司法制度改革審議会
司法制度改革審議会 第56回議事概要
- 1. 日時 平成13年4月16日(月) 9:30~12:25
2. 場所 司法制度改革審議会審議室
3. 出席者
- (委員・50音順、敬称略)
石井宏治、井上正仁、北村敬子、佐藤幸治(会長)、竹下守夫(会長代理)、髙木 剛、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子
- 4. 議題
- 「裁判官制度の改革について」
5. 会議経過(・印は委員の発言要旨)
(1) 弁護士任官推進のための最高裁・日弁連の協議
冒頭、会長より、最高裁と日弁連が、本年2月27日の第49回会議の議論の取りまとめ(弁護士任官推進のため最高裁と日弁連が協議の上実効性のある具体的措置を講じていくことが必要である。)を踏まえて、過日弁護士任官推進のための協議を開始したことについて報告がなされた(別紙1、2の両者からの回答参照)。
- 弁護士任官の推進は、判事補制度改革(判事任命の前提として判事補の他職経験を原則化すること)や特例判事補制度の廃止とも密接に関連するもので、今回の司法改革のポイントの一つであることから、今後、両者が精力的に協議を行い、当審議会の最終意見を取りまとめるまでに、その具体的措置に関する基本的方向性だけでも当審議会宛に提示されることを強く希望する。
- 確かに両者には精力的に協議を進めてもらいたい。今後の審議の中で、両者からその報告を受ける機会があってもよい。
(2) 裁判官の人事制度の見直し
「裁判官の人事制度の見直し」につき、レジュメ等(別紙3及び4)に従って、以下のとおり意見交換が行われた。
ア 人事評価のための新たな仕組み
【主な意見の概要】
- 裁判官の独立性に対する国民の信頼を確保するために、裁判官の人事制度等につき透明性、客観性を高める改革が必要である。具体的には、裁判官の任命に関する推薦委員会を評価権者と位置付けること、評価基準を項目化し項目毎の段階的評価を行うこと、裁判所の内部評価だけではなく外部評価も活用すること、評価内容の本人開示、評価対象者の意見陳述、不服申立ての保障を含む手続を整備すること等が必要である(詳細は別紙5の意見書のとおり)。
- 裁判官の人事評価は裁判所内部の者による評価だけでは不十分。公平性、透明性の確保のためには一般の国民の参加が必要ではないか。
- 裁判官に求められる資質・能力については、法律家としての識見、人格等々枚挙にいとまがないが、具体的な人事評価の基準をどのようなものにするかは非常に困難な問題である。どうしてもある程度抽象的にならざるを得ない。裁判官の人事評価については最終的には最高裁が決定する権限を有するものというべき。問題は、その判断に資するためどのようにして正確な情報を収集するかということである。例えば、部総括裁判官は、部所属の裁判官と日常的に共に執務を行っており当該裁判官の人物評価を行うのに最も適していると思われることから、部総括裁判官を部所属の裁判官の第一次評価権者と位置付け、併せて、弁護士会、検察庁の見方も参考として聞く。また、当該裁判官本人の意向も面談等を通じて聞く。それらを全て人事評価の資料として最高裁に伝える。資料や評価の内容については本人の要望があれば開示する。そういう仕組みを作ることが必要ではないか。
- 裁判官は出世のために当事者ではなく最高裁や事務総局等上を向いて仕事をしているのではないかという批判が現にあることを考えれば、公正な評価というための証が必要ではないか。評価基準の項目には利用者の視点を踏まえたものが必要であり、また、裁判所による判断資料を充実させるということにとどまらず、評価そのものにも利用者が関与できる仕組みを設けるべき。
- 裁判官の人事の透明化のために、評価権者、判断資料、評価基準等を法律なり規則で明定し、人事評価制度を整備すべきである。ただし、裁判官の人事は司法行政事務の重要な一内容をなすものであり、最終的権限は最高裁に属するものというべき。また、裁判所外部の意見を評価の正式な資料とすることについては、裁判所外部の者は当該裁判官を事件を通してしか接しておらず、その見方を取り入れることには危険が伴うことから、異論がある。個々の裁判官に対する苦情は裁判所法第82条による不服申立て制度を活用すればよいのではないか。本人開示の問題については、本人の要求があれば、拒絶する理由はなく、開示すべきである。
- 内部評価にも第三者評価にもそれぞれ一長一短があり、その間のバランスをとる必要がある。例えば、裁判官の任命ないし再任時には十分国民の意見を取り入れた仕組みにする必要があろうが、転勤等の前提となる日常的な人事考課については裁判所内部のものによらざるを得ないし、一つの組織としての独立性にも配慮する必要があるのではないか。評価基準に関しては細かく客観化することには限界がある。客観化ということを突き詰めるとそれこそ試験を行うしかなくなってしまう。
- 評価基準には倫理観や柔軟性を評価できるような項目も必要ではないか。外部評価に関しては、考え方としては結構だと思うが、実際に機能するかどうかという点が問題となる。
- 裁判官の人事評価について、裁判所外部の意見を何らか考慮する必要はあろうが、それを人事評価の決定的要素とすることは裁判官の職権行使の独立性という観点からは適当ではない。人事評価の客観性・公平性の担保のためには、基準の明確化、評価の過程の明確化、評価内容の本人への説明等が必要である。
- 裁判所外部の意見といっても、一般の国民の意見を聞くべきだと述べているものではない。検察庁、弁護士会には、それぞれ公的な立場から、公益性を踏まえた意見、見方を言ってもらうということである。しかも、その意見は裁判所による人事評価に拘束力を有するものではなく参考となるにすぎないわけであるから特段の問題はないのではないか。
- 個々の裁判官ということではなく、裁判所全体の外部評価(人事評価の基準がいかなるものであるべきか等も含む)ということはあり得る。また、本日の議題とは関連しないが、日弁連の外部評価ということも前向きに考えてもらいたい。
- まず、裁判官の人事評価を何のために行うのか、つまり用途は何かということを明定することが必要。転勤や昇給の判断の前提として行うとしてもその評価が裁判官の独立に影響を与えないような仕組みにしなければならない。また、人事評価の基準は明確化しかつ公表すべきである。人事評価に当たり、裁判所の内部評価が中心になるのは構わないが、情報として外部の見方を取り入れる必要はあると考える。中には乱暴な見方もあるかもしれないが、それが不当な影響を与えないような工夫は十分可能であると考える。
- 裁判官の独立の侵害ないしはそのおそれがないような仕組みにすることが必要。当事者(弁護士会、検察庁)の見方は事件を通じての主観的立場から離れにくい。一般の市民の意見についても同様のおそれが高い。
- 現在のような最高裁事務総局の独走を防止するためにはだれに人事評価をさせるべきかということを考えなければならない。また、独善防止のために利用者の見方をどのように反映させていくべきかということも重要である。
【意見交換の整理】
以上のような意見交換の末、会長から、大方の意見の一致をみたと考えられる内容につき、以下のとおりの発言があり、了承された。
- 裁判官の人事評価制度については、裁判官の独立性(外部的独立と内部的独立の双方を含む。)の保持に十分配慮しつつ、できる限り客観性・透明性を確保するための仕組みを整備しなければならない。
- 裁判官の補職や報酬の号の決定に関する人事評価は、裁判官の任命や再任の場合の評価と事情が異なる面があることを踏まえなければならない。
- 以下の方向で、人事評価のフレームワークを明確にすべきである。
- 人事評価の具体的基準を定めて公表すること(最高裁が平成10年度まで使用していた「人事評価の項目の概要」を一つの目安として工夫を加えていくことが考えられる。)。
- 裁判所内部の評価が中心となると考えられるが、裁判所外部の見方をどのような方法で反映させていくかについては検討が必要。
- 評価対象となる裁判官の意向も面談等を通じて取り入れること。
- 評価の内容は本人の要求に応じて開示すべきこと。
- 評価について本人に不服がある場合の適切な仕組みも必要。
イ 報酬、補職・配置について
【主な意見の概要】
- 裁判官の報酬についても、現在のように一律に昇給していくのではなく、ある程度本人の能力・実績に応じたものであるべき。現在の報酬の号の刻みは多すぎる。
- 憲法上裁判官の任期が10年と定められていることを踏まえると、判事補を含めて23段階にも上る報酬の号の在り方は余りにも小刻みであり、憲法が本来想定していたものとは言い難い。特別なポストに応じた手当てはあってもよいが、同じような仕事が求められる立場であれば、本来裁判官の報酬は単一の号であるべき。職務遂行度に応じた昇給(能力給、経験給等)は認めてよいが、少なくとも現在のような定期昇給は止めるべき。年金や退職金の在り方についても一生裁判官の職を継続するということを前提に考えるのは適当ではなく、10年毎の任期であることが踏まえられるべき。
- 報酬の号が多段階となっていることについては改善の余地はあるかもしれないが、その結果として、裁判官の待遇がダウンすることは避けなければ、良い人材を確保することは困難になる。
- 勤務地の決定権を行使する司法行政上の監督権者の影響力を排除するため公募制・応募制を導入すべき。
- 憲法は裁判官の転勤制を制度の本質的要素として予定していたものとは言い難いのではないか。
- 昭和21年の貴族院における裁判官の報酬等に関する法律案の審議の過程で、政府も、裁判官の報酬の進級制(昇給制)に弊害が伴う旨答弁している。
【意見交換の整理】
以上のような意見交換の末、裁判官の報酬の在り方に関し、会長から、大方の意見の一致をみたと考えられる内容につき、
裁判官の報酬の進級制(昇給制)に弊害が伴うことは否定できず、少なくとも現在の報酬の段階の在り方については見直しが必要ではないか。
との発言があり、了承された。
(3) 最高裁裁判官の選任等について
「最高裁裁判官の選任等」について、以下のとおりの意見交換が行われた。
【主な意見の概要】
- 最高裁裁判官について、法曹界等それぞれの出身別の人数の枠が決まっていること自体が問題。また、その任命に当たり、一般国民の声を反映できる仕組みを設けるべきである。国民審査制に関しては、判断材料が余りに乏しい上、不適任と思う者に×を付けるという方式も、その形骸化を招く原因となっている。国民が自ら審査したという実感を持てるような仕組みが必要。
- 適任・不適任双方について国民の意見を問うような制度は、「罷免を可とする」と規定している憲法第79条第3項との整合性が問題となる。
- 審査対象となる裁判官全てが一枚の用紙に記載されていることにも問題がある。
- 最高裁裁判官の任命に際して国民の声を反映できる任命諮問委員会のような制度を設けるかどうかについては、当審議会において下級裁判所の裁判官に同様の制度を設けるとしながら、最高裁裁判官の場合にこれを設けないということは困難。何らかの仕組みにより国民の意思を反映できるようにすることは必要。ただし、最高裁裁判官の地位の重要性を十分考慮しなければならないし、政治的任命に流れるおそれも防止しなければならない。
- 最高裁裁判官の出身分野別の人数配分は好ましくない。国民審査については審査対象となる者がどういう人なのかも判断が付きにくい。広報の仕方についても十分な工夫が必要ではないか。政治の道具に利用されるようなことは防止しなければならないが、諮問委員会のような仕組みによりスクリーニングを行うのが適当。
【意見交換の整理】
以上のような意見交換の末、最高裁裁判官の選任等に関し、会長から、大方の意見の一致をみたと考えられる内容につき、
最高裁裁判官の選任についても、その地位の特別な重要性を踏まえつつ、国民の意思を反映できるような委員会の設置など何らかの仕組みを内閣において検討していくことが必要ではないか。
との発言があり、了承された。
(4) その他
- 本来司法行政の決定を行うべき裁判官会議が形骸化していることは大きな問題である。そうしたことも含めて裁判所の運営の在り方に関する議論が必要だと思われる。
6. 次回の予定
次回の第57回会議(4月24日午後1時30分から)においては、「法曹養成制度の在り方」、「法曹人口の増加」、「裁判所・検察庁の人的体制の充実」に関する審議が行われる予定である。
以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)
-速報のため、事後修正の可能性あり-