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『法科大学院の教育内容・方法等に関する中間まとめ骨子(案)』
 
平成13年11月12日
「法科大学院の教育内容・方法等に関する研究会」
   
I 基本的な考え方
       第三者評価基準は、アメリカ法曹協会(ABA)ロースクール認定基準に倣って、「基準」と「指針」の二段階構成とする。「基準」は、意見書の内容を中心に、ABA基準などを参考に策定するが、原則として抽象的な規定にとどめる。「指針」は、ABA基準の「解釈」にあたるものであり、基準の具体的運用に関わる内容をかなり詳しく定め、適宜改訂することを予定する。
       法科大学院の設置基準は、大学院設置に関する各種基準の従来の策定方針との整合性を確保しつつ、専門大学院に関する基準をも参考にするが、第三者評価基準とも実質的内容が重なり合うように配慮されなければならない。
   
II 法科大学院の教育内容・方法
  (1) 教育課程の全体像
       教育課程の在り方に関する基準は、法科大学院が、法曹養成に特化したプロフェッショナル・スクールとして、一つの完結した教育課程と位置づけられていることから、3年標準型を中心に検討するが、修業年限に関して、3年標準型と2年短縮型の併存を前提としている以上、いずれの型にも共通して妥当するものでなければならない。
       授業日数、単位の計算方法などは、基本的に現行大学院設置基準が適用されることを前提とする。
       修了については、3年標準型は、3年以上在学、100単位以上修得、2年短縮型は、2年以上在学、70単位以上修得を必要とする。
     
  (2) カリキュラム
    1 カリキュラム編成に関する基本的な考え方
       意見書では、法科大学院においては、1法曹に必要な専門的資質・能力の修得と豊かな人間性の涵養、2専門的な法知識の確実な習得、3批判的・創造的な思考力と法的な分析・議論能力の育成、4先端的な法領域についての基本的な理解、5法曹としての責任感・倫理観の涵養と社会貢献の機会の提供などの基本的理念を統合的に実現するものとされている。
       意見書では、以上の基本的理念を統合的に実現することによって、理論的教育と実務的教育の架橋をはかるものとされ、具体的には、少なくとも実務修習は別に実施することを前提として、法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分(例えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することとされている。法科大学院における実務基礎教育については、とくに司法修習のうち集合教育(前期)との役割分担の在り方に配慮し、随時見直すものとされているが、さしあたりは、現行司法試験が並行して実施される期間(5年間程度)が終了する時点に照準を合わせて基準を作成し、その間に法科大学院における充実した実務基礎教育を実施するための前提となる制度的・人的条件の整備を急ぐべきである。
       第三者評価基準および設置基準は、意見書の提言するように、法曹養成のための教育内容の最低限の統一性と教育水準を確保しつつ、具体的な教科内容等については、各法科大学院の創意工夫による独自性・多様性を尊重し、競争による教育内容の向上を促進するようなものでなければならない。
    2 カリキュラムに関する規定の骨子
       法科大学院の教育理念を統合的に実現するために必要とされる科目群を、(a)法律基本科目群、(b)実務基礎科目群、(c)基礎法学・隣接科目群、(d)展開・先端科目群に分ける。各科目群については、その主な科目ないし教育内容を例示し、必修ないし選択必修の最低総単位数のみを定め、科目ないし教育内容の具体的な編成、必修ないし選択必修の単位数の加重は、基本理念の実現を損なわない範囲内で、各法科大学院の教育方針にゆだねる。
       各科目群の内容、配当単位数、留意事項などは以下の通りである。
      (a)法律基本科目群・・・60単位必修
       主として意見書の掲げる上記教育理念の23に関わる科目群であり、「プロセス」としての法曹養成過程において法科大学院が占める位置からして、この科目群が中心的となる。法律基本科目による法理論教育も、意見書の言うように、実務上生起する問題の合理的解決を念頭におき、体系的な理論を基調として実務との架橋を強く意識した内容でなければならず、法律基本科目群内部において、理論的教育と実務的教育の架橋を実効的にはかるよう工夫されなければならない。
       公法系、民事系、刑事系に分け、以下のような内容と単位配分とする。
     
       公法系(憲法、行政法などの分野に関する科目)・・・10単位
  民事系(民法、商法、民事訴訟法などの分野に関する科目)・・・36単位
  刑事系(刑法、刑事訴訟法などの分野に関する科目)・・・14単位
       公法系、民事系、刑事系それぞれのモデルと解説については、資料I・II・III参照。
       1年次・2年次に配当されることになるが、各系列内部で、1年次・2年次への具体的な科目配当や単位配分の仕方は、各法科大学院の教育方針にゆだねる。いわゆる基礎科目・基幹科目の区別は基準では規定しないが、3年標準型と2年短縮型の修了要件総単位数の差(30単位)によって、一定の枠が設けられることになる。
       各法科大学院が法律基本科目群の必修単位数をある程度加重することは認めるが、法律基本科目群が肥大したり、実質的に法律基本科目群にあたる内容の科目が基礎法学・隣接科目群や展開・先端科目群のなかで開講されたりすることは、不適切であり、何らかの歯止め策が必要である。
      (b)実務基礎科目群・・・6単位相当必修+4単位相当選択必修
       主として意見書の掲げる上記教育理念の35に、さらに1にも関わる科目群である。法律基本科目群の教育も、実務との架橋を強く意識した内容となること、展開・応用科目群のなかで、実務家が担当する実務関連科目が相当数開講されること、その後相当期間司法修習が行われることなどを考慮すると、実務基礎科目群に配当する単位数は、現行司法試験が並行して実施される期間(5年間程度)が終了する時点で、6単位相当必修と4単位相当選択必修とあわせて、10単位相当程度が適切である。
       実務基礎科目の教育内容には、大別すれば、法曹としての責任感・倫理観を涵養するためのものと、法曹としての専門的技能の教育のためのもの(法情報調査、法文書作成、要件事実と事実認定の基礎、模擬裁判、ロイヤリング、クリニック、エクスターンシップなど)が含まれる。だが、これらの教育内容は、相互に重なり合っており、それぞれ独自科目として十分に分化確立していないことから、どのような科目編成で実施するかについて、現時点で基準・指針として細かく規定することは適切ではない。
       修得単位の規定方式は2段階構成とする。
       1法曹としての責任感・倫理観を涵養するための教育内容2単位相当、法曹としての専門的技能の教育内容のうち、法情報調査1単位相当、要件事実と事実認定の基礎に関する教育3単位相当を何らかの仕方でカリキュラムのなかに必ず含まなければならないが、これらの内容をそれぞれ別個の科目として実施することは義務づけず、具体的な科目編成や配当年次などは、各法科大学院が教育方針や教員構成に応じて適宜具体化することとする。2以上の必修の教育内容以外の実務基礎科目群の教育内容については、その実効的な実施のための人的・制度的条件の整備状況を見定めつつ、各法科大学院が、その教員構成や地理的条件などを考慮して、科目編成の仕方や実施方法などを創意工夫し、5年間程度以内に、4単位相当の教育内容を選択必修とすることができるようなカリキュラム編成に努力することを義務づける。
       実務基礎科目群の教育内容の具体的な実施の仕方については、例えば、法曹としての責任感・倫理観を涵養するための教育は、模擬裁判やロイヤリングあるいは法律科目などに付加して一体的に実施したほうが効果的な部分もあり、必ずしも独立の科目として実施しなくともよいと考えられる。要件事実と事実認定の基礎教育などは、民事系や刑事系の法律基本科目に付加して一体的に実施してはじめて、理論的教育と実務的教育の架橋がはかれるところもあるから、独立の科目として実施することを義務づけるのは適切ではない。また、法文書作成、ロイヤリングなども、企業法務や家族紛争処理などの展開・先端科目と一体的に実施することが考えられるから、法曹としての専門的技能の教育の実施の仕方は、各法科大学院の創意工夫にゆだねるのが適切である。
      (c)基礎法学・隣接科目群・・・4単位選択必修科目
       主として意見書の掲げる上記教育理念の3に、さらに1にも関わる科目群であり、各法科大学院は、選択必修制によって、学生がそれぞれの関心に応じて効果的に一定単位数の科目を履修することが可能となるように、相当数の科目を開講することを義務づける。
       基礎法学科目群は、外国法をも含み、隣接科目群は、公共政策や法と経済など、政治学・経済学科目が中心となるが、これらに限らない。各法科大学院は、これらの科目群を万遍なく開講する必要はなく、それぞれの教育方針に従って独自性のある科目編成をするように努めるべきである。
      (d)展開・先端科目群
       主として意見書の掲げる上記教育理念のに関わる科目群であり、とりわけ各法科大学院の創意工夫による独自性・多様性が発揮されるべき分野である。各法科大学院は、それぞれの教育方針に従って、法科大学院修了者が、裁判関連法実務だけでなく、行政・企業・国際関係をはじめ、社会の様々な領域における法的ニーズの増大・多様化に対応できるための基礎教育を実施するように努めなければならない。
       展開科目としては、例えば、労働法、経済法、税法など、先端科目としては、例えば、知的財産法、国際取引法、環境法などが考えられるが、両科目群は重なり合っており、区別が困難であるだけでなく、法科大学院設置後は、ますます多様な科目が開講されることが予測されるから、基準・指針レベルで区別することは不適切であり、また、その必要もない。各法科大学院の創意工夫による独自性・多様性の発揮を促進するために、概括的に規定し、修了要件として必要な総単数の約4分の1以上をこれらの科目群に配当することを促進するような規定とする。
       これらの科目群は、学生にそれぞれの関心に応じて自由に選択させることが理想的であり、選択必修科目として基準・指針などで規制することは必ずしも望ましいことではない。しかし、一定の規制を設けないと、実質的に法律基本科目群にあたる内容の科目が展開・先端科目群として開講されるなど、教育内容が偏り、法科大学院の基本理念の統合的な実現が損なわれるおそれがあるから、カリキュラム全体のバランスを確保するために、一定単位の選択必修制をとることなど、最小限の規制を設けることも検討する必要がある。
     
  (3) 教育方法
       意見書は、教育方法について、少人数教育を基本とし、双方向的・多方向的で密度の濃いものとし、厳格な成績評価及び修了認定の実効性を担保する仕組みを具体的に講じるべきであるとし、授業内容・方法や教材の選定・策定などにおける実務家教員との共同作業による連携協力、少人数の演習方式、調査・レポート作成・口頭報告、教育補助教員による個別的学習指導などの活用などを指摘している。
       法律基本科目の授業は、50〜60名を標準とするが、入学者選抜などとの関連である程度の幅をもたせざるを得ない。
       実務基礎教育の授業方法は、各科目の性質に応じて、学生の積極的参加を促進し十分な教育効果を収めうる方式で行うことを義務づけるが、各科目の教員:学生比率や実務家教員の関与形態などについては、人的・制度的条件の整備状況を見定めながら、現実的に可能な方式を検討する必要がある。
       クリニックやエクスターンシップを実施する場合は、法科大学院の外で行われたり、通常の授業時間や学期の期間外に行われたりすることを認めるべきであるが、単位認定要件などを、その特殊性を考慮して、ABA基準などを参考に別途規定する必要がある。
       修了認定に必要な所定の単位のなかに、小論文(レポート)作成とそれについての討議を伴う授業1科目(2〜4単位)以上が含まれていることを義務づける。
       教育方法の統一性の確保と水準の維持・向上にとっては、教材の作成がきわめて重要であることに鑑み、各法科大学院だけでなく、法科大学院全体について、充実した教育を可能とする教材の作成を促進・支援する何らかの方策を講じる必要がある。
       
III 法科大学院の教員組織
  (1) 教員組織に関する基本的な考え方
       基準は、専門大学院に関する基準をも参考にしつつ、法科大学院の特殊性に配慮して定めるが、意見書でも指摘されているように、移行期における法科大学院設置を円滑にするために、当分の間、その基準を柔軟かつ現実的に運用する必要がある。
       専任教員数や実務家教員に関する基準については、法科大学院設置後一定期間が経過すれば、法科大学院教員の相当数が実務経験を経た後に教員になったり、同一教員が法律基本科目と同時に応用・先端科目あるいは基礎法学科目を担当したりすることになり、教員の教育研究スタイルが相当変化すると予測されることを考慮すべきであり、現在の教員の教育研究スタイルを不動の前提にした規定内容にならないように留意する必要がある。
     
  (2) 教員の資格と専任教員数
       教員資格に関する基準は、教育実績や教育能力、実務家としての能力・経験を大幅に加味したものとすべきであり、すでに大学院で教育研究に携わっている者についても、法科大学院の趣旨に照らして再審査することとすべきである。
       専任教員数は、大学院設置基準の規定方式と同様に、最低数基準と学生比率とに分けて規定する。
         1科目群間のバランスにも留意しつつ、最低12名の専任教員をおくことを義務づける。ただし、当分の間、その3分の1の教員は、学部・大学院の専任教員としても算入できるものとする。
         2専任教員:学生比率は、1:15とし、科目群間のバランスに配慮しつつ、専任教員を配置することを義務づける。ただし、当分の間、その3分の1の教員は、学部・大学院の専任教員としても算入できるものとする。
     
  (3) 実務家教員
       学生数に応じた実務家教員の数については、全専任教員の概ね2割程度以上、5年以上の実務経験をもつ専任教員を配置することが望ましい。ただし、当分の間、その相当数は、年間6単位以上の授業を担当し、かつ、実務基礎教育科目を中心に、法科大学院全体のカリキュラムの編成と実施に関与する客員教員・非常勤教員をも、専任教員とみなすことができるものとする。
       第三者評価にあたっては、以上のような専任実務家教員数の要件が充たされているかどうかだけを評価するのではなく、客員教員・非常勤教員をも含めて、実務基礎科目をはじめ、法科大学院のカリキュラム全体における理論的教育と実務的教育との実効的な架橋に必要な実務家教員が確保されているかどうかを、各法科大学院のカリキュラムの内容や学生定員・地理的条件などを個別的に考慮して評価することを重視すべきである。
       
       
   
資料I 公法系のカリキュラム・モデル案
   
資料II 民事系のカリキュラム・モデル案
   
資料III 刑事系のカリキュラム・モデル案

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