場 所:司法制度改革審議会審議室
出席者
(説明者)
警察庁次長 佐藤英彦氏
(事務局)
樋渡利秋事務局長
【佐藤会長】それでは、時間が参りましたので、ただいまより第53回会議を開会いたします。
本日は、「国民の期待に応える刑事司法の在り方」につきまして、まず最初に警察庁からのヒアリング及び質疑応答を行いまして、その後意見交換を行うことにしておりますので、よろしくお願いいたします。
それから、最後に、4月16日、第56回会議以降の日程につきまして御相談申し上げたいと考えております。それでは、早速警察庁佐藤英彦次長からお話をお聴きすることにしたいと思います。
佐藤次長には、私ども審議会のヒアリングの御準備をいただき、また、本日はお忙しいところおでましいただき、本当に恐縮でございます。
最初に、佐藤次長から30分程度、そこは多少弾力的でよろしゅうございますが、お話しいただき、その後質疑応答を行いたいと思います。では、よろしくお願いいたします。
【佐藤次長】警察庁次長の佐藤でございます。本日は、犯罪情勢始め、警察の捜査を取りまく現状と刑事手続につきまして、あるいは刑事司法につきまして、申し述べる機会を与えていただき、ありがとうございました。
では、早速でございますけれども、御説明に入りたいと思います。まずお手元の資料の確認からお願いをしたいと存じますが、2部ございまして、1つは3枚紙のレジュメでございます。
第1といたしまして「犯罪情勢等の現状」ということで、1から2ページ目の下の8まで書いてあります。3枚目が第2といたしまして、「刑事司法・刑事手続に関する意見」ということで3項目書かせていただいております。
最初に、第1「犯罪情勢等の現状」から申し述べたいと思いますけれども、それにつきましては、もう一つのほうの資料に沿いまして御説明をさせていただきたいと存じます。
目次2枚をめくっていただきまして、「1 刑法犯」というところからでございます。レジュメのほうにちょっと目を移していただければと思いますけれども、「1 刑法犯」とございまして、(1)から(5)まで特徴を掲げてございます。10年間で43%増云々ということでありますけれども、それに沿いました表をつくったつもりでございます。それでは、表の資料のほうから御説明をいたしたいと思います。
まず「刑法犯認知件数の推移」でございますけれども、10年間を取ってみました。その上のグラフにございますように、徐々に発生が増えております。そして、そのすぐ下の数字が小さくて恐縮ですが、「認知件数」という表がございます。平成3年170 万件余りでありましたけれども、一番右の12年244 万件ということで、73万6,000 件余りが増加をいたしたのであります。平成3年以降は3万件ぐらいの増でまいりましたけれども、平成8年から9年に掛けまして9万弱の増に転じまして、平成10年からは13万、そして11年から12年に掛けては28万ということで、この増加率が急増をいたしております。
その結果、レジュメにありますように、43%増加をしたと、約1.4 倍になったということでございます。
そして、御承知のように、大半は窃盗でございます。日本の場合には87~88%が窃盗犯でございますので、基本的には、窃盗の増が押し上げているということになるわけでありますが、その一番下の表をごらんいただきたいと思いますけれども、重要犯罪の認知状況というのがございます。重要犯罪というのは、下の※印の2にありますように、殺人、強盗、放火、強姦、略取誘拐及び強制わいせつということで、国民が身近に危険を感ずるそういう犯罪を10年ほど前から重要犯罪と呼びまして、捜査の重点を置いてきたということでありますが、強盗をその表で見ていただきますと、平成3年が1,848 件でありましたけれども、12年には5,000 件を超えまして、2.8 倍になりました。
強制わいせつがそれに次ぎまして2.3 倍。略取誘拐が1.5 倍、強姦が1.4 倍、放火が1.29倍、そして殺人が1.14倍ということで、重要犯罪がいずれも増えているということであります。つまり、窃盗の増が全体を押し上げておりますけれども、ほかの危険な犯罪も等しく増えているということでございます。
次に表2でございます。そのうちの強盗でありますけれども、強盗の増は今申し上げたとおりそこにございますが、平成3年1,848 件から2.8 倍になって5,173 件になったのですが、これは昭和40年代から平成2年ぐらいまではせいぜい1,500 件から2,600 件ぐらいの発生数でありましたけれども、それが大きく超えてきているということであります。そして、その中でも、下の表にありますように、路上強盗が急増しているということで、平成3年593 件でございましたけれども、全体の犯罪と同じように、平成8年から9年に大幅に増えまして、その後増加を続けて、12年には、2,070 件、3.5 倍になっております。ということで、路上の事件というものが非常に多くなっているということであるかと思います。
次が窃盗犯でございます。窃盗犯は、その上の折れ線グラフのように非侵入盗が増えておりまして、乗り物等が微増、侵入盗も微増ということであります。
下の円グラフをごらんいただきたいと思うんですが、小さくて恐縮ですけれども、左半分が非侵入盗であります。つまり、窃盗の半分が非侵入盗でございます。その中身はここの内側に、万引きでありますとか、自動販売機荒らし、すり、ひったくり、車上ねらい、部品盗といったものであります。次に多いのが乗り物盗で右の下半分であります、36%。自動車盗、オートバイ盗、自転車盗といったものであります。そして、次が侵入盗、14%でございますが、空き巣、忍び込み、金庫破り、学校荒らし、事務所荒らしといったものであります。
それを真ん中の数字で見ていただきますと、総計がございますが、平成3年150 万件でありましたのが、平成12年右端でありますけれども、213 万件ということで、1.4 倍に増えております。
そして、その上に侵入盗、乗り物盗、非侵入盗別の数字がございますけれども、それぞれ増えてきているということでございます。
侵入盗の中でも一番怖い事件というのは忍び込みと言われる事件でございまして、これは人が寝ている間に別の部屋に侵入することが多い訳ですけれども、そういう事件でありますが、最近はそれに加えまして外国人の侵入盗が急増いたしておりまして、これが住民の不安を非常に高まらせているということで、侵入盗の様相も変わってきております。
次のページが重要窃盗犯であります。重要窃盗犯といいますのは、その数字を書いた表の下に※印で表わしておりますけれども、侵入盗、自動車盗、ひったくり及びすり、これがやはり住民に身近な重要な窃盗であろうということで、これを重点に捜査をしているということでありますが、その数字を見ますと、平成3年の30万件から平成12年の42万件、これまた1.4 倍に増えているということでございます。
そして、特異な手口として次から出てまいりますけれども、表の7はいわゆるピッキングであります。これは平成10年までの数字がございません。そういうものを我々は認知しておりませんでしたので、数字がございませんが、平成11年、ここに警視庁以下5県取り上げておりますけれども、全国で70%はこの東京周辺で起きておりますので、ここに掲げてあるのですが、平成11年9,435 件認知をいたしました。それが昨年は2万2,860 件に増えまして、急増いたしております。平成10年以前はほとんど取るに足らないということでありますので、この2か年で急激な変化であります。これでつかまえたのが全国で908 人ですが、このうち5県で642 名つかまえておりますけれども、このうちの7割が中国人でございます。
40人ほどのグループをつかまえた事件では空き巣を290 件やっておりまして、強盗も2件、合わせて6億8,000 万稼いでいたという事件等がございます。
次のページが自動車盗でございます。この表は便宜、件数と金額だけ書いておりまして、必ずしも自動車の台数ではございませんけれども、おおむねそれとほぼ近似値と見ていただいてよろしいかと思います。3万5,000 件でありましたものが5万6,000 件に増えている。中でも200 万円以上の車の被害が多いということが推認できるという数字でございます。
次がひったくりでございます。これも路上で行われるということで、平成3年、1万1,000 件余りでありましたけれども、それが平成12年、4万6,000 件と4倍に増えておりまして、これで平成11年には、オートバイを利用していたひったくりが主婦を引きずって死亡させたというような事件が起きておりました。路上強盗と合わせまして、このひったくりが街路における安全を脅かしていると言ってよろしいかと思います。
次がハイテク犯罪で、これは不正アクセス禁止法違反もございますので、必ずしも刑法犯ではございませんけれども、便宜ここに掲示をさせていただきました。
これは申すまでもないことでありまして、急増しているという、特にネットワーク利用犯罪が増えているということであります。なお、最近ヨーロッパで問題になっておりますのは、このネットワーク利用犯罪のうち児童ポルノの問題でありまして、これがネット上に横行いたしておりまして、特に日本発のポルノがICPOを通じましてヨーロッパ各国から通報をされております。そのうちのかなりの部分を検挙いたしております。ドイツからは去年1年で20件、日本発の児童ポルノが通報され、その大半を検挙いたしておりますけれども、こういう状況が1つございます。
以上が1の刑法犯でございます。
次に2の国際的な犯罪という項目に移らせていただきたいと思います。これも5項目掲げております。それを表に従ってまいりたいと思います。
総括でございますけれども、表11は来日外国人犯罪の検挙状況の推移であります。濃いブルーは特別法犯でありまして、特別法犯といいますのは、銃刀法でありますとか、薬物に関する法律でありますとか、公職選挙法でありますとか、色々ございますけれども、そういう刑法犯以外のものでありまして、薄いブルーが刑法犯であります。
平成3年からの数字になっておりますけれども、平成2年まではほとんど少ない発生でございまして、3年から急増しております。その3年の数字でありますけれども、総計のところを見ていただきますと、1万件、7,270 人でありましたが、一番右12年では3万971 件、1万2,700 人と、件数にして3倍、人員にして平成3年から見ても75%増ということであります。我が国の場合、大半はアジア系の外国人で80%余りでありますけれども、刑法犯で見ますと中国人が件数で62%、人員で48%を昨年の場合は占めておりました。
ちなみに、平成2年の発生、そこに書いてございませんが、刑法犯の検挙が約3,000 人であります。したがって、平成2年から平成3年で1.5倍以上になったわけであります。
ちょっと時間の都合で飛ばせていただきますが、次が来日外国人の共犯率の推移、このグラフを見ていただきますとおわかりのように、平成3年の辺りは余り共犯率というのは高くなかったのでありますけれども、窃盗、強盗、いずれも共犯率が高くなっております。この表を見ていただきますと、一番上の刑法犯総数共犯率というのは余り意味のない数字でありますので無視していただきたいと思いますが、2番目の窃盗犯共犯率というのは、平成3年20%でありました。それが平成12年には53%に上がっております。
次に強盗であります。これも35.6%から53%に上がっております。ここに書いてございませんけれども、ちなみに外国人、日本人合わせました全体の窃盗の共犯率は平成12年で19.1%、強盗で41%であります。したがって、全体に比較いたしまして外国人の犯す窃盗、強盗の共犯率は非常に高い、つまりグループを成して行っているということでございます。
次に、表13、来日外国人の検挙状況の推移であります。これは、折れ線グラフの一番上の粗暴犯が急増しております。次が凶悪犯、そして薬物事犯、次が窃盗ということでございます。それを数字に表わしたのが下の表でございますが、凶悪犯が126 件から318 件、このうち50%が不法滞在者によって行われております。これはあくまでも検挙からしか外国人ということはわかりませんので、確定できませんので、すべて検挙に関してであります。粗暴犯もごらんのように増えておりますし、窃盗も増え、薬物事犯も増えているということでございます。なお、平成12年の凶悪犯で見ますと、日本人を被害者とするのが70%強でございました。
次の表が、捜査共助、外国人の問題になりますとどうしても外国の捜査機関と共助しなければできないということが多いのでありますけれども、それの推移でありますが、濃いブルーが外国に対して我が国から要請したもの、薄いほうが外国から要請を受けたものであります。いずれもリヨンにございますICPO、国際刑事警察機構を介して行われたものを含んでおりますが、それの内訳が下に書いてあります表であります。
平成3年ICPOルート441 件でございました。12年には719 件、外交ルートは多少増えておりますけれども、大幅な変動はございません。
次に、外国からの要請を受けたもの、ICPOルートが628 件から1,346 件、2倍に増えていっているということで、外国の捜査機関との共助なくして、国内の事件の検挙は非常に難しいと言っていい状況になっているかと思います。
次が、地下銀行の検挙数及び送金金額の推移ということで、俗に、不法に送っている、最終的には銀行から銀行へ送金するのでありますけれども、その経過において違法な取引を行うということで地下銀行と呼んでおりますが、これの検挙状況でありますが、表を見ていただきたいと思いますけれども、平成3年までは私どもが認知をいたしておりませんでした。それが、平成4年、1件、これは大阪でありましたけれども、認知をいたしまして、37億円の送金を発見いたしました。そしてその後は検挙がなかったのでありますけれども、平成9年以降、7件、7件、8件、7件と検挙をいたしておりまして、627 億9,000 万、平成11年は1,935 億4,000 万等の送金額で、これの計を書いてございませんが、合計30件でございまして、3,738 億9,200 万円が違法に送金をされているということでございます。
これも書いてございませんで恐縮ですが、申し上げてみますと、30件中どこに送ったか、どの国に送ったかということを申し上げますと、中国が10件、韓国が7件、タイが5件、フィリピン、ペルーがそれぞれ2件、あと、台湾、ネパール、ミャンマー、イランが各1件であります。なぜこの地下銀行を使うかと言えば、勿論、身元がわからないで、明かさずに送れるということでありますし、迅速、確実に送れる、土曜、日曜、祭日も送れる、手数料が割安だと。それから、それぞれ送り先国の事情がございまして、正規に送りますと着かないことがあるとか、あるいは手数料が高いとか、色々な事情があるようでありますけれども、こういうことで犯罪で得た収入も含めまして、違法に送金される。多くの場合は不法滞在者が送っております。
これが国際的な犯罪についての経過です。
ちょっとレジュメに戻っていただきたいのでありますけれども、(5)の次に※印がございます。「収容施設・入国警備体制の拡充」でございます。今申し上げました来日外国人等の犯罪に関しまして、我々としてお願いをしたいということであります。それは、警察が犯罪として検挙いたしまして、検察官に送致したもの以外に、入管法、入国管理に関する法律によりまして、警察、あるいは警察と入国警備官が一緒に検挙活動をいたしまして、それを入国警備官に送るということがございます。これが5,000 人ぐらいあるわけでありますけれども、警察の調べによりましても、例えば、警視庁で昨年1年間70数回、入国警備官と合同摘発をいたしております。ところが、今、入国管理局の収容施設が全国に18か所、2,400 名ほどの収容人員と伺っておりますけれども、この数字ではいかんとも少ないということで、例えば、今何名空いているから何名収容するというような状況になっておりまして、また、入国警備官の数も非常に少ないということから、警察で検挙いたしたくても一緒に行っていただく警備官がいない、ないしは引き渡しをしようと思いましても、警備官の人手不足、ないしは施設の不足から引き受けることができないということ、あるいは、休日にはとてもじゃないけれども引き受けられないなどがございまして、この不法滞在者等の検挙が必要な数検挙し得ていないという実情にございます。
先ほど言いましたように、警視庁で70数回、合同摘発をやっておりますけれども、警視庁には島部を除きまして96署ございますので、1年間で1署が1回検挙できないという実情でございます。警視庁に聞きますと、この3倍はやりたいということでありますけれども、とても現状ではできないということであります。
それから、今一つの問題は、ほぼ同数を逮捕いたしまして、検察官に送致をいたしております。この外国人の検挙の場合には複数でありますし、言葉の問題もございまして、多数の捜査員を投入して、多数の書類をつくっております。そして、通訳を調達いたしまして、通訳謝金を払いまして捜査をいたしましても、短期の在留の者はほとんどが起訴猶予になる。それから長期のもので起訴されましても、大半が執行猶予が付くということでありました。したがって、本国に送還されますし、また、今次の入管法の改正によりまして、入国拒否の期間が延びましたけれども、しかし、彼らは名義を変えた旅券を取りましたり、あるいは不法な入国によってまた日本に舞い戻ってくるということで、追っても追ってもまた来るという状況にございます。しかも、出国のときに、不法に得た収益に違いない金銭というものは剥奪されることなく出国をするということもございまして、あるいは地下銀行で既に送金を済ませてしまうというようなことでございますので、現場としては非常に切ない状況にあるということでございます。
したがいまして、適切な制裁の在り方というのはいかにあるべきなのかということも御検討いただければと思いますし、また、大変な手数が掛かっても、結果として起訴猶予であったり執行猶予であるならば、捜査資料の簡略化を何とか図ってほしいと思いますし、あるいは居住先、稼働先等の捜査につきましては、挙証責任の転換をしていただくというようなことによる捜査の合理化を図っていただけないか等々、現場としては切実な要望があるということでございます。
以上が国際的な犯罪に関してであります。
次が、3といたしまして、少年犯罪であります。これは表をごらんいただきたいと思います。ここには少年による凶悪犯の検挙人員の表を掲げてございますが、日本の場合には、検挙人員の約4割強は少年でございます。したがって、犯罪の趨勢というのは、少年犯罪が帰趨を決めると言っても過言ではないという状況にございます。そのうち凶悪犯を見ていただきますと、そこにございますように、平成3年、1,152 人の検挙でございましたが、平成12年には2,120 人、1.8 倍、そのうち強盗は678 人から1,638 人ということで、2.4 倍ということで、少年による凶悪犯、強盗が非常に増えている。なお、ここに書いてございませんが、殺人は、平成3年が76人でございましたけれども、昨年は105 人でありました。
そして、その凶悪犯につきまして、少年の共犯率がどうかというのが下の表でございます。これで見ていただきますと、共犯事件が平成3年297 、それが平成12年546 件でございます。その中で集団でやった、すなわち3人以上でやったというのが168 件が341 件ということで、それを共犯率というものを全体から出しますと、12年では55.4%ということで、先ほど来日外国人で見ていただきましたように、来日外国人も少年も共犯、集団でやるというのが共通でございまして、従来の大人による、日本人による犯罪とは大きく異なっているということでございます。
次の表18が少年による粗暴犯の検挙人員であります。これは、同様の傾向でございます。参考まで掲げました。
下のひったくりとちょっと関連するということで参考にしていただきたいと思いますが、下の表でひったくりでありますけれども、全体でひったくりが増えているということは先ほど申し上げましたけれども、平成3年は少年は1,020 人のうち682 人でありました。それが平成12年は3,072 人のうち2,179 人が少年ということで、少年が70%強を占めているということでございます。
以上が少年の犯罪の状況でございます。
次に4番といたしまして、「組織を背景とした犯罪」ということで7項目ほど申し上げたいと存じます。
まず、組織を背景としたと表現いたしましたのは、必ずしも組織犯罪とは言い切れない、しかし、多くの場合、経験則からその背後に組織があるという意味で、このように表現をさせていただきました。
まず覚せい剤事犯の検挙状況の推移でございます。検挙件数、検挙人員の推移はそこにあるとおりでございます。これを表の数字のほうで見ていただきますと、平成3年2万1,700 件、人員1万6,000 人でありましたのが、平成12年2万5,900 件、そして、1万8,942 人ということで、件数、人員とも増えております。人員のうち40%が暴力団でございます。
そこで、この表から特徴的なことは、押収量の急増でございます。平成3年は121 キロでありましたけれども、平成8年に650 キロという押収量を記録いたしまして、9年にちょと下がりましたけれども、10年から増えまして、11年は約2トン、昨年が1トンであります。昨年の1,026 キロ900 グラムという押収量を使用回数で割り出しますと、3,424 万回分ということで、末端価格にして616 億円ということでありました。
これだけ押収量が増えておりましても、末端における価格が下がっていないということでありますので、多分、昨年、一昨年押収したと等しいほどの量が既に3年以前にも入っていたのではないかとうかがわれるわけであります。なお、100 キログラムを超す押収事件が増えてきておるということであります。いずれにいたしましても、日本の場合、覚せい剤事犯の大半は輸入であります。したがって、外国の捜査機関との情報交換、あるいは捜査協力なくしてこれらの事件は検挙することはほとんどできないということであります。最近は、中国、北朝鮮で製造されたと思われるものが主流になっております。
けん銃でありますが、けん銃は残念ながら押収丁数が年々減少しております。非常に押収が難しくなっているという感じであります。
暴力団の武器庫の摘発状況、いささかオーバーな表現でありますけれども、実務的に複数のけん銃を隠すために置いてあるところを武器庫と呼んでまいりました。この検挙が落ちてきているということでございまして、平成8年には33件、232 丁押収しておりましたけれども、平成12年には、12件、45丁の押収にとどまった。ただ、一番下の数字を見ていただきますと、1か所辺りで押収できた丁数が5丁から7丁ぐらいあったのがだんだん減ってまいりまして、昨年は3.8 丁ということで、これは暴力団がけん銃を隠す場合に、小口分散をしているということがうかがわれるわけでありますけれども、それを表わす数字であろうと思います。
暴力犯罪の検挙状況でございます。これは基本的には余り動いておりません。消長がその年によってございますけれども、大きな数字変化はございません。
金融・不良債権関連事犯の検挙状況の推移でございますれけれども、これが、上の濃い色のものが暴力団が関わっているというものでありまして、例の不良債権問題が生じまして、政府の政策としてこの不良債権を何とか解消しようということとの関連におきまして、融資ないしは債権回収の過程における犯罪を摘発すべしということで力を入れてまいりました。その結果の数字でございますが、融資過程の事件も増えておりますし、債権回収過程の事件も増えているということで、債権回収過程では大半が暴力団によって行われているということでございます。
この種事件の捜査に大変手間が掛かりまして、これに相当の人手も掛かるということでありまして、これが一般の暴力団の事件検挙のほうになかなか人を振り向けることができない1つの要因であろうと思われます。
次が窃盗犯の共犯率の推移ということであります。これは先ほど見ていただいたことと関連いたしますが、来日外国人の共犯率、暴力団の共犯率も高い。先ほど見ていただきました少年の共犯率も高いわけでありますが、これらが徒党を成して事件をやるということで、これは平成3年にはさほど高くなかったのでありますが、そこにございますように、せいぜい20%前後ということであったのでありますが、最近は非常に共犯率が高くなっているということであります。
次に、26表でありますけれども、「警察庁登録組織窃盗事件」という表がございます。耳慣れない、聞きなれない事件だと思いますけれども、これは平成8年、9年ごろから外国人、暴力団によりますところの大勢の者が関わった窃盗が増えてきたということで、これを警察庁のほうで登録をいたしまして、そして、全国の警察を挙げて共同して捜査をするという仕組みをつくりました。そういう窃盗を便宜組織窃盗と呼びまして、警察庁で登録しているわけであります。平成9年6件以降、総計のところにございますように、37事件ございます。事件といいますのは、その事件数の右側に検挙件数とございますが、1万3,567 件、一つひとつの事件としては1万3,000 数件あるわけでありますけれども、それらを同一グループがやっているということで、ひとまとまりと見ていきますと、37事件としてまとめることができるという意味であります。このうち、現在9件が未解決であります。
これで見ていただきますと、検挙件数が1万3,567 件、被害金額がちょっと読みづらいのでありますけれども、217 億5,190 万円であります。検挙人員の欄でありますけれども、総数で852 人、したがいまして、単純に割りますと1事件当たり20人強の人員でやっている、しかも外国人がそのうち348 人、暴力団が228 人、その他の日本人が276 人ということで、これらが入り乱れてグループをつくっておりまして、敢行しているということであります。
平成9年ごろは、1つのビルの1フロアを全部かっさらっていくとか、これは貴金属あるいは衣料品が多かったのであります。あるいはデパート等の壁を破りまして、そこから侵入をするとか、そういうことで驚愕されたケースが多かったのでありますけれども、最近はピッキングが多くなってまいりました。したがって、住居に入るとか事務所に入るということで、現金あるいはクレジットカードを窃取するということが多くなっております。
それから、自動車、高級自動車を取っているというのもございます。そこに書いてございませんで恐縮ですけれども、昨年の2月に検挙した事件を1つ御紹介いたしますと、これは高級自動車を盗るグループでございまして、4グループが1まとまりになっておりました。これが772 件の事件をやりまして、24億6,900 万円稼ぎました。この車をロシア、中東、中国に輸出をいたしておりました。検挙いたしました日本人が38人、ロシア人が2人、パキスタン人1人ということであります。
こういうことで、事件ごとに首領は変わらなくても、実行者、見張り、輸送者、あるいは輸出をする者、これが皆入れ替わり立ち替わり変わりまして、首領の顔は見せないということで、ほとんどが携帯電話で指令を発するという形の事件でございました。非常に検挙が難しく、1年ぐらい掛けて捜査をするというのが通例であります。
次のページが、集団密航事件、平成9年に大変多く集団密航がございました。そこにありますように、1,360 人が入国をいたしまして、検挙をいたしました。そして、中国公安部と緊密な連携を取ることといたしまして、あちらでも取り締まりを強化をしていただきましたし、海上保安庁との共同作業も進めまして、そういう効果が出たのではないかと推測いたしますけれども、順次減ってまいっております。ただ、集団では来ないけれども、10人以下の小人数で入ってくるということが増えてきているという状況であります。入管法の違反検挙状況はそこにあるとおりでございます。偽造旅券の検挙も余り変わりません。
それで、レジュメのほうにまた目を移していただきたいと存じますけれども、(7)の下に※印で「捜査のための薬物の運搬・譲受行為等の適法化」と書いてございますけれども、これについてちょっと御説明をいたし、お願いをしたいと存じます。
どういうことかと申しますと、最近多くなっておりますのは、外国の捜査機関からアヘンあるいは麻薬、覚せい剤、大麻、ヘロイン等について、その捜査機関の協力者を日本に入国させるから、その協力者から日本で買い受け人が買い受けた後のフォローをして検挙してほしい、そして、日本への密輸入ルートを絶ってほしいという要請がしばしば参ります。我が国の法制上、その協力者を適法な行為とみなすことができない輸入行為、運搬行為、所持、譲り渡し行為、そして、交換をいたしまして、収益を得て、その収益を所持し、そして運搬をする、いずれの行為も適法とみなすことができないということで、中を抜いてくれと、俗に言うクリーン・コントロールド・デリバリー、CCDと呼んでおりますけれども、そういうことができないか等々折衝するわけでありますけれども、外国の捜査機関としてはその協力者の安全を確保できないということで、そのものずばりを持たせるので、是非検挙し、その協力者は安全に国外へ戻してほしいという要請が参るわけでありまして、我が国では、残念ながら適法にすることができない。
しかし、先ほど申し上げましたように、日本に入ってくる覚せい剤の大半は外国から入ってまいりまして、外国の捜査機関の協力なくして日本の覚せい剤事件の検挙ができない、その外国の協力要請に応えることができないという切ない状況がございまして、私どものほうとしては非常に無念の思いをいたすわけであります。
そこで、何とかこういう行為を適法にすることはできないものだろうか、また、純粋国内の捜査におきましても、麻薬取締法、あるいはあへん法で麻薬取締官につきましては、買い受け行為を適法とする旨の明文の規定がございますけれども、覚せい剤取締法にはその旨の規定がございませんし、また、警察官についてはそういう規定がない。したがって、判例によりまして、個々の行為による正当行為性というものを立証して、違法性阻却をしていただくという道によるわけでありますが、しかし、現場はなかなかそれでは踏み切れないということで、そういう組織に迫っていくということもなかなかしがたいということでございます。
したがいまして、薬物の運搬、所持、譲り渡し、譲り受け、収益の収受、隠匿等につきまして、警察官あるいは外国の捜査機関の協力者について免責をし、その行為を適法とすることができないであろうかということがお願いでございます。
次に5番目ですが、時間がなくてはしょって恐縮でございますけれども、交通事故でございます。これは4項目書いてございますけれども、この交通事故については発生状況は御承知のとおり、表30でございますが、死者数こそ減っておりますけれども、事故件数、負傷者数あるいは重傷者数というのは増加をしております。母数が大きいものですから、グラフ上は大きな変動になりませんけれども増えている。
交通関係の業務上過失致死傷事件の検挙人員はその下の表、グラフにあるとおりであります。これも増えてきております。
ところで、これらについて捜査をした結果についての処分状況が次のページにある終局処理人員の処理区分別構成比というものでございます。これは検察統計をお借りいたしました。3つございますけれども、上が一般事件でありまして、26%ほど公判請求がされ、略式も含めますと38%ぐらいが起訴されております。不起訴が20.6%ということであります。これは平成11年であります。
この真ん中でございますけれども、交通関係業過につきましては、83.5%が不起訴でございました。これは証拠が明白であっても、あるとないとにかかわりませず不起訴、これは傷害の程度、業務上過失によりまして生じた交通事故によって生じた傷害の程度によって、画一的な運用になっておりまして、このような状況にあるということでございます。
ここでレジュメのほうにまた戻っていただきまして、※印で書いてございますけれども、「軽傷交通関係業過事件の処理手続の抜本的見直し」と書かせていただきました。
昨今、酒酔い運転をいたしましたり、あるいは薬物を使った者の運転によりまして、交通事故を起こして死傷事件を発生させたという者を重く罰するべきではないかという被害者の声等によりまして、現在、法務省と警察庁とで、そのための改正に向けた作業をやっておりますけれども、それに合わせまして、今1つの私どもの問題が今見ていただきました軽い交通業過による死傷事件、これの大半が不起訴になっているという現実を見ましたときに、ここを何とか抜本的に見直すべきではなかろうかと考えるものであります。交通捜査の現場では、交通事故というのは、夜間、休日の別なく発生をいたすわけでありまして、直ちに現場に急行するということで、警察の中でも呼び出しの非常に多い分野であります。1日に何件も事故を処理するということになっているわけであります。その度に、書類を作成し、送致をするわけでありますけれども、その大半が不起訴だということでは、何のための捜査だということになるわけでありまして、法務省、検察庁と協議をいたしまして、その書類ないしは処理の簡素化を図って今日に至ってまいっておりますけれども、この状況はいかんともしがたいというところがございます。
そこで、これにつきましても現在既に法務省と共同いたしまして、専門家にも入っていただいて意見の交換会を始めておりまして、近くどういうプランがあり得るかという検討を進めてまいる段取りにはなっておりますけれども、例えば、警察限りの処理を制度化するといたしますとか、あるいは刑法の適用を除外するといたしますとか、また、その場合には代替の制裁をいかにすべきか等々の検討課題がございますけれども、いずれにいたしましても、抜本的な制度改正というものを行っていただかなければ、現場の者の士気は極度に低下をするということであろうかと思います。
次が、6でございます。「通報、相談等」とございますように、これは犯罪そのものではありませんけれども、犯罪に発展する、ないしは犯罪につながっていくその予備軍といいましょうか、あるいはその前段階と申しましょうか、そういうものの状況を示したものであります。見ていただければよろしいかと存じます。
まず110番でありますけれども、これは年々急増をしていっている。このグリーンのものは移動電話、車あるいは携帯電話からの受理でございます。
次のページがその内容であります。「110番通報の内容別受理件数」とありますけれども、交通、刑法犯等々ございまして、ブルーのところは緊急性のないものということでありまして、おおむねこういう内容であります。
次のページが、上が「相談件数の推移」とございますが、これはその※印の1にございますように、警察署あるいは警察本部の相談窓口としてあるところに来た相談に限った数字であります。平成12年は推計でございます。このうち10%、1割ほどが警察と無関係の相談であります。
次がストーカーでありますけれども、平成8年以前の数字がございません。それまでストーカーという問題が我々としても大きな問題として認知されていなかったということがございまして、平成9年からの数字でありますけれども、6,134 件の相談がございましたけれども、平成12年、これは半年の数字を基にした推計でありますけれども、2万3,000 件になるであろうと見込まれておりますが急増をいたしております。
次が児童虐待であります。これの相談も急増いたしておりまして、そこにあるとおりでございます。
次がいわゆるドメスティック・バイオレンスであります。これは相談件数という数字が私どもにはございませんで、検挙状況になっておりますけれども、平成12年もまた急増いたしまして1,000 件を超したということでございます。この種の事件では、従前は捜査のする必要のなかった、ないしは捜査をすることを求められなかった家庭内における事件ないしは親密な関係にある者の間の事件というのが非常に増えてきて、またこの処理が非常に難しいということで、ちょっと適切を欠くと批判を受けることがございまして、なかなか難しい案件でございます。
次が暴力団関係の相談であります。これは相変わらず増えているということであります。
次が告訴・告発でございます。これは例年、同じ数字なのでありますけれども、これは実情がございまして、警察において処理することのできる状況というものを前提にして受理をせざるを得ないという運用が行われてまいりまして、そういうことの反映している側面が多いだろうと思います。また、これは検察庁においても同様のことがあるのではないかと私ども推測をいたしておりますけれども、なかなかすべてを早期に送付いたしましても、それを受理する体制が必ずしも検察庁においても十分にあるわけではないというようなことも反映をしているのかなと思いますが、しかし、昨年、色々御批判がありました。とにかく受けられるだけ、事件として認定できるもの、認定しにくい、ないしは認定するのに時間が掛かるかもしれないけれども、とりあえず受けてみようということで受けてみたところの数字がこの赤の受理件数の急増でございます。しかし、これを処理する体制はございません。
以上が通報・相談等であります。
次が留置でございます。これは留置人員が増えているということにすぎないのでありますけれども、そこにございますように、総数198 万9,000 人余りが、平成11年には365 万人余りということで、1.8 倍に増えているということで、そのうち外国人被留置者というところを見ていただきますと、10万人から52万4,000 人余りということで、5倍近い増になっております。括弧にございますように、14.4%が外国人の被留置者が占めているということであります。東京、大阪等の大都会のほうでは、ほぼ20%が外国人になっております。それを見やすくしたのが真ん中のグラフであります。急増していっているということがおわかりいただけようかと思います。
そして一番最後の下の表を見ていただきたいのでありますけれども、被留置者数、これを1日の単位で見ましたときに、ある1日を取りますと、被留置者数は1万819 人でありました。このうちに、次にBとありますが、移監を待機している、すなわち拘置所等へ移したいと、移す必要があるないしは警察での処理がすべて終わっているという者が2,119 人おりまして、また、そのうち第1回公判が既に終わっているという者が797 名おります。これの比率を表わしたものが右側にあるものでありまして、移監を待機している者の比率が19.6%、約20%、そのうちの37.6%が第1回公判を終了しているということで、どんどんその未決囚が増えております。拘置所に移してほしいのでありますけれども、拘置所のほうもどんどん増えておりまして、収容し切れないということのようでありまして、警察署の留置場に、いわゆる代用監獄に収容の必要のない者がどんどん増えていっているということでございます。これを何とかしてほしいと思っております。
次が接見の状況であります。弁護人の方との接見の数が内数で書いてありますけれども、弁護人等との接見が9万件から平成11年には19万2,000 件余りということで、収容人員が増えていることも影響しておりましょうけれども、その増加率を超えて接見も増えているということで、接見の対応が積極的になっているということを表していると見てよろしいかと思っております。
そして、これでまたレジュメのほうに戻っていただきたいと思いますが、※印で、拘置所の待機者の問題がございます。今申しましたように、そういうことで、警察の捜査の対象となっていない収容者が2割近くいるという現状がございまして、そのための看守要員として第一線から引き上げてくる。そして、裁判等がありましたときには、警察の捜査が終わっているにもかかわらず、その者たちの護送を行わなけばいけないということで、こういう業務負担というのが留置場、更には第一線まで広がっているということでございます。したがいまして、非常に難しいのでありましょうが、何とか拘置所を拡充していただけないかということでございます。
一番最後は被害者のことで、警察として被害者対策をどういうことをやっていくか、これらの業務が組織として非常に増えているということの数字でございます。これはまたお目通しをいただければと思います。
それでは、第2のほうで、レジュメのほうに戻っていただきたいと思いますけれども、「刑事司法・刑事手続に関する意見」といたしまして3つございますが、その第1であります。捜査の第一線の実情を踏まえた制度検討をお願いをしたいということでございます。
既に※印のところで色々申し上げたわけでありますけれども、今、犯罪情勢でごらんいただきましたように、非常に犯罪が増えているということでありまして、その理由といたしましては、不法滞在外国人の急増あるいはそれのグループ化、組織化というのがあると思いますし、少年の心の荒廃といいますか検挙人員の40%を少年が占めている、少年人口が減っているにもかかわらず、検挙人員は増えていっているということ、あるいは薬物、日本のこれまでの治安をよくしてきたものとして薬物、銃の規制が徹底していたということがあろうかと思います。ここに風穴が開いてきているということ。あるいはボーダレス、ハイテク、あるいは日本の法令の中にループホールがある。すなわち世界のレベルより低い法規制があって、そこにつけ込むすきが生まれているという意味において、国際組織犯罪者の暗躍がしやすくなってきている等々の状況というものがあって、今日の犯罪増が生じているのであろうと推測をいたしておりますけれども、その背後には、家庭、学校、地域の変質というものがあると言わざるを得ないと思います。
また、日本人の倫理感の急速な変化というものがあって、抑制機能というものが下がっているということだろうと思います。そうだといたしますと、多分、この情勢というのは、急激には変わらない、この趨勢というのは引き続くであろうと予想いたしておるわけであります。そういう中にありまして、私どもの捜査の現場はどうなっているかといいますと、犯罪増のために、現場に行かなければいけませんので、現場に臨場する、呼び出しをし、あるいはほかの事件をおいて現場に行くという回数が急激に増えてきている。あるいは1つの事件に掛ける日数は、これは外国人が多い、グループが多い、少年の凶悪犯が多い、組織犯が多い、あるいは経済事件が多い等々、1つの事件に掛ける日数が非常に増えてきております。
また、今見ていただきましたように、留置人員が増えている。第一線も引き上げなければいけないということ。それから、被害者の要望に応えるべくもろもろの活動も新たに展開をしているというようなことがございまして、これは決してオーバーな表現ではないのでありますが、次から次と発生の対応に追われているという状況にございます。
昨年の4月、全県の中核的な警察署の刑事2,300 人につきまして、4月1か月だけをとりまして休日をどの程度取ったかという調査をいたしましたところ、21.6%が土曜、日曜を入れまして休日は1日ということでございました。そういうような状況に年々なってきているということであろうと思います。
その結果、余罪調べというものがなかなかできない、従前は1人の被疑者から、窃盗をやっていれば200 件に近い数字というものを裏付けを取って、そして被害者に安心してもらって、検察庁に送致をするということをやっておったわけでありますけれども、そういうことができないということで、余罪の調べが大幅に減っております。これが私は検挙件数の減、検挙率の低下という形で表われている1つの要因だろうと思っております。こういう状況が捜査の現場にございます。そして、これは推測でありますけれども、恐らくは、検察官が起訴されている事件の90%以上は警察から送致ないしは送付された事件ではなかろうかと思いますが、そういうことから見ますと、その起訴の背後に、こういう実情があるということを御勘案いただければ、大変ありがたいというように思う次第であります。
次に2つ目でございますが、「警察取扱い事件の受入れに関する事項」ということでございます。これは拘置所の拡充の問題でありますとか、外国人の収容施設の問題等々につきまして既に申し上げましたけれども、ここで申し上げたいのは、警察から検察官に送ります、送致、送付をいたします事件の待ち時間が非常に長くなってきている、待つ事件がまた増えてきているということであります。事件が増えてきておりますし、警察の1件の処理日数も増えますと同時に、検察官におきましても事件が増えておりまして、また、1件の処理の日数が増えているということで、検察庁も大変忙しいという状況がございます。したがって、我々から見ますと、無理からないところがあるんでありますけれども、しかし、生きている事件を追っている現場といたしましては、捜査の潮時を失するということがございますし、その間、待っている時間を色々聞いてみましたところ、やりたい日から2週間ないし数か月遅れるということが最近は多くなってきているという報告でありますけれども、その間、被疑者の動静をずっと見ていなければいけない。あるいは参考人、被害者の方から不満が寄せられる。なぜ早くやってくれないんだということで、また、事後の公判等に関する協力が非常に得がたくなってくる。現場のほうの士気も低下をするというようなこと等がございまして、その待ち時間というものが非常に苦しい状況を生み出しているということであります。
したがいまして、警察から送致をいたします、あるいは送付をいたします事件の処理を担当される検察官の体制を大幅に強化していただきたい。
それから、大きな検察庁で大きな事件をおやりになりますと、地方の検察庁から応援を取られることがあるようでありますけれども、そういたしますと、5人、6人しか検事さんがいないという検察庁が少なくないのでありますけれども、そこから1人抜かれますと、2割ないし30%の戦力ダウンということが生じまして、これでその地方の警察がまた事件が遅れるということが生じておりまして、何とかこういう事態を解消できないだろうかというようなことがございます。
そういたしますと、共通いたしますのは、勾留期間が20日しかない、この短い期間にすべてを処理しなければ起訴することができないというこの時間的制約というものが非常に大きく影を落としているというように思えるのでありまして、この勾留期間20日、20日といいましても実際に捜査に当てられる期間というのは14~15日しかございませんので、この辺りが何とかならないものだろうかと思う次第であります。
最後でございます。取調べ等に関する問題でございます。この審議会におきましても取調べに関する問題が取り上げられているのは承知をいたしておりますけれども、私ども警察が行っている取調べというものが一体どういうものなのかということについてかいつまんで申し上げて御参考に供したいと思います。
私どもの中で、捜査技術といたしまして、捜査技法といたしまして、この取調べは被疑者の真実の声を引き出す、そのために調べ官が全霊を注いでこれに当たるという意味において最も難しい捜査技術、捜査活動だと考えております。これは、警察署の事件でも勿論調べをやりますが、警察本部でやる事件の場合には、捜査指揮の重要な1つは、だれを調べ官に当てるかということでありまして、それほどに調べというものは重要な位置付けになっているわけであります。これを先ほど申し上げました短い勾留期間の間に初対面の被疑者と人間関係をつくり、コミュニケーションを取って、ないしは取れるようにいたしまして、そして話が始まる。その被疑者を理解するためにその被疑者の生立ち、家族関係を聞き、あるいは交遊関係を聞き、生活状態を聞き、場合によっては自分の生立ちなども話して共感を得ていく。更には過去に扱った被疑者やあるいは刑に服している者たちの話にも触れて、そして更生の気持ちというものを喚起していく。こういうような関係をつくっていくわけでありまして、したがって、優秀な調べ官であればあるほど調べの前夜というのは眠れないと言っておりますし、また、その人その人によって調べの手法が違っているということであります。我々幹部がその調べの状況を見ようということで、仮に部屋の戸を開けたとしますと、通常の調べ官は、それが上司であろうが怒鳴り返す。何するんだと、せっかく今、こういうコミュニケーションをつくっているのにというようなことでありまして、調べというのは非常にデリケートなものだと思っております。したがって、取調べ官を途中で替えるということは非常に捜査指揮として難しいものの1つでございます。
また、取調べは罪種によって違ってまいります。経済犯でありますとか、あるいは公務員の犯罪でありますと理詰めの調べが重要でありましょうし、明確な証拠というものが物を言いましょうし、あるいは公共性といいますか、その公民性に訴えていくということがありましょう。これが殺人の被疑者になりますと、もうしゃべったらおしまいと、こういう心境になっているわけで、そういう者たちの死者に対する気持ちを喚起しながら訴えていくという調べになりましょう。これと好対照なのは窃盗でありまして、常習窃盗者というのはほとんど罪の意識がない、こういうものが、常習であればあるほど証拠を残さないというものの調べというものはまた格別のものがあるようであります。
そして、これが今度暴力団員になりますと組織の恐怖というものが常に肩に掛かっている、あるいは身代りというものが非常に巧妙に行われるということから、この暴力団員の取調べも技術的には非常に難しいという側面がございます。
要は、その被疑者の琴線に触れなければ真実の供述は得られないという、その琴線に触れるために必死に努力をするというその過程が取調べであろうかと思います。そして、この真実を知らなければ、その事件の真相というものは解明できずに、そして、社会の不安は解消されないということになるんだろうと思います。
例えば、オウム真理教の事件では、これは数人の枢要な被疑者の自供を得て、初めてその組織の全容がわかり、犯罪の全貌がわかってくる。これが調べで自供させることができなければ、あの不安というものは引き続いたままであったろうと思いますし、浅間山荘事件の連合赤軍の者を逮捕して彼らの重い口を開かせて初めてあの凄惨なリンチ殺人事件というものが明らかになったわけであります。
他方で、暴力団がヒットマンを使ってやりましたある映画監督の襲撃事件でありますとか、あるいは会社の重役を襲った事件におきましては、その共犯者についての自供を得ることができずに、また、上部を明らかにすることができずに、ついに当事件の真相が不明のまま終わっている。その結果、不安がいつまでもその関係者の間では消えることがないということもあろうかと思います。
こういうことは、毒殺、トリカブトあるいはカリウムでありますとか砒素でありますとか、そういう薬物を使った事件では、常につきまとうものでありますし、通り魔事件でもそうであります。そして、多くの場合、日本の刑法の現状から言いますと、その目的、動機等々を明らかにいたしませんと、適用罪名が変わってくる。ないしは量刑が大きく変わってくるということから、内心に迫ることなくして、事件の適用ができない、刑の適用ができないということもあるのであります。
そういう主観的な要素を重視している法体系、あるいはそれについての推定に関する規定等々がない、否認事件に関する裁判は非常に緻密に行われるがゆえに長期を要する、あるいは真相の解明を求める国民の声は強くなれこそすれ決して弱くはならないといった現状にかんがみますと、私どもとしては、そういう全体を変えることなくして取調べの在り方というものの一部に修正を加えることに関しては、異論を唱えざるを得ないということでございます。
大変時間をオーバーして恐縮でございますけれども、以上でございます。
【佐藤会長】どうもありがとうございました。警察のお立場から見た刑事司法の在り方につきまして、色々とお話をちょうだいし、非常に参考になるところが多かったように思います。
ただいまのお話につきまして、何か御質問等がございましたらどうぞ。
【中坊委員】幾つかお尋ねしたいと思うんですが、まず、この表1で示されております刑法犯の認知件数の推移というのがありますね。この240 万件という件数が刑法犯として認知されたということなんですが、この240 万件の中には、いわゆる業務上過失とか、あるいは交通違反、これは含まれてないのですね。
【佐藤次長】これは除いています。
【中坊委員】刑法犯のうちで業務上過失に関するとかそういうのは除いた数字が240 万件ということですね。
【佐藤次長】そうです。
【中坊委員】その次に、このことと関連して、この240 万件に相当する事件の中の検挙率というのはどういうふうに推移しているんでしょうか。いわゆる、これは犯罪が認知されただけであって、実際それでは犯罪として検挙されたのはどういう割合になっているんでしょうか。
【佐藤次長】例えば平成3年でまいりますと、検挙は件数でいきまして65万4,538 件です。そして、平成12年が57万6,771 件であります。
【中坊委員】そうすると、平成3年が。
【佐藤次長】38.3%になります。65万4,538 万です。
【中坊委員】それで、今度はそうすると何%になるんですか、平成12年でいうと。
【佐藤次長】23.6%です。
【中坊委員】ということは、犯罪は多く発生したけれども、犯罪の検挙ということで言うと、かなりこちらのほうは下落しているということですね。
【佐藤次長】そうですね。ただ、凶悪犯等で見ますと、これは検挙の件数は増えております。しかし、検挙の増が追いついていない、認知の増に追いついていない。ただ、窃盗につきましては、検挙の件数も減っておりますし、検挙人員も減っております。
【中坊委員】その間、警察官の数というのはどうなっているんですか、平成3年は。
【佐藤次長】平成3年ですと、8,000 人ぐらい少ないと思います。22万1,000 ~2,000 ではなかったかと思いますけれども。
【中坊委員】それが平成12年では。
【佐藤次長】それが今23万人強です。
【中坊委員】余り変わっていない。何万人増えていることになるんですか。
【佐藤次長】8,000 か9,000 ぐらいではないかと思います、ちょっとうろ覚えで恐縮でありますけれども。
【中坊委員】そうすると、警察官の数は増えて犯罪の認知件数は増えているけれども、検挙率も下がっているし検挙件数は余り増えていないということですね。
【佐藤次長】はい。ただ、先ほど重要犯罪とか重要窃盗という言葉を使わせていただきましたけれども、限りがあるということで、そういうほうへの検挙にシフトをしてきたということは、運用上はございます。
【中坊委員】それから、更に先ほども少し出ていましたけれども、それが今度は検挙が減っているというだけではなしに、検挙した事件は検察官に送致しないといけないわけですね。そして、起訴という段階になるわけですね。そこで、先ほどおっしゃったような検察庁に送るときに待つとおっしゃっていましたか、そういうことが起きておるわけですね。そうすると、大きく考えてみて、大体警察官が25万人ですか。
【佐藤次長】23万です。
【中坊委員】23万人いらっしゃって、それが現実に捜査ということに関与されている警察官の数というのは大体どれぐらいですか、おおざっぱで結構です。
【佐藤次長】これは、大体6万から7万だと思います。6万5,000 前後を上下しています。
【中坊委員】6万5,000 人ぐらいが犯罪の捜査に現実に関与している。
【佐藤次長】いわゆる搜査員ですね。これは刑事、生活安全、警備、それから交通の搜査員、6万5,000 人前後だと思います。
【中坊委員】それで、それを受けられる検察官の数はどれぐらいだとおたくのほうは把握されておるんですか。
【佐藤次長】1,200 ~1,300 人でしょうか。
【中坊委員】そうすると、6万5,000 人ぐらいが送る仕事を、1,200 ~1,300 人の人が送致を受けているから、そういう大きな全体的な数字から見ても、そこに遅れというか、色々な問題が発生してくることになりますね。
【佐藤次長】そうですね。ですから、さっきちょっと言いましたけれども、従前は割合スムーズにいっていたと思いますけれども、いかんせんこの増は、両方に大きく負担が掛かっているということだと思いますし、また、難しい事件が多くなってきていますから、その打ち合せも当然非常に稠密、濃密になってくるということもあろうと思いますし、裁判が非常に難しくなりましたから、それに応えなければいけないという要請もあろうかと思います。
【中坊委員】それから、先ほど表の32で、具体的に非常に明らかな数字の表が出ていたと思うので、業務上過失事件は83.5%が不起訴になって、道路交通法違反であれば大方が略式手続で処理されている。そうすると、業務上過失の事件は、略式にもなっていないということですか。
【佐藤次長】そうですね。
【中坊委員】そうすると、何らの処罰を受けていないということですか。
【佐藤次長】そうです。
【中坊委員】それで、そこに問題があるというのは先ほど御指摘になりましたね。
【佐藤次長】はい。
【中坊委員】その件については、検察庁と警察の間ではどういう協議をなさっているわけですか。
【佐藤次長】これは、そのような処理に、これは10年ぐらい前からだったと思いますけれども、その合理的な理由はあるように思うんですが、それは、やはりほとんどの人が車を運転している。そういうことで事故はある一定の比率で起きざるを得ないという現状がございますし、しかも、負傷の程度も1週間とか2週間とか、診断書がそうなっていましても、ほとんど軽傷だというようなことがあり、あるいはそれを仮に裁判に付したといたしましても、処分はどうなるのか等を勘案いたしますと、これは合理的な処理を優先させるという配慮だろうと推測するんですけれども、それはそれで私どももわからなくはないのであります。
【中坊委員】それから、今度は弁護人、弁護士という立場から申し上げるんですが、確かに、いわゆる留置場が代用監獄として使用されて問題であるということは随分前から問題になっていたと思うんですけれども、ただいまの御報告ですと、逆に、今度はそれをなくするどころか、当然拘置所に行かなければいかぬものが留置場にそのまま残っているという現象が続いておるということですね。
【佐藤次長】そうです。ですから、代用監獄の是非に関する議論が長らく続いているということも承知しておりますし、それはそれなりにそれぞれの御意見にごもっともな部分があるということも理解をいたしておりますけれども、現実は、そういうところにすら至っていない。むしろ状況は悪くなって、代用監獄にすら入れるのがいかがかと思う者の収容人員の比率がどんどん増えてきているということであります。
【中坊委員】現実にはね。
【佐藤次長】はい。
【中坊委員】最後に、警察官の捜査の取調べとして、非常に被疑者との間との人間関係というか、取調べにおける人間関係のコミュニケーションといいますか、そういうことを非常に重視して捜査を続けておるということですね。しかし、そのこと自体が問題ではないかというようなお考えはないわけですか。
ということは、いわゆる科学捜査であるとか、もっと客観的な証拠をきちっと集めてやる、いわゆる自白中心の取調べというものは、やはりおかしいのではないかというような考え方は警察としてはないわけですか。
【佐藤次長】それは何というんでしょうか。そういう自白なくしても立証することはできる、ないしは本人の内心を立証上求めないという法体系になっており、また、そういう裁判になるのであれば、私はそれはそれで1つの在り方だろうと思いますけれども、その部分の根幹が変わらないままに、取調べの問題だけ、あるいは取調べの在り方の部分についてだけを論ずるのは、これはいかがかなと申し上げたいと思いますね。
【中坊委員】そうですね。しかし、今言うように、今度我々審議会としては、刑事裁判手続に裁判員制度の導入ということを考えて今、審議を終えておるんですが、そういうことから言うと、今の次長のお考えは、どういうお考えになってきますか。
【佐藤次長】どう直結するかわかりませんけれども、私どもも昨年年間を通じて色々国民の批判を受けたわけでありますけれども、その1つは、国民の一般常識と警察の常識に乖離があるのではないかという批判だったと思うんです。
これはやはり同様に検察官のこととすると、公訴提起の基準についても、そういう問題があるかもしれませんし、あるいは裁判の事実認定ないしは量刑の問題についても、そういうギャップというものがあるのかもしれないと思うんですね。これは推測でありますけれども。もし、仮にそうだとした場合には、そういう国民の感覚とのギャップを埋める1つの方法として、そういう方法を御検討されているんだとすれば、私どもは、それは1つの方向性なんだろうなと感じます。
【中坊委員】特に被疑者の取調べというのが、いわゆる密室の中で、しかも被疑者の段階において警察との力関係の中で行われておる。そういう密室性というか、そういうことがかえって色々な問題を起こしてきているという点については、どうですか。
【佐藤次長】それは確かに色々御批判を受けるようなケースがなくはありませんし、それの絶無を期すべくきているのがこれまでの歴史であったと言ってよろしいかと思います。それは人間が人間に対してやることですし、技能の優れた者もおれば、また拙劣な者もおりますし、また、被疑者の人間性というものをどの程度考えることのできる人格であるかという問題もございますし、そういうことは絶無になるということは難しい性格の問題だろうと思うんですけれども、総体的に見ましたら、私はそういう問題というのはなくはございませんけれども、総体として、国民の期待に応える結果を出しているんではないか。そういう自負は持っているつもりなんです。
【鳥居委員】今回の御説明は司法制度改革との関連部分に焦点を絞られたので、私の質問は若干それるかもしれないんですが、約23万人の警察官というのは、医者の数とほぼ同じなんです。私の印象では、少ないという印象なんです。その23万人について、これはもっと増やすべきであるというお考えがあるのかないのかというのが質問の第1です。
第2番目は、警察官の社会的地位と経済的な処遇は、私は決して高くないと思うんです。これは私、うろ覚えなんで、正確な資料が思い出せないんですが、教育関係の審議会であるアンケート調査を見たときに、警察官と監獄の看守の方々の意識調査をしたのを見まして、自分たちは偏差値教育の落ちこぼれだという答えが非常に多かったのを覚えているんです。それは私は日本の社会の現実なんじゃないかと思うんです。これは本気で直さないといけない問題だ。つまり、警察官の処遇とか、社会的地位を高める、そういう社会改革をやらないといけないと思うんですけれども、これは外国との比較研究のようなものはないんでしょうか。ロンドンの警察官と日本の警察官の意識調査とか、何かないものでしょうか。
とにかく、そういう問題をどんなふうに考えておられるかをちょっと聞かしていただければと思います。
【佐藤次長】まず第1の問題でありますけれども、これは昨年、警察刷新会議という会議が開かれまして、大変精力的な御審議をいただいたわけでありますけれども、その審議員の方からも色々厳しい御指摘をいただく一方で、先生おっしゃったような御提言もありまして、それを受けて従前は警察官の増員というものは要求すらいたし兼ねる状況であったのでありますが、来年度予算で増員要求をすることができまして、行政内部ではそれが査定されました。それを含めた予算案が昨日確定をした。あとはそれぞれの都道府県の条例でこれを計上をしていかなければいけませんので、多分そのとおり条例で定めていただけると思います。
この増員は引き続き翌年度以降もやっていきたいというのが私どもの希望であります。2,580人です。
これはニューヨークで非常に犯罪が増えました折りに、当時の市長が勇断をふるったというお話がございまして、町をきれいにする。小さい事件でも全部つかまえるんだ。そのために警察官を増やすんだということをやられて、今は非常にクリーンになっているというお話を伺うんでありますけれども、1つの方法として、そういうことも私どもも考えていきたい。
意識調査については、多分比較はないと思います。ただ、最近は、県によっても大きくばらつきがございますが、都会地の警察の場合でありましても、男子の警察官でも、20倍前後の倍率が確保できておりますし、女性警察官の場合には、これは大変変動が激しいんですけれども、一時は70倍という時期もございましたし、相当の倍率が確保されているというところから考えましたときに、その処遇の面に関しましても、あるいはそういう職業のありように関する意見につきましても、それなりの評価が若い人たちから得られているのかなと。就職難の問題も一方でございますから、わかりませんけれども、そういうようには思っております。なお、そういう比較をやってみてはどうかという御提言として受け止めさせていただきたいと思います。
【水原委員】せっかくの機会でございますので、私からも2、3お教えいただきたいと思います。
先ほど中坊委員の質問で、代用監獄のことに触れられました。しかし、代用監獄問題というのは、今、次長がお考えになられておるようなこととは違って、警察で留置できるのは48時間だけ、検察官の勾留の間は代用監獄に置くのはよくないんじゃないかという考え方で言われておるわけでございます。
そうしますと、先ほど次長がるる被疑者の取調べの重要性、これを述べられました。私は聞いていて感動いたしました。私自身が現に取調べをしてきたわけでございまして、まさに琴線に触れる取調べをするための時間的な問題だとか、色々な説得の仕方があるわけでございまして、それには相当な時間が必要なわけです。それをやらないと、外形事実だけで有罪が認定できるような犯罪ならばそれでよろしいけれども、先ほど次長が御説明されました最近の犯罪情勢を見ますと、外国人犯罪、殊にその犯罪は共犯者がたくさんいる。首領を検挙するには非常に難しいものがある。これはいずれも実行行為者からの突き上げ、自白がなければ真相というものは明らかにならないと思うんです。
そういうことをほうっておいて、そして治安維持の責任を果たすことができるかと言いますと、私としては、それはとてもじゃないけれども、できないことだろうという気がいたします。
そうしますと、少なくとも20日間の勾留期間、この間は警察の代用監獄に置いて被疑者を調べる必要があるのではなかろうかと私は思うんですが、その点についてまずお考えをお教えいただきたいと思います。
【佐藤次長】その点について全く私どもとしても、異論を持つわけではないんでありますけれども、現実の勾留期間中の捜査は取調べだけではございませんでして、これは証拠との関係で調べていくということが非常に多い。あるいは引き当たり捜査と言いまして、署外へ出して現場等に行かせて、実況見分を併せてやるということ。
あるいは、目撃者等の参考人に本人を見せる等の活動と取調べが立体的に、ないしはアトランダムに絡んで行われるということからいたしますと、大半の被疑者が拘置所に行くということになりますと、行き帰りだけで相当な時間を費してしまうということだとか、今言った参考人、あるいは現場へ入れていくということを勘案しますと、相当な負担であろうと思いますし、現下の体制、あるいはそういう手続規定からいたしますと、私どもは治安維持の責任を放棄するという結果になるのではないかという危惧を抱かざるを得ない。
【水原委員】私は全く同感でございます。先ほど代用監獄の移監をしなければいけない身柄について、移監受け入れ先が満杯だからという、これは大変問題だと私も思います。しかしながら、警察で取調べだけじゃなくて、証拠収集のための被疑者を留置しておいて調べなければ真相を明らかにできない、真相を解明することができない。そういう趣旨においては、私は代用監獄というものは、現下の法制度においては必要じゃないかと思いますが、それでよろしゅうございますか。
【佐藤次長】私はそう考えております。
【水原委員】もう一つは、先ほどの送致をするに際しての待ち時間の問題でございますけれども、先ほど次長もお触れになりましたが、だんだん裁判所の事実認定について緻密化が進みまして、そうなりますと、検察官、警察官の証拠収集もだんだん緻密にならざるを得なくなる。そうなりますと、警察で捜査をやられて、検察庁に送ろうと思って相談したときに、これでは証拠が足りないねという場合も多く出てくるのではなかろうかという気がいたします。
【佐藤次長】そういうケースが主流でございます。そういう事件を抱えておられる、複数の事件を抱えておられるという方も多いわけですから、そういたしますと、そこへまた新たに厄介な事件を送致するとなると、ちょっと待てと、これはそうなるのは私ども十分理解できますし、そうならざるを得ないということだろうと思います。
【水原委員】その問題の最大要因は人員の問題だと思いますが、それ以外に質の問題もあって、色々と検討しなければいけないなという気はいたしますが、この点はいかがですか。
【佐藤次長】確かに精密司法と言われるようになって久しいのでありますけれども、私どもも調べたことがあるんですが、20年前と比較しまして、侵入窃盗事件の1つの事件、余罪を抜きまして、1つの事件に要します作成書類の枚数が3.4 倍になっているんです。これは供述調書もありますし、被害調書もありますし、あるいは実況見分調書の問題もありますけれども、一切合財を含めてなんであります。これがすべてを語っているわけではございませんけれども、それに表れますように、非常に精密というか、濃密と言っていいほどの資料を要求される事件が多くなっている。普通の事件は勿論そういうことはないんですけれども、一般的にそうなってきているということがあるだろうと思います。その結果、1つの事件に物すごく時間が掛かる。警察も掛かるけれども、検察官も掛かるということになっておりましょうし、起訴にも非常に慎重になる。したがって、それに必要な補充捜査の期間が更に掛かるというようなことになっているのではないかと推測しております。
【水原委員】それに関連してもう一点だけ申し上げます。
先ほど国民の司法参加との関係で中坊委員からお尋ねがございましたが、これは私は国民が裁判員という形で司法参加をしますと、裁判員に納得させるためには、今のような犯意、動機、それから情状、犯行態様等について緻密な認定をする裁判形態の下において、その裁判員に納得してもらうためには、更に緻密な捜査が警察に求められるような気がいたしますが、どうお考えですか。
【佐藤次長】もしそうなるとすれば、大変なことだと思いますけれども、否認事件の場合は、証拠全体から心証を取っていただきたいというのが私どもの切なる願いでありまして、それは大変勇気の要る判断なんだろうと思うんです。そういう判断をされる方の立場に立ちました場合にですね。したがって、そういう方向に進んでいっていただくことを乞い願うのみです。
【佐藤会長】ちょっと気づかなかったんですが、髙木委員どうぞ。
【髙木委員】4、5点お尋ねというか、御意見をお聞きしたいんですが、つい最近、私どもの仲間が調べられまして、出てきましたらすぐ自殺したんです。こういうようなケースはたまにあるようにお聞きしますが、取調べを受けて、理由があるから取調べを受けたんだろうと思いますが、そういう状況で自殺をしたようなケースを警察として取調べの内容とか、自殺との因果関係だとか、そういうお立場でフォローされたことがございますか。
【佐藤次長】一般的にですか。
【髙木委員】一般的というより、皆さんが調べられた人が帰ってきて、死に方は色々ですけれども、自殺をしたというようなケースについて、何故自殺にまで至ったのか、その辺を調べられたことがありますか。つい最近、私の知人が警察で調べを受けた直後に自殺したものですから。
【佐藤次長】勿論そういうケースが起きました場合には、取調べないしはその他の捜査との関わりがあるのではないだろうかという問題が生じますから、そういう観点での調査といいますか、そういうものは行うだろうと思います。
ただ、色々な事件によって違いますし、ケースによって違いますし、それから、全く別の動機であったということも過去の例でも少なくありませんので、概してどうということにはまいりませんけれども、それはそういう状況は調査はいたします。
【髙木委員】それは調べられるわけ。
【佐藤次長】それはそれぞれの県警察において行うべきものであります。
【髙木委員】そういったお話とも絡むのかもしれませんが、一生懸命捜査されて、検察に送られ、検察官が起訴し、実際に法廷で裁判が行われている最中に真犯人が出てきた例、こういうのは非常に稀有な例かもしれませんが。
【佐藤次長】それはあります。
【髙木委員】宇和島の例などで、こういう、言わば結果的にとしか言いようがないかもしれませんが、誤った捜査、誤った起訴ということになる、こういうケースについて捜査をされるお立場で、お調べになられた刑事さんなりを処分しろとまで言うつもりはないんですが、ただ、そういうことがそうあってもらっては困る話ですから、その辺の御指導なり、どういうことを通常されるんでしょうか。
【佐藤次長】それは、無罪の判決が出た場合には、一応適正な捜査が行われたか、あるいは有効な立証が行われたのかという観点から、私どもは一般的にそれは調べることが多いわけでありますけれども、まして、そういう真犯人が登場した結果、無罪が生じたという場合は、判断の誤りというのがどこかであったわけですから、それはそれで理由を内部的にはただして、そしてほかの捜査の教訓にさせるということをやっております。
これは、ほかのケースで言うのは何ですが、私自身も、自分が指揮官としてやった事件で、真犯人が出てきた捜査がありまして、これは勾留期間中に別の警察署で逮捕された被疑者が、何の申し向けもないままに、その事件について自供したということで、そちらが真犯人だったというのがわかったケースが以前あったんです。それを調べてみましたとき、自分がやっていますからわかるわけですが、3人の目撃者がおりまして、時間も場所も違っているわけでありますけれども、この目撃者が1人だと危ないというのは鉄則でありますけれども、もう何十枚もの写真からそれを引くとか、それから、そのほかの所在調査をする。あるいは被害者のところにその前夜その本人が行っているとか、そういう状況がございまして、そして裁判官のところに御説明して、これは相当の理由があるということで逮捕状をいただいて調べたけれども自供をしない、おかしいぞということで、別の調査をやるべきではないかという議論をしている最中に起きてきたということがあるわけです。
したがって、明らかな誤りである場合もありましょうし、あるいはやはり疑うに足りる理由は一応はあるという場合もあります。ですから、それは千差万別のところがあると思いますけれども、しかし、結果としてそうだということはどこかに間違いがあったということは間違いないわけです。
【髙木委員】実際、犯罪を犯していない者が長い間拘束され、色々な目に遭うわけですから。
【佐藤次長】そういうことはめったにありませんけれども、それはなくはありません。
【髙木委員】先ほどの御説明ですと、色々捜査のやり方を直せと言われるけれども、基本的な枠組を変えないで、部分的に捜査の関係だけ直せと言われてもかなわぬという御説明がございましたが、そのこととの関係で、この審議会でも、自白調書の任意性だとか、信用性の問題によって、裁判で色々長い審理になることもあるといったこととの関係で、捜査段階の可視化の議論が行われています。
例えば、イギリスの録音、録画の例なども紹介されたりしておりますが、警察庁として、例えば、イギリスの仕組みなどをお調べになられたりしておられたとしたら、どんな評価をされておるのか。
【佐藤次長】私は外国の制度を本当に理解するというのは非常に難しくて、刑罰法令だけ見てもだめでして、警察の組織あるいは検察庁の組織、裁判組織、そういったそれぞれの相互の関係、それから、全然法廷には出てこない運用上の決まりみたいなものがあったりして、なかなか分かりづらいんですが、例えば、イギリスの場合には、警察署長が公訴の提起をすることはできるとか、最近はどういう運用になっているのかわかりませんけれども、少なくとも10年ぐらい前まではそういうことがあったようでありますし、ちょっと日本とは根本的に制度が違っているということらしいんですね。
それから、最近は、他方で、正面からではありませんけれども、黙秘をした場合に、当然供述をしないというときに、どういう書き方だったかわかりませんけれども、俗に黙秘権の修正みたいなことが制度上行われたと聞いております。一方でそういう問題も出てきているということから、そういうもろもろを勘案しないで、1つの運用についてどうかと言われましても、これはちょっと意見を申しようがないとしか申しようがない。
【髙木委員】余りここで佐藤さん相手に詰めた話をしてもいいのかどうかと思いますが、時には警察の調べの中でビデオを撮られたり、録音されたりする例もままおありになると聞いています。だから、私自身は被疑者の方が取調べの過程で撮ってくれという意思表示をしたら、後々もめないために撮ってあげたらいいんじゃないかなと思っています。ただ、捜査のやり方が違うとかだけで可視化の論議に消極的な態度をとるのはいかがなものでしょうか。そういうことも含めまして、これはお答えくださいといっても前向きに答えていただけないでしょうから、お答えをいただかなくても結構ですが。
それから、最後に、今の代用監獄の議論についての水原さんとのやり取りを聞いておりまして、警察庁として代用監獄という意味をどう定義されておるのか、今のお二人のやり取りを聞いておりましたら、代用監獄があることについては、それはそれでいいんだというふうに聞こえるわけですね。これも国の制度や監獄の種類が違うからという論に行くのかどうかよくわかりませんが、国際的には少なくとも代用監獄について色々な意見もありますし、現に、例えば、アムネスティ・インターナショナル・ジャパンの皆さんから、意見書などをいただきましたのを見ていましても、被疑者の人権等の観点もあると思うのですが、物理的に今は行き先である拘置所のほうがいっぱいだからという意味はそれはそれで別途の問題だとしますけれども、そういう施設的な問題がクリアーされたという想定で、代用監獄と言われる今のような運用を行うことは、私は本質的には問題だと思っています。それが証拠やら何やら補充するために泊めておかなければいけないと言われる。それなのに、検察庁での調べに移ると拘置所に連れていかれるケースも多くあるという話も聞きますから、その辺、今の水原さんとのやり取りも含めまして、どういうお考えなのか、お聴かせいただきたいと思います。
【佐藤次長】今の制度は、警察の留置場を監獄に代用することを得という法律の規定がありまして、その法律の制度として運用されているわけでありますから、それは基本的には制度問題だと思います。
ただ、現実の問題といたしまして、圧倒的に多数の被疑者というのは、警察で捜査しているわけです。これを現実に拘置所に入れることが仮にできるといたしました場合に、取調室がそれだけ整備され、それだけの車を用意されて、そして弁護人の接見室がそれだけの数が用意されて、しかも現場の捜査との関わりにおいて、あちこちにつくられるということならば、制度を変えて改めて行くということはそれはあるのかもしれません。しかし、そういうことを抜きにして、それはそれで制度としてどうなのかという議論は、我々実務家としては、それはなかなか議論いたしかねるということなんだろうと思います。
【髙木委員】施設的な設備などの問題が仮にないとして、理念的にどう思われますか。
【佐藤次長】それは制度の根っこから、日本の統治機構をどう変えるのかと、そして、その中の治安維持、あるいは犯罪の捜査というものの機関、手続の在り方を全体としてどう考えるかという議論をする過程で、代用監獄問題をどう整理すべきかということは、議論としてあり得るかと思いますけれども、そうでないならば、私どもはそういう議論はなかなか致し兼ねるということだと思います。
【髙木委員】今の答弁は私は色々な議論があるところだと思います。
【佐藤次長】御意見は色々あると思います。
【髙木委員】もし、そういう議論で今の代用監獄制度が正当化されるなら、それは私は間違いだと思います。それは扱い方の問題もありますし、この問題は20日間とか23日間にも関わる話だろうとは思いますけれども、国連の人権規約委員会の勧告の中でも問題だと指摘されています。これだけ代用監獄問題について色々な批判があるわけですから。
【佐藤会長】佐藤次長には長くても1時間半弱くらいと申しておりましたが、既に2時間になんなんとしております。吉岡委員、最後になりましたけれども。
【吉岡委員】いつも時間切れになってしまうんですけれども、できるだけ短くいたします。今、髙木委員の言われた代用監獄の問題は、国際的な問題でもあるし、人権を考えなければいけない。そういう位置づけで考えたときに、代用監獄が正当化されるということに私は反対いたします。理由については、時間がないので申し上げません。
それから、時間が掛かる1つの理由として、要するに取調調書を非常に精密に書こうとなさる。それが真実解明のためには必要だということをおっしゃっているわけですけれど、精密にすぎないかという問題が1つ。
それから、先ほど中坊委員が自白の問題をおっしゃいましたけれども、初めから犯罪者と決めて掛かって、自白をさせる。だから、自白をするまで拘束してしまうということにつながっていないか。そこのところは反省していただきたい点です。
東京の公聴会でも疑いを掛けられて留置されたが実は無罪だったという方が20日以上とどめられたという事例が報告されております。後から別の犯人が出ていることは周知のとおりです。
そういう場合に、長期間拘束されたということがその人の人生にとってどれだけ大きな影響を与えるか、そういうことも考えなければいけないと思います。
佐藤次長がおっしゃった、確かに被疑者の真実の声を聞き出す、そのためには人とのつながりとか、人間関係をつくっていかなければできないということは水原委員も何回もおっしゃっているので、確かにそういう面はあるのだろうと思いますが、やはり一方的な思い込みによって、自白を誘導させるような事例がないわけではない。その辺のところをお考えいただく必要があるのではないかと思います。
それから裁判員制度の導入があるから詳細な調書をつくる必要があると水原委員がおっしゃいましたけれども。
【水原委員】調書をつくるのではなくて、取調べを詳細にするということです。
【吉岡委員】そうですか。訂正します。
ただし、詳細な調書をつくっていくということは、膨大な資料になると思います。その膨大な資料を素人である裁判員がどこまで読み切れるのかという、そういう問題も含めて、むしろ素人の裁判員が関わってもわかりやすいような工夫を考えていく必要がある。だから、従来のやり方にとらわれることはないのではないか、そういう中でどうやって真実を発見していくのかということを考えていただきたい。
もう一つは、取調べの可視化の問題、これも触れられていますから、くどくは言いませんが、やはり透明な取調べがされるためには可視化ということを考える必要があると思います。
それから、外国人犯罪が多い、少年犯罪が多い、これは確かに社会面をにぎわしておりますし、それが事実だと思います。そういうことから反対も随分ありましたけれども、少年法の改正がされるなど、法的な措置がされています。ただ、年齢を下げたことが本当に子供の犯罪をなくしていくということにどれだけ役に立つのか、この辺のところは疑問もあります。むしろ教育の面、あるいは家庭の面、そういうことを考えながらやっていかなければいけないと思います。一方、法的な措置によって是正していく、そういう面もあると思います。
例えばカードの偽造犯罪、これが非常に多いのですけれど、偽造したカードを持っているだけでは犯罪にならない、つかまえることもできないという状況だったのが、法律が変わって犯罪としてつかまえることが可能になってきたと聞いております。
そういう面では法律を変えるということも必要でしょうし、もう少しつくりやすくないと言いますか、磁気式テープの場合はつくりやすいわけですけれども、それをICチップに変えるとかいうことをすれば偽造はしにくくなります。そういう工夫も一方ではしていく必要があると思います。
これは司法制度改革とは離れた問題ですけれども、せっかく警察庁からお越しいただいたので、そういう対策も考えながら、犯罪の予防の面も是非御協力いただきたいということをお願いいたします。
【佐藤次長】お答えできる部分についてだけ。
順序は逆になりますけれども、まず少年事件の問題でありますけれども、おっしゃるとおりだと思います。犯罪というものは国家、あるいは社会の在り方そのものに起因しているところがあるんだろうと思うんです。それを構成しているのはあくまでも人ですし、少年が大人になっていくということですので、少年問題というのは、人的に見ましても、治安という面から見ましても、大変重要だと思っています。
少年事件を検挙いたしますと、補導の場合もありますし、検察官に送致する場合もありますけれども、そうした後どうしているかと言いますと、矯正施設のほうに送られましても、必ずまた戻ってくるわけですが、そういう少年を事件で捜査をした搜査員は、アフターケアをしているわけです。その子たちは、精神的に孤独なわけです。ですから、自分のことを真剣に思ってくれているのはだれかという具合に常に探している。そういう少年たちの実相があるわけですが、そこで彼らは土日を使って、子どもたちを集めて一緒にハイキングに行ったり、バンド演奏をやったりして、触れ合って、ずっと面倒を見ているわけです。
つまり、捜査と教育は渾然一体となって、警察署の少年係というのは活動しているんです。ですから、それは絶対数としては非常に少ないので、大きな力になり切れていない側面はありますけれども、今おっしゃったような観点に立って、我々もやっていきたいと思っています。
2つ目は、調書の精密性の問題でありますけれども、これは原因はどちらにあるのかという議論はあろうかと思いますけれども、以前はそうでなかったところから見ますと、私らの推測は、やはり裁判の緻密化、精密化というところから、検察官の判断が非常に慎重にならざるを得ないという問題が生じ、また、検察官が公判廷に出す検察官調書というものを作成するに当たっての資料としての警察の調書というものもまた、詳細なものにならざるを得ないという流れではなかろうかと感ずるわけです。
したがって、警察でわざわざ細かく、たくさんの書類をつくりたくてつくっていることではないので、先ほど申し上げましたことが正鵠を得ているかどうかは別にいたしまして、私どもがつくっているということではないことだけは申し上げておきたいと思います。
【佐藤会長】まだ他にも色々おありだと思いますけれども、時間も大幅に超過してしまいました。佐藤次長には御迷惑をお掛けしましたが、貴重なお話、どうもありがとうございました。
【佐藤次長】報告が長くて申し訳ございませんでした。
【佐藤会長】以上でヒアリングを終わりたいと思います。どうもありがとうございました。 休憩を入れなければいけない時間だと思います。休憩して、45分に再開いたします。
【佐藤会長】再開させていただきます。
これから、「国民の期待に応える刑事司法の在り方」についての意見交換ということでありますが、最初に議事の進め方について少し御相談したいと思います。
この問題につきましては、本日と4月10日の第55回会議において、審議を行うという予定であります。審議に当たっては、中間報告を踏まえるとともに、刑事裁判については、裁判員制度を導入するということで皆様の御了解を得たこともありますので、そうしたこととの関連で更に内容を詰めなくてはならないということでございます。
代理と相談しまして、中心的に意見交換を行っていただきたい点をとりまとめ、審議用のレジュメをつくらせていただきました。本日お手元にお配りしております。
本日は、この裁判員制度の導入との関係での、刑事裁判の充実、迅速化を図るための具体的な方策の在り方、これを中心に意見交換をしていただければと思っております。
次回の55回会議では、残りの公的弁護制度と新たな時代に対応し得る捜査・公判手続についての意見交換をしていただきたいと思っております。
さらに、国民の司法参加の中で残された課題の1つでもあり、刑事司法でも取り上げられていた検察審査会制度の在り方について、次回に意見交換をしていただければと考えている次第です。
こんな形で進めていきたいと思いますけれども、これらの事項は相互に密接に関連し合っております。ここで掲げた事項・順番に限定してというわけでは決してありません。ただ、できるだけこれらの事項・順番を中心に意見交換を進めていきたいと思っているだけです。
なお、本日の意見交換用に新たに法曹三者から資料を提出していただいております。これらの資料も御参考にして、意見交換をしていただければと思います。
これらの資料については、御質問等がありましたら、本日も御質問にお答えしていただける方にお見えいただいております。適宜御質問いただければと思います。
それでは、刑事裁判の充実・迅速化について、裁判員制度の導入との関係で具体的にどういう方策が考えられるのか、御意見をいただきたいと思います。お手元に「裁判員制度導入の現行刑事訴訟手続への影響」という1枚紙が審議用レジュメのほかにあると思います。恐縮ですが井上委員、この点について簡単に御説明いただけますでしょうか。
【井上委員】前回も司法参加について、たたき台の御説明をさせていただきましたので、その延長ということで説明させていただきますと、この一枚紙はそこで御説明したことをチャートのようなものにしたものですけれども、事務局のほうで準備していただきました。見ていただきますと、左の枠で囲んでチャートになっているのが現行の刑事手続の通常の流れであります。その右に書いてありますのが、この前御報告しました中でも触れました、裁判員制度、あるいは司法参加制度というものを導入した場合に工夫をしなければならない、あるいは、少なくとも検討の必要があるとか、余地があるのではないかと思われる事項のうち主要なものを書き出したものです。
ここでの関係では、一番核になるのが右の菱形の4番目で、これは国民の司法参加についてのたたき台の補足説明の中で、裁判員が関与する以上、公判は可能な限り連日、継続して開廷し、真の争点に集中した充実した審理が行われるということが何よりも必要であるというふうに申し上げた、その部分です。
そういうことを実現するためには、しかし、それに先だって、その2つ上の公判準備のところで、連日開廷を前提にした審理計画を策定する必要があるだろう。そのためには、適切な証拠開示というものに基づいて争点整理をきちっとやる。そして、その争点整理に基づいて審理計画を立てて、それに応じた公判期日の指定、これも連日的な開廷ということを原則にすれば、一括してここから始めて、終わるまでずっとやるということを原則にせざるを得ないのではないか。そういうことを具体的にどういう形で整備していけばいいのかということが、そこでの主要な問題になろうかと思います。
1つ飛びまして、裁判員にわかりやすく無駄のない公判審理。充実し迅速な公判審理ということと同時に、裁判員が実質的、主体的に審理に関与できて、裁判内容の決定にも関与できるというためには、裁判員にわかりやすい審理でなければならない。そういうことから来る要請で、そこに挙げてありますように、一番最初は双方の主張の早期の明確化、これは争点整理と連動している部分であります。
2番目は、証拠請求の時期。これは当事者双方、最初は原告である検察官が犯罪事実等の立証をするわけですけれども、それを証拠によって証明していくために、個々のどういう証拠を取り調べてほしいというふうに請求するのを、どの段階でやるのか。その下の証拠能力に関する判断ということとも結び付いておりまして、例えば供述、特に自白の任意性とか、証拠が得られる過程の手続の違法性ということが証拠能力に影響すると考えられていますので、そこのところが争いになると、それについて事実調べをしないといけない。証拠調べをしないといけないのですが、それを公判の審理が進んでいる最中にやって果たしていいものかどうか。
1つの考え方としては、公判に先立ってそういうものはすべて判断してしまって、こういう証拠は使えます、この証拠に基づいて審理をしましょうというふうに計画を立ててやっていく。そういうのも1つの考え方なんですけれども、ただ、そうは言っても、そういうことが本当に可能なのかどうか。また、例外的な場合も考えないといけないのではないかということが1つの問題だろう。
もう一つは、括弧の中に書いてあることが現実にはかなり深刻な問題でして、例えば精神鑑定を始めとする鑑定というものについては、現在では、主として、公判の途中で問題になってきて、裁判所が鑑定人を選んで鑑定命令を出して、鑑定してもらうというのが普通なのですけれども、例えば精神鑑定などですと、数か月、場合によっては1年くらい掛かることがある。これは病院に入院させて行動観察をしたり色々な検査をやらないといけないからです。審理がずっと続いている間にそういうことが入りますと、その間審理が中断してしまう可能性がある。そういうことでいいのかどうか。そうなると、こういうことも前倒しにやっていかないといけないのではないか。こういうところが、実際的にはかなり大きな問題になるだろうと思われるわけです。
また、証拠能力に関する立証・判断方法。そういう問題を裁判員がそこまで担当するのかどうかということとも関連しているのですけれども、それは法律家である裁判官だけで公判前でやるという場合と、裁判員が選ばれた後、公判の途中でやるという場合で、違ってくるかもしれない。そういう立証・判断方法をどうすればいいのかということがありますし、また証人尋問につきましても、現在のやり方については評価が分かれるのですけれども、比較的時間を掛けて尋問をする。しかも、反対尋問につきましては、主尋問が行われるその期日にやるというよりは、その結果を待って検討し、供述調書等とも照らし合わせた上で、反対尋問は別の期日にやるというやり方が比較的多いのじゃないかと思うのですが、公判を集中して継続してやるということになれば、そういうことはできなくなる。また、丁寧にやるために、質問が重複したり、あるいはどこまで関連性があるかどうかわからないものも、それほど厳しく制限しないというのが現在の運用だろうと思うのですけれども、そういうことも考え直していかないといけないかもしれない。そういうことがここでは中心になるだろうと思われます。
それに関連して、裁判員の質問権ですが、これはこの前、主体的、実質的な関与を担保するために質問をする権限等、適当な権限を与えるべきだというふうに申していたことの具体化でして、この質問権をどのような形で行使してもらうのがよいのかという問題です。
最後の書証の取り調べについては、書証をどの程度、どういうふうに取り調べるのが適当なのか。書証にどれだけ依存すべきなのかという問題が大前提としてあるわけですけれども、書証を全く排除してしまうということは現実的でないかもしれない。そうなりますと、書証について、どういう取り調べの仕方をすればよいのか。さっきちょっと御議論に出ましたけれども、非常に分厚い調書をたくさん公判廷で全部読み上げるということは難しいかもしれない。現在の刑事訴訟法でも、原則は全部朗読ということになっていて、場合によっては要旨の告知で代えるというのが法の建前なんですけれども、その辺の工夫が必要となるかもしれない。
それと連動しまして、上のほうに点々でさかのぼって捜査の部分まで矢印で行っているところですけれども、今申した問題は、さかのぼれば、調書等の証拠書類の作成の仕方にも影響してくるのではないかということで、そのような形で示しております。
また、以上のような無駄のない公判審理ということを可能にしていくためには、弁護人の専従体制を含む、それを支える人的な体制を整備しないといけないという問題が出てくるだろうということで、その次の菱形になっているわけです。
今日予定されている審議との関連では、そういうところが主として問題になろうかと思われます。
【佐藤会長】どうもありがとうございました。
構造的な問題の所在について、事務局につくっていただいたペーパーに基づき、井上委員から御説明いただきました。
審議用レジュメの「1.刑事裁判の充実・迅速化」ということを中心にということになりますけれども、どの点からでもよろしゅうございますが、御発言いただければと思います。
【水原委員】刑事裁判の充実・迅速化の問題でございますけれども、今まで迅速でなかった。長期化されておった、その原因は今までも議論が尽くされていると思います。何点か挙げられます。
その1つが、弁護人が集中審理に対応できるような業務体制が整備されていないということ。
2番目は、審理に先立つ争点整理が不十分である。
3番目は、裁判所の訴訟指揮が不十分である。
五月雨式の期日指定の運用であったためにどんどん長期化している。
先ほど井上委員からも指摘がありましたが、鑑定だとか弁護側立証の準備、弁護人の解任など、長期中断理由の存在があったということだと思うんです。
しかしながら、我々がここで議論しまして、大方の意見の一致を見ました裁判員が参加する裁判となりますと、当然集中審理が不可欠でございます。これは裁判員に対する負担の軽減を考えなければいけないのが第一でございますが、第2には、新鮮な記憶を保った状態で審理・評決してもらわなければいけないとなりますと、証人調べをした後何か月も先で結審をして評決をするということでは、とてもじゃないけれども、充実した審理にはならないでしょう。
その方策としてどういうことがあるかということでございますけれども、現状では、第1回公判期日前の争点整理手続には、これは基本的に検察官と弁護人との任意の協力によって争点整理が行われている。これはあくまでも任意にやっていて、協力を期待されているだけでございまして、法律上何らの規定がない、強制的なものがありません。
それから、裁判所はそれに介入していくかというと、予断排除というのがありますので、第1回公判前は積極的な関与ができない。第1回公判期日後は、裁判所の訴訟指揮によって争点整理を行うことが可能でありますけれども、それを実効あらしめるための担保が法律上何もなされていないということ。
それから、検察官の立証の様子を見て、これに合わせて反証計画を立てるほうが得策だという考え方が被告人、弁護側のほうにもあるように思います。そこで明確な認否や争点整理がなされておらないまま審理が進められる場合が多く見られるということでございます。
では、どうしたならばいいかということでございますけれども、充実した集中審理を実現するたには、実質的な審理に入る前に、争点を整理して、審理計画を立てる必要がございます。そのために公判準備手続を拡充すべきでありましょう。
その際には次に申し上げるような色々な点を留意しなければならないと思うんですけれども、少なくとも被告人、弁護人に公訴事実の認否、及び争点明示を義務づける必要があるんじゃないか。これはほかの法制においても争点をはっきりさせろ。イギリスでもそうでございますが、争点を明らかにしないまま審理に入った場合には不利に扱われても仕方がないということを去年視察に行ったときに伺ってまいりましたが、そういうことになっております。
そういうことをやらせるためには、結局、準備手続の主宰者がはっきりと決まる必要があるだろうなという気がいたします。
準備手続を主宰するのは、第1回公判期日前と後では違って考えるべきかどうかということが1つ問題はございますけれども、私はやはり受訴裁判所、公判を審理・担当する裁判所が第1回公判期日前でもこういう準備手続を主宰してもよろしいのではないかという気がいたします。これは問題がございます。
準備手続の内容でございますけれども、これは幾つかございます。1つは、第1回公判期日前の争点整理、これは先ほども申しましたけれども、被告人、弁護人の公訴事実の認否、争点明示をどういう形で義務づけるかは別といたしまして、やはり第1回公判期日前の準備手続ではっきりと明示させるということが必要でなかろうかという気がいたします。
ついで、立証計画をどういうふうにやるのかというのを検察官と弁護人に示させる。
それから、スケジュールの決定。
争点以外の立証の簡略化。
それから、証拠開示。なお、証拠開示の在り方につきましては、色々な問題がございます。争点整理の手続の中で証拠の類型に応じて開示の時期を定め、争いが生じた場合には裁判官が開示の要否を判断していく。勧告等の措置を取り得る仕組みも検討に値すると思います。
なお、証拠開示の問題につきましては、全面開示なのか、それともそうでないのかという問題がございますが、諸外国の例を見ましても、全面開示というのはございません。そこで、実情を言いますと、実情は公訴事実の立証に必要不可欠である証拠調べ、取調請求予定の証拠については、事前に検察官が今でも開示いたしております。
それ以外の証拠につきましても、現状は、昭和44年の最高裁判所の判例の趣旨、それから検察官が公益の代表者であるという立場から、被告人に有利なもの、検察官に不利なものであっても、請求に応じて提出しておるということでございますけれども、そういう意味でほとんど問題は生じておりませんけれども、時に現行法の枠を超えて証拠開示を要求する方がいるわけで、そのときに紛糾するわけでございます。
ほとんどの場合は問題がないという現状を、我々は認識しておかなければいけないなという気がいたします。
開示を拡張した場合に考えられるメリットとデメリットの問題でございますけれども、これは開示の範囲、時期についてのルールを明確化させる必要があるということでございます。
もう一つは、証拠開示とセットにして、争点整理の実効化のための措置が導入されるべきだと思います。そういう場合には、裁判の充実・迅速化が図られるのではないかと思います。
デメリットとしては、争点整理のための措置とは関係のない証拠についての開示や、単に現行法の範囲を超える証拠開示制度を設けた場合には、裁判の遅延の原因になります。関係のない証拠を開示いたしますと、それを使って片言隻句にけちを付けて、だらだらと訴訟を延ばす。こういうことになりますと、裁判員が関与してくる迅速な裁判の実現を極めて阻害することになるのではないかという気がいたします。
それから、記録の中には色々な記録がございます。本件に関係のない記録もたくさんございます。
それから、先ほど来取り調べのところで色々な問題がありましたけれども、共犯者関係の記録、これなどもそう簡単に開示をしていいのかという問題がありますし、暴力団による恐喝事件や強姦事件の被害者の調書、組織犯罪等につきましての被害者の調書だとか、それから、共犯者の供述調書を時期を考えずにオープンにしていいのかどうかという問題もございますので、それらのことも考えながら、裁判の迅速・充実のためにどうしたらいいだろうかという観点から開示を考えるべきだと考えております。
【佐藤会長】どうもありがとうございました。全般にわたる水原委員のお考えを開陳していただきました。
【井上委員】ちょっと言い忘れたことがありますので、腰を折るようで悪いのですけれども、追加させてください。1つは、公判準備手続の時期の問題ですが、これは弁護士会のペーパーにも触れられていることなのですけれども、さっきの鑑定をいつやるのかということととも関連するのですが、いくら争点を整理しろ、集中して審理しろと言われても、準備ができない段階でそういうことを強要するというのは無理な話ですので、その準備のための期間をどの程度取らないといけないのか。それは争点整理の前なのか後なのか。その辺も絡めて準備手続の時期の設定というのは考慮を要する点だと思うのです。場合によっては、例えば鑑定に半年掛かる。その上、反対側がその鑑定はちょっとおかしいのじゃないかと言って再鑑定を請求してくれば、また半年掛かるということもあって、そういうことを考えますと、公判までの間にかなりの期間が開いても仕方がないということも生じるでしょう。
しかし、そのようにしてでも、裁判員が選任され、公判が開始したら、坂を転げるようにと言う人もいますけれども、本当に集中してやらないとうまくいかないということは確かです。
もう一点は、法曹三者のペーパーのいずれでも触れられているのですけれども、手続の色々なところを平易化しないといけない。証拠調べのやり方だけではなくて、例えば冒頭陳述、難しい言葉なのですが、主張を述べたり弁論をしたりというところも、法律家の仲間うちだけですといいかもしれない。この審議会での議論でも、ときどきそういった言葉が出てきて御迷惑を掛けますけれども、法廷に行けばもっとすごいものですから、そういうところも考えていかないといけない。
もう一つは、これは最高裁のペーパーに書いてあったと思うのですが、起訴の在り方のところも、影響がないとは言えない。例えば事件がたくさんあるのですけれども、被告人が同一人なので、併合して起訴をして、一緒の手続で審理をするということがあるわけですけれど、そうすると、混乱してしまうかもしれない。複数の被告人がいる場合もありまして、すべて別々にしろというのも難しいところがあるのですけれど、その辺にも影響が出てくるかもしれないので、そういう問題も含めて御検討いただきたいと思います。話の腰を折りまして申し訳ありませんでした。
【吉岡委員】質問していいですか。
【佐藤会長】はい、どうぞ。
【吉岡委員】法曹三者お見えだというお話だったんで、いただいた資料で趣旨のわからないところがありますので、質問いたします。
まず法務省の資料の1ページの下から3行目のところで、「法廷侮辱罪の創設を含む」ということが書いてございますけれども、この辺のところをどのように具体的にお考えなのか、伺えればと思います。
それから、最高裁の資料、これはページが書いていないのですが、1枚目の下2行ですが、「当事者の事前準備と争点整理を法律レベルで義務づけ」となっているんです。この法律レベルで義務付けというのどういうことなのか、黙秘権との関係はあるのかどうかということ。
それから、その下の行で「裁判所書記官がこれを主宰する」云々となっていますが、ここのところがどのような御趣旨なのか、お教えいただきたいと思います。
弁護士会の資料は非常に膨大なことがとても多いんですけれども、一番最後のページで図表化されているのがあります。その中で真ん中より上のところで「有罪答弁せず」というところから2つほど下のところで、「証拠能力を判断する手続(自白の任意性、違法収集証拠等)」となっていますが、これは何を意味しているのかということ。
それから、有罪・無罪の証拠調べ、ここのところは先ほど私が調書が膨大過ぎると問題ではないかということを申し上げたのですけれど、証拠調べのところで何か工夫を考えていらっしゃるかということを伺います。
とりあえずそれだけにしておきます。
【佐藤会長】それでは、法務省からお答えいただけますか。
【法務省(甲斐参事官)】私のほうから簡単に御説明をさせていただきます。
期日指定でございますとか、あるいは訴訟の中で色々紛議が生じたりしたときに、裁判所のほうで訴訟指揮権を行使されて、こうしてください、ああしてくださいと指揮をされるわけですけれども、現実にはそれになかなか従ってもらえない。そのままずるずる進行されるという場面がなきにしもあらずという状況でございます。実際に裁判員の方が入って裁判が進行するということになれば、そういったことで長引くということは厳に慎まなければならない話だろうと思います。
そういった意味で訴訟指揮権を実効あらしめるという意味で、その権限を強化するという必要があるんだろうと思います。
ただ、その中身につきましては、色々な場面が当然考えられるわけでございまして、それは例えば期日指定の在り方がどうであるのか、あるいは尋問の在り方に対して裁判所が指揮をしたときにどうなるのかなど、色々場面があって、それに対して訴訟指揮に従わなかった場合のサンクションをどうすべきかというものも色々考えられるんだろうと思います。
例えばその部分については、立証上の不利益を課すという方法も当然あるでしょうし、あるいは決めたことは形成力となるのかわかりませんけれども、もう決まったんだと。相手方の同意だとか何かではなくて、決めてしまう能力、権限があるというやり方もあるでしょう。
それから、ここに書いてあるのは法廷侮辱罪ということで、刑事的な制裁というものも含めて考えられるのではないかと思いましたので、特定の場面、あるいは特定の制裁の方法、あるいはそれを担保する措置というのは、色々組み合わせは考えられるでしょうけれども、こういったものを場面場面で考えていかなければいけないのではないかという趣旨でここを記載させていただきました。
【吉岡委員】御趣旨はわかりました。私が心配するのは、裁判長というんでしょう。裁判員ではなくて、裁判の実質的な訴訟指揮をするのは、3人いても真ん中に座っている人だと思うのですけれど、その場合に、その方の裁量とか権限、それで法廷侮辱罪だということになると、訴訟そのものが歪むのではないかという意味で、ちょっと危惧したものですから、御質問いたしました。
【中坊委員】それと同じ点は弁護士会のほうはどのような見解なんですか。そうしないとちょっとわかりにくい。今の法務省の見解はわかったけれども、今度は弁護士会からの見解もおっしゃってください。
【日弁連(四宮弁護士)】弁護士会も、争点整理とか審理計画を立てることは必要であるということは同じ認識でございます。ただ、それが一定の制裁を伴った形で強制される、法律上の義務とされるということについては消極的に考えております。
と申しますのは、刑事事件は民事事件と異なりまして、幾つかの特徴を持っているからです。
1つは、さっきちょっと吉岡委員からも出ましたが、被告人には黙秘権がある。そうすると、先ほど水原委員からお話があったような、認否を強制するというところまではなかなかいけないのではないかと思います。
また、刑事事件が民事事件と違うもう一つの点は、民事事件では主張したり証明したりする責任というものが、事件によって原告側と被告側とに分けられているわけです。ところが、原理として、刑事事件ではすべて検察官が主張したり、説明したりする責任を負っている。そうすると、おのずから、訴えた側の主張・立証に関する責任というものと、訴えられた側の責任というものは、本質的に違うのではないかと考えております。
ですので、一律に一定の法律によって、一律に制裁を設けて制度をつくるのではなくて、個々のケースに応じた実効ある争点整理、ないしは審理計画というものを立てていく必要があるだろうと思います。
具体的に申し上げれば、多くの事件では、今でもそうだと思いますけれども、多くの事件で被告人は具体的な主張をしますし、弁護側も証拠を検討した上で争点を明らかにしていると思います。
ですから、裁判員制度の下でも、ほとんどのケースでは、先ほど井上委員がお話しになった形で証拠開示に基づいた具体的な争点整理が行われていくであろうと思います。
ただ、例外的に一切しゃべらない、実際のケースでも弁護人とすらコミュニケーションを取らないという被告人もいないわけではありません。
そういう場合には、これは制裁をもって認否なり争点の提示というものを強制することはできないと思います。
この場合には、検察官のほうで、言わば法律の原則に戻って、有罪を証明するために必要な事実をすべて立証するという計画を立てる。それに応じて弁護側のほうでどう対応していくかということを検討する。このように個別に考えていかざるを得ないのではないかというふうに弁護士会は考えております。
【井上委員】その場合も、公判は連続し、継続して行うという原則は崩さないのですね。
【日弁連(四宮弁護士)】はい。
【井上委員】そうすると、場合によっては不利になるということがあってもしようがないということでしょうか。
【日弁連(四宮弁護士)】それは手続の運営としてはやむを得ないと思います。
【佐藤会長】今の点、よろしいですか。では、最高裁からお願いします。
【最高裁(合田課長)】刑事局第一課長の合田でございます。
私どものペーパーに関しまして、吉岡委員から御質問のございました点ですが、まず最初の当事者の事前準備と争点整理を法律レベルで義務づけるという点でございますが、この意味は、先ほど水原委員のお話にもございましたけれども、現在、事前準備等に関します規定は、刑事訴訟規則に若干の規定がございますけれども、これはあくまでも法律レベルでは当事者が任意にやっていただくということでございます。
ただ、先ほどからお話が出ておりますように、当事者主義の下で、集中的、かつ連続的に充実した審理を行っていくという以上は、やはりその前に争点整理と事前準備が行われて、審理計画が立てられるということが不可欠でございますので、それをまさに刑事訴訟規則ではなくて、刑事訴訟法と申しますか、法律レベルで、当事者主義の下で、当事者にそういう義務があるんだということを明文の形で書いていただく必要があるということでございます。
この点に関しまして、黙秘権との関係でお尋ねがございまして、ただいま日弁連の方からもお話がございましたけれども、私どもは基本的には黙秘権と言いますのは、自分に不利益な供述を強要されない権利でございまして、それを言わされることによって、それが証拠に使われて不利な方向に行くということを守ろうとしているものだと理解しております。
今、ここで考えております事前準備と争点整理と言いますのは、裁判を進めるときに、どの部分を争ってやっていくのか、全くやっていないということであればまさにやっていないということを明らかにするということでありまして、どの部分を争っていくのかということを明らかにして、そこを双方で証拠をどのように出してやっていくのかを明らかにしていこうということでございますので、直接的には黙秘権の侵害ということとはちょっとレベルが違う話だと理解をしております。
第2点目の、公判裁判所、または裁判所書記官がそれを主宰すると書きました趣旨でございますけれども、これまでの改革審におきますお話の中では、裁判員制度を導入する場合の事件の範囲については、否認事件のほかに、事実関係に争いがなく、主として量刑について判断をするという事件も含める方向での議論がなされてきたと承知しておりますけれども、現在の職業裁判官による裁判の場合でも、90%以上は事実関係に争いがない事件でございまして、こういった事件の場合には、裁判所書記官が検察官、弁護人に連絡を取りながらそこで事前準備を進めているという実態がございます。
事件にも規模でありますとか違いがございますので、それぞれの事件に応じてだれが主宰をしていくのが相応しいかということを考えますと、受訴裁判所の裁判官が直接やる場合もあれば、裁判所書記官がそれをやっていくという場合もあってよいのではないかと考えまして、またはという形で、事件に応じてそれぞれの主宰者がそういう形で主宰できるという形の規定はいかがかという考えを示したものでございます。
【吉岡委員】書記官は、裁判官の資格を持っている人ではないですね。
【最高裁(合田課長)】違いますが、ただ、裁判所書記官は現実にはほとんどが四年制大学と言いますか、法学部出身の人が非常に多いんですけれども、そういうような学歴を持っておりまして、裁判官と立場は違いますけれども、一緒に法廷に立ち会って、色々仕事をしておりますので、それなりの能力というものはある人がそろっていると理解をしております。現実に、事前準備のところでは色々やっているところでございます。
【日弁連(四宮弁護士)】証拠能力を判断する手続というのは、先ほど井上委員からもお話がございましたけれども、例えば自白が任意になされたものでない、脅迫されたり、脅かされたり、無理やり取られたものだという主張をして、自白を証拠としないでほしいという申立があった場合とか、例えばきちんとした令状なしにかばんの中を捜索されて、そこから薬物が出てきたと。これは手続違反だからその薬物を証拠としないでほしいという申立があった場合、こういう場合には法律や裁判例で一定の場合に証拠としてはならない、してもよいというふうに決められております。これは通常で、弁護側でこれを争いますと、取調べや捜査を担当した捜査官の証人尋問をかなり行いますし、それからこの点に関する被告人質問というのをかなり時間を掛けて行っているのが実際です。
それで裁判所がそこで行われた証拠調べに基づいて証拠としていいとか、証拠としてはならないとかいう決定をしております。
その手続は、したがって、有罪・無罪を判断する手続そのものではないわけです。それを一応別に分けていってはどうかという提案でございます。
それから、有罪・無罪の証拠調べで何か工夫はということなんですが、この弁護士会のほうの資料の16ページ以下に、言わば直接主義・口頭主義を実質化、徹底するということで幾つか提案をしております。一言で言ってしまえば、なるべく書面を使わない証拠調べをやってはどうか。つまり、証人尋問ですとか、客観的な証拠物ですとか、図面ですとか、そういったものを使った立証をしていくべきではないか。
具体的に申しますと、今、一番問題となっているのが、いわゆる調書、人のしゃべったことを警察官、あるいは検察官が記録に取って残す調書というのがございます。これは一定の場合には、現在はその調書そのものが有罪・無罪を判断する証拠としてよろしいという規定になっております。
ここにございますのは私が実際に担当した事件で警察官がつくった調書と、検察官がつくった調書です。これはある事件の一部分です。こういう調書がたくさん証拠として出されております。これらを裁判員の方に、有罪・無罪を判断するために全部読んでいただくということは、恐らく不可能であろうと思います。
したがって、調書ではなくて、調書の内容をしゃべったとされる人を直接証人として尋問するという方法にしていくべきだと考えておりますし、また一定の場合には、現在の法律ではこういった調書を証拠としてもよろしいという例外規定がありますけれども、それも改正していく必要があるのではないかと考えております。
それから、黙秘権の点について一言だけ触れさせていただきますと、現行刑事訴訟法でも、被告人は終始黙っていてもいいという権利が保障されております。刑事訴訟法の311 条という規定です。これは確かに公判のところですけれども、公判準備及び公判手続というところに規定されているわけで、もし争点整理が公判準備という中に入るとすると、被告人は少なくとも法律上は黙っていてもいいわけです。ですから、一切しゃべらないという権利が保障されていますので、もし制裁を伴った争点整理ということが出てくると、やはりさっき申し上げたような問題点があるのではないかと考えております。
【井上委員】補充質問ですけれども、今のは刑事訴訟法で保障されているということですね。憲法で保障されているということとはまた違うわけですね。
【日弁連(四宮弁護士)】そうです。
【井上委員】2点目は、調書の証拠能力、321 条1項2号後段という、余りこういうことは言いたくないんですけれども、それと322 条1項だけ問題にされているんですけれども、そこだけ何で突出して問題になるのかよくわからないのです。直接主義という点からすれば、他の調書等もすべて絡んでくるということになると思うのですが。それと、検討するのが難しいから証拠能力を否定すべきだというのは、議論の順序がちょっと逆じゃないかという感じがするのです。証拠能力というのは、事実の認定の根拠にするには適格じゃないから証拠能力を排除するわけで、それに対し、今の問題は、調べるのが難しいから、そういうものをできるだけ避けましょうという話であって、証拠能力には直結しないのではないか。そんな印象を受けました。また、その辺はもう少し柔軟に考えておかないと、全く使えないということにしてしまうと、例えば、場合によっては供述が変遷しているような場合に、照らし合わせをしないといけいということも現実には出てくるので、困ったことになると思うんです。
それに、自白事件の場合にどうするのかという問題もありますので、その辺は、私から見るとちょっと議論に飛躍があるように思うのですけれども。
【水原委員】今、井上委員が質問していただきましたのであれですが、裁判員が関与する裁判につきましても、大半が自白事件なんです。自白事件についても、調書は出せないとお考えなんですか、その点はどうですか。
【日弁連(四宮弁護士)】自白事件であっても、争いのある事件であっても、今、井上委員から論理が逆だというお話もありましたが、仮に自白事件でこれを読んでくださいというのは私は無理だと思います。自白事件の場合に裁判員はどこに関わるかというと刑を決める部分になると思うんです。そうすると、こういう調書を読まずに、刑を決める資料をどうやって裁判員の方に与えるかということが問題になると思います。
私は工夫次第で、調書を読まなくても、それこそ裁判所の関与の下に両当事者が一緒に協議をして、犯罪事実、あるいは背景事情も含めてですけれども、これを合意をして、何らかの形で裁判員に法廷で口頭で伝えるということは可能だろうと思います。
ですので、自白事件であっても、原則として調書そのものを閲読してもらう、読んでもらうという方法は取らないほうがいいということです。
【水原委員】調書は裁判所に出せるわけでしょう、自白事件で同意したならば。
【日弁連(四宮弁護士)】そこは制度の設計の仕方だろうと思います。今の手続では同意すれば、書面そのものが証拠になります。そして、裁判官はそれを読むわけです。それは今はそういう制度だからです。裁判員が入った場合にそういう制度を維持できるかという問題があると思います。その場合に、同意をした書面の取り扱い方を、さっき私が申し上げたような、裁判員にわかりやすい方法で行う。今日の井上委員のチャートの中にある同意書面の証拠調べの方法に工夫が必要だというのは、私はそういう趣旨で考えたらいいのではないかと思っております。
【水原委員】そこで井上委員が書いていただいた資料で見ますと、裁判員にわかりやすい無駄のない公判審理というところで、調書においてもわかりやすい証拠書類の作成が大事ですね。そうしますと、わかりやすい調書を作成するようになりましたならば、書証は同意事件に関しては全部出せるということになるわけですね。
【日弁連(四宮弁護士)】私がさっきから申し上げているように、それは制度のつくり方だと思います。わかりやすい調書、例えば1枚か2枚の調書にして、それを法廷で読むと。それならばその調書を使うということも考えられると思います。ただ、それはさっきから申し上げているように、方法次第だと思うんです。
私は、裁判員に参加してもらうのであれば、今の制度に国民を合わせてもらうという発想ではなくて、国民に法制度とか、実務の運用とかいうものを合わせていく、つまり、制度や運用を変えていくということが必要ではないかと思います。
【井上委員】色々な対応の仕方があり得るということですね。
【中坊委員】日弁連の四宮さんの言うとおり私は、裁判員制度が新しく入ってきたからというよりも、今の現行刑事訴訟法も、本来は直接主義であり、口頭主義ということを前提にして制度設計されていると思うんです。それが運用面において、今おっしゃるような事実上そういう格好になっているんであって、いわんや裁判員が参加してくるということになれば、その点は一層もっと厳格にやっていくことになるということではないか。だから、日弁連の四宮さんが言うように、私個人は異論があって、今の制度でも、本来はそういうふうに決めてあったということじゃないかという気がします。
【佐藤会長】そこは平行線をたどるところだろうと思いますが。
【井上委員】自白事件でも事実認定はきちっとやってもらわないといけないので、そこを飛ばすということではありませんよね。
【日弁連(四宮弁護士)】弁護士会のほうでも書いておりますように、簡略ではあっても、事実確認をするということが必要だと述べております。
【佐藤会長】お待たせしました。北村委員どうぞ。
【北村委員】ちょっと議論に付いていけてないんですが、非常に細かいのか何なのかよくわからないんですけれども、専門用語がいっぱい出てきまして、これを審議会でどこまでやるのかというのが1つあるんじゃないかと思うんです。
例えばどういうことがわからないのかと言いますと、先ほどの最高裁と法務省の御説明の中で、最高裁は例えば法律レベルで義務づける。こちらは法廷侮辱罪とか。法律レベルて義務づけるのと、法廷侮辱罪とは違うんですか。
【井上委員】簡単に言うと、法律レベルというのは、今は規則で書いてあるんですけれども、それを法律の上で明示する、はっきりさせるということで、それに違反したり従わなかった場合に、どういうサンクションを与えるのかというのはまた別問題です。
【北村委員】また、あるわけですね。
【井上委員】そこでもし処罰するとか、何かの罰を加えるとすれば、そういう規定を設けないというのは、法廷侮辱罪等の問題で、問題は二段階あるということです。
【北村委員】もう一つは、四宮先生の御説明も、私にもよくわからない点があったんですが、否認していても、争点整理とか審理計画というのはできるんじゃないか。ほとんどの事件は私はいいと思うんです。弁護士会がおっしゃっているので。ところが、そうではない例外的なままで、何かないと非常に延びてしまうという部分を、私などは何とかしてもらいたいなという部分があるんです。ほとんどの事件は大丈夫なんだと思うんですけれども、その辺、どういう仕組みをつくったらうまくいくのかという点をお願いしたいなという気持ちがまずあるんです。
もう一つは、直接主義とか口頭主義ということで、今のは確かに分厚過ぎますから、もうちょっと薄くなるんでしょうけれども、それを裁判に出してこないということになると、捜査というのは何をやるのかというのが私にとってよくわからない。捜査というのは何のためにやっているのかというのが、素人としてはわからないところなんです。
【日弁連(四宮弁護士)】最初のほうの例外的な事件ですけれども、これは例えば今、実際に例があるようですけれども、弁護人とすら被告人が一言も言葉を交わしてくれないというケース、この場合に弁護人が、裁判所で争点整理手続が開かれて、そこでどう争点を整理するかというと、これはお手上げだろうと思います。この場合にまで、争点を整理させる手続を考えていくということはなかなか難しいのではないかと思うんです。この場合はさっき申し上げたように、全部争っているという建前で、検察官のほうに立証計画を立てていただかざるを得ないということだろうと思います。
【井上委員】全部争うということでもいいわけでしょう。
【日弁連(四宮弁護士)】そういう御趣旨ですか。
【井上委員】そういう趣旨だと思うのです。
【日弁連(四宮弁護士)】それは弁護側の対応の仕方だろうと思います。例えば弁護側が全部争うという形で整理するならばいいですけれども、被告人がどう言ったか、認否という形になっていますので、被告人がどう答弁するかというところまで法律上義務づけるというのはいかがなものかということです。
【竹下会長代理】そういうことを言っているわけではないのではないですか。何らかのサンクションを与えるかどうかというのは、審理計画がお互いの合意の上でできあがった場合に、それを守らなかったときにどうするかという話なのだと思うのです。
【日弁連(四宮弁護士)】次に、調書を使わないと捜査では何をするのかという点ですが、私は捜査の専門家ではありませんのでわかりませんけれども、調書をつくるということも、取調べという捜査の一部分であろうと思いますけれども、ほかにも証拠物の収集ですとか、色々あるんだろうと思います。むしろ法務省の方に聞いていただければと思いますけれども、ほかにも立証のための証拠収集の活動というのはたくさんあるだろうと思います。私どもは、一切の取調べをするなと申し上げているのではなくて、調書というものの意義が変わっていくだろうということを申し上げているだけです。
【水原委員】調書をなぜ作成するかという問題ですけれども、これは例えば被害者、あるいは目撃者、これについて考えてみますと、事件が発生しました。そのときに被害者の調書をつくっておかなければいけない。いつ犯人が検挙されるかわからない場合が多く、ときには10年も経ってようやく犯人が検挙される場合も希ではなく、その場合、被害者等関係者の供述調書を作成していないと、被害者の記憶も薄れておりましょうし、それから目撃者の記憶も薄れておりましょう。そういうために新鮮な記憶の際にその記憶を調書にとどめ置く。こういう極めて重要な意味を持っているわけでございますので、調書の作成は是非必要だということでございます。
【佐藤会長】前にも水原委員がおっしゃったことがありますけれども、北村委員の御質問にも関連するんですが、ここでどこまで細部に立ち入って議論するかという問題があります。この審議会は基本的にはそういう場ではないと思うんです。基本構造がどういうものであるべきかについて理解するということだろうと思います。
【髙木委員】今までの議論と重複するかもしれないんですが、この間、井上さんに説明していただいた中でも、裁判員制度が入れば当事者主義、口頭主義、実質主義と言いますか、口頭主義がもっと貫徹するだろうということでした。そうなれば、おのずと調書の意味は変わるんだろうという趣旨は前回皆さんもおっしゃっておられますが、そういう意味で、調書と言いましても、調書の形だとか、裁判制度に合わせた捜査、裁判員制度で裁判員に許容可能な調書、そういう意味で調書自体が変わるんじゃないかなと思われます。勿論、捜査は行われるわけですし、調書も何らかの形で使う場合もあるし、特に自白事件というのは、どの程度の証人尋問まで裁判官・裁判員の目の前でやるという問題もあるでしょうから、そういう意味では大分調書の意味が違ってくるんじゃないかと思います。
民事の場合と刑事の計画審理は、今の黙秘権の問題のみにととまらず、少し違うような気がするんです。民事の場合、立証責任というのはそれぞれが負わなければなりませんが、刑事の場合は全く100 %かどうかよくわかりませんが、大方は検察官に立証責任がある中での計画審理だという意味で、民事の計画審理とちょっと違う。法廷侮辱罪云々の話は、先ほど来皆さんと日弁連の四宮さんのやりとりでそういうことかなと思いますが、当然無罪推定の世界も含めての立証計画ですから、法律にその趣旨を書き込むくらいかなと思います。強制とか、強行するというか、その辺は議論の余地があるのかと思います。
【井上委員】調書の点は、それ自体としてこうしなければならないという問題というよりは、裁判員制度を前提にした場合に、どういうプレゼンテーションをして、どういうふうにすればわかってもらえるのか、そういったことから反射して、調書のつくり方とか、プレゼンテーションの仕方とかが変わってくるという問題なのではないかという感じがします。その意味では髙木委員の受け止め方と似ています。
ただ、さっき水原委員が触れられたように、裁判員が関与すると、例えば動機は何なのかというようなことが逆に比重が増してくるかもしれない。そうなってきますと、取調べというものの意味が却って比重を増してくるかもしれないのです。
【髙木委員】捜査段階でかなり問題があると思うんです。実態はよく知りませんが、人をつかまえて証拠を追い掛けるような調べ方だという批判もあります。
【井上委員】そうも言われているんですが、必ずしもそうじゃないので…。
【髙木委員】その辺は実態を知らない者の暴言だということでお許しいただきたいんだと思うんですが、そういうことも含めて、捜査の仕方もおのずと変わってくるでしょうし、今までは捜査で刑事事件のかなりの部分を形成してきた訳ですが、これからは公判が担う役割が捜査のある部分を公判でカバーしていくというニュアンスが裁判員制度の下では当然高まるのではないか。
【井上委員】そうなるかどうかはわからないですけれども。
【髙木委員】さっき四宮さんがちょっと言われましたが、皆さんプロが今の刑事訴訟手続なり捜査の手続についてイメージされる、そちらへ裁判員をアプライさせるのではなくて、逆に裁判員のほうにルールなり手続なりが逆に近寄っていく、合わしていくという発想をしたら、公判の中で真実の解明がより行われやすい仕組みは何かが見えてくるのではないでしょうか。
【井上委員】その1つの形として、書証を使う場合の書証の在り方、調べ方というのが位置づけられるのかなと思うのです。
【中坊委員】今の現行法の下においても直接主義と口頭主義のはずであったのです。しかし、運用が変わったというのです。今の髙木さんの意見を若干補充するような形ですけれども、えてしてそうなるんです。せっかくそのようにつくってあっても、現実に今は調書裁判に変わってきているし、そういう形になってきているわけですから、我々はよほど裁判員というものを前提として、よほどきちっと決めないといけない。私は、せっかく法律が決めておいても、運用面でそういうふうになっていくことが事実上、歴史の中であるんだから、その点は我々は心得て制度設計をしていかないといけないのではないかということを申し上げているのです。
【井上委員】前提とする事実認識が食い違っていまして、今でも、自白事件で同意により書証を調べている。その場合と、争いのある場合に証人が出てくるのですけれども、その証言が矛盾しているんで、前の供述調書が出てくるという場合とは、意味合いがちょっと違うんです。その後者のほうまで調書裁判と呼ぶかどうかというのは、私は異論がありますので、そこのところは留保をしたいと思います。
【鳥居委員】髙木委員のお話と同じようなことを申し上げたいんです。私、実は調書を取られたことがあるんです。1回は、有名なプロレスラーの車と私の車がぶつかったんです。うんと若いときですから、鮮明な記憶はないんです。
もう一つは、10年ほど前に交番が留守のときに、不労者と思われる人が交番に入り込んでいたずらしていたんでお知らせして上げた。そうしたら、調書を取るから警察に来てくれというんです。これはお断りしました。記憶では、調書とは何かというと、まず分厚いもので、全部警官がストーリーを書いてくれる。そのストーリーに従って、書かれたものに、いいですかというんで、判こを押させられるというものであった。その記憶をたどってみると、まず調書を作った係官が一番注目したのは時の流れです。何時何分に何が起こったかということをとにかく詳しく、しつこく聞かれた。
それから、加害者と被害者をはっきりしようとする。有名なプロレスラーと私は、どっちも加害者でも被害者でもなくて、偶然ぶつかったと思うんですが、どっちかを加害者と考えたいんです。調書というのはそういうものなんだなと思って今聞いていたんです。
私に言わせると、調書は、それをつくった人の仮説だと思う。その仮説が正しいかどうかを検証する仕事になっていないと思うんです。
とすると、仮説の書き方は何通りもあるのに、長い文章で書き表そうとすると、1つの仮説しか書けない。むしろこういう仮説もあり、この仮説もあり、その幾つかが並列して書いてあるような書き方だってあり得るはずだと思うんです。
もう一つは、長い文書というものがこれから一番問題になると思うんです。今日出ているこのチャートを見ればわかるとおり、これを文章で書けば物すごく長い文章になる。長い文章で書いてはだめなんです。チャートで書くからよくわかる。3次元、4次元の話が、時間軸や、加害・被害の軸や、色々なストーリーの話が1枚の紙にチャートで書けているわけです。附帯事項は別のところに書けばいい。色々な表現の仕方があるということを皆さん言っておられるんじゃないかと思うんです。
今の調書をいきなりやめるということは、司法の歴史から見て不可能だと思うんですが、だんだんにそこに移行していく過程と、裁判員制度の成熟という過程とが並行して進めばよろしいんじゃないかと思うんです。
【井上委員】調書のつくり方にも色々変遷があり、事件によっても、また検察官、警察官によっても違う。ある部分、非常に重要な部分は一問一答で書いてあるということもあれば、きれいにストーリーになっているというものもあるわけで、その辺は恐らく工夫のしどころじゃないかなという感じがします。
【藤田委員】総論的なところに立ち戻ることになりますけれども、適正迅速に刑事訴訟の審理を進めるということになれば、十分に事前準備をして、争点整理をして、審理計画を立て、効率的に審理をする、これは民事も刑事も同じことです。そうして、争点整理は被告人がどこを争うのかという言わば主張整理でありますから、弁護人なり被告人が争点整理の場で、その点についての主張をしたとしても、それに基づいて裁判されるわけではないんですから、黙秘権の問題はないのではないか。また、起訴状一本主義との関係からいっても、証拠調べをするわけではありませんし、どこが争点になるのかという点を確定するだけですから、そういう意味での予断の問題もないと思います。
ただ、争点整理をするということになると、証拠開示との問題が出てくるわけですが、現在は詳細な規定がないものですから、実務では訴訟指揮、訴訟運営の過程でほとんどの場合は、開示勧告という形で解決している。開示命令までいっているケースもないわけではありませんけれども、ごく少ないわけであります。そういう意味では、証拠開示が必要であるということはわかりますけれども、先ほど水原委員がおっしゃったように、全面開示ということについては問題があるし、イギリスでも段階的に開示していくという手続のようでありますから、そういうルールを決めて、明らかにしておくということが必要ではないかと思います。
現在の審理の問題として、裁判所の訴訟指揮の問題も出ましたけれども、中間報告でも、裁判官の訴訟運営能力の向上を図っていく必要がある、それについて裁判所侮辱罪のような強制的措置を付け加えるかどうかについては意見があるというようなまとめ方をしているわけであります。現在の法制の下では裁判所のできることに限界があるということから問題が生じているわけですから、それをどういうふうに考えるかということだろうと思います。
調書の問題については、裁判員が加わった裁判もありますし、職業裁判官による裁判も相当部分残るわけでありますけれども、全体的に直接主義、口頭主義でいくべきだという方向になると思います。しかし、パリ重罪院で参審裁判を傍聴したときに、井上先生に伺ったところでは、裁判長が、あなたは予審でこういうふうに言っているけれどもどうだというようなことを尋問している。尋問の中で実質的に調書の内容が出ている。裁判長は予審の調書も全部読んでいるわけでありますから。しかし、フランスの場合には職権主義で、しかも予審があります。我が国の当事者主義の法制の下でどういう仕組みにするか。恐らく刑事訴訟法は相当程度の修正が必要になると思いますが、憲法問題と同じで、幾ら井上先生が第一人者といっても、一人でお決めになるわけにはいかないでしょうから、どういうような形で直接主義、口頭主義を進めていくかということは、審議会で細部まで詰めるというのは無理で、次の制度の具体的設計をする段階で検討していただくということではなかろうかと思います。
【佐藤会長】そこは基本的にはそのとおりだと思います。
【中坊委員】準備手続をちゃんとして、事前の争点を明らかにするのはいいんだけれども、その前提として、お互いに全容がわかっているということが必要なのです。それで争点が始めて整理できるわけですから、今の刑事裁判の中では、先ほどからも水原さんがおっしゃったように、検察官が自分が請求予定のものは確かに弁護人に見せてくれます。しかし、そうではないものは一切見せないわけです。そこに大きな問題点が1つあって、この間も信楽鉄道の件でも言いましたように、現実に客観的な証拠も見せない。勿論事前に見せて弊害あるものはありますね。例えば威迫するとか、プライバシーを侵すとか、特別な例外を除いて、原則というものは、手持ちの証拠は一旦全部見せるんだという原則が出てこないと、争点を整理しろと言われても、そこがはっきりしていない。だから、信楽高原鉄道事件のときのように、本当に出てこないということになってきているわけです。
やはり被告人の供述調書であるとか、鑑定結果であるとか、図面とか、そういうものはこれから有罪のためにこういう証拠はありますということは、全部先に見せて、弁護人側も、こういうのを持っているのかということで始めて争点が整理されていくということを私は言いたい。
【佐藤会長】その辺は藤田委員も証拠開示には色々考えるべきところがあるとおっしゃっているわけです。
【藤田委員】被告人は全部知っているわけですね。
【中坊委員】被告人が全然わからないところは一杯あります。
【井上委員】全部かどうかは別として、開示すべきものはどの範囲で、こういう手続でやるんですよというルールを明確化しましょうということは合意していると思うのです。中身はもうちょっと詰めないと、ここで決めるという訳にはいかないのではないでしょうか。
【佐藤会長】それぞれのお考えで違うところがあるのかもしれせんけれども、基本的に入り口のところでは違ってはいないと私は思っています。
【山本委員】先の鳥居先生のお話で気がついたんですが、今、議論されている審理計画をきちんと立てるとか、わかりやすく無駄のない審理をやるとか、連日開廷を原則とするとかいうのは裁判員が参加する裁判にだけ適用されるということではなくて、全刑事裁判について同じようなルールを持ってやると、こういう議論だと思うんです。そうすると、日本の刑事司法全体をどうするかという問題につながるわけで、したがって、今出されている調書の問題についても、当然のことながら裁判員にわかりやすい資料を提供するということと、現在ある刑事司法全体のスキームをどういうふうにいいところを維持しつつ改善していくかという視点と、両方からのセンスが必要ではないかと思っております。
【佐藤会長】基本的にはそういうことだと思いますが。
【井上委員】弁護体制の整備とか、色々なものがセットにならないといけないので、なかなか一気にはいかないと思うのです。ただ、突出して問題になるのは裁判員制度との関係だと思うわけです。
【佐藤会長】時間も5時になりました。今日、この問題について、審議会として結論がどうだということをまとめるつもりはありませんが、時間も少のうございましたけれども、どこに、どういう問題がありそうかということはある程度それぞれはっきりしてきたんじゃないかと思います。さっき申し上げたように、4月10日にもう一回意見交換を行います。そこでは、もう少し時間をかけて意見交換ができると思います。大体のところ、こういう意見だ、こんな姿だということがわかるような審議会にしたいと思っております。
今日はやや中途半端な意見交換だとお思いかもしれせんけれども、時間もまいりましたので、今日はこの辺で御勘弁いただきたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。
それで、最後ですが、4月16日以降の審議日程について少しお諮りしたいと思います。4月16日の日程につきましては、2月13日に開催いたしました第47回会議で皆様の御了解をいただいておりましたけれども、その際にも、今後の審議状況によっては変更があり得るということを申し上げておりました。その後の状況を踏まえて、代理とも御相談いたしましたが、新たに本日お配りしたような日程で進めていきたいと思っております。
まず、4月16日の第56回会議ですが、改革推進体制等について意見交換を行うということを御了解いただいておりましたけれども、この日は裁判官制度の改革について御審議いただきたい。色々な事情を考慮してでのことでありますが、そういうように考えております。
ここでは最高裁判所の裁判官の選任の在り方とか、裁判官の人事制度の見直しなどについて、御議論いただきたいと思っております。
それから、4月24日の第57回会議でありますが、ここは従前と同様に、法曹養成制度及び法曹人口につきまして、3月2日の審議に続き、御議論いただきたいと思っております。その際、法曹人口の増加との関係で、裁判官や検察官の質の充実を中心としたそれぞれの在り方についても、意見交換をしたいと考えております。
それから、5月8日の第58回会議ですけれども、もともと審議項目を決めていない予備日ということにしておりましたけれども、今、お話ししましたように、改革推進体制等について意見交換を行うことにしておりました56回に、裁判官制度について御議論いただくということでございまして、この5月8日の58回会議で推進体制などについて御議論いただければと思っております。更にその後における司法制度の現状を常に注視、評価して、必要な改革改善等を進めていくための責任体制の在り方についても、併せて御審議いただきたいと思います。
それから、行政に対する司法のチェック機能の在り方についても、ここで行えればと考えているところです。
その後の59回会議以降は、既に御了解いただいておりますように、最終報告に向けての報告づくりということになります。そして、6月12日、第63回会議でありますが、最終意見を内閣に提出したいと思っているところです。4月16日の第56回会議以降の日程につきましては、以上ですけれども、いかがでございましょうか。なかなか厳しゅうございますけれども。今日で53回ですか、あと10回ほどになりますが、いよいよ大詰めです。
【藤田委員】6月12日より後の期日はキャンセルと考えてよろしいんでしょうか。
【佐藤会長】推進体制等がどうなっていくかということに関連して、会合を開くことはあり得ると思っています。ですから、一切会合がなくなるというようには御理解いただきませんようにお願いします。
【藤田委員】まだほかの予定を入れてはいけないということですか。
【事務局長】少し空けておいていただければ。
【藤田委員】全部ですか。
【佐藤会長】全部は必要ないと思いますけれども、今の段階では確信あることは申し上げられません。
【藤田委員】全部じゃないけれども、どれかわからないというと、全部空けておかなければならないですね。わかりました。
【佐藤会長】できるだけ早く把握したいと思いますけれども。基本的にそういうことでよろしゅうございますか。どうもありがとうございます。
配付資料についてお願いします。
【事務局長】いわゆる隣接法律専門職種の一つであります日本土地家屋調査士会連合会から、司法制度改革審議会に関する要望書と題する意見書が届いております。各界要望書の中の封筒に入れてお配りしておりますので、御参照ください。そのほかについては特にございません。
【佐藤会長】それでは、次回の日程確認等でありますが、4月6日金曜日、1時半から5時まで、この審議室で行いたいと思います。次回はかねて申し上げておりますように、利用しやすい司法制度及び国民の期待に応える民事司法の在り方につきまして、前回お話ししましたように、代理と相談させていただき、とりまとめのたたき台となる案を御用意させていただき、それに基づいて意見交換を行って、できれば当審議会としての考え方を、そこでとりまとめることができればと考えております。
たたき台の案は、事前に委員の皆様にお送りいたしますので、事前に御検討いただければと思います。
【中坊委員】吉岡さんがこの間敗訴者負担のことを問題提起されましたが、あの分はどうなっていますかね。
【竹下会長代理】御議論いただきます。
【中坊委員】私はその前にたたき台が出るというから、吉岡さんの言った問題提起にだけになっていたから。
【佐藤会長】御議論いただきます。
【中坊委員】それはたたき台に入る前に議論があるというわけですか。
【竹下会長代理】そこのところは中間報告のままにしておこうかと思っていますので、ここでの御議論の結果によって最終的にどうするかを決めていただこうと思っております。
【吉岡委員】中間報告のままをとりあえず書いてくると。
【竹下会長代理】そうです。
【佐藤会長】どちらにどうしようかということではありません。一応たたき台として、今代理が言われたような形で出させていただいて、表現ぶりなどについては、更に最終報告に向けて御相談させていただく。6日の議論を踏まえてですね。
【吉岡委員】前回時間切れでだめになりまして、あのときも次回に時間を取ってくださいということで了承しておりますので、よろしくお願いいたします。
【中坊委員】私が思うのは、まとめの中にその部分は空白にされておいたほうがかえって誤解がなくていいんじゃないかという気がするんです。全く議論していないんだから、それを今おっしゃるように、中間報告のままにしているのはどうかと思う。
【佐藤会長】中間報告があるわけですから。中間報告を踏まえて更にこの間御意見を出していただいたわけですね。それを踏まえて議論して。
【中坊委員】この間の議論のときには、私が思うのは、吉岡さんのおっしゃった敗訴者負担については全く議論していないわけです。
【佐藤会長】その日はね。
【中坊委員】そうです。全く議論していないんだから、議論もしていないものをまとめとしてお出しになるのは問題ではないか。特に私はこの前終わりしなに言うたように、それはなぜかというと、我々は中間報告を出したときに、一番末尾のところに、この中間報告について国民の意見を聞いて、ちゃんと直しますと言って、一番たくさん寄せられているのが敗訴者負担のところでしょう。そういう問題があるということがわかっておって、しかも我々は中間報告で書いているんだから、そういう問題については、国民が見ているんだから、ある程度の節度をつけていくべきです。その分は全く議論していないから、今日のまとめには別に空白にされておいても、なんにも差し支えないと思うんです。それを前の中間報告どおり書くというのであれば、何も議論していないのに書くかということになってきて、吉岡さんが問題提起したこととちょっと違うんじゃないかという気がするんです。
やはりまとめをされるときには、そういう点もひとつ考えて、私は前回言うたように、国民はみんな見ているんだし、しかも中間報告で国民の意見を聞いて、直すところは直しますと言っているんだから、それが全く議論していないのに、また出てきた案が、まとめの案が中間報告どおりだというのではなく、吉岡さんが提示されたし、私らだって同じように思っているわけですから、そういう問題についての問題提起の仕方は、白紙のようにしておいたもらったほうがいいと思うんです。
【井上委員】御趣旨はわかりました。ただ、中間報告自体存在するわけで、その扱いの仕方だと思うのです。ほかのところのたたき台案と同じ扱いにするのか、中間報告ではこういうふうにまとめましたよということを確認のために違う扱いで書いておくということもあり得ると思うのです。
【中坊委員】中間報告だったら、私らみんなもらっているんだから、わかっているわけです。そんなもの殊更にこの文書に書かなくてもいいわけです。
【井上委員】それはそうです。
【中坊委員】私が言うのは、この審議会というものは、本当に国民の前に開かれて、みんなが注視している。その中で、敗訴者負担の点についてはたくさん寄らせられてきた。私らはむすびの中で、その声には謙虚に耳を傾けますとちゃんと書いているんだから、それらしく対応をしないと、ここの審議の公正さを疑われますよということを言っているんです。
【佐藤会長】議論をして、最終報告に向けて、よき結論、よき文章を考えましょうということをさっきから申し上げているんです。
【藤田委員】まだ議論するわけでしょう。
【佐藤会長】そうなんです。たたき台の書き方については、中間報告との兼ね合いも考慮して、少し考えさせていただきます。空白というのはちょっと難しいと思いますけれども。
【竹下会長代理】議論はしていただくつもりでおります。
【鳥居委員】議論の余地はあるということは入れてくださったほうがいいんじゃないですか。
【吉岡委員】たき台で中間報告をそのまま入れるのであれば、そこは議論はしていないということがわかるように書いてください。
【佐藤会長】そういう趣旨も含めて考えさせてください。そこは柔軟に考えていますので。さっきからかたくこうだと言っているわけじゃありません。
今日は以上で終わらせていただきたいと思います。記者会見、いかがいたしましょうか。
今日はどうもありがとうございました。