いかがなものかと思います。
 強いて言えば民事調停があるじゃないかというお話かもしれませんが、民事調停は裁判制度じゃございません。そういう意味で、今のような議論は、労働委員会との関係も含めて、論議のすり替えじゃないかなと思います。失礼かもしれませんが、そんなふうに思います。

【佐藤会長】時間ももう12時になりましたので、手短にお願いします。それでは井上委員と吉岡委員、お二人に御発言いただきたいと思います。

【井上委員】皆さんの御意見を伺っていて、呼び方は別として、労働参審というのは一つのあり得る方策だというふうに思うのですけれども、そこに至るステップのようなところの考え方の違いかなという感じがします。その点について、一番中核になるのは、中坊先生がおっしゃったように、単なる利益代表じゃなくて、むしろその分野に通じている人が、中立公平な立場から裁判内容の決定に参与するということではないかと思うのです。それをいかに確保できるかということだと思うのです。
 そういう意味で言えば、本当を言うと、その分野に通じた人であればいいので、労働側の経験を積んでおられる方だけでもいいし、使用者の方だけでもいいはずなのです。ところが、ヨーロッパの制度を見ても、労使のバランスということを考えて制度をつくっているというのは、やはり何かそこに純化できないもの、あるいは外から見ていて本当に中立公平なのかという懸念が残るということじゃないかと思うのです。
 ですから、ポイントは、利益代表じゃなくて中立、公平性のある人をどうやって選べばいいのか、そういう具体的な形としてどういうものがあるのかということなのではないか。そこには、裁判所というのは公平でないといけないということと絡んでくると思うのです。もし利益代表だとすると、裁判内容の決定を担当するということには適しませんので、その辺が必ずしもはっきり見えないと、やはりバランスが必要なのではないかということになる。そこのところの抵抗感みたいなものがあるのではないでしょうか。したがって、余り性急に結論を出すというよりは、そういうところの詰めをし、検討していくということが、今の段階でのあり得る形かなというふうに私は思うのです。その可能性を否定するとかということじゃなくてですね。
 そのステップとして、調停という形がもし不十分だとすれば、裁判にそういう専門的な知識、経験を反映できるような形、例えば、司法委員的な関わりとか、ワンステップとしてはそういうこともあり得るのではないかという感じがするのです。

【髙木委員】今の議論、異論ありますけれども、また議論する余地はあるのですか。

【佐藤会長】たたき台を次回にお示して、もう1回御議論いただきたいと思っています。

【吉岡委員】もう時間がオーバーしていますので、簡単にいたしますが、労働の場合には国民の司法参加の中で考えていった裁判員と、ちょっと質が違う問題がたくさんあるのではないかという印象も持ちました。先ほど髙木委員が、潜在需要はあるにもかかわず3,000 ぐらいしか年間ないという御説明でしたが、なぜ3,000 しかないのかというところを考えてみる必要があるのではないかと思います。
 確かに労働委員会はありますけれども、これは組合を通じて不当労働行為という、そういうことになりますと、数字ははっきりしないのですけれども、日本の企業社会の中での比率で言うと94~95%が中小企業だと思います。その中小企業で働く人たちが不当な労働行為を受けたような場合に、ほとんどは文句の持って行きどころがないということで、泣き寝入りをしている。それが、裁判にもなっていない大きな要因ではないかと思います。そういうことから言うと、国民が自分の主張ができるような場を設けるという意味で、髙木委員がおっしゃっているような仕組みが必要なのではないかと思います。
 そういう意味では、労働問題は非常に特殊であるということと、それから解決を急がなければいけないという実態があるという、その辺の問題を考えていく必要があるのではないか。そういうことで、結論をどうするかということをもう1度議論したらいいのではないかと思います。

【佐藤会長】また、時間の関係で、御議論を締めくくるということではなくて、中断するというのが正確かもしれませんけれども、一言申し上げて、今日のところ終わりとしたいと思います。腹ふくるる思いを皆さんお持ちかと思いますけれども。髙木委員もおっしゃり、ほかの委員も皆そこは共通の認識だと思いますが、従来の労働問題は、使用者と労働者との集団主義的な構造の中にあったんですけれども、現在はだんだん個別的な労働関係の問題が大きくなってきており、そういう中でどう考えるかということなんだろうと思うんです。
 そこで、今日は、まず民事調停でというお考えと、いや参審もというお考えと、2つ考え方が出ていると思いますけれども、民事調停をという方も一つの過程としてまずこれをということであって、労働参審を否定なさっているわけではない。ただ、一つの過程と言っても、どのぐらいのスパンで見るのかによって、随分また違ってくると思うんです。これで何十年も続けてからと考えるのか、いやそうではなかろう、そうであってはならないと考えるのかによって違ってくると思います。今日は取りまとめをするような状況でもないし、今日取りまとめをするつもりもありませんが、次回に今の両方のアプローチを視野に入れながら、たたき台をつくらせていただいて、更に御審議いただきたいと思います。この問題については、今日の段階ではこの辺で御辛抱いただきたいと思いますが、よろしゅうございますか。
 既に12時10分になってしまいました。その他の問題なんですけれども、今日はどうしましょう。12時半までやりますか。皆さんがもうそれは次の機会にとおっしゃれば、今日はこれでやめますけれども、どうしましょうか。
 代理、10分だけでもやっておきますか。

【竹下会長代理】民事司法の関係はこの次の4月6日しか審議の機会がありません。そこで、できれば、会長と御相談させていただいて、取りまとめのたたき台のようなものを4月6日に出させていただきたいと思っているのですが、その際に全くこれまで議論してない、新しい提案をさせていただきたいと思っているものですから、その点についてだけちょっと御意見を聞かせていただければと思うのですが。

【佐藤会長】それでは、そうしましょうか。今日は吉岡委員の方からペーパーが出されております。これは敗訴者負担についてですね。

【吉岡委員】はい、敗訴者負担を中心にあと幾つか項目程度を書いてございますけれども、時間をオーバーしていますし、敗訴者負担の問題は大変国民各層の関心が高いですし、審議会の方にも資料でお出ししたんですけれども、敗訴者負担制度の導入に反対という意見書が審議会の方にたくさん寄せられております。そういう状況なので、この問題について、もう少し深めた検討をする必要があると考えておりまして、内容について今日説明する時間がないということであれば、実は法曹三者に対しても質問を出しておりまして、その返事がまだいただけておりませんので、それも含めて議題として次回に検討していただきたいと思います。
 ただ、内容的に言うとかなり時間を取らなければいけないんではないかと思いますので、次回の4月6日のときに、少し時間を余分にちょうだいできればと思います。

【中坊委員】それで、今おっしゃるように4月6日に何もかも決めてしまうんだと、決めてしまうともう非常に窮屈になって、それだったらということになりますから、最終意見までもうちょっと日があるんだから、4月6日がタイムリミット、もう民事問題に触れる最後の1回だとしてしまうのは、ちょっとどうかという感じがします。
 だから、最後多少余裕があるんだから、そこの辺を詰めないと、今、吉岡さんのおっしゃるように私も敗訴者負担制度というのは、我々は中間報告を出して、そのときの一番末尾にこの中間報告について国民各層の意見を徴して、それでやりますと言っているんでしょう。そうしたら、山ほどの意見が来たのがここでしょう。そのときに、それはもう時間がないから4月のところだけだというのでは、我々の審議会の在り方が問われると思うんです。
 だから、その意味ではとにかく今、吉岡さんがおっしゃっていられている敗訴者負担の制度については、もう1度時間を掛けた方がいいのかもしれません。

【佐藤会長】分かりました。ではこの問題は一つの大きなイシューとして御議論いただくということにしたいと思います。今日4、5分で説明してくださいと言ったら、また大変でしょうから、今日はやめておきましょう。この問題があることに留意しながら。
 それから、ほかに、4月6日に議論すべきもので、たたき台をつくる上で是非注意してほしいというところがございましたら、簡単に御指摘だけいただければと思います。
 言い出したら切りないと思うんですけれども。

【中坊委員】今、会長代理がおっしゃっていることがあるんだから、それを先に聞いてから、それで終わるんだったらそれでいいし。

【竹下会長代理】では、私から申し上げますと、第1点は、中間報告では、国民の期待に応える民事司法の在り方というところで、民事訴訟の充実、迅速化を図るために、計画審理を一般化するということと、証拠収集手段の拡充をする必要があるということを言ってきました。そこで、この両者をセットでとらえる。つまり民事訴訟の充実、迅速化のための手段という位置付けで、計画審理と証拠収集の拡充をとらえることにしたいと考えています。そこで、証拠収集手段の拡充方策として、前に資料にも出ておりましたし、話題にも上っておりました、ドイツの独立証拠調べのような制度を取り入れることにしてはどうか。具体的に申しますと、訴え提起前でも、特に証拠保全の必要性ということを要件としないで証拠調べができる、証拠収集ができるようなことを入れたらどうだろうかということでございます。
 本日、「追加参考資料・6」というものが配付されておりますが、その中の(資料2)でドイツの独立証拠調べのことが説明されてございます。これが従来の日本やドイツの証拠保全制度と違うのは、冒頭にございますように、訴訟が係属していなくても、当事者の一方から次のマル1からマル3の事項の確定につき、「法的利益を有するときは」、証拠保全の目的がなくても、鑑定人による書面の鑑定を求めることができるという点です。人の容態や物の状態・価値、人的・物的損害の原因又は物的瑕疵の原因、人的損害、物的損害又は物的瑕疵を除去するための費用などについて、書面による鑑定を求められるということを言っているわけです。
 これを、日本に取り入れるときには別に書面による鑑定に限らず、ほかの証拠調べの方法もできることにするということは可能だと思いますので、こういう手続を入れると訴訟になったときの証拠収集手段として意味を持つということと、それと併せて、これによって訴訟提起前に事実関係がはっきり分かれば、早く和解ができますので、そういう意味でまた紛争解決の迅速性という点でもメリットがあるのではないかと思われます。これが1点でございます。
 なお、鑑定につきましては、その資料の後ろの方に出ていますが、最高裁が、新聞でも報じられました医療関係、建築関係についての鑑定人確保のためのスキームを検討されておられます。これで鑑定制度の充実が図れるのではないかと思います。
 もう1点は、今の鑑定とも絡むのですが、専門的知見を要する事件への対応強化で、この鑑定制度の充実のほか、我々はこれまで専門委員又は専門参審、いずれにしても専門家の参与の在り方を新しく考えるということを言ってまいりました。しかし、専門参審につきましては、いろいろ御疑念が出されてきたと思いますので、私としては今回の専門家活用の新しい方策としては専門委員制度に一本化して、専門委員制度の内容を少し具体的に明らかにしたらどうだろうかということで、席上に配付されております「知的財産権関係訴訟における専門家活用の新たな方策案-いわゆる専門委員制度-」というものを用意しました。知的財産関係訴訟におけるとしましたのは、これについては比較的に御異論がなかったのではないかと思うので、まずこの種の事件について考えてみて、そういう制度であればほかの種類の訴訟にも取り入れて良いのではないかということになれば、適用範囲はもう少し広げていくという趣旨でございます。
 ここで言っている専門委員制度というのは、そこにございますように、趣旨は専門的知見を要する知的財産関係事件において、法曹以外の技術専門家が裁判所の機関として裁判の全体又は一部に多様な形で関与することができるようにすることによって、その次のマル1ないしマル4のようなことが実現されることを期待するということであります。それで、マル1が裁判所・裁判官の専門的知見の獲得方法の多様化、つまり鑑定以外にもこういう方法ができるようにすること。マル2が専門家の関与形態の多様化。裁判所調査官、鑑定人のほかに専門家の側から見ると関与の形態が多様化する。マル3がそれによって当然のことながら、裁判の迅速、充実化、それと説得力の増大を図る。それから、マル4が裁判所の専門性に対する当事者・国民の信頼を確保するという効果があるのではないかということであります。
 制度の概要としましては、専門委員の関与場面は、専門家を関与させるわけですから、審理の初めから終わりまで、訴訟全体に関与を求めることはなかなか難しい場合があるだろう。だから、裁判の全体あるいは一部ということにしておく。その専門委員の役割はどういうことかというと、まず考えつくところを例示したわけですが、例えば、争点整理のサポート、それから和解の担当や補助、それから専門的知見を要する問題についての調査・意見陳述、証拠調べへの関与、証人等に対する質問権などを認めるということでございます。
 争点整理のサポートのときに関与するのは、口頭弁論か争点整理手続ですから、弁論準備手続という争点整理手続に関与するときには、確かに非公開ではありますけれども、対審制が保障されていますから、相手方も専門委員がどのように争点整理を行おうとしているかということについては十分知る機会があって、反論ができる。それから和解は勿論、専門的知見を要する問題点に関する調査・意見陳述。この意見陳述は、やはり相手方が反論する機会があるような形で意見陳述を求めることにする必要があるだろうし、そうすればそう疑念はないのではないか。証拠調べへの関与は、当然相手方も立ち会う権利があることでございますので、これらの役割を主として考えるということであれば、前から指摘されているような疑念を払拭できるのではないかと考えたわけでございます。
 専門委員の立場・事件の割当てにつきましては、専門委員は常勤又は非常勤の裁判所職員にする。裁判所は、個別事件ごとに専門委員を付すか否かを判断して、事件ごとに担当の専門委員を決定する。こういうような形に一本化したらどうだろうか。これまでのように専門参審か、専門委員かと言っているとどうも、この審議会として専門訴訟にどう対応しようとしているのかということが、国民の受け取り方として、明確なイメージがつかみにくいものですから、インパクトが弱くなってしまう懸念があります。確かに専門参審と言った方が、それ自体としてはインパクトが強いかもしれませんけれども、これにはいろいろな疑念も出されているところなので、こういう形の制度にしたらどうだろうか。もしそういうことでお認めいただければ、たたき台のときには、この辺りは整理をして御提案し、御意見を伺うようにしたい、そういうことです。

【北村委員】私は、専門参審についても検討していただきたいなというふうに思っているんです。それで、竹下先生の御配慮もよく分かるんですけれども、どういう点が専門参審で具合が悪いのか、また専門委員よりも専門参審の方がいい部分という本当に専門制の強い部分というのは、そういうふうになるんじゃないかなというふうに思っていますので、専門委員に絞ってというんじゃなくて、その専門参審はここで認められるかどうかというのは、そんなのは別にいたしまして、1度やはり検討してみる必要があるんじゃないかなというふうに思いますけれども。

【竹下会長代理】専門参審ということになりますと、国民の司法参加ということですから、どうしてもどういう種類の事件に採用するかを決めないといけないと思うのです。北村委員がお考えになっておられるのは、どういう種類の事件ですか。

【北村委員】ですから、今ここに出てきております、例えば、医療過誤とか、それから私が今、対応しきれていないなと思うのが、デリバティブなんかがそうなんですけれども、そういうような場合の、だから民事だけではなくて刑事に関わる事件にもなる可能性はあるんじゃないかと思うんですけれども、そういう部分について必要なんじゃないかなというふうに、私自身は思っているんです。

【中坊委員】最後に我々が中間報告で触れていて、まだ懲罰的損害賠償制度と、クラスアクションと、それから団体訴権がまだ残っていますから、これもまたこの民事司法の中ですると。

【佐藤会長】全体のスキームの中でお示ししたいと思いますけれども。今の点ですが、まだ確かに北村委員もおっしゃるような面もありますので、一応我々の間で専門委員ということですが、しかし専門参審のことも残すような形で次回書けるようにしたらどうでしょうかね。

【竹下会長代理】そうしましょう。
 専門委員制度についてはいろいろな御注文は4月6日に付けていただいて結構ですが、たたき台としてお出しするものは、こんなイメージということでよろしいでしょうか。

【髙木委員】これは、例えば、知的財産権と言えば、弁理士さんやいろんな関係がありますよね。この考え方は大分その辺等を議論されて詰めてきておられるんですか。

【竹下会長代理】いや、それは必ずしも詰めてはおりません。

【髙木委員】キャッチボールぐらいする。

【竹下会長代理】いや、まだそこまでは。法曹三者のいろいろな御意見などを考えてと申し上げたいと思います。

【中坊委員】とにかく一遍出していただいて、どういうので大体異論ありませんかと、今すぐあれだけ言われて簡単には言えません。どっちかと言ったら新しい提案でしょう。だからちょっと、それを口頭で言われて、はいというわけにはいかないので、一応よく検討させていただくことにしましょう。

【佐藤会長】御趣旨はよく分かりますが、6月12日に最終意見は出したいというように思っておりますので。

【髙木委員】中間報告の中の提言事項というのは、大体方向性が出ている、あと継続検討事項、これはたくさんあるんですね。

【佐藤会長】ええ、たくさんあるんです。

【髙木委員】これは6日で、あと4時間ぐらいでみんな議論できるんですか。

【佐藤会長】事柄によっては議論し出したら、それだけでも半年、1年掛かるようなものも中には入っていると思います。中坊委員もかねておっしゃってきたように、やはり我々の審議会の任務は大きな構図を描くことにあると思うんですね。この問題も個別的なほかの問題も全体の構図に関わっていると言われれば、そういう面もあると思うのですけれども、すべての問題について全部詳細に答えを出すということは難しいと思います。ですから、それぞれのお立場から御不満はおありでしょうけれども、全体の構図の中に検討課題を位置付けるということはしたいと思いますが、それについてこうだというように結論を出すのが難しい問題もあるということ、その点は御理解を賜りたいと思います。
 それで、4月6日には一応たたき台をお示しして、そこでもうこれで全部決めますよということではないんですけれども、しかし、おおよそ大体これでいいんじゃないかと言っていただかないと、最終意見には間に合いません。最終意見をまとめるについては4回、5回ぐらいありましたかね。だから文章化するところでも、またいろいろ御議論いただく余地はあろうと思いますけれども、4月6日はおおよそのところ大体これでいこうじゃないかということを決める日だということで。ただ、さっきから言っていますように、全部決め打ちにしてこうだというつもりもありません。そこは強権的にするつもりはありませんので。

【竹下会長代理】冒頭でも申し上げましたが、ちょっとここのところは細かい項目が多いものですから、少し大くくりにして、項目を少し整理させていただきたいと思っております。特に利用しやすい司法という中は、弁護士関係のことを除くと、ほとんど民事司法の問題なのです。それと「国民の期待する民事司法」という項目が分かれているということもありますので、その辺りの項目の整理も、ちょっと中間報告とは違うことになりますけれども、御了解いただきたいと思います。

【佐藤会長】そういうことでございます。何か中途半端な審議になってしまった感もないではありませんが、今日のところは時間が来ましたので以上とさせていただきます。配付資料について何か。

【事務局長】お配りしております配付資料の中に、EUからの中間報告に対する意見書が入っておりますので、御参考にしていただければと思います。内容的には外弁問題が中心でございます。
 以上です。

【佐藤会長】弁護士報酬に関するいろいろな御意見も、この配付資料の中に入っております。
 どうもありがとうございました。それでは次回ですけれども、3月27日午後1時半から午後5時まで、この審議室で行います。国民の期待に応える刑事司法の在り方につきまして、まず警察庁からのヒアリングを行い、その後意見交換をしたいというように考えております。意見交換の際には、会長代理と相談させていただいたレジュメを用意したいと思います。これに従って意見交換をしていただきたい。それから事前にこのレジュメを皆さんにお送りするつもりですので、御検討方よろしくお願いいたします。連休の谷間で皆さんにいろいろ御迷惑をお掛けしたのではないかと思いますけれども、本当に今日はありがとうございました。
 記者会見は、今日は代理と二人ですか。髙木委員、お願いできますか。では、よろしくお願いします。