意見書(案)

II 21世紀の司法制度の姿

第1 司法制度改革の三つの柱

 以上の司法の果たすべき役割を踏まえ、今般の司法制度改革の基本理念を明らかにするならば、我々当審議会が本意見で提起する諸改革の推進は、内外の社会経済情勢が大きく変容している中で、我が国において司法の役割の重要性が増大していることを踏まえ、司法制度の機能を充実強化することが緊要な課題であることにかんがみ、以下に掲げる事項の趣旨にのっとって次の三点を基本的な方針として、各般の施策を講じることにより、我が国の司法がその役割を十全に果たすことができるようにし、もって自由かつ公正な社会の形成に資することを基本として行われるべきということものである。
 第一に、「国民の期待に応える司法制度」とするため、司法制度をより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのあるものとする。
 第二に、「司法制度を支える法曹の在り方」を改革し、質量ともに豊かなプロフェッションとしての法曹を確保するものとする。
 第三に、「国民的基盤の確立」のために、国民が訴訟手続に参加する制度の導入等により司法制度の運営に対する国民の信頼を高める。

第2 21世紀の司法制度の姿

 1. 国民の期待に応える司法制度の構築(制度的基盤の整備)

 国民にとって、より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とするため、国民の司法へのアクセスを拡充するとともに、より公正で、適正かつ迅速な審理を行い、実効的な事件の解決を可能とする制度を構築する。

 民事司法については、国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができ、多様なニーズに応じた適正・迅速かつ実効的な救済が得られるような制度の改革が必要である。
 まず、司法へのアクセスを拡充するため、利用者の費用負担の軽減、民事法律扶助の拡充、司法に関する総合的な情報提供を行うアクセス・ポイントの充実、管轄の見直しを含む家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実を図る。次に、訴訟事件について、利用者が適正・迅速かつ実効的な救済が得られるよう、審理の内容を充実させて、現在の審理期間を概ね半減することを目標とする。そのために、審理計画を定めるための協議を義務付けて計画審理を推進し、証拠収集手続を拡充するとともに、専門的知見を要する事件について、鑑定制度の改善を図るほか、専門家が訴訟手続へ参加する新たな制度を導入する。特に、知的財産権関係訴訟については、東京・大阪両地方裁判所の専門部の処理体制を一層強化し、実質的に特許裁判所として機能させる。また、権利実現の実効性を確保するため、民事執行制度改善のための新たな方策を導入する。さらに、国民が、訴訟手続以外にも、それぞれのニーズに応じて多様な紛争解決手段を選択できるよう、裁判外紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化を図る。
 さらに、三権分立ないし抑制・均衡の統治体系システムの中で、従前にもまして司法の果たすべき役割が一層重要となることを踏まえ、司法の行政に対するチェック機能の強化を図る必要がある。
 刑事司法については、新たな時代・社会の状況の中で、国民の信頼を得ながら、その使命(適正手続の保障の下、事案の真相を明らかにし、適正かつ迅速な刑罰権の実現を図ること)を一層適切に果たしうるような制度の改革が必要である。
 まず、裁判内容に国民の健全な社会常識を一層反映させ、国民の信頼を確保するため、一定の重大事件につき、一般の国民から無作為抽出された者を母体として、公正な裁判を確保する見地から適切な方法により選任された者が裁判官と共に裁判内容の決定に参加する制度を新たに導入する。また、裁判の充実・迅速化を図るため、争点整理の充実とそれに資する証拠開示の拡充の観点から、新たな準備手続の創設と証拠開示に関するルールを明確化するとともに、公判の連日的開廷を原則化する。そして、刑事司法の公正さの確保の観点から、被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利を実効的に担保するため、これらの者に対する公的弁護制度を確立する。公訴提起の在り方については、検察官による一層適正な権限行使を求めるとともに、民意をより直截に反映させるため、検察審査会の一定の議決に対し法的拘束力を付与する制度を導入する。さらに、被疑者の取調べの適正さを確保するため、取調べ状況等を書面により記録することを義務付ける制度を導入する。

2. 司法制度を支える法曹の在り方(人的基盤の拡充)

 高度の専門的な法的知識を有することはもとより、幅広い教養と豊かな人間性を基礎に十分な職業倫理を身に付け、社会の様々な分野において厚い層をなして活躍する法曹を獲得する。

 今後の社会・経済の進展に伴い、法曹(弁護士、検察官、裁判官)に対する需要は、量的に増大するとともに、質的にも一層多様化・高度化していくことが予想される。現在の我が国の法曹を見ると、いずれの面においても、社会の法的需要に十分対応できているとは言い難い状況にあり、前記の種々の制度改革を実りある形で実現する上でも、その直接の担い手となる法曹の質・量を大幅に拡充することは不可欠である。
 法曹の量(法曹人口については、2004年には現行司法試験合格者数1,500人を達成した上、新たな法曹養成制度の整備状況等を見定めながら、2010年には法曹資格の新規取得者新司法試験の合格者数を年間3,000人とするにまで増加させることを目指す。
 弁護士制度については、社会のニーズを踏まえ、法律相談活動の充実、弁護士報酬の透明化・合理化、専門性強化を含む弁護士の執務態勢の強化等により、国民の弁護士へのアクセスを拡充するほか、綱紀・懲戒手続の透明化・迅速化・実効化など弁護士倫理の徹底・向上を図るための方策を講じる。
 検察官制度については、検察の厳正・公平性に対する国民の信頼を確保する観点から、検事を一般の国民の意識等を学ぶことができる場所で執務させることを含む人事・教育制度の抜本的見直しなど検察官の意識改革のための方策等を講じる。また、検察庁の運営に国民の声を反映することのできる仕組みを整備する。
 裁判官制度については、国民が求める裁判官を安定的に確保していくことを目指し、判事補に裁判官としての職務以外の法律専門家としての多様な経験を積ませることを制度的に担保する仕組みの整備を始めとする判事補制度の改革や弁護士任官の推進など給源の多様化・多元化のための方策を講じるとともに、国民の意思を反映しうる機関が裁判官の指名過程に関与する制度の整備や人事評価について透明性・客観性を確保するための仕組みの整備等を行う。
 法曹養成制度については、21世紀の司法を担うにふさわしい質の法曹を確保するため、司法試験という「点」による選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を整備することとし、その中核として、法科大学院(仮称。以下同じ。)を設ける。

3. 国民的基盤の確立

 国民は、一定の訴訟手続への参加をはじめ各種の関与を通じて司法への理解を深め、これを支える。

 司法の国民的基盤を更に強固なものとして確立すべく、国民の司法参加を拡充するための方策を講じる。
 司法の中核をなす訴訟手続への新たな参加制度として、刑事訴訟事件の一部を対象に、広く一般の国民が、裁判官とともに、審理に関与し、裁判内容の決定を行う制度、及び、専門的知見を要する民事訴訟事件を対象に、専門家が裁判の全部又は一部に関与し、裁判官をサポートする制度を導入する。検察審査会の一定の議決に法的拘束力を付与すること、人事訴訟の移管に伴う家庭裁判所の機能の充実の一環として参与員制度を拡充することなど、既存の参加制度についても拡充する。さらに、裁判官任命手続への国民の意思を反映させる制度や、裁判所、検察庁、弁護士会の運営等について国民の意見をより反映させる仕組みを導入する。基本法制の整備など分かりやすい司法の実現、司法教育の充実、司法に関する情報公開の推進等、こうした司法参加を実効あらしめるための条件整備を進める。

第3  21世紀の司法制度の実現に向けて

 このような21世紀の司法制度を実現するために、当審議会は、これまでの調査審議を踏まえ、以下、「国民の期待に応える司法制度」、「司法制度を支える法曹の在り方」、「国民的基盤の確立」、とに分けてその改革の具体的方策やその方向性などを詳述する。
 これら司法制度に関わる多岐にわたる改革は、相互に有機的に関連しており、その全面的で統一的な具体化と実行を必要としている。加えて、冒頭で述べたように、司法制度改革そのものも、先行して進められてきた政治改革、行政改革、地方分権推進、規制緩和等の経済構造改革等の一連の改革と有機的に関連するものであり、実際、これら諸改革において、司法制度の抜本的改革の必要が説かれてきたところである。例えば、中央省庁等の再編を導いた、行政改革会議の最終報告(平成9年12月3日)は、「内閣機能強化に当たっての留意事項」として、権力分立ないし抑制・均衡のシステムへの適正な配慮を伴わなければならず、「『法の支配』の拡充発展を図るための積極的措置を講ずる必要がある」と説くとともに、  「この『法の支配』こそ、わが国が、規制緩和を推進し、行政の不透明な事前規制を廃して事後監視・救済型社会への転換を図り、国際社会の信頼を得て繁栄を追求していく上でも、欠かすことのできない基盤をなすものである。政府においても、司法の人的基盤及び制度的基盤の整備に向けての本格的検討を早急に開始する必要がある」 と述べている。政府においては、本意見で述べる「司法の人的及び制度的基盤の整備に向けて」の諸改革の実現に本格的に取り組まれることを期待するところであるが、そのためにも、これに伴って必要とされる人員・予算の確保には、これまでの経緯にとらわれることなく、真にこれらの諸改革を実現しうる方策をもって、大胆かつ積極的な措置を講じられるよう、強く要望する次第である。