集中審議第2日配付資料
「弁護士の在り方」について(要旨)
Ⅰ はじめに
Ⅱ 総論
1 理想の弁護士像
- 理想の弁護士像は、ユーザーに身近で、親しみやすく、頼りがいがあって信頼できる弁護士であり、言い方を換えれば「社会生活上の医師」あるいは「経済活動におけるパートナー」としての存在である。
- ユーザーは、高度の専門性を有する弁護士の中から、依頼事項に相応しい弁護士を適切に選択し、ユーザーのニーズに則した質の高いサービスの提供を容易に受けられることを望んでいる。
- 弁護士組織としての「弁護士会」については、弁護士全体の意見を適切に反映し、理想の弁護士に国民がアクセスできるようにバックアップする責務を果たし、国民に開かれた形で弁護士の指導や監督等を行う責務を負った存在でなければならない。
2 現実の弁護士像
- 数が少なく、接触頻度の少ない存在である。情報開示が不十分で具体的な姿や顔が見えず、ユーザーにとって、敷居の高い存在となっている。
- 弁護士の中には特権的な地位に安住し、さしたる専門性もないのに威張っているという印象を依頼者に与える者も多いという話もよく聞く。
- 弁護士会の意見形成の過程や会の運営は、アカウンタビリティー(説明義務)の概念が乏しく、ユーザーに開かれたものとなっていない。登録や懲戒等の行政作用を担っているにもかかわらず、国民が参加して、監督する手段は、ほとんどなきに等しい。ユーザーにとっては、弁護士会も遠い存在である。
3 弁護士改革の視点
- 弁護士が期待に応えていくためには、①弁護士へのアクセスの拡充、②弁護士の提供する法律サービスの質の向上、③弁護士の意識改革と弁護士会の改革、が重要である。
- 弁護士会は、ユーザーに開かれた存在にすることが大切である。
- 弁護士会は、①弁護士の情報開示の徹底、②弁護士間競争とユーザーのアクセス拡大の促進、③弁護士の社会的責任を果たせるような責務、が求められている。
Ⅲ 各論
1 弁護士へのアクセス拡充
(1) 法曹人口の適正な増加
- 法曹人口の大幅な増加の必要性については、認識の一致が見られたが、いまだ法曹人口について具体的な目標値を見出していない。
- 法曹人口の増加を実現していくためには、法曹養成のキャパシティをベースにその可能性を否定するのではなく、期間と数について目標を立て、それに向かって種々な角度から実現の可能性を探っていく必要がある。
- 司法試験の合格者数を1500人にすることは既にオーソライズされており、すぐにでも増やすべきである。
- 合格者の大幅増の対応として、養成段階から先進国への留学をさせるような、ローテーションを利かせた研修制度も一つの方策である。
(2) 弁護士過疎への対応
- 弁護士が全国できめ細かく「社会生活上の医師」としての役割を果たすためには、国が制度面や予算面から主体的に関与して公設事務所を開設し、法律扶助制度や公的刑事弁護制度における役割を担うことも、有力な解決策として検討するべきである。
- インターネットを利用した法律相談活動や、司法書士等の隣接法律専門職種による補完的役割を可能にすることも重要な検討課題である。
(3) 弁護士情報の公開
- 十分な情報が与えられていないために、弁護士を選択したり、必要に応じて交替させるなどのことはできない。
- 今後、専門分野・関与した事件歴・顧問先・所属事務所の規模と事務所における地位・平均的な顧問料や相談料・著書の有無等、ユーザーが弁護士を選択するために必要な情報を積極的に広告の対象とすることを期待する。
- 弁護士会は、ユーザーが必要とする情報をデータベース化し、インターネットホームページで公開したり、書物として出版するなど、弁護士に関する広報活動を充実させる必要がある。
(4) 弁護士費用(報酬)
- 報酬規定の透明化・合理化が必要である。
- 弁護士費用は、自由競争社会の中で市場によってその適正価格が決められていくものである。
- ストックオプションを利用して、その報酬を支払えるようにするといった工夫も、ユーザーと弁護士の双方にとって有効である。
- その一方で、「社会生活上の医師」としての公共的視点に立てば、法律扶助の充実など公的な支援や訴訟費用保険の一般化といったことも検討課題としてある。
2 法律サービスの質の向上
(1) 事務所形態の多様化
(1) 事務所形態の多様化
- 弁護士事務所の共同化・法人化は、業務の組織化・分業化やノウハウの蓄積等を促し、高度に専門化した法律サービスの安定的供給を可能にする有効な方策である。
- ユーザーの立場から見た場合、弁護士と公認会計士・弁理士・税理士・司法書士等の異なる専門資格者が1つの事務所で協力し合い、専門性を活かして総合的に質の高いサービスを提供するワンストップ・サービス(総合的法律経済関係事務所)に対する期待は非常に強い。
- このような協力関係を促進するには、弁護士を含む専門資格者の意識改革を行うとともに、総合的法律・経済事務所の設置要件を緩和したり、異業種とのパートナーシップおよび相互の雇用の解禁といったことも検討に値する。
(2) 法曹養成及び継続教育
- ロースクール構想は、法曹の専門性や国際性の向上とユーザーの求める法曹の養成のために、有力な方策として期待している。ロースクール段階でも留学を義務付けるなどして、国際感覚を養うことが非常に重要である。
- 弁護士会が、研修等を実施して、「医学弁護士」・「建築弁護士」・「工学弁護士」など弁護士の専門性を認定し、特定の専門分野名の呼称の使用を認める制度なども、弁護士の専門性の向上と、ユーザーのアクセス拡充に有益である。
- ロースクールが実現した場合には、それを5年に1度継続教育の場として利用することも考えられる。特に倫理感を見失わないように継続的な教育の機会として機能させるべきである。
(3) 弁護士の業務範囲の見直し
- 競争原理の導入等と、業務独占の在り方を見直す時期に至っている。
- 弁護士は、法律によって業務を独占するのではなく、提供するサービスの質の高さをユーザーにアピールすることによって、責任ある地位を保つべきである。
- 隣接法律専門職種に対する訴訟代理権等の付与・法律相談業務等の裁判外の業務独占の在り方・企業法務の活用等は、このような観点から検討されるべき課題である。
- また隣接法律専門職種等との協働化を進めたり、外国法律事務弁護士とのパートナーシップ及び雇用の見直しを行うなど、トータルとして質の高いサービスを提供することが重要である。
- 企業法務担当者が企業の法廷代理人となれるような方策が検討されるべきだ。その際、東京商工会議所が取り組んでいるビジネス実務法務検定を企業法務担当者の能力的担保措置に利用することは検討に値する。
3 弁護士の意識改革と弁護士会改革
(1) 弁護士の意識改革
① 公益性の自覚(弁護士の活動領域の拡大等)
- 公益的側面つまり社会的責任とは、個々の弁護士の利害に沿ったものではなく、あくまでユーザーの視点に立って、全力を尽くすことである。ユーザーの視点に立つことによって、マクロ的に「法の支配」を実現していくことが大切である。
- 現在の経済活動の状況を鑑みると、弁護士は、高度な専門性、国際性を要する先端分野での予防法務及び経営戦略の担い手として重要になっている。
- 公的機関・国際機関・民間企業・非営利団体(NPO)などへ積極的にその活動領域を広げていくべきである。
- 弁護士の兼職や営業等を制限している弁護士法第30条の見直しが必要である。
② エリート意識・縄張り意識からの脱却
- エリート意識が隣接法律専門職種等との協力関係を阻んでいる一つの要因にもなっている。ユーザーの視点に立った法律サービスの質の向上を図るべきである。
③ サービス提供者であることの自覚
- 弁護士は法的サービスの提供者であることを自覚し、ユーザーの利便性を第一に考えることが改革の基本である。
④ 積極的に外へ目を向ける意識(国際性)
- 我が国の渉外事務所は、国内における競争に備えるという守りの姿勢に徹し、海外に支所を設け、欧米の巨大ローファームと対等に競争していくという姿勢が乏しい。このような内向きの意識が、弁護士事務所の国際化や経営基盤の強化を妨げる一つの要因であった。
- 弁護士としての誇りと自信に裏打ちされた外向きの意識に改革していく必要がある。
⑤ 弁護過誤訴訟の容易化、一般化(仲間意識からの脱却)
- 我が国では、弁護過誤訴訟について見聞きする機会がほとんどない。ユーザーは弁護士過誤であることに気付くことすらない。
- 弁護士はやみくもに仲間を守るような仲間意識から脱却して、弁護過誤事件についても積極的に調査研究し、これを専門分野とすることによって、弁護過誤訴訟の容易化・一般化を促すことが、ユーザー本位の司法を実現するために重要である。
(2)弁護士会改革
① 弁護士会運営への国民の参加
- 行政機関と同様に国民に対するアカウンタビリティー(説明義務)の概念を導入し、パブリックコメントを求めていくことを義務付け、「社外役員」のように理事等には外部者も一部選任することなども検討に値する。
②弁護士法30条3項の許可制度の廃止
- 弁護士が営利企業の取締役等に就任するためには所属弁護士会の許可が要求されており、弁護士が民間企業で活躍することの足枷になっていると指摘されている。廃止を含めた制度全体の見直しを早急に行う必要がある。
③ 懲戒制度の見直し(国民の参加,司法審査の双方向性)
- 現在の懲戒制度は、懲戒処分を受けた弁護士は裁判所による司法審査を受けることができるのに対し、懲戒請求をしたユーザーは処分を不服として、司法審査を請求することができない制度になっている。懲戒請求者も司法審査を請求できるよう、懲戒委員会や綱紀委員会の構成メンバーの見直しといった制度改正が早急に必要である。
④ 弁護士会の指導・監督権限の強化
- 懲戒処分や弁護士による犯罪の増加に対応するため、弁護士会の会員に対する指導・監督権限の強化を検討する必要がある。
- 弁護士に対する倫理観の徹底も弁護士会の課題としては緊急性を帯びたものになっていることを、再度指摘しておきたい。
Ⅳ おわりに