集中審議第2日配付資料

弁護士のあり方に関するレジュメ

00.8.8
吉岡 初子


・総論

 司法制度は国民の生活、幸福追求のための「道具」として機能しなければならない。「司法(法曹)は“国民の社会生活上の医師”の役割を果たすべきである」とするならば、弁護士は法曹の中で最も国民に近いところに位置付けられなければならない。

 しかし、国民の多くは、裁判所は遠い存在と考え、さまざまなトラブルに遭遇した場合でも、裁判の利用につながらないのが実態であり、弁護士についても敷居の高い存在であることに変わりはない。

 論点整理でも「国民が司法に期待するものは、利用者として容易に司法にアクセスでき、国民に開かれたプロセスにより、多様なニーズに応じた適正・迅速かつ実効的な司法救済を得られるということ」と指摘しているが、それにはまず国民と司法の接点を担っている弁護士へのアクセスの拡充と飛躍的な量の拡大を図る必要がある。

 何時でも、だれでも、どこでも、気軽に司法サービスが利用できる国民参加の仕組みの構築が重要である。

 以上のような視点から、以下の意見を述べる。


1.弁護士の公益性と社会的責務
2.弁護士へのアクセス障害の解消
3.弁護士過疎・偏在の解消
4.弁護士の質の向上
5.弁護士(法曹)人口の大幅拡大
6.法律事務所の態勢整備と規模の拡充
7.弁護士及び弁護士事務所の国際競争力
8.弁護士法の見直し

・各論

1.弁護士の公益性と社会的責務

1)社会的責務としての公衆への協力
 中坊委員から『弁護士の社会的責務として、公衆への奉仕、公務への就任、法曹(弁護士)養成への主体的関与がある』との考え方が提示されているが、社会的責務の具体的実現について検討することが必要である。
・ 弁護士会が既に、当番弁護士、法律扶助、法律相談などの公益的活動を行っていることを評価するが、弁護士が法曹の中で圧倒的多数を占めていること、さらに、今後、国民が利用しやすい司法を目指すためには、法曹人口の大幅増員が求められている現状を考えると、弁護士及び弁護士会は、法曹養成をはじめ司法に対して積極的に協力参加することが求められる。

2)プロボノ活動の義務化
 弁護士の社会還元の一つとしてプロボノ活動については、一部の弁護士会で義務化を決めているようだが、実施状況については把握されていないのではないか。実質的に担保されることが必要。

2.弁護士へのアクセス障害の解消

1)弁護士費用
 弁護士に依頼する時に、幾らかかるかわからない、高額を請求されるのではないかという不安や弁護士費用の予測困難性が国民のアクセス障害の一つになっている。
 弁護士費用について合理化、透明化を図り、十分な説明をすることが必要である。
 また、弁護士費用はその事件での弁護士業務に見合った額であると依頼者が納得できることが求められるが、弁護士費用の事前予測が困難であるのをはじめ、額の決め方についても利用者にわかりやすいものになっているとは言えない。
 弁護士報酬といえどもサービス契約の一環であることを考えれば、「報酬等基準規程」を合理化し(適正価格)、透明性を高め、報酬に関する契約書の作成を義務化、徹底するべきであろう。(日弁連「報酬等基準規程」第7条)

(参 考)
 日弁連の調査(日弁連編「市民と法律問題-日常の問題処理の実情-」第一法規出版)によると、都市部も含めて、知り合いに弁護士がいる人は13.7%にすぎない。しかもこの13.7%の人でも、弁護士に相談するには費用が幾ら掛るかわからないなどの理由で、躊躇してしまう旨、回答しているものが見られる。

2)弁護士の専門性等の情報
 国民が司法を利用する場合、接点となるのは弁護士であり、紛争内容に即した特定の専門分野を得意とする弁護士の存在が求められるが、現状は弁護士の活動等に関する情報が不足しており、消費者がニーズに合致した弁護士を探す事を困難にしている。
 弁護士会の広告規制緩和をさらに進めるとともに、客観的な弁護士の評価(例えば論文、著書、専門研修、専門分野の研修など)と情報開示のシステムの確立(例:ABAのような第三者評価)が必要である。

3)法律相談活動の活性化
・ 過疎地の相談センター、経済的なハンデキャップのある層に対する相談活動、専門 相談など

3.弁護士過疎・偏在の解消

1)弁護士人口の大幅増

2)公設法律事務所の設置
・ アメリカの場合、公設弁護人事務所(公的組織)とコミュニティー弁護人組織(民間の非営利組織)があるが、費用は連邦政府で賄われている。

3)法律事務所の支店禁止規定の改正(弁護士法20条)

4.弁護士の質の向上

1)研修制度の充実(義務付け)
 拡大する国民の法的ニーズにこたえるためには、質量共に充実することが重要である。弁護士会等による研修制度の充実と研修の義務付けが必要。

2)弁護士倫理の確立
a 弁護士倫理の確立と弁護士会の責任
  司法の抜本的改革の実現のためには、弁護士人口の大幅な増加が不可欠であるが、弁護士の質の低下についての懸念が残る。
  専門家としての能力的な質の維持、向上については、法曹養成制度の改革や、登録後の専門研修の充実などによって対応されるべきだが、弁護士の質に関して更に重要なのは、高い職業倫理の確保という点である。
・ 弁護士人口大幅増加に伴う倫理的な質の低下を防止するための対応が必要
・ 弁護士自治を維持、強化するという観点からの対応
・ 個々の弁護士の自主的努力任せにしない弁護士会としての主体的取り組が必要 

3) 弁護士倫理確立のための方策
aルールが守られるための制度的方策の実施/ルールの制定と周知徹底
・ 弁護士業務・活動の各分野における具体的な倫理的行動準則の必要性
・ 実効性あるルールづくりに向けた既存規定の見直しの必要性
・ 法科大学院における法曹倫理教育の重要性
・ 弁護士登録後の倫理研修の充実
・ ルール違反が行われないための制度的方策の必要性
・ ルールの遵守状況についての弁護士会の把握
・ 市民参加の苦情処理窓口の充実

bルールが守られなかった場合の適正な制裁
ルールが守られなかった場合の適正な制裁のための制度としてある弁護士会の綱紀懲戒制度が実効性を持つような工夫がなされる必要がある。したがって、弁護士会の自律による職業倫理の確保という観点からは、倫理違反が疑われる事案についての弁護士会の調査権限の強化、調査を受ける者の調査協力義務の明確化などの措置がとられる必要がある。また、情報公開という観点からは、利用者が悪質な弁護士に対する懲戒申立を行いやすくするという観点からの懲戒手続の広報や、個々の弁護士の懲戒関係の情報の適切な公開なども検討されるべきであろう。 
・ 懲戒制度における弁護士会の調査権限、調査対象者の調査協力義務の明確化
・ 懲戒手続の広報
・ 個々の弁護士の懲戒情報の適切な公開

5.弁護士(法曹)人口の大幅拡大
 国民が利用者として容易に司法にアクセスできるためには制度的インフラの整備が必要であると同時に人的インフラの整備が求められる。論点整理でも「法曹の圧倒的多数を占め、国民と司法の接点を担っている弁護士へのアクセス拡充を図らなければならない。(中略)利用者である国民の立場からみると、現状では、弁護士に気軽に相談し、利用できる状況になっておらず、(中略)国民のアクセスを疎外する一員となっている。その背景には、弁護士人口の不足、弁護士の地域的偏在(以下略)」があるとしている。法曹人口は、弁護士のみならず裁判官、検察官を含めて少ないことは当審議会でも一致した見解であるが、国民の期待に応え得る法曹人口を思量すると、まず弁護士人口の大幅増加を検討することが必要であり、中坊委員が提言しているフランス並み(5~6万人)を目指すのが妥当ではないか。

6.法律事務所の態勢整備と規模の拡充

1)法律事務所の法人化、共同化
 弁護士業務の執務体制についてみると、現在の訴訟手続が当事者主義を基調としていることから、訴訟当事者の代理人である弁護士が迅速で充実した審理の実現のために果たすべき役割は重要である。
 しかし、日本の場合、弁護士事務所は個人経営が主流で、一人の弁護士が抱える訴訟件数も多いため、期日が入りにくい問題も指摘されている。
 海外の法律事務所が千人を超える弁護士を雇用し、機動的に活動しているのに比して、日本のそれは太刀打ちできる状態ではない。早急に弁護士事務所の法人化を進める必要がある。

2)弁護士の偏在、過疎問題
 全国203の地裁支部管内に弁護士が2人以上いない地域(いわゆる0-1地域)は72か所もある。これは前述したように、弁護士事務所の規模の問題と無関係ではない。弁護士事務所の法人化を図り、弁護士過疎地に支店を設置するなど、国民が利用しやすい司法サービスを図る必要がある。
 また、過疎地の場合、事務所設置による採算性の問題も過看できない。公設弁護人事務所の設置についても検討する必要がある。

3)市民のためのワンストップ・サ-ヴィスの事務所展開(総合化、協働化)

7.弁護士及び弁護士事務所の国際競争力
 諸外国の巨大ロー・ファームは千人を超える規模、日本の最大弁護士事務所でも100人程度。競争激化に耐え得る国際競争力をつける必要がある。
・ 法律事務所の共同化、総合化、法人化等
・ 外国弁護士との提携・協働、海外への進出等についても議論のあるところである。

8.弁護士法の見直し

1)弁護士の法律事務独占の見直し(弁護士法72条)
・ 隣接法律専門業務との関係、
・ ADR、法律相談活動、消費者相談活動等、幅広い展開を担う法律家の必要性

2)法律事務所の支店禁止規定の改正(弁護士法20条)
・ 規模の大きい法人弁護士事務所の支店を認める事により、弁護士の常駐を促進する事が出来れば、弁護士過疎・偏在の解消に寄与する。
・ 弁護士の兼業禁止規定の改正(弁護士法30条)
 現行法では、弁護士の公職就任、企業の役員等への就任は、所属弁護士会の許可を必要としているが、弁護士活動の場を広げ、国民へのサーヴィスを充実するために、改正が必要である。

以上