司法制度改革審議会
司法制度改革審議会 第53回議事概要
- 1. 日時 平成13年3月27日(火) 13:30~17:10
2. 場所 司法制度改革審議会審議室
3. 出席者
- (委員・50音順、敬称略)
井上正仁、北村敬子、佐藤幸治(会長)、竹下守夫(会長代理)、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子
- 4. 議題
- 「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について
(1) 警察庁佐藤英彦次長からのヒアリング
(2) 刑事裁判の充実・迅速化に関する意見交換
5. 会議経過
(1) 警察庁佐藤英彦次長からのヒアリング
警察庁佐藤次長から、レジュメ(別紙1)等に従って、犯罪情勢等の現状説明(刑法犯の増加、犯罪の国際化、少年犯罪の増加、犯罪の組織化等)の上、警察の立場からの刑事司法・刑事手続に関する意見(捜査の第一線の実情を踏まえた制度検討、警察取扱い事件の受入れのための検察庁の体制の充実強化、取調べの捜査手法としての重要性等)が述べられ、引き続き、委員との間で、概要以下のとおりの質疑応答が行われた。
- 警察の捜査員の規模に比しても検察官の数は余りに少ない。そのことが警察が検察庁への事件送致を待たざるを得ない原因になっているのではないか。(回答:犯罪が大幅に増加し、しかも捜査困難な事件も増えている。そういう状況の中で検察官も多忙となり十分な対応が難しくなっているものと思われる。また、精密司法と呼ばれる公判における緻密な認定の在り方が検察官の判断や警察の捜査をより慎重で緻密にさせているということも一因ではないか。)
- 取調べないし自白中心の捜査の在り方をどう考えるか。(回答:取調べは現在の法制度の下で、事案の真相を解明するために真実の供述を得るという意味で、重要な捜査方法であると考えている。現行刑法が主観的要素を重視し、公判においてもその点について緻密な立証を求められるような仕組みをそのままにして、取調べの問題だけを取り上げるということは適当ではない。)
- 取調べを受けた人間がその直後に自殺をするような事例もあるが、警察としては、そういう事態が生じた場合、如何なる対応をしているのか。(回答:事案にもよるが、しかるべき調査を行って、捜査等の在り方が適切であったか否か、どこに原因があったのか等について検討を加え、今後の教訓にするように努めている。)
- 英国のような取調べの状況を録音する制度についてどう思うか。(回答:外国の制度の評価は非常に困難。英国の刑事司法制度は、我が国とは根本的に異なるところがあり、その中から一つの制度を取り出して我が国に導入することの是非を論ずるのは難しいことである。)
- 適正さを欠く取調べ事例があるが、取調べの密室性に原因があるのではないか。(回答:取調べにおいて一部問題事例があることは御指摘のとおりであるが、総体的には国民の期待に応えているものと考える。)
- 代用監獄は国際的にも多くの批判を受けているところである。警察としてこれを廃止しようという考えはないのか。(回答:代用監獄は監獄法で認められている留置場である。これをなくして全て拘置所に留置するということも制度論としては考えられる。ただし、現実の問題として、圧倒的多数の事件は警察で捜査を行っていることや、施設や人員等の面で拘置所で対応できるのかということなどを考えると、代用監獄を廃止するためには種々の手当てを講じなければならない。そうしたことを抜きにして廃止すべきと言われても、捜査の現場をあずかる警察としては責任が持てない。)
- 取調べが被疑者から真実を聞き出すために重要であるということは理解できるが、捜査機関の一方的な思い込みによって当初から被疑者を犯人扱いして自白するまで身柄を拘束するという傾向があるのではないか、そういう点に問題意識を感じている。
(2) 刑事裁判の充実・迅速化に関する意見交換
審議用レジュメ(別紙2)に基づいて、概要以下のとおりの意見交換が行われた。なお、刑事訴訟手続への新たな国民参加の制度の導入との関係に留意する必要上、「裁判員制度導入の現行刑事訴訟手続への影響」と題する書面(別紙3)が審議資料として用いられた(冒頭、井上委員からの口頭説明あり)。
- 現在、刑事裁判において、一部長期化している事件があるが、その原因は不十分な弁護体制、争点整理や裁判所の訴訟指揮が実効性に欠けていることなどにある。裁判員制度導入との関係では、国民の負担という観点だけではなく、国民の記憶の新鮮なうちに裁判を進めるという意味でも、集中的に審理を行うなど裁判の充実・迅速化は必要不可欠である。そのため、実質的審理が始まるまでに、十分な争点整理がなされている必要があり、準備手続の拡充は不可欠である。準備手続の主宰は受訴裁判所が行うこととしてよい。準備手続においては、当事者双方に、認否・争点明示を義務付ける必要がある。その上で立証計画・スケジュールを立てる。争点以外の事実に関する証拠ないし立証は簡略化する。証拠開示については、証拠の類型に応じて適切な開示の時期を定め、争いがあれば裁判所が裁定を下すなど、ルールを明確化すべき。争点整理とは関係のない証拠をも対象とする全面開示は、裁判の遅延の原因にもなるので認めるべきではない。
- 争点整理手続については当事者の準備との兼ね合いで適切な時期を定める必要があるが、少なくとも公判開始前には、当該事件の争点を明確にし、連日的開廷を前提とする審理計画を定め、公判開始後は、そうした計画に従って、争点を中心とした効率的・効果的な主張立証が行われることが必要。また、裁判員が理解しやすいように、用語の問題も含め手続全般について平易化を図る必要もある。なお、裁判員制度の導入は、複数事件の起訴の在り方、併合審理の在り方にも影響を与えることになるのではないか。
- 法務省は法廷侮辱罪の創設を主張しているが、その趣旨如何。(法務省回答:例えば、期日指定をめぐって紛議が生じ、弁護人が裁判所の訴訟指揮に従わないことなどから審理が長引く事例がある。充実・迅速な審理を実現するためには、裁判所の訴訟指揮権の実効性を担保する適切な措置が必要なのではないかと考えている。具体的にどのような場面においてどのようなサンクションがあり得るのかということは十分な検討が必要である。法廷侮辱罪というのは考えられる一つの方法であるということを申し上げたもの。)
- 準備手続において認否や争点明示を義務付けることについての日弁連の考え方如何。(日弁連回答:日弁連としても争点整理や審理計画の必要性については異論はない。しかし、被告人の黙秘権や刑事事件においては民事事件と異なり検察官が立証責任を負担していることを考えると、被告人側に認否や争点明示を義務付けることには反対せざるを得ない。)
- 最高裁は当事者の事前準備と争点整理を法律レベルで義務付けることを主張しているが、その趣旨如何。(最高裁回答:現在は、刑事訴訟規則で任意の協力という形で当事者の事前準備が定められているだけ。裁判所としては、刑事訴訟法に、事前準備、争点整理、審理計画に関する明確な規定を置く必要があるのではないかと考えている。なお、争点明示を義務付けるということは、事件のどこを争うかということを明示させるということにすぎない。自己に不利な供述を強要されないという黙秘権の保障とはレベルの異なる問題であると考えている。)
- 日弁連は、刑事訴訟法第321条第1項第2号本文後段に定められている伝聞法則の例外(注:証人が公判期日等において検察官調書の内容と相反するか実質的に異なる供述を行った場合に、当該検察官調書を証拠とすることができること。)について、裁判員の判断が困難であるから、廃止すべきであるとするが、証拠能力というのは、当該証拠が事実認定に供することのできる適格性を有するか否かの問題であって、論理に飛躍がある。
- 日弁連は、裁判員に読ませるのは困難であるからという理由で、自白事件も含めて自白調書の利用を否定すべきとするが、裁判員の理解が容易になるよう分かりやすい調書の在り方を工夫していけばよいのではないか。
- 裁判員制度が導入されるから、現在認められている調書の利用を廃止しろということはできないのではないか。むしろ、そうした制度との関係で、今後、証拠書類としての調書の位置付け、内容等が自ずと変わってくることになるものと考えるべき。
- 現在の刑事訴訟手続の下でも、直接主義・口頭主義は原則とされている。裁判員制度の導入により、調書の利用そのものを否定するということではなく、直接主義・口頭主義の原則をより一層重視していかなければならないと考えるべきではないか。
- 被告人が一切争点を明らかにしない、弁護人ともコミュニケーションをとれないというような例外的な場合に、そもそも争点の明示を強制することはできない。そのような場合は検察官の起訴事実を全て争うと見て、準備手続を進め、審理計画を立てていけばよいことである。
- 裁判所の訴訟指揮権の実効性を担保するために適切な制裁措置を設けるといっても、上記のような例外的な場合に、制裁措置によって、争点明示を強制するというものではないと思われる。当事者双方が合意して争点を整理し審理計画を立てたにもかかわらず、それに反した場合に、制裁措置が問題となってくるのではないか。
- 準備手続の充実、争点整理の必要性については異論はないが、そのためには被告人・弁護人が証拠の全容を把握している必要がある。開示することにより弊害が生じるおそれのあるものは例外として除外するのが適当であろうが、それ以外の検察官手持ち証拠は開示するというのを原則とすべきではないか。
- 連日開廷、無駄のない審理等により刑事裁判の充実・迅速化を図るべきことは異論のないところであるが、そのことは裁判員が関与する事件だけに求められるものではないはず。刑事手続全体の問題として捉えた制度設計をすべきことではないか。
- 争点整理手続を受訴裁判所が行うこととしても、証拠書類を直接見て心証を得るということではないのであるから、予断排除の原則と抵触することはないと考える。
6. 今後の審議の進め方
「国民の期待に応える刑事司法の在り方」については、第55回会議(4月10日)において、積残しの課題(公的刑事弁護制度、検察審査会の機能強化等の新たな時代における捜査・公判手続の在り方など)を含めて、さらに議論を行うこととされた。
以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)
-速報のため、事後修正の可能性あり-