国民が司法制度に期待するものは端的に何かと言えば、それは国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができ、多様なニーズに応じて充実・迅速かつ実効的な司法救済を得られるということ、及び公正な手続を通じて犯罪の検挙・処罰が的確かつ適正・迅速に行われることにより安全な社会生活を営むことができるということであろう。民事司法、刑事司法を通じ、21世紀において我が国の置かれる時代環境を視野に入れつつ、法の支配の理念を機軸として、こうした国民の期待に応えうる司法の制度的基盤の整備を、後述する人的基盤の拡充(後記Ⅲ「司法制度を支える法曹の在り方」)、国民的基盤の確立(後記Ⅳ)と相まって、強力に推し進める必要がある。
民事訴訟事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし、以下の方策等を実施すべきである。
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民事裁判については、国民に利用しやすく、分かりやすいものとするために、新民事訴訟法が制定され、少額訴訟等、裁判所へのアクセスを容易にするための工夫がなされ、また、審理の充実・迅速化を図るための様々な工夫が施されてきた。そのような審理の充実・迅速化を図る方策としては、例えば、争点及び証拠の整理手続の整備、集中証拠調べの規定の新設、釈明制度の改正、随時提出主義から適時提出主義への転換、証拠収集手続の拡充(文書提出命令の拡充、当事者照会制度の導入等。なお、公文書提出命令に関する改正法案は第151回国会<平成13年>に提出済み)などを挙げることができる。また、民事訴訟規則では、進行協議期日の新設のほか、大規模訴訟につき審理計画を定めるための協議を義務付けている。
この結果、民事訴訟の審理期間は全体として短縮されてきており、地方裁判所第一審民事訴訟事件全体の平均審理期間について見ると、9.2か月(平成11年)である。しかし、事実関係に争いがあることなどから証人尋問など人証調べを行った事件の平均審理期間について見ると、20.5か月(平成11年)に及んでいる。
国民の期待に応えるためには、なお一層の審理の充実を図り、民事訴訟事件全体(人証調べ事件に限る。)の審理期間(平成11年で20.5か月)をおおむね半減することを目標として、以下の諸方策を実施すべきである。
(1) 計画審理の推進
原則として全事件について審理計画を定めるための協議をすることを義務付け、手続の早い段階で、裁判所と両当事者との協議に基づき、審理の終期を見通した審理計画を定め、それに従って審理を実施するという計画審理を一層推進すべきである。
(2) 証拠収集手続の拡充
訴えの提起前の時期を含め当事者が早期に証拠を収集するための手段を拡充すべきである。そのため、ドイツ法上の独立証拠調べ(訴え提起前においても、法的利益がある限り、証拠保全の目的を要件とすることなく、一定の事項につき「書面による鑑定」を求めうる制度)、相手方に提訴を予告する通知をした場合に一定の証拠収集方法を利用できるようにする制度を含め、新たな方策を検討し、導入すべきである。その際、証拠の所持者の側の権利の確保や濫用に伴う弊害のおそれにも配慮する必要がある。
(3) 人的基盤の拡充
審理の充実を図りながら民事訴訟事件の審理期間を半減するためには、法曹の人的基盤を拡充することによって、期日の間隔を短縮すること等が必要となる。そのために、弁護士人口を大幅に増加させること、弁護士事務所の法人化・共同化を進めることなどにより、弁護士の執務態勢を充実強化するとともに、裁判官及び裁判所関係職員の大幅増員等裁判所の人的体制を充実強化すべきである。
なお、簡易な訴訟を迅速に処理するとともに、裁判所の限られた人的・物的資源を複雑、高度な事件に集中させ、全体としての効率性を高めるとの観点から、地方裁判所において、訴額等を基準として通常の訴訟手続とは別に簡易迅速な処理を可能にする裁判手続を導入すべきであるか否かについては、将来の課題として引き続き検討すべきである。
専門的知見を要する事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし、民事裁判の充実・迅速化に関する方策に加え、以下の方策等を実施すべきである。
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科学技術の革新、社会・経済関係の高度化・国際化に伴って、民事紛争のうちでも、その解決のために専門的知見を要する事件(知的財産権関係事件、医事関係事件、建築関係事件、金融関係事件等)が、増加の一途をたどっている。これらの紛争に関わる民事訴訟においては、専門家の適切な協力を得られなければ、適正な判断を下すことができないばかりか、往々にして手続の遅滞を生じる。医事関係訴訟事件(民事通常第一審)について見ると、平均審理期間は34.6か月(平成11年。概数)であり、他の事件に比して極端に長くなっているのが実情である。様々な形態による専門家の紛争解決手続への関与を確保し、充実した審理と迅速な手続をもって、これらの事件に対処し、国民が実効的な司法救済を得られるようにすることは、現代の民事司法の重要かつ喫緊の課題である。
そこで、専門的知見を要する事件についても、審理期間(医事関係訴訟事件については、平成11年で34.6か月)をおおむね半減することを目標として、民事裁判の充実・迅速化に関して述べた、計画審理の推進、証拠収集手続の拡充等に加え、以下の諸方策を実施すべきである。これらの諸方策を円滑に実施に移すことに加え、医事・建築関係紛争の予防、事件の適正・迅速な解決を実現していくためには、関係機関(関係省庁、裁判所を含む。)の協力・連携が不可欠であり、今後、これを一層強化することが望まれる。
(1) 専門委員制度の導入
現行法上、訴訟手続において専門家を活用する方策としては、鑑定、裁判所調査官の制度があるに過ぎず、専門家関与の形態は限定的である。専門的知見を要する訴訟では、手続の早い段階から専門家の関与を得ることが望ましい。そこで、各種専門領域における非法曹の専門家が、専門委員として、その分野の専門技術的見地から、裁判の全部又は一部に関与し、裁判官をサポートする新たな訴訟手続への参加制度(専門委員制度;具体的には、例えば、争点整理のサポート、和解の担当・補助、専門的知見を要する問題点に関する調査・意見陳述、証拠調べへの関与)について、選任方法や手続への関与の在り方等の点で裁判所の中立・公平性を損なうことのないよう十分配慮しつつ(例えば、手続を透明化するなど)、それぞれの専門性の種類に応じて個別に導入の在り方を検討すべきである。
なお、医事関係事件への導入については、患者側・医師側の双方から見て、公正・中立といえる専門家を確保できるのか、専門委員が裁判官の心証形成過程に不透明な形で影響を及ぼすのではないかなどという問題点が指摘されていることを十分踏まえて検討する必要がある。
(2) 鑑定制度の改善
専門的知見を要する訴訟の充実・迅速化を図るには、伝統的制度である鑑定の活用が不可欠であるが、実務上その事件に適切な鑑定人を見いだし、鑑定を引き受けてもらうことが困難であると言われる。また、鑑定を引き受けてもらえたとしても、鑑定に長期間を要し、それがしばしば訴訟の遅延の原因となっている。そこで、鑑定人名簿の整備、専門家団体との連携、最高裁判所において準備を進めている医事関係訴訟委員会、建築関係訴訟委員会の新設など、鑑定人選任プロセスを円滑化することを含め、鑑定制度を改善すべきである。
(3) 法曹の専門性強化
以上のような専門家の活用に加え、法曹の専門性を強化すべきである。具体的には、弁護士事務所の法人化・共同化、裁判所における専門部・集中部の拡充、法曹養成制度の改革、法曹の継続教育の充実を進めるべきである。
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(1) 総合的な対応強化の必要性
前記のとおり、専門的知見を要する事件について、充実した審理と迅速な手続をもって対処することは、現代の民事司法の重要かつ喫緊の課題である。とりわけ、知的財産権関係訴訟事件の充実・迅速化については、各国とも知的財産をめぐる国際的戦略の一部として位置付け、これを推進するための各種方策を講じているところであり、我が国としても、こうした動向を踏まえ、政府全体として取り組むべき最重要課題の一つとしてこの問題を位置付ける必要がある。
かねて、東京・大阪両地方裁判所は、知的財産権関係事件の専門性にかんがみ、それぞれ専門部を設け、この種の事件の処理に精通した裁判官、技術専門家である裁判所調査官を配置して、専門的処理体制を整備してきたが、近時の知的財産権関係訴訟事件の増加に伴い(地方裁判所民事通常第一審新受件数は平成元年の331件から平成11年には642件に増加)、更にその専門的処理体制を拡充してきた(なお、東京・大阪両高等裁判所においても、専門的処理体制がとられている。)。このような裁判所の体制強化等の結果、平均審理期間も短縮されてきている(地方裁判所民事通常第一審既済事件を見ると、平成元年の29.2か月から平成11年には23.1か月に短縮)。特に、専門的処理体制を拡充してきた東京・大阪両地方裁判所の平均審理期間は、他の地方裁判所に比べて短い上、その短縮傾向は顕著である(東京・大阪において、弁護士の専門化が進んでいるということも一因であろう。)。
また、新民事訴訟法が、知的財産権関係訴訟事件のうち、特許権、実用新案権等に関する事件について、東京・大阪両地方裁判所にいわゆる競合管轄を認めた結果、これらの訴訟の新受事件の大半は両地方裁判所へ提起されるようになっている(特許権については新民事訴訟法施行前の平成9年の66.9%から平成11年で84.3%、12年には87.5%に増加。実用新案権については平成9年の47.1%から平成11年で63.9%、12年には81.4%に増加。ただし、平成12年の数値はいずれも概数)。
特許侵害紛争に関しては、権利侵害に対する救済措置の拡充等のために、平成10、11年に特許法を改正し、侵害額の算定方式の見直し、計算鑑定人制度の導入等の損害賠償制度の改革を図るとともに、侵害行為の立証を容易にするため、文書提出命令の拡充、積極否認の特則の新設等の措置を講じたところである。しかしながら、権利者が相手方の対象物件又は方法を特定し、侵害行為があった旨を立証することは依然として困難であるとの指摘がなされており、更なる証拠収集手続の改善の必要性も指摘されている。
(2) 総合的な対応強化の具体的方策
このような取組を踏まえ、知的財産権関係事件訴訟の更なる充実・迅速化を図るため、訴訟手続に関する制度的整備と併せて、裁判所の執務体制の整備・強化、専門化した裁判官、弁護士等の人材の育成・増強など、知的財産権関係事件に関わる人的基盤の強化等を図っていかなければならない。
具体的には、知的財産権関係訴訟事件の審理期間(平成11年で23.1か月)をおおむね半減することを目標として、民事裁判の充実・迅速化に関して述べた、計画審理の推進、証拠収集手続の拡充等に加え、以下の方策等を実施すべきである。
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近年、社会経済情勢の変化に伴い、企業組織の再編や企業の人事労務管理の個別化の進展等を背景として、個別労使関係事件を中心に、労働関係訴訟事件は急増している(地方裁判所通常第一審新受事件数は平成元年の640件から平成11年の1802件に増加)が、これを大幅に上回る件数の相談が、労政事務所、労働基準監督署等の行政機関に持ち込まれている。
労働関係事件については、雇用・労使関係の制度や慣行等について、各職場、企業、あるいは各種産業の実情に基づき判断することが求められ、これを適正・迅速に処理するためには、科学・技術的専門的知見とは異なる意味で、そのような制度や慣行等についての専門的知見が必要となる。また、労働関係事件は、労働者の生活の基盤に直接の影響を及ぼすものであり、一般の事件に比し、特に迅速な解決が望まれる。ヨーロッパ諸国では、このような点をも踏まえ、労働関係事件についていわゆる労働参審制を含む特別の紛争解決手続を採用しており、実際に相当の機能を果たしている。
我が国においてもこのような労働関係事件の専門性、事件動向等を踏まえ、訴訟手続に限らず、簡易・迅速・柔軟な解決が可能なADRも含め、労働関係事件の適正・迅速な処理のための方策を総合的に検討する必要がある。
まず、労働関係訴訟事件(人証調べを行った事件に限る。)の審理期間をおおむね半減することを目標として、既に述べた、法曹の専門性強化、計画審理の推進、証拠収集手続の拡充等を図るべきである。
ADRについては、民事調停の特別な類型として、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する労働調停(制度設計に当たっては、(i)申立人の住所地での申立てを可能とすること、(ii)訴訟手続との連携を強化すること、(iii)調停の成立を促進するための仕組みを設けること等について、他の紛争解決手段との関係をも考慮し、検討すべきである。)を導入すべきである(なお、新たな個別労使関係事件の処理システムの設置を内容とする「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律案」が第151回国会<平成13年>に提出されているが、これと併せて、労働調停制度を導入し、多様な解決ルートを整備することは意義のあることである。)。
以上のような諸方策を円滑に実施に移すことに加え、労働関係紛争の予防、事件の適正・迅速な解決を実現していくためには、関係機関(関係省庁、裁判所を含む。)の協力・連携が不可欠であり、今後、これを一層強化することが望まれる。
特に、不当労働行為に対する労働委員会の救済命令に対し、使用者が取消しの訴えを提起する場合に生じうるいわゆる「事実上の5審制」の解消など、労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方については、労働委員会の在り方を含め、早急に検討を開始すべきである。また、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度(ヨーロッパ諸国で採用されている労働参審制を含む。)の導入の当否、労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否についても、ADRとの関係整理等も含め、早急に検討を開始すべきである。
(1) 人事訴訟等の家庭裁判所への一本化
離婚など家庭関係事件(人事訴訟等)を家庭裁判所の管轄へ移管し、離婚訴訟等への参与員制度の導入など体制を整備すべきである。 |
家庭関係事件のうち、離婚、婚姻の取消し、子の認知などのいわゆる人事訴訟事件については、訴えの提起に先立ち、原則として、まず、家庭裁判所に家事調停の申立てをし、調停によって紛争の解決を図るべきものとされている。家事調停が不成立に終わり、改めて訴訟によって解決しようとするときは、地方裁判所に訴えを提起すべきものとされている。このため、一つの家庭関係事件の解決が、家庭裁判所の調停手続と地方裁判所の人事訴訟手続とに分断され、手続間の連携も図られていない。
また、家庭関係事件のうち、人事訴訟事件以外の、離婚の際の財産分与、子の監護者の指定・養育費の負担、婚姻費用の分担に関する争いなどは、家事審判手続により家庭裁判所が審理・裁判するものとされている。しかし、それらのうちの一部のものは、離婚訴訟に付随している限り、地方裁判所において審理・裁判することもできるとされるなど、家庭裁判所と地方裁判所の管轄の配分は、著しく煩雑で、利用者たる国民に分かりにくい。
さらに、家庭裁判所には、家庭裁判所調査官が配置され、その専門的知見を活かした調査の結果が家庭裁判所での調停・審判を適切なものとするのに大きく貢献しているが、地方裁判所には、その種の機関がなく人事訴訟の審理・裁判に利用することができない。
このような状況を踏まえ、人事訴訟事件を、親子関係存在確認訴訟など解釈上人事訴訟に属するとされているものを含めて、家庭裁判所の管轄に移管すべきである。また、離婚の原因である事実など人事訴訟の訴えの原因である事実によって生じた損害賠償の請求についても、人事訴訟と併合される限り、家庭裁判所の管轄とすべきである。以上のほか、人事訴訟事件以外の家庭関係事件で、家庭裁判所の管轄に移管すべきものの有無、範囲についても、検討すべきである。
これに伴い、科学調査の専門的知見を有する家庭裁判所調査官等を拡充するとともに、一般国民の良識をより反映させる観点から、家庭裁判所における参与員制度を拡充し、離婚訴訟等の審理に関与し、証人等に対する質問、審理の結果に対する意見の陳述を認めるなど所要の態勢を整備すべきである。また、人事訴訟事件に適用される人事訴訟手続法(明治31年法律第13号)につき、その口語・平仮名化を含め全面的に見直すべきである。
(2) 調停委員、司法委員、参与員への多様な人材の確保等
民事・家事調停委員、司法委員及び参与員について、その選任方法の見直しを含め、年齢、職業、知識経験等において多様な人材を確保するための方策を講じるべきである。 |
簡易裁判所における司法委員制度・民事調停制度、家庭裁判所における家事調停制度・参与員制度は、訴訟・家事審判・調停手続に法曹以外の国民が関与しうるという意味で、国民が司法へ参加する制度の一つとして位置付けることができる。
これらの制度を更に充実させ、幅広く国民各層から適任者を得る見地から、委員の選任方法の見直しを含め、年齢、職業、知識経験等において多様な人材を確保するための方策を講じるべきである。調停委員に関しては、地方裁判所の民事調停委員についても同様である。
(3) 簡易裁判所の管轄拡大、少額訴訟手続の上限の大幅引上げ
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簡易裁判所の事物管轄は、訴額が90万円を超えない事件とされており、また、より簡易迅速な手続である少額訴訟手続の対象となるのは、そのうち訴額が30万円以下の金銭請求事件とされている。
簡易裁判所の事物管轄を定める訴額の上限が90万円と定められたのは、昭和57年の裁判所法改正によるが、軽微な事件を簡易迅速に解決することを目的とし、国民により身近な簡易裁判所の特質を十分に活かし、裁判所へのアクセスを容易にするとの観点から、簡易裁判所の事物管轄については、経済指標の動向等を考慮しつつ、その訴額の上限を引き上げるべきである。
また、新民事訴訟法によって創設された少額訴訟手続は、利用者から高い評価を受けており、国民がこの手続をより多く利用しうるようにする見地から、少額訴訟手続の対象事件の範囲については、それを定める訴額の上限を大幅に引き上げるべきである。
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金銭債権に基づく強制執行について直接強制のみを認めている現行法の下では、債権額が少ない場合に、強制執行によると、その債権額に不相応な時間と費用を要し、「費用倒れ」となる。また、金銭債権についての勝訴判決等を得ても、債務者がどのような財産を有するかが分からず、債務者が故意に所有財産を隠匿する等のために強制執行を行うことができない場合もある。不動産執行妨害の関係では、平成8年、平成10年の民事執行法の改正等により、濫用的な短期賃貸借に基づく不法占有者は、競売手続上、より的確かつ迅速に排除することが可能となっている上、平成11年11月24日の最高裁判所大法廷判決が、抵当権の効力として、抵当不動産の不法占有者に対する妨害排除請求権の代位行使を認めるなど、抵当権者及び買受人がとりうる手段は広がっている。しかしながら、依然として短期賃貸借の濫用と認められる事例や、いわゆる占有屋による執行妨害の事例などが指摘されている。
このような問題点等を踏まえ、権利実現の実効性を確保するという見地から、債務者の履行促進のための方策、債務者の財産を把握するための方策、占有屋等による不動産執行妨害への対策など民事執行制度を改善するための新たな方策を導入すべきである。
また、家事事件に関する審判・調停により定められた義務(扶養料等)など少額定期給付債務についても、現行法上の方策によっては、その履行を確保するのに十分でないとの指摘がある。このような指摘を踏まえ、権利実現の実効性確保という見地から、家事審判・調停により定められた義務など少額定期給付債務の履行確保のための制度を整備すべきである。
さらに、民事執行事件の適正・迅速な処理のためには、裁判官及び民事執行に携わる裁判所関係職員の大幅増員等裁判所の人的体制を充実・強化すべきである。
(1) 利用者の費用負担の軽減
ア 提訴手数料
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国民が裁判所に訴えを提起するに際しては、提訴手数料(申立手数料)を納付しなければならないが、その手数料の額は、訴訟の目的の価額(訴額)に応じて順次加算して算出するいわゆるスライド制によって定められている。
現行のスライド制の下における提訴手数料は、案件によってはかなり高額になることもあることから、利用者の費用負担の軽減を図るため、提訴手数料については、スライド制を維持しつつ、必要な範囲でその低額化を行うべきである。また、簡易裁判所の少額訴訟事件の提訴手数料については、国民がより利用しやすくするため、定額制の導入を含め検討を加え、必要な措置を講じるべきである。
イ 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い
勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである。
この制度の設計に当たっては、上記の見地と反対に不当に訴えの提起を萎縮させないよう、これを一律に導入することなく、このような敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等について検討すべきである。 |
訴訟当事者がその依頼した弁護士に支払う弁護士報酬は、敗訴当事者負担の適用対象となる訴訟費用に原則として含まれず、訴訟の勝敗に関わりなく、各自負担とされている(なお、判例により、不法な訴えに応ずるため弁護士に委任した場合、及び不法行為に基づく損害賠償請求権の行使のため弁護士に委任して訴えを提起することを余儀なくされた場合には、勝訴当事者が支払った弁護士報酬は、相当と認められる額の範囲で、損害の一部として相手方に請求できるものとされている。)。
弁護士報酬の一部を敗訴当事者に負担させることが訴訟の活用を促す場合もあれば、逆に不当にこれを萎縮させる場合もある。弁護士報酬の敗訴者負担制度は、一律に導入すべきではない。このような基本的認識に基づき、勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである。ただし、同時に、敗訴者に負担させる金額は、勝訴者が実際に弁護士に支払った報酬額と同額ではなく、そのうち訴訟に必要と認められる一部に相当しかつ当事者に予測可能な合理的な金額とすべきである。また、敗訴者負担制度が不当に訴えの提起を萎縮させるおそれのある場合には、このような敗訴者負担を適用すべきではないと考えられる。このような見地から、このような敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等について検討すべきである。なお、この検討に当たっては、訴訟救助、法律扶助などの他の制度との関連や弁護士報酬の負担の在り方に関する国民の理解にも十分配慮すべきである。
ウ 訴訟費用額確定手続
訴訟費用額確定手続を簡素化すべきである。 |
民事訴訟に要した費用のうち、法が訴訟費用と定める範囲のものは、原則として訴訟の敗訴当事者が負担すべきものとされている。したがって、勝訴当事者は、その支出した訴訟費用の償還を敗訴当事者に請求しうるはずであるが、その手続が煩雑なため、実際にその請求をする例は少なく、結局、各自負担となっている。
このことは、結果として、勝訴当事者に不当に費用の負担を課していることになると考えられることから、訴訟費用額確定手続を簡素化すべきである。
エ 訴訟費用保険
訴訟費用保険の開発・普及に期待する。 |
いわゆる訴訟費用保険は、個人等があらかじめ保険料を払い込み、実際に法的紛争に巻き込まれた場合に、弁護士報酬を含む訴訟の費用等を保険金によって填補するものである。我が国では、主として自動車保険等の賠償責任保険の領域である程度普及しているにとどまるが、近時、日本弁護士連合会は、損害保険会社による訴訟費用保険の商品開発・普及等に一定の協力を行ってきたところである。
国民の司法へのアクセスを容易にするための方策として、訴訟費用保険が普及することは有意義であり、引き続き、このような保険の開発・普及が進むことを期待する。
(2) 民事法律扶助の拡充
民事法律扶助制度については、対象事件・対象者の範囲、利用者負担の在り方、運営主体の在り方等について、更に総合的・体系的な検討を加えた上で、一層充実すべきである。 |
民事法律扶助制度の拡充については、民事法律扶助法(平成12年法律第55号)が、同年10月1日より施行されたことにより、法律上の根拠が与えられ、また国の責務として、その適正な運営を確保し、その健全な発展を図るべきものとされた。
しかし、欧米諸国と比べれば、民事法律扶助事業の対象事件の範囲、対象者の範囲等は限定的であり、予算規模も小さく、憲法第32条の「裁判を受ける権利」の実質的保障という観点からは、なお不十分と考えられる。また、刑事司法における被疑者・被告人の公的弁護制度の在り方(後記第2「刑事司法制度の改革」の2.参照)との関連をも踏まえて、運営主体等についても総合的に検討する必要がある。
このような視点から、民事法律扶助制度については、対象事件・対象者の範囲、利用者負担の在り方、運営主体の在り方等について更に総合的・体系的な検討を加えた上で、一層充実すべきである。
(3) 裁判所の利便性の向上
ア 司法の利用相談窓口・情報提供
司法の利用相談窓口(アクセス・ポイント)を裁判所、弁護士会、地方公共団体等において充実させ、ホームページ等を活用したネットワーク化の促進により、各種の裁判外紛争解決手段(ADR)、法律相談、法律扶助制度を含む司法に関する総合的な情報提供を強化すべきである。 |
現在、裁判や裁判外の紛争解決手段(ADR)など紛争解決手続に関する総合的情報をワン・ストップで取得することができる相談窓口(アクセス・ポイント)が十分に用意されていない。
このため、裁判所、弁護士会、地方公共団体、ADR機関などにおいては、現在、既に相談窓口を設置している場合には、その一層の充実に努めるべきであり、また、そのような窓口のない場合には、その早急な設置を図るべきである。また、ホームページ等を活用し、各窓口のネットワーク化・情報の共有を図るべきである。
具体策として、例えば、裁判所においては、自らの受付相談機能を拡充し、相談窓口において、裁判手続はもとより弁護士会の法律相談、法律扶助の仕組みのほか、ADRを含む司法に関する総合的な情報の提供を行うとともに、国民が地方公共団体など裁判所外の相談窓口に行っても、裁判所の受付相談に関する情報、裁判手続に関する情報を入手できるように所要の措置をとるべきである。弁護士会においても、同様の措置を講じるべきである。さらに、地方公共団体においても、消費生活センターなどの相談窓口で、上記のような司法に関する総合的な情報を提供し、あるいは弁護士会と提携して弁護士の紹介を行うなどの方策を実施することが期待される。
イ 裁判所等への情報通信技術(IT)の導入
裁判所の訴訟手続(訴訟関係書類の電子的提出・交換を含む。)、事務処理、情報提供などの各側面での情報通信技術(IT)の積極的導入を推進するため、最高裁判所は、情報通信技術を導入するための計画を策定・公表すべきである。 |
各裁判所においては、各裁判官・職員へのパソコンの配備、裁判部単位でのネットワークによる期日進行管理情報の共有や、不動産執行・破産・調停・支払督促などの分野における事件処理システムの開発・導入等を進めてきた。また、民事通常事件の受付から終局までを対象とする民事裁判事務処理システムの導入が開始されている。さらに、新民事訴訟法により、民事訴訟手続におけるテレビ会議システムの利用などの途が開かれ、活用されている。
しかしながら、現在の情報通信技術(IT)の発展は目覚ましく、手続の効率化、迅速化及び利用者に対するサービスの増大という見地から、訴訟手続等における情報通信技術の積極的利用を一層推進する必要がある。このため、裁判所の訴訟手続、事務処理、情報提供などの各側面において、データベース、インターネット等の情報通信技術を更に積極的に導入し、活用すべきであり、インターネットによる訴訟関係書類の提出・交換などについても検討すべきである。このような見地から、最高裁判所は、今後の技術革新にも柔軟かつ積極的に対応していくよう、情報通信技術を導入するための計画を策定・更新し、公表していくべきである。
ウ 夜間・休日サービス
現在、既に実施されている裁判所の夜間サービスについて、国民へ周知した上、この夜間サービスの拡大及び休日サービスの導入を積極的に検討すべきである。 |
裁判所における職務執行は、現在、令状事務等を除いて、法の定める休日には行われず、また、平日においても、一般に通常の勤務時間内において行われている。ただ、大都市部などの一部の家庭裁判所では、午後5時以後においても、各地の実情に応じて家事審判、家事調停、家事相談、事件の受付を行っており、また、東京、大阪等の簡易裁判所では、同様に、民事調停、受付相談を行っている。
このため、国民の裁判所へのアクセスを拡充する見地から、現行の夜間サービスについて、各裁判所において、国民への周知を積極的に行うべきである。さらに、夜間サービスを他の裁判所にまで拡大すること、訴訟事件についても夜間開廷、休日開廷を実施することについては、今後の利用動向等も見つつ、国民のニーズの程度などを把握した上で、関係者の負担(夜間に出頭を求められる相手方当事者や裁判所の職員の執務態勢など)に配慮しつつ、裁判所へのアクセス拡充の見地から積極的に検討すべきである。
エ 裁判所の配置
裁判所の配置については、人口、交通事情、事件数等を考慮し、不断の見直しを加えていくべきである。 |
現在の簡易裁判所や地方・家庭裁判所支部の配置は、昭和62年の法改正及び平成元年の最高裁判所規則の改正により、統合・新設等の見直しが行われたものである。
これらの見直しは、将来の人口及びその動態、事件数の動向、管内面積、交通事情の変化などを考慮に入れて実施されたものであるが、今後とも、裁判所の利便性を確保する見地から、裁判所の配置について、上記の要素等を考慮しつつ、不断の見直しを加えていくべきである。
(4) 被害救済の実効化
ア 損害賠償額の認定
損害賠償の額の認定については、全体的に見れば低額に過ぎるとの批判があることから、必要な制度上の検討を行うとともに、過去のいわゆる相場にとらわれることなく、引き続き事案に即した認定の在り方が望まれる。 |
我が国における不法行為に基づく損害賠償制度は、他人の違法な行為によって損害を受けた者がいる場合に、その被害者に生じた現実の損害(精神的損害を含む。)を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものと考えられている。
損害賠償の額の認定については、全体的に見れば低額に過ぎるとの批判があることから、必要な制度上の検討を行うとともに、過去のいわゆる相場にとらわれることなく、引き続き事案に即した認定の在り方が望まれる(なお、この点に関連し、新民事訴訟法において、損害額を立証することが極めて困難であるときには、裁判所の裁量により相当な損害額を認定することができるとして、当事者の立証負担の軽減を図ったところである。)。
ところで、米国など一部の国においては、特に悪性の強い行為をした加害者に対しては、将来における同様の行為を抑止する趣旨で、被害者の損害の補てんを超える賠償金の支払を命ずることができるとする懲罰的損害賠償制度を認めている。しかしながら、懲罰的損害賠償制度については、民事責任と刑事責任を峻別する我が国の法体系と適合しない等の指摘もあることから、将来の課題として引き続き検討すべきである。
イ 少額多数被害への対応
団体訴権の導入、導入する場合の適格団体の決め方等については、法分野ごとに、個別の実体法において、その法律の目的やその法律が保護しようとしている権利、利益等を考慮して検討されるべきである。 |
一般に、被害者が多数に及ぶが、各被害者の損害額は少額にとどまる事件においては、各被害者が個別に訴えを提起することは経済的に採算がとれないことが多い。これら少額多数被害について、訴えの提起を容易にする等のため、ドイツでは、不正競争防止法、約款法などで、被害者等の利益を保護することを目的とする団体にその違法行為の差止請求訴訟を提起する固有の資格を与える団体訴権が認められている。米国では、多数の被害者の損害の賠償を一括して請求するクラス・アクション制度が設けられている。
我が国における団体訴権の導入、導入する場合の適格団体の決め方等については、法分野ごとに、個別の実体法において、その法律の目的やその法律が保護しようとしている権利、利益等を考慮して検討されるべきである。
なお、クラス・アクション制度に関しては、新民事訴訟法において、選定当事者の制度を拡充し、クラス・アクションに類似する機能を果たしうるように改めたところであり、選定当事者制度の運用状況を見定めつつ、将来の課題として引き続き検討すべきである。
(1) ADRの拡充・活性化の意義
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社会で生起する紛争には、その大小、種類などにおいて様々なものがあるが、事案の性格や当事者の事情に応じた多様な紛争解決方法を整備することは、司法を国民に近いものとし、紛争の深刻化を防止する上で大きな意義を有する。裁判外の紛争解決手段(ADR)は、厳格な裁判手続と異なり、利用者の自主性を活かした解決、プライバシーや営業秘密を保持した非公開での解決、簡易・迅速で廉価な解決、多様な分野の専門家の知見を活かしたきめ細かな解決、法律上の権利義務の存否にとどまらない実情に沿った解決を図ることなど、柔軟な対応も可能である。
我が国におけるADRとしては、裁判所による調停手続、また裁判所外では、行政機関、民間団体、弁護士会などの運営主体による仲裁、調停、あっせん、相談など多様な形態が存在する。しかしながら、現状においては、一部の機関を除いて、必ずしも十分に機能しているとは言えない。一方、経済活動のグローバル化・情報化に伴い、国際商事紛争を迅速に解決する仕組みの整備について国際連合等において検討が進められ、また、諸外国においては、競争的環境の下で民間ビジネス型のADRが発展するなど新たな動向を示しており、我が国としても早急な取組が求められている。
こうした状況を踏まえ、国民がより利用しやすい司法を実現するためには、まず司法の中核たる裁判機能について、これを拡充し、国民にとって一層利用しやすくしていくことに格別の努力を傾注すべきことは当然であるが、これに加えて、ADRが、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図っていくべきである。
各ADRがそれぞれの特長を活かしつつ充実・発展していくことを促進するため、関係機関等の連携を強化し、共通的な制度基盤の整備を推進すべきである。
(2) ADRに関する関係機関等の連携強化
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ADRの拡充・活性化については、個々のADRの性格に応じた多面的な検討が必要であるが、情報提供の強化、担い手の確保、財政基盤の確立、制度基盤の整備など、各ADRにおおむね共通する横断的な課題も多い。このため、ADRの拡充・活性化に向けた裁判所や関係機関、関係省庁等の連携を促進するため、関係諸機関による連絡協議会や関係省庁等の連絡会議等の体制を整備すべきである。
運用面での具体的な連携として、まず、ADRに関する情報提供面での連携を強化することが、利用者の利便の向上、ADRに対する認知度・信頼性の向上の見地から重要である。このため、訴訟、ADRを含む紛争解決に関する総合的な相談窓口を充実させるとともに、インターネット上にADRの総合窓口サイト(ポータル・サイト)を整備するなど情報通信技術を活用した連携を図り、手続、機関に関する情報を始めとする各種情報をワン・ストップで国民に提供できるようにすべきである。
さらに、担い手の確保面でも連携を図り、ADRの質的充実に活かしていくことが重要である。このような見地から、担い手、解決事例、解決手法等の各種情報について、プライバシーや秘密保持にも配慮しつつ、裁判所を含む各機関が積極的に開示した上で、ポータル・サイトの活用や人材の相互交流等により、関係機関間での情報共有を促進していくべきである。その上で、ADRの担い手に必要な知識・技能に関する研修等を充実させるべきである。
(3) ADRに関する共通的な制度基盤の整備
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ADRの共通的な制度基盤に関し、まず、仲裁法制については、現在も明治23年制定の法律が、新民事訴訟法制定の際の改正作業から分離され、「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」としてそのまま残されており、国際連合国際商取引法委員会における検討等の国際的動向を見つつ、仲裁法制を早期に整備すべきである。その際、経済活動のグローバル化や国境を越えた電子商取引の急速な拡大に伴い、国際的な民商事紛争を迅速に解決することが極めて重要となっていることから、国際商事仲裁に関する法制をも含めて検討すべきである。
さらに、総合的なADRの制度基盤を整備する見地から、ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律(いわゆる「ADR基本法」など)の制定をも視野に入れ、必要な方策を検討すべきである。その際、例えば、ADRの利用を促進する見地から、時効中断(又は停止)効の付与、執行力の付与、法律扶助の対象化を可能とするための具体的要件を検討すべきである。また、ADRと裁判所との手続的連携を促進する見地から、ADRの全部又は一部について裁判手続を利用したり、あるいはその逆の移行を円滑にするための手続整備等を具体的に検討すべきである。
担い手の確保に関する制度の整備としては、隣接法律専門職種など非法曹の専門家のADRにおける活用を図るため、弁護士法第72条の見直しの一環として、職種ごとに実態を踏まえてその在り方を個別的に検討し、こうした業務が取扱い可能であることを法制上明確に位置付けるべきである。弁護士法第72条については、少なくとも、規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保するため、隣接法律専門職種の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係も含め、その規制内容を何らかの形で明確化すべきである。
行政事件訴訟法の見直しを含めた行政に対する司法審査の在り方に関して、「法の支配」の基本理念の下に、司法及び行政の役割を見据えた総合的多角的な検討を行う必要がある。政府において、本格的な検討を早急に開始すべきである。 |
(1) 行政訴訟制度の見直しの必要性
裁判所は、統治構造の中で三権の一翼を担い、司法権の行使を通じて、抑制・均衡システムの中で行政作用をチェックすることにより、国民の権利・自由の保障を実現するという重要な役割を有している。
しかしながら、当審議会の議論の中で、現行の行政訴訟制度に関しては、次のような指摘があった。すなわち、(i)現行の行政訴訟制度に内在している問題点として、行政庁に対する信頼と司法権の限界性の認識を基礎とした行政庁の優越的地位(政策的判断への司法の不介入、行政庁の第一次判断権の尊重、取消訴訟中心主義等)が認められており、その帰結として、抗告訴訟が制度本来の機能を十分に果たしえていない、(ii)現行の行政訴訟制度では対応が困難な新たな問題点として、行政需要の増大と行政作用の多様化に伴い、伝統的な取消訴訟の枠組みでは必ずしも対処しきれないタイプの紛争(行政計画の取消訴訟等)が出現し、これらに対する実体法及び手続法それぞれのレベルでの手当が必要である、(iii)行政事件の専門性に対応した裁判所の体制に関する問題点もある。
21世紀の我が国社会においては司法の果たすべき役割が一層重要となることを踏まえると、司法の行政に対するチェック機能を強化する方向で行政訴訟制度を見直すことは不可欠である。
このような認識に基づき、行政訴訟制度の見直しに関する当審議会における議論の中で挙げられた具体的な課題は多岐にわたった。
まず、行政訴訟手続に関する諸課題である。例えば、現行の行政事件訴訟法上の個別課題として、原告適格、処分性、訴えの利益、出訴期間、管轄、執行不停止原則等のほか、義務付け訴訟、予防的不作為訴訟、行政立法取消訴訟等の新たな訴訟類型の導入の可否も問題となる。さらに、民事訴訟をモデルとした対応とは一線を画した固有の「行政訴訟法(仮称)」制定の要否も視野に入れることが考えられる。このほか、個別法上の課題(不服審査前置主義、処分性、原告適格等)の整理・検討も併せて必要となろう。
また、行政訴訟の基盤整備上の諸課題への対応も重要である。例えば、行政訴訟に対応するための専門的裁判機関(行政裁判所ないし行政事件専門部、巡回裁判所等)の整備、行政事件を取り扱う法曹(裁判官・弁護士)の専門性の強化方策等について、本格的な検討が必要である。また、法科大学院における行政法教育の充実も求められる。
(2) 司法及び行政の役割を見据えた総合的多角的な検討
この問題に関する具体的な解決策の検討は、事柄の性質上、司法制度改革の視点と行政改革の動向との整合性を確保しつつ行うことが不可欠であり、また、行政手続法、情報公開法、行政不服審査法等の関連諸法制との関係、国家賠償制度との適切な役割分担等に十分留意する必要がある。さらに、行政委員会の準司法的機能の充実との関係にも配慮しなければならない。そもそも、司法による行政審査の在り方を考えるには、統治構造の中における行政及び司法の役割・機能とその限界、さらには、三権相互の関係を十分に吟味することが不可欠である。国民の権利救済を実効化する見地から、行政作用のチェック機能の在り方とその強化のための方策に関しては、行政過程全体を見通しながら、「法の支配」の基本理念の下に、司法と行政それぞれの役割を見据えた総合的多角的な検討が求められるゆえんである。
政府においては、行政事件訴訟法の見直しを含めた行政に対する司法審査の在り方に関して、本格的な検討を早急に開始すべきである。
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(1) 新たな準備手続の創設
審理の充実・迅速化のためには、早期に事件の争点を明確化することが不可欠であるが、第一回公判期日前の争点整理に関する現行法令の規定は、当事者の打合せを促す程度のものにとどまり、実効性に乏しいことなどから、必ずしも十分に機能していない。
また、検察官の取調べ請求予定外の証拠の被告人・弁護人側への開示については、これまで、最高裁判例の基準に従った運用がなされてきたが、その基準の内容や開示のためのルールが必ずしも明確でなかったこともあって、開示の要否をめぐって紛糾することがあり、円滑な審理を阻害する要因の一つになっていた。
そうした現状を踏まえ、公判の充実・迅速化の観点から、次のような方向で具体的な方策を講じるべきである。
(2) 連日的開廷の確保等
刑事裁判の本来の目的からすれば、公判は可能な限り連日、継続して開廷することが原則と言うべきである。このような連日的開廷は、訴訟手続への国民参加の制度を新たに導入する場合、ほとんど不可欠の前提となる。現在は、刑事訴訟規則において同旨の規定があるものの、実効性に欠けることから、例えば、法律上このことを明示することをも含め、連日的開廷を可能とするための関連諸制度の整備を行うべきである。
これに加えて、第一審の審理期間を法定化すべきだとの意見もあるが、その要否については、連日的開廷との関係をも考慮しつつ、更に検討すべきである。
(3) 直接主義・口頭主義の実質化(公判の活性化)
伝聞法則(他人から伝え聞いたことを内容とする証言を証拠とすることや公判外でなされた話を記録した文書などを公判での証言に代えて用いることを原則として禁止するもの)等の運用の現状については異なった捉え方があるが、運用を誤った結果として書証の取調べが裁判の中心を占めるようなことがあれば、公判審理における直接主義・口頭主義(裁判所自らが、公判廷で証拠や証人を直接調べて評価し、当事者の口頭弁論に基づいて裁判をするという原則)を後退させ、伝聞法則の形骸化を招くこととなりかねない。
この問題の核心は、争いのある事件につき、直接主義・口頭主義の精神を踏まえ公判廷での審理をどれだけ充実・活性化できるかというところにある。特に、訴訟手続への新たな国民参加の制度を導入することとの関係で、後述する裁判員の実質的な関与を担保するためにも、こうした要請は一層強いものとなる。争いのある事件につき、集中審理の下で、明確化された争点をめぐって当事者が活発に主張・立証を行い、それに基づいて裁判官(及び裁判員の参加する訴訟手続においては裁判員)が心証を得ていくというのが本来の公判の姿であり、それを念頭に置き、関連諸制度の在り方を検討しなければならない。
(4) 裁判所の訴訟指揮の実効性の確保
充実しかつ円滑な審理の実現のためには、裁判所と訴訟当事者(検察官、弁護人)が、それぞれ、訴訟運営能力、訴訟活動の質の向上を図りながら、基本的な信頼関係の下に、互いに協力し支え合っていく姿勢を持つ必要があることは当然である。
それを前提として、裁判所が、充実・円滑な訴訟運営の見地から、必要な場合に、適切かつ実効性のある形で訴訟指揮を行いうるようにすることは重要であり、それを担保するための具体的措置の在り方を検討すべきである。
(5) 弁護体制等の整備
連日的開廷による充実かつ集中した審理を実現するためには、以下のとおり、弁護人を含む関係当事者の人的体制を整備すべきである。
(6) その他(捜査・公判手続の合理化、効率化ないし重点化のために考えられる方策)
争いのある事件とない事件を区別し、捜査・公判手続の合理化・効率化を図ることは、公判の充実・迅速化(メリハリの効いた審理)の点で意義が認められる。その具体的方策として、英米において採用されているような有罪答弁制度(アレインメント)を導入することには、被告人本人に事件を処分させることの当否や量刑手続の在り方との関係等の問題点があるとの指摘もあり、現行制度(略式請求手続、簡易公判手続)の見直しをも視野に入れつつ、更に検討すべきである。
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(1) 公的費用による被疑者・被告人の弁護制度(公的弁護制度)
ア 導入の意義、必要性
刑事司法の公正さの確保という点からは、被疑者・被告人の権利を適切に保護することが肝要であるが、そのために格別重要な意味を持つのが、弁護人の援助を受ける権利を実効的に担保することである。しかるに、資力が十分でないなどの理由で自ら弁護人を依頼することのできない者については、現行法では、起訴されて被告人となった以後に国選弁護人を付すことが認められているにとどまる。被疑者については、弁護士会の当番弁護士制度や法律扶助協会の任意の扶助事業によって、その空白を埋めるべく努力されてきたが、そのような形での対処には自ずと限界がある(関連して、少年事件の弁護士付添人についても、ほぼ同様の状況にある。)。これに加え、充実しかつ迅速な刑事裁判の実現を可能にする上でも、刑事弁護体制の整備が重要となる。このような観点から、少年事件をも視野に入れつつ、被疑者に対する公的弁護制度を導入し、被疑者段階と被告人段階とを通じ一貫した弁護体制を整備すべきである。
イ 導入のための具体的制度の在り方
以下の内容を考え方の基本として、具体的な制度の在り方とその条件につき幅広く検討した上、被疑者段階と被告人段階とを通じ一貫した弁護体制を整備すべきである。
(2) 少年審判手続における公費による少年の付添人制度(公的付添人制度)
少年法の改正(平成12年法律第142号)により、検察官が少年審判の手続に関与する場合における少年に対する国選付添人の制度が導入されたが、それ以外の場合の公的付添人制度についても、少年事件の特殊性や公的弁護制度の対象に少年の被疑者をも含める場合のバランスなどを考慮すると、積極的な検討が必要だと考えられる。その検討に当たっては、少年審判手続の構造や家庭裁判所調査官との役割分担、付添人の役割なども考慮される必要がある。
検察審査会の一定の議決に対し法的拘束力を付与する制度を導入すべきである。 |
検察官の起訴独占、検察官への訴追裁量権の付与は、全国的に統一かつ公平な公訴権の行使を確保し、また個々の被疑者の事情に応じた具体的妥当性のある処置を可能にするものであり、今後、国民の期待・信頼に応えうるよう、一層適正な運用が期待される。
同時に、公訴権行使の在り方に民意をより直截に反映させていくことも重要である。検察審査会の制度は、まさに公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図るために設けられたものであり(検察審査員は選挙権者の中から抽選により選定される。)、国民の司法参加の制度の一つとして重要な意義を有しており、実際にも、これまで、種々の問題点を指摘されながらも、相当の機能を果たしてきた。このような検察審査会制度の機能を更に拡充すべく、被疑者に対する適正手続の保障にも留意しつつ、検察審査会の組織、権限、手続の在り方や起訴、訴訟追行の主体等について十分な検討を行った上で、検察審査会の一定の議決に対し法的拘束力を付与する制度を導入すべきである。
(1) 新たな時代に対応しうる捜査・公判手続の在り方
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ア 刑事免責制度等の新たな捜査手法の導入
(ア) 刑事免責制度の導入の是非
刑事免責制度により供述を確保する捜査方法の導入は、組織的犯罪等への有効な対処方策であると認められる(組織の実態、資金源等についての供述を得る有効な手段となりうる。)。一方で、我が国の国民の法感情、公正感に合致するかなどの問題もあり、直ちに結論を導くことは困難であって、多角的な見地から検討すべき課題である。
(イ) 参考人の協力確保のための方策、参考人保護のための方策
刑事司法にとって参考人の協力が欠かせないことは論をまたず、今後の社会の変化の中で参考人の協力を確保するための方策が一層重要となる。現行法上の起訴前証人尋問制度の拡充という方法も視野に入れつつ、種々の観点から十分に検討すべきである。
他方で、参考人の協力を確保する前提として、協力した参考人には適切な保護が与えられることが必要であり、参考人保護のための方策も併せて検討すべきである。
イ 国際捜査・司法共助制度の拡充強化
前述のとおり犯罪の国際化等が今後一層進展し、各国が協調して犯罪の予防及び撲滅へ効果的・効率的に取り組んでいく必要性がつとに指摘されていることを踏まえ、今後、適正手続の保障の下、国際捜査・司法共助制度を一層拡充・強化すべきである。
(2) 被疑者・被告人の身柄拘束に関連する問題
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ア 被疑者・被告人の身柄拘束に関して指摘されている問題点への対応
被疑者・被告人の身柄拘束に関しては、代用監獄の在り方、起訴前保釈制度、被疑者と弁護人の接見交通の在り方、令状審査、保釈請求に対する判断の在り方など種々の問題の指摘がある(国際人権規約委員会の勧告等)。そうした指摘をどのように受け止めるかについては、現状についての評価の相違等に起因して様々な考え方がありうることから、直ちに具体的結論を得ることは困難である。しかしながら、我が国の刑事司法が適正手続の保障の下での事案の真相解明を使命とする以上、被疑者・被告人の不適正な身柄拘束が防止・是正されなければならないことは当然である。それらの問題指摘の背景にある原因等を慎重に吟味しながら、今後とも、刑事手続全体の中で、制度面、運用面の双方において改革、改善のための検討を続けるべきである。
イ 被疑者の取調べの適正さを確保するための措置について
被疑者の取調べは、それが適正に行われる限りは、真実の発見に寄与するとともに、実際に罪を犯した被疑者が真に自己の犯行を悔いて自白する場合には、その改善更生に役立つものである。
しかしながら、他方において、被疑者の自白を過度に重視する余り、その取調べが適正さを欠く事例が実際に存在することも否定できない。我が国の刑事司法が適正手続の保障の下での事案の真相解明を使命とする以上、被疑者の取調べが適正を欠くことがあってはならず、それを防止するための方策は当然必要となる。
そこで、被疑者の取調べ過程・状況について、取調べの都度、書面による記録を義務付ける制度を導入すべきである。制度導入に当たっては、記録の正確性、客観性を担保するために必要な措置(例えば、記録すべき事項を定めて定式的な形で記録させた上、その記録を後日の変更・修正を防止しうるような適切な管理体制の下で保管させるなどの方法が考えられる。)を講じなければならない。
これに加え、取調べ状況の録音、録画や弁護人の取調べへの立会いが必要だとする意見もあるが、刑事手続全体における被疑者の取調べの機能、役割との関係で慎重な配慮が必要であること等の理由から、現段階でそのような方策の導入の是非について結論を得るのは困難であり、将来的な検討課題ととらえるべきである。
なお、こうした方策のいかんにかかわらず、前述の被疑者に対する公的弁護制度が確立され、被疑者と弁護人との接見が十分なされることにより、取調べの適正さの確保に資することになるという点は重要であり、そのような意味からも、その充実が図られるべきである。
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我が国の刑事司法は、犯罪者が社会復帰を果たし、再び犯罪を犯さないようにその改善更生を図っていく上でも、重要な役割を果たしている。それは、当該犯罪者自身の福利に役立つのみならず、社会の平穏な秩序を維持し、国民生活の安全を確保することにも寄与するものである。今後の社会においても、こうした役割は更に重要性を増すものと考えられ、犯罪者の矯正処遇、更生保護に関わる制度及び人的体制の充実には十分な配慮を払うべきである。
更生保護においては、保護司が、保護観察官とともに、重要な役割を果たしてきたが、民間ボランティアとして無報酬で更生保護関係の事務に従事するという点で、刑事司法への国民参加の制度としての意味をも有している。しかし、保護司の高齢化など適任者を確保することの困難さ等が指摘されており、この制度を更に充実させるため、実費弁償の在り方を含め、国民の幅広い層から保護司の適任者を確保するための方策を検討すべきである。
一方、刑事司法においては、従来、被害者の権利保護という視点が乏しかった面があるが、近時、この問題に対する社会的関心が大きな高まりを見せ、被害者やその遺族に対する一層の配慮と保護の必要性が改めて認識され、そのための諸施策が講じられつつある(犯罪被害者対策関係省庁連絡会議の設置、いわゆる犯罪被害者保護に関する二法の成立など)。刑事手続の中で被害者等の保護・救済に十分な配慮をしていくことは、刑事司法に対する国民の信頼を確保する上でも重要であり、今後も一層の充実を図るため、必要な検討を行うべきである。この問題については、刑事司法の分野のみにとどまらず、被害者等への精神的、経済的ケアをも含めて、幅広い社会的な支援体制を整備することが必要である。
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民事司法において、充実した審理と迅速な手続をもって対処することは、国際化が進む現代において一層重要かつ喫緊の課題となっている。とりわけ、知的財産権関係訴訟事件の充実・迅速化については、各国とも知的財産をめぐる国際的戦略の一部として位置付け、これを推進するための各種方策を講じているところであり、我が国としても、こうした動向を踏まえ、政府全体として取り組むべき最重要課題の一つとしてこの問題を位置付ける必要がある。
さらに、経済活動のグローバル化や国境を越えた電子商取引の急速な拡大に伴い、国際的な民商事紛争を迅速に解決することが極めて重要となっている。このため、国際連合国際商取引法委員会における検討等の国際的動向を見ながら、国際商事仲裁を含む仲裁法制を早期に整備すべきである。
国際的な犯罪の増加に対応するため、国際捜査・司法共助制度については、適正手続の保障の下、今後一層拡充・強化すべきである。 |
刑事司法においても、犯罪の国際化等が今後一層進展し、各国が協調して犯罪の予防及び撲滅へ効果的・効率的に取り組んでいく必要性がつとに指摘されている。今後、適正手続の保障の下、国際捜査・司法共助制度を一層拡充・強化すべきである。
発展途上国に対する法整備支援を推進すべきである。 |
発展途上国が経済発展を遂げ、民主主義に基づく豊かで安定した社会を築き上げるには、経済社会活動の基礎となる法整備が不可欠である。
我が国は、諸外国から近代的な法体系を受け継ぎつつ、国情に即した法制度及び運用を確立してきた経験を活かし、民商事法や刑事司法の分野において、アジア等の発展途上国の研修生の受入れ、専門家の派遣、現地セミナーの実施等による法整備支援を実施してきた。こうした支援への取組は、我が国が国際社会の一員としての主体的な役割を果たす上で重要であるとともに、経済社会のグローバル化が進む中で、円滑な民間経済活動の進展にも資するものである。
このため、発展途上国に対する法整備支援については、政府として、あるいは、弁護士、弁護士会としても、適切な連携を図りつつ、引き続き積極的にこれを推進していくべきである。
また、司法制度等に関する情報を一層積極的に海外へ提供し、共有していくべきである。
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個人の活動領域においても、また、企業の活動領域においても、今後、国際的な法律問題が量的に増大し、かつ、内容的にも複雑・多様化することは容易に予想される。このため、弁護士が、国際化時代の法的需要を十分満たすことのできる質の高い法律サービスを提供できるようにすべきである。
このような見地から、弁護士人口の大幅増員、弁護士事務所の執務態勢の強化、弁護士の国際交流の推進、外国法事務弁護士等との提携・協働、法曹養成段階における国際化の要請への配慮を進める等により、弁護士の国際化への対応を抜本的に強化すべきである。
外国法事務弁護士等に関する制度及びその運用の見直しについては、国際的議論もにらみつつ、利用者の視点から臨機かつ十分に検討すべきである。具体的には、日本弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働を積極的に推進する見地から、特定共同事業(現行制度下では、日本弁護士と外国法事務弁護士が、法令の定める一定の要件の下で、渉外的要素を有する法律事務を行うことを目的とする共同の事業とされている。)の要件緩和等を行うべきである。外国法事務弁護士による日本弁護士の雇用禁止等の見直しは、国際的議論もにらみつつ、将来の課題として引き続き検討すべきである。