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資料III   刑事系のカリキュラム・モデル案
   
刑事系科目の必修総単位数
       法律基本科目のうち、刑事系(刑法・刑事訴訟法)科目の必修総単位数は14単位とする。
       
刑事系カリキュラムの考え方
       上記必修総単位数のなかでどの科目にそれぞれ何単位を配分するか、また、どの科目をどの学年に配当するかについては、各法科大学院の教育方針にゆだねるべきである。刑事法関係を重点的な専門分野とする法曹を養成することを基本方針とする法科大学院にあっては、より多くの刑事系科目群の履修を義務づけたり、また選択科目群の設置にあたり関連する刑事系科目の充実を図るということが考えられよう。
       
       必修総単位数のなかでの科目ごとの単位の振り分けにあたっては、たとえば、後述のモデル案のように、基本的な体系的理解を主眼とした基礎科目として「刑法」6単位を1年次に配当し、その履修を前提として、「刑訴法」6単位と、「刑事法演習」(深化と統合を目ざした科目)2単位とを2年次に配当することが考えられる。また、1年次に「刑法I」4単位および「刑訴法I」2単位、2年次に「刑法II」2単位および「刑訴法II」4単位を配し、これに加えて2年次に刑法に重点を置いた「刑事法演習」を置くというように振り分けることも可能である。
   これに対し、「基礎」と「応用」とを段階的に区分することをせずに、1年次からかなり深化した内容を理解させ、事案の分析と問題解決のための能力を涵養すべきだとする考え方も可能である。ここからは、刑法と刑訴(さらに刑事政策)を統合する「刑事法総合I」を1年次に6単位科目として提供し、2年次に「刑事法総合II」を8単位履修させるということが考えられるであろう。
       
       設置基準や第三者評価の基準を定めるにあたっては、いずれかの考え方に固定してしまうのではなく、これらのいずれの構想も可能となるように配慮することが相当と考えられる。
       
刑事系カリキュラム・モデルの一例
  (1) 刑事系科目の単位配分
       必修総単位数14単位のうち、刑法に6単位を、刑事訴訟法に6単位を、刑事法演習に2単位を配分する。
       
  (2) 1年次の刑事系科目
       必修科目となる刑事系科目のうち、1年次においては、基本的な体系的理解の修得を主眼とした基礎科目としての「刑法」を履修させる。
       
       6単位の中で提供する内容の目安としては、従来の法学部でふつう行われていたような刑法総論(基礎理論、犯罪論、刑罰論)と刑法各論(刑法典の犯罪および重要な特別刑法の処罰規定)の内容は確実に理解させることが必要である。このことじたいかなり困難なことであるが、法科大学院の学生はそのすべてが当初から実務法曹になることを予定しており、明確な目的意識と強い学習意欲を備えているであろうから、授業への能動的参加が期待され、おのずとかなりの教育効果は達成されるであろうと想定することは可能である。
   授業内容としては、とりわけ、刑法解釈学と、刑事訴訟法学、犯罪現象論や犯罪対策論、刑事立法論との連繋を考慮したものとすることが考えられる。たとえば、現在の犯罪現象に関する統計的把握およびその原因に関する考え方の基本部分、犯罪者処遇の大要については、ここで教えられるべきであろう。
       
       刑法総論(とりわけ犯罪論)についてみると、その素材の重要性は、社会の現実と実務における重みという点で決して高いとはいえない。しかし、基礎的な法的思考力・問題解決能力を鍛える上では有効と考えることができる。ただ、刑法総論の論点は網羅的に取り上げられる必要はない。コアプログラムとして、限られた時間内において、刑法総論の論点のどの部分をどう教えるかを検討する必要があるが、対象領域を限定した上で「応用」と「深化」が可能となるような授業内容を構想することが考えられる。たとえば、共犯論に関しては、実務上の重要性に鑑みて共同正犯に的を絞った授業が行われれば足りるという考え方もできる。また、錯誤についても、従来と比べ、それほどの時間を割く必要はない。他方、結果的加重犯、罪数・犯罪競合、刑の適用等については、かなり多くの時間を割いて正面から取り上げることが要求されよう。
       
       基本的な体系的理解に主眼を置くとしても、単に法的知識の受動的な修得が目的とされてはならず、創造的・批判的な法的思考能力・分析能力の育成が目ざされるべきであることは民事法の場合と同じであり、少人数教育の利点を活かした教育方法を工夫することが必要である。
       
       各論については、特別刑法(とりわけ経済刑法)を含めるとかなり膨大な領域となる。法科大学院においては、実際上の重要性にかんがみ、特別刑法の規定もかなり取り上げざるを得ないものと思われる。とりわけ、経済犯罪や薬物犯罪がその例であろう。
       
  (3) 2年次の刑事系科目
       2年次においては、1年次における基礎科目の履修を前提として(法学既修者については、これにおおむね対応する法的思考能力・分析能力が備わっていることを前提として)、刑事訴訟法の集中的な授業(6単位)を行う。さらに、刑法と刑訴法の融合的な論点に関する総合演習科目として刑事法演習(2単位)を提供する。
       
       「刑事訴訟法」では、6単位の授業の中で刑事訴訟法の体系的理解を可能とするばかりでなく、刑事法が機能する「場」を明確に意識しつつ、そこでの刑法・刑事訴訟法の働き(機能)を把握させることが目指される。それは、刑事法の現実(実務)における「使われ方」を理解させることにほかならず、最終的には、刑事手続関与者ごと(裁判官、検察官、弁護人等)に相対的な、しかもどれかに偏ることのない多面的な見方を理解させることにまで及ぶものでなければならない。また、基幹科目としての刑事訴訟法の教育内容は、刑事法(刑法を含む)の理論と実務を架橋すべく、また各法律学分野を横断する統合的な内容を含むものであって、とりわけ刑法と刑事訴訟法との連繋を正確に修得させるものでなければならない。さらには、既存の実定法規の解釈論や手続運用とその前提となっている基本判例の内容を正確に理解することに加えて、理論的ないし政策論的観点から立法論的な色彩を加味したもの(いいかえれば、刑事学や刑事立法論との連繋に留意したもの)となることが要請される。
       
       刑罰法令を実現する手続の流れ、個々の制度の仕組みとその趣旨、基本的な解釈論上の問題と判例あるいは学説による問題解決を取り上げ、法律実務家として最低限要求される深さの理解にまで至らせる。満遍のない基礎知識の修得が目指されるが、時間が限られた授業では、知識の総花的な羅列に陥ることは避け、適切な学習用の教科書あるいは参考書の指定とその自習を前提に、刑事手続の体系的理解にとって不可欠な骨格部分を重点的に取り上げる。
       
       手続の流れを理解するうえでは、モデル事例を設定し、その処理を手続の流れにそってたどっていくことも有効である。とりわけ、事例に即して作成されたモデル書式やビデオ等の教材と組み合わせるならば、学習効果を高めることが期待される。
       
       「刑事法演習」は、既修の刑法の学識を深めるとともに、刑訴法と積極的に結びつけるような内容とすることが考えられる。とりわけ、従来の法学部における刑法教育では手薄となりがちであった、事実関係の把握・分析の能力が授けられるように配慮することが必要となる。両科目の「足し算」ではなく、内容そのものの融合ないし統合が可能となれば生産的である。これまでと異なった新しい論点やテーマを「発見」し、これらへのアプローチを展開させることが課題となる。
       
       授業の目標は、既に修得した体系的知識を具体的な事例について「使いこなす」レベルに高めること、基本的な判例について、その事実関係との対比から、事実関係の変動した事例問題に対する射程距離や判例に基づく立論の技法を体得すること、その上で、判例の解釈論を墨守するにとどまらず、これを素材として批判的・発展的法的思考の訓練をすること、複合する刑事手続法上の論点について、事実関係を分析して刑事手続法上の論点を自ら発見し、説得的な解釈論を展開する能力をつけることに置かれる。

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