- (1) ヒアリング
① 共同カイテック株式会社の吉田氏及び安川氏から、知的財産訴訟の現状、課題について説明がされた(資料1)。これに対して、次のような質疑がされた(▲:吉田氏、△:安川氏、○:委員、●事務局)。
- ○ 無効審判制度の在り方について、特許制度のユーザーの中に、予見可能性の高い一致した取扱いを求める声が強いことは理解している。この観点から、指摘された進歩性の点を含めて審査基準を作り、審査、審判で統一的な判断ができるような手当をしている。
他方で、進歩性の判断基準については、近年、厳格化の方向にあり、これが原因で時期によって判断に相違が生じたのではないかと予想している。厳格化の背景には、判断基準が甘すぎるとのユーザーからの批判、審決取消訴訟における東京高等裁判所での判断がある。
さらに、審判は、職権主義ではあるが、基本的には当事者が提出した証拠によるので、証拠が違えば結論が違うこともあり得る。
無効審判が繰り返されることについては、現在特許庁で検討している法改正の後には、減るものと考えている。
△ 特許庁の審決の理由は、抽象的・定型的な表現で、納得できないことがある。裁判所の判決のように具体的な理由も書いてほしい。
○ 第1の事例は、富士通半導体訴訟の最高裁判所判決が出されて日が浅く、いまだ裁判所でも無効判断のプラクティスが十分に確定していなかったことがあるのではないか。最終的には、侵害したとされる会社が設計変更しており、また、和解金も得られているのであって、差止訴訟の目的は、相当程度達成できているのではないか。
第2の事例は、裁判所で無効判断のプラクティスがある程度固まった後の事例である。裁判所が、無効の可能性もあると言及したとのことであるが、裁判所がこのように言うのは、かなり明白な事実評価があってのことではないか。そうすると、特許が確定的に無効になることを回避し、和解金を受け取っているので、相当程度訴訟の目的を達成しているのではないか。
△ 事例1については、和解のチャンスが2回ほどあったが、裁判所から提示された和解案では、金額が低く、審決取消訴訟を提起した。その後、A社から和解金の上乗せがあり、和解した経緯がある。最初の裁判所の和解案には納得していない。
○ 無効論をクリアしなければ侵害論へ進めない一本化体制とすべきとあるが、原告側に立つ場合、被告の側に立つ場合のいずれでもそうなのか。有効か無効かを確定しないと侵害訴訟が提起できないとされてもいいのか。
△ 同時進行にならず、有効か無効か、はっきりした後で権利行使できた方がいいと考えている。
○ 裁判所の和解勧告の在り方の問題点は、和解金の金額の問題が大きいのか、進め方の問題が大きいのか。
△ 双方である。
○ 裁判所を優先して、無効論をクリアしなければ侵害論へ進めない一本化体制を作るとあるが、権利を狭めてでも生かしたいという場合はどうするべきか。
△ そこまでは検討していない。
○ 事例1の和解は、特許庁の無効理由通知を前提としているが、無効理由通知で出てきた証拠と、当初裁判所に提出された証拠とは同じなのか。
△ 引用例は違っても、技術内容はほとんど同じであった。
● 侵害訴訟で無効判断するとなると審理が長期化するとの問題が指摘されているが、この点をどのように考えているか。
▲ 我が社の製品は足が長いので、長期化してもいいから、一本化する方が望ましいと考えている。
- ② 日本弁理士会の村木氏、日本弁護士連合会の藍谷氏から、知的財産訴訟の現状、課題について説明がされた(資料2、3)。これに対して、次のような質疑がされた(▲:村木氏、△:藍谷氏、○:委員)。
- ○ 弁理士会の意見に関して、侵害訴訟における無効の判断について、現行制度の原則を維持しとあるが、その上で特許等の無効の抗弁を認めるというのはどういう意味なのか。対世効を有する判断を求めるのであれば、無効審判の結果を待つべきであるとあるが、裁判所は、侵害訴訟を中止すべきだとするのか、判断を継続できるのか。無効審判請求についての時間的制限を設けるとあるが、無効審判請求をすることについてだけ、時間の制限を提言しているのか。
▲ 1点目については、無効の抗弁ができるとの具体的規定を設けてはどうかという提言で、その意味で、現行制度を変えるという趣旨であり、裁判所と特許庁の二つの機関が並立するという意味では現行の制度を前提としている。2点目については、無効審判の請求がされた場合には、侵害訴訟を必要的に中止をして、無効審判の結果を待つことを考えている。3点目については、一定期限を限って、当事者に無効の抗弁か無効審判請求の選択を迫ることを考えている。
○ 弁理士会の考えは、対世効を求めるかどうかを当事者に任せ、もし当事者が対世効を求めなければ、裁判所は有効性について必ず判断するということか。
▲ 無効の抗弁ができることにし、裁判所が有効性を判断して、特許庁に無効審判を請求するか否かは、当事者の判断に任せることを考えている。
○ 日弁連は、東京高等裁判所への専属管轄化について、どのように考えているのか。
△ 日弁連は、控訴審の東京高等裁判所への専属化、第1審の東京地方裁判所及び大阪地方裁判所への専属管轄化については、いずれも反対している。これは、専属管轄化すると、知的財産訴訟に関わる弁護士が限定されるからである。また、東京高等裁判所に専属管轄化しても判例の統一は達成されないと考えている。弁護士が知的財産訴訟に精通するには訴訟を実際にやらなくてはならず、地方の弁護士にもこの機会が必要である。また、所在地で裁判ができないのは、地方のベンチャー企業の育成を阻害する。
○ 弁理士会は、東京高等裁判所へ専属管轄化することのメリットについて、どのように考えているのか。
▲ 東京高等裁判所は、裁判官、調査官とも充実しており、このようなスタッフの問題が一番大きいと考えている。
○ 法制審議会では、地方裁判所については、専属管轄化の方向で議論されている。高等裁判所については、来年1月に、部会の意見をとりまとめる予定である。現在は、競合管轄案と、専属管轄化案の両案がある。
○ 富士通半導体訴訟の理論は、一日も早い紛争解決を図ることにあったはずだが、必要的に侵害訴訟を止めるような制度にすると、すべての被告が無効審判を請求することにつながり、迅速な紛争解決が妨げられるのではないか。
▲ 十分に検討していないが、新しい無効審判制度に期待している。
○ 実際には無効審判が先行したり、当事者が異なるなど様々な問題があると思うが、それでも必要的中止か。
▲ 十分に検討していない。
○ 調査官と専門委員との役割分担はどのように考えているのか。
△ 知的財産訴訟における調査官は、専門委員に統合するか、極力役割を小さくすればいいと考えている。
▲ 調査官は、飽くまで裁判所を補助する役割であるのに対して、専門委員は、技術者の立場から裁判に客観性を持たせるための制度であると考えている。
○ 弁理士会から、全件専門委員をつけるという提言があるが、費用もかかるし、時間もかかるのではないか。
▲ 全件つけることを前提として、必要であれば外すという方向性がいいと考えている。
○ 知的財産協会での議論では、訴訟に参加する専門家に当事者が質問をすることが重要と考えていたのだが、弁理士会の言う専門委員が発問をするという提案は、逆ではないか。
▲ 弁理士会の議論は逆である。
○ 法制審議会で議論されている専門委員は、あくまでも裁判官の専門的知識を補充するものを考えている。発問も、弁論内容等が不明なときに発問し、裁判所をサポートするものを想定している。
○ 東京地方裁判所では知財専門調停を始めたが、当事者の挙動を見ていると、関与する専門家がどのような経歴を持っているかを明らかにするように求め、結局、当事者がその専門家が調停委員になることを拒否をするということもある。専門委員は、調査官では対応できない特殊な分野を想定しているが、このような分野で専門委員となりうる者は、その分野の有名人であることが多く、なかなか選びにくいという問題があるのではないかと想像している。
- ③ 特許庁の小林委員、最高裁判所の定塚氏から、知的財産訴訟の現状、課題について説明がされた(資料4、5)。これに対して、次のような質疑がされた(▲:小林委員、△:定塚氏、○:委員)。
- ○ 無効の判断を侵害訴訟でやるとなると、具体的にはどの程度の制度を考えているのか。
▲ 無効審判については、請求から審決まで13か月くらいかかっているが、事務処理期間、当事者の応答期間が長くかかっており、改善の余地があると考えている。侵害訴訟については、よく分からないが、産業構造審議会の紛争処理小委員会では、求意見制度、嘱託鑑定制度なども強力に主張されたが、反対の意見もあった。
○ 現在では、侵害訴訟の審理は新幹線ドケットだと言われるほど早くなっており、これ以上審理期間が短縮できるのかという素朴な疑問がある。他方、専属管轄化が達成されたとして、侵害訴訟で無効判断するべきこととされた場合、感覚的に2年以内の判決は可能なのか。
△ 裁判所の審理迅速化の原点は、ラフジャスティスにならない範囲で、できる限りの合理化をしようという点にある。これ以上の迅速化はラフジャスティスを招きかねず、1年というのが一つの目安だと思っている。
侵害訴訟で無効判断すべきこととされた場合、2年以内の判決が可能かについては、制度設計次第であると考えている。たとえば、韓国の職権優先審判制度のような制度を考えるのであれば、それほど審理期間は延びないと思う。ただ、明らか要件を外し、かつ無効審判をやめてしまうとなると、資料5−12のイメージ図のように審理期間が延びると予想している。
○ スクリーニングという観点から考えた場合、究極的な解決の観点を考えて審判しているのか、限られた人材をどう活用するかという要素があるのか。
また、審判については、その後司法審査を経ることになるが、審査基準等に触れた裁判例、法律論について触れた裁判例などについて、特許庁では、どのような調査体制が取られているのか。
▲ 無効審判等については、優先的に行うとともに、内容についてはできるだけ維持される方向を目指している。一方、査定不服審判については、ある種、裁判に行く前の行政庁内部でのスクリーニングの機能もある。
判決の判断については、審決取消訴訟の影響力は当該事件限りだというのが原則だが、同種の事件については、同種の判断がされることが予想されるので、特許庁の判断が改められるべきことが示されていれば、運用なり審査基準を改めることもある。侵害訴訟における判断については、これをどの程度重く見るべきかについて議論があるところである。
○ 裁判をするときに一件当たり何時間又は何人日をかけているかを明らかにすれば、マンパワーをかければ解決するのか、制度を変える必要があるかが明らかになるのではないか。
△ 有益な示唆だと思う。もっとも、代理人や当事者の準備のために時間がかかっている部分もあり、これは弁護士の手持ち時間など裁判所として十分調査できないところなので、弁護士会などの御協力を得て、できる限り調査したい。
- (2) 協議
- 次回以降の検討項目について、伊藤座長から、来年の1月から3月までの間は、知的財産戦略大綱に示された3つの検討事項について順に具体的検討を行い、委員等から提案されたそれ以外の論点については,4月以降に知的財産訴訟の在り方を議論する期日を設け,その場で議論を行うことでどうかとの提言がされ、了解された。
- 次回検討会(1月31日(金)13:30〜17:00)では、侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等に関する検討を行う予定。