別紙2-2
2001年4月4日 日本弁護士連合会 |
1 判事補の他職経験としての弁護士への就職を支援するための方策
司法制度改革審議会第49回審議の「弁護士等他の法律専門職等の職務経験等」に関する「意見交換の整理」は、判事補が「裁判官の身分を離れ」るとしていることから、裁判所法第42条第1項の要件具備のための制度的手当も考慮すべきである。従って、法律専門職種の範囲を適正にするためにも、また同条同項の要件を具備するためにも、弁護士に関して言えば、弁護士の兼職としてなりうる職種として適切なものを検討するべきであると考える。
そのことも含めて、判事補の弁護士への就職を支援するための方策として以下のようなことが考えられる。
(1) 弁護士登録の支援
判事補が登録する弁護士会と法律事務所をどのように決定するかについては、4つの考え方がありうる。
第1に判事補の自由に任せる方式、第2に最高裁と日弁連が協議し用意する方式、第3に最高裁が用意する方式、第4に日弁連が用意する方式がある。
他職経験の制度の趣旨からして第1が原則になるべきは当然である。第1を原則にし、第2の要素を加味して最高裁と日弁連がルール作りをすることが望ましい。第3及び第4は適切でない。
(2) 日弁連及び各地の弁護士会の体制
日弁連は、判事補が法律事務所に入り豊かな弁護士経験をするため、制度的整備をし、これが円滑に運用されるよう積極的に取り組む所存である。
そのために、日弁連は、後に述べる「判事補受入れ法律事務所名簿」を用意し、判事補が自由に事務所を選択して交渉・決定できるよう便宜をはかる。また、日弁連及び各地の弁護士会は、判事補が希望するときは、最高裁との協議に基づき適切な事務所を推薦する。
「判事補受入れ法律事務所名簿」を整備するに当たっては、日弁連は、可能なかぎり幅広い名簿を作成し、事務所規模、所属弁護士構成、専門分野、経営基盤、勤務条件などができるだけわかるような措置を講じる。
この制度の下で、判事補が全国各地で、弁護士としてさまざまな職務を行うことが期待されるので、一事務所に複数受け入れることは避けるほうが望ましい。
(3) その他の法律専門職への道筋と体制~弁護士の兼職として
日弁連は、判事補の他職経験としては、弁護士登録して多数の市民が持ち込む多様な事件に取り組む通常の弁護士業務を行うことが最も望ましいものと考える。
ただ、例えば①営利企業の法務スタッフ、②ADRの審査的職務、③NPOの法務スタッフ、④労働組合連合会、政党の法務・政策スタッフなどのような職務に従事したいと考える場合でも、弁護士登録をすることでその業務に従事することができる。
日弁連は、関係諸団体と協議したうえで、弁護士登録する判事補を法務スタッフ等として迎える諸団体の名簿を用意し、これを判事補に提供する。判事補がこれらの職務に従事するために、日弁連は、判事補が弁護士登録する法律事務所を十分な数、用意するよう努める。こうして、判事補は弁護士登録することにより、判事資格としての通算年数を充足しつつ、多様な職務経験を積むことができるのである。
(4) これらに必要な法改正等の制度的担保
・受入れ側
判事補を受け入れる側には特段の法整備等は必要ない。
・年金、共済等
判事補がその身分を離れるのに伴い、年金や共済などの継続をすべきか否かについては議論のあるところである。継続すべきということになれば、現在最高裁が裁判官を民間団体である預金保険機構などに派遣している方法と同様にすれば足りるのであり、立法技術上困難はないものと思われる。
・「裁判官の指名過程に国民の意思を反映させるための機関」との関連
便宜上この機関を「推薦委員会」と呼ぶ。
他職経験終了後判事補や判事に戻る場合は、その者の他職経験中の実績は、判事任命時に推薦委員会の資料となる。
・裁判所法第42条第1項本文の改正(下線部分を追加改正する)
2 弁護士任官を推進するために検討すべき諸方策
(1) 特定専門分野への任官、短期の任官
少年・刑事・倒産・労働・知的財産権などを主に取り扱っている弁護士も多く、その知識と経験を裁判官として活かしたいと希望する者も相当数存在する。その自ら希望する専門分野を主に担当して経験を活用できる任官の道を開くよう検討すべきである。裁判官の専門化にも資することになる。現在の弁護士任官者でも、少年事件担当を希望して任官し、その職務を継続している任官者も存在する。
最高裁判所も平成13年2月19日付で審議会に提出した書面で、そのような方策を検討するとしているところであり、そのような形態の採用は直ちに可能といえる。
このような形態を継続しかつ各種分野に拡げることにより、任官への意欲が高まる。また特定専門分野を主に担当することを予定するので、5年程度の短期任官でも十分に機能を果たすと思われる。
(2) 判事補の他職経験に対応する任官制度
判事補の他職経験の推進と同時に弁護士が一定期間判事補となることにより多様な経験を積むことも審議会の推奨するところである。そのために、判事補の他職経験に対応する弁護士の短期任官制度を推進すべきである。
5年間程度の短期任官の場合、一定数の弁護士を擁する共同事務所であっても、その間人的な不足が生じることになる。
一方、判事補が他職経験として弁護士になる場合には、一定期間経過後は再度任官する可能性が強く、弁護士の短期任官と対応できるような関係になる。
そのような対応関係を有効に活用して、弁護士任官者を出す事務所に対し、判事補を積極的に紹介することにより、弁護士任官と判事補の他職経験の双方が有機的に補完されることになるものと考えられる。
(3) 非常勤裁判官制度の導入の検討
非常勤で裁判を担当する制度としては、広くは国民の司法参加の各形態やイギリスのマジストレイトコート(簡易裁判所刑事部)の素人裁判官制度などがある。狭い意味での非常勤裁判官制度は、法曹有資格者が、非常勤で裁判官の執務を行う制度を指し、本項はこの狭い意味での非常勤裁判官制度の導入の検討である。
弁護士の中で非常勤裁判官を希望する者が多いことは、各種アンケートの中で実証されている。しかも、働きざかりの層の希望者が多いことも特徴的である。豊富で多様な経験を持った裁判官を得るためには、非常勤裁判官制度が一番直接的に目的を達し得る。事務所や依頼者との関係で常勤では任官できないが、裁判官制度を支えたいと希望する熟達した弁護士の力量を、裁判官全体の力量の中に取り入れることができる制度なのである。過疎地問題も、大単位会所属弁護士が、非常勤裁判官として出向いて裁判をすることが可能となり、この制度で相当部分解決できることになる。
非常勤裁判官制度の導入により任官希望者は大幅に増え、その中で常勤裁判官に任官しようとする者も数多くあらわれるものと思われる。執務形態の検討や公正さを害さないような回避制度、法律的手当てなどは十分技術的に可能である。
非常勤裁判官は、法曹一元制度のイギリスやアメリカだけでなく、キャリア制度と法曹一元のミックスシステムであるオランダやベルギーにおいても機能している。特にイングランド・ウェールズにおいては、常勤裁判官数の2倍程度の非常勤裁判官が存在し、地裁刑事部にあたるクラウンコートでは、事件数の20%程度を非常勤裁判官が処理している。
3 日弁連としての弁護士任官推進のための措置
日弁連としては、2001年1月23日付「弁護士のあり方について」及び同年2月19日付「裁判官制度の改革について」に記載した下記項目についての取り組みを始めている。
具体的な例としては、東京弁護士会では3月21日に「弁護士任官推進基金(仮称)」創設の常議員会決議を行い、大阪弁護士会では同日臨時総会を開き、弁護士任官の再活性化を決議するとともに、3月27日に都市型公設事務所である「大阪こうせつ法律事務所」を開所した。
このような取り組みを全国的に拡大していく中で、下記項目の実現と実質化を早急にはかっていく所存である。
(ア)弁護士任官推進基本計画の策定と実施
その内容は(イ)以下のとおりである。
(イ)量的計画(判事、判事補、判事補の他職経験対応分、判事補の「ロークラーク化」対応分、特例判事補解消計画分など)
(ウ)適格者選考委員会(仮称)の設立
(エ)弁護士会としての義務、弁護士としての名誉ある責務
(オ)弁護士会としての支援体制
・事務所問題
・経済的問題
(カ)弁護士会としての基盤整備
2000年11月1日の日弁連臨時総会決議が「国民が必要とする数」を確保するとした法曹人口の増員は、弁護士任官を確立するための最も重要な基盤整備である。
その他の具体的な方策案は次のようなものである。
・公設事務所(特に都市型)の設置
・任官展望事務所や任官支援事務所の設置または認定
(キ)弁護士過疎地域の対策
4 弁護士任官制度改善の努力
これまでの弁護士任官制度の不振の原因については、2001年2月19日付「裁判官制度の改革について」にも記載したところである。最高裁との協議においては、これらを相互の信頼のもとに除去する努力が重要である。
この問題における過去の取り組みの不十分な点については、日弁連は最高裁からの指摘を真摯に受け止めたい。最高裁にも、弁護士任官を推進するため、採用基準の明確化・手続の明確化・弁護士会の推薦とその尊重・不採用の場合の理由開示などを求めたい。
更に、任官した弁護士の年金・退職金などの制度的改革を含めて、相互信頼のもとに真摯な協議を継続したいと考える。