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学生の入学状況 昨年度は、入学定員との関係で入学状況に課題のある大学が相当数見られたが、今年度も、入学定員を大きく下回っている法科大学院(2大学)、法学既修者の受入が当初構想よりも著しく下回っている法科大学院(1大学)があった。ただし、こうした入学状況は、教育の質を維持する観点から、当該大学がどのように入学者選抜を行う方針であるかという要因に起因する場合もある。また、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れる観点から、各法科大学院においては、法学系以外の学部出身者や社会人等が入学者の3割以上となるよう努めるものとされているが、今年度これを下回る大学もあった(2大学)。 さらに、今年度は入学定員を大きく上回って学生を受け入れている例はなかったが、昨年度から2年連続で入学定員を超過しているところが見られた(16大学)。少人数教育や双方向・多方向授業の実施など、法曹養成を担う教育機関として求められる教育水準を確保するため、定員管理については、特に厳格な対応を求めたい。 各法科大学院の入学志望者の状況は、流動的であるが、入学者選抜方法等の一層の改善・工夫に努めてもらいたい。また、ごく一部ではあるが、入学者選抜方法等に変更を加えながら、その情報の事前開示が不十分であった例も見られたので、そのようなことのないよう、適切な対応を求めたい。
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教育課程の運営状況 各法科大学院において、おおむね設置計画どおりに開設・運営されている。ただし、大学によっては、以下のような課題も見られる。
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授業科目の一部が、法律基本科目、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目の各科目群に適切に分類・整理されていない。 |
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特に展開・先端科目について、教育効果を考慮すると配当年次の変更が不適切であったり、学生の履修状況に偏りが見られる。 |
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法学未修者の受入が多い法科大学院では、特に、双方向・多方向の授業をどのように実施するのかなどの検討を要し、運営面での改善・工夫が望まれる。 |
実地調査を実施した法科大学院では、その規模にかかわらず、おおむね少人数教育によるきめ細かい履修指導体制がとられており、授業等に対する学生の満足度も総じて高い状況であった。その上で、今後更に充実を図るべき点として、以下のようなものが挙げられる。
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従来の法学部教育における一方的な講義形式からいかに脱却するか、法学未修者を対象とした授業において双方向・多方向的手法をどのようにとり入れるかなど、授業運営上の工夫。 |
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大規模校におけるクラス分け、同一科目の教員間の授業内容・方法、教材の利用等についての十分な検討・調整。 |
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現職の社会人が多い法科大学院にあっては、十分な自習時間の確保、学修負担の考慮、個々人の状況に応じた履修指導などが必要であり、例えば長期履修制度の導入など、履修形態の在り方についての検討。 |
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進級制度の整備や修了試験の趣旨の明確化。 |
なお、昨年度も指摘したとおり、法律基本科目に関して、正課外として、特別の講座を開設している法科大学院が依然見受けられる。確かに法律基本科目の履修の充実は重要であるが、法科大学院制度の趣旨を踏まえれば、正課外では学生の自主的学習に委ねるべきであるとの位置付けを明確にするとともに、新司法試験対策に偏することなく、本来の教育課程に沿った運営が強く望まれるところである。 これとともに、基礎法学・隣接科目や展開・先端科目の履修などを含む、幅広い知識を修得させるための工夫・努力が一段と求められる。
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成績評価の状況 各法科大学院では、各授業科目の成績評価に当たり、定期試験、授業への出席状況や授業態度、課題の提出状況その他の日常の学生の授業への取組と成果を評価するなど、各授業科目の多元的な成績評価に加え、あらかじめ学生に各年次終了時に望まれる到達度を明示し、その水準に達していない場合にはその段階以降の授業科目の履修を認めないこととしている法科大学院が多数である。 今年度の調査では、実地調査及び面接調査において、対象校から、成績評価の結果・成績分布状況等についても提出を求めた。これらの資料を検討すると、成績評価に関しては、授業科目間での成績分布のばらつきが存在し、それを是正するため、特に、客観的・統一的な基準の明確化、学生に対する成績評価基準の事前提示、成績評価基準の厳格な運用、その方法の検討などの面で、更なる工夫・改善を要する法科大学院が少なからず見受けられた。 厳格な成績評価・修了認定は法科大学院制度の根幹であり、後述するFDへの取組とあわせて、教員間で十分な共通理解を確立し、組織的な取組を一層強化・充実していくことが必要である。
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教員組織の整備状況 設置計画に沿って、おおむね整備・補充が図られている。ただし、専任教員の平均年齢が著しく高い大学や年齢構成に偏りのある大学が依然若干数あり、早期の対応が待たれる。 また、学年進行に伴い学生数が増加することを踏まえ、教員の教育負担面への配慮の方策や、教育効果を勘案したクラス規模の縮小など、中・長期的な視点からの教員組織の整備・充実を図っていくことが必要と思われる。 なお、ごく一部の法科大学院であるが、法律基本科目につき、理論的教育を担う専任教員の配置が行われていない状況が見られた(2大学)ため、引き続き、早急な対応を要請した。
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FDへの取組状況 大多数の法科大学院でFDに関する各種委員会(会議)が設置され、組織の整備が図られつつある。ただし、教育内容・方法の改善・充実(例えば、双方向・多方向授業の工夫、同一分野の授業科目間の連携、科目ごとの予復習時間の適切な確保など)について、取組が必ずしも十分でない状況も見られ、一層実効性のある活動や組織的な取組が望まれる。また、教員間には、授業に取り組む姿勢や意識に依然格差があり、専任教員だけでなく、兼任・兼担教員を含め、教員相互の授業参観を制度化するなど、教員の意識の啓発をはじめ、FDの今後一層の充実が期待される。こうしたFDの取組は、理論的教育を担う教員と実務家教員との協調体制を確立する上でも極めて重要である。 なお、FDの一環として、学生による授業評価アンケートはほぼ例外なく実施されており、一部には、その結果を組織的に分析し、教員相互に情報を共有するとともに、授業の改善策を公表するなど積極的な取組を行っているところも見受けられる。一方、アンケートの実施時期や回収率などの基本的な面で課題の残る法科大学院も見られ、また、アンケート結果への対応を個々の教員の判断に委ねるにとどめているため、教員間で対応に差が生じるなど、なお組織的な取組が十分ではないところもある。学生に対してアンケート結果を効果的にフィードバックすべく、今後、授業の改善策を含め、その結果等を広く公表するなど取組の一層の充実・工夫が望まれる。
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自己点検・評価への取組状況 大多数の法科大学院で内部組織として法科大学院独自の自己点検・評価委員会を設置し、具体的な点検項目・内容等について検討を進めている。ただし、一部には、独自の委員会等を設けず、全学的な委員会における取組にとどめていたり、委員会等を設置していても具体的な活動が十分でない状況が見受けられた。今後、認証評価などを視野に入れつつ、法科大学院として独自の自己点検・評価体制を整備し、実質的な活動を展開していく必要がある。
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施設・設備の整備状況 施設・設備は、設置計画に沿って順次整備が進められている。全法科大学院が専用施設(講義室、演習室、自習室、図書室など)を有しており、そのほとんどがパソコンやデータベースの利用などの環境面にも配慮している。自習室や図書室の利用時間の拡張など、工夫も施されつつある。特に小規模校では、学生専用の机、ロッカー等が整備されており、学生の満足度も高い状況であった。 なお、図書については、基本的な図書・雑誌・判例集の充実、貸出しルールの明確化などの面に関し、学生からの改善要望意見が少なからず見受けられた。この面での環境の整備は、継続的に図られていく必要がある。
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