司法制度改革審議会

司法制度改革審議会
札幌・公聴会の概要

司法制度改革審議会事務局



1 日時・場所
平成12年7月15日(土)午前9時30分~午後0時10分
ホテルライフォート札幌・2階「ライフォートホール」

2 出席委員
竹下守夫会長代理、井上正仁、曽野綾子、髙木 剛、藤田耕三、山本 勝、吉岡初子

3 意見発表者
大河内憲司、金澤 誠、小室正範、渋谷絢子、庄 尚子、西谷博明

4 公聴会の概要
(1)竹下会長代理あいさつ
(2)意見発表(要旨)

○ 大河内憲司(医師)
 官官接待に関する訴訟が長期化しており、裁判官が次々に交替している。長期化は市民の関心を風化させ、地方行財政の早期是正を困難にしてしまう。遅くとも1年半ないし2年で判決が出るよう審理計画を徹底してほしい。裁判官の大幅増員も不可欠。
 現在の裁判官は純粋培養された一種のキャリア官僚である。医師は患者を診断し治療しながら日々成長していく。裁判官も、市民が納得する判決を得るため、一般常識、価値観等を備えた総合的判断力が求められる。
 弁護士も身近でなく、不信感が強まっているように感じる。日常的に地域住民と密着した活動が求められる。
 判決も最高裁判例を尊重する傾向が強く、行政の裁量や公務性を広く認め過ぎる。常識に富む裁判官が増えてこそ、司法が市民に身近なものとなる。その意味で法曹一元には大賛成で、是非実現してほしい。

○ 金澤 誠(大学生)
 1年間札幌弁護士会の市民モニターとなって裁判傍聴を経験した。簡裁では同じ時刻に20件ほどが集中して設定され、ごく短時間で次々に処理されていた。法廷の数を増やし、裁判官や書記官を配置すべきだと思う。また、裁判所の案内板や呼出状は不親切で近寄り難い。夜間や休日の開廷を全国に広げてほしい。巡回裁判所を雑居ビルや商店街に設置しても良いはずだ。
 気軽に相談できる窓口がほしい。デパートや公共施設での無料相談の拡充が必要だ。
 司法過疎も深刻で、単に裁判官の数が増えても、支部と本庁の偏在は解消できない。
 司法改革は人権の保障に直結するので、行政改革と同列で効率化・減量化の観点で考えてはいけないと思う。

○ 小室正範(団体職員)
 北海道労働組合総連合で事務局長を務めている。司法制度改革には、大きな期待と反面で危惧の念を抱いている。人権保障、三権分立が本当に実現されるなら良いが、財界から意見が色々出た中での改革で、規制緩和万能論に基づいて紛争処理の社会的インフラとしての司法への改革であれば、国民にとって害悪の方が多いことになりかねない。
 平成11年の北海道の発表で、解雇されて雇用保険を申請した者の数は4万人余だが、解雇が正当かどうかを司法の場で判断できたのは84件と、余りにも少ない。現在の司法は、公平、迅速、廉価、利便といった要求に全く応えられていない。裁判官や裁判所職員の増員、ADRの充実を図るべきだ。
 閉鎖的なキャリアシステムの是正、裁判官養成制度も重要だ。陪参審や法曹一元が議論されているが、これらは時代の流れからして当然の要請だと思う。

○ 渋谷絢子(団体職員)
 30年近く消費者相談に従事している。裁判とのかかわりも度々あった。
 利用者として法的知識の無い人たちが被害の救済を申し立てられるように裁判所が変わるかどうかが大切だ。事件としては、クレジット・貸金取立関係が増えている。
 消費者(特に女性や高齢者)は、裁判所に行くだけでも恐く、まして法廷で「あなたは納得して契約したんでしょう?」と問われると何もしゃべれない。裁判所は市民感覚を持ってほしい。杓子定規の判断では皆何も言えない。かと言って、商品の代金を払えない人は弁護士着手金などとても払えない。また、弁護士を頼ろうとしても、道央、札幌に集中している。偏在を解消してほしい。
 消費者側と事業者側には情報の格差がある。消費者契約法ができたのは評価できるが、規制緩和の中で事業者への事前規制が減り、行政が両者の格差を修正してくれることがかなり減った。現在のままの裁判では消費者は救済できないと思う。
 具体的な要望としては、①職業的裁判官ではなくて、消費者の立場で裁判できる人に裁判官になってほしい。②短期間での集中審理③法曹人口増④司法予算増⑤過疎地に公設弁護士事務所を設置⑥ADRの位置付けの強化など。

○ 庄 尚子(フリーアナウンサー)
 記者として刑事裁判を取材したとき、何度傍聴しても公判の内容がわからず、被害者や被告人もわかっているとは思えなかった。被害者遺族の「誰のための、何のための裁判なのか」という言葉が印象に残った。
 市民そのままの弁護士になれればと思い、司法試験を受験しようと考えている。法学部出身でなくてもスタートラインに立てることが大事だ。
 現在、ロースクールが構想されているが、他学部出身者や社会人でも法曹を志すことができるのか、自宅から通えるのか、夜間・通信の課程はあるのか、何年制なのか。ロースクール修了が司法試験の受験資格ということになれば、ロースクールに通えない者はスタートラインにすら立てないこととなり問題だ。裁判官の世間知らずを助長するようなロースクールであってほしくない。また、現在、弁護士の世界に学閥・派閥が無いのは良い点だと思うが、どこのロースクール出身かが弁護士選びの基準になるようでは良くない。
 法曹に必要な教養と法的素養は、実生活でこそ養えるので、職業経験3年や5年以上の人への特別枠を設けてはどうか。全ての人にチャンスが与えられる、現行制度の良さを生かした法曹養成制度改革を望む。

○ 西谷博明(団体職員)
 北海道中央企業家同友会に所属している。最近、ようやく弁護士が経営者にとって身近になってきたと感じる。
 裁判官は中小企業経営者の苦しみをわかって裁判をしてほしい。試験に受かって直ちに裁判をするのでなく、弁護士として10数年の経験をしてほしい。陪参審の導入にも賛成。裁判のTVによる公開も考えられないか。
 行政に対するチェック機能としても司法は重要だ。保健所や消防署の担当官の言うことが人によって違うことがあり、法律とは果たして何なのかという気持ちになる。行政事件訴訟法を改正して、原告適格や訴えの利益で門前払いという仕組みは変えるべきだ。行政不服審査の充実も必要だ。
 長過ぎる裁判、司法過疎の解消のためには、ただ弁護士を増やしても効果が無い。弁護士にも生活があり、札幌でも「士」業が増えて競争が激しくなってきたので、経営的に難しくなってきていると聞く。過疎地に公費で事務所を作ったり、移動裁判所の仕組みを整えることが大事だと思う。

(3)意見発表者への委員からの主な質問

○ 司法過疎の解消には地域の人々の努力も必要だ。地域の努力として何が最も必要と考えるか。
 (回答:相談窓口が身近に無いと、弁護士に相談することすら思いつかない。行政が相談にのりアドバイスしてくれると良い。弁護士も公設事務所に輪番制で来てくれると助かる。常時相談できる体制を、国・自治体・弁護士会と連携してシステムを作ることが大切。弁護士の数だけ増やしても問題は解決しない。)

○ 法曹一元について、職業裁判官か弁護士出身裁判官かという議論の軸だけでなく、21世紀の司法にふさわしい資質の裁判官を確保するには、どのようにすべきと考えるか。
 (回答:審議会で議論してもらわなければいけない大きな問題だが、裁判所以外で法律家を求めるとなると弁護士ということになるので、弁護士経験を10年以上とするか、5~6年に下げるのか、また、弁護士会推薦の他に市民レベルで組織を整えてそこが推薦する仕組みを作るのか等の課題があると思う。弁護士事務所の規模が大きくなって、1人抜けても問題が生じない形になることが望ましい。)

○ 陪審制は、国民が司法に関心を持って参加していくことで我が国の司法に風穴を開けるために非常に重要な課題だと考えるが、陪審制の導入についてどう考えるか。
 (回答:陪審は、国民一人一人が責任を分かち合うことができる点で意義がある。医療は医療過誤裁判との関係で密室性が改革されてきているが、司法はまだ密室性が高い。そのためにも陪審制は重要だと思う。)

○ 情報公開について、インターネット公開で良いのなら問題は少ないが、情報を紙で出すとなると、出す側の個人や団体の人的時間的負担が大きいのではないか。
 (回答:例えば大きな病院であれば、文書の管理等もそれなりに対応できる形になっている。企業が情報を公開しなければ裁判に持ち込むこともできない。企業は利益を得ているのだから、費用がかかっても公開に協力するのは当然だと思う。)

○ 人間のことを見抜くことのできる裁判官や陪審員を、しかも多数、どのようにしたら確保できると考えるか。
 (回答:裁判官が1人で200~300件も抱えている現在の状況よりは、万一多少レベルが下がるとしても増員を図った方が、1件1件の真実をより発見しやすいのではないか。また、労働裁判所等が設置されれば、専門家の参審制も考えられる。)

○ ロースクールを出ない人のために特別の検定試験を行って司法試験の受験資格を与えるとの考え方もあり得るが、どう考えるか。
 (回答:内容によってはそのような方法もあり得ると思う。ただ、司法試験の段階では、検定試験の人もロースクール修了の人も完全に対等に扱ってほしい。)

以 上