司法制度改革審議会

法科大学院(仮称)構想に関する検討会議(第3回)議事要旨



1 日 時  平成12年6月23日(金)15:00~17:00

2 場 所  東海大学校友会館「東海」の間

3 出席者(敬称略) 

(協   力   者)小島武司(座長)、井田 良、伊藤 眞、加藤哲夫、田中成明、金築誠志、川端和治、清水 潔、太田 茂、(房村精一委員の代理出席)
(司法制度改革審議会)井上正仁、鳥居泰彦、吉岡初子
(事   務   局)工藤智規高等教育局長、合田隆史大学課長

4 会議経過
(1)工藤高等教育局長より就任の挨拶が行われた。
(2)文部省の人事異動に伴う委員の異動について、報告が行われ、清水委員より自己紹介が行われた。
(3)事務局より資料確認が行われた。
(4)座長より、第2回議事要旨(案)の取扱いについて説明があり、6月27日までに意見があれば事務局まで連絡の上、修正し、最終的には座長へ一任することが了承された。
(5)法科大学院(仮称)構想に関する意見照会について、既に関係大学に発送されたこと、また、大学関係者以外からの意見募集は文部省のホームページ上で行われていることが報告された。
(6)座長より、資料の事前配付について、できる限りの対応が望まれる旨の発言があった。
(7)伊藤委員より、「法科大学院入試について」、加藤委員より「法科大学院のカリキュラム」、井田委員より「法科大学院の教育方法」について説明があり、それを踏まえて、以下のような意見交換が行われた。

  •  法科大学院が制度化された場合、法学部においては法律の詰め込み教育ではなく、法学にとらわれない幅広い教育に重点を置くこととすれば、法学部出身者に1年間の短縮を認めても良いのではないか。
  •  法科大学院の入試において、法律科目だけではなく、適性試験や教養試験なども併せて行うこととすれば、必然的に幅広い教養を身に付けることが必要となり、学部段階で法律のみを学習していては合格しにくくなるなど弊害が是正されていくのではないか。
  •  当面、法学部においては、現在のように専門教育と教養教育を適切に組み合わせながら法学教育を行い、その枠組みを前提に法科大学院の在り方を考えることが必要ではないか。
  •  例えば、経済学の分野であれば、近年、まず現実社会の動きを知った後、経済原論等の理論教育を行うといった試みがみられるが、法曹養成の分野においても、同様の取組を行うことはできないか。
  •  法曹として必要な能力は、いわゆるリベラル・アーツだけではなく、社会や人間に対する深い理解や科学技術に関する知識など多様な能力であるが、法学部出身者は法科大学院入学後、興味・関心に応じて学際的な分野の科目を履修すれば、1年の免除を認めても教養に欠けるというステレオ・タイプの批判は該当しないのではないか。
  •  これまでの日本の法学教育の欠点は、現実社会と必ずしも直結していない判例や理論教育を重視するあまり、学生の興味・関心を引き出すことに力を注いでこなかったことにあり、法科大学院の在り方に関する検討に当たっては、アメリカのロースクールが臨床教育、プロ・ボノ活動(公益活動)を重視しつつある傾向があることを踏まえ、現在、実務修習として行われている教育をどの程度まで法科大学院に取り込むことができるかという観点が重要なのではないか。
  •  法学部卒業者の教養については、法科大学院において幅広い学際的な教育を行うことによって身に付けることが可能であるとともに、多様なバックグラウンドをもった学生同士による議論等を通じて人間的な幅を広げていくことによって身に付けることも可能なのではないか。
  •  学部段階においては、これまで教養に対する学生の目的意識が希薄だったため教養教育が軽視されてきたという指摘もあり、学生のインセンティブを高めるよう、例えば、副専攻を課すことなども考えられる。
  •  米国には司法修習制度がないため、ローファームが実務教育を担ってきたが、近年は、ロースクールでそれを行うべきだという要求が強まってきたので、その点にも力を入れるようになってきたのであり、実務修習を別に行うことを予定している日本では事情が異なる。ただ、具体的な生の事例を分析するなどの方法は日本でも有効なのではないか。
  •  専門教育と教養教育を分断せず、両者を有機的に関連づけながら行うくさび形教育は多くの大学で行われており、それを前提に専門大学院制度を考えていく必要があるのではないか。
  •  平成3年に行われた一般教育科目と専門科目の区分の廃止は、教養教育対専門教育という考え方を廃し、両者を総合的に施す観点から大学教育を捉え直したのであり、これは法学部に関わらず大学教育全体の傾向である。
  •  法科大学院の教育と実務修習の関係については、法科大学院は学問の自由のある機関なので、実務修習の準備に相当する教育とともに、批判的視点をもって実務を見直す能力を身に付けさせるようにし、実務修習との分担ができるようにするべきではないか。そうすることによって、将来さらに良い実務を構築できるようになる。
  •  法学ではない幅広い学習を要求する統一試験の実施は、全国的な客観性を確保するという観点だけではなく、多様な学習経験のある人材を受け入れるという姿勢を示すとともに、学生の幅広い学習のインセンティブにつながるという観点からも有効なのではないか。
  •  実務に必要な詳細な手続や法廷実務の実際については、法律が扱う対象を広く理解し、それを利用する能力を身に付けた後に修得さるのが教育上適当であり、法科大学院においては、例えば、実務をあまり強調せずに、むしろ法が対象とする事象を広く理解するという意味での教養教育的な教育を重視し、現実の実務は司法修習で学べば良いのではないか。
  •  LSATのような試験は、日本の司法試験の短答式試験において、近年、論理的思考力・分析力を試す観点から含まれるようになった長文式の問題に類似する面があるが、このような問題も、結局予備校の受験指導の対象となってしまったことを鑑みると、予備校の最大のマーケットとなってしまうのではないか。
  •  法科大学院の入学時に統一試験を課すか否かは出口論とも関係するのではないか。法科大学院への入学によって、法曹になれる確率を極めて高いものとするとすれば、入口段階の選抜の客観性・公平性の確保がより重要となり、統一試験の必要性を高めることとなるが、一方、入口段階では広めに学生を入学させ、その後の厳しい教育と司法試験で絞り込むこととすれば、入学段階の選抜の客観性の比重は相対的に低くなることから、統一試験の実施については、総合的に判断することが必要なのではないか。
  •  統一試験においては、医学や自然科学を含めた様々な分野について長文の問題を課すことによって論理的思考力を問うことを重視することが望ましく、教養の知識そのものを問うような試験を行うことには反対である。
  •  LSATのような試験は、不公平を避けるとパズルのような問題となり、事務処理能力だけを問うような試験となるおそれがある。また、各法科大学院が、独自試験の比重を高めると、統一試験の導入に多大な労力を要するにも関わらず、実際には活用されないといった問題が生じるのではないか。
  •  学部の成績を評価するにはGPA制度の活用は有益だが、米国では、大学のレベルや履修した授業科目の難易度等をも考慮した評価システムが確立されているのに対し、日本では必ずしもそのような段階に達しておらず、どのように制度を活用するか十分な検討が必要ではないか。
  •  法科大学院の開放性という観点からは、法学部出身者と他学部出身者を平等に扱う試験を行い、法学部出身者が有利とならないようにしなければ、そもそもの法科大学院構想の理念と乖離してしまうのではないか。
  •  法学部を卒業すれば早く法科大学院を修了できるということになると、法学部の学生は法学を詰め込んでくることが予想されることから、統一試験を実施し、公平性という観点からは問題があるかもしれないが、政策的に法学部出身者以外の者を極力受け入れるような配慮が必要ではないか。
  •  公平性という観点からは、個々の法科大学院への入学志願者間の公平が保たれるよう何らかの客観的試験は必要かもしれないが、全国統一とし、しかもそれを義務づけるまでの必要はないのではないか。
  •  法学部と法科大学院の連続性が前提では、既存の枠組みの中に法科大学院を付加し、単に学習期間を長くするということになりかねないのではないか。
  •  現在の法学部は法曹ではなく、様々な分野で活躍する人材を養成するものであり、その意味では法科大学院への入学は、他学部と同列なのではないか。
  •  法科大学院の入学者は、理念としてはオープンでなければならないが、現実は法学部出身者が中心になると思われる。その際、一定割合は他学部出身者とする、法学部出身者は一定割合にとどめるという2通りの考え方があるが、いずれにしても法学部出身者と他学部出身者の両者が入学し、その組み合わせで有効な教育が行えるような仕組みが必要なのではないか。
  •  日本においては、米国と異なり、法学部が一定の法学の素養を身に付けた人材を様々な分野に輩出するという役割を果たしており、その中に法曹を目指す意欲と能力を備えた人材が多数存在しているのは事実であり、それを踏まえた制度設計を行うことが自然なのではないか。他方、現在司法試験の合格者の約1割を占める他学部出身者をより多く迎える必要があり、そのために門戸を開くような工夫が必要なのではないか。
  •  法学部出身者と他学部出身者の枠の問題とともに、社会人等の受け入れ枠や、これまで、経済的な困難のため教育を受ける機会が必ずしも保障されてこなかった層を一定数受け入れるような措置も必要なのではないか。
  •  法科大学院において、法学部出身者に欠けていると思われる教養などの教育を省略することは適切ではなく、その部分を補う必要があると思うが、一方で教育期間が長くなりすぎるという問題もあり、両者のバランスをうまく図っていくことが必要なのではないか。
  •  法学部出身者は直ちに2年間でよいというのではなく、法学部出身者であっても原則3年を要求し、優秀な者のみ2年で修了することができるという制度設計も十分に考えられるのではないか。
  •  入学してから個別にその認定をするというのは、制度としては必ずしも適切ではなく、法学部出身者は即2年間ということにはしないが、入学のときに何らかの試験をして、3年コースと2年コースを分けた方が良いのではないか。

    5 次回の日程
     次回は6月29日(木)18:00~20:00、霞が関ビル33階東海大学校友会館「富士の間」において開催されることとなった。