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法科大学院の公法系教育についての基本的考え方 |
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1−1公法系教育の意義とカリキュラムの基本的考え方 |
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司法制度改革審議会意見書(以下、「審議会意見書」という)は、今般の司法制度改革を、「国民の一人ひとりが、統治客体意識から脱却し、自律的でかつ社会的責任を負った統治主体として、互いに協力しながら自由で公正な社会の構築に参画し、この国に豊かな創造性とエネルギーを取り戻そうとする志」のもとに進められてきた、一連の諸改革の最後のかなめとして、それらの諸改革を法の支配の理念の下に有機的に結び合わせるものであるとする。そして、この立場から、民事・刑事のみならず行政事件をも含む裁判権とさらには違憲立法審査権によって国民の権利自由の保障を担保し、憲法を頂点とする法秩序を維持するという司法の機能を充実強化すべきであるとしている。 |
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司法制度改革のこのような理念に即して法曹養成の問題を考えるとすれば、民事・刑事・行政事件の実務における憲法関連問題や行政関連問題の取扱いが適切に行われ、司法の役割が十分に発揮されるようにするために、公法系の教育が重要であることは異論のないところであろう。新しい法曹養成システムのなかでは、とりわけ法科大学院において、公法系教育の充実が図られるべきである(行政法に関しては、審議会意見書でも、法科大学院での行政法教育の充実が特に明示的に求められている)。 |
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法曹養成のための公法系教育が目指すべき目標としては、法曹となるべき人々に、憲法や行政法が関わる問題に対しても臆することなく一応の対応ができるだけの最小限の素養を身につけさせること、憲法関連分野や行政関連分野の専門家(憲法・行政法一般の、あるいは、税務・独禁法・環境等々の特定分野に特化した専門家)としてその分野の事件を適切に取り扱えるようになるための基本的な能力を修得させること、の2つのレベルが考えられる。法科大学院の公法系教育に関しても、この2つのレベルがそれぞれ目標とされるべきであろう。 |
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以上のことを前提として、法科大学院の公法系教育の具体的なカリキュラムが定められるべきである。その際、基本的には次のような考え方によるのが適当であろう。 |
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(1) |
法科大学院においては、法学部で行われている法学教育とは区別される法曹養成に特化した教育を、標準修業年限3年のカリキュラムによって完結的に行うことが原則であり、公法系のカリキュラムの検討にあたっても、このことが基本となる。 |
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(2) |
授業の形態に関しては、講義・演習その他の方式を適宜活用すること、少人数教育を基本とし、双方向的・多方向的で密度の濃いものとすること、セメスター制等によりなるべく集中的に行うこと等々、審議会意見書において示されているところによるものとする。 |
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(3) |
科目編成の枠組みに関しては、本報告書では、基礎科目・基幹科目・展開科目の3段階構成とし、かつ、基礎科目と基幹科目の関係は、1年次の基礎科目の上に2年次の基幹科目が積み上げられるものであることを、一応、原則とした。しかし、とりわけ後者の点に関しては、そのような年次配当の区別の原則を緩めて考える可能性や、さらには、たとえば一定の基礎科目を、基幹科目について法学未修者等の履修を助けるための科目として構成し、基幹科目とそのような基礎科目とを同時並行の形で配置するなどの可能性もありうる。本報告書は、それら種々の可能性を否定するものではない。 |
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(4) |
具体的な授業科目としては、公法系教育の前記の目標に即して、憲法・行政法を中心とする諸科目を、それぞれ、その性格に応じ基礎科目・基幹科目または展開科目として開設する。憲法と行政法とを部分的に一体化させた科目を開設することや(本報告書のモデル案では、基礎科目についてそれを試みている)、あるいは、憲法または行政法の一定分野と関連諸科目とを融合させた先端的な科目を(主としては展開科目として)開設することも、考慮されるべきである。 |
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(5) |
これらの公法系諸科目のうち、憲法および行政法の基本的な科目は、基礎科目・基幹科目のそれぞれの段階で提供されるべきである(両者を部分的に一体化させて授業科目とする場合を含む)。 |
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その場合、必修科目の増加によって、基礎科目ないし基幹科目の履修の負担が公法系・民事法系・刑事法系の全体で過大になることは、避けなければならない。そのためには、必修科目に関する指定の方法として、一定の科目それ自体を個々に必修科目として指定する方式のみならず、たとえば、一群の科目のバスケットのなかから一定の単位数に達するだけの科目の履修を要求するという方式(“必修科目群”方式)もありうる。本報告書のモデル案でも、基幹科目としての憲法・行政法の科目について、この必修科目群方式を採り入れている。また、モデル案で、基礎科目として前述のように憲法と行政法を一体化させた科目を置いているのも、必修単位数の圧縮という意味を含むものである。 |
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(6) |
なお、法科大学院における公法系科目の編成は、法学部における公法系科目のあり方とは、本来、別個に考えられるべきものである。ただ、法学既修者とされた者について法科大学院の1年次課程の省略を認めることとする場合には、その判定の基準をどうするかの問題とも関連して、法科大学院の1年次基礎科目たる公法系科目と法学部の公法系科目(特に、そのうち実務法曹養成の基礎となるべき部分)のあり方が問題となりうる。 |
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(7) |
法科大学院の公法系教育によって培われる素養ないし能力は、具体的には民事または刑事の実務の一環としてその意義を発揮することとなる場合が多い。その意味で、公法系教育と、民事・刑事の実務に関する教育とのあいだには、カリキュラム編成上、適切な連携が図られる必要がある。また、行政事件訴訟の実務能力を育成するための教育に関しても、行政事件に特有の部分と、民事・行政の両者に共通する部分とがあることから、これまた民事法系教育との適切な連携が必要である。 |
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(8) |
法科大学院の教育については、一定の教育水準が確保されなければならないとともに、それに加えて、各大学院ごとの個性が発揮されることが望ましい。公法系教育に関しても、授業科目をどのように構成し、どのような年次配当とするか、どの科目をいかなる範囲で必修とするかの、各大学院ごとの工夫の可能性が留保されるべきである。本報告書でモデル案を示すのがそれを否定する趣旨でないことは、あらためて確認しておきたい。 |
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