司法制度改革審議会

福岡・地方公聴会の概要

司法制度改革審議会事務局



1. 日時・場所

  平成12年6月17日(土)午前9時30分から午前12時ころまで
  福岡国際ホール

2. 出席委員

  佐藤会長、北村委員、髙木委員、藤田委員、水原委員

3. 意見発表者

  上野朗子、久能恒子、島袋鉄男、水元佑美、山本茂、吉田昭和

4. 公聴会の概要

 (1) 佐藤会長あいさつ
 (2) 意見発表(要旨)

○ 上野朗子(主婦)

 中学生の娘と一緒に裁判を傍聴したが、難解な専門用語と単調な法廷で、裁かれている人が内容を正確に理解しているのか疑問に感じた。その後、過去に陪審制が存在していたことを知り、模擬陪審裁判に応募して参加した。その時の経験では、素人だってやればできるという充実感があった。陪審制は、自分さえよければという利己主義がはびこる現代人に、我々がやらなくてはという協調性を養うのに最適のものであり、陪審に参加することにより、司法の民主主義を確立できると思う。21世紀には陪審制を復活させて欲しい。

○ 久能恒子(医師)

 医療裁判の問題点は、長期間を要することと、不公平であることである。長期間を要する原因の一つは鑑定人不足であるが、なぜ引き受けないかを考える必要がある。多忙というだけではなく、ミスだからこそ同じ医師としてそれを指摘するのが難しいということもある。患者側が密室で行われた医療内容を、裁判所の名のもとに行われた鑑定を覆すことは困難である。鑑定人の在り方を現状のままにして、「鑑定人協議会」を安易に設置することは甚だ危険であり、専門参審制度も同様に問題がある。あえて専門参審制度を導入するなら第三者による評価システムを設けるべきである。患者側は、損害賠償の問題ではなく、真実を知りたいという思いから、裁判を起こしている。裁判には限界があるので、このような患者側の思いを満たす訴訟以外の方策を検討すべきである。

○ 島袋鉄男(大学教授)

 法科大学院は、高度専門職業人養成に特化した大学院の一つとして位置づけられるが、大学内の他学部に対して開かれたものであると同時に、他大学に対しても開かれたものであるべきである。現行の司法試験制度の弊害は、司法試験に特有な現象ではない。日本の社会では、試験制度自体が、単線型、硬直的であることから、試験に合格すること自体が目的化され、結果重視型となり、過程が無視される。法科大学院は、教育プロセス重視の複線化されたものとなるよう制度設計され、できるだけ数多く、全国各地に設置されるべきである。設置基準としては、法曹としての必要最小限度の能力を養成するのに必要な要件が全国統一的なものとして明確にされるべきであり、何を付加するかは、地域のニーズを考慮するなど、各法科大学院によって違ってよい。設置認可の過程に、利用者である国民や地域の声が反映される道が開かれているべきであるし、新たに設置される道が閉ざされてしまわないような工夫も必要である。

○ 水元佑美(高校生)

 高校の社会研究部の一員として、司法改革について、昨年から研究を始め、裁判所と国民の間の距離を強く感じた。校内で行ったアンケート調査結果によると、国民の司法に対する関心が予想以上に低かった。また、日本の刑事裁判の無罪率が0.1%と諸外国にも例を見ないほどの低さであることを知り、冤罪が多数含まれているのではないかと思った。この点は、裁判官と検察官との結び付きが強いこと、裁判官が過度に自白を信じることに問題があると思う。校内アンケートの結果によると、陪審制度を導入すべきという意見は多数ではなかったが、このような問題点を解決し、真実発見、民主主義、自由主義という観点から、陪審制度を導入すべきである。社会常識のある市民12名による裁判の方が有罪に慣れた現在の裁判官による裁判より優れていると思う。裁判官が陪審員に対し適切に情報提供をすることにより、法律知識のない市民でも正しい判断は可能である。

○ 山本茂(弁護士)

 キャリア裁判官としての定年退官後、弁護士業務に従事している。裁かれる側に立ち、国民の権利を守る仕事を通じて、裁く立場にいるときには思い及ばなかった極めて貴重なものを得ることができた。裁判官には多くの人生経験が必要とされ、判事補に採用されてから定年まで常に裁く立場でいる現行の裁判官任用制度には問題があり、法曹一元制度は望ましいものであると思うようになった。実際には、判事補制度を直ちに廃止することは不可能であるから、一定期間は判事補制度を存続し、多数の優秀な法曹の養成のために、法曹三者が大学と連携して知恵を絞る必要がある。法曹三者、特に最高裁と日弁連が、協力し合い、国民の理解と協力を得て法曹一元を実現して欲しい。また、司法参加についても、刑事の重大事件に陪審制度を導入するとともに、民事事件について司法委員制度を拡充するなどの方策を検討すべきである。

○ 吉田昭和(会社社長)

 中小企業に携わる者は数としては司法のユーザーの多数派であるが、発言力は弱い。これからの司法は、従来の裁く側の仕組みから利用する側の仕組みへと変更していく必要がある。具体的には、まず、キャリア裁判官制度を改め、生活者としての明るさやたくましさを持った弁護士経験者から裁判官を任用すべきである。次に、利用しやすさという観点から、裁判官・弁護士の数を増やすとともに、時間外・休日の裁判所サービスを行うべきである。さらに、市民の法に対する意識の向上や公正さ・透明さが増すと思われる陪審制度の導入についても積極的に検討すべきである。

(3) 意見発表者への委員からの主な質問

○ 大学法学部の教育が不十分であったという反省がないまま、法学部の延長線上に法科大学院を設置してうまく機能するのか。
(回答:これまで法学部が法曹養成において十分役割を果たしてこなかったのは事実であり、司法試験制度にも弊害が生じた。これを認めた上で、その状態を改めるべく、現在の法科大学院構想が主張されている。)

○ 法科大学院を設置した後の司法試験はどのような形を考えているのか。現在働きながら法曹を目指しているような者に対してはどのような配慮をするのか。
(回答:司法試験は選抜試験ではなく70~80%が合格する資格試験とする。法科大学院に夜間コースを設置し、働きながら勉強できるようにする。)

○ 陪審制度を導入した場合、国民は仕事を休むなどして自分の時間を割いて裁判所へ出頭する義務を負うことになるが、我が国の国民はこのような義務を負担する覚悟があると思うか。
(回答①:陪審制度についての認識を広めていけば義務感もわいてくると思う。)
(回答②:国民の間にも社会参加の意識が高まっており、陪審制度を導入する土壌はでき上がっている。義務感を高める上で啓もう活動は必要である。)
(回答③:義務を課す前提として、陪審員としての義務を果たすために休暇を取れるようにするなどの環境整備が必要であろう。)

○ 弁護士任官の数が少ない現状からすると、法曹一元制度を実施しようにも、弁護士から必要な数の裁判官任官者を確保することはできないのではないか。
(回答:弁護士がキャリアシステムの中に入っていくことに不安を感じるのはもっともであり、現在、弁護士任官者数が少ないのはやむを得ない。法曹一元制度を採用するには、弁護士から任官することを名誉、義務と感じるような気風を醸成していく必要がある。弁護士事務所の共同化等の体制整備も必要である。)

○ 裁判所が困っているのは、鑑定人をどのようにして確保するかという点にあり、鑑定内容についてはそれほど問題はないのではないか。
(回答:裁判所が鑑定を依頼するのは権威を持った人であり、そのような人は現場の事故への認識に欠け、公正な鑑定は期待できない。確かに公正な鑑定が行われている例もあるが、それは大変な労力のいる作業である。そもそも鑑定を行わなくても裁判をできる場合があるのではないか。)

○ 刑事裁判の有罪率が高過ぎるという点については、検察官が事件を絞って起訴していることなどを考えると、その数字から直ちに誤判が含まれているとは言えないのではないか。
(回答:いくら有罪の可能性が高いものだけを起訴しているとしても、有罪率99.9%は高過ぎる。) 

○ 我が国では裁判が始まる前に詳細な犯罪報道がなされているが、陪審員の事実認定に対する影響をどのように考えるか。
(回答:何らかの報道規制が必要ではないか。)

○ 陪審裁判では判決に理由が付されないことについて、国民は納得するか。特に無罪判決の場合、被害者は納得しないのではないか。
(回答:この点についてはさらに研究してみたいが、現在の分かりにくい判決理由に比べれば、陪審裁判になり裁判官が陪審員に対し丁寧に説明することなどから傍聴人にとっても分かりやすい裁判になる方がよいのではないか。)

○ 医療過誤裁判等に関する専門参審については、条件付賛成という趣旨か。
(回答:公正公平な医師の意見が反映するような仕組みであれば賛成という意味で条件付賛成である。)

(4) 会場からの主な意見

○ 行政の分野では市民参加の制度が多数存在し、これについて消極的な評価も聞かない。司法の分野でも同様に市民参加を拡充すべきである。

○ 全国に576万人いる障害者にもアクセスしやすい司法制度、司法参加制度を作って欲しい。

○ 専門性の高い分野の訴訟が機能していない。専門的裁判官を養成すべきである。

以 上