司法制度改革審議会

第4回公聴会(東京)の概要

司法制度改革審議会事務局



1.日時・場所
平成12年7月24日(月)17:30~20:40
東京都日比谷公会堂

2.出席委員
佐藤会長、竹下会長代理、石井委員、井上委員、髙木委員、鳥居委員、中坊委員、藤田委員、水原委員、吉岡委員

3.意見発表者
井出晴郎、小川ひろみ、櫛毛富久美、河野義行、標 博重、関口千恵、野沢克哉、堀 真理

4.公聴会の概要
(1) 佐藤会長あいさつ
(2) 意見発表(要旨)

○ 井出晴郎(会社員)
法律的問題に巻き込まれ、弁護士を探すのに苦労した。弁護士に依頼をしにくい理由は、弁護士情報が少ない、数が少ない、報酬への不安、信頼関係が失われた時の相談・苦情の相談先が判らない、専門性がない、弁護士の特権意識などである。アクセスを容易にするため、弁護士情報の公開を進め、弁護士人口を大至急フランス並みにしてほしい。また、市民に必要なことが弁護士会の中でいつまでたっても決まらずに堂々巡りとなっており、第三者機関で重要事項を決定することとするなど、弁護士システムの基本事項の見直しを求めたい。さらに、司法情報が少ないことが、国民の司法に対する意識が低い大きな原因。分かり易い裁判と一層の公開を進め、裁判官・検察官と国民の交流を制度化すべき。学校教育や社会教育における司法教育の充実も重要。国民に司法関係情報を徹底的かつ双方向的に流す制度の充実と、国民が何時でも身近に利用できる市民法律センター等の施設の充実を求めたい。国民意識を変えることが司法改革の原点であり、そのためにも現在の仕組みを大幅に変えてほしい。

○ 小川ひろみ(学生)
法曹人口増員の流れの中で、ゼネラリストとしての法律家に加え、医学・工学等の他分野の専門知識を併せ持った法律家のニーズが高まる。このため、ロースクールでは、一定期間、国内外の他校あるいは他学科において法律以外の分野の専門知識を学ぶ機会を与え、その知識を法曹資格認定の際に考慮してはどうか。他分野の学生とエクスチェンジすれば、一定期間法律を学んだ医者や建築家も生まれ、鑑定人の育成にもつながる。ロースクール毎に得意分野を持ち、法律以外の専門家が当該分野に関連する法律やリスク管理を学んだり、ロースクールの研究教育活動が実務を向上させるような姿が望ましい。また、市民に判るように説明できるということも、専門能力の一つである。少額裁判の手続き教示が形式的な説明に終始している裁判官もいる。判決文について当事者に説明できるだけの能力やサービス心がないのでは、法律家のための法律家になる。市民に判るように説明するという実習を取り入れるべき。さらに、当事者による裁判官評価制度も取り入れてほしい。当事者が勝敗とは別に裁判官の誠実さを評価することは可能と思う。このままでは外国司法やADRに役割を奪われかねない。最先端の司法を目指してほしい。

○ 櫛毛富久美(専門学校講師・主婦)
医療過誤訴訟を7年間続けているが、裁判で真実が明らかになり、よかったと思えるような司法改革を望む。医師が事故原因の委細を熟知し、カルテなどの証拠を全て持っており、原告と被告の間に絶対的な力の差がある。立証責任について、原告が因果関係や過失の存在を一応推定させるに足りる証拠を出した場合に、被告が反対証拠を出して推定を覆すことができなければ、被告を敗訴とすべき。次に、裁判官については、転勤が頻繁でその都度方針が変わること、どの点の立証が足りないのか心証の開示が全くなされず不意打ち的に敗訴させられたこと、公判中に居眠りしていたことなどに怒りを覚えた。市民感覚からかけ離れており、陪審制度の導入も検討してほしい。また、公平な鑑定人を確保するため、鑑定人選出名簿等の作成も必要。医療過誤訴訟の専門家の参加については、医師の選定の適切性、密室化のおそれなどの課題があり、専門家の役割に限定が必要。さらに、カルテ、刑事手続での調書、鑑定書など全ての証拠を公開すべきである。医療事故の場合、刑事裁判はほとんど不起訴となり、重要な証拠が民事裁判に提出してもらえないのが現状である。

○ 河野義行(会社員)
松本サリン事件で、仮に早い時期に弁護士を依頼していなかったら、間違いなく逮捕され、冤罪事件から脱出できなかったように思うので、被疑者弁護は極めて重要だ。警察は、主治医の診断書を全く無視し、7時間半にわたる事情聴取をした。私は心身ともぼろぼろになったが、警察はいくら事実を述べても聞こうとしなかった。世間では、被疑者の人権ばかり守られ、被害者の人権は守られていないと言われているが、両方の体験をした私には納得できない。警察は、被疑者には人権はないと言わんばかりの扱いであった。また、マスコミ報道の在り方も問題だ。悪い人を公費でなぜ弁護するのかという言葉もよく聞くが、公平な裁判で有罪が確定しない前に悪い人などと決めつけてしまうことこそ問題である。逮捕から起訴までの被疑者の取り調べは壮絶なものであることは自分の体験から想像できる。冤罪や不当な量刑は、この時期に決まると言っても過言ではないと思う。当番弁護士というボランティア制度に依存している現状を改め、被疑者の起訴前弁護費用を公費で行うことが必要である。

○ 標 博重(すみよい環境をつくる東京住民運動連絡会代表幹事)   
道路公害訴訟や廃棄物公害訴訟の原告の経験から、行政を相手とする裁判が真に市民の味方になるような改革を期待する。訴訟期間を短縮するとともに、裁判中の事業継続により、訴えの利益を喪失しないようにすべき。公害被害を受ける沿道住民多数が建設に反対している場合には、行政の事業進行を一定期間停止する処分ができるように制度改革すべき。各種の公害裁判はいずれも十数年を要しており、永すぎる裁判は訴えの利益を著しく侵害する。陪審制の導入も検討すべきである。次に、道路訴訟の原告適格を沿道住民に拡げて欲しい。都市計画法の解釈から地権者以外には原告適格が認められず、地権者の協力により事業が完成した場合、沿道住民の生活や健康を公害から守ることができない。また、現行制度では、既に発生した公害はともかく、公害を未然に防ぐことができない。予測可能性と回避可能性を事業認可取消訴訟に取り入れて欲しい。さらに、都市計画決定の段階で争わないと、道路公害は防げないので、都市計画決定を争えるようにして欲しい。裁判より行政が優位に立っている現状を是正すべきである。

○ 関口千恵(自由業)
司法の国際化については、経済の文脈で語られることが多いが、配偶者が外国人である者として、異なる角度から提言したい。多くの日本人は深刻な法律問題に直面していないが、国際結婚の当事者、とりわけアジアのいわゆるニューカマーと言われる外国人と婚姻している多くの日本人女性から悲痛な声が上がっている。配偶者がオーバーステイで強制送還されたため、配偶者と離れて暮らさざるを得ず、今後どうなるのかも定かでない。このほか様々な国際的な法律問題があるが、日本の弁護士は頼りにならない。日本と相手国の法律、更に国際法を参照しなくてはならないが、弁護士も裁判所も、外国語能力や国際法・外国法の基本的知識に欠ける。国際感覚に乏しく、外国人を見ればあやしいと考えがちである。司法試験改革やロースクールの検討に当たって、これらの点を考慮すべき。また、外弁法を撤廃して、外国法曹にも容易に依頼できるようにしてほしい。外国人通訳の充実も必要。最後に、出入国管理制度に関して、カナダなどの例に倣い、準司法機関を設けてほしい。

○ 野沢克哉(関東ろう連盟理事長) 
障害者にとっても身近で利用しやすい司法を実現する必要がある。障害者も健常者と同様に、様々な法的トラブルに直面する機会が多くなり、裁判にかかわる機会が増えている。法律扶助制度を拡充し、少額事件や行政事件でも費用の心配をしないで弁護士の援助を受けられるシステムを作って欲しい。裁判所における手話通訳費用の公費負担を実現して欲しい。弁護士がつけば手話通訳はいらないなどと言われるが、人権感覚を疑う。エリートとして社会経験のないまま裁判官になった人には、障害者の実情や一般的特性を十分理解してもらうには非常に困難が伴う。弁護士として実務経験を積み、私達と日常生活の中で交流がある人権感覚豊かな弁護士に裁判官になってもらった方が、より社会正義にかなった判断をしてもらえると思う。また、現在、聴覚障害や視覚障害を持ちながら弁護士として活躍している人が多数いるが、裁判官の採用に当たって、障害者も健常者も平等な立場で採用するシステムにしてもらいたい。法科大学院構想があるが、障害者に門戸を大きく開放するとともに、手話通訳や補助者等学習保障について十分配慮してもらいたい。

○ 堀 真理(会社員)
商社の法務担当者として、司法制度改革についての最大の関心事は、裁判時間の短縮だが、それ以外の点を述べたい。まず、担当裁判官の途中交替の問題だが、何年もかかって進めていた訴訟の流れが変わったり、一旦終結した弁論が再開され、口頭弁論までやり直すこともある。訴訟案件については、その経過を経営陣に報告し、引当金、有価証券報告書への記載等、訴訟結果についての様々な処理手続を社内的に行っている。裁判官の交替で、予見の前提が崩れたり、時間が戻ってしまったかのような事態になり、法務担当者に非難の矛先が向けられることも少なくない。裁判官の数が足りないことが根底にあると思うが、仮にローテーションによる転勤制度を維持するとしても、引継ぎ期間をおくなど、裁判内容の継続性が保たれるようにしていただきたい。一般の感覚としては、個々の裁判官にではなく、裁判所という組織に判断を求めている点を理解してほしい。次に、現実の取引の実態は多様であるにもかかわらず、往々にして裁判官は、契約書がない、第三者の証言だから信用できるなどと外形のみで判断をする傾向がある。裁判官が取引の実態に疎いので、実質に踏み込んだ判断ができない。現実的な当面の方策として、企業研修等、裁判官に取引社会の実態に触れる機会を増やしてはどうか。

(3) 意見発表者への委員からの主な質問

○ 法曹が障害者への理解を深めるために、教育面でできることがあるか。
 (回答)ロースクールを法律教育だけに矮小化せず、障害者問題について議論させたり、福祉施設での実習をさせたりしてはどうか。

○ 裁判官の企業研修を拡充する場合、企業側に受容れ余地はあるか。また、商事裁判に経済人を専門家として関与させるとした場合、専門家の確保は可能か。
(回答)裁判官に企業取引実務の常識を知ってもらうことは、企業にとってもメリットがある。受け容れ余地はあると思う。裁判に関与する専門家の確保については、積極的にやりたい人は年をとった人だとすれば、現場の状況を十分に把握した人でない可能性もある。

○ 弁護士システムの基本的事項の見直しに言及されたが、具体的内容は。
(回答)弁護士の業務広告、情報公開、苦情窓口など、国民にとって大事な事項は迅速適切に決定すべきところ、弁護士会にはこれを期待できない。法曹人口増によりますます限界が露呈しよう。第三者機関を設置して決定を委ねるべき。

○ 裁判官・検察官と国民の交流の制度化に言及されたが、具体的内容は。
(回答)裁判所・検察庁にモニター制度、講演会開催のルール化、テレビ放映の導入などが考えられる。

○ 行政訴訟の経験から、行政担当官と比較して、裁判官にどのような印象を持ったか。
(回答)一概には言えないが、公正な訴訟指揮で信頼に足る裁判官もいるが、居眠りしたり、原告側立証にうるさそうなそぶりをしたりするなど、信頼できない裁判官もいる。

○ 医療裁判の経験から、日本では参審制でなく、陪審制がよいと考えるのか。
(回答)陪審制は日本人の国民性に合わないとも言われるが、誠実な国民性なので、ひとたび陪審員の立場に立てば、真剣に対応するだろうし、12人で議論すればそう間違うこともないだろう。逆に、十分信頼に足ると思える裁判官に当たったことはほとんどなかった。参審制については、医療過誤で公正な専門家を探すのは容易なことではなく、裁判所も安易に権威のある専門家に依頼しがちであるなど、選び方によっては危険が伴う。

○ そのような経験から、市民の立場に立ったことのある弁護士から裁判官を選ぶという法曹一元の考え方についてどう思うか。
(回答)弁護士から裁判官になることとすれば、今よりは市民に近い裁判所になりうるのではないか。

○ 裁判官の評価制度について、当事者が勝敗に関係なく裁判官を評価することが本当にできるのか。
(回答)調停に関してのアンケート調査から、裁判の結論と当事者の満足度は必ずしも直結しておらず、当事者は意外に冷静に判断していることが分かった。総体的にみれば、評価されるべき人が自ずと評価されていくこととなろう。

○ 警察の事情聴取を受けた経験から、弁護士の対応をどう評価するか。
(回答)個人的なつてで依頼した弁護士だったが、あらゆる手段を使って警察やマスコミを牽制し、逮捕に至ったり、証拠捏造が起きないよう、適切な手を打ってくれた。依頼者と弁護士の間の信頼関係が重要と感じた。

○ 企業法務担当者として、日本の司法制度について、国際的な視点からどう考えるか。
(回答)企業としては、外国との関係で司法制度を使うところまでこじれないようにすることが最も大切であり、司法制度そのものに多くを期待する訳ではない。また、国際取引を行う際、外国弁護士へ依頼することはよくある。

○ サリン事件で仮に起訴されていた場合、陪審裁判を望んだと思うか。
(回答)裁く人の客観性が重要。陪審制では、自分は有罪になっただろうと思う。一方、裁判官は法の専門家ではあるが、化学等には弱い点で心配がある。法の専門家と他分野の専門家がリンクするような仕組みが望ましいように思う。

(4) 会場からの意見
○ 高校以下の学校教育において、憲法上の権利を抽象的に教えるだけでなく、紛争・トラブルに巻き込まれたときに正しく問題を解決し、主体的に権利を守るための方法や、最低限の法知識・法的思考能力を学ばせるべき。
○ 検察審査会制度を周知させるため、普及啓蒙を強化すべき。また、検察審査会の決定に拘束力を付与したり、委員の委嘱期間を延ばす等により、一層充実した活動ができるようにすべき。

以 上