司法制度改革審議会

地方公聴会(第1回)開催結果

-大阪・地方公聴会の概要-

司法制度改革審議会事務局


1. 日時・場所
平成12年3月18日(土)午前9時30分から午前12時ころまで
大阪弁護士会館6階大ホール    
 
2. 出席委員
佐藤幸治(会長)、石井宏治、高木 剛、中坊公平、藤田耕三、水原敏博
 
3. 意見発表者
大東美智子、坂本允子、高津秀夫、丸山敦裕、水田宏、山田悦子

4. 公聴会の概要

(1)佐藤会長あいさつ

(2)意見発表(要旨)

○ 大東美智子(主婦)
 市民の市民による市民のための裁判、国民の司法参加を実現するために、陪審制を復活すべきである。陪審制は日本の国民性に合わないという見方もあるが、裁判フォーラムでの自分の模擬陪審裁判等の経験からも、一般の人々は熱心に参加し、また、事実認定においても、色々な経験を有する人々が様々な角度から意見を言うことにより真実が見えてくるのであって、法律知識は不要である。なお、参審制については一般の人が職業裁判官の中に混じって意見を言えるのかどうか疑問を感じる。

○ 坂本允子(全大阪消費者団体連絡会事務局長)
 今までの司法は「知らしむべからず、よらしむべし」であり、国民に身近で利用しやすいものではなかった。市民による市民のための市民の司法を実現してもらいたい。また、国際化、自由化、規制緩和の流れの中で、システムや効率性重視だけの改革にしてはならず、消費者や弱者保護の視点を大切にし、そのための制度の強化を図ってもらいたい。具体的には、法曹一元の実現、陪審制度の復活、弁護士の地域偏在の解消、法律扶助制度の充実、隣接士業の役割の拡充などが実現されることを希望する。

○ 高津秀夫(公務員)
 公害被害にさらされている住民の一人として、この種事件の裁判が立証が困難で長期間を要することや費用が高額にわたることなどから、裁判による解決の手段を選択できずに困っている。公害被害者が泣き寝入りせずにすむように、より安価でより迅速でより勝訴を見込める公害裁判制度を確立してもらいたい。

○ 丸山敦裕(大学院生)
 現在の法曹養成制度は、司法試験の受験に伴う様々な問題(予備校依存、論点中心の学習により、豊かな人間性や法律知識に限られない学問的素養、基礎的教養の習得や社会的経験を積む機会の欠如など)から、限界に来ている。このような状況を打破し良質な法曹を作るため法科大学院構想を実現させるべきである。法科大学院においては、近年の法曹への需要の高まりからして外国語の習得も重視されるべきである。また、法律実務と学説の融合という見地などから、この法科大学院は法曹のみならず、研究者等を含めた広い意味での法律家の養成を行うべきである。

○ 水田宏(民事調停委員)
 国民が利用しやすい司法制度を実現するため、弁護士へのアクセスを容易にする態勢の整備(相談費用の低廉化、相談窓口の拡大、広報、法律扶助等による予算の裏付け)、司法委員の増員と手当の増額による少額訴訟制度の充実、民事調停委員の増強と手当の増額による民事調停制度の拡充を図るべきである。国民の司法制度への関与に関しては、陪審制には、真実発見の後退等の懸念があることから、賛成できないが、一定の限度において民間の判断を裁判に反映させるため参審制の導入は望ましいと考える。理念先行より地に足をつけた改革を期待する。

○ 山田悦子(主婦)
 甲山事件の長期裁判の結果、無罪判決を受けた者として、陪審制度と法曹一元の導入を訴えたい。自分を支えてくれた市民、弁護士の助けによって無罪を勝ち取ることができたが、その25年の歳月の中で、市民が「法の精神」、「正義」を享受し感得していることを学んだ。冤罪を生み出して止まない今の司法、疲弊した司法を変えるため、「法の精神」を持つ市民による裁判、陪審制度をとるべきであり、また、市民に近い立場にある弁護士が裁判官となる仕組みである法曹一元を実現してもらいたい。

(3)意見発表者への委員からの主な質問

○ 陪審制は本当に日本の国民性に合わないのか。
(回答:国民の一人としての感覚からいって陪審制は合わないのではないかとの考えを持っている。それよりも基本的に裁判官に任せて、そこに民意を反映させていくことの方が望ましいと思う。)

○ 理想的な形を求めて改革を行う必要があると思うが、その点についてどのように考えるか。
(回答①:やはり陪審制度の導入である。法の精神は市民が享受している。)
(回答②:市民参加という見地から陪審制度は必要と考える。改革は是非理念先行でやってほしい。)
(回答③:どのような制度ができようともそれを支えるのは人であり、制度を担う人材の育成、すなわち法曹養成制度を重視してもらいたい。)

○ 米国では陪審員への外部からの脅迫等の圧力が問題視されており、陪審制度にも種々問題があるようだが、そのような圧力を防止する方策について何かアイディアはあるか。
(回答:その点については警察に任せることはできない。裁判所によりそのような防止策がとられるべきと考える。)

○ 法曹には相手方と同じ目線でものを考えること、弱者の気持ちが理解できることが大切であると考えるが、大学教育における現状如何。
(回答:大学における人格形成に関しては、法曹を目指すとそのような機会が失われるというのが現状である。弱者の気持ちを理解できるという能力ということになると、それを養うのは社会経験であり色々な人々との交流であろうと思われる。)

○ 調停委員、司法委員として自己の意見を裁判官にきちんと言うことはできるか。
(回答:調停委員、司法委員は、その専門分野や経験などから、裁判官に自信を持って意見を述べられていると思う。そのことが可能となるよう、調停委員、司法委員は、それぞれの適性や知識等に配慮の上、配置されている。裁判官とも事前の準備・打合せにより意思疎通が図られている。) 

○ 大学側の自己批判のないロースクール論は危険なのではないか。司法試験と大学を結ぶブリッジという捉え方ではロースクールの予備校化を招くだけのような気もする。
(回答:たしかにそのような懸念もあるだろう。法科大学院において重要なのは、研究者、企業人も含めた広い意味での法律家が実務と大学との間を行き来し交流することだろうと思う。大いに門戸を広げ、その中で良い人材を育成していくことを考えるべき。)

(4) 会場からの主な意見

○ 市民的感覚を有した裁判官をつくること、市民のための裁判を実現することが不可欠であり、法曹一元、陪審制を具体的な制度として結実させてもらいたい。

○ 新潟で起きた少女監禁事件からも思うことだが、このような事件においては特に被害者への十分な配慮がなされなければならない。

以  上