司法制度改革審議会

第54回司法制度改革審議会議事録



 
日時:平成13年4月6日(金)13:30~17:40

場所:司法制度改革審議会審議室

出席者

(委員(敬称略))
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、曽根綾子、髙木剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本勝、吉岡初子

(事務局)
樋渡利秋事務局長

  1. 開会
  2. 利用しやすい司法制度及び国民の期待に応える民事司法のあり方について
  3. 閉会

【佐藤会長】それでは、時間がまいりましたので、第54回会議を開会いたしたいと思います。
 本日は「利用しやすい司法制度及び国民の期待に応える民事司法のあり方」につきまして、第52回会議に引き続いて意見交換を行いたいと思います。
 当審議会としての意見の取りまとめができればと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、早速、意見交換に入りたいと思いますけれども、御承知かと思いますが、自民党の調査会の方で考え方が取りまとめられたようでございまして、最初に事務局長の方から御紹介いただきたいと思います。

【事務局長】既に報道されておりますように、昨日、自由民主党の司法制度調査会が本日の審議に関係する部分を「中間提言(1)」として取りまとめた上で発表いたしまして、これを委員の皆様に紹介してほしいという依頼がありましたので、本日お手元にお配りしております。内容としましては、ADRの充実、隣接法律専門職種の訴訟関与等の在り方、知的財産権に関する紛争処理体制、これは訴訟及びADRを含んでおりますが、その充実強化、裁判の迅速化などでありまして、本日の御審議の御参考にしていただければと思います。なお、お配りしてあります資料の末尾に要旨をまとめたものが付いておりますので、念のため申し添えます。
 以上でございます。

【佐藤会長】ありがとうございます。
 それでは、御議論いただきたいと思いますが、第52回会議の際にお話をしましたとおり、会長代理と相談いたしまして、本日の審議用に「検討用たたき台」を御用意させていただきました。本日お手元にお配りしておりますけれども、本日の意見交換はこの「たたき台」に従いまして、進めさせていただきたいと考えております。
 事前に委員の皆様にお送りしておりますので、既にお目を通していらっしゃると思いますけれども、最初にこの「たたき台」につきまして、竹下会長代理から15分程度くらい簡単に御説明をいただきまして、その上で意見交換をしたいと思います。
 では、代理、よろしくお願いします。

【竹下会長代理】それでは「検討用たたき台」の、「骨子」の方ではなくて、「本文」の方につきまして、今日議論いただく際にポイントになると思われる点を中心に御説明させていただきたいと思います。
 多少時間の節約のために「『検討用たたき台』説明」というものを配付させていただきましたので、これに沿って御説明してまいります。
 まず、「検討用たたき台」の趣旨でございますが、当審議会の検討課題のうち、民事司法の制度的基盤の整備に関する問題は、国民に対する司法サービスの拡充、国民の権利・利益のより実効的な救済という、国民の直接的な要求に関わる課題でございます。その意味で人的基盤の拡充、国民の司法参加というより長期的な課題と同じく、21世紀の我が国の司法の在り方に関わる重要な課題であると思われます。
 その民事司法の制度的基盤の整備に関する諸問題につきましても、既に取りまとめをすべき段階に至っております。そこで、この検討用たたき台は、中間報告におきまして、当審議会として意見の一致を見るに至らなかった事項につき、会長と御相談の上、その後の審議等を踏まえて、より具体的な方向性を示すことができるものについては、文字どおり検討のためのたたき台として具体的案を提示し、そうでないものについては、差し当たり中間報告の記述を要約して記載したというものでございます。
 なお、具体案を提示している場合も、言うまでもございませんが、本日の審議の結果によって変更・修正することを予定したものでございます。
 与えられた時間の範囲で、中間報告から少し踏み込んだと思われる事項を中心に、この「たたき台」の趣旨を御説明いたします。項目の標題を含めて、中間報告から変わっている箇所には、アンダーラインが引かれております。
 まず、全体構成でございますが、この「検討用たたき台」の(注)2にございますように、中間報告では、民事司法に関わる事項は、「利用しやすい司法制度」の項と、「国民の期待に応える民事司法の在り方」の項とに分かれておりましたけれども、両者を併せて「利用しやすく国民の期待に応える民事司法」として一本化することを御提案しております。これは民事司法に関わる改革の全体像を理解しやすくするというためでございます。
 個別の論点に入りますと、まず、「1 裁判所へのアクセスの拡充」の部分の主な変更箇所でございますが、一つは、標題を変更しております。「(1)利用者の費用負担の軽減」から「(4)家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実」まで、内容がより分かりやすいようにという趣旨で標題を変更してみました。
 その次は「参与員制度の拡充」でございますが、これは「(4)家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実」の一番最初の○でございます。「人事訴訟等を家庭裁判所の管轄へ移管し、参与員制度の拡充など体制を整備」というところの「参与員制度の拡充」ということでございますが、人事訴訟等の家庭裁判所への管轄の移管に関連いたしまして、参与員制度を拡充するという御提案でございます。人事訴訟等の移管を契機に、現在の参与員制度を拡充いたしまして、家事審判と同じように離婚訴訟、離縁訴訟などにも参与員が関与する。実際の運用では男女各1名が参与員となって関与するということが考えられるのではないかと思いますが、そういうことにするのが、家庭裁判所の機能の充実という観点から望ましく、余り御異論もないのではないかと考えましたので、具体案として提案をいたす趣旨でございます。
 その次は(5)の「③団体訴権制度」でございますが、団体訴権の制度につきましては、これを導入すべきであるということ自体については、むしろ積極的な御意見が多かったのではないかと思いますし、学界等でもそういう傾向でございますので、個別の実体法、例えば独占禁止法とか不正競争防止法、あるいは消費者契約法などで、それぞれ導入の可否、それから訴権を与えられるべき適格団体の決定の基準等を検討することが望ましいのではないかというので、そのようなことを書きました。
 それから、「1 裁判所へのアクセスの拡充」のところでの主要な変更点は以上でございますが、その他で特に留意すべき箇所といたしましては、「(1)利用者の費用負担の軽減」の3番目の「弁護士報酬の敗訴者負担制度」の問題がございます。ここは前回も御意見がありましたので、中間報告の要約にとどめております。後ほど御意見があれば、私の方からもこの点に関する中間報告の趣旨等を申し上げたいと思っております。
 それから、2ページの「(5)その他」の中の「①懲罰的損害賠償制度」、「②クラスアクション制度」につきましては、中間報告のままという趣旨で特別のコメントを付しておりません。ただ、懲罰的損害賠償制度につきましては、外国判決の承認との関係においてではございますけれども、平成9年7月11日の最高裁判所の判例は、懲罰的損害賠償の制度は我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則、ないし基本理念と相容れないものと認められるという判断をしておりまして、多数説の支持を得ております。そういう意味では、懲罰的損害賠償という制度は、我が国の損害賠償制度とは異質のものと考えられるのではないかと思います。
 こういう議論が出てくる背景には、現在の裁判所の認定する損害賠償額が低すぎるという問題意識があるのかと思いますが、そうであれば、その問題として運用の改善を図るべきではないかと思われるところでございます。
 それから、クラスアクション制度につきましては、平成10年から施行されました新しい民事訴訟法制定の際にもその導入の可否が検討されまして、その上でクラスアクションと同様に少額・多数の被害者の救済の機能をも果たしうるように、元々我が国にありました選定当事者の制度を改正したところでございます。したがって、更に重ねてクラスアクション制度の導入を論ずる前に、まずは改正された選定当事者の制度を利用することを考えるというのが物事の順序ではないかと思われます。
 次は2ページの中央の「2民事訴訟の充実・迅速化」という部分の主な変更箇所でございますが、まず冒頭の「○人証調べ事件の審理期間は概ね半減することを目標」ということでございますが、先ごろ行われました「民事訴訟利用者調査」によりますと、実際に訴訟を利用した当事者にとっても、訴訟に踏み切るのを躊躇させた最大の理由は、訴訟に要する時間であると言われております。民事訴訟の迅速化の期待に応える方策といたしましては、特別迅速手続を導入する、あるいは、審理期間の法律または規則による制限を定める、期日数ないし期間の間隔の制限を定める、というようなことがありえます。しかし、中間報告では、これらの方策はそれぞれ難点があるものということで、迅速化の方法として、計画審理の一般化及び証拠収集手段の拡充を提言いたしました。ただ、それのみでは、国民の目から見て、民事訴訟が今回の改革によってどれほど迅速化されるのかというイメージをつかむことが困難と思われます。そこで具体的目標として、現在もなお平均ほぼ20か月を要しております人証調べを含む事件の審理期間をおおむね半減するということを掲げました。そういう御提案をしたいという趣旨でございます。
 人証取調べ事件の審理期間の状況は、前回配付されました民事司法の関係の「追加参考資料6」の資料1を御参照いただくと分かるとおりでございます。民事訴訟全体の平均審理期間は現在もほぼ9か月になっておりますけれども、人証調べをした事件については、20か月近いということでございますので、それを半減することを目標にしたらどうか、そういうことでございます。ただ、これはしゃにむに早くするというのではなくて、そこにございますように、「下記施策と相まって」という留保付きでございます。
 それから、その留保の重要な一つになるわけでございますが、そこの4番目の「○独立証拠調べなど訴えの提起前の時期を含め当事者が早期に証拠を収集するための手段を拡充」というところでございます。中間報告では、「計画審理により民事裁判の充実・迅速化を推進するには、早期に審理計画を定め争点整理をする必要があるが、それには当事者が早期に証拠を収集する実効的手段が用意されていなければならない」といたしまして、結論として、「当審議会は、少なくとも、訴え提起前の時期を含め、当事者が早期に証拠を収集するための手段を拡充するべきであると考える」と述べております。
 そこで、そのための具体案といたしまして、ドイツ民事訴訟法が1990年の改正によって新設をいたしました「独立証拠調べ制度」を参考として、現行の証拠保全手続を拡充することとしてはどうかという趣旨の提案でございます。
 ドイツ法上の独立証拠調べは、「追加参考資料6」の資料2にございますように、訴え提起前においても、証拠保全の必要性を要件とすることなしに、一定の事項について書面による鑑定を求めうるという制度でございます。この制度によりますと、早期に争点の把握を可能ならしめ、訴え提起前の和解による紛争解決、及び訴えが提起された場合における訴訟の充実、迅速化というメリットがあると言われております。我が国に採り入れる場合には、濫用の危険防止ということにも配慮しなければなりませんが、書面による鑑定以外の証拠調べをも可能とするということが考えられます。ただ、具体的な制度設計は立法段階の検討に委ねてもよろしいのではないかと思われます。
 また、訴え提起前の証拠収集手段といたしましては、最高裁判所が昨年6月13日のヒアリングの際に提案されました提訴予告通知制度の導入ということも同時に検討すべきであろうと思われます。
 その次は、2ページの下の方の枠で囲んである「3専門的知見を要する事件への対応強化」でございます。そのうち「(1)専門家の活用」の「①鑑定制度の改善」でございますが、「追加参考資料6」の中に、最高裁判所から提出されました「資料5」というものがございますが、そこに示されておりますように、現在、最高裁判所におきましては、医事関係訴訟及び建築関係訴訟に関しまして、全国の各裁判所から依頼を受けて、鑑定人を推薦することを目的とする医事関係訴訟委員会及び建築関係訴訟委員会というものを最高裁判所に設置するよう、その準備中であるということでございます。この夏にも立ち上げるということが書かれております。
 これは、この委員会が関係学会に適切な鑑定人の候補者の選定を依頼して、当該学会より選定された候補者について、委員会において検討した上で、鑑定人を推薦するという仕組みでございまして、学会の選定によるということでございますので、鑑定人の適格性、中立性を保障しうるものではないかと思われます。
 そこで、中間報告の趣旨にも合致すると考えられますので、それらの委員会の新設を求めるということを追加してはいかがかということでございます。
 その次は3ページの上の方の「②専門委員の参加制度の創設」というところでございます。中間報告におきましては、鑑定制度の改善と並ぶ専門家の活用の方策といたしまして、専門委員や専門参審制など、専門家の関与というものを掲げ、「専門家の手続関与を認める制度としては、既存の制度の他、専門参審制、専門委員制度などが、一応考えられるが、そのうちいかなる専門訴訟にどの制度を導入することが適切か、既存の制度に加えて新たな制度を導入すべきかについては、それぞれの専門性の種類に応じて、個別に検討すべきである」とされておりました。ただ、個別的には専門委員制度については、「中立的な専門的助言者として、争点整理など手続の必要な局面だけに関与し、当事者もその専門的意見を知り、これに対して自己の意見を述べうる状況にあるから、裁判官の中立公平等に疑義の生じない場合には、その導入を図るべきである」とされておりましたのに対しまして、専門参審制につきましては、「裁判官の心証過程が不透明になるおそれがないか、当事者が裁判官の判断資料を知り意見を述べる権利を不当に侵害することにならないかなどにつき、更に検討すべきである」とされておりました。これを受けまして、3月19日の審議会では、知的財産権関係訴訟における専門家活用の新たな方策案として、一枚紙の資料を用意させていただきまして、そこでいわゆる専門委員制度の具体的なイメージをお示しし、その導入の当否を伺いましたところ、おおむね肯定的な御意見であったのではないかと思います。そこで、いかなる種類の専門訴訟に導入するかは、裁判所の中立公平性等に十分配慮し、個別に検討するということを前提としてでございますが、前回の案を基礎としなから、専門委員の参加制度を一般的制度として構成してみましたのが、この「たたき台」の案でございます。3ページの「②専門委員の参加制度の創設」のところに書いてあるようなものでございます。具体的には、知的財産権訴訟の他、差し当たり医事関係訴訟と建築関係訴訟にも、この制度の導入が考えられるかと思います。そこで、医事関係訴訟のところでは、その「導入の検討」、建築関係訴訟については、その「導入」ということを示してございます。この他、北村委員から御指摘がございましたように、例えば国際金融関係訴訟などにもこういう制度を導入するということが考えられると思います。
 その次は、4ページの一番上でございますが、「4知的財産権関係事件への総合的な対応強化」でございます。まず、これを独立項目化したということでございますが、中間報告では「知的財産権関係事件への対応策」については、「専門的知見を要する事件への対応強化」の項目の中で扱われておりました。しかし、知的財産権の国際戦略的重要性というものを考え、これを独立の項目とし、その標題も「知的財産権事件への総合的な対応強化」としてはいかがかと考えて、そのようにいたしました。この知財関係訴訟につきましては、前から問題となっておりますが、東京、大阪両地方裁判所への専属管轄化という問題がございます。そこの4番目の○で、「知的財産権関係訴訟のうち、特許及び実用新案等について東京、大阪両地方裁判所への専属管轄化」と書いてございます。中間報告では、これらの訴訟の東京、大阪両地方裁判所への専属管轄化につきましては、更に検討すべきであるとされておりました。そこで、これらの事件の現状につき、「追加参考資料6」の資料3及び資料4のように、最高裁判所から資料の提供を受けました。資料3によりますと、知的財産権関係訴訟に関する平成10年以後の両地方裁判所への集中度は、特許事件では常に80%を超え、実用新案事件でも、平成11年がやや少ないですけれども、平成12年は80%を超えております。その他の事件はかなりばらつきが見られます。他方、資料4をごらんいただきますと、平均審理期間が示されているわけでございますが、とりわけ左側の未済事件の平均審理期間は、東京、大阪とその他とでは明らかな差異が認められると申し上げることができるかと思います。ちょっと時間を取りまして恐縮でございますが、平成12年で見ますと、東京は特許事件ですと、未済事件の平均審理期間は16.1か月、大阪は17.2か月、それに対しまして、その他は29.8か月ということになっております。実用新案事件は御覧いただいたとおりでございます。東京、大阪では、裁判官、弁護士の専門化等の条件整備が進み、迅速な解決が得られているということが、これから窺えると思います。右側の既済事件の方では、それほどの差異が認められませんが、これは東京、大阪の体制整備が最近のことでございまして、長期滞留事件が既済事件に数多く含まれているために、既済事件の方ではそれほどの顕著な差がないということでございます。以上から見ますと、少なくとも特許と実用新案関係訴訟については、我が国の司法の国際競争力を高めるという見地からも、東京、大阪両地方裁判所に専属管轄権を認め、それが当事者の利益を害する特段の事情がある場合には、他の裁判所への移送、あるいは他の裁判所の自庁処理、つまり他の裁判所に訴えを起こしてきたときに、その裁判所が自分のところでやった方が適当だと思えばやれるという仕組みを考える。場合によっては、専属管轄でもあるけれども、両当事者が合意をすれば、他の裁判所でも訴訟ができるという是正措置を考えることにして、専属管轄化をしたらいかがかと思われます。特許・実用新案以外に、どの範囲の事件について、同様の専属管轄を認めるかは立法段階の検討に委ねてはいかがかと存じます。
 次は5番目の労働関係訴訟でございます。4ページの真ん中からやや下のところでございます。労働関係事件も、その重要性及び専門性が、医療関係訴訟などと異なるということを考慮いたしまして、独立の項目にいたしました。その労働関係の上から6番目の○でございますが、「労働関係事件に関し、民事調停の特別な類型として、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する労働調停」というものを設けることにしてはいかがかという点でございます。中間報告では、「個別労働関係事件については、訴訟に代わる裁判外紛争解決手続の要否、設けるとした場合のその在り方が、また集団的労働関係事件については、『事実上の五審制』の解消など、労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方が」、更に、労働関係事件一般につき、「固有の裁判機関、訴訟手続の創設」などの問題点が検討事項として指摘されております。その後の審議におきまして、個別労働関係事件についての裁判外紛争解決手続としては、裁判所に民事調停の特別な類型としての労働調停を設けるということにつきましては、意見の一致が見られたのではないか。これだけに限るかどうかということは別といたしまして、裁判所の労働調停というものを特別に設けるということ自体については、意見の一致が見られたのではないかと思いましたので、その導入を図るということにして、具体的な内容といたしまして、括弧の中に①から④のことを書きました。管轄裁判所を普通の調停のように簡易裁判所にするのではなく、地方裁判所にする。それから、普通は申立人の相手方の住所地の裁判所で調停をやるのですけれども、労働関係の場合には、申立人の住所地でもできるようにする。それから、訴訟手続との連携を強化する。あるいは調停の成立を促進するためのいろいろな仕組み、例えば資料収集の方法等を考えるというイメージのものでございます。次はいわゆる事実上の五審制の解消の問題でございますが、事実上の五審制の解消問題につきましては、救済命令に対する司法審査の第一審を高等裁判所とすることを提言すべきであるとの御意見もございましたが、それにはまず労働委員会における審理の在り方等を検討すべきであるとの御意見もあり、結論として、一定の方向を得るに至らなかったと思われます。
 そこで、この「たたき台」では、「引き続き検討する」ということにいたしております。次はいわゆる労働参審制の導入でございますが、5ページの一番上の○でございますけれども、労働参審制につきましても、その導入を提言すべきであるという御意見もありましたが、なお、慎重な検討を要するとの意見もあり、現段階では結論を得るに至りませんでしたので、固有の訴訟手続の整備の問題と合わせて、「『労働参審制』の導入、労働関係事件固有の訴訟手続の整備については、ADRとの関係整理等も含め、関係機関において望ましい制度を引き続き検討」するということにいたしました。これはいつまでもだらだらと検討してもらうという趣旨では勿論なくて、文字どおり引き続き、この審議会の最終意見が出た後も、しかるべき場でなお検討を続けてほしいという趣旨でございます。
 なお、この他、民事執行の強化の問題もございますけれども、もう大分時間を超過しておりますので、もし問題点がございますれば、御説明するということで、以上で私の説明は終わらせていただきます。
 大分時間を超過しまして恐縮です。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 それでは、この「たたき台」に従って、意見交換を進めていきたいと思います。時間の関係もあるものですから、今日できれば、どうしても、と言ったら言いすぎかもしれませんが、取りまとめたいと思っております。
 そういう時間の関係もありますので、これまでの意見交換を踏まえ、さほど皆様の御異論がないと思われるところにつきましては、それを確認するにとどめ、更に御意見をちょうだいする必要があると思われる点を中心に意見交換をすれば、というように考えております。
 また、本日はお手元に、第52回会議の際に吉岡委員からいただいた法曹三者に対する御質問への回答をお配りしております。この回答も御参考にしていただきながら、意見交換をしていただければと考えております。この回答につきましては、本日法曹三者からそれぞれ御説明いただける方にお見えいただいております。御質問等がありましたら、意見交換の中でお聞きいただければと考えております。
  本日は、できるだけ時間内にすべての項目にわたって御意見をいただきたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 まず最初「裁判所へのアクセスの拡充」でございます。
 「(1)利用者の費用負担の軽減」から入っていきたいと思いますけれども、提訴手数料、訴訟費用額確定手続、あるいは訴訟費用保険につきましては、さほど御異論はないのではないかと思われます。むしろ、ここでは、第52回会議の際にもお話が出ておりましたが、中間報告に対しまして、本日事務局から配付されております資料にも含まれているところですけれども、非常に数多くの御意見や署名簿をいただいている、弁護士報酬の敗訴者負担制度の問題につきまして意見交換をしていただいた方がよろしいのではないかと考えております。どなたからでも結構でございますので、御意見を頂戴したいと思います。
 意見書を出されております、吉岡委員、最初にいかがですか。

【吉岡委員】最初に申し上げさせていただきたいと思います。
 前回、弁護士費用の敗訴者負担制度について意見を言わせていただこうと思いまして、3月19日付けで意見書を提出しておりましたが、他のところで時間を取りまして、議論ができなかったことは御承知のとおりです。今回の「検討用たたき台」につきましても、敗訴者負担制度については、検討していないということを明記してお作りいただくということをお願いいたしまして、そのような趣旨をお書きいただいた上で、この「たたき台」をつくっていただいたと理解しております。
 なぜ一部マスコミにこれが流れたのか分かりませんけれども、ちょっと誤解のあるような記事がありましたので、審議会が意図的に流したものではないことは、勿論そうだと思いますけれども、それは誤解だということをまず最初に確認させていただきたいと思います。あの記事にあったようなことは、前回には全然議論がされていないということだけ、まず申し上げたいと思います。
 時間もそんなにたくさんあるわけではありませんので、今日付けで、一応「検討用たたき台」を見た上で、多少加筆したものをお手元にお届けいたしました。3月19日提出の意見書と内容が大幅に違っているわけではありません。
 まず確認したいのは、審議会の基本的な理念の問題です。司法制度改革審議会設置法の2条1項には、「国民がより利用しやすい司法制度の実現」ということを掲げているわけですし、当審議会も当然この目的に沿うべき検討を進めてきたと私は理解しております。
 訴訟の問題につきましても、国民の利用しやすい制度にするということが目的だということは合意を得ていることであると思います。敗訴者負担制度についてでございますが、そういう考え方の下で、「国民の期待に応える民事司法の在り方」に関する論点の中で、訴訟に負けた側が勝った側の弁護士費用を負担するという敗訴者負担制度が取り上げられたわけです。なぜ取り上げられたのかということを基本的に考えますと、この問題が置かれている全体の位置づけとしましては、裁判所へのアクセスの拡充と、利用者の費用負担の軽減を検討するということで、利用者の費用負担を軽減する、そのためにどうしたらいいかという中で、訴訟手数料とか、訴訟費用、保険などの問題と同時に検討されたわけですから、基本的には利用者の訴訟提起を促進することを目的とする課題で取り上げられたと考えております。
 中間報告の35ページですけれども、ここでは敗訴者負担制度導入賛成論の紹介としてではありますけれども、「不当な訴え・上訴の提起、不当な応訴・抗争を誘発するおそれもあるということを理由にして、かねて勝訴当事者の支払った弁護士報酬(少なくともその一部)を、敗訴者に負担させる方策を導入するべきであると指摘されてきた」と述べ、濫訴抑制という考え方が紹介されております。
 一方、次の段落のところで、「他方、この弁護士報酬の敗訴者負担制度に対しては、敗訴した場合の費用の負担は重くなり、事件の種類によっては、かえって訴えの提起を萎縮させる結果になるおそれがあるという指摘もある」という反対論についても触れてございまして、「特に、訴訟を通じて社会的に問題を提起し、立法府や行政府に政策の変更や制度の改革を迫る、いわゆる政策形成訴訟について、そのことが当てはまると言われている」という指摘もされています。
 その上で、「弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者に訴訟を利用しやすくするものであることなどから、基本的に導入する方向で考えるべきである」とした上で、「労働訴訟、少額訴訟など敗訴者負担制度が不当に訴えの提起を萎縮させるおそれのある一定種類の訴訟は、その例外とすべきである」と、一応の幅を持たせた書き方になっています。
 ですけれども、やはり敗訴者負担制度を導入しない訴訟というのは例外だという位置付けのように読めてしまうという、そこに中間報告の問題があるのではないかと思います。一方、訴訟利用者の立場から見た場合ですけれど、弱い立場にある利用者、国民にとって、訴訟の実態には非常に厳しいものがありまして、判決が出て被害者が無念の思いを抱いている例というのは決して少なくありません。
 訴訟の場合、私たちの経験から言いますと、よほどの場合を除いて、証拠開示制度が不十分な我が国においては、利用者が勝訴を初めから見通すということはほとんど不可能に近い状態です。特に医療過誤の問題の場合は、ここのところ随分重なっておりますが、医療事故で家族の尊い命を奪われたような場合でも、証拠収集手段が十分に整備されておりませんし、また、適正な鑑定人も得られないような現状では、病院側に過失があったとしても、原告の側が負けるという例が少なからずあります。家族を奪われた上に、相手の病院や医師の弁護士費用まで負担しなければならないという、これはどう考えても理不尽なことですし、そういうことが通ってしまうということになると、到底訴訟を起こすことができなくなります。被害を受けながら泣き寝入りをしなければならないということになるのではないかと思います。この点は審議会に医療事故情報センターが行ったアンケートの結果が出されておりますけれども、この点からも明らかなところではないかと思います。
 この問題は医療過誤だけに限りませんで、変額保険の被害者とか、欠陥住宅の被害者など、多くの個人の被害者からは問題だという声が出ている状況でございます。
 また、消費者の権利擁護のためにはどうしても行わなければならない裁判というのも少なくないわけですし、私どもが取り組みました灯油裁判とか、ジュース裁判、最近では、はみ出し自動販売機の裁判などがあるわけですけれども、いずれもこのような政策提言的な性質を持った裁判でございます。
 これらについて、弁護士の敗訴者負担制度が取られるということになりますと、このような裁判はとても起こすことができなくなる、難しくなるということを考えざるを得ないということでございます。
 これは私だけの意見かというと、そうではないと思いますのは、中間報告への反響でございます。先ほども御紹介がありましたけれども、このような実態が実際にあるということから、多くの個人や団体、あるいは弁護士会などから、当審議会に対して、弁護士報酬の敗訴者負担制度に対する反対の要望や意見書が届けられているのだと理解します。これは重く受け止めなければいけないと思います。
 同時に意見書だけではなくて、今、全国各地で敗訴者負担制度に反対する集会が開かれています。こうした集会でも実際に訴訟を行った人たちからも、こんなことではもう訴訟ができなくなるというような意見がたくさん出されております。この制度が消費者、国民に危機感を持って受け止められているというのが現状ではないかと考えます。
 ちょっと話が訴訟制度とずれるかもしれませんけれども、この4月1日からいろいろな消費者関連法が施行になっておりますが、その中で消費者契約法も施行になっております。この消費者契約法の目的に第1章第1条、一番トップのところですけれども、ここには「この法律は消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ」として、事業者と消費者とは構造的な格差があるということをまずうたっておりまして、その格差を埋めていくという考え方の下に消費者利益の保護を考えるという書きぶりになっております。
 訴訟提起の場合でも、やはり格差是正のための措置を講ずるべきであると考えられますが、それを考えた場合には、私は前からも主張しておりますが、片面的敗訴者負担制度という制度でもって導入するのであれば、このような不安が払拭されるのではないかと考えます。
 諸外国の制度がどうなっているかについて、私が出しました質問の中にありますが、それに対する法務省の回答の1ページのところで、イギリスのファスト・トラックという手続の例が記されています。これがベストであるとは言えないと思いますけれども、やはり訴訟提起者の保護と言いますか、利益を考えての一つの制度だと私は拝見いたしました。
 また、日弁連の回答書の2ページ以下にいろいろ事例が紹介されておりまして、これらの十分な検証が行われる必要があるのではないかと思います。弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入している国、例えばイギリスとかドイツなどでは、様々な制度的な工夫が凝らされてはいるわけですけれども、それでも敗訴者負担制度が存在するために、訴訟提起が抑制されているとの指摘があります。諸外国の実態の検討については、これらの点も含めて、慎重に行われる必要があると考えます。
 それから、当審議会に対して、たくさんの意見が出されていることを踏まえまして、当審議会の基本的な目的を踏まえ、そもそもこの制度を採り入れようということを提言した基本的な考え方、その辺を踏まえますと、その基本に沿うような弁護士報酬の敗訴者負担制度という考え方にするべきでありますし、そういう意味では35ページに書いてある弁護士報酬の敗訴者負担制度については、全面的に見直す必要があるのではないかと考えます。

【佐藤会長】ありがとうございました。ただ今、吉岡委員の方から御意見が開陳されたわけでありますが、この点にまず議論を集中して、何らかの結論を得たいと思いますので、どなたからでも御発言いただければと思います。

【藤田委員】私は、弁護士費用を原則的に敗訴者負担にするという制度がいいのではないかと考えているわけでありますが、その理由として、理念的に、訴訟費用の中で最もウェートの高いのは弁護士費用でありまして、それが敗訴者負担となっていないことによって、権利の完全な実現が阻害されているということが指摘されております。
 それから、現実的な問題として、昭和62年ごろから東京、大阪両地裁を中心にして、民事訴訟の運営改善運動をやったわけでありますけれども、その過程で司法書士会の方々と協議をした折りに聞いた話ですが、訴えを提起したいということで相談に来た人に、弁護士費用は仮に勝訴した場合でも相手方から取れないということを言うと、それではということで訴え提起を断念するという例がかなりある。そういう意味では、弁護士費用の敗訴者負担制度がないということが訴え提起の萎縮効果を生んでいるという側面もあろうかと思われます。
 しかし、吉岡委員が御指摘になっているような、いろいろな影響、あるいは弊害というものもありうるわけでありますから、それについて、ドイツ、フランス、イギリス等は敗訴者負担の制度を採用しているようでありますけれども、御指摘になりましたようないろんな付随的な手当てをしているわけであります。例えば、弁護士費用の全額ということではなくて、ある限度額までに制限するとか、あるいはフランス等で行われている裁判所の裁量等によって、弁護士費用を敗訴者に負担させるかどうかを判断する。訴え提起が真摯な目的に基づくものであるかどうかとか、あるいは立証の内容・程度とか、場合によっては敗訴当事者の資力等も考えるのかもしれませんけれども、裁判所の判断によって負担させるかどうかを決める。現実に刑事訴訟では現在有罪判決の場合でも訴訟費用を被告人に負担させるかどうかは、裁判所の裁量で決めているわけであります。
 その他に、類型的にこれは敗訴者に負担させるのはおかしいというものについては、特別法で除外規定を設けるということも可能でありますし、ドイツで行われているような保険制度でカバーするということも考えられますが、いずれにしても、そういうような諸手当てを考えた上で、原則的には弁護士費用の敗訴者負担を検討することが必要ではないかと考えます。

【竹下会長代理】先ほど吉岡委員からそもそも中間報告はどういうつもりだったのかという御疑念が出されましたので、先ほどは読み上げるのは省略いたしましたが、「たたき台説明」に細かい字で書いてありますように、中間報告の趣旨は、私の理解するところ、次のようだったのではないかと思います。
 まず、現行民事訴訟法は、訴訟費用と法律で決められた範囲のコストの負担については、敗訴者負担の原則を採用しているわけでございますけれども、弁護士費用については、原則的には訴訟費用に入らない。しかし、入るという場合もあるわけで、裁判所が弁護士の付き添いを命じた場合及び裁判所が当事者のために弁護士を選任した場合、このような場合に限っては、裁判所が相当と認める額の限度で、ただ今の意味での訴訟費用になるとされております。
 中間報告で提起している問題は、弁護士報酬も一定の範囲で訴訟費用の中に入れようではないかということでありまして、どうも敗訴者負担というと、負けた者が悪いから、負担あるいは制裁として不利益を課すのだというように受け取られるかもしれませんが、事柄の性質から言うと、弁護士報酬の一部を訴訟費用の中に入れましょうという話なのです。
 現在の我が国では、地方裁判所以上の裁判所では、民事訴訟追行のために、弁護士に支払う報酬というのは、訴訟に必要な費用と言ってもよいのではないかと思われます。具体的な弁護士の選任率は、そこに書きましたように、平成11年の司法統計によりますと、地方裁判所の第一審通常訴訟既済事件の場合、双方が選任しているのが41%、原告だけが34%、被告だけが4%、合計79%、原告だけについて申しますと、75%ですから、4人のうち3人は弁護士に頼んで訴訟をやることになっている。
 このような弁護士の報酬は、結局だれかが負担しなければいけないわけなので、確かに訴えを起こして負けて、自分が例えば病院で被害を受けたという方が、その被害を受けた上に、更に重い負担を課されるのはお気の毒だということは個人的にはよく分かりますけれども、しかし、訴訟に掛かった費用はだれかが負担しなければならないのですから、それは負けた方の人が負担せざるを得ないのではないかと思われるわけです。
 もし、厳格な意味で各自負担だと言うと、原告が勝った場合には、弁護士報酬の部分だけは権利が切り詰められるし、被告が勝った場合について考えると、被告は根拠のない訴えを起こされて、弁護士費用という損失だけ残るということになってしまうわけです。
 そうは言っても、中間報告の記載のままではいろいろ問題があるというのは御指摘のとおりですから、先ほども申しましたように、証拠収集手段の早期化を図って、なるべく訴訟の勝敗の見通しを立てやすくするという手当てもしようということになっております。
 また、元々、中間報告でも、弁護士報酬の全部を負担させるということではなく、勝訴者が実際に弁護士に支払った報酬額と同額ではなくて、その一部に相当し、かつ当事者に予測可能な合理的な金額とすべきであると言っているわけで、これはあくまでも仮の話ですけれども、仮に今の日本弁護士連合会の標準報酬基準の中での着手金、これは全体の報酬額の3分の1くらいということになっておりますけれども、例えば着手金の限度で負担させるということも考えられるわけです。そうなると、それほどの大きな負担ではない。
 弁護士報酬の自己負担という現在の原則が訴え提起を阻害するという面につきまして、今、藤田委員からも御指摘がございましたが、前に菅原教授からここでご報告いただいた「民事訴訟利用者調査」でも、現実に訴えを提起し、または応訴した当事者だけを対象としても、訴訟となることを躊躇した理由の主要なものは、「時間が掛かる」こととともに、「費用が掛かる」ことだと言われています。これは調査報告書の中に出ていることでございます。その場合の費用の主要な部分は弁護士報酬なので、やはり弁護士報酬の各自負担ということは訴えの提起を躊躇させる要因の重要な一つであるということは否定できないのではないかと思います。
 いろいろ制度を具体的につくる場合に、吉岡委員が御指摘になったような点に配慮し、工夫をする必要があるとは思いますけれども、中間報告の考え方がおかしいから、全面的に見直さなければならないかどうかという点については、なお、疑問があるように思われます。

【吉岡委員】反論して申し訳ないんですけれども、会長代理がおっしゃる、「負けた方が負担する」という考え方の基本的なベースは、当事者同士が対等な関係にある場合だと思います。ただ、私たちが実際に相談を受けたり、いろいろ取り組んでいるケースは、ほとんどは対等な関係にない場合が多いのです。対等な関係にない上に、赤ちゃんを殺されてしまったり、家族がほとんど日常生活ができないような状態になってしまったり、いろいろな問題があります。
 それから、変額保険の場合も、対等な関係ではないわけです。個人対企業という関係であったり、個人対病院、あるいは専門家、そういう関係で、それでも争わなければいられないということで、真実の追及と同時に、侵害された権利なり、あるいは精神的な侵害なり、そういうものに対して回復をしたいということが非常に強いと思うのです。
 対等な個人対個人の争いであれば、それは対等なんだからという考え方があると思いますし、もう一つ、おっしゃっていた濫訴の問題、理由もなく訴えるという問題、そういうような問題であれば、これは別かもしれませんですけれども。

【竹下会長代理】私は濫訴の弊害ということを言っているわけではありません。

【吉岡委員】私の思い違いでしたら、お詫びします。ただ、対等ではないような状況で、それでも訴えなければならないという心情、そういうことを理解しなければいけないと思いますし、この審議会の改革の方向性として考えなければいけないのは、そういう弱い立場にいる人たちが公正な判断を求めて訴えることができる制度に変えていかなければいけない。制度を変えていこうというときに、弁護士費用が高いからなかなか訴えられないということは、皆さんおっしゃっているわけですけれども、その弁護士費用が高いというのは、自分が頼む弁護士さんも高いかもしれませんが、相手方が頼む弁護士報酬も同様に高いわけです。ですから、訴えを起こすかどうかというときに、勝つか負けるかの判断ができない状況では、相手方の弁護士費用も場合によっては、持たなければいけないということになれば、提訴をあきらめてしまうことにもなりかねませんが、その提訴をあきらめてしまうような、誤解かもしれませんけれども、そういうふうに考えてしまうような書きぶりで敗訴者負担のことを書くことになると、これは国民の理解は得られないのではないかと私は思っております。

【山本委員吉岡さんがおっしゃることはよく分かるんですけれども、裁判のルールというのは、属性に関わらず客観性がないといけないと思うんです。ですから、吉岡さんは、個人が弱者、企業は強者、とおっしゃっていますが、逆な場合だってあるわけです。個人の方に正当性があって、それで企業から弁護士費用を取るということだってありうるわけです。だから、吉岡さんが主張されている問題というのは、法律扶助とか、そういった分野で議論されるべき話であって、当事者が公平、かつ平等を保障された上での争いということに対して、個別の属性を持ち込むようになってくると、ルールができないんじゃないかという感じかしますけれども、どうでしょうか。

【吉岡委員】私にはそうは思えないんです。例えば弁護士費用が50万円としますね。それは個人にとっては大変重い額です。ですけれども、企業にとってはそんなに重い額ではないはずです。だから、幾ら出してもいいとか、そんなことを言っているんじゃないんですけれども、やはり負担感というのは全然違います。これは企業を訴えると言っているわけではないんですけれども、公平な判断をしてもらう、そういうことを考えますと、やはり訴訟を起こす前に、それを阻害する要因になってしまう。そこのところは避けなければいけない。その避ける方法として、諸外国ではこういうような手当てがあるというようなことをお出しいただいているわけですが、そういうことも一つの参考になるとは思いますけれども、少なくとも普通の人が何か事件に遭遇して訴えなければいられないというときに、その入り口のところで訴えることをあきらめてしまう、そういうことがないような提言の仕方にする必要があると思います。

【水原委員】原則と例外をちょっと混同しているのではなかろうかという気がいたします。弁護士報酬を訴訟費用として敗訴者に負担させる、これは非常に常識的なことだと思います。ただ、吉岡委員がおっしゃるような場合、すなわち敗訴者に負担させることが酷なような一定の訴訟類型に関しては、これは例外として考えるべきであって、その例外として考えるものを原則として双方の負担という考え方に持っていきますと、非常に議論が混濁してくるなという率直な感じを受けました。
 私は、訴訟費用につきましては、先ほどもいろいろなところに出ておりましたけれども、訴えたいと思っても、勝っても自分のところの弁護士費用は自分で払わなければいけない。自分に正当な理由があったって訴えが起こせない場合がしばしばあるんだという声は私は率直な国民の意見だと思います。これは民事司法制度を利用させないような方向に作用している一つの力だろうと思います。それをなくして、みんなが訴えたいときには、勝ったならば相手方にこちらの弁護士費用は訴訟費用として一部負担してもらえるんだとなりますと、裁判所の門をたたくことが多くなってくるんじゃなかろうかと思います。
 さはさりながら、一定の訴訟類型、これは中間報告にも書いておりますけれども、一定種類の訴訟はその例外とすべきだと。その例外とすべきものをどういうふうに考えるのか、合理的な説明のつく類型というのはどんなものなのか、それから、費用の負担の額をどういうふうにしたらいいのかということを議論すべきではないかと思っております。

【中坊委員】私は今の水原さんのおっしゃったことには基本的に反対なんです。私自身も前回この問題が審議されたときに、先ほど藤田さんや皆さんもおっしゃいましたように、訴訟費用は各自負担ということでは、権利の完全な実現という意味では、それだけ目減りするんだから、おかしいんじゃないかというのは確かに一つの筋だと思うんてす。これは皆さんおっしゃるとおりです。私も敗訴者負担という問題について、当初の審議ではそれほど反対せずに、ここはこのような敗訴者負担が原則であって、他方で吉岡さんが縷々おっしゃるようないろんな問題を考えなければいけない場合があるときには、例外的に考えなければいけないというふうに思うと考えていました。裁判を起こす以上は勝つのが目的だから、負けることなどを頭に入れてやるのは、むしろ最初から敗戦的に考えるのはおかしいんじゃないか、私自身も率直に言ってそういう考え方を持っておりまして、初めにこの問題を討議したときには、さほど訴訟費用の敗訴者負担については反対をしなかったと思っています。
 しかし、中間報告後の反響には、私自身がびっくりしました。我々の中間報告の中で、敗訴者負担ほど反対の意見が寄せられているところはないと言っていいくらい、圧倒的に反対の意見が寄せられています。
 私自身も、数多くの弁護士に会いました。それはやはり依頼者がその問題についてどう思うかという話について聞きました。そうすると、まず第一に、訴えを起こすときには、おっしゃるようにそれほど勝てるということについては、自分が今払う以上に更にまた負担しなければいけない、被告の代理人までの報酬を払わなければいけないということは、事件を依頼する側にとっては、耐えられないということは言います。これは私がいささか少数派であったんで、大多数の弁護士が同じことを言っています。先ほど余り出ていないけれども、今度は被告になります。そうすると、被告になったときに、争うか争わないかという問題があるときに、負けたら原告の費用まで負担しなければいけないと言われたら、争いたいと思っていても、争うという意欲をなくして、裁判所から言われれば和解をするという方向に落ち着いていく。これは私も自分でも憶えきれないくらい、それこそ何十人という人に聞きました。ほとんどすべてその点を言うんです。
 これは藤田さんや水原さんに申し上げて恐縮かもしれないけれども、それほど弁護士さん全体が依頼者とどう接しているかということについては、余り経験も少ないでしょうし、私自身はそれだけ反対があるんで、この際多くの人に聞いてみました。本当に切実にこの問題を感じています。
 だから、私はそこへ行って一々説明するんです。先ほど吉岡さんの言われたように、より利用しやすいということだから、頭から今言うように、濫訴の防止とか、そんなこと言っているのと違う。そのためにやっているんだからと言うんです。そうすると、敗訴者負担を原則として導入するという言葉を、この前我々としては中間報告に書いた。

【佐藤会長】「原則として」ではなくて、「基本的に」です。

【中坊委員】「基本的に導入する方向で考えるべきである」とした。だから、私はここで考えなければいけないと思うのは、そういう権利を完全に実現するために阻害事由になるという筋、これも一方で考えなければいけないことだと思います。
 しかし、同時に相手方になった者あるいは起こす方の、「負けたら」と思う気持ち、実際上危険性を感じることの萎縮作用、これもパラレルに見てあげなければいけない。だから、どっちかが基本でどっちかが例外とか、こういうふうに見たところに問題がある。
 現に外国の諸制度を見ても、そのための補強的な措置がとられている。場合によれば資力まで計算しましょうとなっている。先ほど吉岡さんがおっしゃるように、構造的に弱い人に、いろんな補強策を講じてやっている。我々の文章がやや簡明に書きすぎていた。
 中間報告でも、本当に訴えの提起を萎縮させることが生じてはならないという視点に立って、どうすると書いてあるんですね。そのことが非常に世の中でそうは取られずに、そこが世の中に知れ渡っていくというときに問題が起きている。私はそれが誤解だと言うならいいんです。しかし、ことほどさように、萎縮作用、危険性を考えて頭に入れて、本人はそうするというのは、率直に言って、本当に自分でも予想外なくらい、影響するのです。
 私はどちらかと言えば顧問会社が多いでしょう。余り市民事件を私自身はやれてなかった。だから、市民事件を多くやっている弁護士に聞けば、これは全くと言っていいくらい、例外なしに敗訴者負担は非常に萎縮させると言う。あるいは不当な争いであっても、争わないという形になって表れてくると言っていますから、その事実そのものは現実の世の中として、我々が頭の中の理屈だけで言うんじゃなしに、現実にそういうことであるということは、我々の審議会としてもこれを考えなければいけないと思います。

【髙木委員】今、中坊さんが言われたことに近いと思うんですが、私どものところも組合員からいろいろ電話相談等を受けていまして、裁判で弁護士さんにお願いをしたら、費用が掛かるということは大体承知をしてかかってきているんですが、先ほど水原さんおっしゃったように、そういう費用が掛かるから止めたというのは、よくよく考えて相談に来るわけですから、費用が掛かるなら止めたという人がそんなに多いのかなとも感じます。
 もう一つ、吉岡さんのいろんな御質問で、例えば法律扶助等を敗訴者の一部にも給付したらというお話がありましたが、法律扶助は簡単にどこの国も、負けた方のを補填してやるというルールにはなっていないと思うんです。だから、訴訟費用保険だとか、別途そういうものでカバーしているんですが、日本に今そういう仕組みがあるのかないのか。将来そういうものができていくのかどうか、そんなことも見極めがついていないのではないですか。

【竹下会長代理】弁護士会が工夫なさって、損害保険会社と開発されて、昨年からできています。

【髙木委員】そうなっていくという世界を想定されているのかもしれませんが、私が申し上げたいのは、敗訴者負担制度、我々は今まで余り突っ込んで議論してこなかったということです。一、二度ごく簡単にしたけれども。

【竹下会長代理】そうでもないです。

【髙木委員】そうですか。一方で懲罰的賠償とかクラスアクションだとかいったものも含めていろいろセットの中で、こういう議論もありうるのかという感覚で私自身は受け止めてきましたけれども、一方で、懲罰的賠償はなしだとか、落とすものは落として、これだけ残すみたいな印象が私にはありまして。

【竹下会長代理】逆じゃないですか。懲罰的損害賠償とか、クラスアクションなどを取り入れているアメリカでは敗訴者負担ではなくて、そういうものがないドイツとかフランスでは敗訴者負担というか、弁護士費用の訴訟費用化なのです。

【髙木委員】法務省のペーパーにはアメリカにはそういうのはないと書いてあるんだけれども、日弁連のペーパーを拝見すると、アメリカでもいろんな制度の各論の部分に入っていて、ディスカバリーがあるアメリカでもこれはないという原則論で決めつける議論はいかがかなと思っているんです。
 そういうことも含めて、小さな司法だという中で、日本は濫訴という状況にはありませんが。大方の日本人の受け止め方も含めて、今、中坊さんが言われたように、市民事件をやっておられる弁護士さんはほぼ全員反対されています。それはどこにその理由があるのかということをもう少し議論しないと、観念・哲学で整合性があるからということだけで、こういうものを制度的に押し切ったときに、どういうことになるのかという懸念を大変感じます。

【竹下会長代理】それはよく分かるのですが、前に法務省で民事訴訟法改正をやりましたときに、訴訟費用の問題だけは後に残して、費用に関する研究会を、これには弁護士会からも参加していただいて、検討したわけです。
 そのときは、日本弁護士連合会は一部負担ならよいという御意見でしたし、この審議会でも昨年の6月13日に、この民事司法の問題についてプレゼンテーションをしていただいたときも、敗訴者負担の制度の採用を前提として、その制度設計の在り方について日弁連の御意見が出されていたわけです。
 ですから、弁護士さんの大部分は実は反対なのだと言われると、日本弁護士連合会は弁護士さんの大部分の意見を代表していないのかなという感じがします。そんなことはないのだとは思いますが。

【中坊委員】日弁連の意見を説明してください。

【日弁連(水野司法改革実現本部事務局次長)】日弁連の意見につきましては、4月6日付けの回答書の冒頭のところに記載してございます。

【竹下会長代理】それはその後の意見ですね。去年の11月以降のですね。

【日弁連(水野司法改革実現本部事務局次長)】平成12年10月18日付けの理事会で意見書を採択しておりまして、弁護士報酬の敗訴者負担の一般的導入には反対するという方針を確認しております。

【佐藤会長】今の竹下代理の御質問は、前の意見ではどうだったかということです。

【竹下会長代理】昨年の6月13日のペーパーですね。

【日弁連(水野司法改革実現本部事務局次長)】その時点でも、国民が裁判を受ける権利を保障するという観点を十分に考えてもらいたいということを申し上げております。

【竹下会長代理】弁護士報酬の敗訴者負担の問題について、日弁連としては反対なのだということではなくて、例えば負担する弁護士費用の範囲とか、そういうことを議論しておられるのですね。一律に裁判官の裁量に委ねる制度は望ましくないとか、ということは、こういう制度を入れるというのが前提で、しかし、その具体的な在り方については、そう単純ではいけませんよという御意見だったのではないでしょうか。

【日弁連(水野司法改革実現本部事務局次長)】ですから、一般的な導入ということについては、6月のペーパーで賛成するということは申し上げていないはずです。

【竹下会長代理】それはどうでしょうか。

【日弁連(水野司法改革実現本部事務局次長)】片面的敗訴者負担制度といういろんな制度の枠組みを御提案しているわけです。

【竹下会長代理】それは知っております。

【中坊委員】今おっしゃるように、私がごく少数の弁護士の意見を聞いているということはないです。だから、私が先ほどから言うているように、あんたたちちょっと誤解していますよと言うても、中間報告の「基本的に」というところが非常に引っ掛かっているんで、私たちは、そもそも私らのこの審議会は敗訴者負担原則導入という意味ではないんですよという趣旨を言うんですけれども、市民事件をやっている弁護士はそのようには受け取らないのです。これは事実だと思います。

【佐藤会長】中間報告は非常に苦心して書いた表現でありまして、「原則として」という表現を使わなかったんです。例外の方が、さっきの吉岡委員のお話ですが、例外じゃないかと受け取られた向きがあって、我々が考えていた以上のリアクションがあったということではないかという感じがするんですけれども。
 他の委員の方も御意見を。石井委員どうぞ。

【石井委員】私は、原則としては、敗訴者負担というのは基本的にいいんじゃないかという感じがしているんです。その中で特に知的財産権などの問題で、非常に小さい企業などが争う場合に、結局、最終的には泣き寝入りするというケースというのは非常に多くなっているということだけは確かなものですから、そういったことを念頭に置きなから、今度やる場合には制度設計していくという方針がよろしいんじゃないかと思っています。

【佐藤会長】一口に企業と言っても、その中にはまたいろいろ種類があると。

【石井委員】ですから、吉岡さんの言われたような、個人的なあれと、企業でもいろいろな格差があるということです。

【井上委員】私は、民事は素人ですけれども、両面のことを皆さんおっしゃっており、それぞれもっともな理由があるだろうと思うので、それをどう整合させていくか、決して整合しないような話ではないんじゃないかという感じがするのです。竹下先生が最初におっしゃったように、ある社会的紛争が起こって、それはどちからかが根拠があって、どちらかが根拠がないという場合から、両方それぞれ言い分がある、それぞれ根拠があるという場合までいろいろあると思うんですけれども、その紛争を裁判に持ち込んだ場合の費用負担をどうするか。基本的にはそういうことだと思うのです。これは紛争に巻き込まれ方も、交通事故に遭って怪我をしたようなもので、それを直すのに費用が掛かると考えれば、両方が負担するという考え方もありうる。恐らく今までは、弁護士に掛かる費用についてはそういうふうに考えられていたのじゃないかと思うわけです。
 しかし、そうじゃなくて、言い分に根拠がある方は他の訴訟費用と同様、その費用を負担しない。根拠がなかったというか、簡単に言えば負けた方が負担するというのも一つの考え方として筋が通っていると思うんです。
 他方、他面につきおっしゃっていることも確かなので、弁護士報酬も訴訟費用として適正な範囲といえるものについては、原則と言うか基本と言うかは別として、敗訴者が負担するという考え方を導入しつつ、しかし、不都合が生じるところはちゃんとした手当てをしていくというのは、一つの制度として十分整合するんじゃないかと思うのです。それは決して、後の部分を犠牲にしようとしていると、そういったことは、だれも考えていないと思うわけです。書きぶりだけの問題じゃないのかもしれませんけれども、その辺の工夫というのはありうるのではないかという感じがするのです。

【中坊委員】先ほども少し出ていたように、この問題を費用負担だけに限定して考えてよいのかどうか。勝つか負けるかということは事前に考えることだから、先ほども少し出ていましたけれども、事前の証拠収集手続とか、こういうものが有機的にみんな結合してくる問題なんです。それから懲罰賠償とかいろんな問題が有機的に結合してくる中において、弁護士費用の敗訴者負担のところだけが突出して、それだけを取り上げて、こっちだあっちだと言い出すと余計に困難になってくるから、我々の意図は少なくともそんなに、今、吉岡さんが御心配していることではなかったと思うんです。そこの趣旨が、基本的に導入を考えるべきである、例外的に導入しないところもあると書いたら、それを非常に反発されているということですから、私は表現をもっとよく考えて、まさに市民から誤解を招かないような、我々の意図はそこにはなかったんだから、そこをもう少し明確に打ち出す方向で、このところを表現していかないといけないのではないかと思います。

【髙木委員】今、竹下さんが言われた民訴費用制度等研究会、これを私も読ませていただいたんですが、一番最後の結論のところだけを言いますと、国民の一般的な意識を調査検討する作業も不可欠とまとめられています。こういう作業が今、現にあるのかないのか。それから、現時点で直ちに実現に向けての立法作業に着手すべきであるとの意見は少数、これは平成9年の話ですけれども、将来の問題として、検討を進めるべき点はあるということで、そこで検討されたときの「弁護士人口の増加が進み」という表現、これはいつごろから増加してくると捉えるのか。それから、「法律扶助制度の充実」、これは一部実施をされました。「新民訴法の施行による弁護士業務の変化がある程度収束した段階」。こういう段階に今あるのかないのか、等々いろんな要件を付して、そうした条件の下で、検討すべきだという。だから、現在の段階で導入ということまで決め付けるよりは、今ここに書かれている要件等をもう少し吟味した上で、中坊さんは表現ぶりを少し変えたらとおっしゃったけれども、私は「将来の課題として検討を継続すべきである」ということが今のいろんな各界からの御指摘じゃないかと思います。

【水原委員】今研究会の報告書をお読みになられたけれども、その中には国民の権利、法的地位を実質的に保障するという観点から、将来的には弁護士費用の一部の敗訴者負担制度を導入することが望ましいとする意見が学者委員を中心に多数を占めたということでございます。
 それを前提でまず議論があってしかるべきだと思うんで、それに、今言うように、どの範囲の分を敗訴者に負担させるのかということをあらかじめ決めるとか、これから更に検討しながらということではないかという気がします。

【髙木委員】水原さん、あなたは私が申し上げた部分の前の方を読んだ。

【水原委員】後ろの方だけ読むとそうなるんで、両方合わせてみなければ分からないところです。

【髙木委員】我が国の司法に及ぼす影響が少なくないと書いてあるんですよ。

【北村委員】私は弁護士費用の敗訴者負担という考え方はありうるんじゃないかなと思っています。そのときにいろいろな御意見が寄せられたというのは、弁護士費用がどのくらいになるのか分からないという点もある。あと、どこまでの範囲で負担させられることになるのか。だから、そういうことをはっきりとさせておく必要があるんじゃないかと思うんです。
 確かに、全部のケースについてこの敗訴者負担を貫いていくということは難しいと思いますので、除外されるような事件というか訴訟について明確にしておくというのが必要だと思います。いつもここでの議論は、論点整理だとか中間報告というものを踏まえてずっと来ていると思うんです。この部分についてだけ、中間報告をさっと捨て去ってしまうというのではなくて、意見がいろいろと寄せられているというのは、こちらが十分に考えなければならないと思うんですけれども、他のものと同じような立場で検討していくというのが筋じゃないかなと思います。

【吉岡委員】余り長く言いませんけれども、北村委員がおっしゃるのも、確かにそういう面があるとは思います。ただ、今回の中間報告以降、意見を寄せられた方、それを見ていますと、非常に敗訴者負担の問題について反対という意見がたくさん寄せられている。突出しているんじゃないかと、私はいろんな意見を見ながら思っておりますし、勿論、私のところにも意見を言ってきています。
 それだけ国民の声が寄せられている。しかも、中間報告ではいろいろな意見を言ってください、そういう意見を入れた上で結論を出しますということを書いているわけです。ですから、実際に意見がたくさん寄せられている。そこのところは尊重しなければいけないのではないかと、そのように考えます。

【北村委員】意見が寄せられているというのは尊重しなければならないと思うんです。意見が寄せられているのは、この敗訴者負担の問題と、それからロースクールの問題についても非常に意見が寄せられていると思うんです。ですから、意見についてそれを配慮してこちらで議論していくという姿勢はあくまでも必要だと思っています。

【佐藤会長】大体御意見は伺ったかと思いますが、ちょっと休憩をはさみたいと思います。今日は最初に申し上げたように、全項目にわたって一応意見をいただきませんと、後の方がしんどいものですから、御理解をいただきたいと思います。この敗訴者負担の問題は、吉岡委員も最初に言われたように、中間報告では、裁判所へのアクセスの拡充という中で取り上げて、外国の諸制度もいろいろ検討したんですね。外国の諸制度を見ると、基本的な考え方は考え方として、いろいろな配慮がみななされている。国によっていろいろ出入りはありますけれども、そう違わないと言えるような配慮がなされているというのが、私どもが中間報告を書くときの前提にあった。そこで、「原則として」という言葉は使わないで、「基本的に」としたのですが、例外という言葉を使ったものですから、原則・例外と受け取られて、私どもの意図するよりもややカテゴリカルにこの中間報告が受け取られた感じがあります。
 中間報告の書き方にそれなりの責任があって、そう受け止められてもやむを得ないというところもあったのかもしれません。ですから、出発点は出発点として、アクセスを拡充するというところを十分に配慮しなければいけないということだろうと思います。

【髙木委員】アクセスの拡充にはならないと、みんな思っているわけです。

【佐藤会長】ある観点から見るとそうなりますけれども、しかし、他面、さっきの「民事訴訟利用者調査」についての菅原教授の分析にもあったように、訴える方にとってそこが阻害要因になっているところもあるわけですから、100%そうだというわけでもないかもしれません。受け止め方は様々ですけれども、考え方をそこに置きながら他の面を十分に配慮するということではないでしょうか。裁判所、法務省、弁護士会から出していただいたペーパーを読みましても、その辺の感じのことがよく出ているような気がします。
 井上委員もおっしゃり、中坊委員もおっしゃったことですが、私どもの趣旨がこの中間報告の表現で必ずしも正確に受け取られていないとすれば、書きぶりをもう少し考えさせていただくということでいかかでしょうか。
 後で、証拠収集のところの問題も議論します。保険制度は既にスタートしているわけですし、様々な仕組みの中でこれを考えなければいけないというのはおっしゃるとおりだと思うんです。
 休憩をはさみました後、証拠収集の方にも入りますので、この段階では、とりあえず趣旨は十分踏まえて表現ぶりを工夫するということでいかがでしょうか。井上委員がおっしゃるように、余り考えていることは違っていないのかもしれないという思いもしますので、その辺の書き方については、代理にまた頼まないといけないんですけれども、十分考えさせていただくということにしたいと思います。

【竹下会長代理】当然、皆さんに御意見を伺うわけですから。

【佐藤会長】そういうことで、とりあえずは今申したように。

【中坊委員】おっしゃるように、先ほどから出ていたように、敗訴者の負担の条件や範囲の問題もあるわけでしょう。それらの答えですら、いろいろあるわけで、本当にそういう意味では多種多様なんです。それが片面的な場合もあるし、中には外国のように資力に応じてやるものもあるし、いろいろあるんだということです。そういう範囲を今ここですべてをぴしゃっと決めるというわけにいかないわけです。そういう段階として、それも視野に入れてというか、その辺りをうまいこと文書で出していただくことをお願いしたい。

【佐藤会長】そうですね。この問題はとりあえずこの時点ではそういうことにさせていただいて、休憩をはさみ、18分再開ということにさせていただきます。

(休 憩)

【佐藤会長】それでは、時刻になりましたので再開させていただきます。
 先ほど1ページの「裁判所へのアクセスの拡充」「利用者の費用負担の軽減」のところを敗訴者負担を中心に御議論いただいたわけですが、「民事法律扶助の拡充」「裁判所の利便性の向上」、この辺はよろしゅうございますね。

【竹下会長代理】そうですね。

【髙木委員】裁判所の場所だとか、例えば、今、それぞれ裁判所が立派な建物の中にあったり、いろいろなんですが、例えば神奈川県で言えば川崎駅を乗り降りする労働者というのはものすごく多いわけです。川崎駅の前に、労働関係だけでもいいから、分所みたいなものを置いてくれるとか、そういう意味での利便性が必要ですね。

【竹下会長代理】それは考えられますね。

【髙木委員】ドイツの例ですが、本当にちょっとした町中のサークルのところにあったりしていますので、そういう発想で裁判所の配置のことも考えていただければと思います。

【佐藤会長】中間報告でも、38ページの「裁判所の在り方について」というところで、その点は言及しているんですけれども。

【竹下会長代理】2ページの上にも、裁判所の配置は不断に見直すべきだということは指摘されています。

【佐藤会長】今の御趣旨はこの中で。

【竹下会長代理】それはおっしゃるとおりですね。余り立派な建物にしてしまうと管理ばかり厳しくなって、利用しにくくなってしまうということがありますから。

【佐藤会長】では、今の点はよろしゅうございますか。
 それでは、次の2ページの「(4)家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実」、「参与員制度拡充」など、これは先ほど代理の方から御説明がありましたけれども、この辺も御異論のないところかと思いますが、よろしゅうございますか。

【竹下会長代理】「家庭裁判所・簡易裁判所の機能」の一番上の○です。

【佐藤会長御議論が分かれたのは、「(5)その他」のところでして、先ほども既に出ておりますけれども、懲罰的損害賠償制度、クラスアクション、団体訴権、この辺りについて御議論があるかと思いますが。

【石井委員】今の労働組合の関係で、新橋のそばとかというお話で、なるほどと思って感心して伺っていたんですけれども、そういう意味で、日本中にある商工会議所のいろいろな組織をうまく利用していただくということも、あれしたらどうかなと。これは全国的に非常に有効なんじゃないかと思います。それも、お考えに入れていただきたいと思います。

【竹下会長代理】それはどこの点についてですか。

【石井委員】それは「裁判所の利便性の向上」のところです。「裁判所へのアクセス拡充」の一つの。

【竹下会長代理】情報提供の窓口として、ということですか。

【石井委員】そうですね。

【佐藤会長】場所を借りて何とかということもあるのかもしれませんね。

【藤田委員】支部、簡裁を整理統合したところに、たしか市役所や何か、受付相談、手続相談というのに行っていた例があったと思うんですけれども、最高裁、今はどうですか。そういう企画はありましたね。家庭裁判所の出張所が併置されているようなところで。

【最高裁(菅野民事局第二課長)】アクセスの拡充というような意味では、市役所等の公共団体等にいろいろリーフレット等を配付させていただきまして、そういうところでも情報入手できるような取り組みなども進めているところでございます。

【竹下会長代理】それは1ページ目の(3)の「①相談窓口等の充実」というので、これは今度はかなり広い範囲でやろうということで、裁判所も随分積極的に考えていただいているようです。

【吉岡委員】裁判所の配置の問題では、今、髙木委員もおっしゃいましたけれども、東京の場合も、簡裁を含めて霞ヶ関に集中してしまったように思っておりますけど、やはり立派な建物は確かにきれいで明るくて中に入ってみると気持ちがいいんですけれども、では、ちょっとしたことで相談に行くというようなときにサンダル履きで行けるかというと、そうはいきません。もう少し身近にある必要があると思います。他の地域のことはよく分かりませんが、やはり合理化し、統廃合になって、きれいな建物になっても、これは弁護士過疎のことも同時に考えなければいけないと思いますが、裁判所過疎にならないように配慮する必要があるのではないかと思います。

【佐藤会長】いろいろな工夫が将来的にはあるんでしょうね。弁護士も増え、裁判官も増えて、ということになってくれば。

【髙木委員】先ほど懲罰的賠償のお話は、たたき台を読むと今回はなしだというお話だと思います。懲罰的賠償というと、言葉自体が刺激的かもしれませんが、例えば、労働基準法の114条ですか、付加金を課すとか、請求によって払うとかという仕組みがあったり、そういう意味では、元々損害賠償額の認定が低い、低くないという議論もありますけれども、やはり、それはあんまりだねという、単に損害がこれだけだからその額だけ弁償すればそれでいいわけではない、要するに、司法の判断がある種の好ましい秩序みたいなものを形成していくという点にも配慮したルールがあっていいじゃないかと思います。それから、多数学説によるというのもあったけれども、少数学説にも時には耳を傾けるべき論理もあるはずで、今、我々は改革審議会という名前で改革しようとしているときに、多数学説が常に改革的であるかどうかは私はよく分かりませんが、印象を与える理由がある訳であり、そういう意味で、懲罰的賠償といった発想は今回は全くなしだということだけでいいんでしょうかと思います。

【竹下会長代理】勿論、今後、日本の国全体の考え方や価値観が変わってくれば、一般法の、つまり民法でいう損害賠償というものの内容も変わってくるだろうと思うのですね。そういうことになってくれば、場合を分けて、懲罰的損害賠償を認めるということもありうると思うのですけれども、現在のところは、やはり日本では損害賠償というのは、被害者に生じた損害を原則的には金銭で補てんする制度だと考えられていますから、それを金銭で補てんした以上に、更にけしからんから、非難されるべきだからといって賠償金の上乗せをするというのは、実体法の制度と基本的に相容れないといいますか、そういうところがあるので難しいのではないかと思うのですが。

【髙木委員】それから、21世紀のいつごろまでを想定するのか、50年先なんていうのはだれも保証はできないでしょうけれども、そういう意味で、21世紀どんな日本社会になっていくのがいいのかということで、変な失礼な言い方をしたら、やり得みたいな話がまかり通っているとしたら、どこかで社会的な歯止めを掛ける必要があるのではないかと思います。

【吉岡委員】それとの関連ですけれども、私は前にも懲罰賠償のことは申し上げたことがありますが、やはり非常に悪質な場合には、懲罰という考え方を入れてもいいのではないかと考えております。懲罰賠償があるということで、悪質なものがだんだんなくなっていく、そういうことになれば非常にいい効果が出てくると、そのように考えています。
 ただ、懲罰賠償というと、非常に罰則が重すぎるという考え方があるのも確かなのですけれど、確かに損害が適正に回復されるのであればいいのですが、今の損害賠償請求の場合には、勝った場合でも賠償される額が非常に低いので、原状回復はできないというのが大体だと思います。それから、精神的な損害に対しての慰謝料の考え方については更に非常に低いということがあります。そういうことから言うと、やはり懲罰的な賠償が必要という声がどうしても利用者、国民の側からは出てくるという、その点は考えておく必要があるのではないかと思います。
 もう一つは、実際の裁判の中でやはり受けた損害に見合うような判決が出るということが、もしかしたら前提ではないかと思いますけれども、身近な例でも、損害額のたった何分の1というような事例が結構ありますので、その辺のところを考えながら懲罰賠償のことを考える必要があるのではないかと思います。
 それから、製造物責任法を検討したときにも、懲罰賠償の問題が議論されておりまして、そういう中では、青天井というんですか、上限なしという考え方では非常に導入しにくい、そういうことから2倍賠償とか3倍賠償、そういうことを検討したらどうだというような意見も出ておりました。ただ、個別法としては入れられなかったのですけれども、やはり悪質3倍とか、そういうことと原状回復、その辺を併せて考えていただけるといいと思います。

【竹下会長代理】ただ、損害額の認定が低いということについては、裁判所はそんなことはないとおっしゃるのかもしれないけれども、従来、ややもすると、実際の損害の填補になっていないという批判はありますね。

【藤田委員】名誉毀損の損害賠償額は、私も低いと思いますけれども。

【佐藤会長】あれは私も低すぎると思う。

【竹下会長代理】新しい民事訴訟法では、だからこそ、損害額の認定につきましては、特別の規定を置いて、そう厳格な証明を必要としなくても、裁判所が、損害額はある程度裁量的に決められるという規定をわざわざ置いたのですね。ですから、それがもうちょっと活かされてくるようになれば違ってくるのではないかと思います。

【山本委員】確かに、日本では、名誉毀損とか特許侵害など賠償額が低いということはありましたけれども、損害の捉え方などだんだん改善されてきており、個別の対応が可能な問題と考えます。本来的には、制裁とか懲罰という機能は、やはり刑事の分野ではないですかね。勿論、民事賠償でもきちんとした原状回復の必要額が算定されなければいけませんけれども、どうもアメリカの懲罰賠償制度というのは、自分が受けた損害以上に賠償をもらったり、日本人の公平感覚というか、ちょっと日本の現状には合わないのではないかという感じがします。

【中坊委員】この懲罰賠償制度をこうして審議会として取り上げる以上は、やはり一つの物の考え方というのは示すべきではないかと思うんですね。不法行為とか違法行為というものを抑止して、21世紀の我が国の社会の安全を守るというのは、我々が審議会でやっている一つの大きな要素ですから、それが今おっしゃるように、違法行為や不法行為があったとしても、それはすべて刑法でしか賄えないというのでよいのかという基本的な問題があると思うんですよ。故意があるとか重過失があるとかの場合に、抑止を刑事だけではなしに民事でもそれを考えるべきだという物の考え方が基本的にありうるということだと思いますね。
 それからもう一つは、まさに懲罰賠償というのが問題になってくるのは、確かに今の裁判所が、今、竹下会長代理のおっしゃるように損害の填補をするまでだというよりも、損害の填補にもなっていないというのが、これは逆に国民の常識みたいになっています。特に、先ほどから藤田さんもおっしゃったように、名誉毀損による損害賠償なんて、私も裁判やりましたから分かりますが、実際、本当にばかげていますよ。訴訟費用の何分の1も出てきませんよ、現実には。そして、謝罪広告というのはなかなか認めない。だから、私の場合も、週刊誌だったけれども、週刊誌があれほど中吊り広告などで大きくべたべたと書いたのに、謝罪広告を認めない、損害賠償何百万円、いいところで百万円、今度、清原選手のケースでやっと一千万円とかでしょう。
 本当に、そういう基本的な問題点が今あるということをこの審議会では指摘したり、物の基本的な考え方を示したりする方法もある。

【井上委員】いろいろな考え方がありうると思うのです。中坊先生がおっしゃるように、抑止だとか予防というのは別に刑事特有の問題ではなくて、法制度全般として考えていくべきもので、民事でということもありうると思うのですけれども、その場合も、損害賠償訴訟にくっ付けないといけないのかといいますと、そこは論理的にもう1ステップあるように思うのですね。
 もう一つは、懲罰として重い制裁を課せば抑止できるかというと必ずしもそうではなくて、むしろ刑罰の方の議論に引き付けて言えば、確実に制裁を受けるということの方が大きいとも言われているのですね。迅速、確実に摘発、処罰するということです。ですから、そこのところは損害賠償額の認定の問題などにも関連してくる。つまり、実損が見えないようなものの認定が今まで必ずしもはっきりせず、低いんじゃないかと思われた。そういうところは、なかなか精神的な損害を測るというのは難しいですから、何か定額化を考えるとか、そういうことはありうると思うわけです。そうなってくれば、3倍とか4倍ということではなくて、かなり懲罰的な色彩も入ってくるのかなという感じがするのですね。そういう方向の制度整備をまずやった上で、その次の問題ではないかという感じがするのですけれども。

【佐藤会長】髙木委員がおっしゃるように、やり得だというようなところがあるような気がします。日本はいろいろな事前規制で処理するという手法に頼り、法の施行、コンプライアンスについてはかなり手抜きのところがあったというのが正直なところではないかと思うんですね。ですから、やり得にならないような社会にするためにどうするかということも、これからの秩序の在り方の重要な問題だと思うんです。
 そして、刑事と民事という従来のきれいな分け方で本当に済むのかどうかというと、弁護士会が出しておられる最後の「別紙資料」のところで「民事請求の制裁的機能についての近時の学説」というのがありますけれども、いろいろな考え方がありうると思うのです。髙木委員がおっしゃるように、これからの日本社会がどういう形で進むべきなのかと考えたときに、必ずしも従来の考え方にとらわれないで、いろいろ考えてみる必要があると思うんです。
 名誉毀損についてですが、アメリカの場合にはものすごい額の賠償を課すんですが、他方、表現の自由の問題が出てくるものですから、相当に成立要件を絞り込んでいかないといけないというような問題があって、その是非は必ずしも一概に言い切れないところがあると思うんです。だから、その辺の問題も含めて考えないといかんのですけれども、確かに、中坊委員や井上委員のおっしゃるようなこともありますので、これも書き方になりますけれども、最終意見のところで基本的な考え方を少し示させていただきたい。カテゴリカルに、こういう制度を採用しますというのは今の時点で難しいと思いますけれども、文章を工夫するということで処理させていただいてよろしいでしょうか。

【吉岡委員】この項目の中で、どうしても私触れたいことがありますが、2番目のクラスアクション制度については、少額・多数の被害が出ているような場合、一人ひとりの被害者が訴えることはできないという問題があるので、それで、一つの手法としてはクラスアクション制度があるということで検討課題に入れてほしいと申し上げましたんですけれども、実際問題としてそこまで行くのにはちょっと段階的な理論があるかなと、そのようには考えております。
 その次の団体訴権ですけれども、これについては、私どもも消費者団体ですし、そういう意味から言いまして、どうしても必要な制度だと考えています。少額・多数の被害もそうかもしれませんし、それから、それ以外でもいろいろな悪質な消費者被害を受ける人がとても多いわけです。特に高齢社会の中で、高齢者がそういう被害を受けるとか、そういう実例もたくさんあります。そういうことを考えると、できるだけ被害は拡大しないうちに防止していくということが必要です。高齢者あるいは訴訟に慣れていない人が一々訴えを起こすかというとなかなかできない。そういう状況を考えると、少なくとも一定の消費者団体に対して差止請求権とか、そういうような形でもとりあえずはいいかと思いますが、団体に訴える権利を認めるということをお考えいただきたいと思います。
 先ほど挙げましたジュース裁判の場合でも、消費者団体は利害関係者ではないということで門前払いになっているわけですが、訴えている内容自体は、消費者に直接関わりがある問題なのです。そういうことを考えますと、やはり消費者団体に対して、これは消費者団体といってもたくさんいろいろなものがありますけれども、一定の要件を満たしているという条件が付いたとしても、消費者団体に団体訴権を認めるということを、この審議会の提言として是非入れていただきたいと、そのように考えております。
それから、法務省の回答書の6ページにも新民事訴訟法の議論の過程でも、個別の実体法で決すべき問題としながらも、爼上に載せたということが書かれておりまして、個別でやればいいじゃないかという話については、不正競争防止法とか、独禁法でも出ておりますし、それから、私が関わった消費者契約法でも、団体訴権の問題は議論されております。特に消費者契約法の議論の中では、これは消費者契約法だけの問題ではなくて、他にも関わる問題だから、司法制度改革審議会でやるテーマだと言われてしまったということもあります。専門家ではないので、それ以上は申しませんけど、やはり要件は十分に考えるとしても、団体訴権を認めていく、これはたしかドイツにはありますね。私はすべてのドイツ法がいいとも言っていないし、アメリカ法のことを言うことが多いのですが、やはり、ドイツでもそういう仕組みがあるとすれば、その辺を参考にしながら考えていただきたいと思います。

【竹下会長代理】ドイツでは不正競争防止法が一番初めなわけです。それから約款法とかに広がっていったのですけれども、団体訴権という制度を、それに適する法分野に導入すること自体には、日本でも余り反対する人はいないのです。とりわけ違法行為の差止めの手段として有効だと思うのですけれども、ただ、一般的にどういう訴訟について、どういう団体が訴えを提起できることにするかということを定めるのは難しいのですね。

【山本委員】いろいろなNPOとか団体がありますよね。それを一つずつ、これは権利あり、これは権利なし、というふうに個別に定めるんですかね。

【竹下会長代理】それはやはり一定の基準を決めて、それぞれの法律で、例えば、独禁法なら独禁法において、独禁法の趣旨に合うような訴えについて、独禁法の趣旨を実現することを目的とし、客観的にそれだけの条件を備えたような団体に訴えを起こす権利を認めるというような、そういう書き方にならざるを得ないんですね。

【山本委員】吉岡さんがおっしゃっているのは、例のジュースの不当表示の話でしょう。

【吉岡委員はい。

【山本委員】あれは消費者に訴える利益があるかどうかという点が問題になったんじゃないですか。

【吉岡委員】消費者団体及び個人ですね。両方ともだめだというのが最高裁を含めての判断だったんですけれど、だけど、果汁飲料を飲むのは全く個人であり、個人の集まりでもあるわけです。それで、本当に果汁が全然入っていないのか、そういうことはやはりお母さんたちが子どもに飲ませるときにはすごく影響があるわけですね。にもかかわらず、当事者でないと利害関係者ではない、消費者個人及び消費者団体は反射的な利益を受けるという判断だったんです。それはおかしいと思っていまして、それで訴える権利を認めさせるべきだというのが、それ以来、私たちの主張としてずっと持ってきている、そういう問題です。
 ただ、ここで何法何法ということを議論する時間もないし、どちらがそうなのか、消費者契約法を議論したときの学者の意見が間違っていたのかどうか分かりませんけれども、やはりその法律の類型を考えながら、それに合わせて団体訴権を認めていく方向で検討するべきだという方向性はここで出せると思うんです。それで、個別に、ではどういう要件というのは、個別に別のところで議論するということで結構かと思うんですけれども。

【竹下会長代理】この「たたき台」の案はそういう趣旨なのです。

【山本委員】ドイツではこれはワークしているんですかね。

【竹下会長代理】結構ワークしていますね。元々は不正競争防止法ですので、業界団体が不正競争防止法に違反しているような業者を相手に訴えを起こせるというのが出発点なのですよ。

【山本委員】それだと分かりますね。

【竹下会長代理】それが消費者団体などにも広がっていったのです。

【井上委員】竹下先生に質問なのですけれども、吉岡委員が問題にされているのは当事者適格の問題で、それと団体訴権の問題とは、同じなのですか。

【吉岡委員】勿論、ジュース訴訟の場合には当事者適格の問題もありますけれども、消費者団体という考え方と両方入っているんです。

【井上委員】ですから、事柄の性質としては2段階あるわけでしょう。

【吉岡委員】そうです。

【竹下会長代理】そもそも実体法的に差止請求権を認めるか否かの問題があり、それについても誰が訴えを起こせるのかが次に問われることになりますが、実体法上団体自体に差止請求権を認めるという考え方もありえます。

【髙木委員】裁判所の方か日弁連の方だと思うんですが、竹下先生の先ほどの御説明の中で、クラスアクション制度について、新民訴の中で、選定当事者の制度、これは144条で、追加的選定を新設したので、これをまず使ってみたらということで書いてあるわけですけれども、どういうふうに使われた実績があるのか。

【竹下会長代理】それがないのですね。

【髙木委員】ないのは、使い勝手が悪いので使わないのか、そこまでの事件が今たまたまないのか。まず追加的選定を利用することを考えるべきであると言われても利用しない、そのことが前に進まない理由だということを言われておるんだれども、どういう御感想なのか、実態はどうなのか、ちょっと教えていただけませんか。

【日弁連(水野司法改革実現本部事務局次長)】日弁連の方から先に申しますけれども、選定当事者の場合、選定行為というのが普通でして、その選定行為をするということ自体がまず負担感があるという問題が確かにあるかと思います。
 それからもう一つ、やはり日本の場合、多数集団被害の事件が起きた場合、全員原告にして、原告団という形で、多数当事者の訴訟で提起するという形が、新民訴適用の前から多かったわけで、そういった形を踏襲して、現在でもやはり非常にたくさんの方が原告になられるという形で訴えを起こすというケースが一般化しているということなのではないかと思うんです。これは一つの運動的な観点から、そういうような形で取り組むというケースが多いのではないかと推測しているんですが。

【藤田委員】私は30数年間民事訴訟をやりましたけれども、選定当事者が選定されたという例はその間1件か2件です。それから、アメリカのクラスアクションのような制度が公害紛争処理法にあるんです。42条の7、8、9で、「代表当事者」という名前にしてあるんですけれども、代表当事者を選定しろという選定命令とか、それに応じないと裁定委員会が代表当事者を選定できるという内容です。アメリカの連邦地方裁判所民事訴訟規則のクラスアクションの規定をモデルにしてこの規定をつくったんですが、これが47年の改正で入れられて、それから30年近く経っているのにこれが1件も使われていない。だから、今、日弁連の方で言われた、皆で団結して訴えてそれで世の中にアピールしようという場合が、特に公害などの事件では多いのです。現在の制度の使い勝手が悪いのならどこに原因があるのか、どういうふうにしたら使われるのかということを検討したらいいのではないかと思います。

【竹下会長代理】いや、私が言ったのは、使わないのが悪い、けしからんからまずそれを使えというのではなくて、少額多数被害に対応できると思うような制度がつくられているのだから、まずそれを使ってみてくださいと、こういうことなのです。それで、これでは使い勝手が悪いからだめだというなら、では、別の制度を考えましょうとか、今の制度は改めましょうという議論になるはずなので、そのためにせっかく制度をつくったのに、それを使ってみもせずに、ただ、外国にいい制度があるからそれ持ってこい、というのではちょっと議論の順序としてはおかしいのではないですかと、そういうことです。

【髙木委員】クラスアクションなどという議論をする前にやることがあるはずだということですか。

【竹下会長代理】いやいや、そういう議論をして、クラスアクションという制度がアメリカにあり、少なくともアメリカではそれがよく機能している。だから、それと同じような機能を果たせるように、日本に元々ある制度を直したのです。その方が日本では使い勝手がいいでしょうというのでつくったわけですよ。アメリカのクラスアクションにも問題点はあるのだし、日本には日本のそれまでの訴訟制度の基本的考え方とも調和し、クラスアクションと同じような機能を果たせるようなものをつくりましょうというので、選定当事者制度を改善したわけです。

【中坊委員】でもね、先ほど藤田さんがおっしゃったように、公害調停法で、それこそ制度をつくって何十年と全然使われていないんだから、過去に実績がないにもかかわらず、その制度が直したからまたそれを使えと、それからクラスアクションを考えたらよいという、その物の考え方は、少し間違っているのではないでしょうか。まず、選定当事者という制度は、先ほどおっしゃるとおりですよね。それはほとんど実際上今使われていないです。今度、新民訴でこうなったからといって、それは一般に使わないんですよ。
 だから、それよりもそういうクラスアクション的なものをつくるということによって、その効果が全員に及ぶよということによって初めて活かされてくるという発想があるわけです。
 私は一遍に採用せよとは言いませんが、しかし、少なくともそれに対する規制というものは、選定当事者の制度によって賄えるというものではないということは前提に置かないと、それを使ったんだからそれをやりなさいということでは少しおかしいと思うんですよ。

【竹下会長代理】いや、やりなさいというのではないのですが、今、御説明がありましたように、日本ではこういう多数被害者事件のときには、運動として全員が当事者になって訴訟をやるという方法がとられるのが一般です。その中から代表者を選んで、代表者だけ訴訟をやらせるという、ある意味ではクールな発想がまだ日本の社会になじんでいないのですね。そのために使われないので、中坊先生は、制度がおかしいから使われないのだと言われますけれども、日本での多数被害の救済の求め方の問題なのではないでしょうか。

【佐藤会長】裁判所の方は付け加えることがありますか。

【最高裁(菅野民事局第二課長)】私どもの方は運用主体でございますので、制度の使い方についてはなかなか申し上げにくいところでございます。

【中坊委員】だから、おっしゃるように、頭からクラスアクションというものは、選定当事者の制度が新しくできた、前からあるんだけれども、それが変わったんだからそれでやりなさいというのが少しあれであって、クラスアクションというのは、一つの者がやれば、その効果がみんなに及ぶと、それも確かに一つの行きすぎかもしれない、あるいは大胆な発想かもしれないけれども、しかし、それもそれなりに検討は要することではあるということではないかという気がするんですよ。
 確かに、今おっしゃるように、私も豊島の住民の裁判をやりましたが、全員勝ったと、あれも全員ではないんです。だけど、新聞が「豊島の住民」と言ってくれるから全部住民になっておるだけで、本当を言えば全員ではないですよ。
 だから、そういういろいろな問題は実はあるんです。何もおっしゃるように、みんなが全員が参加したいということにはならないし、そこにいろいろな問題が確かに含まれているんですよ。今おっしゃるように、そういう機運がないなどと言うけれども、そうではなしに、やはりその問題は、それだけ根のある問題なのです。だから、私は、クラスアクションはクラスアクションとして、先に一定の人がやれば、それによって判決が、その一定の範囲内において及ぶという発想も、我々としてはこれからみんな前向きに検討すべきだという程度のことではないかと思うんです。

【竹下会長代理】検討するのは結構ですけれども、前向きかどうかは、それはアメリカの制度にもいろいろ弊害もあると言われているわけですから、隣の芝生は美しく見えるという類で、外国のものは良く見えるというだけでは済まないので、やはりいろいろな面から検討しなければいけない。私どもとしてはそういう検討をした上で、日本に合うようなものをつくったのだということなのですよ。

【佐藤会長】選定当事者のこれからの実施を見定めつつ引き続いて検討するということになりますか、クラスアクションについては。

【髙木委員】藤田さん、先ほど言われたのは何条でしたか。

【藤田委員】公害紛争処理法の42条の7、8、9です。これはまさにクラスアクションの制度です。
 それと、さっき吉岡会員のおっしゃったジュース裁判ですけれども、あれは団体訴権、当事者適格の問題もありますが、行政に対する司法の規制に関連するのでちょっと申し上げると、ジュースの品質表示を命ずる法律規則、それがどういう趣旨で立法されているかというのが今の行政法の理論では問題になります。公益的な見地だけから決めているのか、それとも消費者個人の利益も考えて決めているのかということです。それによって、当事者適格なり処分性なりを考えているんですね。ですから、そういう意味では、もし、この問題を消費者が訴えた場合に、消費者の利益保護のために実質的な判断をしなければならないとするならば、その根拠法規に手を付ける必要がある。そういう意味では、行政に対する司法の規制を強化するのには、行政事件訴訟法のみならず、行政実体法に手を付ける必要があるということを前に申し上げたんですけれども、実際、そういうことだろうと思うんですね。

【吉岡委員】それはそうだと思います。

【中坊委員】だから、今度また我々としても「司法の行政に対するチェック機能」という項目があるんだから、そこの問題としても考えなくてはならない。

【佐藤会長】訴訟法と実体法ときれいに分けて、そっちの問題だとやっちゃうとなかなか先に進まないから、もう少し総合的に考える必要があるというということにして、行政訴訟のところで議論しますか。
 この問題はこの程度にして、次に、「民事訴訟の充実・迅速化」のところはいかがでしょうか。独立証拠調べのところ、あるいはそこにいく前にも何かありますか。

【竹下会長代理】「審理期間を概ね半減することを目標」というところですね。

【吉岡委員】私の記憶が悪いのかもしれませんけれども、半減という言葉は出ていましたか。

【竹下会長代理】いやいや、これはさっき御説明したように、今までは特にそういうことは言っていません。

【吉岡委員】私の記憶違いかなと思ったんですけれども、訴訟の充実・迅速化ということは非常に大切なことだと思いますし、現状が非常に長くかかっているということが利用者のサイドからも問題になっているという、そういう実態がありますので、そこのところはいいと思うんですけれども、ただ、迅速化の方だけにウェートを置いて充実というところが軽く見られると、いろいろと問題が起こるのではないかと思いますので、その点だけ、よけいなことかもしれませんけれども、御配慮いただきたいと思います。

【竹下会長代理】それは非常に大事なことで、ですから、先ほどもお断りして、冒頭の括弧にありますように、「下記政策と相まって」ということです。ただ早くするというのではなくて、証拠収集手段の拡充とか、そういう方策をも実施することを前提とした上で半減を目指すということです。

【中坊委員】確かに、私も我々の審議会が国民全体に分かりやすいことで発信するということは必要だと思います。しかし、この審理手続のことに関して「半減」という言葉を使いますと確かにキャッチフレーズになる。現に、どうして漏れたのか知らんけれども、新聞の一面にそれが載るぐらいのことですから、確かにインパクトは強いと思います。
 だから、今、先生のおっしゃるように、他のものとみんな一緒になってやるんだと言っても、「半減」ということだけが一人歩きしているわけだから、私は今ここの我々の審議会のところで、しかも全く今まで「計画的に」というのは出ていました、「計画審理」とか「迅速」とか「充実」は出ていたけれども、「半減」というのは全然議論されていないのに、突然まとめのところでうたい上げるということについてはやはり問題があるのではないかと思います。
 「充実」ということが、むしろそちらの方が強調されていかなければならない。それを「半減」ということを非常に強調して、こういう角度でしかも諸制度全部の関連性の中で決まっていくべきものだから、この「半減」というのはこちらだけではなくてあちこちにこれから「半減」と言われるでしょう。だから、まとめのところで「半減」というのは、会長代理がまとめていただいたんでしょうけれども、私はちょっと行き過ぎがあるのではないかという気はします。

【竹下会長代理】私が書きましたのは、今まで「半減」にするかという形で議論していないというのはおっしゃるとおりですが、ただ、先ほども申し上げたように抽象的に審理を充実して迅速化するのだというだけでは、国民から見ると、今度司法制度改革をして、訴訟を利用しやすくするというのだけれども、それでは、使ってみたらどのぐらい早く判決が出るのですかという問いに対して、分かりやすい答がないことになる。それはいろいろな方策をやってみて、できるだけ早くするのだ、と答えるだけでは、なかなか理解が得られないのではないか。ですから、持ってもらうイメージとして「半減を目指す」というぐらいは言うべきではないかという趣旨なのですが、御理解いただけませんか。

【中坊委員】というのは、おっしゃるようにいろいろな制度が関連して訴訟を迅速化させ、充実させるものである。そのための証拠手続であるとか、裁判官の増員とか、弁護士の増加とか、もっともっと大きな手当てが必要なわけです。そういう裾野のところで確かに3,000人という数を出さないと、具体的にならない。審理期間は言っては悪いけれども最後の結果と言ったらおかしいけれども、到達点みたいなところですね。だから、それを今、こういう具体的な字句で、現段階においてこれを出すというのはちょっとまだ早計のように私は思いますね。

【佐藤会長】ここだけ御覧になるとそういうことにあるいはなるかもしれませんが、24日の法曹人口に関する審議において、検察官や裁判官の増員について、具体的な数字をあげて御議論いただきますし、また、既に、法曹人口全体について御議論いただいているわけで、そういうことの他、ここで言えば独立証拠調べとかいろいろな事柄の総合的な文脈の中で、具体的な目標として半減を目指そうではないかということをうたっているわけです。全体的文脈で見てほしいわけです。新聞に取り上げられると何か「半減」というところだけが突出してしまうんですけれども、我々の頭の中では全体を踏まえて、こういうことを目指そうということではないでしょうか。

【中坊委員】「半減」という方向が、これは私も実際、裁判をやっていまして、確かにおっしゃるように事件にもよるし、いろいろな要素が入ってくるんです。だから、ある意味において、一種の到達点のようなものを、私が思うのは、逆に迅速だけに重きを置きますと、それで片一方の方の充実というのがものすごくいびつになってくるんです。
 だから、確かに今、藤田さんが賛成とおっしゃったように、裁判所はむしろそういう意味で、今までの「半減」と言ったら、それは大いに結構だと言う。しかし、実際に裁判をやっている当事者側からすると、それをやられると結果的に迅速ばかりが先行して、結果的には裁判の充実というのがみんなおろそかになってきていることがあるんですよ。私はその事実を単に、今言うように目標だからそうだというのにしては非常に問題が多いし、今おっしゃるように、半分だと言ったことによる副作用とかが生じてくる。それによっての弊害というのは別にないんだよというなら、今おっしゃるように、それは「半減」と言った方がよいというのは分かりますよ。ところが、「半減」という期間だけの目標値を掲げることが現実に裁判そのものを非常にいびつな格好にさせていく、充実という点をおろそかにする傾向が私たち当事者の代理人の立場からは、実際はありますから、そこをやはりお考えいただきたい。迅速ばかりが優先するという物の考え方については、当事者の代理人、当事者もみんな非常に疑問を持っているんです。
 だから、迅速ばかりがよいということで、それを目標値として掲げるんだということについては、私はもう少し慎重に考えていただく必要があるのではないか、私はそう思います。

【井上委員】私、最近にしては珍しく中坊先生に反対の意見を言わせていただきますけれども、これは、竹下先生の御説明にもありましたように、その半減ということが先にあるのではなくて、そういうことを目標にしていろいろな制度の充実を図りながら、全体としてそういうところに持っていこうということだろう。「半減」と言っても、おっしゃるように、個々の事件によって全然違うわけですから、何の「半減」なのかは個別の事件で分からないわけです。ですから、それがプレッシャーになって拙速になるというのはちょっとお考え過ぎかなという感じがするのですね。
 そこのところで、例えば3か月でやりなさいと書くのであったら、そういう傾向が生ずるかもしれないですけれども、全体の平均値として今かなり掛かっているのを、半分ぐらいにするために人員はどのぐらいにしないといけないのか、制度はどういうふうに整備しないといけないのかを考えてみる。そこは循環する話ではないかという感じがするのです。確かに、これまでの議論では「半減」ということは出てこなかったのですけれども、今日そういう御提言があったのを踏まえて、そういう方向に持っていくということはあっていいんじゃないかと思います。

【中坊委員】だから、私が先ほどから繰り返し言っているように、「半減」という言葉が、今おっしゃるように片一方と一緒にくっ付いているんだと、「充実」とくっ付いているんだと言っても「充実」の言葉がなければ具体的にどういう言葉になりますか、「充実」は「充実」しか仕方がないと、こちらの期間だけは「迅速」という言葉は「半減」という言葉に具体化されたと、そして、「充実」の方は具体的な目標はないという。
 そうすると、私たちも、実際裁判をやっていると、これは大変失礼な言い方だけれども、裁判所というのは非常に職権的に、早いこと出せ、こうしなさい、こうしなさいということで、現実に非常に弊害が起きてきて、例えば、証拠に証人申請しても採用しない、半減ですからと、こういうことになるんですよ。本当なんですよ、それは笑い事ではないんですよ。
 だから、現実に、例えば、証人申請する、今でも皆さんそうおっしゃるけれども、現場検証なら現場検証を裁判所に申請するでしょう。昔は見に行ってくれた。これは私ども実際事件をやって分かる。今は現場検証など行かずに、それは全部写真で見ますので出してくださいと、これでやりますと、私たちとしては現場をやはり見てくださいと言ってもまずは見なくなった。だから、今までの「迅速」ということがどれほど、実際私たちが裁判をやっている者にしたら、納得という意味においてはほど遠いものになってきているという現実があるわけです。それは井上さんは余り御存じないだろうけれども、私らは実際にやっておって、その弊害というのは、例えば、今、言うように、証人を選んでもなかなか採用してくれない。陳述書で代えなさいという。それから、現場検証など申請しようものなら写真で代わりますという。それは何でか、これだったら「半減」ですからと、こういうことになるんですよ。
 だから、私は、そういう意味における問題点というものが実在する。だから、それは今言うように裁判官がもっと増えてきて、訴訟手続がなってきたら、結果的に「半減」になっていくというのはいいけれども、人為的にまず「半減」ありきということにしてしまうと、そこが切り捨てられて、「半減」だけが一人歩きしますよということを言っているわけです。だから、そのことの問題だと言っているんです。

【井上委員】おっしゃっていることはよく分かるんです。分かるのですが、ただ、充実の中身についてもいろいろ御提案があって、それが前提になった上での最終目標だということですので、その意味で、とらえ方がちょっと違うかなという感じがするのですけれども。

【藤田委員】何も早ければいいと言っているわけではありませんで、さっきちょっと話しましたが、昭和62~63年ごろから民事訴訟の運営の改善運動をやったわけですけれども、そのときも、民事訴訟の審理を適正かつ迅速にするのはどうかという問題意識で、適正はちゃんと忘れていないわけです。
 その当時弁護士会の方たちとどうやったらうまくいくかということを話し合ったんです。裁判が遅い遅いという批判があるわけですが、どのぐらいなら我慢してもらえますかと聞きましたら、当時、証拠調べをした事件で、2年ちょっとぐらいかかったんでしたか、今はいろいろ努力して1年9か月を切ったんですか。

【竹下会長代理】19.7か月です。

【藤田委員】そのぐらいになっているんですが、そのときに弁護士の方たちが、1年なら許せるという話をされたんですね。やはり今のテンポの早い社会では、紛争の解決は証拠調べをするような事件であっても1年が目標であろうかなというのが、その当時話し合っていた裁判官と弁護士のほぼコンセンサスに近かった。そういう意味で目標値を挙げるというと、「半減」というと今は1年を切るわけですが、1年という言い方でもいかんですか。

【佐藤会長】具体的に数字を書くとまた印象的になりすぎて。

【中坊委員】やはり先ほどから繰り返し言っているように、「迅速」というのは、例えば、これは私のところにもイソ弁がおりますから報告を受けていますけれども、今の裁判所が「迅速」ということで一体どういう結果が起きているかというと、全部弁護士に負担させるんですよ。これもあんたの方でやってください、全部を当事者にやって、それで書面で出させて、それで結果的に「迅速」だけを取っていきます。これは私たち本当に日常聞いているんですよ、これは現場において。
 そういうところで、しかも私自身が関係した事件であっても、現場検証であるとか、そういうのはほとんど採用してくれない、写真だ陳述書だと、そういう弊害が現実に起きているんですから、その事実を横に置いておいて、突然ここだけをまた審議会が「半減」だと言ったということが一人歩きすることの危険性があるということをやはり踏まえないと私はいけないと思うんですよ。

【竹下会長代理】御趣旨はよく分かりましたが、ここで言っているのはさっき会長や井上委員も言ってくださいましたように、決して「半減」だけを言っているわけではなくて、弁護士人口の大幅増加、裁判官の大幅増加ですね。裁判所の人的、物的設備も拡充しましょう、独立証拠調べその他証拠収集の手段も拡充しましょうということを前提にしているわけですね。むしろ国民に対しては、裁判所も弁護士会も努力して今よりも半分ぐらいの時間でちゃんと判決が出るようにしましょうと、それに不足なことがあったらもっと前向きに、ここが足りないというならそれを補いましょう、しかし、目標はやはり現在よりもうんと早くというのがよろしいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

【中坊委員】いや、私は先ほどから「大幅増」であるとか、「充実」だとか、抽象的な言葉になって、期限は片一方は「迅速」といい、それに比例する言葉であれば、「迅速」という言葉があるにもかかわらず、ここだけのところが数値目標で出てしまうという点の問題点を言っているわけです。

【佐藤会長】法曹人口については、さっき申し上げたように24日に具体的に数字をそれぞれ出していただいて議論しようと思っております。そして、3,000人という目標の下で、大体どのぐらいの年の経過でその実現を目指すのかというようなこともイメージとして具体的に描いていただけるような御議論をいただきたいと思っているんです。まさに、私どもこれまで議論してきたように、人的基盤の充実がまず出発点ですよということです。これは中坊委員も強調なさった。そういう議論をしてきて、そして制度的に具体的にはこういうことをやろうではないですかということであって、出発点は人なんです。それは最終報告でも強調することになると思います。

【中坊委員】それと同時に「充実」の問題もあるから、今まで議論が出ていなかったものを、今の竹下会長代理が今まで議論がなかったと言っているのに、それを突然今日のまとめで入って、しかも各所に「半減」という数字が書かれておって、そして今そういうような形でおっしゃるということについては、私はやはり大変異議がありますね、そういうやり方も含めて。

【北村委員】素人から見ますと、数で表されるものが数で表してあるというのが非常に分かりやすいんです。
 去年のときには、中坊先生の方から、「大幅増員」と言ったって何人になるのか分からないではないかという御意見もありまして、一応3,000人ということになりました。
 この「迅速化」というのも、確かに「充実」というものが非常に重要であるというのはそのとおりでありまして、しかしながら、「迅速」と言ったってどの程度のことを考えているのかというのは、なかなか見えにくい。そういう意味においては、こういうふうに「半減」、しかもここで「概ね」とか、「目標」というのであって、必ず半分にしますと言っているわけではございませんので、こういうようなことは審議会の姿勢として一応国民に知らせることは必要なんじゃないかなと私は思います。

【髙木委員】今の北村さんの数字で表したら何でもいいという話、中身によっていろいろだと思うんです。

【北村委員】何でもいいとは言っていません。

【髙木委員】その議論は議論で結構ですが、ここで審理の充実とかいう議論の中で、証拠収集手続の関係で、独立証拠調べ、これもドイツの例で突然前回御紹介があったんですが、私ども実務をやったことがないんで、これでどのくらいの効果があるのか、計画審理だとか、協議の義務づけなどと書いてあるけれども、義務づけられる協議に臨めるような事前の準備なりに、証拠収集手続の拡充という言葉がどのくらいのことを用意してくださっているのか、そのことを吟味しないまま「半減」というのはどうなのでしょうか。先ほど竹下先生の説明のペーパーだと、証拠収集手段の拡充ということですが、拡充されたときの効果はどの程度のものなのでしょうか。

【竹下会長代理】訴えを起こす前にも証拠を集められるようにしようということです。

【髙木委員】資料2を拝見すると、何か事前に鑑定ができるみたいなことが書いてあります。事前に鑑定ができるということは、そんなに今の証拠収集手続を飛躍的に拡充してくださることなのかどうか、私にはよく分からないので御説明いただければと思います。
 一方で「半減」とおっしゃるのは、短くなるのはいいし、この表現は労働事件のところにもおおむね「半減」と書いていただいておるんで、労働事件をイメージしたときに、今の証拠の偏在等が、こういう手続が入ったときにどう変わるのか。本当に変わるんですか。

【竹下会長代理】それは変わると思います。

【中坊委員】私は前から言うているように、法曹人口、法曹養成、それが裾野にあって、弁護士改革があって、人的なものがあって、いろいろ制度改革になって、最後に上の方に来て、裁判が結果的にそうなっていくということを言っているわけです。だから、一番基礎的なところは数字をもって示さないと、まず我々の展望が分かりにくいから言っているのであって、今言う、最後の目標みたいなところを突然、今、髙木さんもおっしゃるように、それによってどういうふうに具体的に、結果としてそうなるものを、現に今会長でも、何日に法曹人口の問題を討議してくださいと言ってはるときに、それより前にこちから側だけが、しかも他のものと別に今までここで論議がないのに、突然ここで今日の竹下さんのレジュメによって、まとめだということで出てくるということについて私は問題があると思います。

【佐藤会長】時間の関係もありますので、独立証拠調べの中身をちょっと御説明していただけますか。

【竹下会長代理】分かりました。ドイツにおける独立証拠調べというのは、元々訴えを起こす前に証拠を集める手段として、日本でもドイツでも認められておりますのは証拠保全手続というもので、これは証拠を今の段階で保全しておかなければ後からでは証拠調べができなくなってしまうという場合に限って事前にできるという制度です。中坊委員にとっては百も承知で、釈迦に説法みたいなことですけれども、他の委員の方に申し上げれば、そういうことです。
 ところが、ドイツではそこを外して、証拠保全の目的がなくても、法律上の利益がある場合、つまりある事実が明らかになれば自分が権利を有するということを基礎づけられる。あるいは逆に自分に対して権利を持っていると言っている人間がいるけれども、それは理由がないということが分かるという、そういう前提があれば、訴え提起前でも、書面による鑑定をしてもらえるということにしたのです。それが独立証拠調べといわれるものです。この場合の鑑定の対象は、損害賠償事件であれば、原因行為と結果との因果関係、つまり何が原因なのかということについて鑑定をする。あるいは、損害が発生しているというのだったら、その損害額は幾らかということについて鑑定をしてもらえるというようなことです。それが書面によって出てくれば、多くの場合にはそれで話がついてしまうということになるわけです。
 勿論、話がつかない場合もあると思いますけれども、そういう形で早く証拠を確保できるようにしましょうというわけです。私がここに書きましたのは、ドイツではこのように証拠保全の必要という要件なしに求められるのは書面による鑑定だけですけれども、日本でこういう制度を入れるときには、何も書面による鑑定に限る必要はないでしょう。合理的必要性のある場合には、もう少し他の証拠調べの方法も、訴え提起前にできるということにしてもよいではないかということです。
 ですから、かなり実効性はあるだろうと考えているわけです。勿論、新しい制度をつくることですから、実際につくったらどうなるかを今から確実に予測しなさいと言われても、そこは難しいのですが、合理的に考えれば、かなり実効性は挙がるのではないかと思います。

【井上委員】簡単に言うと、理由が限定されていないから間口が広がるということですね。

【竹下会長代理】そういうことです。ドイツでも初めのうちはそれほど利用されないということを言われていたのですけれども、現在は非常によく利用されていると聞いています。

【中坊委員】今おっしゃるように、事前の鑑定制度として、導入したらどうなるのか。また、鑑定とは一体どういうことを意味するのか、必ずしも分かっていませんけれども、例えば今の現実の制度の中でも、当事者照会制度というのができています。それによって証拠が集められるということになりました。しかし、御存じのように、制裁が何もないわけです。そうすると、実際上証拠を集めようと思っても現実に集まらないわけです。そういう現実がいっぱいあるわけです。それが事前の鑑定制度を採用したから、何もかもそれで片づくという簡単なものではありません。
 例えば、私自身だって当事者の照会制度をやっても、全く返ってこない。あるいは弁護士法による規定にも何もあれがない。そうすると、代理人としては、証拠の集めようがないんです。
 そういういろんな制度の積み重ねのように、先ほど言うように、人の問題があり、制度の問題があって、そして初めて結果的に充実して、しかも迅速な裁判が可能になってくるんです。そういう手順を踏んで、その到達点としてあるものですから、そのときにくどいようだけれども、最初にまず結論ありきで、それを数字として出してしまうと、結果的にそこは無視しておいて、そこだけが生きて、非常にいびつな結果を呼び起こすことがありますから、私は現時点において、今日のまとめの中で半減というものを具体的なものとして掲げられることについては、今日のこの審議でこれをつくるのは私としては反対ですと言っているわけです。

【竹下会長代理】さっき中坊委員は、突然私が「半減」を目標とするということを言い出したと言われ、また、吉岡委員の御質問に対して、私も確かに「半減」ということはここでは議論されていなかったということを申しました。しかし、訴訟を充実させながら迅速化を図るということ自体は、前々からずっと出ていたことです。「迅速化」の具体的イメージとして「半減」ということを言ったのは、今回が初めてであるという趣旨です。
 国民に分かるメッセージでないといけないだろうということについては、恐らく皆さんそう御異論がないと思うのです。

【中坊委員】多少異論はあります。今おっしゃるように、具体的目標を出すということに副作用がなければ、数字を具体的に出した方が好ましいというのはおっしゃるとおりです。しかし、充実と迅速というのは基本的に非常に両立しにくいものですね。充実すなわちより慎重にやれというのと迅速というのは基本的に概念として合わないものですから、そこにおいて片一方が犠牲になったり、いろいろなっていくことがあるわけです。
 今おっしゃるように、私だって我々の審議が国民にどう映るかということを常に考えてやらないといけないと言っています。それはそのとおりなんです。現に充実と迅速というのは概念的に非常に合いにくい概念を持っているんだから、そのことについて手当てがきちっとなされてきて、結果的にこうなったでしょうというならいいけれども、先に迅速だけが、具体的な数値として出てくるということについては、いろいろ手順に問題があるから、今日の時点で「半減」を取りあえずまとめたということについては私は異論がありますということを言っているわけです。

【竹下会長代理】今日の時点でおっしゃるのでは…。

【佐藤会長】それぞれの項目の冒頭に「半減」と書いてあるから。

【竹下会長代理】それはどうでもよいのです。一般論として最初に言えばね。

【井上委員】「充実」と「迅速」は刑事にも出てくるんですけれども、両方が排斥し合うような関係にあるわけではない。「迅速」が先に来るとそうなってしまうと思うのですが、むしろ「充実」した審理を行うことによって「迅速」を実現するということで、このペーパーの趣旨もそういうことだと思うんです。

【中坊委員】「充実」ができてきたら、裁判でも早くいくんです。だから、迅速だけを目標にすることに問題がある。

【佐藤会長】このような議論の仕方ではエンドレスに平行線をたどると思います。中坊委員の御主張の趣旨がもうひとつはっきりしないのですが。人員の増加について、具体的に数字で示す、裁判官とか検察官とかについて、そういうものを示して、全体の像がはっきりしてきた中で、最終目標として、例えば民事訴訟については「半減」を目指そうじゃないかということ。それだったら御異論ないわけですか。

【中坊委員】違います。確かに充実させるための諸制度が整備できないといけない。そこが入ってこないで、人のことだけが片づいたら、片づくという問題ではない。

【佐藤会長】そうなると、書き方の問題ですね。一つひとつの制度について、現実に実現できますかと言っていたら、議論はそこで止まってしまう。我々としては、一つのプランをつくって、そう目指そうじゃないかということを決めるわけですから。これは大丈夫ですか、これは保障がありますかと、一つひとつ言われたら、全体のデザインができないと思います。
 今日の段階では「半減」ということは少し控えてもいいですけれども、しかし、制度的には私はこのくらいのことを掲げないといけないと思います。
 24日には、法曹人口のことに関し具体的に議論していただきますから、最終報告の段階で、こういうことではどうでしょうかという形で改めて掲げさせていただいて結構ですけれども。

【吉岡委員】一番最初の「2 民事訴訟の充実・迅速化」、そこのところが私が質問したときに、「下記施策と相まって」と書いてあるから、「充実」がこの下のところに入るんだというふうにおっしゃっているんですけれども、後のところを見ますと、医事関係事件とか、建設関係とか労働関係のところは、審理期間をおおむね半減することを目標とするということで、前段の括弧書きがなくなってしまっているようですが。

【佐藤会長】当然入っています。

【吉岡委員】ここに入っているから当然入っているというふうには読みにくいんで、一つひとつに入れるか、全体の枠組みで入れるかは別ですけれども、枠囲みに入っている2と3では、違いますので、その辺のところは「充実」という意味を入れるべきではないでしょうか。

【佐藤会長】冒頭に「概ね半減」ではなくて、最後のところに

【でした方がよかったのかもしれないですけれども、趣旨はそういうことなんで。今日は「概ね半減」ということを決めたということにしません。けれども、そのくらいのことは制度的には我々として掲げる必要があるんじゃないかと思っております。最終報告の段階でその趣旨を十分御考慮いただきたいと思います。

【山本委員】さっきの独立証拠調べなんですが、鑑定による手続を頭の中に描かれているんですけれども、心配しておりますのは、アメリカもディスカバリーという制度を入れて、できるだけ早期にというので始まったんですが、どうも現実は逆になっていて、ディスカバリーでへとへとになってしまう。それでほとんどが和解になっているという弊害がかなり指摘されていて、現にアメリカの連邦民訴規則は、その点の改善も図ってきているほどなんです。ドイツの独立証拠調べというのは、そういう弊害が出る可能性はないんでしょうか。
 そもそも、司法制度改革審議会の中で、これを念頭に置いた事前の証拠収集手続を制度化するというところまで行っちゃうのかどうか分かりませんが、いずれにせよ、経済界は、新民事訴訟法の文書提出命令とか当事者照会制度とか、かなりいろんな意味で負担が重くなっているという意識があります。更に大きな負担を負わされることへの疑念とか、不安とか非常に大きいものがありますので、これらを取り除くような措置を講じていただきたいと思っております。

【竹下会長代理】当然ある御指摘だと思いましたものですから、「たたき台」の中では、濫用の危険防止に配慮しつつという文言をわざわざ入れたのです。ですから、余りに何でもできるということにしてしまうと、一方では証拠保全の必要という枠がはずれていますから、濫用の危険があるので、そこは制度設計に当たっては十分配慮しなければならないと考えています。

【山本委員】裁判所が適切にタッチしていくとかですね。

【竹下会長代理】これはそうです。当事者照会は全く当事者間だけですけれども、これは裁判所が絡んだ証拠調べです。

【山本委員】証拠収集権といいますか、そういう機能というのは実体法に委ねるという理解でいいのでしょうか。

【竹下会長代理】それは普通の鑑定と同じことですから。

【山本委員】 中坊先生が言われた罰則とか、そういうのはどうですか。

【竹下会長代理】罰則というのはなかなか出にくいと思うのです。

【山本委員】ドイツのものはうまくいっているわけですね。

【竹下会長代理】ドイツは書面による鑑定だけです。

【髙木委員】山本さんが、心配するようなことを言われると、余り大したものは出てこないんじゃないかと思っちゃうんです。

【藤田委員】独立証拠調べというのは割合最近に設けられたんですね。フランスの鑑定レフェーレという制度とはかなり共通しているのでしょうか。

【竹下会長代理】そうだと思うのですが、私はフランスの鑑定レフェーレが、実際にどう使われているかを余りよく承知していないものですから、フランスの制度と比べてどうかと言われると、ちょっと御返事のしようがありません。

【中坊委員】あくまで一部ですからね。専門的知識を要するところというのは。それより前に事実関係をまず確定していかなければいけないんだから、そのためには、今言うように、当事者照会とかいろんな制度があって、おっしゃるようにディスカバリーとかがあって、だからそれがへとへとになるかは別問題にして、大変に重要なことなんです。だから、そう気楽に「半減」だとか何とかというのは問題なんです。

【井上委員】独立証拠調べを鑑定よりもっと広げるというのは、例えば証人を喚問したり、場合によっては証拠提出を命ずるという、そういうことも検討の対象にするという趣旨ですね。そうなると、強制力が一定程度働くわけでしょう。

【竹下会長代理】ところが、民事の場合は、例えば文書提出命令が出たのにその文書を出さないというときには、普通、訴訟が提起されているときには、相手方の有利に事実認定をしてもよいという、そういう制裁なのです。そのため、訴え提起前はそれがストレートに働いてこないという問題があるのです。

【佐藤会長】これは裁判所が主宰してやるわけですね。

【竹下会長代理】そういうことを考えているわけです。ですから、そう細かい制度設計の話になってくると、これは実際に立法化する段階でやる他ないと思うのです。今から、では、文書提出命令が来たのに出さなかったらどういう制裁を付けるのかといっても、なかなか難しいと思うのです。
 ちなみに、当事者照会のときに何にも制裁がないというのは、たしか日弁連が制裁を付けることに反対をされたためです。
 立場を自由に使い分けられても困りますね。

【中坊委員】本当に迅速を急がれるばかりに、大変な被害が生じている。私ら弁護士でも実際に分かっていますけれども、陳述書ばかりなんです。証人調べなんてしない。主尋問は陳述書、全部弁護士が聞き取って書くんです。ありのままのことではないんですよ。弁護士が整理するでしょう。だから、本当の生の事実がどこまで出ているかということについては、本当は大変な疑問があるんです。これは実際お分かりになると思う。
 だから、いろんな弊害が起きておるということですから、今言うように、それだけが一人歩きし始める傾向があるから、私はそれを問題にしているんです。

【佐藤会長】そういうことはよく分かりますけれども、これは制度の改革ですから、どういうデザインで我々として描くかということなんですね。現実を無視してはいけませんけれども、実現のプロセスとかにも配慮しながら、こういう前提で例えば「半減」ということを目指そうじゃないかということであればいいわけでしょう。
 今日は「半減」で決めたということにはしませんけれども、趣旨は今申し上げたようなことだろうと思います。
 司会者としては大変心急ぐところでありまして、今のところはよろしゅうございますか。そうすると、次は「3 専門的知見を要する事件への対応強化」のところですが、それぞれ個別的に議論するといろいろあるのかもしれませんけれども、あるいは4ページの知財の方も。

【竹下会長代理】やはり、最も問題となるのは専門委員の参加制度ではないでしょうかね。鑑定については、最高裁で医事関係訴訟委員会というような、鑑定人を選定するための委員会をつくろうとしておられますが、これは大変結構なことで余り御異論はないでしょうから、御意見があるとすれば専門委員の参加ですが、それも基本的に御賛成が得られれば大変結構だと思います。

【髙木委員】確かに専門家が何かの格好で関与する仕組みというのが必要な訴訟領域があるだろうというのはそうなんですが、専門家の関与の仕方、あるいはそれ以前に専門家の選ばれ方から、選ばれた人がどういう裁判の過程に関わるのか。それによっては専門家の選ばれ方、例えば今の特許事件でも、私もよく知りませんが、一部弁理士の先生に聞いてみたら、両方からいろんな鑑定とか意見をお出しになられて、そのどちらがより妥当性のある、あるいは客観性のある、そういうものを巡ってお互いが争いになるとのことでした。そのときに、その専門家の見方がどうなんだということでは、その判断の部分がある種ブラック・ボックス化するという、こういう仕組み論の宿命かもしれませんが、問題があるということを聞くんです。

【竹下会長代理】元々そうならないように、ここに具体的にはと書いてありますが、争点整理のサポート、これは法廷ないしは両方の当事者が関与している手続でやる話ですから、決して一方の当事者が分からないところで専門家が何かするというわけではありません。
 それから、「和解の担当・補助」、これは当然両方の当事者を相手にやることです。
 また、「専門的知見を要する問題点に関する調査・意見陳述」とありますが、これは公開の法廷なり、弁論準備手続なり、そういうところで意見を言ってもらうということを予定しているわけです。一方の当事者だけとか、裁判所だけに言うということではなくてですね。専門委員が、どういう専門的な意見を述べたかということは、必ず両方の当事者に分かるようにするという前提です。証拠調べの関与も勿論、相手方が立ち会っているわけですから分かるわけです。そういう局面で専門家にサポートしてもらう制度をつくったらどうだろうかという趣旨でございます。

【髙木委員】そのときに専門委員として参加された人の調査によった結果が、ご当人の学識がなせる御意見なのかはともかくとして、その意見について、そうではないと思っている当事者はどうするんですか。

【竹下会長代理】それは当然反論できるわけです。

【髙木委員】それを、裁判官があと判断されるんでしょうか。

【竹下会長代理】それは裁判というものの性質上、最終的には裁判官が判断される他ないですね。

【髙木委員】裁判官が判断されるのが裁判の本質ですから、それを否定するわけじゃないんですが、そのときにブラック・ボックス化と申し上げたのは、その裁判官の方に専門家の方々が影響を与える回路はブラック・ボックスになるんだと私は思うんです。

【竹下会長代理】ここで予定しているのは、今申しましたように、専門家がどういう意見を述べているのかということは、必ず両方の当事者が分かるような仕組みで考えましょうということです。ですから、専門家といえどもその意見はおかしいではないかということであれば反論できる。そういう制度を考えているわけです。

【髙木委員】労災事件などでもいろいろあります。都道府県で審査され、その結果に不服がある場合には中央の審査に上がってきます。そのときに不服であるがゆえに、こういうお医者さんのこういう御意見も聞いてきましたけれども、最終的に審査会が判断されるのは、審査会がどなたかに委嘱して調べた結果に基づく知見が、まさにオールマイティーみたいな役割をしていて、なぜそういう御判断になったかというのは、ある部分ブラック・ボックスなんです、と私らには感じられるわけです。

【竹下会長代理】どういう専門家に聞いたら、どういう意見を述べたということは知らされないのですか。

【髙木委員】こういうふうに見立てられていますと言われたら、それで判断されたらそれで終わりなんではないでしょうか。

【竹下会長代理】それは労災の方のことですね。

【髙木委員】一つの例として労災を出したのは適当だったかどうか分かりませんが、専門家の中でもいろんな見方がある。その辺を専門委員という格好で、オールマイティー化するのに懸念はないのでしょうか。やはり参加されるのはお一人ですね。

【竹下会長代理】普通は1人になるだろうと思いますが、別に1人である必要はないと思います。二人の専門委員を関与させてもよいと思います。

【井上委員】そこは選任のところで、両当事者から見て中立だということでないといけないわけですね。その上で、意見が出てきたら、それを両方に開示して、反論なり反証なりの機会を与える。それが恐らく、条件になるのではないかと思います。鑑定の場合でも同じようなことですね。

【水原委員】髙木委員の御懸念は分かるような気がいたします。問題は、専門家の選ばれ方、これに中立公正な選び方をしたらどうか。その担保の仕方の問題だと思いますので、それを十分検討していただいて、中立公正な人を選ぶ方法を考えれば御懸念は解けるんじゃないかと思います。

【中坊委員】今の選任のこともそうかもしれないけれども、もう一つ重要なことは、基本的に、さっき井上さんがおっしゃったように、反対尋問というか、それに対する検証行為を公の場所でやらせてくれるかどうかというのが一番の決め手になると思うんです。
 ところが、現実には、これは私も経験で言うんですけれども、鑑定人は全部そこで嫌がるんです。私は何も悪いことしていないのに、言うたら、双方から言われて、それでみんながなりたがらないんです。そこが一様に悩ましいところでして、しかし、本来言えばそういうものが定着してくればいいんだけれども、特にお医者さんの鑑定書というはその最たるものです。
 そういうところから、現実の問題としては、鑑定側もやりにくいし、今おっしゃったように、水原さんのように中立公正と言ったって、結局はそこが問題なんです。だから、そこをどう突破していくのかというのが、私もいい案があるかと言われるとないんですけれども、しかし、そこに非常に問題があります。

【竹下会長代理】中坊先生、ちょっと中座しておられるときに申し上げたのですが、ここで考えているのは、まず、争点整理のサポートですが、これは御承知のように、今回の準備的口頭弁論でやるか、対審構造を取る弁論手続でやるわけですから、これは専門委員が争点整理を裁判官を補助してやるということになれば、その意見は両方の当事者が分かるわけです。
 それから、和解の補助というのは、これは言うまでもなく、当事者を説得しなければ和解になりませんから、当然当事者双方に対して和解を勧めるわけで、それに反対なら当事者としては反論する機会が与えられる。
 それから、何か専門的な意見を述べるという場合も、それも必ず公開の法廷なり、あるいは弁論準備手続なり、少なくとも両方の当事者には専門家がどういう意見を述べているかを分からせて反論する機会を与えるという前提で考えているわけです。

【中坊委員】弁明すると、鑑定人になったりしてくれる人が非常に見つかりにくいですよということを言っているわけです。現実にはそこが非常に隘路になって、鑑定というのが非常に難しくなってくるものですから、その辺の基本的な問題点はある。私の個人的な考え方かもしれませんが、専門家ということほど危険性があるものはない。専門家の名において、これは専門だからと言って、みんなが不可侵に入ってしまって、一般に理解できないことが随分と多いと思うんです。本来で言えば、みんなが分かる裁判ですから、分かる解決にならないといけないんだから、非常に専門家というものを多用されるということは、私は必ずしも賛成しない。
 だから、専門家というものを使うことによって、すべてがキーワードみたいにかちゃかちゃとうまいこといくということには、現実の問題としてなかなかいきにくいものです。今日のこれを見ると、随分専門家が入ってきているみたいで、だからちょっとこの考え方にも一概に賛成はできにくいなあと思っています。専門家というのはえてして間違いはるしね。弁護士自身もそうで、ちょっと恥ずかしいんだけれども、そういう意味における危険性を考慮することがものすごく大事なんです。そこはやはり考えないといけないと思います。

【竹下会長代理】専門的知見を要する訴訟なのですから、専門家に入ってもらわなければどうにもならないのです。

【藤田委員】大阪地裁の吉川慎一判事がアメリカに調査に行きまして、連邦最高裁のマークマン・ヒアリング判決に関する論文を司法研修所報に書いておられるんですが、それによりますと、アメリカが知的財産権の分野で世界制覇を成し遂げつつあるという一つの原因には、1万人からパテント・アトーニーがいるということもあるんですけれども、もう一つは、専門家の知識、経験を吸収して、知的財産権に関する紛争を迅速・適正に解決しているということがあずかって力があるという分析をされております。アメリカの判例の分析によると、専門家が裁判を補助するのに二つ機能があって、専門的技術的判断をする前提としての基礎的な科学的知識を提供するという教育型、もう一つは、事件についての専門的な判断をするについての判断補助型です。前者はこれは問題はないんです。東京地裁の知財部でも双方の代理人、弁理士、それから調査官も入れて、技術検討会をやっているという話を聞きますが、そういうような性格のものは問題はない。問題になるのは、具体的な事件についての判断補助機能ということなんですが、これについてはやはり手続の透明化と、それを争う機会を保障するというのがデュープロセスの上で必要だということなんで、そこら辺の保障をすれば、そういう的確な判断をする専門家の力を借りなければ、適正かつ迅速に判断できないということがありますから、そこの手続の透明化と争う機会の保障、デュープロセスということを考えた上で、制度を立てればよろしいんではないかと考えます。

【吉岡委員】藤田委員のおっしゃった基礎的な知識の部分、そこのところは私も同感です。ただ、具体的な事実の判断を補助するという場合に、専門家の中でも全く意見が対立するような問題というのがかなり多いんです。
 そういうことから言えば、専門家といっても、対立するような意見がある場合には、その双方の意見を聞くということが必要だと思いますし、先ほど水原委員の言われた選び方が問題だという、そこのところは、だれが見ても公平・公正に選ばれたということが保障される必要があるのではないかと考えます。
 それから、名簿の整理をしていくということは、ある意味では利用者にとっても、利用しやすいというか、全然分からないことが多いですから、利用しやすいということにつながると思いますけど、その名簿は参考名簿であって、拘束されないということの保障がなければいけないと思います。
 それから、次のところで、専門委員の参加制度について書いてございますけれども、常勤の裁判所職員となるということに触れられておりまして、専門委員の果たすべき役割、その辺を考えたときに、常勤の裁判所職員ということが、位置づけとしていいのかどうか。これは十分に検討する必要があるのではないかと思います。

【佐藤会長】皆さん現状がいいというふうには御覧になっていないわけですね。そうすると、何らかの形で直していかなければいけない。では、どうやって直していくのか。そのときに、専門家の手を借りなければいけないということ、これも否定のしようがない。問題は、専門家の手の借り方なんですね。借り方のところで、いろいろ工夫する。さっきの選び方、選ばれ方のところもあるでしょうし、それから藤田委員が紹介されたような問題もあるでしょう。デュープロセスの問題もあるでしょう。そういうものをきちっと整えながらやっていかないといかぬということ、これも理論的には皆さん同意なさることではないかと思いますが、いかがでしょうか。一つひとつ大丈夫ですかと言われたら、議論を先に進められないですから。

【中坊委員】私は一言申し上げたいのは、先ほどから言うている専門家に依存し過ぎるという問題点がありますよ。専門家だったら何もかも万全であるとして、そこに依拠しすぎると、結果的に大変な間違いを犯すこともあるんです。千日前デパート事件でも、信楽高原鉄道事件でも、全部それがあるんです。だから、現実には鑑定というものの危険性というものを私は強調しておきたい。

【佐藤会長】もっと大きな話をすれば、裁判員制度の議論のとき、法曹もプロ、専門家であり、法曹の限界ということを考えなければならないということ、これを私ども認識したんじゃないでしょうか。そういう意味で、ここで専門家を使うとしても、当然専門家に対するいろんなコントロールと言いますか、選び方その他のところでいろいろ工夫しなければいけないというのは否定しようがない。さっき申しましたように、専門家の手を借りなければいけないということは否定しようがないわけですから、それぞれの訴訟類型によって、更に個別的に考えるべき事情があるかもしれませんけれども、デュープロセスも含めていろいろ配慮した制度設計の中で専門家の力を生かすと言いますか、そういう方向でちょっと考えてみようじゃないかというところではどうでしょうか。そういう趣旨のものとして代理の整理されたものを受け取っていただくと。

【髙木委員】選び方とか、デュープロセス等は、ブラック・ボックスとか、分かったような分からないようなものにならないよう、そういうものをクリアーにしながら担保していく、そういうレベルはできるだけ高いものにしていくことが大切だと思います。

【竹下会長代理】十分留意して制度をつくるべきですね。

【山本委員】鑑定内容のオープン化とか、そういうこともあるんでしょう。そういうことはないんですか。

【竹下会長代理】原則的には訴訟記録の一部になりますから公開されることになります。

【山本委員】例のIT化等に絡んで、広く社会の批判に耐えられるものになるはずですね。

【石井委員労働問題とか、医事問題については、もし難しい問題があるんでしたら、少しあれしていただいてもいいんですけれども、知的財産権については。

【佐藤会長】では、4ページの知財関係のところに移らさせていただきます。

【髙木委員】医事関係のところで、医事の方は「導入の検討」と、建築関係の方は「導入」と使い分けておられて、この医療過誤の裁判についていろんな御意見があるということに御配慮されたということだろうと思いますが、その辺の書き分けの意味ははっきりしておいていただきたい。
 もう一つは、医療についても、医事関係訴訟委員会の新設というので、ここで鑑定制度に関わって学会なり、専門家の皆さんとの委員会を設置し、最高裁にお置きになると書かれています。それはどこに置くのがいいのか、これは後日の裁判所、あるいは裁判官の在り方との関わりもあるんですが、いっそ法曹の外へ出して、いわゆる第三者機関化というんでしょうか、どちらが国民にとって受け止めやすいのか、その辺は地方分権だ何だと言われている中で、最高裁ということになれば、東京で一つの委員会でということになるんだろうと思いますが、どうなんでしょうか。

【竹下会長代理】最高裁に置くという趣旨は、勿論、他の地裁レベルで、その地域の中立的な団体と協定をして、鑑定協議会みたいなものを開いて、鑑定人が選べればそれで結構ということです。つまり、そういう形で選べない場合に、中央の最高裁まで言ってくれば、学会に選定をお願いして、候補者を決めますという仕組みです。ですから、決して鑑定人を選ぶのは全部最高裁のここの委員会だという趣旨ではございません。

【髙木委員】いただいた「追加参考資料6」の11ページ、今年の夏には最高裁に設置予定などと書いてあって、既定路線で走っておられるお話で、もうその方向で準備中と書いてある。

【竹下会長代理】準備中なら何も言わなくていいかというと、そうではないので、こういう方向でやるべきだというのは、審議会として意見表明をしておいた方がよいのではないでしょうか。反対なら反対と言わなければなりませんし。

【髙木委員】私は最高裁と直結しない方がいいのかなという感じもちょっとしています。

【竹下会長代理】そうすると、具体的にどういうところに置くことになるのでしょうか。

【髙木委員いわゆる第三者機関化というんでしょうか。

【竹下会長代理】一般的には日本の国民の、裁判所に対する信頼は相当に厚いのではないでしょうか。裁判所でやるよということであるからこそ、学会や何かも協力をしてくれるので、なかなかそういう別のところにと言っても、今、ここで考えているような協力体制というものが得られるかどうかというのが難しいように思うのです。

【中坊委員】髙木さんと同一の意見のところがあって、これから最高裁の在り方がどう変わるかの問題はあると思うんです。ただ、今のままの裁判所の事務総局の在り方で、最高裁と言っても、結局は最高裁事務総局にこれが設置されるということになってきて、これから審議することですけれども、最高裁の在り方というのが非常に問題ですから、髙木さんのおっしゃる第三者機関という物の考え方も生まれてくるというのはあると思います。だから、そこが一つの問題点なんです。

【竹下会長代理】第三者機関と言いましても、どういうことですかね。都道府県の県庁とか、そういうところに置くということが、現実性を持ちうるのか。そういうところに裁判所で使うと言うとちょっと語弊がありますが、鑑定人を推薦するための委員会を県庁に置くとか、そういうようなことでうまくいくのでしょうか。

【中坊委員】最高裁が我々の審議の中で大きく入っていますように、運営にもっと参加していくという透明性のある裁判所ならいいんだけれども、今のような事務総局で密室の中で決めているとなってくると、先ほどの髙木さんの言葉で言えばブラック・ボックスの中に入ってきて、一つの権威づけみたいになって、それが非常に弊害を呼ぶ恐れもあるんじゃないかと思うんです。これは先ほどから言うているように、有機的、総合的な中で決められることではあると思います。すべてが有機的に結合している問題だと思います。

【藤田委員】一流の方たちがどうして鑑定を引き受けるのを嫌がるかというと、結局は反対尋問でつるし上げられることがあるからなんです。大体一流の方はみんな尊敬されて、先生、先生と言われているのが、「あほ、ばか、御用学者」みたいなことを言われるという経験のない方ですから、そんな恥ずかしめを受けながらなぜやらなきゃならないのかというので引き受けない。そういうことを私も現場にいたときには、医事関係訴訟でもあちこち、大学に頼んでは断られ、厚生省に言って断られというんで、苦心惨憺して、どこかのところで相談に応じて選定してくれる機関があれば、そこに勿論駆け付けますけれども、そういうことをいろいろやってだめで、それでこれは最高裁が医師会なり何なりと相談して、イデオロギーにも何も関係ないことですから、そういうところで選定してもらうということで協力を求めて協力してもらうということなんで、最高裁の事務総局の在り方については意見はありますけれども、それは抜きにしても、そういうような形でやらなければ、円滑に鑑定人を選任してやってもらうということはできないんじゃないでしょうか。

【佐藤会長】鑑定人名簿の整理とかがないと。

【藤田委員】今までに鑑定してもらった鑑定人と鑑定事項とどれだけの鑑定料を支払ったかということは、最高裁の方で資料を出しているんです。そういうのを見て、この事項ならばこの先生にどうだろうかというふうにやるんですが、なかなか引き受けてくれない。それはやはり鑑定人が中立の立場で判断してくれたということであるんですから、それ相応の敬意を払って遇しなければいけないということもあるんで、それはそれぞれに自覚してやらなければいけないと思うんですけれども、現状においては一流の専門家になればなるほど鑑定なんてまっぴらというのが実態なんです。

【曽野委員】私、全く日本語が違うものでございますから、外国語を聞くようにここに座っています。鑑定の問題だけ申し上げます。
 言語というものは、しゃべる言葉と書く言葉とは全然違う。ですから、鑑定書を出せということなら出せると思います。しかし、その場でしゃべりなさいと言われたら、正しくしゃべれない。おできになる先生もいらっしゃるかもしれませんが。私、ほとんどのインタビューを拒否するのは、その理由からなんです。
 ですから、以上のことについて、鑑定書を出せと言えば私はすると思います。しかし、現場でしゃべりなさいと言ったら、私も出ません。しかし、お答えはいたします。
 私はよく新聞で、コメントとして38字で書けとか、75字で書けと言われたら全部書きます。それでも向こうはやらないから私は答えないだけです。
 ですから、文章と口頭は全然違うということを一つお考えいただけたらと思います。

【佐藤会長】鑑定となれば、殊更に難しいですね。

【竹下会長代理】曽野先生の言われるように、鑑定書を書くということであれば大分違ってくる。

【髙木委員】ともかく、鑑定が医療過誤では信頼できるできないとか、根っこのところがぐちゃぐちゃになっているものですから、裁判所の制度論をやっても、そっちの方を先に直さなければいけないということになる。

【佐藤会長】そこは任しておけば直るかというと、そうもいかないので、やはりこっちの方でも仕組みみたいなものをつくって、よくなってもらうように仕向けていくということも必要ですから、両方必要だと思うんです。放っておいていいわけじゃないんですから。

【髙木委員学会の方なり、医師会などはどうか分かりません。そちら側の方も、医療過誤事件に伴う鑑定について、国民にはこんなふうに受け止められている世界があるんだということを認識しておられるはずだと思います。それをより公正・中立的なというふうに受け取ってもらうためにどういうふうに変わっていかないといけないのか。制度的には司法制度の中ではどういうふうに鑑定をアクセプトしていくのか、その両面からのアプローチがないと、さっきの検討という言葉はいつまで経っても取れないんじゃないかなという気がするんです。

【佐藤会長】その辺の問題をどう表現するかは、非常に難しいんですけれども、最終報告の中に、今おっしゃったような趣旨を何らかの形で書ければ、と思わないでもありませんので、その段階でこの問題を最終的にお決めいただくということにさせていただけませんか。先を急ぐようですけれども、今日はこれを終わらないと。脅迫するようで悪いんですけれども。知財関係の方は、専属管轄の辺りが少し御議論あるかもしれませんけれども、ここはいかがですか。

【竹下会長代理】先ほど申し上げたように、「追加参考資料6」の資料3、資料4辺りをごらんいただくと、特許と実用新案については、東京、大阪にかなり集中していることが分かっていただけると思います。実際に成果も上がっている。資料4を見ると、東京、大阪とそれ以外では未済事件の審理期間にかなり差がある。こういうことを考えてみると、東京、大阪に原則的には事件を集中させる。少なくとも特許、実用新案についてはですね。経済界からも強い要望がある問題ですから、迅速にやらないと、日本の司法は国際的に相手にされないということになりかねないので、それを考えた方がよいのではないでしょうか。勿論、個別のケースでは、東京、大阪以外の裁判所の方が両当事者の利益に合致する場合もあると思いますから、そういう場合には、先ほど言いましたように、移送なり自庁処理なり、あるいは両当事者が合意すれば他の裁判所でもよいというような是正措置で弊害は防ぐということでいかがでしょうか。

【井上委員】質問が1点あるのです。現実がそうなっていて、実際上必要も高いということで、私もその点よく分かるのですが、特にこの二つにつき、性質上他と違うということはあるのでしょうか。つまり、少なくともこの二つについては、東京、大阪に専属管轄を持たせるべきだという場合に、現実の問題と実際の必要ということに加えて、この種事件の性質上そうするのが合理的だというような説明があるともっと強いと思うのです。

【竹下会長代理】やはり専門性が強いということです

【井上委員】そうすると、それに慣れたところでやるのがいいということでしょうか。

【竹下会長代理】裁判官、調査官、書記官も専門化していますし、弁護士も専門化した弁護士の多くは東京、大阪に集中しています。

【井上委員】あえて伺うのですけれども、知財の他の類型のものとは、性質上差異があるということですか。

【竹下会長代理】要するに、この結果から見て、私は個人的には、知財関係の他の種類の事件も一緒でよいのではないかと思うのですけれども、客観的なデータから言うと、特許、実用新案以外は、それほど東京、大阪に集中しているということではありません。ということは、他の土地で訴訟をやる必要性もあるのかなということです。

【佐藤会長】今の井上委員の御質問は、なぜ対象が特許と実用新案かということですか。

【井上委員】それについて現実そういう傾向になっていて、必要性が高いということなのですが、そういった理由にプラスして、何か性質上、特殊性があるということが加わると、説明としてはより強くなるかなと思って御質問したのです。
 もう1点は、例外的な場合については、あえて書いていなくて、ここでは原則だけ書いているということですね。

【竹下会長代理】そうです。

【藤田委員】現実には、医事と建築と知財とは全く違うと言いますか、量的な差ではなくて、質的な差があると思います。私の同期で東京地裁29部、知財部にいた裁判官が言っていましたけれども、3年か4年その部にいた間、法律書は一冊も読まなかった。常に専門的な技術分野の勉強に追われていた。そういうトレーニングをしていない人がやったら、ただ、惑うだけでありまして、そういう意味では、医事と建築、これは専門家から話を聞くとか、鑑定書を読むとか、勉強すればある程度は分かりますけれども、知財に関しては、まず基礎的なトレーニングをしないと無理じゃないかと思います。

【竹下会長代理】井上委員の問題とされているのは、知財の中でも特に特許、実用新案について東京、大阪両地裁に専属管轄を認める根拠です。

【藤田委員】実用新案だとかなり素人的なものもある、特許はそうはいかない。それと半導体、これもだめですね。

【竹下会長代理】そういう専門性の強い東京、大阪に専属管轄を認める必要のあるものというのが他にもありうると思うのです。そこは立法の段階で考えていただくことにしないと、ここで特許と実用新案だけで、それ以外のものは一切だめと決めてしまうのは適当でないと思います。

【髙木委員】21世紀、地方型のベンチャー企業が、いろんな分野に挑戦し、さっき石井さんも話されましたが、例えば徳島県にこういうベンチャー企業があり、こんな分野で順調に発展しているといったことも報告される。現状でも知財事件の1割なり2割なりはそれぞれの地域でやっておられる。そういう意味では専属管轄化ということで大方はカバーされるのかもしれないが、そうでない部分について、例えば専門部の方が裁判官も、あるいは調査官、書記官、そういう方々も一緒に訴訟をやるということになったときに、巡回型というか、いろんな対応を機動的に、それも専門性を高く維持する形でというのが担保されていないといけないと思います。加えて、一方で分権論などもありますしね。

【竹下会長代理】それだけの人員の配置ができれば一番よいのですけれども、現実問題として、なかなかそれだけのスタッフがいないようです。しかし、現場で何かを調べる必要があるとか、検証する必要があるとかいうことであれば何かそれに対応できるための仕組みを考えても、いいでしょうけれども。

【髙木委員】製造工程などは見ていただかないと、いわゆる製法特許などは現場を見てもらわないとどうにもならないという意見もあります。

【竹下会長代理】東京、大阪が受訴裁判所であっても、検証には行くと思います。

【中坊委員】言うまでもなく、先ほどから同じことを言っているんですけれども、人的な基盤がどのように配置されていくか。今、代理のおっしゃるように、今のところ地方はこうだからと言われてしまうと、確かに現状では今おっしゃっていることは当てはまるけれども、我々、審議会というのは、一方で人的基盤のところも拡充して、地方にも人を配置するということを前提にしているわけですから、そのことを一方で言いながら、特許と実用新案だけは東京、大阪だけの専属管轄だとする。専属管轄だとよそで起こせないわけですから、そういうこと自体は、物の考え方としては、確かに代理のおっしゃるのは現状においてそうでしょうと言われるのは私も何となく分かるような気がしますけれども、本来、我々が審議会としてそこだけを専属管轄にするんだという結論を出すには、全体の整合性が要るんじゃないかという気が、私個人としてはするんです。

【竹下会長代理】将来的に、それこそロースクールが立ち上がって、裁判官でもいろいろな専門的な知識を持っている人が多くなるということになってくれば、それは見直すということは十分考えられると思います。

【中坊委員】まさにそこを目指しているんでしょう。それと東京、大阪だけを専属管轄にするんだということとは矛盾するでしょう。

【佐藤会長】その点は、非常に緊急性があるということだと思います。国際社会の中での日本の実情を見れば、とにかく急いでやらないといけないという要請が強いことは確かでしょう。

【山本委員】そういうニュアンスを出せばいいんじゃないですか。東京、大阪だけでは困るというお話ですね。

【中坊委員】全体の案の中で考えるべきことと、今、会長がおっしゃったように、緊急性があるんだと。これとどう我々の中で整合性を保っていくかという問題点があるんじゃないかということを言っているんです。

【竹下会長代理】それはよく分かります。

【石井委員】今の件なんですけれども、さっきからお話を伺っていますと、医事関係とか労働問題というのは、ちょっといろんな専門委員とかいう意味で難しい点があるのかなということがございますけれども、今、先生もおっしゃっていただいたように、知的財産権の問題については、今、非常に国際的な見地から見ても、非常に困っている、切羽詰まった状態にありますので、もし、この審議会でうまく医事と労働とうまくあれしなくても、これだけはうまく決めてしまう。こんな言い方はよくないんですけれども、そうしないと国際的な見地から見てどうしても具合が悪いと思います。それだけよろしくお願いいたします。

【佐藤会長】先ほど申し上げた趣旨も、そういうことでございます。専門性が高いということと、緊急性があるということで見ますと、これは一つのカテゴリーとして考えていいんじゃないかという趣旨であります。
 5番に入っていただきましょうか。6については、民事執行で。いろいろ御意見はあるんでしょうけれども、7、8、9の辺り、これは大体よろしゅうございますね。そうすると、「5 労働関係事件への総合的な対応強化」のところですか。他のところについての議論を封ずるわけではありませんけれども、ここのところを少し御議論いただけませんでしょうか。

【髙木委員】このまとめ方は、率直に申し上げて残念でなりません。半減論は先ほど来議論がありましたので、尽きているんだろうと思います。
 私、前回の審議の際に労働参審制及び労働調停等について意見書を出させていただきました。そのペーパーでは、労働調停と労働参審制はまさに並列、セットのものだという思いで書かせてもらったつもりです。ここにお出しいただいた案では、労働調停はやりますが、参審制はだめというニュアンスに受け取れます。はっきりだめとはおっしゃってはいませんが。
 実はこの審議会にも昨年12月1日にお越しいただいた東大の菅野先生が、つい最近ドイツ、イギリスに行って、労働裁判、あるいは雇用審判所等のことをいろいろ見て来られたり、お話を聞いてこられたということで、菅野先生から昨日その印象をいろいろお聞きしました。菅野先生の、イギリス、ドイツを回ってヒアリングをされた印象では、日本でも同種の団体から選任された人が裁判に関与すべきという考え方に強い自信を持たれたということでした。両国のヒアリングで異口同音に言われましたことは、労働裁判では現場の感覚を入れてこそ適切、かつ納得性のある判断を下すことができるというものであったというお話でした。このような判断は当事者のみならず、国民の信頼、クレディビリティー、あるいはアクセプタンスを容易にするものであるという説明もありました。また、こうして得られた判決が企業に持ち帰って、同様の問題が発生したときに、ある種の先例、教訓として生かされますし、職業裁判官にとりましても、データがフィードバックされて参考になるという面もございます。
 本審議会では地裁段階での労働調停制を導入することでとりあえずという議論があるようですが、ADRは和解が中心です。これに労使代表的な調停委員が入るとかえって解決を遅らせることになりかねないという意見もあります。あるいは、労使の代表が加わるべきなのは、裁判所における判断という行為についてであって、そういう行為に労働やら労使関係に対する専門性、あるいは経験を持った方々が参加をして判断を形成する。そういう意味では、調停に労使の人材がまず集中してしまい、本来必要な裁判にそういう人材が活用できない。そういう懸念を持つようなアプローチはいかがなものか。菅野先生は、そんなような御意見も述べておられました。私もその後いろいろな方々にお会いしたり、いろいろお聞きしてまいりましたが、労働裁判の方で現状いろんな問題があることについては、御認識いただいておると思いますし、先ほど石井さんが国際的な観点から知財事件の重要性を訴えられましたが、21世紀の日本社会にとって、労働事件訴訟は、雇用労働者も6,000万人になろうとする社会を想定した場合、わずか二千数百件の裁判という状況は大きく変わり、個別労使紛争の増加への対応も含め、いかに円滑かつ公平、公正に解決を図っていくか、極めて重要な課題だと思います。
 そういう中で、私は労働調停はADRの多元化という意味で賛成を申し上げた訳で、それは裁判がそれなりに労働現場の感覚をきちっと反映させた裁判になりうるという前提があってのことであろうかと思って、ああいう格好で提案させていただいたんです。先ほど竹下会長代理の御説明のときに、本審議会終了後も検討は継続するというお話もありましたが、一方で、いつまでもこの審議会でやっていられないからという御発言もありました。是非、参審制というものをもう一度皆さんにも現状なり、実態も御検討いただいて、労働調停だけが今審議会の成果だということであるなら、私は労働調停も将来禍根を残すかもしれないなという感じがしてまいっております。私も労働調停の導入を提起させていただいたんで、今更こんなことを言うのはどうかと思いますが、一方で参審制はなしということでしたら、労働事件にとって、この司法制度改革というのは何だったのかという思いもいたします。その辺の整理の仕方については、更に御再考をいただきたいと思います。
 勿論、いつまでもやっていられないというのは期限のあることですから、早急にということで理解しなければならないと思います。更に日経連等とも続けて話をしてまいりますけれども、少なくとも今回の取りまとめは、五審制等のことについては、おっしゃられたように労働委員会サイドもいろいろ考えなければいけないこともありますし、藤田委員もその辺御存じでありますから、こういったことかなと思いますが、特に労働参審制の問題につきましては、労働裁判というのが判断という意味での、まさに秩序形成のファイナルなものである点も理解いただき、是非その導入の方向を打ち出してほしいと考えます。

【竹下会長代理】勿論、労働参審制についても、ここで合意が成立すれば当然そういう取りまとめになるわけですけれども、これまでの審議の経過ではなかなかその合意の成立というところまでまいりませんので、こういうまとめにしたわけです。しかし、今おっしゃるように、労働裁判については、労使慣行について、専門的な知識を持った者が関与することが必要だということであれば、ちょっと問題のすり替えみたいになって、御納得いただけないかもしれませんけれども、先ほどの専門委員という制度を使って、労使関係について、事情をよく知っておられる方に入っていただくということは十分可能だと思うのです。それである程度裁判官の労使慣行についての知識の不足を補っていただくというような方法はありうると思っています。

【髙木委員】皆さんのところに個別お願いに回らせていただいてよろしいですか。

【竹下会長代理】髙木委員が、今おっしゃったような、御心配もたしかにあると思うのです。労働調停だけやると、そこの部分だけ、言わば食い逃げみたいになって、労働参審の方は置いてけぼりになってしまうと。

【髙木委員】経営者の皆さんに誤解があると思っています。これは労働委員会の今までの経験などから来ているものだと思いますが、労働委員会は不当労働行為を専ら争う場ですから、これからの労働紛争について、労働参審制は経営者の皆さんにだってものすごいメリットがある制度だと私は思っているんで、その辺を、言葉使いを気を付けなければいけませんが、日経連の人にも、もうちょっときちんとわきまえていただかなければいけないなと思っています。

【竹下会長代理】労働調停の経験を積み重ねることによって、そういう意味での一種の不信感みたいなものが払拭されて、裁判の方についても参審制を入れようではないかという流れも今後の見通しとしてはありうるのではないでしょうか。

【中坊委員】むしろ裁判がしっかりしていて、調停とかADRがあるんです。裁判手続が今、髙木さんがおっしゃるように、そこが現場感覚の中で、参審制も採用されずに、変なものになっているということで、調停が進むということはありえない。やはり裁判が中核です。そこがしっかりするということが前提であって、調停の側から自然と裁判に行くという流れにはならない。むしろ悪くなる方が多いと私は思います。
  だから、私は後のADRも余り問題ないでしょうとおっしゃったけれども、ADRの活用のためにも、その前提として裁判手続の充実化が非常に急がれると私は思っているんです。

【佐藤会長】もう5時半になりました。皆さんもお疲れだろうと思います。この問題、どうしますか。時間的に最終報告まで非常に厳しいんですけれども、一応今日はこの程度にとどめて、最終報告までに少し考えさせていただくということで今日のところは引き取らせていただきたいと思いますけれども、よろしゅうございますか。御不満でしょうけれども。
 ADRの方は、中坊委員がさっきおっしゃったことですけれども、一般的にはそのとおりだと私も思っています。裁判のコアがしっかりして、ADRが生きてくるという考え方は私もそのとおりだと思っております。そうではない考え方を7以下のところで書いているわけではないんです。そこは御理解いただきたいと思います。
 大分皆さん腹膨るる思いで、もっと言いたいことがいろいろおありだと思いますけれども、全体にわたって一通り今日御議論いただいて、残ったところもあるかと思いますが、一応今日の御議論は以上で締めくくらせていただきたいと思います。
 幾つかは残りましたけれども、基本的には御了解いただいたものと思っております。どうもありがとうございました。
 それでは、配付資料の方をお願いします。

【事務局長】日本弁護士連合会の方から弁護士の在り方について補充書という文書が提出されましたので、本日お配りしております。これは本年2月2日の第44回審議会におきまして、日弁連が検討している弁護士の綱紀懲戒手続の改革案について、その内容を整理して具体的に整理したペーパーがあるとよいとの御指摘がありましたので、それを受けまして作成されたものだということであります。御参照いただきたいと思います。
 その他につきましは、特に説明することはございません。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 そうしたら、最後に次回の日程確認等でございますが、次回の第55回審議会は4月10日火曜日、1時半から5時まで、この審議室で行います。次回は前回の第53回会議に引き続きまして、「国民の期待に応える刑事司法の在り方」に関して残っておりますところの公的刑事弁護制度の在り方、新たな時代に対応しうる捜査公判手続、それから、検察審査会制度の在り方などについて意見交換を行いたいと思っております。
 また、前回の警察庁の佐藤次長のお話の中に、検察官体制の強化に関するお話もありましたように、検察官の在り方、その人的体制も含めて、刑事司法の在り方と密接に関連しているということで、最後に少し時間を取りまして、検察官の在り方について意見交換を行いたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
 本日は5時にはと思っておりましたけれども、長引いてしまいました。不手際で申し訳ありませんでした。以上で今日は終わりたいと思いますが、よろしゅうございましょうか。

【竹下会長代理】どうもありがとうございました。

【佐藤会長】記者会見は、今日は会長代理と二人ですね。