2 場所 三田共用会議所
3 出席者
○ 事務局
樋渡利秋事務局長
5 会議経過(午前)
① 「弁護士の在り方」について石井委員(別紙1参照)及び吉岡委員(別紙2参照)からレポートが行われ、引き続き、関連する論点である「隣接法律専門職種」について北村委員(別紙3参照)からレポートが行われた。
② これらを踏まえ、以下のような意見交換が行われた。
○ 弁護士改革を論じるに当たっては、明治以来の国家権力による「弁護士を必要としない社会づくり政策」「法律事務独占の切り崩し政策」などの歴史的構造的背景を踏まえるべき。利用しやすさという視点だけではなく、裁判制度や法曹人口・法曹養成の問題との有機的関連の下に検討すべき。隣接職種の訴訟関与に関して、日弁連においても現在意見を集約しつつあるが、司法書士に簡裁での代理権を認めず、補佐人権限のみ認めるとする点は、北村委員の報告と異なる。司法制度は本来すっきりした形が理想だ。隣接職種には、行政庁の監督や行政庁OBの特例的な試験免除措置があることも踏まえるべき。ただ、現実に存在している隣接職種と、協働化を進めていくことは重要。
○ 将来的に法律職種を統一すべきか否かといった視点も重要だが、当面の国民利便の見地から、司法書士の簡裁代理権を認めるべきであり、このことは協働の推進にもプラスになる。弁護士アクセスの問題は、弁護士人口増員や公設事務所などだけで解決することは期待できない。簡裁では行政訴訟はないので、行政庁の監督が及ぶかどうかは問題にならない。
○ 隣接職種は行政庁との関係が深いので、過渡的には訴訟への関与はやむを得ないとしても、本来的には、司法に関与する以上、職業倫理も含め弁護士に準じるものとして整備していくべき。特許弁護士、税務弁護士など弁護士資格に種類を設け、弁護士法の傘の下に包摂していくことも検討に値する。
○ 現実問題として、弁理士は特許庁を相手とする審決取消訴訟の代理を既に行っており、税理士も国税不服審判所での代理を行っている。また、私人間の紛争であれば、代理権等の付与については、行政庁との関係を問題視する必要はない。
○ 監督官庁から資格を付与されたのだから司法に関わるのはおかしいという議論は理解できない。例えば税理士は、法律上、独立性をもって仕事をすべきこととされており、心配のし過ぎである。
○ 司法は、例えば国税庁の通達行政自体の違法性を判断する場である。税理士は国税庁から監督を受ける立場にあり、司法へ関与させることは慎重に判断すべきである。
○ 弁護士法72条について、弁護士の能力が利用者から市場で評価されることが本来的であり、法律によって業務の独占が守られるのはどうか。隣接職種に対して個別に開放するのでなく、72条そのものを廃止することも検討すべき。
○ 弁護士の法律事務独占は、三百代言の弊害から利用者を守るためのものであり、歴史的・構造的にみても不可欠の制度である。
○ 弁護士法72条の見直しに関しては、訴訟や執行の代理は、原則として弁護士に業務独占を認めるが、法律相談、ADR、行政手続代理等は、隣接職種等へ開放するとの考え方もありうるのではないか。
○ 弁護士法による法律事務独占がなくなると、闇の勢力の民事暴力介入などを取り締まることが事実上できなくなるので、たいへん危険だ。
○ 企業法務、特任検事、副検事、簡裁判事を法曹資格との関係でどう取り扱うかについても検討すべきである。
○ 共同化については、米国のローファームのように、収益を分配し、組織的に高度かつ効率的な活動を可能とするため、法人化の道を開くことが不可欠である。
○ 法曹人口増員に伴い、懲戒制度の実効性も確保していくことが重要。懲戒委員会に先立つ綱紀委員会には、弁護士以外のメンバーもいるが議決権がない。また、検察審査会的な一般国民の参加も一つの案たりえよう。
○ 医者については、第三者機関である医道審議会が医師免除剥奪も含めた懲戒処分を決定している。弁護士自治獲得の歴史は踏まえる必要があろうが、全体が改革された後に描かれる長期的な姿を考えるのであれば、そのような制度があってよい。
○ 今後は、医療弁護士、工学弁護士などの専門分野を持つ弁護士をどう養成するかが重要となる。従来型の法曹三者の養成のみを念頭においてきた過去の制度とは抜本的に異なる発想で法曹養成を考えるべき。
○ 異業種との相互の雇用の解禁については、外国ローファームやビッグ5の日本法曹市場への進出をどう考えるかという問題とも関わってくる。
③ 上記意見交換を踏まえ「弁護士の在り方」等については、8月29日に日弁連等からのヒアリングを行った後、9月1日に方向性の取りまとめを行うこととされた。
6 会議経過(午後)
① 鳥居委員から、「司法制度改革に対する意見」と題するレポートが行われた(別紙4参照)。
② 法曹人口に関し、以下のような意見交換が行われた。
○ 必要な弁護士数はマーケットが決めるものであり、具体的な法曹養成数を想定すべきではないという意見もあるが、数を明確化しなければ、法科大学院構想を具体的に検討していく上で支障がある。また、弁護士人口の増加に最も利害関係を有する弁護士会・日弁連が、従来の養成数の枠を取り払う方向で増員を検討しているときに、当審議会が数の目標を示さないというのは疑問である。弁護士が国民7000人当たり1人しかいない現状はあまりにも少な過ぎる。弁護士人口5~6万人を10数年後に実現するために、とりあえず年間3000人の養成を目標とすべき。これはミニマムの数字である。
○ どの程度の養成数を目指すべきか、それをどのようなステップで実現すべきかが問題。法科大学院の整備状況やそのレベルアップの状況を見定めながら、段階的に増加していく必要があり、法曹の質の問題を考えると増加には一定の期間を要する。
○ 法科大学院構想が実現した場合、現実にどの程度の数の法曹を養成できるかという問題があるとしても、まず、あまりにも弁護士を利用しにくい現状を改める必要がある。早期に弁護士人口5万人を実現すべきであり、法科大学院の整備に時間を要するにしても、徐々に増加のカーブを急にしていけば、10年後には弁護士人口5万人を実現できるのではないか。
○ 法曹人口の大幅増加は必要。しかし、その規模を定めるに当たっては、多面的に需要調査をすることが必要であるし、法曹の質の確保に対する配慮も欠かせない。質の悪い法曹により被害を受けるのは国民である。増加の程度については、法科大学院の教育内容、学生の質(優秀な人材を吸収することができるか等)、実務修習の在り方等を踏まえて検討する必要がある。まずは、年間1500人を実現し、その後速やかに、あるいは法科大学院の整備状況等を見定めながら、2000人を目指し、それ以上については、増加後の法曹の活動領域や法曹の果たす機能の変化等の状況を踏まえて検討すべき。
○ 法曹人口を考えるに当たっては、隣接法律専門職種の扱いが重要な問題。
○ 隣接法律専門職種は弁護士と同等ではなく、隣接法律専門職種の取扱いの問題と弁護士人口の問題をリンクさせるのはおかしい。
○ 法曹の優秀さは、法律専門知識の多寡ではなく、生活に密着した発想ができるかどうかで判断すべき。このような視点からみると、10年後に5万人の法曹人口を達成することは質の面からみても問題ない。状況を見ながら少しずつ増加させていくという手法は、改革に値しない。
○ 法科大学院構想を前提に、弁護士人口5~6万人を10数年後に実現することを目指すのはよいが、参入してくる法科大学院の立場を考えると、その目標を達成した段階で、一旦増やした年間養成数を減じることには問題がある。そもそも、増え過ぎたらその段階で年間養成数を減らす、というような法曹人口を意図的にコントロールしようとする発想自体に疑問がある。このような問題点を認識した上で、5~6万人の弁護士総人口を目標として掲げているのか。最も影響を受ける弁護士会・日弁連にどこまでの覚悟があるのか。
○ スタンスの取り方として、二割司法、小さな司法などと言われる司法の現状を改めることが先決。その上で、弁護士の雇用先の確保、質の確保等を考えるのが筋。最も重視しなければならないのは、弁護士が少ないことにより不便を感じている国民の立場である。
○ 弁護士の増加は必要であるが、仮に年間3000人を養成することとした場合、現在の1000人体制と比較してどの程度のレベルダウンになるのかを検証する必要がある。
○ 法曹人口増加の経過などは、米だけはなく、仏・独とも比較して検討すべき。
○ 企業の立場から見ると、ただ単に一般の弁護士を増やせばよいのではなく、特許等の先端分野や国際取引に通じた弁護士を増やす必要がある。国際性のある法曹を養成することが重要である。
○ 法曹人口は、隣接法律専門職種、弁護士法72条、新しい法曹の概念等その他の論点と関連しており、これらについて十分な検討をしていない段階で、年間養成数の具体的数字を出すのは問題。ただし、10年後に5~6万人を目指すというような大雑把な見通しを示すのであれば異論はない。
○ 法科大学院が養成する学生の質(論理的思考力、判断力、人権感覚等)がどのようなものであるかを検証した上でなければ、年間養成数の具体的数字を出すことはできない。
○ 法曹人口を大幅に増加すべきであるという点では意見の一致をみており、一定の数値目標を設定して増加させていくという考え方と、状況を見ながら着実に段階的に増加させていくという考え方は、実質的に見ると違いはないのではないか。
以上の意見交換の結果、現在検討中の法科大学院構想を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、計画的にできるだけ早期に、年間3000人程度の新規法曹の確保を目指していく、という方向で大方の意見の一致が見られ、会議後の記者会見においてこの旨発表することについて了承された。
③ 佐藤会長から「日本国憲法が想定する司法とは」というテーマでレポートが行われた(別紙5参照)。これを踏まえ、「法曹一元その他関連する問題について」(夏の集中審議用レジュメ)(別紙6参照)を参考に、主として「国民が求める裁判官像とは(求められる資質・能力)」について、以下のような意見交換が行われた。
○ 司法権に対する民主的コントロールの弱さを正当化するのは、司法部門と政治部門の本質の違いにある。すなわち、政治部門は選挙等を通じて多数者の利益を代表することがその本質であるのに対し、司法部門は、多数の意思が何であるかを問わず、理に従い、公平な第三者の立場として判断し、個人を保護することにその本質があり、この違いは歴史的に形成されてきたものである。
○ 裁判には、法の「理」だけではなく、「情」も加味されることが期待されていると思うが、そのような裁判を実現する裁判官の素養としてどのようなものが要求されるのか。
○ アメリカの学者が、素晴らしい裁判官が備えるべき資質として、法の尊重、公正さ、良心のほかに、人間的温かさを挙げていたことは参考になるのではないか。
○ 当事者が望む裁判官は、頭脳明晰な裁判官ではなく、当事者の心情を理解してくれる裁判官である。他人の心の痛みを我が心の痛みとして感じられる裁判官が求められている。
○ 望ましい検察官が、被疑者・被告人の立場に立って心の苦しみを理解できる者であるように、裁判官も、相手の立場に立って公平に物事を見ることができる、温もりのある者が期待されている。
○ 裁判では真実発見こそが重要であると言われることがあるが、当事者の納得を得ることこそ、裁判の本質である。この点を理解していない裁判官は数多い。
○ 心の温かさは人間としてのあるべき姿であり、国民が求める裁判官像とはレベルが異なる話ではないか。当事者の納得とは、公平さを意味するのではないか。
○ 公平さだけでは納得は得られない。当事者の思いをどのようにくみ取りつつ説得できるかが重要。訴訟の勝ち負けで納得するかどうかが決まる訳ではない。
○ 良い裁判官になるためには、裁かれる立場の経験が重要。我が国では裁判官が常に裁く立場にあることが問題。裁く立場、裁かれる立場の双方を体験してこそ理解できることもある。
○ 刑事事件で言えば何より事案の真相解明が重要であり、裁判官には、洞察力、事案分析能力、他人の話を聞く能力、幅広い視野等が要求され、さらに、できるだけ真実に近づく努力をして判断を重ね、経験を積むことが要求される。裁判官に要求されるこのような資質を得るために、弁護士経験が必要なのか否かについて議論する必要がある。
○ 裁判官、検察官、弁護士の中に、問題のある人がいるのは間違いない。検討すべきは、特殊な例を念頭におくのではなく、平均的にみてどのような問題があるか、そのような問題点を予防するにはどうすればよいかである。
○ 裁判官として当事者を納得させるためには、当事者の話をよく聞くことが大切であり、弁護士として優秀な者が必ずしも優秀な裁判官になれる訳ではない。
○ 裁判官は、事件にのめりこんではだめで、一歩退いて事件を見る必要がある。また、一旦形成した心証にこだわらない柔軟さも要求される。
○ 企業の立場から見ると、裁判官の判断が的確で、安定していることが望ましい。
○ 転勤等による裁判官の交代が多すぎる。心の温かい裁判官に出会い、これまでの主張を理解してもらってもすぐ変わってしまい、新たな裁判官にまた初めから説明しなければならなくなる。交代直後の裁判官が判決に関与した場合、どの程度主張を分かってくれたか不安になる。このような問題を改善する制度的担保が必要である。
以上
(文責 司法制度改革審議会事務局)
速報のため、事後修正の可能性あり