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3論文式試験

(1) 全体
問題文が不明確である。質問文がよくない。
例: 論文民事系 第1問 設問2
論文式試験科目について、問題のねらい、回答の目安、採点上のポイントなどをもっと具体的に公表していただきたい(どこまでの解答が求められているのかが、問題の難易度に関わるため)。

(2) 公法系
論文式試験の憲法の問題は、判例を踏まえるものとは言えず、短答式試験とは逆に、柔軟な発想を重視したものにみえる。資料がやや冗長すぎる印象もないではないが、概ね妥当である。プレテストに続き、表現の自由が主要論点となっているが、今後、出題傾向が偏らないように、配慮して戴きたい。これに対して、論文式試験の行政法問題はあまりに凝り過ぎている。第2問の解答には、図面の読み込みなどが必要であるが、もっと素直に行政法の能力を問うような設問を望みたい。
論文式試験では融合問題が避けられたが、第2問は憲法の手続保障や情報公開の要請などを加味するような工夫も検討して戴きたかった。
論文式試験問題の第一問は、表現の自由や経済的自由といった基本的な分野について、直観的には比較的受け入れられやすい規制を素材とするものである。基本的な知識を背景として、直観ないし常識論に流されずに憲法論的に議論が整理できるかを問うもので、適切な問題であったと思われる。また、憲法と行政法との横断的な解答を求める部分もあり(小問1)、融合問題の試みもなされているが、無理のない形といえるのではないか。
出題形式の点も、プレテストのような曖昧な問いではなく、各当事者及び解答者本人の立場からの立論という明確かつ理解しやすい形式であった点で、改善が見られる。
第二問は、問題文が長すぎるのではないかと思われる。
全体としてみた場合、分量がやや多く、十分に解答する時間がない受験生もいたようである。この点については、じっくり考えさせた上で、整理して解答させることが望ましいことから、優秀な受験生の場合には時間が余るくらいでもよいのではないかと思われる。
「理論」と「実務」の一層の融合を「公法」としてめざす「公法実務の基礎」(「民事実務の基礎」、「刑事実務の基礎」に対する)の設置の必要性を検討する。民事系・刑事系にあるような事例を集めた研修所教材が、公法系にもあれば望ましい。
論文試験の資料が多すぎるように感じる。受験者は、試験時間に制約がある中できちんとした答案を書き上げなければならないが、資料の分量が多いため、それを読むために多大な時間を要するのではないか。複数の資料の中から重要な資料を、あるいはまた資料の中から重要な部分を見つけ出させるという趣旨は理解できるが、それでも資料が多すぎる。答案作成のための時間を十分に確保するためには、試験時間を延ばせないのであれば、資料の分量を少し減らすべきではないか。
第1問は、訴訟代理人の両者の主張を書かせ、かつ違憲の主張を書かせるものであり、その点では良問といえよう。ただし、個人(自然人)の人権に対する国家の侵害の有無の問題ではなく、会社(法人)のそれであったことは、たまたまそうなったのかもしれないが、大いに気になるところである。第1回の新司法試験であれば、憲法において典型的である前者の問題が出題されるべきではなかったのか。今後も後者の問題が出題されてしまうのではないかと危惧してしまう。これは出題者がどのような法曹を輩出しようとしているのかという法科大学院制度の根本問題にかかわるのではなかろうか。
公法の論文式試験のうち、憲法(第1問)は適当だったが、行政法(第2問)の問題の量が、やや多すぎたのではないかと思われる。
論文については、公法、特に憲法の設問のあり方に問題がある。違憲と合憲のそれぞれの立論を述べさせた後に、自らの見解を論拠付きで述べさせる三つの設問のあり方は、結局、同じ論拠を繰り返して述べる部分が生じ経済的でない。
あるいは、以上のような記述量が増えることに伴う時間不足を解決するために、触れるべき論点の数を減らさざるを得なくなる。更に、自説と異なる合憲論や違憲論を設問1、2で述べる構成上、合憲論や違憲論の論拠として、通説や判例から余りにかけ離れたとっぴな理論を書くことが戦略的に考えられるが、このようなとっぴな理論で書くことを、不合格と判断することが果たして許されるのか、等の疑問が生ずる。合憲、違憲の設問は2回までに限るべきである。
プレテストに比べれば、大分難易度が低下した。(よくなった)論文式は、資料の量がやや多すぎる感じがする。
第1問憲法、第2問行政法と単純化され、融合の契機や理論志向が窺えない。第1問の素材については、解答を通していかなる憲法知識を問いうるかについて疑問がある。第2問の素材については、この分野に詳しい受験生以外は、資料読解能力に重点が置かれることとなり、法曹として求められる行政法知識が十分試されるかとの疑問がある。
論文式については、かなりひねった問題であったが、法曹に必要な知識を試し、実務との架橋を目指すという点でも、適当であったと思う。

(2-1) 憲法
憲法の論文式については、問題は適切なものだと思うが、どちらかというと旧司法試験タイプの問題で、これまでのプレ・テストなどとはかなり傾向が異なるように感じた。
公法系論文試験第1問(憲法)については、一見新奇な素材のようでありながら、基本的知識があればある程度の解答が可能な内容であると思われます。受験生からは、小問1の「憲法に基づいてどのような主張を行うか」について、できるだけ多くの主張を書き連ねるべきなのか、有力な主張に絞るべきなのかがわからず戸惑ったという声が聞かれます。小問1で挙げた論点が小問2、小問3にも引き継がれていくという設問形式なので、受験生としては小問1の答え方に神経を使ったと思われます。

(2-2) 行政法
特に行政法問題(第2問)の問題量が多く、特殊な制度の理解を問うものであるので解答時間が足りなかったのではないか。
判例の理解について、種々議論がある問題についての出題は控えるべきではないか。(最判の理解について包括指定は個別指定処分の集合物という理解まで問うことは今の受験生には酷ではないか。当事者訴訟というなら議論の余地がある。)改正行訴法について解釈問題が多々あり、いますこしオーソッドクスな論点に的を絞るべきではないか。事実関係についての分量が多すぎて、法的論点をじっくり考えさせるという視点が不足しているのではないか。プレテストに比べてみても今回の問題は分量が多すぎ、また問題の質からみても適当な問題とはいえない。
本学では、解答にあたり、取消訴訟、無効確認訴訟の提起、勝訴の可能性等(特に前者は訴訟要件をクリアしていないことから、後者では瑕疵の程度が問題)に簡単に言及した上で当事者訴訟を中心にした解答を求める問題であるとして理解をした学生と、処分性が引用資料で肯定されていることから本件も処分性ありとして無効確認訴訟を中心にした解答が求められている問題であると理解をした学生(当事者訴訟の言及は必要なしとの理解をした学生)に二分されたような印象をもつ。前者の学生のなかにもさらにどのようにして当事者訴訟につなげるか戸惑いがあったようである。また、違法事由の検討にあたっても事実関係のとらえ方如何によって広範囲な解答が可能であると考えられ、採点基準としてのどの程度のことを求めているのかややよめないところがあるように思われる。本学では、授業では二項道路について学習済みであり、学生に特異な行政領域から出題されたとの意識はない。
行政法の論文式は若干難しい。
プレテストは、よく考えられたハイレベルの問題ではありましたが、法科大学院卒業生に求められる水準を念頭に置くと難解すぎましたし、訴訟形式の選択ないし訴訟要件以外の実体法上の問題については、平均的な法科大学院の授業内容をほとんど活かすことができない内容でしたので、3〜4単位しかない法科大学院必修科目において行政法をどのように教育すべきかについて、深刻な混乱を引き起こしかねないものでした。
しかし、今回の出題は、平均的と思われる法科大学院の授業内容を活かして解答しうる内容であること、判例を読む際には単に一般論の部分を暗記するのではなく事案から理解しなければならないという教訓を与えていること、適度に問題発見・応用能力を試するものになっていること等から、大変適切な出題であったと感じています。
論文式試験第二問については、事実関係をもう少し簡略化すべきであったと思われる。細かい事実の確認に時間を費やしてしまい、記述に十分な時間を確保できなかった受験生も少なからずいたのではないか。

(3) 民事系
論文式試験は、論点中心の勉強では対応できない良問である。具体的事実の中から重要な法的事実を抽出する能力が問われており、法科大学院の教育理念に沿う出題である。プレテストは、解答として想定される内容が細かい点にまで及びすぎていたきらいがあり、実力のある学生にとっては書くべきことは多く見つかるが、何をどの程度書けばよいのか迷う出題であったと思われるが、今回の出題は、その点がやや改善されており、書くべき論点は多いが、各論点自体は基本的なものである。ただし、各論点を抽出し、それについて十分に論ずることができる学生はあまり多くないのではないかと思われる。この意味で、難易度はもう少し易しくてよかったのではないかと思われる。
プレテストでは、民法と他の科目との融合性が見られず、民事系としてまとめて出題する必然性があるのか疑問の余地があったが、今回は、サンプル問題と同じ、「民法と民訴の複合問題」であった。この点は、法科大学院の教育に適合的な出題として評価できるが、このような出題にあっては、要件事実の比重が重くなる可能性があるのではないかと思われる。今回は、教科書類にほとんど記述されていない債権の譲渡担保における要件事実が問われており、その場で基本から考える必要があるよい出題であったが、債権の譲渡担保という実体法において必ずしも最重要でない分野からの出題であったために、教科書類にこれに関する要件事実についての記述がなかったという側面もある。今後も要件事実が独立に出題されるとすると、要件事実を覚えようとする風潮が生ずる可能性もある。要件事実についての機械的暗記を促すような出題にならないように要望する。
設問2は、証拠共通の原則について問うもので、基礎的であり、かつ、正確な理解が必要な部分である。特に、設問のなかで2に対する部分は、具体的な応用力を試すもので良問である。単に1に対する答えを求めるだけで終わると、考える力が試せないし、法科大学院では2のようなアプローチにより法理論の理解を深める学修をしているので、このような学修方法が重要であることを示すものとして評価する。
設問4は、反射効理論の理解を問うものであり、法科大学院で時間をかけて取り扱うオーソドックスな問題であって、良問であると考える。あえて意見を述べるとすれば、この設問では、設例の事実関係が詳しく設定されていることが必ずしも生かされているわけではなく、学説、判例の知識の論述に終わりかねない一行問題に近い印象がある。また、反射効理論は民事訴訟法における重要な論点であり、既判力などの基本的概念の理解度を試す良問ではあるが、法科大学院においては、民事訴訟法の学修過程でこのような困難な理論分野があることを前提に、それだけですますのではなく、このような関係に至るおそれのある事案において、現実の訴訟実務がどのように工夫対応しているかも重要な問題として学修している。これらも加味した問題が付加されると、実務と理論の架橋を課題とする法科大学院の学修の成果がさらに一層生かされるのではないかと感じた。
民事系論文式(第2問)については、問題の水準・内容とも基本的な問題に徹しており、適切であると考える。ただ、問題文をよく読み、考えをまとめるには、少し時間が足りないか、問題数がやや多いように思われる。時間配分を気にしながら、十分な思考を求めるのは少し酷なように思われる。
民事系の設問4は、いわゆる反射効という典型的な問題ですが、判例の立場と異なる立場を基礎づけることを求めるもので、判例の暗記だけでは不十分であることを示しているものとして評価できると考えます。
民法・商法・手続法のそれぞれについて小問をほぼ独立に立てるという出題方式は、維持すべきである。無理に融合問題を出そうとすると、出題できる範囲が限定され、それぞれの法分野について本来問うべき基礎的知識および能力を確認できなくなるおそれが高くなるためである。
問題の水準・傾向については、おおむね維持してよいと考えられる。ただし、要件事実ないし主張・立証責任については、論文式のなかで出題することはよいとしても、単に知識を確認するような設問をすることは疑問であり、要件事実ないし主張・立証責任の分配をおこなうための基礎となる考え方を修得しているかどうかを試すような出題形式にすべきであると考えられる。
全体的にプレテストに比べて良くなっていると言って良いと思う。取引法、商法、民事訴訟法の面からみて、決して難解な論点ではなく、基本的な問題・原則について、事案における具体的適用を問うものであるということができる。ただ民法に関して言えばやや実務的な分野からの出題であり、動産・債権譲渡登記という特別法も視野に入る点で、意外性があったように思われる。講義や演習においては基本を重視しながら、民法の各種特別法についても、個々の法条の解釈のみならず各制度の存在理由・社会的背景などにもできるだけ言及するように努めているが、学生の負担にかなり影響するように思われる。
民事系第2問について、問題量が多かったため、じっくりと構想し、それを表現することが難しかったのではないか。
民事法はバランスの取れた出題だったと思います。
論文式問題における要件事実や実務にやや偏した問題に疑問を覚える。他方で、従来の判例・通説さえ理解しておれば解けるという、旧来の予備校教育を支えてきた旧司法試験を超える新しい設問が工夫された点は高く評価できる。
論文式に関しては、会社法に関する限り、最高裁判例と学説とが大きく分かれている箇所が出題されており、その意味では、しっかりとした判例の把握と学説の分類およびその理解を必要とする適切な問題であると思われる。ただ、出題の仕方として、設問1の内容において、設問2の事実を考慮しないで解答することとされているのは、受験生を混乱させる可能性があるため、適切であるとは思われない。
実体法学者から見て、今年度の民事法の論文式出題問題はやや実務的に過ぎ、予備校教育の弊害を打破し、論理的思考能力の向上・育成の目指すというロースクール制度の目的からみると、やや疑問があるように思われます。
採点基準を公表いただかないと、容易かどうか判断できない。
第2問について
1実体法理論の理解を試しつつ、要件事実思考も検証しうる出題であり、かつ、解答者に要らぬ迷いを与えぬようリードする形になっている点がよい。
2設問の4のように、ある法律上の問題について、異なる立場からの立論を求めるのは今後も続けてほしい。1つの見解(通説・判例か自分のよって立つ見解)でしか問題解決案を示せないのでは、実務家としてつかいものにならないから。
民事系に関して、現行試験に比べてかなりの工夫が認められるが、批判的な創造的思考能力を見るような問題になっているか検討の余地がある。とくに民事系第2問は、要件事実重視に傾きすぎているように思われる。民事系第1問は、よい問題である。
民事系科目第2問の小問のうち、〔設問1〕及び〔設問4〕は、どういう解答を求めているのかが分かりにくい問いであるように思う。焦点を絞った書き方にしてほしい。
問題を解いてみれば、基本書・スタンダードな教科書で取り上げられている論点(それについての正確な理解)だけでほぼ解くことができるが、解答の際には数多くの点に気づかなければならない、かつ、日頃の学習においては新しい立法と判例にも目を配っていなければならないことを要する良問である。
要件事実論の理解を踏まえて解答しなければならない設問1も、要件事実論についての個々の点の記憶よりも理解(司法研修所編『問題研究要件事実−言い分方式による設例15題』法曹会平成15年には、設問1について解説はないが、同書を理解すれば答えられる問題)を試していたので、適切である。
論文式試験問題は良問ではあるが、この水準を満たし、規定時間内に書き上げる院生を育てる教育は、容易ではない。
論文式民事法第1問は、実務的かつ基本的内容の問題であるが、強いて言えば、問題文をもう少し長文にして(情報量を多くして)多様な情報の中から必要情報を抽出させる作業も必要であったように感じる。
民事系論文式の第2問で、動産・債権譲渡特例法に基づく債権譲渡の対抗要件が問題とされているが、民法以外の特別法についてどこまで勉強をしておけばよいかについて、受験生に不安が生ずるおそれがあるので、司法試験委員会として、この点についての適切なメッセージを出した方がよいと思われる。特別法(たとえば借地借家法、製造物責任法、消費者契約法など)の概要の理解を前提とする問題を出題することは差し支えないと考えるが、特別法の規律内容の細部にわたる知識、とくに手続的な部分の知識を問う問題(たとえばプレテスト短答式の供託法についての設問のような問題)は好ましいとは思わない。
民事系論文問題は、傾向がやや理論的すぎると同時にやや実務的過ぎる。このような出題を想定するなら、授業内容に多少の変更を要する。
論文式試験問題[民事系科目第1問]は、ビジネス・プランニング的な要素も取り入れられ、またよく勉強している学生にとっては、難しすぎるということはないであろう。新司法試験の趣旨に適った出題ではないかと思う。
第1問〔会社法〕
事業譲渡について問われている。びっくりする程難しいものではない。問題文も短く、シンプルで、解きやすい問題といえるだろう。考えられることを色々書けばよい。しかも、「会社法上の問題点を指摘しろ」という形の問題を苦手とする学生が多くいる。期末試験等で似たような問題を時々出すが、解けない学生は全く解けない。
第2問〔民法・民事訴訟法〕
プレテストとはかなり異なる。出題者の個性がかなり出た問題だ。これだけの問題を解くには、4時間という試験時間は短すぎる。時間が足りなかったのではないか。
設問1
民法の問題。今回受験した本学卒業生の一人は「債権譲渡担保」を知らなかった可能性がある(債権譲渡特例法についても、試験時に初めて見た可能性あり)。既修コースの学生には、知識が抜け落ちている部分があるかもしれない。百選には取上げられていない最近の判例(平成11年、平成13年あたり)を知っている必要がある。
設問2
民事訴訟法の問題。教科書をしっかり読み込んでいればできる問題である。
設問3
民法・要件事実論の問題。かなりの難問。配点も多いので、この問題が解けたか否かで合否が変わってくるのではないか。
論文式民事系科目第2問は、試験時間内に答案を書ききることがむずかしいのではないでしょうか。特に〔設例3〕は、問題自体もかなり難しく、時間をかなり要すると思われる。しかも、点数配分も多く、受験生は困惑したのではないでしょうか。
設問4
民事訴訟法の問題。やや斜めから尋ねているが、基本的な論点であり、判例をおさえていれば答えられる。ただ、判例を突き崩すような考え方を示す必要があり、答案をまとめるには時間を要するだろう。
商法大問が、やや難しすぎる。債権譲渡特例法関係が、やや実務的すぎる。
出題者を特定できるような出題は好ましくない。
民事法論文式要件事実の出題は,暗記物におちいりがちな要件事実につき論理的な法的思考能力を問う出題であり,高く評価できる。今後もこのような出題が続くことを期待したい。

(3-1) 民法
新司法試験の趣旨を考えるのであれば、債権譲渡特例法が関係する問題を出題することには検討の余地があると考えられる。特定の授業内容によって受験生に有利不利が生じないように、ある程度一般的な問題の出題を心がけるべきであると考える。論文式について、あえて特別法の(基礎的ではあるが)知識を前提とする出題内容としたことは疑問である。また、これまでのサンプル問題とプレテストの問題の傾向が必ずしも一致していなかった状況の下で、第1問目の出題形式が適当であったか、全国の法科大学院教育において、これが共通の内容となっていたかについても疑問が残る。
一般論として、試験の出題範囲を限定しないという方針がとられているが、とくに民法典以外の特別法については、どのような範囲で出題が行われるかについて、おおよその基準・方針を明らかにするべきである。現在の状況では、受験生にとってどこまで準備をすればよいか大きな不安が残る。試験出題者の出題範囲の画定に関する負担軽減が、受験生の負担増と引換えに行われるのは本末転倒といえる。
特に論文式試験については、今回の問題が新司法試験の最初の問題として範を垂れるものとなっていたか疑問なしとしない。特別法を安易に持ち出すのではなく、より基本となる民法の法的思考力を問う問題とすべきではなかったか。特別法に触れているかどうかで差がつくような問題は、講義の現場に対しても特別法の検討に時間をより費やすことを強いることとなり、ロースクールの基本的理念からしても決して望ましいことではない影響を及ぼす懸念がある。論文式試験については、いずれのロースクールにおいても偏りなく、かならず身につけていなければならない基本問題となるよう強い留意が必要ではないかと思われる。
民事法論文式民法の問題は,分野としても極めてマイナーな分野からの出題であり,民法についての受験者の能力を精確に測定できるものであったか相当に疑問であるとともに,特定の出題委員の特定の教材を推知させる可能性さえ指摘されており,このような出題が司法試験の問題として適切であったか強い疑義が残る。
論文式の民法の問題は適切で、いい問題だと考えます。かなりレベルが高く、未修入学者が3年間の学習でここまでのレベルに到達することができるのだろうかとの思いを禁じえません。これは法科大学院制度そのものの問題(制度設計に無理があるのではないか)というべきかもしれません。
高度の内容の論文式試験の他に、まんべんなく的確な知識の習得を必要とする短答式試験にも対応できるだけの学習となりますと、他の科目の学習もあることですから、民法ばかりに集中するわけにもまいりませんので、未修入学者にとっては、大変なことだなと思わざるを得ません。
以上は、試験問題を批判しているのではなく、法科大学院の理念と現実のギャップ、それをどう乗り越えればよいのかという観点からの感想としてお受けとりいただければさいわいです。
民法の問題に関して言えば、問題発見、要件事実、理論的展開能力、問題解決能力についてバランスよく配分されているように感じた。問題発見のレベルで、すでに既存の法知識は試されることになるので、そこで明らかなった法解釈の余地、法の欠缺の領域について創造的な思考を試し、問題解決能力を試す問題がのぞましい。問題解決に関して言えば、実務的な感覚を問うために、問題の処理を最後までやらせ、具体的な解決案まで要求し、その妥当性を問うことが必要である。採点は、問題発見の部分においては客観性が重視されるが、問題解決の提示に関しては、創造性を問い、その創造性の有無に対する評価は共通するにしても、解決案については採点者によるばらつきが多少あってもいいのではないか。

(3-2) 商法
民事法論文式商法の出題については,内容は良いが問題文中に使われている記号(P,Qなど)が特定の教材を推測させるため好ましくない。

(4) 刑事系
問題文自体は長文の形になっているが、理解し易い内容であり、本来の標準的な学生の能力というものにもよく配慮されていると思われる。なお、問題文の体裁・形式について授業の中の事例の取扱いなど若干考慮したい。
供述調書の内容が正しいことを前提とした出題は重大な問題をはらんでいる。是非、改善されたい。刑法と刑事訴訟法及び刑事実務を融合した出題とすべきである。
第1問について
捜査の経過や供述の要旨から事実を切り取って罪責を論じさせる出題形式については、とくに異論はない。今回は「罪責」を論ずることが明示されており、「刑事責任」を問うていたプレテストのときのようなあいまいさは解消されている。
内容的にも、喧嘩闘争と正当防衛・過剰防衛、承継的共同正犯といった基本的・典型的な論点のほか、共犯関係にある場合の同時傷害の特例の適用、さらには、(承継的な)共同正犯への36条2項の適用という応用的な論点の理解を問うものであり、刑法上の論点に関するかぎり、とくに問題はないと思われる。
ただし、2つの傷害結果が、甲、乙いずれの切りつけ行為から生じたものか不明であるという点については、択一的認定という刑事訴訟法上の問題が絡んでおり、理論構成によっては、罪責を論ずるにあたって必要となる傷害結果の認定がかなりむずかしくなるように思われる。刑法・刑事訴訟法の融合的な問題も出題されてよいと考えられるが、刑法中心の第1問において、この点に戸惑う受験生が多数いたならば、問題であろう。第2問について
取り上げうる論点の数が多すぎる。設問1だけで、捜査の違法として論じうる点は10を超える。設問1に割り当てられる解答時間には、約1時間という制約がある以上、受験生としては主要論点を絞り込まざるを得ないはずである。
にもかかわらず、問題文には「主要な問題点を挙げて」というような指示はない。そのため、受験生は、重要と思われる論点にすべて言及する、という答案構成を目指すだろう。だがそれでは、時間不足、論述不足に陥ってしまう。他方、主張論点を絞り込む受験生は、論点もれの不安にとらわれることになる。
もし、設問1の狙いが論点をすべて網羅的に挙げさせることにあるのであれば、その趣旨を明確にするか、もっと事例を工夫すべきである。今回の出題では、たんに受験生を消耗させるだけであり、ほんとうの学力を審査できない。
設問2に関係する論点は、おおまかにいえば違法収集証拠の排除と伝聞証拠の排除の2つだが、そのなかで論ずべき事項は、設問1同様、多岐にわたる。本設問については、いずれの事項も重要で、すべて取り上げて検討すべきなのかもしれないが、このなかには難しすぎる論点も見うけられる。たとえば、違法収集証拠排除の申立適格、「共謀を構成する供述(それ自体が主要事実)」を理由とする非伝聞説や323条3号を理由とする非伝聞説(ただし、本事例では「過去の事実を記録したメモ」ではない)への評価である。
以上のように、第2問においては検討すべき論点が多く、しかも難しすぎるものが含まれている。今回のような出題に的確に解答できる力を養おうとすれば、法科大学院の授業では、かなり細かな論点もおさえておく必要がある。だがそうなれば、学生の負担はかなり重いものになり、消化不良を起こす学生が数多く出てくることになろう。全体として評価したとき、新司法試験の刑事訴訟法関係の出題は「良問」とはいえないと思われる。来年度の問題作成にあたっては改善を強く要望する。
刑事系に関して、論文式試験(第1問)では、共謀にかかる事実認定如何によって、結論が大きく異なってくる出題内容となっており、プレテストでも同一傾向にあったとはいえ、答案の作成に戸惑った受験生が多かったのではないか。
論文式の刑法の問題は、設問との関係でみた場合、問題文が無駄に長いように思われる。
刑事系科目論文第1問で、甲及び乙の罪責について論じる際に、事実認定を求めているのかどうか、やや曖昧である。
第一資料として「捜査の端緒及び経過」では、捜査の結果として「1各切創とも、甲、乙いずれの切り付け行為によって生じたものか、その特定はできず」と記載されているが、甲、乙の供述要旨による甲、乙の各切り付け行為を検討した結果をまとめて同時傷害の要件を具備したという前提での法律論に期待しているのか、またはさらに甲、乙の各供述を加えて事実認定を行って結論を出すことを期待しているのか(この場合、頸動脈損傷による失血による運動障害が発生する時間を考えに入れると、後発した乙の切傷による結果である可能性が高くなり同時傷害の要件そのものが失われる場合も生じよう)、または、これらの差異を理解した答案をきたいしているのか、出題の趣旨に曖昧さを残しているように思いました。
刑事系の問題については、プレテスト問題と比較して、短答式問題、論述問題いずれも問題の難易度などについて改善が図られていると思われる。法科大学院の授業内容に対応した問題が作成されていると評価することができる。来年度以降についても、この形式が継続されることが望ましい。
論文(刑事系)は、良問である。少し時間が足りなくなるかも知れないが、この傾向を維持して欲しい。問題のレベルも適切である。
刑事系論文式試験は、法曹としての実践力を試す出題形式になっており、適当である。
刑事系の論文試験問題については、長文の事例の中から問題点を発見させ、それを解決するために適切な事実を抽出させることを主眼としている点で、実務法曹を育てるための試験と問題として当を得たものと考えるが、第1問(刑法分野)については、理論と実務の融合に気を遣いすぎているためか、事実関係が不明であったり、現実には考えられない部分が含まれるなど、事実関係にやや難点が見られるので、その点を今後改めてもらえると、一層良問となると思われる。
刑事系論文第1問は、捜査の端緒および経過、関与者の供述要旨を示し、これに基いて事実再構成を求め、それに関して法的に論じさせることで、旧司法試験より実務的色彩を強めていることは、理念として納得できる。ただし、このような出題形式においては、現実的想定としては考えにくいが理論的な争点となっているような問題が扱いにくいこと、平板な構成要件充足判断(いわゆる事実のあてはめ)偏重になる傾向があること、などの課題もある。法科大学院授業においては、問題をより立体的に議論しているように思われるので、その成果を反映できるような工夫ができないだろうか。
また、この方法は、旧司法試験の出題においては事実を出題者側が過不足なく示していた部分を、解答者再構成する部分として付け加える(内容が信用できる供述を組み合わせるのでこれ自体で差は生じにくい)だけで、画期的に新しいわけではない。他方、作業としては事実再構成の部分に時間がかかり、試験時間内に充実した答案を作成するには苦しいかもしれない。
論文式問題の第1問は刑法の理解を問うもの、第2問は刑事訴訟法の理解を問うものであり、「刑事系科目」として実体法と手続法が密接にからむ問題を期待していた私には新味に欠けるものであった。
刑法からの出題は、共犯と因果関係の基本的な理解を問うものであり、刑事訴訟法からの出題も、捜査及び公判の各分野から、所持品検査と逮捕に伴う捜索の適法性及び証拠物でもあるメモの証拠能力を問うといった基本的な論点にかかわるもので、ことさらに細かい知識を求めるものではない点、奇をてらう難問ではない点では評価する。
しかし、捜査経過や供述要旨など様々な情報が与えられてはいるものの、事実関係は一義的に定まる内容であるため、結局は、素材の出し方が異なるだけで、従来の事例問題と本質的に変わるところはなかったといわざるを得ない。出題者は「具体的な事実を示して」論ずることを求めているので、あるいは、回答者において事実関係の把握が異なることを想定しているのかもしれないが、提供された情報から確定できる事実関係は一つしかなく、あとは、同一の事実関係の中のどの部分を重視するかによって見解が分かれうるだけのことであるから、やはり、従来の事例問題と変わることはなかったと思う。実務家の立場からいえば、立場の違いによって現れる複眼的思考を試すような問題にはなっていなかったということである。
受験生の立場からみれば、資料を読んで事実関係を把握する作業が加わっただけ時間をロスするので、慣れないと面食らうことはあるかもしれないが、本質的には、従来の司法試験の出題と変わらないので、新司法試験の対策には、ロースクールよりもやはり予備校の方が有益だと考えるのではないか。せっかく、新たな出題方法として実務の資料を素材として提供しているのであるから、もっと実務上の視点を反映した問題を作成するべきではないかと考える。
刑事系論文第1問は、刑法総論の論点を多く盛り込もうとして、複雑になり過ぎていると思う。解答時間に照らしても、もっと論じるべき点を絞り込む方が良い。事実認定の問題を盛り込んだところは、良いと思う。
刑事系論文第2問は、解答時間に照らして、論じるべき点が多すぎる。もっと問題点を絞り込んで、じっくり書かせたい。また、判例の事案との異動を考えさせるような出題もして欲しい。
実務家になるための試験であるから、刑事の論文問題でも、当事者の立場から論じるという観点の出題をするべきである。
論文式問題は、事実認定に重点が置かれすぎである。事実と理論とが2分の1ずつが望ましい。また、刑法総論と刑法各論の分野が均等となる出題が望ましい。

(4-1) 刑法
事実関係がかなり複雑。他方、甲の丙に対する切りつけ行為の後、丙による急迫不正の侵害が終了したかの事実認定につき、間接事実が不足しており、きちんとした事実認定が困難なのではないか。
問題の水準・傾向についてはこれを維持すべきである。しかし、考えられるあらゆる問題を論じ尽くすだけの時間はないので、重要な論点について考察が加えられていれば加点するようにすべきだ。薄く網羅的に論じた受験者だけが有利にならないようにしてほしい。
刑法、刑訴法ともに実務を裏付ける基礎理論を問う良問が出題されているので1年生の講義段階から3年次配当の刑事系各講義において体系的全体的に実務に沿って両分野の基本知識を整理できる講義編成になるよう調整を図る。
論文式刑法に関しては、問題を見るに、基本的事項を確認の上、応用的事項を検討するという解答順序となることが予想され、応用的事項が先行していたサンプル問題やプレテストに比して、本来の実力が測れる形となっているのではないかと思われ、より適切な出題であると考える。
もっとも、2時間では完全に解答することは、やや難しい質・量の問題であるようにも思われ、その点に関してはなお改善を要しよう。やや事案が複雑すぎる印象もある。甲・乙ともにカッターナイフで丙を1回しか切りつけていないにもかかわらず、「ナイフが丙の身体のどの部分に当たったかは分からない」とする甲・乙の供述内容をいずれも信用できるものとするとの事案設定は、少々不自然ではないか。
一連の喧嘩闘争の間に、正当防衛・過剰防衛と評価しうる事態が生じている問題であるが、そこで問われている知識は、正当防衛・過剰防衛に関する基本的な知識であり、特殊な応用的知識が問われているわけではない。この点においては、適切な出題傾向であると思われる。もっとも、具体的な事象経過のどこを切り取って、法的事実として還元するかの見極めが受験生には困難であり、かなり高度な事案分析能力が必要とされるように思われる。かりに、このような出題が続く場合、法科大学院の授業においても、詳細な事案を与えて、その分析・処理を行わせるなど、何らかの対処が必要となってこよう。
事実関係がかなり複雑である。他方、甲の丙に対する切りつけ行為の後、丙による急迫不正の侵害が終了したのかどうかの事実認定につき、間接事実が不足していて、きちんとした事実認定が困難なのではないか。
論文式の問題は、事実をどのように見るかを問うている点で、従来の司法試験の問題よりも、優れているのではないかとの印象を持った。
論文式試験の刑法については、事実認定をさせる前提として、問題文においてもう少し細かな事実を示すとよいのではないか。

(4-2) 刑事訴訟法
基本的知識を正確に理解しているかを問う問題であり、きちんと論述するのは意外と難しい。よい問題だと思う。
問題の水準・傾向についてはこれを維持すべきである。問題の量もこの程度が適当であろう。但し、受験者の側では、限られた解答時間内に書くべき分量ないし深みについて迷うところがあるかもしれない。採点基準は、論点主義にならないよう、柔軟にしていただきたい。
論文式試験は、与えられた事実関係の中から重要な事実を抽出し、生起しうる法的問題点について論じさせるというものであり、出題の水準・形式において適切なものであったと考える。プレテストと比較して、論点自体の難易度は同様に高かったものの、その数は相当程度限定されており、法的議論および事実関係の当てはめの双方において、時間に追われることなく解答を行うことが可能になっていたものと評価しうる。その結果として、実力を有する受験生が十分にその実力を発揮しえたものと思われ、その意味で今回の出題は、受験生の能力の正当な評価を可能にしたものと思われる。
事案も複雑なものではなく、学生の基礎的な事実分析能力を問う問題として、非常によい問題である。いかにすれば、手続を適法と結論付けることができるかという視点を学生に持たすという点からも、今後もこのような問題が出題されることを希望する。
基本的知識を正確に理解しているかを問う問題であり、きちんと論述するのは意外と難しい。良い問題だと思う。
論文式の問題は、基本判例・基本事項に関する理解とともに、法的判断の前提となる事実の抽出能力をも問うものとなっており、学生の能力を判定するうえで良問であるとの印象を持った。

(5) 選択科目
1 全体

2 知的財産法
第一問の設問2は実務的に過ぎて正解を期待するのは酷でないかと思われる。他の解答をした受験生に対しても適宜評価すべきである。設問3も問題点を把握しにくかったのではないか。
知的財産法の試験問題に関しては特許法・著作権法とも、理論的側面及び実務的側面双方を意識したものとなっており、非常にバランスのとれた出題だと評価できる。この点は、実務的性格の強い知的財産法においては、とりわけ重要な点である。
また、問題の水準も、特許法に関する問題(第1問)と著作権法に関する問題(第2問)との間に、やや難易度の差が見受けられるものの、全体としては、特許法・著作権法に関する基本的理解を問い、事例解析能力や法解釈・適用能力を見るのに適したものだといえる。
知的財産法について、特に特許に関しては、ある程度技術にも立ち入ったクレーム解釈を要求する点で、予想を超えていた。特許クレームに技術を当てはめるのは、一般的な社会的事実を法規範に当てはめるのとは性質の異なる作業で、慣れが必要なことであり、法理論の勉強が中心となる授業で、今回のような出題は厳しいのではないか。選択科目からイメージされるレベルを超えていると思われる。
知的財産法は、大変良く練られた良問だと思います。ただし、今後もこのような良問を継続して出題していくことは、大変なご苦労と推察します。
知的財産法第1問(特許法)について判決(大阪高判平成13年4月19日)を下敷きにして作成された問題と思われ、実務的な要素を加味しようとして出題されたように思われるが、判決の事実を中途半端に改変かつ簡略化しているため、司法試験受験者のレベルでは、定められた時間内に解答することは困難であろう。出題者がどのような解答を求めて出題したのか、出題の意図も明らかとは言えない。
設問1は、「均等」を中心として解答することを求めているのか、「間接侵害」を中心として解答することを求めているのか不明である。実際の判決は、間接侵害の均等を適用しているが、その後、間接侵害(特許法101条)については法改正がされており、受験者にとって限られた時間内での解答に苦慮するのではないか。
設問2は、示された限りの事実関係の記述だけからは、ベテラン実務家であっても解答に困るのではないか。あえて何らかの解答をしようとすれば、設問文に示されていない幾つかの条件(拒絶理由の内容、補正の内藤等)を仮定したうえでないと解答できない。均等第5要件に言及させたいのかもしれないが、この設問文だけからは本来均等第5要件を論ずることはできないのであり、司法試験の出題としては、きわめて不適切ではないか。出題者がどのように解答を求めてかかる出題をされたか、正解も含めて明らかにしていただきたい。
設問3は、医師の行為(治療行為)も「業」として侵害となると解答させようとしているのか、東京地判平成14年4月11日や「ヒポクラテスの誓い」などにも言及させて、治療行為には特許権が及ばないと解答させたいのか、不明である。また、本問の「注射液の調整方法」は、実質的には「注射方法」であって特許の対象とならないと考えることもできるが、出題者は、その点を認識したうえで出題したのであろうか。
このような出題では、予備校的受験勉強をした受験生が高得点となり、将来知財法曹で活躍できる素養のある者がかえって不利になるのではないかと心配される。知財法曹人材を大幅に増やそうという知的財産基本大綱・計画にも水を差すことになるのではないか。もっと、基礎的で、シンプルな出題が新司法試験問題としては適切であると考える。
知財関係について、実務的な問題である上に、各問とも論点が多く、理論的にも難しいと思われる(特許法)。知財関係について、分量的にもほぼ問題なく、あえて言えば、問題の量を小問1つほど減らすとよいのではないか(著作権法)。
特許法、著作権法ともに、法科大学院設置の方針に沿う適切な問題であり、サンプル問題やプレテストの問題に比べてもさらに良問といえると思います。
知的財産法に関しては、特許、著作権の各法について、1問しか出題されないのですから、特許法、著作権法それぞれの核心に関わる点の理解を問うべきであると思量致しております。特許法のプレテスト問題は、特許法の理解を前提にしているとはいえ、民法上の問題が主論点でした。しかし、今回の問題は特許権の本質が主論点でしたから、この点につきましてもより適切であると思いました。
唯一、懸念を申し上げますと、「特許の問題は実例に近すぎる」かもしれないという感じが致しました。当該実例に材料を得たにしても、「注射液の調整方法」という事案を離れた「創作的な問題」としたほうが、均等論と間接侵害についての受験者の真の考える力をより的確に把握できるような気がいたします。
特許法について、特許請求の範囲の記載の仕方を問うのは技術的に過ぎ、弁理士試験と類似する。司法試験はあくまで法学徒と対象とした理論的な性格の問題とすべきである。
第1問は、特定の事件と内容が酷似しており、それについての知識の有無によって得点が極端に変わってしまうのではないかとの危惧がある。
サンプル問題とプレテストから比べると難問であった。論点をつめて見すぎている。これでは数年で出すところがなくなる。事実関係が整理されすぎており、要件事実を見抜く能力を問う問題になっていない。

3 労働法
やや易しすぎるようにもおもいましたが、基本をしっかり理解すれば十分に対応できることがわかり、教える立場としては安心いたしました。
労働法は、プレテストと比べて格段によくなったと思います。教科書と判例百選等を丁寧に勉強すれば解答できる良問です。
第1問で具体的な退職金額の計算を求めているが、これはあまりにも実務的技術論にはしりすぎており、司法試験の問題としては不適切ではないかと考えられる。
個別的労働関係法と集団的労働関係法が1題ずつという出題バランスはよいと思う。
事例問題ばかりでなくても、例えば将来の労働法システムのあり方を問うなど一行問題でも受験生の柔軟な思考力・応用力を問うことができるように思われるので、今後は出題形式をワンパターン化するのではなく多様な形を模索すべきである。
労働法について、法理論と実務的要素とを適度にとりいれた適切な問題であったと敬意を表します。
すぐれて実務的であるが、法的争点を抽出し、X及びYの主張、その理論的な裏付け(判例・学説上の論点)を求めるものであり、最初の試験として評価できる。
結論が客観的に導くことが可能な設例となっていて、プレテストに比べて改善が見られ、良問と考えます。
労働法について、事例問題を否定するものではないが、それと共に、「なになにについて論ぜよ。」という論述問題方式の問いも併せて出すべきではないか。(個々の重要な論点ごとに、体系的、論理的な理解を促すため。)
第1問がやや難しすぎる。
今回の問題は、法的な論点については、授業に取り上げる基本判例の学修により対応できると思われる。しかし、両問とも、どこまで解答することが求められているかに迷った可能性が高い。法的な論点を要領よくまとめるのではなく、具体的な事実に即して、法的な構成を考えさせるという能力を要求しているというメッセージが感じられた。この方向性には賛成である。しかし、今回の問題が受験生にどのような能力を要求しているのかを明確なメッセージとして伝えるため、模範解答および詳しい採点基準を公表していただきたい。
労働法は事実が非常に少なくその点は問題であるが,個別・集団双方が出題されていること,適切な論点であったことから,おおむね評価できる。

4 租税法
関係する条文や関係する判例を知っている受験者にとってはやや簡単な問題であったと思われる。しかし、所得税と法人税のバランスの良さとそのレベルを考慮して良問であったと考える。現在の授業レベルと学生の自主的な研鑽を考えると十分合格レベルの解答を作成できると判断した。
裁判例を利用する場合、もう少し評価の定まったものを使うことも検討してはどうか。
第1問 私法との関連を取り上げているという点を見れば、良問であると思われる。ただ、本年3月に出版されたばかりとはいえ、参考図書の第1番目にでてくる判例をそのまま引用しているという点では、出題の仕方を再考する余地があるのではないか。
※参考図書とは「判例分析ファイル1
第2問 この設問は、役員賞与として全額損金不算入となるのか、法人の寄附金として、損金算入限度額の範囲で損金算入が認められるかということを問うているものと思われる。
この争点を原告の代理人と被告の税務署長のそれぞれの立場から明らかにするという点では、極めて良問と思われる。
ただ、この設問に関連した判例によれば、役員賞与として全額損金不算入とされたのであるから、所得税の給与所得に関連した問題ということは間違いなくいえると思われるが、法人の寄附金の意義をよく理解していないとすると、確実に正解するということはできないのであるから、租税法の出題範囲が「所得税法と関連する範囲での法人税法」ということを考えあわせると、評価が分かれる出題と思われる。
所得税法のみならず、法人税についても個人の課税と関連する基本的事項を学習する必要があり、範囲が非常に広汎であるとの感は受験者にとってぬぐえない。しかし、実務の観点からすれば、やむを得ないものと考える。
第1問はよい出題であると思いました。
第2問については、法人税に関するここまで踏み込んだ問題が出るとは予想外でした。内容もやや実務的過ぎると感じました。
第1問は、所得税法プロパーの問題であり、第2問は所得税法と法人税法が絡む問題であり、サンプル問題やプレテスト問題と出題形式は同様であるといってよかろう。両問題とも出題意図が明確に読み取れる良問であり、難易度も法科大学院での平常の授業における基礎的知識の習得で十分に解答が可能なものである。すでに公表されている新司法試験の出題方針にそった問題であった。
第1問は、所得税法での課税関係を問う問題ではあるが、租税法総論(本問では、私法と税法との関係、租税回避行為論)にまでその知識を求めている点で、これまでの事例とは若干の相違があった。出題範囲は、「所得税法を中心とし、これに関連する範囲で法人税法および国税通則法を含み、いずれも基本的な理解を問うものとする」(「新司法試験問題検討会(選択科目)の前期検討事項について」(司法試験委員会・平成16年12月16日)であることから、このような出題は、予想範囲内のことである。与えられた事実関係のもとでの適用条文の具体的な解釈を通じて、いかなる結論(課税関係)を導くかという、論理的思考が問われた、奥行きのある問題である。解答にあたってどの程度まで掘り下げてかくのか、学生にかなりの差が生ずることが予測される問題である。
第2問は、法解釈上の論点を正面から問わず、事例において与えられた事実関係をどのように評価して、主張を展開していくかといった事実認定のレベルに特化した出題であったといえよう。そのような意味で、第2問については、事実関係の評価・分析能力による課税要件事実の有無が問われた問題であり、受験生においてどのように答案を記述すべきかについて、若干のとまどいがあったかもしれない。第二問においても法的な論点をすこし盛り込むことがのぞましいように思われた。
出題された問題は、立法上の不備が問われている箇所であり、課題としては試験に出すのは適当でないと思われる(特に、最初の試験としては)。
第1問は,基本的な判例を踏まえつつも,論理的な思考力を試す問題であり,かつ,詳細な事実関係についての知識の有無にかかわらず回答できるよう質問内容を抑えた良問である。
第2問は,事実関係の中から租税法上の論点を抽出して論じさせる形式で,具体的な事例に直面したときに,自己の租税法の知識や理解を武器にして如何に対応して議論を提示しうるかという問題分析能力や対応能力を試すものである。受験生の柔軟な思考力を問うものとして評価できるものである。

5 倒産法
問題が狭すぎる、第二問が特にそうである。これで倒産法の知識を判断されたのではたまらない。
第1問について基本問題で、破産、民事再生の違いを理解する設問となっており相当と思われます。アンケートに対しては、質問順に、3、3、3、3となります。
第2問について小問1と2の二つのいずれもが、否認のなかでも無償否認に関する設問で、マイナーな問題です。あえて二つの設問を作る意図が理解できません。最判昭和62年を知っているかどうかで回答の質と内容が決まるように思えます。否認に関して、もっとポピュラーな問題作りが可能です。設問の事案でも下記のように少し修正すれば、詐害行為否認や偏頗行為否認の問題を作れたとおもいます。
  1A社が1,000万を新たに借りるために、旧債権の担保と併せて2,000万の不動産に2,000万の根抵当権を設定する、とする案。偏頗行為否認が問える。
  2Dの再生申立を、6ヶ月経過後にする(たとえば5月14日)。そうすると詐害行為否認が問題となりうる。
アンケートの質問に対しては、「問題として適切とは思えない、」という回答にならざるを得ません。
否認を取り上げるのであれば、もっと正面から否認の基本問題を受験者に問うべきでしょう。
設問1.は、現実に生じうる事例であり、問題として適当である。また、平成16年改正で明確にされた事項をとりあげており、学習していることが当然に予想される事項であることから、この点でも問題としたことは妥当といえる。設問2.は、判例のあるところであり、全くの第三者であるDの連帯保証と物上保証は、やや想定しにくいといえるが、問題としては妥当と考える。
やや知識の有無を問う問題になっているのではないか。単純だが考えさせる問題も必要ではないかと考える。
全体として、良問が出題されているとの印象を受ける。
11問目は典型的論点であるので比較的簡単であるが,2問目は準備が足りない学生には解答が困難であったと思われる。
2基本事項について理論的な側面をきちんと理解できているかどうかが合否を分けるだろうという意味で,バランスがとれていると思う。
3倒産実務についても講義内で触れてはいるが,学生にとってあまり体験できない事態に対する脳内での理解には限界があり,今後も理論的側面を中心とする出題を望む。

6 経済法
プレテストに比べて、法律上の論点自体は難しいものではなくなった。事例解析能力を見るという点では、非常に工夫されている。
科目の性質上、実務的な観点からの出題にならざるをえないし、またそれでよいと考える。問題の難易度、量、ともに概ね適切で特に問題点はないと考えている。
第1問、第2問共に、基本的なところが問われており授業をしっかり受けていれば、難なく解答できる問題である。設問自体は、長くて一見して難しそうに見えたかも知れないが、冷静に内容を整理して読んでいけば、十分に時間内に解ける問題である。第1問は、不公正な取引方法の問題点に、市場占拠率50パーセントの事業者を設定することにより、私的独占への発展、またそこからのアプローチを意図している一方で、最近の平成12年改正点(民事裁判)を絡めた問題であり、それはまた訴訟を意識した問題であり、独禁法の理解に役立つ問題であると思われる。
次に第2問は、談合と事業者団体の典型的な問題であり、これも現代の風潮を取り入れたものでまさに適時を得た問題であると思われる
本学の場合、1今後10単位を目途として、また2演習的な科目による事実抽出能力(法律事実を抜き出す力)と法令適用能力(その事実へルールをあてはめる力)に教育上の焦点があてられるべきであると考えられる。
法曹という法の実務家を養成するための試験ですから、ある程度やむを得ないかもしれませんが、上のアンケートに記したように、試験問題の内容がやや実務的な要素が強かったように思えます。これは従来の試験との比較でそのように思えた次第です。それで、通常の講義の際もこれからは、従来の論争点重視の姿勢から、実務面で重視されると思われる論点についても取り上げていかなければならないと思います。いずれにせよ、しばらくは試行錯誤が続きます。
再販売価格維持行為について、その要件である「拘束」の意義について、本件では、認定が容易であるが、事例が異なった場合には、「拘束」の内容についての詳細な学説の検討を要する
事案の説明は分かりやすく、適当であると思う。あえて感想を述べれば、次のとおり。
第1問
甲製品は原料と思われ、需要者は事業者であろうから、卸売業者は、Aから、8パーセント上乗せした価格で販売するように言われても、(消費財と違って)取引先との力関係から、実現できないことが考えられないか。まして、供給が過剰になってくれば、その傾向が強いであろう。
第2問
生産設備の買取の問題は、独占禁止法上違法かどうかの判断は非常にきわどいと思う。いろいろな事情を想定してその考え方を記述すればよいのかもしれないが、受験生を悩ませるに十分すぎる問題のような気がする。
経済法に関して、サンプル問題、プレテストとの一貫性が疑問である。(問題形式)
プレテストなどに比べると基本的な問題となった。
独占禁止法上の基本的な問題を問うている点、ならびに民事訴訟も視野においての設問のあり方は、望ましいあり方である。
設例の水準が、一見簡単なようで実はかなり難しい問題を含んでおり、受験生には酷なようなレベルの設例である。設問における問い方から、出題者の意図を探ることで、要求されている解答はさほど難しいことまでは要求されていないのだろう、ということはわかるが、そのような出題が「良い問題」かどうかは疑問がないではない。
経済法の出題は,素直な問題で良問といえるが,訴状を書かせる点はやや実務的すぎるのではないか。

7 国際関係法(公法系)
国際関係法(公法系)については、個々の問題についてはさほど難問ではないのかもしれないが、範囲が広いので、全範囲をカバーしつつ、これだけの問題を解くとなると、相当困難なのではないか。
両問ではともに、国際慣習法の成否が論点の1つとなる。慣習法の成立は理論的にはもちろん実務上も重要な問題だからこの出題自体は積極的に評価できるが、2問の間に重複があることは好ましいことではない。出題者の間でより緊密な調整が行われることを期待したい。第1問ではこのほか、条約の効力発生以前にその趣旨および目的を阻害しない義務といわゆる「しのびよる国有化」が論点となるが、これらは条約法においても国際経済法においても周辺的な問題であり、出題としての適切さに疑問がある。他方、第2問が問う国連総会決議による国際慣習法の成立はよりオーソドックスな出題と評価できる。しかし第2間では、A・B間およびA・C間における関連条約の有無など、解答者にとって気になる点が設問中に示されていない。設問の仕方から見て、結論的にはこれらの論点に触れる必要はないと思われるが、解答者に不要な考察を強いるかも知れない点で問題が残る。
なお、両問を通じて言えることとして、サンプル問題とプレテストの問題では国際法の国内的適用と国際的適用とが各1問という適切なバランスが取られていたのが、ここでは踏襲されていないこと、生の資料を与えて解答者に考えさせる工夫がないことが、問題点として指摘できるように思う。
両問ともに、受験生が、個別要素をどのように有機的に結びつけ、説得力ある法的主張を構成することができるかを問う出題であり工夫のほどは分かる。しかし、特に、未修者にとっては難問であると思われる。各法科大学院で国際公法の単位が何単位であるかを踏まえて出題内容を検討する必要もあると思う。

8 国際関係法(私法系)
国際私法、国際民事手続法及び国際取引法の出題のバランスが国際私法に片寄り過ぎている。従って、今後、上記それぞれの科目について、30パーセント〜40パーセント対20パーセント〜30パーセント対30パーセント〜40パーセントの比率が守られるよう出題して戴きたい。すなわち、規模の小さい法科大学院では、上記3科目中1科目、例えば国際私法又は国際取引法の履修しかできない。その場合、国際私法の履修者と国際取引法の履修者を同じように取り扱って戴きたい。因みに、回答者の法科大学院では、国際取引法(私法系)を選択する受験生の負担が極めて大きくなる。
問題の量、内容とも、適切であったと考える。
もっとも、国際関係法(私法系)の分野とされる、国際私法、国際手続法、国際取引法、の3分野のうち、狭義の国際取引法にかかわる問題は、第2問の中の小問1つくらいで、全体を占める分量としては、少なかった感じを受ける。これは、以前から指摘されていた通り、いわゆる狭義の国際取引法の分野は、根拠条文もほとんどなく、実務部門におけるものを主たる内容とするため、その重要性は否定されないものの、試験問題にはなじみにくいということが反映されたものであると考えられる。国際関係法(私法系)に国際取引法を範囲とすることの見直しも視野に入れながら、今後、検討すべき点であると思われる。
身分・家族法関係1問、財産法関係1問という出題パターンが定着したようである。設問1.2.いずれも違和感のない問題である。ただし、設問1.の小問2.については、A州裁判所がYに支払いを命ずる判決を言い渡し、Yがそれに従っている設定であるが、「YはA州の裁判所に係属した訴えに応訴し」など一言入れた方がよいのではないか。
全般的には平易で素直な問題になっているが、第1問の設問1は、スタンダードな論点とはいえず、定説といえるものもないため、A州の管轄原因を列挙するという出題形式とも相まって、受験生をとまどわせたのではないかという印象をもつ。ただ、これも、思考力・応用力を試す趣旨であるとすれば、首肯できないものではない。
第2問は、設問1、2、3が相互に独立であるとされると、事例との関係で思考が混乱する恐れがある。「信用状」、「F.O.B.」(正確にはFOB)、「インコタームズ2000」という用語を、事例の中であえて用いる意味も不明確である。また、売主が甲国会社である場合に準拠法を日本法としながら法廷地を定めていないこと、ワインの品質を1年後にしか確かめなかったにもかかわらず品質劣化の原因が正確に分かること、外国の二重買主が物品の返還を求めて日本裁判所に訴を提起することなど、かなり不自然な事例となっている。実務的に見て、より自然な事例と設問とを工夫すべきであろう。
第1問設問2は、扶養義務の準拠法に関する法律4条の「その離婚について適用された法律」が外国離婚判決の承認される場合には原判決国で適用された法をいうとの知識がなければ解けない問題であると思われる。すなわち、そのような知識のない受験生が現場で思考して、実体の問題で、反致の問題でもなくも先決問題でもないのに外国裁判所の適用した準拠法が日本でも準拠法となるとの結論に至ることは困難だと思われる。
この解釈は山田鐐一・国際私法や溜池良夫・国際私法講義には出ているものの、やや細かすぎ、知識偏重の問題ではないかとの感がある。特にヨーロッパ等ではこのような解釈に対して立法論として批判が強いことからすると、現行法解釈についての問題ではあるが、古い知識を試すものであってあまり適切ではないように思われた(立法論として問題となっている箇所だから逆によく知っておくべきであるとの意図で出題されたものと想像されるが。)。
出題の形式、難易度は予想された通りである。2題中、1題が家族法関係、他の1題が財産法関係であるが、後者は、国際私法のみではカバーできない商取引の知識が必要とされる問題である。従って、国際関係法(私法系)を選択する場合、国際私法と国際取引法の両者を一緒に履修することが必要となる。両科目の担当者間で、その範囲分担を明確にし、遺漏がないよう注意しなければならない。
設問1の(1)は、アメリカ合衆国A州の裁判所が下した、Yに対してZへの扶養料の支払を命ずる判決の承認について、A州の国際裁判管轄の有無を問うている。従来の通説・判例によれば、外国判決の承認に関する民事訴訟法118条1号に定める間接管轄の判断基準は、原則として、わが国の直接管轄の決定基準に従うものとされている。しかし、わが国の国内法上は家事非訟事件として扱われている扶養料支払請求事件の国際裁判管轄については、学説による議論の蓄積は多いとはいえず、裁判例も少ない。しかも、出題自体は、東京高裁平成9年9月18日判決を念頭に置いたものと推測されるが、本判決においては、監護者である母から実父に対する「養育費」支払請求について下されたアメリカ合衆国オハイオ州判決が承認の対象となっており、子から実父に対する扶養料請求事件と同列に扱いうるか否かは別途検討を要するところである。そもそも扶養料ないし養育費請求事件の国際裁判管轄は、特殊な論点であり、主要大学の法科大学院のカリキュラムを見たかぎり、授業で取り上げることは予定されていないようである。このように、(1)の出題は、設問として必ずしも適切ではなかったものと解される。
また、設問1(2)は、ハーグ条約を国内法化した特別法である「扶養義務の準拠法に関する法律」に関する出題であり、(1)と同じく、特殊な論点である。しかも、(これは設問1及び2を通していえることでもあるが)、受験者の思考力を問うような応用問題となっておらず、知識があればそれに基づいて単純に解答できるが、その論点を知らなければ解答できない内容となっている。出題方針としては、基本的な知識を前提としながらも、考えたうえで解答させる種類のものとすべきであったと思われる。
全体で3時間という回答時間とすると、少々設問の量が多い。2問で6設問を4〜5設問であってもよかったのではないか。それでも十分に基本的知識の確認を求められる能力の評価はできる。
国際取引法の設問は、引き渡された特定物のワインが転売され、陸揚げ後1年経ってから検査が行われ、その損害賠償請求が許されるかを問う問題である。FOB、信用状決済、運送契約が問題に記載されているが、まったく無関係であり、専ら、民法570条(566条)の瑕疵担保問題と、商法526条の検査・通知についての意義と効果の問題が問われている。つまり、今年の問題は、国際取引法の授業を履修する必要は全くなく、民法の売買と商行為法をやっていれば解答できるものであった。
このような出題傾向が今後も続くとすれば、法科大学院のカリキュラムを変えることが、学生にとっても望ましいと言えるかもしれない。国際取引法部分の司法試験準備としては、民法、商行為法、国際海上物品運送法、インコタームズ及び信用状決済を中心に勉強しておけば十分。これは、民法、商行為法の授業及びこれらの授業でやらない部分(例えば国際海上物品運送法、インコタームズ、信用状決済)を国際私法及び国際民事訴訟法の授業内で1回か2回の授業を行えば、足りる。一方、国際取引法の授業は、試験範囲の束縛から離れ、自由に、現実に起きているダイナミックな国際取引に適用される法を広く学生に教え、学生にこの分野に興味を持たせることが考ええられる。この場合、日本法に拘泥せず、国際通商で大きな影響力ある英米契約法の考えかた、徐々にグローバルスタンダードになりつつある国連国際物品売買条約、国際民法と言われるユニドロア国際商事契約原則などの動向に加えて、現在問題となっている国際投資、買収、ファイナンス、プロジェクトなども学生に教えるのが良いであろう。
第1問は、扶養料請求に関するものであり、ヨーロッパでは大きな問題であり、また、ハーグ国際私法会議で新しい条約を審議中であるとはいえ、日本ではあまり生じていないため、やや意表をつくものであったように思われる。
第1問の問題1では、1から6までA州法の内容を示してはいるものの、回答に当たってはこの点は無関係であり、受験生を惑わせるために手の込んだことをしているとしか思われない。問題文との関係では、「A州では州内で訴状の交付送達がされれば管轄が認められ、裁判が行われたところ」と書けば済むはずであり、意地の悪い出題ではないかと思われる。
第1問の問題2は、「扶養義務の準拠法に関する法律」の4条の解釈問題であり、国際私法の講義において、中心となる法例に加えて、この法律の細かな点まではおそらく議論されていないと思われるため、重箱の隅をつつくタイプの問題と評価されよう。また、第1問の問題2において、承認されているA州判決の既判力との関係まで詳細に論ずるとすれば、ややレベルが高すぎるかも知れない。
第1問の問題3は多くの受験生にとって簡単すぎる問題であろう。
第2問は、国際取引法の出題範囲が日本の実定法に限定されていることからやむを得ないこととはいえ、商法の商行為法の素養が回答のできを左右するように思われる。
第2問の問題1は、義務履行地管轄についての一般的問題である。
第2問の問題2は商行為法の問題。
第2問の問題3は、輸入盗難車の所有権に関する最高裁判決を前提に、物権準拠法に関する法例10条2項の適用について問うものであり、その最高裁判決の問題部分をきちんと理解しているか否かが試されることになり、良問であろう。
国際関係法(私法系)の出題は、基本的には適当であると思われるが、第1問の設問2には疑問を持つ。準拠法のみを問う設問は旧来の抵触法特有の理論的色彩が強い出題方法の残存を思わせる。また、この問題については判例も少なく、学説も十分には尽くされていない。いくつかの見解があり得る上、減額請求の許否、減額を許す条件や程度についての制限の有無、金額算定の基準などについて一つの準拠法で全て処理すべきかについても検討を要すると思われる。これらの点を考えると、やや難解な出題であり、今後この種の問題が増えてくる点は理解できるが、試験問題としては適切性に疑問を持つ。
1サンプル問題およびプレテストと比べ,難易度が高く,解答すべき分量も増えている。時間内にじっくりと考えて解答させるには不適当と思われる。
2第1問の設問1では,不必要な情報として,米国A州法上の管轄規則が詳しく挙げられており,受験生を戸惑わせる狙いがあったものと思われる。
3第1問の設問2では,法例ではなく扶養義務の準拠法に関する法律が取り上げられており,しかもハーグ条約特有の規定の解釈を問うているので,基本知識を問う新司法試験の趣旨からは,少し外れる疑いがある。
4第2問の設問1は,プレテストの第2問の設問1のように,特定の管轄原因(義務履行地管轄)に絞るべきであったと思われる。受験者にとっては,短い時間でどこまで答えればよいのか,迷うところである。
5第2問の設問2は,契約の準拠法とともに,目的物の検査通知義務に関する商法526条の解釈を問うものであり,出題内容として国際取引法というよりも民商法の領域に属する点に疑問がある。
6第2問の設問3は,物権変動の準拠法とともに,問題文に示された甲国法の適用結果を事案に即して解答させようというものであり,その意味では面白い試みであるが,これに対応するための授業を行うことは事実上不可能であり,専ら受験生のセンス次第である点で疑問である。

9 環境法
設問に関する資料の提供について、持ち込み可が「ポケット六法」だと環境法規は4件程度と少なく、「小六法」だと20余件とやや多くなるが、多いとはいえないので、それらとの関係で、資料の提供につき工夫を要するものと思われる。
環境法学の独自性を踏まえた、オーソドックスな良問である。
環境法に関して、今回の問題水準は適当であったが、それは出題者が相当に自制した結果だろうと思われる。これよりも難問化しないように望みたい。
行政関係法を履修してない者は、不利益を受ける。未修者には、その意味で、不利な課題である。
環境法第2問 設問2の論述を求める対象を特定させる「法政策的仕組み」という用語は、意味内容が定着した表現ではないので、不適切な用語使用であると思われる。
第1問、第2問ともよい問題である。
第1問の設問1で、改正前と改正後の規定の比較検討を求め、許可業者が「不法投棄した場合を念頭において論ぜよ」と指示を与えているのは、論点をしぼるために適切な配慮である。[資料]の摘記も適切である。
設問2もよい設問である。排出事業者処理責任は環境法制における責任原則の一つである。回答に当っては、基本的な責任(イコール負担)の意味と政策的な効果を考えなければならない。「改正に至る背景に触れつつ論ぜよ」と求めたのもよい。答案には、日頃から廃棄物処理の紛争事例に関心を持ち、判例をよく読んでいる学生と、そうでない学生との差が明らかになると思う。
第2問は、自然保護と開発との対立を通して、「環境利益」についての考えを問うている。設問1は、訴訟を提起する際の「当事者適格」についての理解、判例の動向をどこまで読み解いているかを問う。環境法の理念といわれている環境権との関連で、法予防のシステムを考えさせるのもよい。
いずれの問題も環境法規と判例をよく読み、考えている学生には回答する意欲を起こさせる問題である。つねに環境問題について広い視野をもち、法的になにができるかを考えることを求めている。
【第1問】
この問題は、環境法における、そして循環型社会形成における基本的な原理の1つである排出者責任の理解を、歴史的に、そして具体的な法規定をふまえて論じさせようとするもので、適切なものであると考える。量的にも、またレベルの面でも適切であると考える。
【第2間】
[問題1]では、開発行為者Aへの民事訴訟について聞かれており、自然享有権(《民有林における》「ハイキング・森林浴を楽しむ権利」)、さらには「自然の権利」などを中心として構成し、[問題2〕では、それをふまえて、開発と地域の環境のあり方についての住民の参加の仕組みを、環境権の理念を中心に構成すべきことを、個別法制とは全く切り離して論じることが期待されているかとも思われる。
細かな法解釈よりもあるいは、少なくとも、法解釈だけではなく、理念や原則、政策について聞くというこのような出題は、環境法という政策と法が一体となった、しかも発展途上の分野の出題としてはありうる方向かとも考えられる。
ただ、個別法制と全く切り離した「法政策的仕組み」として、何を論じるか。一般的に、地域空間のあり方における共同決定論・環境影響評価(司法試験六法には環境影響評価法は収録されているが、本問では当該開発への同法の適用の有無についての条件は与えられていない)・団体訴訟等訴訟のあり方の再検討の必要性、などを環境権の理念を軸に論じることになろうか。現実にこの種の問題で関連してくることが考えられる絶滅危惧種保存法、森林法、都市計画法、国土利用計画法など(司法試験六法に収録されていないこれらの法律を関連させて論じさせることが適切だとは思われない)の個別法と切り離して、理念の問題だけで論じることが求められているとすれば、サンプル問題・プレテスト問題とかなり傾向の異なるもののように思われる。
法科大学院で環境法教育を行っていく上でも、早期の解題提示が望まれる。
たいへんよい問題であり、出題者に敬意を表する。とくに第1問の場合、出題者は、学生が法制度の変化の背景にある社会事象を認識しているかどうか試そうとしているように見える。教員の側から見れば、そうした社会事象を示しつつ法制度の骨格と基本思想を解説できるかどうか、力量を問われているということが言えよう。第2問の小問1では、開発事業者を相手取った訴訟のみを解答させているが、設問の在り方としては、たとえば林地開発許可の差止訴訟ないし取消訴訟といった行政訴訟の可能性を問うことも考えられる。今回それが問われなかったのは、問題の分量が多くなりすぎるためか。それとも受験者の解答の内容が行政法の知識に偏することが予想されるためか。公法科目の問題との棲み分けが気にかかるところである。第2問の小問2に関しては、出題者はおそらくオーフス条約への言及も期待しておられることであろう。正面から国際法の論点に関する知識を問う出題はされないとしても、受験者は国際法の知識をも吸収してより深みのある答案を書けるようにしておく必要があると思う。それだけに環境法担当教員の負担はかなり大きい。
第2問につき、設問が多少抽象的であり、論述すべき内容がやや多すぎることにはならないか。

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