意見書目次

IV 国民的基盤の確立




 21世紀の我が国社会において、国民は、これまでの統治客体意識に伴う国家への過度の依存体質から脱却し、自らのうちに公共意識を醸成し、公共的事柄に対する能動的姿勢を強めていくことが求められている。国民主権に基づく統治構造の一翼を担う司法の分野においても、国民が、自律性と責任感を持ちつつ、広くその運用全般について、多様な形で参加することが期待される。国民が法曹とともに司法の運営に広く関与するようになれば、司法と国民との接地面が太く広くなり、司法に対する国民の理解が進み、司法ないし裁判の過程が国民に分かりやすくなる。その結果、司法の国民的基盤はより強固なものとして確立されることになる。
 国民が司法に参加する場面において、法律専門家である法曹と参加する国民は、相互の信頼関係の下で、十分かつ適切なコミュニケーションをとりながら協働していくことが求められる。司法制度を支える法曹の在り方を見直し、国民の期待・信頼に応えうる法曹を育て、確保していくことが必要である。国民の側も積極的に法曹との豊かなコミュニケーションの場を形成・維持するように努め、国民のための司法を国民自らが実現し支えていくことが求められる。
 そもそも、司法がその機能を十全に果たすためには、国民からの幅広い支持と理解を得て、その国民的基盤が確立されることが不可欠であり、国民の司法参加の拡充による国民的基盤の確立は、今般の司法制度改革の三本柱の一つとして位置付けることができる。
 また、司法参加の場面で求められる上記のような法曹と国民との十分かつ適切なコミュニケーションを実現するためには、司法を一般の国民に分かりやすくすること、司法教育を充実させること、さらに、司法に関する情報公開を推進し、司法の国民に対する透明性を向上させることなどの条件整備が必要である。

第1 国民的基盤の確立(国民の司法参加)

 我が国において、昭和3年から同18年までの間、刑事訴訟事件の一部について陪審制度(ただし、陪審の答申は裁判所を拘束しない。)が実施されていた。現行の司法参加に関する制度を見ると、調停委員、司法委員、検察審査会等の制度があり、これまで相当の機能を果たしてきたものの、司法全体としては、国民がその運営に対し参加しうる場面はかなり限定的である上、参加の場面で国民に与えられている権限もまた限定的であると言える(なお、裁判所法第3条第3項参照)。司法への国民の主体的参加を得て、司法の国民的基盤をより強固なものとして確立するため、以下のとおり、これら現行の参加制度の改革を含め、裁判手続、裁判官の選任過程並びに裁判所、検察庁及び弁護士会の運営など様々な場面における適切な参加の仕組みを整備する必要がある。

1. 刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入

刑事訴訟手続において、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度を導入すべきである。

 訴訟手続は司法の中核をなすものであり、訴訟手続への一般の国民の参加は、司法の国民的基盤を確立するための方策として、とりわけ重要な意義を有する。 すなわち、一般の国民が、裁判の過程に参加し、裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになることによって、国民の司法に対する理解・支持が深まり、司法はより強固な国民的基盤を得ることができるようになる。このような見地から、差し当たり刑事訴訟手続について、下記(1)ないし(4)を基本的な方向性とし、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度を導入すべきである(参加する国民を仮に「裁判員」と称する。)。
 具体的な制度設計においては、憲法(第六章司法に関する規定、裁判を受ける権利、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利、適正手続の保障など)の趣旨を十分に踏まえ、これに適合したものとしなければならないことは言うまでもない。
 また、この制度が所期の機能を発揮していくためには、国民の積極的な支持と協力が不可欠となるので、制度設計の段階から、国民に対し十分な情報を提供し、その意見に十分耳を傾ける必要がある。実施段階でも、制度の意義・趣旨の周知徹底、司法教育の充実など制度を円滑に導入するための環境整備を行わなければならない。実施後においても、当初の制度を固定的にとらえることなく、その運用状況を不断に検証し、国民的基盤の確立の重要性を踏まえ、幅広い観点から、必要に応じ、柔軟に制度の見直しを行っていくべきである。
 なお、刑事訴訟手続以外の裁判手続への導入については、刑事訴訟手続への新制度の導入、運用の状況を見ながら、将来的な課題として検討すべきである。

 (1) 基本的構造

  • 裁判官と裁判員は、共に評議し、有罪・無罪の決定及び刑の量定を行うこととすべきである。裁判員は、評議において、裁判官と基本的に対等の権限を有し、審理の過程においては、証人等に対する質問権など適当な権限を有することとすべきである。
  • 一つの裁判体を構成する裁判官と裁判員の数及び評決の方法については、裁判員の主体的・実質的関与を確保するという要請、評議の実効性を確保するという要請等を踏まえ、この制度の対象となる事件の重大性の程度や国民にとっての意義・負担等をも考慮の上、適切な在り方を定めるべきである。
  • ただし、少なくとも裁判官又は裁判員のみによる多数で被告人に不利な決定をすることはできないようにすべきである。

  ア 裁判官と裁判員との役割分担の在り方
 裁判員が関与する意義は、裁判官と裁判員が責任を分担しつつ、法律専門家である裁判官と非法律家である裁判員とが相互のコミュニケーションを通じてそれぞれの知識・経験を共有し、その成果を裁判内容に反映させるという点にある。このような意義は、犯罪事実の認定ないし有罪・無罪の判定の場面にとどまらず、それと同様に国民の関心が高い刑の量定の場面にも妥当するので、いずれにも、裁判員が関与し、健全な社会常識を反映させることとすべきである。また、裁判官と裁判員との相互コミュニケーションによる知識・経験の共有というプロセスに意義があるのであるから、裁判官と裁判員は、共に評議し、有罪・無罪の決定及び刑の量定を行うこととすべきである(ただし、法律問題、訴訟手続上の問題等専門性・技術性が高いと思われる事項に裁判員が関与するか否かについては、更なる検討が必要である。)。
 裁判員が裁判官とともに責任を分担しつつ裁判内容の決定に主体的・実質的に関与することを確保するため、裁判員は、評議においても、裁判官と基本的に対等の権限を有するものとするほか、審理の過程において、証人等に対する質問権など適当な権限を与えられるべきである。

  イ 裁判体の構成・評決の方法
 一つの裁判体を構成する裁判官と裁判員の数及び評決の方法については、相互に関連するので、併せて検討する必要があるが、裁判員の主体的・実質的関与を確保するという要請、評議の実効性を確保するという要請等を踏まえ、この制度の対象となる事件の重大性の程度や国民にとっての意義・負担等をも考慮の上、適切な在り方を定めるべきである。
 すなわち、裁判員の主体的・実質的関与を確保するという要請からは、裁判員の意見が評決結果に影響を与えうるようにする必要がある。この関係で、裁判員の数も一つの重要な要素ではあるが、公判審理の進め方や評決方法などとも関連するので、これらと合わせて、裁判員の主体的・実質的関与の確保を図るべきである。
 評議の実効性を確保するという要請からは、裁判体の規模を、実質的内容を伴った結論を導き出すために、裁判官及び裁判員の全員が十分な議論を尽くすことができる程度の員数とする必要がある。その数がどれ程であるかについては、評議の進め方や評決方法とも関連するので、これらの点をも合わせて検討すべきである。
 ただし、裁判官と裁判員とが責任を分担しつつ協働して裁判内容を決定するという制度の趣旨、裁判員の主体的・実質的関与を確保するという要請を考慮すると、少なくとも、裁判官又は裁判員のみによる多数で被告人に不利な決定(有罪の判定など)をすることはできないようにすべきである。

 (2) 裁判員の選任方法・裁判員の義務等

  • 裁判員の選任については、選挙人名簿から無作為抽出した者を母体とし、更に公平な裁判所による公正な裁判を確保できるような適切な仕組みを設けるべきである。裁判員は、具体的事件ごとに選任され、一つの事件を判決に至るまで担当することとすべきである。
  • 裁判所から召喚を受けた裁判員候補者は、出頭義務を負うこととすべきである。

  ア 裁判員の選任方法
 新たな参加制度においては、原則として国民すべてが等しく、司法に参加する機会を与えられ、かつその責任を負うべきであるから、裁判員の選任については、広く国民一般の間から公平に選任が行われるよう、選挙人名簿から無作為抽出した者を母体とすべきである。その上で、裁判員として事件を担当するにふさわしい者を選任するため、公平な裁判所による公正な裁判を確保できるような適切な仕組み(欠格・除斥事由や忌避制度等)を設けるべきである。できるだけ多くの国民が参加する機会を与えられ、裁判員となる者の負担を過当なものにしないため、裁判員は、具体的事件ごとに選任され、一つの事件を判決に至るまで担当した上、それをもって解任されるものとすべきである。

  イ 裁判員の義務等
 裁判員選任の実効性を確保するためには、裁判所から召喚を受けた裁判員候補者は出頭義務を負うこととすべきである。ただし、健康上の理由などやむを得ないと認められる事情により出頭できない場合や、過去の一定期間内に裁判員に選任された場合など一定の場合には、その義務を免除されるものとすべきである。
 裁判員が、裁判官と同様、評議の内容等職務上知ることのできた秘密に関する守秘義務を負うべきことや、裁判員及び裁判員候補者が、それぞれ相当額の旅費・手当等の支給を受けられるようにすべきことは当然である。その他、裁判員の職務の公正さの確保や、裁判員の安全保持などのためにとるべき措置についても更に検討する必要がある。

 (3) 対象となる刑事事件
  • 対象事件は、法定刑の重い重大犯罪とすべきである。
  • 公訴事実に対する被告人の認否による区別は設けないこととすべきである。
  • 被告人が裁判官と裁判員で構成される裁判体による裁判を辞退することは、認めないこととすべきである。

 新たな参加制度の円滑な導入のためには、刑事訴訟事件の一部の事件から始めることが適当である。その範囲については、国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい「法定刑の重い重大犯罪」とすべきである。「法定刑の重い重大犯罪」の範囲に関しては、例えば、法定合議事件、あるいは死刑又は無期刑に当たる事件とすることなども考えられるが、事件数等をも考慮の上、なお十分な検討が必要である。
 有罪・無罪の判定にとどまらず、刑の量定にも裁判員が関与することに意義が認められるのであるから、公訴事実に対する被告人の認否による区別を設けないこととすべきである。
 新たな参加制度は、個々の被告人のためというよりは、国民一般にとって、あるいは裁判制度として重要な意義を有するが故に導入するものである以上、訴訟の一方当事者である被告人が、裁判員の参加した裁判体による裁判を受けることを辞退して裁判官のみによる裁判を選択することは、認めないこととすべきである。
 なお、例えば、裁判員に対する危害や脅迫的な働きかけのおそれが考えられるような組織的犯罪やテロ事件など、特殊な事件について、例外的に対象事件から除外できるような仕組みを設けることも検討の余地がある。

 (4) 公判手続・上訴等
  • 裁判員の主体的・実質的関与を確保するため、公判手続等について、運用上様々な工夫をするとともに、必要に応じ、関係法令の整備を行うべきである。
  • 判決書の内容は、裁判官のみによる裁判の場合と基本的に同様のものとすべきである。
  • 当事者からの事実誤認又は量刑不当を理由とする上訴(控訴)を認めるべきである。

  ア 公判手続
 裁判員が訴訟手続に参加する場合でも、裁判官である裁判長が訴訟手続を主宰し、公判で訴訟指揮を行うことに変わりはない。
 裁判員にとって審理を分かりやすいものとするため、公判は可能な限り連日、継続して開廷し、真の争点に集中した充実した審理が行われることが、何よりも必要である。そのためには、適切な範囲の証拠開示を前提にした争点整理に基づいて有効な審理計画を立てうるような公判準備手続の整備や一つの刑事事件に専従できるような弁護体制の整備が不可欠となる。非法律家である裁判員が公判での証拠調べを通じて十分に心証を形成できるようにするために、口頭主義・直接主義の実質化を図ることも必要となる。これらの要請は、刑事裁判手続一般について基本的に妥当するものではあるが(前記Ⅱ「国民の期待に応える司法制度」の第2の1.参照)、裁判員が参加する手続については、裁判員の主体的・実質的関与を確保する上で、殊のほか重要となる。そのため、裁判官のみによる裁判の場合への波及の可能性をも視野に置きながら、運用上様々な工夫をするとともに、必要に応じ、関係法令の整備を行うべきである。

  イ 判決書
 判決の結論の正当性をそれ自体として示し、また、当事者及び国民一般に説明してその納得や信頼を得るとともに、上訴による救済を可能ないし容易にするため、判決書には実質的な理由が示されることが必要である。裁判員が関与する場合でも、判決書の内容は、裁判官のみによる裁判の場合と基本的に同様のものとし、評議の結果に基づき裁判官が作成することとすべきである。

  ウ 上訴
 裁判員が関与する場合にも誤判や刑の量定についての判断の誤りのおそれがあることを考えると、裁判官のみによる判決の場合と同様、有罪・無罪の判定や量刑についても当事者の控訴を認めるべきである。控訴審の裁判体の構成、審理方式等については、第一審の裁判体の構成等との関係を考慮しながら、更に検討を行う必要がある。

2. その他の分野における参加制度の拡充

国民の司法参加を拡充するため、以下の方策を実施すべきである。
  • 専門委員制度の導入、調停委員、司法委員及び参与員制度の拡充
  • 検察審査会制度の拡充、保護司制度の拡充
  • 裁判官の指名過程に国民の意思を反映させる機関の新設
  • 裁判所、検察庁及び弁護士会の運営について国民の意思をより反映させる仕組みの整備

 司法の国民的基盤をより強固なものとして確立するためには、前記のとおり、司法の様々な場面における適切な参加の仕組みを整備する必要がある。上記刑事訴訟手続への新たな参加制度以外の諸方策の要旨は以下のとおりである(その詳細はそれぞれ関係箇所に記載したとおり)。

 (1) 民事司法制度
 各種専門領域における非法曹の専門家が、専門委員として、その分野の専門技術的見地から、裁判の全部又は一部に関与し、裁判官をサポートする専門委員制度について、選任方法や手続への関与の在り方等の点で裁判所の中立・公平性を損なうことのないよう十分配慮しつつ、それぞれの専門性の種類に応じて、導入の在り方を検討すべきである(前記Ⅱ「国民の期待に応える司法制度」の第1の2.(1)参照)。
 民事・家事調停委員、司法委員及び参与員について、その選任方法の見直しを含め、年齢、職業、知識、経験等において多様な人材を確保するための方策を講じるべきである(同第1の5.(2)参照)。
 家庭関係事件の家庭裁判所への移管に伴い、参与員制度を拡充すべきである(同第1の5.(1)参照)。

 (2) 刑事司法制度
 検察審査会の一定の議決に対し法的拘束力を付与する制度を導入すべきである(同第2の3.参照)。
 国民の幅広い層から保護司の適任者を確保するための方策を検討すべきである(同第2の5.参照)。

 (3) 裁判官制度
 最高裁判所が下級裁判所の裁判官として任命されるべき者を指名する過程に国民の意思を反映させるため、最高裁判所に、その諮問を受け、指名されるべき適任者を選考し、その結果を意見として述べる機関を設置すべきである(前記Ⅲ「司法制度を支える法曹の在り方」の第5の2.参照)。

 (4) その他
 裁判所、検察庁及び弁護士会の運営について国民の意思をより反映させる仕組みを整備すべきである(同第3の6.、第4の2.、第5の4.参照)。

第2 国民的基盤の確立のための条件整備

1. 分かりやすい司法の実現

基本法制の改正の早期実現に期待するとともに、司法の運用もまた国民の視点に立った分かりやすいものとする配慮がなされることが望まれる。

 我が国の基本的な法令の中には、民法の一部や商法など、依然として片仮名文語体や現代社会に適応しない用語を交えたもの、枝番号や条文引用の方法が著しく煩雑で不親切なものなどがあり、法律専門家以外には容易に理解できないものとなっている。分かりやすい司法を実現するためには、司法判断の基礎となる法令(ルール)の内容自体を、国民にとって分かりやすいものとしなければならない。とりわけ基本的な法令は、広く国民や内外の利用者にとって、裁判規範としてのみならず行為規範としても、可能な限り分かりやすく、一般にも参照が容易で、予測可能性が高く、内外の社会経済情勢に即した適切なものとすべきである。国民の家庭内紛争事件に関わる人事訴訟手続法についても、また同様である。
 現在、法務省を中心にいわゆる基本法制を始めとする諸法令の改正のための法案作成作業が進められているところであるが、こうした基本法制の整備は、国会・行政を含め国を挙げて取り組むべき課題であり、当審議会としても、基本法制の改正が早期に実現されることを期待する。
 こうした法令の内容自体を分かりやすくすることに加え、司法制度及びその運用を一般の国民に分かりやすくしていくことも必要である。特に、文章が難解であるとの批判がなされる判決書については、これまでも、裁判所において分かりやすくするための工夫がなされてきたが、引き続き、国民の視点に立った検討が望まれる。また、法廷における関係者間のやり取りについても、傍聴をしている一般の国民にも理解できるような配慮がなされることが望まれる。

2. 司法教育の充実

学校教育等における司法に関する学習機会を充実させることが望まれる。このため、教育関係者や法曹関係者が積極的役割を果たすことが求められる。

 法や司法制度は、本来は、法律専門家のみならず国民全体が支えるべきものである上、今後は、司法参加の拡充に伴い、国民が司法の様々な領域に能動的に参加しそのための負担を受け入れるという意識改革も求められる。
 そのためには、学校教育を始めとする様々な場面において、司法の仕組みや働きに関する国民の学習機会の充実を図ることが望まれる。そこでは、教育関係者のみならず、法曹関係者も積極的な役割を果たすことが求められる。

3. 司法に関する情報公開の推進

裁判所、検察庁、弁護士会における情報公開・提供を推進すべきである。

 最高裁判所、法務省及び弁護士会(日本弁護士連合会、単位弁護士会)においては、従前から、それぞれホームページを開設するなどして、各種情報を提供しているところである。さらに、本年4月1日、行政庁(検察庁を含む。)の情報公開制度が発足したことに伴い、裁判所においても、その保有する司法行政文書について、内部規定を定め、これに準じた情報の公開を行うこととした。また、日本弁護士連合会においても、業務、財務、懲戒手続、専門分野その他弁護士に関わる情報等に関する情報公開・提供の拡充について検討しているところである。
 既述のように、司法の様々な場面において国民の参加を拡充する前提としても、司法の国民に対する透明性を向上させ、説明責任を明確化することが不可欠である。このような見地から、裁判所、検察庁、弁護士会においては、情報公開・提供を引き続き推進すべきである。

判例情報をプライバシー等へ配慮しつつインターネット・ホームページ等を活用して全面的に公開し提供すべきである。

 裁判所においては、従来、先例的価値のある判例情報については、最高裁判所及び高等裁判所の判例集のほか、知的財産権などの特定の分野についての判例集の編集刊行を行ってきた。また、民間の判例雑誌、データベース等によっても、判例情報の提供がなされている。個々の事件の判決については、民事訴訟法上誰でも閲覧が可能であり、利害関係人については謄写も可能である。
 さらに、判例情報への国民の迅速かつ容易なアクセスを可能にするため、最高裁判所では、平成9年にホームページを開設し、現在、(i)最近の主要な最高裁判所の判決全文、(ii)東京高等・地方裁判所及び大阪高等・地方裁判所を中心とした下級裁判所の知的財産権関係訴訟の判決全文を速報していることに加え、(iii)過去の下級裁判所の知的財産権関係訴訟に関する裁判例をデータベースにより公開している。
 判例情報の提供により、裁判所による紛争解決の先例・基準を広く国民に示すことは、司法の国民に対する透明性を向上させ、説明責任を明確化するというにとどまらず、紛争の予防・早期解決にも資するものである。
 裁判所は、判例情報、訴訟の進行に関する情報を含む司法全般に関する情報の公開を推進していく一環として、特に判例情報については、先例的価値の乏しいものを除き、プライバシー等へ配慮しつつインターネット・ホームページ等を活用して全面的に公開し提供していくべきである。