集中審議第2日配付資料

日本国憲法が想定する司法とは



Ⅰ 日本国憲法の規定と司法権

(1)司法権と裁判所

◎憲法76条1項
 「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」

 同2項
 「特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない」

(2)裁判官の職権と地位

◎憲法76条3項
 「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」

 憲法78条
 「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分、行政機関がこれを行ふことはできない」

 憲法79条6項
 「最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない」

 憲法80条2項
 「下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない」

(3)国民主権と司法権

◎憲法6条2項
 「天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する」

 憲法79条1項
 「最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する」

 憲法79条2項
 「最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際に更に審査に付し、その後も同様とする」(なお、同条3~5項参照)

 憲法80条1項
 「下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する」

 憲法78条
 「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分、行政機関がこれを行ふことはできない」

◎司法権に対する民主的コントロールの弱さを正当化するものは何か

Ⅱ 日本国憲法上の司法権の系譜と内容

(1)司法権に関する英米法系と大陸法系

(イ)英米法系の司法権

◎司法権は行政裁判権、違憲審査権を含む

◎司法権を担う裁判官制度
 いわゆる法曹一元制

(ロ)大陸法系の司法権

◎司法権は民事事件、刑事事件の裁判権。行政事件の裁判権は行政の系列に属する行政裁判所。20世紀に入り、特に第二次世界大戦後、憲法裁判制度が導入されたが、通常の司法裁判所とは異なる政治性の強い独自の機関に行わせる。
 第二次世界大戦後のドイツでは、司法権に行政裁判権が含まれるかどうかといった次元を離れて、「裁判」という標題の下に、連邦憲法裁判所、及び最高裁判所として連邦通常裁判所、連邦行政裁判所、連邦財政裁判所、連邦労働裁判所、連邦社会裁判所を設置。

◎司法権(裁判権)を担う裁判官制度
 いわゆるキャリアシステム

(2)日本国憲法上の司法権

(イ)司法権の範囲

◎司法権は行政裁判権、違憲審査権を含む
 憲法81条「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」

(ロ)司法権の意義

◎「具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを裁定する国家の作用」(清宮四郎)
 「法律上の争訟を裁判する作用」(宮沢俊義)
 「わが裁判所が現行制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする」(最高裁判所判例)

(ハ)司法権を担う裁判官制度
 いわゆるキャリアシステムで運用
 いわゆる法曹一元制の問題

Ⅲ 公共性の空間を支える土台と二本の柱

(1)公共性の空間を支える土台

◎「『公共性の空間』は、決して中央の『官』の独占物ではないということを、改革の最も基本的な前提として再認識しなければならない」(行政改革会議『最終報告』平成9年12月3日)

◎権利主体・統治主体としての国民

(2)公共性の空間を支える二本の柱

(イ)政治部門―“政治のフォーラム”

◎行政改革の骨子
  ・国民主権の実質化―政治主導の確立
  ・国家の減量―行政のスリム化
  ・縦割り行政の弊害の除去
  ・行政の透明性・責任制の確保

◎行政改革の諸前提
  ・規制改革の推進、地方分権の推進、情報公開制度
  ・「司法との関係では、『法の支配』の拡充発展を図るための積極的措置を講ずる必要がある。そしてこの『法の支配』こそ、わが国が、規制緩和を推進し、行政の不透明な事前規制を廃して事後監視・救済型社会への転換を図り、国際社会の信頼を得て繁栄を追求していく上でも、欠かすことのできない基盤をなすものである。政府においても、司法の人的及び制度的基盤の整備に向けての本格的検討を早急に開始する必要がある」(行政改革会議『最終報告』)

(ロ)司法部門―“法のフォーラム”

◎裁判も一つの独自の公共的討論の場であること

Ⅳ 司法部門(“法のフォーラム”)を支える理念と制度

(1)司法部門(“法のフォーラム”)を支える理念

◎「法の支配」の主要な実現者

◎「すべての国民を平等・対等の地位におき、公平な第三者が適正な手続により公正かつ透明なルールに基づいて判断を示す」(『論点整理』)
  ⇒法原理的思考と具体的かつ現実的な事実認識に基づく自律的な秩序形成
  ・「理」に基づく解決であること
  ・具体的な事実関係を基礎とした経験的な判断に基づく解決であること
  ・当事者の主張に対して最大限配慮した秩序形成であること

(2)司法部門(“法のフォーラム”)を支える制度

◎「剣の力にも財の力にも頼らない司法が、理とことばの力に基づいて、法の支配を貫徹し、国民の権利・自由を実現するという役割を有効かつ適切に果たしていくことを可能とするには何をなすべきか」(『論点整理』)

◎「国民が自律的存在として、多様な生活関係を積極的に形成・維持していくためには、画一的な行政規制に安易に頼るのではなく、各人がおかれた具体的生活状況ないしニーズに即した法的サービスを提供することができる司法(法曹)の協力を得ることが不可欠である。国民がその健康を保持する上で医師の存在が不可欠であるように、司法(法曹)はいわば“国民の社会生活上の医師”の役割を果たすべき存在である」(『論点整理』)

◎「国民が司法に期待するものは端的に何かといえば、それは、国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができ、国民に開かれたプロセスにより、多様なニーズに応じた適正・迅速かつ実効的な司法救済を得られるということ、及び新しい時代状況に対応した適正な刑事司法手続を通じて犯罪の検挙・処罰が的確に行われ、国民が安全な社会生活を営むことができるということであろう」(『論点整理』)

◎「法の支配の理念を共有する法曹が厚い層をなして存在し、相互の信頼と一体感を基礎としつつ、国家社会のさまざまな分野でそれぞれ固有の役割を自覚しながら幅広く活躍することが、司法を支える基盤となる」(『論点整理』)

◎「法曹一元の問題は、裁判官任用制度に関係しつつも、それに局限しうるものではなく、法曹人口、法曹養成制度、弁護士業務の在り方等も含めて司法(法曹)制度全体の在り方と深くかかわっている」(『論点整理』)
  ・「法曹一元の制度(臨時司法制度調査設置法第2条第1項の制度をいう。)は、これが円滑に実現されるならば、わが国においても一つの望ましい制度である。しかし、この制度が実現されるための基盤となる諸条件は、いまだ整備されていない。したがって、現段階においては、法曹一元の制度の長所を念頭に置きながら現行制度の改善を図るとともに、右の基盤の培養についても十分の考慮を払うべきである」(臨時司法制度調査会意見書)

◎「主権者たる国民の公的システムへのかかわり方も多面的な広がりをみせようとするなか、司法の分野においても、主権者としての国民の参加の在り方について検討する必要がある」(『論点整理』)