司法制度改革審議会
司法制度改革審議会 第55回議事概要
- 1. 日 時 平成13年4月10日(火) 13:30~16:50
2. 場 所 司法制度改革審議会審議室
3. 出席者
- (委員・50音順、敬称略)
石井宏治、井上正仁、北村敬子、佐藤幸治(会長)、髙木 剛、竹下守夫(会長代理)、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子
(事務局)
- 樋渡利秋事務局長
- 4. 議 題
- 「国民の期待に応える刑事司法」について
- 「検察官の在り方」について
- 「最終意見」について
5. 会議経過
(1) 第53回会議に引き続き、「国民の期待に応える刑事司法」について、審議用レジュメ(別紙1)に基づき、意見交換が行われた。その概要は以下のとおり。
(被疑者・被告人の公的弁護の在り方)
- この問題は、第一次的には被疑者・被告人の権利擁護の問題ではあるが、裁判の充実・迅速化という視点も欠かせない。運営主体において、常勤弁護士なのかどうかは別に、特定の刑事事件に専従できる弁護士を確保し、集中審理に耐えうる弁護体制を整備する必要がある。裁判員制度の導入に伴い、連日開廷が不可欠であるので、このような体制の整備が一層重要となる。
- 裁判の迅速化は必要であるが、そのために充実した審理を犠牲にしてはならない。公的弁護制度を考えるに当たっては、十分な弁護を提供できる体制かどうかという視点が重要。弁護士過疎の問題や弁護士の専門性の問題も考える必要がある。また、どういう制度にするにしても、個々の事件の弁護人が、独立して、主体的に活動できることが必要。
- 導入方式については、被疑者・被告人段階を通じて一貫したものとし、弁護人の選任・解任は裁判所が行う必要がある。運営主体については、国費投入のもと、スタッフの雇用など弁護人の選任・解任以外の事務の管理を任せられるのであるから、国民の納得を得られるような、中立・公正な組織でなければならない。個々の弁護活動が独立して行われることは当然であるが、国民の納得という見地からは、適正で質の高い弁護サービスを提供する必要があり、運営主体において弁護活動の水準を確保していく必要がある。
- 行政が直接的に運営主体に関わるのは公正とは言えないであろう。民事における法律扶助協会のような団体が、運営主体となるのが、公正・中立につながるのではないか。
- 弁護人の選任・解任は裁判所が行うべきである。問題は、集中審理に対応し得るよな体制をどのようにして整えるかである。運営主体が、常勤の弁護士を雇用するのは欠かせないし、その他、個別に、弁護士や弁護士事務所と契約を交わすことも考えられる。運営主体を何と呼ぶかは別にして、公的弁護制度の中核に位置付ける必要がある。個別の弁護活動の自主性・独立性に国が関与してはならないことは当然であるが、弁護の質をどのようにして確保するかを考えなければならない。国費投入に伴うアカウンタビリティーを保ちつつ、運営主体の独立性・自主性を確保することも必要。
- 現在国会に提出されている弁護士法人化に関する法案は、法人に弁護人の地位を認めようとするものではないということであるが、将来的には、法人に国選弁護を依頼するということも検討すべきではないか。
- 運営主体が公正・中立でなければならないということは分かるが、何のための公正・中立かを考える必要がある。被疑者・被告人が弁護士による適切な援助を受けられるためのものであるはず。法務省が予算の窓口になるのはよいとしても、人事面など具体的運営に関与することは問題である。また、公的弁護人の選任母体を、運営主体に限る必要はなく、裁判所が運営主体を通さず直接選任するなど多様なチャンネルがあってもよいのではないか。
- 選任母体を運営主体に限定する必要はないが、運営主体が中核となって公的弁護制度について責任を担う必要があるのではないか。被疑者段階では、裁判所の有する情報は限られており、報酬の算定等を考えると、運営主体を通じるという形の方が現実的である。
- 公的弁護制度の対象を一番広くとらえれば、在宅で捜査の対象となった被疑者も含まれるが、一般的には、身柄拘束を受けている被疑者が念頭に置かれているのではないか。
- 考え方としては、身柄拘束を受けている被疑者からどこまで広げていくかというのではなく、被疑者全てを公的弁護制度の対象とすることから出発し、どこまで絞るのが相当かという発想によるべき。
- 運営主体の中立・公正という点を強調することは、被疑者・被告人の立場に立つことが中立でないとも受け取られるので抵抗がある。弁護活動の自主性・独立性が損なわれないようにすることが重要。運営主体をどこにするかについて色々議論があるが、個人的には、今後公的責務を自覚し、自己改革を進めていくであろう弁護士会が良いと思う。
- 弁護士会は、公的弁護に限らず、私選弁護、民事弁護等にも関係し、弁護士の懲戒一般も担当しているのであるから、責任分担の在り方としては、弁護士会と運営主体は区別した方がよいのではないか。
- 公費投入に伴い、運営主体が国民に対するアカウンタビリティーを果たさなければならないという点については異論がないようだが、果たしているかどうかをチェックする機関が必要ではないか。
- 少年事件の公的付添人の問題も、被疑者段階の公的弁護制度と同様に重要ではないか。
(新たな時代における捜査・公判手続の在り方)
- 取調過程・状況の書面による記録を義務付けるとした場合、その記録の正確性・客観性を担保できなければ、取調べの可視化にはならない。取調べを録音・録画しないというのであれば、この正確性の担保をどうするかの議論が不可欠。
- 可視化の議論の目的は取調べの適正確保にある。取調べの適正確保のために、現行法上、黙秘権の保障、自白の証拠能力の制限なども規定されている上、今回更に、取調過程を記録化し事後的に検証できるようにするし、被疑者段階の公的弁護制度も整備され、弁護人が接見(現在の接見指定の運用は非常に緩やかになされている)を通じて取調べ状況を知ることができるようになる。こういうことを前提として、録音・録画の問題を検討する必要がある。諸外国に比べて捜査手法が限定され、捜査のための身柄拘束期間も比較的短い我が国では、事案の真相を明らかにするためには、取調べが極めて重要となる。取調べで真実を語ってもらうためには、条理を尽くして説得する必要があるが、容易なことではない。録音・録画されている状況では、他人に見られているのと同じであり、なかなか真実を語ってもらうことはできない。組織犯罪等で背後の者などをかばって、虚偽の供述をしている者が、演出のために、録音・録画を希望するということも出てきかねない。このように、真実発見のために取調べが不可欠であり、録音・録画に問題がある以上、取調べの適正確保のために録音・録画を認めるべきではない。
- 真実発見ということで取調べの意義を強調するのは疑問。権力を背景にした取調べがいかに苛烈なものであるか、被疑者の立場がどのようなものであるかを認識する必要。自白が虚偽であったことが明らかになった再審無罪事例が何件もあるように、真実に反する自白をしてしまう事例はたくさんある。録音・録画し取調べを可視化することによって、虚偽の自白をなくしていくべき。
- 過去のえん罪事例など捜査機関にも反省すべき点はある。そのような事例については、事後的に検証して原因等を究明し、その後の実務に生かしている。一般論として、被疑者が虚偽の自白をすることはあるが、捜査機関は裏付けがない自白を信用することはない。
- 取調過程等を記載した書面をリアルタイムで作成するというだけでは正確性の担保にはならない。作成主体は誰なのか、それ以外の者が記載内容の正確性についてチェックするのか。本人の署名・捺印では調書と同じで意味がない。裁判でその書面の正確性を巡って争うことになっては意味がないので、正確性を担保する工夫を検討する必要がある。
- 裁判所の立場から見ても、取調べの適正が争われた場合に事後的にその過程を検証するための資料が必要。捜査機関が取調過程等についてリアルタイムで作成した書面の正確性を具体的にどのようにして担保するかは、この審議会で詰めるのではなく、最終意見を受けてこの改革を進めていく際に、専門的・実務的見地から検討するべきではないか。
- 取調過程等を記載した書面を作成すること自体には意味がある。後に手が加えられることのないよう書面の管理を分けることも考えられよう。取調べが真実発見のために重要な機能を果たしていることは確かであるから、いきなり録音・録画に進むのではなく、まず、ここからスタートして、その効果・弊害等を検証していくべきではないか。
- 最近、痴漢で逮捕されるケースが増えている。捜査機関から、「認めて罰金を払えばすぐ出れるが、認めないなら、20日間身柄を拘束する」と言われれば、やってなくても自白する人はいる。取調べの適正を確保するためには録音等による可視化も必要ではないか。
- 代用監獄は、国際的にも問題を指摘されているし、えん罪の温床になっている。前回のヒアリングによると、むしろ代用監獄の収容能力が限界に達しているということである。予算措置等の問題もあろうが、この審議会で廃止の方向を打ち出す必要がある。
- 組織犯罪の増加、捜査の困難化等により、日本の治安はぎりぎりの状況になっている。これに対応するためには、諸外国でも認められている捜査手法、例えば、おとり捜査の許容、通信傍受の要件の緩和、司法取引の許容などを検討すべきではないか。一方で、捜査機関に対し真実発見による真の犯人の処罰を要請し、他方で、取調べを制約し、新たな捜査手法もだめというのはおかしい。
- 通信傍受の要件の緩和は、プライバシーの侵害につながるおそれがあるので、慎重に検討すべき。
- 通信傍受、おとり捜査のような荒っぽい捜査手法は拡張すべきではない。取調べが重要なのは確かであるが、現在のままでよいかは疑問。取調過程等を記載した書面を、事後的にではなく、その時点でも利用できる工夫はないか。
- おとり捜査など新たな捜査手法うんぬん以前に、警察、検察を含め、本来の捜査能力をアップさせることを考えるべきではないか。金融がらみの大型詐欺事件などでは、本来の捜査能力が十分でないために、手を付けられずに放置されるというケースもある。
(検察審査会)
※検察審査会の一定の議決に対し法的拘束力を付与するための方策に関する法曹三者の意見については、別紙2のとおり。
- 最高裁が全員一致の不起訴不当に拘束力を認めるというのはどういう趣旨か。
(最高裁回答)
起訴相当の議決がなされるケースは極めて少ないという実情を踏まえ、全員一致の不起訴不当の議決にも拘束力を付与してはどうかということも考えられるのではないかという提案。その場合に検察官は補充捜査を行うことになろう。
- 被害者の権利の尊重という観点からも申立人の出頭陳述権を認めることに賛成。公判の担当は、付審判請求のように、検事ではなく弁護士がよいのではないか。起訴相当の議決件数が極めて少ないので、審査の対象事件を絞るというのはどうかと思うが、検察審査会制度はアメリカの大陪審を参考にしたものであるから、審査の対象事件を限定するということも考え方としてはあり得るであろう。
- 審査の申立の中には、申立権の濫用と思われるようなケースや申立人が極めて多数に及ぶケースもあるので、申立人の意見を必ず聞かなければならないというのではなく、例外を認める必要がある。また、審査会の議決に従って起訴した事件の公判担当を検事が行うことが不適当とは必ずしも言えないのではないか。
- 不起訴不当は起訴しないのが不当であるというにとどまり、起訴すべきであるというのではないから、起訴相当の議決にのみ拘束力を認めるべきである。検察審査会の議決に拘束力を認める前提として、審査機能の充実を図る必要がある。審査会が、調査のため誰から話を聞くかは、審査会が決めるべき。審査会の機能強化に伴い起訴相当の議決件数も増えるかもしれないので、審査対象事件の範囲や公判追行主体については今後さらに慎重な検討が必要。
- 起訴相当と不起訴不当の趣旨は確かに異なるが、実際には、起訴相当の趣旨で、不起訴不当の判断をしているケースもあると思う。
(2) 「検察官の在り方」について意見交換が行われ、その概要は以下のとおり。なお、参考資料は、「法務省・福岡地検前次席検事による捜査情報漏えい問題 調査結果」(別紙3)、「第53回会議における警察庁佐藤英彦次長の発言要旨」(別紙4)のとおり。
- 裁判官の在り方を論じたときのように、検察官についても、求められる検察官像を考えるべき。法律専門家として、法律知識、洞察力、捜査能力等が必要であるのは当然であるが、人間的側面として、罪を憎んで人を憎まずという人間性、真実発見への情熱、上からではなく下からものをみる謙虚さが重要である。実情はどうかというと、若手検事については、権力の座にいる者に求められる謙虚さが不足、自己研さんが不十分、温かみに欠けるなどという指摘がなされているし、幹部検事が、部下の実情をきちんと把握しているのかという点についても疑問。法務省官房長が福岡問題に関連して、これまでの検察の在り方を反省し、改革の提言をしたが、その方向性に大いに賛成。組織のものの見方から離れ、市民感覚を学ぶ機会を作るべきであるし、一線の捜査に携わる警察官の活動に理解を深めるための方策も必要。検察が組織を上げて自己改革に取り組んでもらいたい。
- 法務省官房長の改革提言内容に賛成。裁判官制度改革の所でも言ったように、非権力機関に出ていくことが重要。問題はこれをどのようにして制度的に担保するかである。また、裁判官から検事への出向に偏っている判検交流の在り方も見直さなければならないし、検察審査会の建議・勧告を充実させる必要もある。また、形骸化している検察官適格審査会も実効性のあるものにすべきである。
- 検察官を含む捜査機関は、マスコミによる過度な報道からの被疑者の保護に意を注いでもらいたい。現在の状態はひどすぎる。被害者についても同様。
- 外国人犯罪が色々取り上げられているが、入管のボリュームが検挙のネックになっているとも聞く。司法の周辺部分ではあるが、この辺の充実も考慮すべきではないか。
(3) 「最終意見」の内容等について意見交換が行われ、その概要は以下のとおり。
- 審議の経過・内容をきちんと反映させることが大事。論点整理、中間報告と積み上げてきた流れを踏まえ、骨組みをしっかりさせることが必要。総論と各論との結びつきが分かるようにすべき。
- メリハリをつけて、改革の具体化に向け、明確なサインを送る必要。
- 論点整理で取り上げた各論点について、どこに問題があり、どのように変えるのかを分かりやすく示すことが基本。総論が一人歩きするのはどうかと思うので、その部分は簡潔にすべき。
- この審議会でどこまで詰めるべきかという問題がある。改革推進体制の中で更に詰めていかなければならない部分もある。意見の分かれたところについては最大公約数的なところを記載するのか、少数意見も記載するのかというようなことも考えなければならない。
- 論点によって、議論の濃淡があり、記載内容にも濃淡があってもよい。踏み込んで書くべきところもあるのではないか。
- 必ずしも意見が一致しておらず、明確に書きにくいところもあるかもしれないが、21世紀の司法はこうなるという改革のメッセージを分かりやすく送る必要がある。
- スケルトンをはっきり示す必要があるが、それだけでは改革の精神がはっきりしないので、考え方のバックグラウンドをつけておくべき。
- 21世紀のあるべき司法はどのようになるのか、どのような方向に向かっていくのかを分かりやすく説明する必要。
- 早めに原案を作成し、十分時間をかけて議論する必要。今後立法化していかなければならないので、こちらの考えていることを明確に伝える必要もあり、あまり解釈の余地があってはならない。全員一致によるのが望ましいとは思う。
(4) 次回会議は、4月16日午前9時30分より、「裁判官制度改革」(最高裁判所裁判官選任の在り方、裁判官人事制度の見直し等)について審議が行われる予定である。
以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)
-速報のため、事後修正の可能性あり-