司法制度改革審議会
司法制度改革審議会 第58回会議議事概要
- 1 日時 平成13年5月8日(火) 13:30~17:35
2 場所 司法制度改革審議会審議室
3 出席者
- (委員、敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子
(説明者)
金築誠志最高裁判所事務総局人事局長
山内堅史日本弁護士連合会副会長
(事務局)
樋渡利秋事務局長
- 4 議題
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- 「弁護士任官の推進及び裁判官制度改革」について
- 「司法の行政に対するチェック機能の在り方」について
- 「最終意見項目案」について
- 「最終意見後の改革推進体制及び改革実現後の継続的改革・改善の推進体制の在り方」について
5 会議経過
(1) 「弁護士任官の推進及び裁判官制度改革」について
ア 弁護士任官の推進について、最高裁判所及び日本弁護士連合会から共同提出された「弁護士任官を推進するための具体的措置の提案について(司法制度改革審議会からの照会に対する回答)」(別紙1)に関し、最高裁金築局長及び日弁連山内副会長からそれぞれ説明があった後、次のような質疑応答及び意見交換がなされた。
- 弁護士任官が増加すると、現在のような弁護士任官者への優遇措置は維持できなくなるのではないか。(回答(金築局長):現在の勤務地に関する優遇措置は、維持困難となると予想している。回答(山内副会長):弁護士任官は、優遇措置の有無で左右されてはならないと認識している。)
- 日弁連として、個々の弁護士任官候補者の適格性を客観的に評価する仕組みをつくる用意はあるか。(回答(山内副会長):複数の候補者を一定の基準により個々に評価する必要性は認識しており、そのための仕組みを検討している。)
- 任官推進の基本は、弁護士個人の自発性を弁護士会が支援するということであるべき。弁護士会の制度づくりだけが先行し、裁判所がこれに依存することになると問題である。(回答(山内副会長):個人の自発的意思を前提としつつも、全て本人任せではなく、優秀な人が進んで応募するよう、会として雰囲気を醸成していきたい。)
- 受入れ側である裁判所の在り方についても検討すべきではないか。(回答(金築局長):弁護士任官者は、仕事内容の違いで苦労することはあろうが、総じて裁判所内で温かく迎え入れられている。回答(山内副会長):弁護士会、裁判所の双方に足らざる点があったことを認め、今後相協力していく所存。裁判官制度改革への期待の高まりから、今後は任官希望者の増加を予想している。)
イ 裁判官制度改革に関し、第49回会議議事概要をも参照しつつ、次のような意見交換がなされた。
【「裁判官の指名過程に国民の意思を反映させる機関」について】
- 裁判官の独立の確保に細心の注意を払うべきであり、機関は最高裁からの諮問に対して意見を述べるもの、下部機関は情報収集の仕組みとすべきである。
- 個々の裁判内容の当否自体を審査してはならないことは当然だが、独立が独善とならないよう、個々の判決を踏まえ、国民の視点でわきまえた判断をすることは必要。
- 機関が弁護士任官希望者を自ら推薦できることは当然だが、それ以外は、最高裁の提示したリストを踏まえた審査を行うことが適当。「主体的に、自ら適任者の選考、推薦等を行う」と一般的に表現するのは不適切ではないか。
- 司法修習生から判事補への任命、判事への任命・再任、弁護士からの任官などの各ケース毎に、機関が果たすべき機能は異なりうる。
- とりわけ判事の再任の場合に、最高裁事務総局だけで決めずに、地方の現場からの情報も踏まえ、機関としてきちんと評価することが重要。
- 「諮問」と一口に言っても、その形式は、具体的候補者名を挙げて諮問するか、抽象的に諮問するか等いろいろありうる。要は、最初に最高裁の選考ありきとなってはならないということである。
- 「諮問」には、最高裁が諮問したこと以外は審議できないという語感もありどうかと思うが、いずれにせよ中身が重要である。
- 転勤等を考えると、情報は全国的に集めざるを得ず、結局、評価も全国的なものとしてやらざるを得ない。
- 下部機関の性格は別として、地域に何らかの下部機関を設けること自体には異論がないと思われるがどうか。
- 最高裁レベルで機関をまず一つつくること、「国民の意思を反映させる機関」が形式的でなく実質的な審査を行うべきことについては、少なくとも異論がないのではないか。
- 裁判システムそのものに対する第三者評価の仕組みも必要。
- 最高裁や日弁連などの機関についての第三者評価は、任官候補者の評価とは別の仕組みで行うようにすべきである。
- 弁護士会と同様、裁判所も苦情処理的な仕組みを整備すべきである。現在は、いきなり裁判官訴追委員会に持ち込まれており問題である。
- 少なくとも、裁判所、検察庁、弁護士会の運営に国民の意思を反映すべきことについては、既に合意済みである。
【「判事補の他職経験」及び「特例判事補制度の段階的解消」について】
- 原則としてすべての判事補に対して、裁判官の身分を離れて他職経験を求めることとするためには、裁判官の身分保障との関係で、本人の承諾など条件を付することが必要ではないか。
- 身分保障との関係は、他職経験の制度的担保の仕方として、あくまで判事選考の際のルールとして捉えれば問題は生じないのではないか。
- 例えば、退職扱いにせず転籍扱いにし、戻った後の身分は保障することとしたり、社会保障の継続等で不利益を被らないようにするなど、制度の工夫の仕方はいろいろあるはずである。
- 社会保障の継続はともかく、所得の保障までする必要はないのではないか。
- 身分を離れることを例外なく徹底することは、現実には困難ではないか。
- 民間企業への派遣については、裁判所側が給与を負担する方式もあってよい。より良い裁判官を得るためのキャリアパスとして捉えるべきである。
- お客様扱いでは意味がないのであり、裁判所が給料を払うようでは、他職経験の実効性は期待できない。民間企業へは弁護士として行けばよく、民間企業側でそれだけの報酬を払う意味がないと思えば、引き受けなければよい。
- 過去の判事補の企業派遣研修の成果を検証すべきではないか。
- 企業派遣研修について、報道機関研修の例であるが、研修に行った側は大いにためになったと言うが、受け入れた側の感覚とは相当開きがあるようだ。
- 他職経験には、海外留学など、より幅広い経験も含めて考えるべきではないか。期間についても、弾力的に考えるべきではないか。
- 海外留学には、大学での勉強、実務経験など様々な内容が含まれうるが、ここで求める他職経験の内実を一概に満たしているとは言えない。
- 司法の国際化が急務であることを考えると、判事補の海外留学自体は、大いに奨励すべきである。
- 日本の法律事務所は国際性・専門性に欠け、弁護士事務所勤務だけでは、今後の裁判官に求められる素養が養えない。海外留学も有力な選択肢の一つであってよい。
- 国際性・国際感覚の涵養が必要だが、海外での実務経験といっても、語学力の壁などから所詮お客様扱いで本格的な仕事はできない。むしろ海外大学院で学位を目指して必死で勉強させるほうが効果が上がるとの考え方もありうる。
- 様々な経験を積んだ人が集まることにより、全体として多様性が確保されることも重要であり、他職経験の内容を最初から限定的に考える必要はない。法律の世界だけで物を見るだけでよいのか、という問題もある。
- 裁く立場の経験だけでなく、裁かれる立場の経験が不可欠である。
- あくまで基本は、判事補が身分を離れ、弁護士、検察官等他の法律専門職として他職を経験するということ、それ以外の経験であっても、それと同視できるような内容が伴う場合にまで、例外的扱いを閉ざす必要はないということについては、異論はないのではないか。
- 実のある経験を積むにふさわしい期間としては3年以上は必要ではないか。
- 「相当程度の期間」とは、2、3年くらいのイメージではないか。
- 特例判事補制度の段階的解消で合意しているにもかかわらず、前回の最高裁のプレゼンはその本旨を歪めて解釈したものであった。弁護士任官との関係も含め、解消に向けて、いつ頃までにどのような過程を踏んで条件を整えていくのかを示すべきである。過渡的には、定年延長で凌ぐことも考えられる。
- 条件が整わないと特例判事補制度の解消はできないので、現段階で一定の時期を決めて計画を示すよう最高裁に求めることは困難である。
- そもそも裁判所法が求める10年の法律専門家としての経験が本当に必要か否かも検討の余地がある。
- 判事補を法曹資格を有する調査官として活用することも含め検討すべきである。
(2)「司法の行政に対するチェック機能の在り方」について
「司法の行政に対するチェック機能の在り方」に関連して、佐藤会長から「違憲立法審査制について」(別紙2)に基づき説明がなされた。その後、同説明及び「『司法の行政に対するチェック機能の強化』に関する審議の取りまとめ(案)」(別紙3)に基づき、次のような意見交換がなされた。
- 違憲立法審査制及び行政に対するチェック機能についての言及は、いずれも今般の司法制度改革の眼目の一つとして欠かせないものである。
- 「司法と行政の垣根を超えた検討」というよりは、司法制度改革と行政改革を有機的に結び付け、総合的多角的に検討することが必要ということではないか。
- 米国にも憲法判断回避の原則があり、「司法権の限界性の認識」自体を当然に問題視すべきではない。
- 裁判官には、「行政庁の優越的地位」、「政策的判断への司法の不介入」、「行政庁の第一次的判断権の尊重」などという意識はそもそもないので、問題提起として不相当ではないか。
- 行政に対するチェック機能を強化する上で最大の課題は、行政実体法の問題と考えている。
- 行政実体法も確かに重要だが、手続法にも問題がないとは言えない。総合的に検討すべきことについては、異論はないのではないか。
- 現行の行政訴訟制度に問題点が多く存在することについては、きちんと言及しておくべきではないか。
- 個別の行政過程への不当な圧力を防ぎ、厳正な法律執行を確保することは、行政府本来の機能を十分発揮させる視点からも重要と言える。
- 一票の格差に関する憲法判断については、政治的配慮が過ぎるようで違和感がある。
- 違憲立法審査制については、総論の箇所などで、最高裁の負担が過重なため憲法問題に取り組む体制をとりにくいと考えられること、上告事件についても迅速な処理が重要であるが、上告事件数をどの程度絞り込めるか、大法廷と小法廷の関係を見直す余地があること等について言及すべきではないか。
- 新民事訴訟法の上告受理制度は、上告事件数の減少に一定の効果を挙げている。
- 本日の議論を踏まえ、具体的な表現振り等も含め、最終意見取りまとめの過程で検討することとし、更に詰めるべき点が出てくれば時間をとって審議すべきではないか。
(3)「最終意見項目案」について
「最終意見項目案」(別紙4)について、前回に引き続き、次のような意見交換がなされた。
- 論理の流れとして、国民に利用しやすい司法という点を強調するため、新たな制度内容をまず明らかにし、次に、これを支える人的基盤として、まず法曹人口の増員、法曹三者それぞれの質の向上、その手段としての法曹養成といった順番で記述することが適当。
- 中間報告の構成を変更せずに、審議した順番どおり、まず人的基盤から記載すべきである。国民の関心度合いにも対応することとなり、よりダイナミックとなって説得力が増す。同様な趣旨から、人的基盤の中は、法曹養成・人口、弁護士、検察官、裁判官の順とすべきである。
- 国民からみた読みやすさを重視すべきである。
- とりあえず原案の構成に沿って最終意見の原案をつくってみて、その上で具体的内容を見ながら、改めて構成を検討すればよいのではないか。
- なぜ人的体制から議論を始めたか等の審議経過については、冒頭部分で説明すればよいのではないか。
- 我が国司法の遅れた面の改革だけではなく、今後時代が急速に変わる中で、国際化への対応などが急務となっていることを冒頭で強調すべきである。
- 項目のタイトル名を一般国民にも分かるよう易しくすべきではないか。
- 「法曹等の相互交流の在り方」を独立の項目として採り上げる必要があるか疑問なしとしない。
(4)「最終意見後の改革推進体制及び改革実現後の継続的改革・改善の推進体制の在り方」について
- 司法制度改革の基本理念を定める法律の制定、内閣において各省庁の垣根を越えて一体的に推進するための組織体制の整備が不可欠である。
- 役所と法曹三者の代表ではなく、国民の感覚を活かせる推進体制とすべきである。
- 司法制度の利用者の意見を適切に反映し、チェックできる仕組みが必要。
- チェックという視点からも、推進体制は、法務省ではなく内閣に置くべきである。
- 改革を推進する仕組みとは別に、第三者評価・チェックのための仕組みを設けるべきである。
- とりわけ法科大学院の準備を急ぐ必要があり、推進母体の設置を急ぐべきである。独立しつつ連携するとの見地から、法科大学院に関し、司法の側が影響力を持ち、あるいはウォッチできる仕組みをつくるべきである。
- きちんと推進するためにも、実働部隊が必要。
- 最終意見書の提言する改革を実現させるための体制整備と、改革実現後の継続的・恒常的見直しのための体制整備は、別の性質のものとして検討すべき。
- まずは、前者のための体制整備に最大限努力すべきである。改革実現後のことは副次的問題として検討すべきである。
- 改革実現後においても、外部チェックのための機構は必要である。
- 審議会として内閣に要望はすべきだが、具体的にどのような体制で改革を推進するかは、内閣の責任において考えるべきことではないか。
- 内閣が審議会の意見をきちんと受け止め、総力を挙げて改革推進に本格的に取り組むよう、審議会としての強い要望を伝えるべきことについては、異論はないのではないか。また、改革が実現した後の恒常的な体制についても更に検討すべきであることについても、異論はないのではないか。
(5)次回会議(第59回)は、5月21日(月)9:30から開催し、最終意見案について第1回目の審議(第1読会)を行うこととされた。
以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)
-速報のため、事後修正の可能性あり-