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法科大学院特別委員会(第12回) 議事録

1. 日時
平成18年11月24日(金曜日)15時~17時

2. 場所
三田共用会議所 第三特別会議室(3階)

3. 議事
(1) 新司法試験の結果について
(2) 平成18年度新司法試験に関するアンケート調査の結果について
(3) 法科大学院における学習機会の国際化(外国大学の日本校)に関する制度改正の概要について

4. 配付資料
資料1   中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会(第11回)議事録
(※(第11回)議事録・配付資料へリンク)
資料2 平成18年新司法試験の結果
資料3 平成18年度新司法試験に関するアンケート調査の結果について(報告)
資料4 法科大学院における学習機会の国際化(外国大学の日本校)に関する制度改正の概要

(机上資料)
    大学設置審査要覧
平成18年新司法試験問題集
法科大学院関係参考資料
「法科大学院の設置基準等について」等 中教審答申
司法制度改革審議会意見書
法科大学院の教育内容・方法等に関する中間まとめ
(法科大学院の教育内容・方法等に関する研究会中間まとめ)
法科大学院における教育内容・方法(公法)のあり方について【モデル案】
(法科大学院における教育内容・方法のあり方に関する研究会報告書)
法科大学院における教育内容・方法(民事法・刑事法)のあり方について【モデル案】
(法科大学院における教育内容・方法のあり方に関する研究会報告書)
法科大学院(仮称)構想に関する検討のまとめ

5. 出席者
(臨時委員)
田中委員(座長)
(専門委員)
磯村委員、井上宏委員、井上正仁委員、小幡委員、鎌田委員、小島委員、永田委員、中谷委員、林委員、平良木委員、諸石委員、山中委員
(説明者)
中森喜彦 法科大学院協会理事・法科大学院協会司法試験等検討委員会委員長
(文部科学省)
永山専門教育課長、佐藤専門職大学院室長、とく岡専門教育課課長補佐

6. 議事
(1) 事務局より配付資料の説明が行われた後、法科大学院協会で行われた新司法試験アンケートの結果について、中森喜彦法科大学院協会理事・法科大学院協会司法試験等検討委員会委員長より以下のとおり説明があり、引き続き質疑応答が行われた。
(○:委員 ■:説明者 ●:事務局)

説明者  新司法試験プレテストが実施された際に行ったアンケートの書式をほぼ踏襲して、平成18年の新司法試験について全法科大学院(74校)を対象としてアンケートを行い、法科大学院の教員の視点からの試験の評価を調査した。回答数は64校であり、プレテストの際に行ったアンケートと比較して4校少なくなっている。
評価は、「問題の水準」、「問題の量」、「問題の傾向」の3つの質問項目について、回答をそれぞれ「問題の水準」の項目について「難しすぎる,やや難しすぎる,適当である,やや易しすぎる,易しすぎる」、「問題の量」の項目について「多すぎる,やや多すぎる,適当である,やや少なすぎる,少なすぎる」、「問題の傾向」の項目について「理論的すぎる,やや理論的すぎる,適当である,やや実務的すぎる,実務的すぎる」の五者択一、「法科大学院の授業内容への影響」という質問項目について、授業内容の変更を要する・要しないという二者択一とし、公法系、民事系、刑事系の短答式・論文式、選択科目に分けて、それぞれ回答を依頼した。
調査結果の概略としては、今年の新司法試験は、プレテストと比較して、全体として大きく改善されたと評価されている。「問題の水準」については4分の3、「問題の量」についても6割以上が適当と回答している。「法科大学院の授業内容への影響」については、影響無しとする回答がプレテストよりもかなり増えており、短答式・論文式別に見ても、問題が難しすぎる、問題の量が多すぎるという回答は明確に減っている。しかしながら、なお4分の1の法科大学院が問題の水準についてやや難しすぎる、4割近くの法科大学院が問題の量について多過ぎる・やや多過ぎると回答していることも無視できない。
公法系に関しては、短答式・論文式ともに問題の水準がやや難しく、量が多いという評価に傾いていると言える。また、短答式に関しては全体的に、量が多過ぎる・やや多過ぎるが合わせて回答の4割を占め、論文式についても公法・民事系で問題が難しい・やや難しいという回答が多い。選択科目については知財分野でやや難しいという回答と適当であるという回答がほぼ二分されているなど、特徴が見られる。
また、自由記述欄を設けているが、ここでの記述には、全体として試験の負担が重過ぎるという意見が複数あるほか、求める回答の範囲をもっと明確化する必要があるという指摘がある。
アンケート結果の概略については以上のような内容となっている。法科大学院協会では12月2日にアンケート結果に基づくシンポジウムを予定しており、そこではもう少し中身に立ち入って細かく報告される予定である。検討委員会としても、シンポジウムの結果を踏まえて来年度以降の調査及び活動について考えていく。

委員  短答式の合格ラインの設定という問題について、来年度は受験者数が増えるが、今年の水準を前提に、論文式を受けられる水準が設定されていくべき。その水準の設定についての感覚がどこまで共有できるのかが気になる点である。

委員  大学関係者には、やはり短答式の合格ラインについては予想しにくいという意見がある。この点についてアンケート結果の自由記述では特段の意見があるだろうか。

説明者  自由記述をどう評価するかという問題はあるが、短答式に対する意見としては、刑事系では量が多過ぎる、あるいは出題形式について、従来型の複雑な作業を要求するものが依然残っているのではないかという指摘、また短答式と論文式の関係や、受験者の負担の面から試験日を分けてはどうかという指摘もあった。問題の水準に関しても、できる限り基礎的な知識の確認という観点からは、問題が残っているのではないかという指摘があった。

委員  短答式の合格ラインが設定しにくいとの指摘は、平成19年はさらに受験者数が増えることとなるが、論文式の採点のキャパシティの都合で短答式の合格者数が制限されることがあってはならないということか。

委員  若干補足すると、既に発表された今年の短答式の合格者数が、問題の水準から見て適正な数であるかどうか、仮にそうであったとして、来年出題される問題の水準が今年と均質かどうか、今年と来年の受験者層の違いをどう捉えるかという難しい問題はあるが、ある程度の近似値として見る必要はあろう。新司法試験制度の議論の大前提として、論文式の採点枚数の制約はしないということがあるので、その確認の上で今年の評価をし、来年に向けた問題点を考えていくことが重要ではないか。

委員  法務省として、何か意見は。

委員  かなり採点件数が多いという状況もあるが、御指摘の点も踏まえて来年についても検討していく。

委員  アンケートの中には出てこない問題点でも、留意すべき事項があるということか。

委員  難易度の問題に戻ると、プレテストが行われた際、私自身、本特別委員会で短答式の量が多過ぎるということを強く発言したが、今年の試験では随分改善されたということを聞いている。今年の試験は全体として非常に評価されているのではないか。

委員  アンケート結果に直接出てこないが、現場の教員及び学生にとって悩ましい問題として、法律基本科目の中でどの程度それ以外のものを扱う必要があるかというイメージを共有しにくいことがある。旧司法試験の場合はどの法律から出題されるかは特定されており、勉強が必要な外枠の把握は容易であった。今年の新司法試験の中では動産・債権譲渡特例法が出題され、これは民法で債権譲渡の際に扱うテーマであり、特別法が出題されることはありうることではあると思うが、1年目から出題されたことにより、学生は特別法が今後もかなり広く出題されるのではないかという危惧をもっている。今の方式では試験対象に入らないものを特に指定し、それ以外は入り得るという出題範囲の決め方になっているが、出題範囲の特定をもう少し具体化できないだろうか。これは短答式の場合は深刻な問題である。

委員  今の点に関し、行政法分野ではどうか。

委員  行政法分野における法科大学院での教育目的は、初めて見る法律を読めるようにすることであり、出題範囲を具体化しないことは当然である。しかしながら、旧司法試験では試験科目でなかったということもあり、学生は勉強する範囲・方法について非常に迷っている。この点では行政法学者の側でも、所属する組織を離れた分野別での会合をもち、標準的な教育の在り方を共有する努力をしており、ある程度学生にもメッセージを与えられられたのではないかと考えているが、最終的にはサンプル問題、プレテスト、今年の試験問題といった蓄積により予測可能性が生まれてくる以外にはないのではないか。

委員  先程例示があった民法について、旧司法試験の際は出題範囲の一つの目安として司法試験用六法に載っている法律というものがあった。司法試験六法を作成するに当たっては毎年どの法律を掲載するか出題委員会へ問い合わせがあり、そこに載っている法律については出題の対象となっていた。新司法試験においても、一つの基準になるのではないか。
今回の新司法試験では債権譲渡特例法という特別法が出題された。これは基礎知識を問う旧司法試験であれば絶対出題されない法律であったが、法科大学院の理念に従い、実務的な対応能力を身につけたかという新司法試験の観点で見ると、法科大学院の授業の中では必ず出るテーマでもあり、私自身は出題されたことにそれほど驚いていない。
新司法試験の難易度・実務性についてアンケートをとる際は、回答者の、あるいは質問者が期待する評価の観点がどこにあるか、という問題がある。つまり、法科大学院の教育との整合性という観点と、法律専門職の資格試験としての観点からでは、評価が変わってくる。
司法試験委員を務めていた経験から言うと、よく練った設問をしたつもりでも出題者の意図した選別レベルよりはるかに低いレベルでしか答案の優劣が出ない。報道でも言われているとおり、ある合格目標値に合わせて合格者数を決めていることは間違いないが、それは世間一般で言われているように、能力がある人が大勢いるにもかかわらず研修所の収容定員で絞っているという内容ではなく、水準に達していない人でも人数に合わせて合格させなければならないという選別となっているのが現実である。効果的な水準での選別を行うための試験という観点に立てば、難易度に対する評価は大きく変わるのではないか。
法科大学院の教育水準に新司法試験を合わせることだけが選択肢ではない。教育側が教育内容との関係で見る観点、実務界が実務に当たって必要な能力水準から見る観点、試験実施者が選別効果が有効に発揮できたかを見る観点、これら三者の観点からの検証で、場合によっては法科大学院の教育を変え、出題の姿勢を変え、採点の在り方を変えるという複合的な試行錯誤を何年かは続けていかなければならないのではないか。
旧司法試験は悪い試験だと言われているが、試験として悪くはなかったのに期待したものと随分違う働きをするようになってしまった。新司法試験がそうならないためにはどのようにしたら良いのかを本気になって考えなければ、ここ数年で大きな流れが決まってしまい、取り返しがつかなくなるのではないかという危機感を感じている。

委員  今回のアンケートは法科大学院の教育の観点からのものであるが、分析評価する際の基準としては、法科大学院の教員、実務家、試験を実施する側それぞれの観点がある。

委員  この本質的な問題には、難しい面と単純すぎる面の二面性がある。実務的な必要性という観点から合格レベルを判定する場合でも、実務に何を期待するのかという点において各国の司法試験で期待値が異なり、その設定については試験担当者の決断の問題ということで各個に議論がなされているのだが、私はこの点について議論自体に危機感を持っている。もちろん視点自体は重要だと思うので、今後どのように本質的な議論がなされていくかが勝負であろうと思っている。
教育可能性や選別の効果についても実践的に大変重要であり、問題の分析が必要である。もう一つの本質的な問題として、新司法試験が資格試験であるのに、あらかじめ枠が設定されてしまっているという指摘があり、これはある程度事実であると認めなければならないが、一方で答案内容から、従来に比べ合格者の力が落ちているのではないかと多くの人が考えていることも事実である。
ただここで考える必要があるのは、法律を最低3年、多くの場合7~8年勉強している受験生がこれだけ多数いる中で、合格するに足る人間が1,500人に満たないということが何を意味するのかということである。これは、教育全体の責任が問われるべき問題であるのか、法律が理解を絶する難しさをもっているということであるのか。
今出題の範囲という問題が出たが、現代の法律は複雑であり、試験については場当たり的ではない、徹底的な検証をすべきである。ある程度の条件を与えた上での思考能力のテストになっていれば、どの領域を出しても良いはずで、それに答えられることこそ法律家の能力ではないのか。一定の領域を設定した試験においてさらに出題範囲を限定するという前提は誤りではないか。正しい前提から出発したにも関わらず、いつの間にか誤った前提に入り込み、学会や受験界を含む世論が沸騰してしまったということが、旧司法試験制度が受験予備校のコントロールから抜け出せなくなった理由であるだろう。司法試験の在り方の問題については本質的な論議をする必要があり、本委員会もそのための重要な場の1つではあるが、複数の担当省庁等での議論が相互にチェックされずに言いっ放しになっているという状況は変えなければならない。

委員  今の点については、私は若干異なる考え方を持っている。今年出題された債権譲渡特例法を例にすれば、特例法と民法の決定的な違いの一つは債権譲渡の対抗要件を債務者関係と二重債権の譲受人関係で切り離したというところにあり、これは確かに条文を与えて正確に読めば解答に行き着く問題ではある。しかしながら、限られた試験時間の中で回答を求められる際、事前の知識を持っている学生と初めて条文を見る学生との差は非常に大きい。新司法試験、殊に論文式は思考を問う試験であるべきであるが、法科大学院の教育が扱うコアの部分と、新司法試験がそれに対応してどう出題するかという議論をしなければ、考えるところに行き着く前に時間が切れてしまいかねない。

委員  新司法試験の水準について、違う側面から見て、資料2の2ページに論文式の最高点と最低点が記載されているが、この最低点をどのように評価したらよいのだろうか。本来法科大学院を修了し、短答式をパスしたという限られた層で行われた試験であれば、成績分布はかなり上の方に収斂しなくてはならないはずではないか。

委員  法科大学院の修了認定を厳格に行っていれば、最低点がここまで落ちるはずはないということか。

委員  そう考えるべきなのか、あるいは最低点でこの程度というのはそう悪くないのか、どう捉えればよいか。少し低いかなとも思うが。

委員  実際に採点された方々等に聞いた中では、非常に良くできた答案が幾つかある一方で、下の方もかなり幅広いという印象を持っておられる人は多かった。

委員  本大学ではトータルのGPAを出しているが、この数値と新司法試験の最終合格に関しては極めて顕著な相関関係があった。一方で、合格できなかったことを我々が不思議に思うような者はほとんどが短答式で落ちており、必ずしも短答式の結果が論文式の結果と結びつかないものではないかと考えている。また、来年は法学未修者が受験するので、出題の範囲については1つの指針があると良い。先程例に挙がったように、旧司法試験の短答式では司法試験用の六法全書が中心となり、広げる際もそこに特別法を足すというようなある程度の目安があったが、そのような配慮がなければ学生は動揺するのではないか。

委員  司法試験合格者と各法科大学院での成績評価の相関関係については調査分析する方向で検討されているが、ほとんどの大学では相関関係は高く、また成績優秀者で新司法試験を通らなかった者は短答式で落ちているということが共通の傾向として言えるようだ。

委員  法科大学院での成績評価は期末試験等のペーパーだけではなく、プレゼンテーション能力、あるいは授業への取組みという平常点の部分があるので、GPAを算出する際、筆記試験で計れない部分が現れることがある。口述試験がなくなり、新司法試験で計るのはある意味において書く能力だけであるので、平常点が高い学生は合格しにくくなる。したがって、法科大学院での成績と新司法試験の合格についてはある程度の相関はあるだろうが、完全に合致はせず、それも止むを得ないだろう。しかし、法科大学院で2、3年教育をしてきた結果として平常点もあるので、将来的には例えばそうした人材についての推薦制度のようなものでも措置できれば、本当の意味での連携といえるのかもしれない。その辺りも含め、今後各法科大学院が司法試験科目に傾斜した教育を行うという方向に流れることは望ましくないので、第三者評価等の仕組みで歯止めをかける必要性は非常に高くなるのではないか。

委員  本学でも大学の成績と新司法試験の合格はほぼ相関している。一点気になるのは、来年から受験者に法学未修者が加わり、法学未修者は今後伸びる可能性が高いのだが、その伸びしろをどう判定するかということがある。新司法試験ではそのような要素を無視せざるを得ないのであれば、来年は大学成績と新司法試験の合格の相関性もなくなるのではないかという感がある。法科大学院で比較的安定的に能力を示す人が合格する、相関関係を示す試験となることを期待したいが。

委員  今年新司法試験を受験した学生に関して、既に調査を行った大学もあるようだが、短答式の合格・不合格との相関関係はなかったようだ。ただ、今年の受験生はあくまで法学既修者であり、完全に法科大学院で教育したわけではないので、来年法学未修者が修了して初めて法科大学院の独自の教育能力が評価されることになるだろう。法学既修者の場合の相関関係というのは評価しにくい部分があるのではないか。

委員  旧司法試験の経験から、法科大学院での成績との相関性が存在しない可能性は高いと思われるが、今年と来年とでは異なる文脈で捉えて評価する必要があり、現段階で詰めた議論をしておくことは、来年の結果が出て比較する際に非常に有益な手がかりとなろう。短答式においてはどうしても相関的でない部分が生じてしまうが、そのズレを落としてしまうことは試験制度として許容される範囲なのか。こうした状況は今後さらに深刻になっていくので、抽象的な議論にはなるが、短答式において求められる能力はどの水準であるのかということについても、考えた方が良いのではないか。
私が司法試験を受けた際の印象では、短答式と論文式を分けて勉強をしている人はあまりいなかった。その後の状況の変化に基づいて司法制度改革が行われたのに、同じ歴史を繰り返すことは賢明ではない。

委員  先程法学未修者の伸びしろという話が出ていたが、法学未修者についても法科大学院での3年間の教育で考えるべきで、例えば短答式での基準値は、法学未修者であってもクリアすべき。しかし同時に、法科大学院の教育の中で新司法試験の範囲を全てカバーすることが時間的に不可能であるということも含め、法学未修者に対しどのようなメッセージを送るかということは、各授業担当者の責任ではないか。法科大学院において行われている教育の主要な部分は論文式に対応する部分が大きく、もちろん基本的な知識は教えるにせよ、短答式の範囲全体をカバーすることは今の法科大学院教育ではできていないが、それは法科大学院の授業で勉強した学生なら自分で補える範囲だという前提で制度が成り立っているものではないか。
理想論ではなく現実論を言えば、短答式と論文式の勉強に違うところがあることは否定できないし、試験制度の宿命として、ある種の技術的な性格を持っていることも払拭できない。したがって、不必要にパズル的な問題を出すというのは全く不適当だが、現在の出題レベルを維持し、さらに改善されるという前提であれば、法学未修者・法学既修者ともに法科大学院として修了を認める以上、スタートラインは同じであるべきである。

委員  本学の場合も、合格者と法科大学院の成績には100パーセントに近い相関関係があった。話題は変わるが、法科大学院においては補講はやらず、授業でできない部分は学生の自学自習が原則であったと理解している。しかしながら、特別な受験教育を行っている法科大学院もあると仄聞しており、事実であれば気になるところである。

委員  法科大学院を優秀な成績で修了して司法試験に合格するという学生は、入学時から優秀だった、素質のある人だったのか、入ったときはそうでもないが、2、3年の教育内容によって成果が上がったものなのか、法科大学院の教員の実感としてはどちらなのだろうか。

委員  本学では成績優秀者に対し奨学金を出しており、支給対象者を1年ごとに見直すことにしているが、1年で受給資格を失う者が半数いると聞いており、この傾向は特に法学未修者に強く見られるようだ。その一方で、入学時の成績はそれほどでもなかった者がその後トップクラスとなり、話を聞くと1日14時間勉強しているという場合もあり、様々である。
ただ、どんな学生でも手をかければそれなりに伸びる可能性はあるのではないか。見聞する限り、新司法試験合格率の高いところは学生個別に面倒を見ているところが多い。本学は規模が大きいので、その対応をどの程度できるかが問題だと考えている。

委員  特に法学未修者の場合、入学者選抜の際に法律試験を全く課さないので、入学時の合格順位にどの程度の意味があるのかあまり分からないが、入学者選抜後の成績との相関関係は非常に弱いと言える。しかし、入学後に伸びたように見える学生が、教育が良かったので、その教育に合った人が伸びたのか、もともと本人に資質があったが、入学者選抜で適正に評価されていなかったのかは分からない。ただ、伸びる人は非常に伸びるというのは確かで、現在の法学未修者3年次生のトップグループには、長く法律を勉強してきた学生よりも優秀な者が相当数いる。その一方で、全く伸びにくいという層も相当数おり、極端に言えば両極に分かれる傾向があり、この傾向は多くの大学で見られるだろう。したがって、法学未修者で伸びる人の能力は非常に高いと思われるが、それは入学者選抜の成績とは必ずしも関係のない部分で伸びていると言えるのではないか。法学既修者については、今回の新司法試験合格者のうち司法試験受験回数が2回あるいは3回という者が既に250人を超えているとおり、非常に多くの人が旧司法試験受験者であってかつ法科大学院に入学したという状況を考慮しなければならないので、評価が困難ではないか。

委員  概ね同意見である。それぞれの法科大学院では入学者選抜時の成績と法科大学院での成績と司法試験の結果等を照合し、法曹としての勉強ができて想像力があり、論理展開ができる質の高い学生を入学させるための入試の在り方について検証を行っているだろう。法科大学院で2、3年間教育を行うとしても、学生はそれまで2、30年生きてきており、そうしたものを入学者選抜でどこまで計れるかがポイントにならざるを得ない。旧司法試験を受けてきた者等様々な学生がいる中で、勉強の在り方が多少法曹の理想と違う方に対しては、本来の方向を示して正すということが法科大学院の役割ではないか。私自身は、一生懸命に個別に手をかけて試験に受からせるよりも、本来あるべき方向に応用的な力を身につけてもらう方が日本の法曹の将来のためになるように思う。

委員  ごもっともな質問であるが、気を付けなければならない点もある。1つは今年の新司法試験受験者は旧司法試験向けの勉強をしてきた人たちであり、来年もまだそういう者が多数を占めるということで、現時点での法科大学院生の姿のモデルとして考えすぎない方が良いのではないか。再来年程度を基準として考えた方が良いのではないか。
もう一点は、それぞれの法科大学院の入学者選抜と学内成績、新司法試験の成績の相関について、科目の設定や評価の仕方によっては学内成績と新司法試験の勉強に距離があり、そこを考慮しなければならないということ、さらに言えば、法科大学院の学生は入学者選抜を通過した段階で既に絞られた層の人間であり、その中での相関関係が綺麗に出ないことについてあまり過大に捉えると、ミスリーディングに繋がるのではないか。
司法試験については、必ずしも法律基本科目を一生懸命勉強していた人が通っているわけでもなく、役に立たないといわれるような勉強をしていた人が結構合格率が良いということもあり、相関性を計る軸が何であるのか、もう少し様子を見なければ分析しきれない。

委員  本学の法学未修者の場合、春学期の段階で概ね3分され、上の3分の1程度は何とかなるだろう、真ん中の3分の1をどうするかが法科大学院の力量だという共通理解をしているのだが、一方で適性がないのではないかという3分の1もある。上と真ん中の層では入替えがあるのだが、下の層からはなかなか抜けられない。入試との相関関係ははっきりわからないが、春学期で困難な層はかなり固まってしまうという状況はある。そうした中で個人的な意見としては、今後は入学定員を考えなければ、法科大学院制度全体の評価に関わるのではないかと考えている。

委員  法務博士のレベルを上げるという観点から言うと、今の話の中で下の3分の1の層については、何年間か努力させたとしても上へ上がっていくとはあまり思えない。適性、覚悟、いろいろな問題があるが、そうした人に対しては早めに退出を促すことも必要ではないか。教員が出来の良くない学生から、新司法試験を受けさせてもくれないのですかと言われるので、ダメだと分かってはいても受けさせるために修了させざるを得ないという話も聞く。学内でこれはダメだという層を大量に選別するということはできないだろうか。高い学費をもらいながらという批判もあるだろうが。
もう1つ、そのうちに法科大学院のグループとして上位、中位、下位3分の1というカテゴリーが出てくるのではないか、そうなった際に下位3分の1の退出をどのように促していけばよいのかという点がある。このような問題の対応をこれから上手く出来るだろうか。

委員  入学定員の問題が出たが、入学者選抜制度が適性試験や小論文、面接という限られた方法となっている中、入学定員が大きなところは数字的にある程度の人数の適性者を確保できるのに対し、定員が小さいと分母が限られてしまう。入学定員を少なくすることには相当危険な面もあり、負担も大きいことも考え合わせると、やはり問題は入学者にどのような教育を施し、どのように成績評価を行って修了認定をし、新司法試験を受験させるかという仕組みになるのではないか。

委員  難しい問題であり、入学定員が多過ぎるとは私も各所で言われているのだが、入学定員の設定に当たっては経営の問題もある。成績評価についても、少人数教育になるほど厳しい評価はしにくくなるようだが、そういうことでは結局新司法試験で選別するよりほかなくなる。入学試験と成績評価と修了認定、新司法試験という全体として、どこできちんとするかは考えなければならない。

(2) 事務局より資料4について説明があった後、以下のような質疑応答が行われた。

委員  授業内容について、法律は汎用的なものではなく各国固有のものであるが、その点についてはどのように考えているのか。

事務局  本制度を根拠に大学間で単位互換協定を結んでいただき、後はそれぞれの大学の先生がカリキュラムの体系性を意識しながら、単位の認定について大学間で協議していただく形になろう。今回はあくまで入り口の制度を整え、具体的な手続きについては各大学間の協定による。

委員  外国のA大学でコマーシャルローいう単位をとれば、それを日本のB大学で商法の単位に換算できるという趣旨か。

事務局  A大学のどの単位をB大学で認定するかについては、カリキュラムの体系性にも配意して学内で十分に御議論いただき、内容をチェックした上で協定を締結、その後も単位の当てはめについては個別具体に御議論いただき、各大学で御判断いただくことになろう。

委員  本学では既に、海外で取得した単位を本学の単位に読み替えることを行っているが、アメリカの商法を修得した者が日本の商法を修得したことにはならない。交換協定がある場合はもちろん、ない場合でも外国のしかるべき大学で単位を取得したものに関しては、選択科目の中の外国取引法や英米法といった科目として認定するだろう。

委員  法科大学院の場合は設置基準上、科目のカテゴリーが決まっているので、アメリカの民法の単位を隣接科目や展開先端科目で読み替えることはできても、法律基本科目の民法1で読み替えることはできない。

委員  30単位の制限というのは法学既修者認定の際に認められる単位数と重なるので、この単位を読めるのは法学未修者に事実上限定されるのではないか。法律基本科目での読み替えについては、認証評価機関がどう判断するかという問題ではないか。

事務局  1点目については、トータルで30単位という規定になっているため、法学既修者に関しては、この規定によって改めて単位認定が可能になるケースはほとんどないのではないかと考えている。
2点目についても、設置基準上の規定というより、認証評価基準との関係によって各大学で判断されるものだが、その際国として何らかの判断をお示しした方が良いのか、大学の方から事前に事情をお伺いした方が良いのか、そのあたりについても今後検討していきたい。

委員  現実的には法科大学院においては限定的な機能になるのかと考えていたが、こうした枠組を設定すること自体が、将来の大学院教育の展開に影響を与えていく、有意義な出発点となるかもしれない。この制度が今後発展していくための前提としては、認証評価において各大学の自主的なカリキュラムの作成をできる限り柔軟に評価していくことがある。こうした制度ができると外国の大学も日本のニーズに合わせた色々な展開をし、日本の法科大学院にも新しいアイデアが生まれてくる可能性がある。先程来議論されてきた厳格な成績評価や入学定員といった問題についても、こうした双方向的な調整の中で、現時点では想像できないようなものが見えてくる可能性はあるのではないか。非常に可能性に富んだ制度であり、伸ばしていくことが望ましい。

委員  本学では在学中に外国に留学し、LLMを取得してABAの弁護士資格も取得した者が既に何人かいる。彼らも当初の予定通り3年で修了すれば新司法試験を受けられるので、現在でも法科大学院の枠内でダブルディグリーと両国の弁護士資格を所定の年限で取ることはできる。それがアメリカまで行かなくても出来るようになるということだろう。

委員  過去に外国の大学が相当日本に進出したが、撤退したところや検討中に思いとどまったところも多い。そのような中で、最近アメリカやヨーロッパ諸国だけではなく中国との関係など新しい展開が出てきており、大きな意味がありうるものではないか。

7. 次回の日程
次回の日程は改めて調整することとなった。