司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 集中審議第3日 議事概要



1 日時 平成12年8月9日(水) 10:00~12:20/13:30~17:10

2 場所 三田共用会議所 第2特別会議室

3 出席者

○ 委員(敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子

○ 事務局
樋渡利秋事務局長

4 議 題
○ 「法曹一元その他関連する問題について」
・意見交換

5 会議経過(午前)

集中審議第2日(午後)の会議に引き続き、法曹一元その他関連する問題について、以下のような意見交換が行われた。

<議論の前提等> 

○ 立法、司法、行政という関係の中で、司法はどのような役割を果たすのか。国民の立場には公共空間と私的空間がある。公共空間の中では選挙の役割が大きい。

  法の執行の場面では、国民・住民は集団として想定されている。これに対するもう一つの柱が司法であるが、司法では、個々の国民にどのようなことが起きているのか、具体的な案件の中で法の執行がそれで良かったのかを吸い上げていく。具体的案件を点検するという作業が行われ、それを頂点に位置する裁判官が裁くという構造になっている。弁護士の役割は、国民の中から吸い上げて裁判所へ持って行き、判断を得ることと位置付けられる。弁護士は私的空間で生活しながら公共的性格を担うものであり、事業性、当事者性、公益性という3つの側面を持つ。司法は公共的討論の場であり、討論をする、即ち「闘う」ということが弁護士の職務の特質である。

  司法の中核となる裁判所について、現在のキャリア・システムの悪いところは、裁判官任用のための名簿を現実には最高裁事務総局が作成していることである。司法行政は裁判官会議ではなく、長官とその補佐機構としての事務総局で行われている。法律家の土台の上に立った裁判官であるべきだ。法曹一元となれば、弁護士にも公共的空間を担う意識が必要だ。在野であることを強調しているばかりではいけない。裾野としての弁護士改革から裁判所改革、頂点が法曹一元だと言うことができる。「官」と「民」を対置させるのではなく、「官」から「公」へという意識が大切だ。法曹が相互の信頼感の中で重層的に活躍することが求められていると思う。

(別紙参照)

○ 法曹一元という言葉には独特のイメージが付き過ぎていて議論しにくい。

○ 法曹一元という言葉を使うと、弁護士が全部裁判官になるのか、弁護士が裁判官を選ぶのかというような余計な誤解を招きやすい。当審議会として新たな考え方を発信するのだとすれば、別な名称に変えたほうがよい。

○ 従来の概念の枠にとらわれずに、どうすれば良い裁判官が得られるのかという視点に立って議論するべき。

○ 法曹一元かキャリアシステムかという二律背反の捉え方は良くない。法曹三者の中で互いに論争し合い傷つけ合うばかりでは、司法全体が国民の信頼を失ってしまう。

<給源>

○ 裁判官の給源の多様化を図ることが必要である。

○ 法曹一元かキャリアシステムかという言葉自体に抵抗感を覚える。裁判官の給源を実質的に多様化する方向で、現行制度の改善を進めていくことが妥当ではないか。

○ キャリア・システムが本来的に良くない制度だとは、諸外国の制度が法曹一元と相半ばしている事実を考えても、言えないと思う。我が国では、世論調査の結果等を見ても、裁判の公平性・信頼性については高く評価されている。国民の要望はむしろ迅速化や民刑事裁判の在り方の改善に集中している。

○ 裁判所法のアイデア(多様な給源)は間違っていないと思う。判事補制度も、裁判官としての資質を涵養するという点で必ずしも悪くはない。今後は、企業法務や行政の人も視野に入れて裁判官を選任すると良いのではないか。特例判事補は無くしていく方向だと思う。問題は多様な給源の確保であって、10年の経験年数にはこだわらなくても、例えば7年や8年でも良いのではないか。

○ 現行のキャリアシステムにはやはり問題がある。特例判事補を直ちに廃止することは現実的でないが、社会経験の不足を研修で補う等の努力が必要だ。同じキャリアシステムでも日独では随分違うと指摘される。そのことを考慮すべきだ。

○ 現行のキャリア・システムにも、公正・廉潔、職業的訓練等のメリットがある。もちろん経験豊かな弁護士が裁判官になることは大変結構なことだが、弁護士からの任官には様々な障害がある。弁護士会や裁判所の相当なバックアップが必要で、事務所の法人化も必要だろう。

○ 判事補制度は、戦後の司法制度改革の中で、判事の必要数を確保するため、裁判所の子飼いの給源として整備されたものであると聞いているが、現在においても必要な判事数の安定的な確保の面では同様の不安が残っていることから、これを直ちに廃止することは困難である。同制度は残しつつ、改善を加えていくこととすべきではないか。

○ 経済社会の変革に裁判がついて行けていない。人材が育てられていないからだ。企業での研修等の努力もなされているが、任用の裾野を広げることは是非必要だ。

<任用・人事等>

○ 今の裁判官任用制度は、国民の声が反映する仕組みになっていない。基本的には裁判は国民のものなのだから、裁判官を選ぶ場に国民が入るべきだ。最高裁判所裁判官の国民審査の情報開示も不足している。

○ 司法行政に国民の意向を反映する仕組みも必要だが、裁判官の任用手続に直ちに一般国民が参加することが、単純に民主化であり良いことだとは考えられない。

○ 裁判官の転勤の問題も含めて、人事の透明性を確保することが必要である。

○ 適切でない者を排除するため、裁判官に対して、委員会のような組織による第三者評価を行うことも必要ではないか。

<法曹の一体感>

○ 法曹の一体感が必要で、一元の問題として給源だけを考えていても意味が無い。なぜ一体感が生れて来ないのか、その原因を除去しないことには、国民が不利益を被る。ただ、裁判官の任命に国民を関与させるというのは短兵急ではないか。

○ 法曹の一体感の醸成を阻んだ要因としては、判事補制度が当初から存在していたことが大きいのではないか。

○ 判事補から判事になる現在のシステムでは、裁かれる立場に一度も立たないことになる。裁かれる立場を経験しないことには共感も生まれにくい。

6 会議経過(午後)

① 午前の会議に引き続き、法曹一元その他関連する問題について、以下のような意見交換が行われた。

<給源>

○ 裁判官制度を国民の間から支えられるものとしなければ、司法の役割は果たされない。国民が安心して裁判を任せられる裁判官制度でなければならない。なぜ、法曹一元が必要とされるのか、諸悪の根元は、裁判官不足を補う臨時の制度であったはずの判事補制度が判事の給源のほとんど全てを占めたことにある。裁かれる立場の経験がない者が裁かれる者に共感を持てるはずはない。弁護士、検察官等から幅広く判事としての人材を得るという裁判所法の趣旨が実現されなかったこと、日本の司法を二割司法の状態にしてしまったこと、「弁護士任官」が成功しなかったことなど、すべて判事補制度に原因がある。子飼いの判事補の間に判決の書き方を教え込むだけのことである。裁判官としての公平・公正さは、多少の倫理観があれば、立場を互換することにより、十分身に付けることができる。判事補制度は廃止し、弁護士人口を増加させて弁護士の中から優秀な者を裁判官に任用するべきである。

○ 現場の裁判官は、一生懸命その職務に精励しているのに、なぜ「常識がない」、「世間知らず」などという批判を受けるのか、強い疑問を持っている。そもそも、裁かれる立場にいれば裁かれる者の気持ちを理解できるようになるのであろうか、逆に、裁く立場にいても裁かれる者の気持ちに理解を示すことは可能なのではないか。裁判官は世間知らずという批判があるが、判事補10年の間に多種多様な事件を取り扱い、その中で裁判官として成長していく。また、地方勤務を通じて、一つのテリトリーの中でしか仕事をしない弁護士とは質的に異なる経験を積むことができる。判事補の間に判決の書き方だけを学んでいるのではない。むしろそうした形式的なことではなく裁判官として事件の内容に迫ることを学ぶのである。

○ 判事補制度は、戦後過渡的なものであったにもかかわらず居直って判事給源の主流となったものである。直ちに廃止することは難しいかもしれないが、早期に廃止するべきである。

○ 判事補制度は裁判官として必要な人員を確保するという意味で設けられたものであるが、それは決して臨時的、過渡的な制度として考えられたということを意味するわけではない。

○ 判事補制度それ自体に問題があるわけではない。予期に反して、それが判事の給源として一本化してしまっていることが問題なのである。裁判所法が想定していた多様性、多元性を制度として強めるための方法を検討すべき。

○ 判事補であっても、民間企業や弁護士事務所などで研修することにより、多様な経験(裁かれる立場も含めて)を積むことができるのではないか。

○ 研修としてではなく、弁護士の重要な側面である事業者性、自立営業者の立場で経験するのでなければ、裁かれる者の立場を理解できるはずはない。

○ 判事補制度は、公認会計士にも会計士補があるように、それほど悪いものとは思われない。問題は、制度自体というよりも、運用の仕方にあるように思われる。

○ 制度による客観的裏付け、保障が必要である。単に運用だけ直せばよいというものではない。

○ 企業の立場からは、あるべき裁判官像として判断の安定性、的確性を重視している。そこにキャリアシステムのメリットもあると考えている。むろん、同システムにも短所はあり、それを改善する必要はあろうが、法曹の間に一体感、信頼感のないまま法曹一元に取って代わられることには非常に不安を感ずる。良い弁護士が良い裁判官とは限らないのである。

○ 裁判官に多様な人材を得るため、経験豊富な弁護士が裁判官となること自体には意義が認められる。弁護士任官がなぜ増えないのか、その原因を除去する必要がある。

○ 弁護士の法人化、共同化が進めば、これまで全くの個人事業主であった弁護士に、組織上必要とされるある種の拘束を感じさせるようになる。そうなれば、裁判所という組織に入っていくことに伴う抵抗感も緩和されるようになることも考えられる。

○ 実際に弁護士から裁判官に任官しているのは、弁護士一人で経営している事務所から任官する者である場合が多く、10人以上の弁護士が所属する事務所から任官するような例は稀である。

<任用・人事等>

○ 選任方法を地方分権化することも考えられる。例えば、各高裁単位でブロック分けをして、国民の代表者や弁護士などからなる委員会がその地域の裁判官を選任することとする。その手続の透明性を確保することも重要である。

○ 裁判官の任用については、国民の代表者を加えた選任委員会によるものとし、その手続の透明性、客観性、アカウンタビリティーを確保できるようにすることが重要。

○ キャリアシステムの現状が裁判官の独立に不当な影響を及ぼしているのではないか。キャリアシステムの中で任用、人事(評価)、給与体系の実態が極めて閉鎖的となっている。裁判所という組織、機構を防衛するために、例えば、政治的中立性の名の下に、個人の裁判官を組織の中に封じ込め、あるいは統制し、その独立性を侵していると感じられる。

○ 裁判官の人事評価については、どういう基準でどのように評価されたのかについて、評価を受ける者との間でキャッチボールできるような手続が必要ではないか。すなわち、評価基準・体系の透明性、不服申立て等の手続整備を図る必要がある。異動に関しては、昇進の範囲をあらかじめ明らかにした上、全国規模かブロック単位かを選択させることも考えられてよい。

○ キャリアシステムの裁判官は立身出世に対する関心が強い。上を向いて裁判をする傾向に陥りやすい。

○ 利用者として、事件の途中で裁判官が転勤で交代してしまうことは、それまでの審理の経過や事件の内容を新しい裁判官に正確に理解してもらえるのかなど、非常に不安を感じる。

<その他>

○ 裁判官制度を変えないまま、弁護士人口を増やすなどということでは、弁護士の生活は立ち行かなくなるし質も低下する。裁判官制度、司法制度全体を変えて、その中で弁護士が幅広く機能していくということが前提とならなければならず、そのような展望もないまま、弁護士人口を増やすということでは、到底弁護士会を説得できない。

○ 法曹人口の増加の問題は、国民がより利用しやすい司法の実現、弁護士へのアクセスの改善のためといった必要性を踏まえて、昨日も議論していたはずであり、判事補制度の廃止を前提としていたものではない。

○ 裁判官会議の形骸化、事務総局の権限の在り方も問題である。

○ 日々発展していくビジネスの世界を理解し判断できる裁判官を育成・確保していくことが重要。

○ 今までは改革のスパンが長すぎたのではないか。ここでドラスティックに変えなければ、今後はなかなか改革を行うことが困難になるという硬直した考え方をする必要はないように思う。

○ 長期的に見て思い切った改革を考えていく必要はあるが、それが未来永劫続く堅牢なものをつくり出すとまで意気込む必要はないであろう。

○ 今回の司法改革の取り上げる範囲やどこまで踏み込んでいくのかをわきまえておく必要がある。司法だけというより、教育、家庭、地域社会などに根本的な問題があるものも多い。社会の様々な制度を全体としてバランスよく改善していく必要があり、司法だけが理想を追い求め過ぎて無理な改革をすることには疑問を感じる。

○ 司法制度改革の個々の問題は全てが連関しており、部分的手直しだけでは済まないものがある。むろん他の諸制度とのバランスをとる必要はあるが。

② 集中審議第2日(午前)以降、本日までの会議における意見交換の結果、裁判官の給源、任用・人事制度の在り方に関して、以下の事項について大方の意見の一致をみた。また、その趣旨を会議後の記者会見において発表することについて了承された。

○ これまでの法曹一元かキャリアシステムかという概念にとらわれることなく、国民が求める裁判官像を描き、そのような裁判官をいかにして確保していくべきかという広い視点に立って、様々な方策について検討すべきこと。

○ 裁判官の給源の多様化・多元化を図ること。

○ 裁判官の任命に関する何らかの工夫を行うこと。

○ 裁判官の人事制度に透明性や客観性を付与する何らかの工夫を行うこと。

以上

(文責 司法制度改革審議会事務局)

速報のため、事後修正の可能性あり