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法科大学院特別委員会(第13回) 議事録

1. 日時
平成19年3月15日(木曜日)14時~16時

2. 場所
三田共用会議所 第二特別会議室(2階)

3. 議事
(1) 特別委員会の今後の運営について
(2) 法科大学院の教育水準の確保について
(基礎法学・隣接科目、展開・先端科目担当教員との意見交換)
(3) その他

4. 配付資料
資料1   第4期大学分科会における部会等の設置について
資料2 中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会名簿
資料3 法科大学院特別委員会の公開について(案)
資料4 中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会(第12回)議事録
(※(第12回)議事録・配付資料へリンク)
資料5 法科大学院への財政支援【平成19年度予算案】
資料6 財団法人大学基準協会を法科大学院の評価を行う機関として認証することについて(プレス発表資料)
資料7 法科大学院設置計画履行状況調査の結果等について(平成18年度)
資料8 平成19年度法科大学院入学者選抜に係る出願状況について
資料9 平成19年新司法試験の出願状況について(PDFファイル)
(※法務省ホームページへリンク)

5. 議事
(1)  第四期中央教育審議会の発足に伴い、大学分科会において改めて法科大学院特別委員会の設置が決定されたことを受け、座長及び座長代理の選任を行い、座長に田中委員が、座長代理に木村委員が選任された。

(2)  事務局より配付資料の説明が行われた後、長谷川晃北海道大学法学研究科教授、和田肇名古屋大学学長補佐、金井貴嗣中央大学法学部長より各教員が法科大学院で担当する基礎法学・隣接科目、展開・先端科目の状況について以下のとおり説明があり、引き続き質疑応答が行われた。

【説明者】
法科大学院の構成について、本学の場合、法学研究科の中に法律実務専攻を設置しており、それが法科大学院となっている。研究科には法学政治学専攻も設置しており、こちらを研究大学院と呼んでいる。
まず本学における法哲学教育の現況について、法哲学はカリキュラム上の学際プログラムの中、基本的な講義・解説等を中心とするベーシック群に含まれている。本学の法科大学院の入学定員は100人であるが、法哲学の受講者は20人程度、講義内容は現代の法哲学の解説であり、基本的には法的思考の問題、正義の問題、法の概念の問題の3つの柱を持っている。
学際プログラムの中にはもう一つアドバンス群があり、こちらは更に応用的な演習等が中心となっているが、その中に法科大学院と研究大学院、修士課程との共通課目という形で現代法哲学が設定されている。選択必修科目であり、全体の受講者10人程度のうち、法科大学院の学生は2、3人程度である。内容は、現代法哲学、とりわけ市民社会論、現代正義論あるいは応用分野などに関する書物の講読を行っている。
更に法哲学に関連する科目としては、研究大学院でポスト・モダンを中心とする現代法思想、法思想史、比較法文化論といった科目が開講されており、法科大学院学生も履修できるようになっているが、法科大学院生は1、2人の受講者がいる程度である。
これらの科目では基本的にリポートによる評価を行い、その際、講義・演習のイシューが多岐に渡っているので、授業の区切り毎に複数回の提出を求め、評価基準を多角化して正確な評価を図っている。
補足として、法学研究科全体の活動として、附属高等法政教育研究センターがあり、そこで行われるシンポジウム、ワークショップ、研究会の中で基礎法学関係の研究発表も行い、関心を誘うようにしている。法科大学院生も自由に聴講できるようになっており、1~3人程度参加することもある。このような形で、法哲学関連の教育リソースはかなり多角的にあると言える。
実際の学生の反応について、法哲学の講義は未修者が対象ということもあり、常に20人程度が受講しており問題はないが、それ以外の科目については受講者数は非常に少ない。本学の場合、学際プログラムから8単位以上取得することが要請されており、学生にとっては負担となっている面があるので、単位合わせという意味で基礎法学関連科目を受講する場合もあることは否めず、関心がある学生についても多くの場合、法解釈の上で役立つかどうかという点が前面に出てくる傾向がある。
基礎法学教育という見地から見ると、本学では科目等のリソースは非常に大きいが、学生の関心との間に落差があることは否めない。アンケートの結果を見ても、法科大学院生はどうしても受験勉強に忙しく、役に立つ・受かるための教育という目標がある。中には基礎法学関係の科目は必要ないのではないか、必修が厳しすぎるという声もあり、基礎法学関係の教員は若干閉塞感をもっているところがある。
一つの象徴として、学際プログラムは従来8単位を取得することとなっていたが、4単位に減らすという決定が2月になされた。学生の負担感が大きいということが最大の理由であり、基礎法学の教員にはかなりの抵抗感はあったが、止むを得ず受け入れたということがある。
本学の法科大学院全般の教育状況については、私自身は研究大学院に籍を置く兼担教員であり、法科大学院内部の状況を直接知っていないが、法学研究科の教授会あるいは専任教員から見聞する限りでは、学生とのコミュニケーション、FD、成績評価法上の工夫が非常に熱心に行われ、継続的な検討が続けられていると思う。
個人的な展望をいくつか述べさせていただきたい。一つは、昨年度日本法哲学会において、「法哲学と法学教育-ロースクール時代の中で-」という統一テーマで、法科大学院が展開される中で法哲学をどう位置づけ、今度の展望を持つべきかという議論が行われた。
法科大学院に関しては、確かに法学の教育技法を洗練する、授業の密度を高めて学生の関心を高めるということに対する評価が一方であり、そういった関心の高い学生が非常に強い問題意識を持っていることは基礎法学の教員からも見てとれる。
しかしながらもう一方で、当初の理想であった広範な法的素養を身につける、とりわけ基礎法学というものを取り入れることでそういうものを涵養するということについては、疑念の声もある。
基礎法学教育についてももっと工夫をする、あるいはカリキュラム上の手当てをしていくべきという自覚は多くの教員が持っているが、私個人としては、それだけで変わることはできないと思う。
ご承知のように、司法試験では合格定員が限られ、ある種のゼロサムゲームとなっており、その中で学生に基礎法学も考えて欲しいと言ったとしても、実際には司法試験の勉強に時間を割かねばならない。基礎法学教育は重要であるが、そこがネックとなっていると考えており、欧米・アジアの学者と話しても、多くの方がやはりそういう指摘をする。
法哲学に関しては、学部教育の役割と法科大学院での導入の問題、また研究大学院でなされる教育と法科大学院への還元といった点について考えるべき点がある。
前者については、単純に法思想史や概論的なことを教えるというより、法科大学院で勉強していく上での一番の基本となる近現代の法原理の在り方の基本、例えば法社会や立憲主義について、テーマ別に思想的・理論的に解明するという作業をしていくことで法科大学院への導入の役割を果たせるのではないか。この辺りは、私自身も含めまだ試行錯誤をしているところである。
後者は、基礎法学関係者は、研究者の養成について危惧している。ご承知のように、研究大学院に関しても最近では大学院教育の実質化が大きな課題となっており、研究レベルでも現在の法学において学際的・国際的交流が非常に進んでいる。我々自身も研究を続けていくには学際性・国際性を高めていかなければならないが、他方、法科大学院における基礎法学教育に関しては先述のとおり若干の閉塞感がある。この二つのギャップをどう埋めていくかは非常に大きな問題ではないか。
もう一つ、法科大学院教育の充実は非常に重要であるが、その場合カリキュラムの中で法科大学院独自の法哲学教育あるいは法学基礎教育と説かれることが多いように思うが、私自身は法科大学院と研究大学院は両方並び立つものであり、この間のバランスをどのようにとっていくかという観点が必要ではないかと考えている。法科大学院独自のカリキュラムの整備も重要だが、研究大学院との有機的な連携関係、共通科目の設定、教員の交流をどのように図るかという視点も法科大学院教育の在り方を考える上で取り入れていただきたい。

【説明者】
本学では大学院法学研究科の中に、法科大学院である実務法曹養成専攻と、研究者養成等を行う総合法政専攻があり、私自身は総合法政専攻に所属して法科大学院では労働法の授業を担当している。
労働法の講義については2年生科目として労働法1を前期、労働法2を後期に開講し、1では基礎理論、2では応用を教えている。受講者数は、1学年の入学定員80人に対して労働法1が9割程度、労働法2が7割程度参加しており、1クラスの多人数について忸怩たるものはある。授業の進め方は、双方向授業ということで予め10人程度を指名し、質疑応答しながら進めている。教材はケースメソッド方式の教材を法科大学院教育に向けて、友人たちと作成したものを使っている。法科大学院向けの労働法の教科書は最高裁の判例を中心に、それを分析したり関連判例について検討させるという形式のものが多いが、授業で使っているものは最初に設問があり、それを解いていくという方式となっている。
授業ではその設問を出して争点が何であるかを学生に質問して論点を設定し、次に例えば原告・労働者側の主張と被告・使用者側の反論を想定させて、それぞれの主張を理論的に解明し、場合によっては学説の対立も含めて説明しながら結論に至るという、ソクラティックメソッドとケースメソッドを組み合わせたような形で、前後期それぞれ十数項目のテーマを選んで行っている。
法科大学院の1年目、通説・判例をすぐに持ち出す学生がいたため、学生にはもっと柔軟に考え、自分の考え方を見つけて欲しいと思いこのような手法をとっているが、労働法の教授法についての学会や日弁連のシンポジウムに参加すると、まだ暗中模索の段階と感じる。
私自身は実務経験がないので、労働法2、応用編の授業の中で4コマ、弁護士の人に実際に扱った事件等を素材に資料を配付して、例えば原告の主張の内容や1審と2審の判決の違いの読み方といった内容で質疑を行ってもらっている。
成績評価については合格者の分布の目処が特A10パーセント,A30パーセント,B40パーセント,C20パーセントとなっているが、実際には特A・Aが少なくなっており、不合格のDもかなり出ているというように、法科大学院の教員に共通して厳しい評価がなされている。原級留置者もかなり出ており、法律科目については2科目しか再試験を認めていないという点からも、かなり厳しい評価がなされていると法科大学院の教員は言っている。修了できない学生も毎年数名出ている。
試験の講評については、試験終了後ウェブから閲覧できるシラバス上に掲載し、評価のポイントや成績分布について公表した上で、疑問のある人とはメールまたは面談でやり取りをしている。今年の授業の場合、メールと面談がそれぞれ5人程度ずつから質問があった。
基礎法学・隣接科目の展開状況について、開講はしていても毎年受講者がゼロまたは1人という科目がある。これは、法学研究科の教員はできるだけ法科大学院に関わるべきだという我々の哲学から多くの科目を開講したことと、国際関係科目についても多く開講したのだが、あまり学生が受講せず、現在見直しを進めて幾つかの科目はスクラップすることとしている。もちろん基本的な科目については、受講者数が少ない科目についてもきちんと残していく。
一方、ビルドの方では先端科目の中で新司法試験の科目については、現在4単位でやっているところをできるだけ6単位化していくこととしている。教員の余力の問題もあるので当面は知的財産と労働法について、12の講義の他に演習科目を設け、例えば具体的な事例を学生に報告させる、あるいは答案を書いて分析しあうといった内容とする。3年間を経過した中で、科目の見直しは少しずつ進めていく。
もう一つ、テーマ研究として、論文執筆の単位化を考えているが、これは法科大学院修了後ドクターへ進み研究者になろうという人が非常に少なく頭を悩ませており、その対策の一つである。
FD活動もよくやっている。私自身が関わっているのはシラバス作成、成績評価の在り方、学生アンケート結果の評価・フィードバックといったことだが、例えばどの授業でも中間試験を同じような時期に行い、学生の負担になっているところを、どのように時期をずらすかということをFDの中で検討したりしている。
教育の課題については、全体的に教材の開発が遅れているのではないか。従来の伝統的な分野ではよい教材が揃っているが、法科大学院ではやはり差別化された授業が必要であり、それに合わせた新しい教材開発が必要だと思うが、まだほとんどない分野もあると聞いている。
2点目は、やはり理論教育と実務教育の融合の難しさを非常に感じている。労働法を教えている実務家教員に話を聞くと、体系的・理論立てて教えることの難しさを言い、我々からすると、この問題が裁判になったときにどうなるのかという実務視点の教育が遅れていると思う。ただ個人的には、法科大学院では理論的な教育をむしろ重視した方が良いのではないかと考える。
また、現状ではあまりにもカリキュラムや教える内容が細かく決まりすぎているのではないか。今のような教育の質を維持しながら、教育の中の遊びの部分や、法律を研究することの面白さ・深さが分かる教育を法科大学院の中に組み込めないか。法科大学院では将来の研究者も育成していかなくてはならないが、学生には司法試験が念頭にあるので、疑問に思ったことがあっても深く突っ込んで研究するというところまではなかなかいかない。こういう部分を改善して、伸ばしていきたいと考えている。
余談として、本学の法科大学院の学生を見ていると、約30パーセントは非常に優秀であり、30パーセント程度はちょっと難しいのではないか、残りの学生は何とかうまく教育すれば伸びていく可能性があるというのが全体の印象である。下の方の30パーセントの学生の中には3年が終わった段階でもまだ法律の勉強の仕方が分からないという者もおり、こういった者に対する手当てを今後どうするかということは大きな課題となってくるのではないか。

【説明者】
私は法学部と法科大学院の両方に籍を置いており、3年間法科大学院で経済法を担当した感想・意見を述べさせていただく。
まず本学の法科大学院における経済法教育について、新年度よりカリキュラムの改革を行い、従来は独占禁止法実体規定の3単位と独占禁止法手続規定の2単位、各教員が個別のテーマを選んでゼミ形式で行うテーマ演習の1単位で合計6単位であったところを、新年度からは実体規定の部分を基礎2単位と応用2単位の2つに分けて4単位に増やし、合計で7単位とする。
改革の趣旨としては、学部で独占禁止法を全く勉強していないという学生が相当数おり、そういった学生と、司法試験の選択科目に選びたいという学生を同じ授業で扱うことが難しく、前者向けに基礎編2単位で科目を設定し、その上でケースを素材とした応用編を設けたもの。
経済法については専任教員2人と実務家教員1人の3人で担当している。実務家教員は開設年度から2年間は公正取引委員会から派遣されており、2006年度からは弁護士にお願いして独占禁止法手続規定について担当していただいている。
本学の法科大学院の入学定員は300人だが、展開・先端科目の受講者数はほぼ司法試験の選択科目の選択者数に比例しており、経済法の場合1クラス大体20から25人程度となっている。また、在籍者で正規履修をしていない学生もクラス内に相当数いるが、教員の判断でこうした学生にも受講を認めている。
授業内容については、教科書を事前に読んでおくよう指示した上で、授業ではレジュメを作成して教科書の内容を理解しているか、学生を指名して確認していくという方法をとっている。応用編については、独占禁止法の判決・審決を素材とし、こちらで設問を作って解答させている。
成績評価については、半期の授業で中間と期末の2回試験を行っており、そこで80パーセント、平常の授業の質疑応答で20パーセントの評価を行っている。評価基準はA~Dのうち申し合わせでAを15パーセント、Bを25パーセントでAB合わせて全体の40パーセント以内とすることとしている。
本学では実務基礎科目を中心に多数の実務家教員が授業を担当し、大変熱心に教育していただいており、学生の評価も高い。我々研究者教員にとっても大きな刺激となっており、良い影響を与えていただいている。
実務科目では経済法についても公正取引委員会や法律事務所、企業に対するエクスターンシップを行っており、ローヤリングも新年度から始める。
FD活動については、授業アンケートを行っており、本学では結果が悪かった人を責めるのではなく、良かった者に対してベストティーチャー賞を設けて表彰している。また、オフィスアワーは必ず設けるようにしており、学生たちは大変熱心にやってくる。更に、教員相互の授業参観も、各教員は半期に必ず1つ以上参観することとしている。組織としてはFD研究会を設け、教員間でFDに関して研究活動を行っている。
経済法教育の二つの役割として、一つは実定経済法としての独占禁止法等を運用できる実務法曹の養成があり、これが一番重要ではあるが、もう一つ忘れてはならないのは、社会の変化に伴う新たな法的課題を検討する人材、研究者や公正取引委員会の職員といった人材の養成である。
前者についてはこれまで実務法曹で独占禁止法に習熟している方は少なく、その数を増やしていくことは非常に重要である。
法科大学院との関係では、一人の学生は展開・先端科目のうち2、3の科目については、将来専門的な仕事ができるような実務能力を身につける形の教育を行うことが望ましいのではないか。
後者について、経済法に関わる問題の研究の発展させる、あるいは政策立案や法改正を担う人材は必要であるが、そうした人材の養成は法科大学院の現状ではできていないという実感があり、そのための教育体制を整える必要性を感じる。具体的には、独占禁止法の場合アメリカの反トラスト法、EUの競争法等との比較法研究、外国法研究が非常に重要であるが、なかなかそこまでできていない。現状では教員にとっても学生にとっても司法試験の合格が重要な目標であり、合格率が高まっていけば教員も学生もそうした部分に目配りができるのではないかと考えている。

【委員】
ありがとうございました。残りの時間で意見交換、質疑応答を。

【委員】
3人に共通して、大学の中で学問的・理論的研究の場が先細りになることに対する危惧と、その部分の活性化の必要性を感じているようだが、その際法科大学院修了後に博士課程後期に進学し、研究者として完成するという道を中心に想定しているのか、あるいは法科大学院修了後実務に出て、連携して理論的な高度化を図るという道を考えているのか。

【説明者】
基礎法学、法哲学に関して言うと、どちらのコースでも理論を極めたいという関心がある者がいれば対応できると考えており、他の教員も基本的には同様に考えているが、一方で実定法学の教員に伺うと実務に出る方はよほど関心が強くなければなかなか研究には戻って来ないので、研究者養成のためには早い段階で研究大学院に来てもらいたいと考える傾向があり、学問領域の差が若干あるように思う。

【説明者】
本学では従来から弁護士資格を持っている人を対象に博士課程後期から入学するコースがあり、既に何人か博士号を取得し、法科大学院で教えている人もいる。実務を何年かやってその経験を生かしながら研究論文を書きたいという人にはこうしたコースが既にあるが、法科大学院を修了してすぐに、あるいは司法研修所を出てすぐにドクターコースに行きたいという者をどう繋いでいくかが我々の一番の課題である。例えば、語学試験を課さなくて良いのか、法科大学院では論文がないが、どう評価するのか、法科大学院での成績だけでよいのかといった議論を進め、制度的には少し目処がついてきたところではあるが、現実問題としては希望する学生が非常に少ない。
金銭的にも、法科大学院で非常に高い学費を払って勉強し、更にドクターコースで授業料を払うと非常に負担が大きく、面倒を見られるような制度が今後必要ではないかと思っているが、私どもだけで解決がつく問題ではなく、頭が痛いところである。

【説明者】
私は両方のルートが今後もあって良いのではないかと思っている。実際に実務法曹になった後、弁護士会でやっている研修や大学院で勉強されている方もおり、今後とも実務に携わる方に対して大学として理論的な研究をする場を提供していく。
もう一つ、法科大学院の将来の教員をどう養成していくかについて、やはり若い時に基礎法学や外国の文献を読みこなす能力を身につける必要があり、法科大学院修了後すぐに博士課程後期でそういう勉強をする機会を提供し、そこで人を育てなければ後の担い手が先細りになっていくことを多くの人は心配しているのではないか。

【委員】
本学では研究者養成は、助手制度の活用と大学院博士課程の2つの制度で行っており、実定法科目については助手は原則として法科大学院から出すことになっている。法科大学院から博士課程への進学は当然ながらできるようになっている。
法科大学院の学生も論文を書くことにかなり意欲を持っており、リサーチペーパーと研究論文という2つのコースを持っているが、特にリサーチペーパーについては今年の実績で20人程度が提出している。また、電子版のロージャーナルを作ったところ投稿はかなりの数にのぼり、審査の結果5、6本しか掲載されなかったが、非常に質が高い論文がホームページからも御覧いただける。
助手への応募も一定数あり、そういう意味では私どもはそう悲観していない。
大学院への進学については、当面は司法試験を受けて法曹になるという目標があるので、すぐには来ないかもしれないが、修了者の話を聞いても学問的な関心が強い人もかなりいるので、何人かは戻ってくるのではないかと考えている。

【委員】
法科大学院の教育水準の確保という観点から伺いたいのだが、各科目では司法試験の選択科目になっているかどうかという点で状況が決定的に違うように思える。
労働法、経済法については、司法試験との関係で、全国的にこのレベルまで授業で教えるべきだというスタンダードが形成されつつあるのかどうか、先ほど労働法については、先生からもう少し自由に教えたいという御趣旨の発言があったが、色々な先生が自由に教えることで学生は試験に対応する勉強を別にしなければならないというジレンマが出てくる気もするので、その点伺いたい。
法哲学については、法科大学院生に教えるべき内容が、どうあるべきかという議論の状況、法哲学というと先生の個性の分だけ議論があるというイメージがあるが、その中でどう煮詰まりつつあるのかという状況を教えていただきたい。

【説明者】
新司法試験で労働法を選択する学生は平均で30パーセントなので、本学でも80人のうち30人程度は選択をするであろうが、彼らは今までも自主ゼミを行っておりかなり専門的に勉強をしている。この部分を私どもとしては演習として充実させ、単位化したいと考えている。
また、学部で労働法を勉強したことがないという学生も含めほぼ全員が労働法を取るので、最初は非常に高い水準で授業を始めようと考えていたが、労働法1についてはできるだけ基礎的な部分を講義も含めながら行い、ここは少し遊びができる部分として、労働法2についてはもう少し応用的に労働法実務あるいは具体的な事例の面白さを伝える、演習については、新司法試験の問題が出揃ったので、どのような勉強をすればよいかというターゲットがはっきりした勉強になるのではないか。

【説明者】
法科大学院で教える経済法のレベルについて、私を含めて3人が編者となり、主要なロースクールで経済法を担当されている先生方が執筆されて独占禁止法の教科書を作成したのだが、かなり要求度が高く、学部等で独占禁止法を勉強していない学生に消化不良を起こさせてしまった。そこで、やはり基礎的なところから一度教える必要があるということでカリキュラムを改正したところである。そこから司法試験レベルまで引き上げる教育的なステップについてはやはり法科大学院の教員が道筋を作っていかないといけないだろうとは思っている。

【説明者】
法哲学の教育に関しては、基本的には従来型の個性的な教育が確かにあり、それは非常に重要なものではあるが、最近は座長のお弟子さんたちが良い意味でスタンダードな内容の教科書を出しており、多くの方々がとりあえず基本路線を確保し、更に進んで勉強する場合はそれぞれの大学で、更に次は論文に進んでいくという段階的な方針を取っている。
私の講義の場合、例えば法的思考、正義、法の概念論は現在の法哲学会では基本的な柱である問題という了解が行き渡っており、法科大学院との関係では特に法的思考の在り方の問題と正義の問題は関連が深いということについても、多分多くの法哲学者が共有した意識を持っているのではないか。その扱い方については授業によって差があるが、大くくりの問題としては了解ができているものと思う。
加えて、現代法哲学の場合、例えば生命倫理のような応用倫理の問題もあり、法科大学院との関係では医事法とも非常に深く関わってくるので、アドバンスト群という応用的な問題に関する演習の中で扱っている。
ちなみに法科大学院生からアンケートを取ると、特に法的思考の問題について非常に関心を持ってくれている。非常に面白いので実定法をやめようかと思うというような声を聞くと、却って心配になることもあるが、関心が高いのは間違いない。

【委員】
今後の展望としてただ法科大学院で授業科目を設置するだけでなく、もう少し深い学際的・国際的観点が必要ではないかという話があったが、現在基礎法学・隣接科目の取得を大体6単位以上義務付けている大学が多い中で、そうした縛りがなくなると学生がどう流れてしまうのかという心配もある。今後様々に展開する可能性はあるのだろうが、現状では義務付けの必要もあるように思うが、どうか。
労働法については6単位にしていくという方向性が示され、司法試験の選択科目ということで学生からの需要が高いということは承知しているが、先端・展開科目における多様性という観点から、一つの科目に余りたくさんの単位数を使うことはいかがなものかという感じもする。例えば行政法も学部で取ってこない学生はたくさんおり、司法試験との関連でも単位数は明らかに足りないが、これをもっとやると言い始めるときりがなくなってしまうのではないか。
経済法については、正規履修をしない学生が相当数聴講しているということだったが、法科大学院の取得上限単位数が厳しくて学生がこういう形をとっているという状況なのか。

【説明者】
おっしゃるとおり、法科大学院のカリキュラムの中でコアとなる部分をまず押さえるという必要性は確かにあるし、カリキュラム上の科目を増やしていけば良いという話ではない。私が申し上げたかったのは、一つは完成年度を終えて今後は柔軟な形で微調整・修正をしていけると思うので、今後どのように膨らませられるかという方向で考えた方が良いのではないかということ。もう一方で、授業以外にもいろいろな機会を用意しているので、どこかに出てきて欲しいと思うところもある。例えば本学の場合附属高等法政教育研究センターというところのプログラムでは、授業時間終了後に公開セミナーを行い、第一線の方をお招きしてお話いただいている。学生にはそうした機会を活用して、ホットイシューにも触れて欲しいという気持ちがある。

【説明者】
6単位化の話がどうして出てきたかというと、初年度は受講生が15人程度と少なかったため、顔を覚えて毎回全員に質問を当て、答案も添削・講評ができていたが、2年目以降受講者数が80人にもなると密な授業が現実的にできなくなったことがある。労働法についてもう少し突っ込んで勉強したい者に対する授業も必要だと考え、カリキュラムを改正したもの。
また、学生はそれなりに散らばって受講しているので、一つの科目を6単位化しても一つだけに集中せず、いろいろな科目に分散するだろうと楽観的に考えてもいるが、履修状況をもう少し分析する必要はある。

【説明者】
聴講生について、経済法の3単位は前期と後期に異なる教員が担当しており、司法試験の選択科目に経済法を選ぶ学生から、前期で単位は取得し、同一科目なので履修登録はできないが後期も聴講させて欲しいという要望があるのが実態である。

【委員】
学生の要望を聞くと、司法試験科目をということでサービスを良くしてあげたくなるが、全体のバランスも常に考える必要があるのではないか。また、答案の添削についても、文章を作成する能力はもちろんあった方がよいが、法科大学院における授業の中でどの程度すべきかという点については議論があるのではないか。

【説明者】
法律基本科目ではTAを配属したり若手弁護士を雇って密に教えているが、労働法ではそういう人が付かず、全て自分でやらなければならない。答案の添削については、書いたものを見て良い書き方や論点の誤りを丁寧に教えなければ、実際に書けない人が多く、これは法科大学院の中で最低限教えなければいけないことではないかと私は考えている。

【委員】
今の質疑応答の中に、法科大学院の本質的、恐らく最も重要な問題の一つがあるように思う。法科大学院制度設計当初の予定を上回る司法試験の重圧がある中で、教員としての質の向上といった時にどうしても受験を意識せざるを得ず、どの科目においてもプラスワンという要請は非常に強い。それも質の向上にはつながるのだろうが、反面、多様性の問題などいろいろな問題もあり、全体のバランスを考えろという話になる。その際、教員は教える内容について、何が不可欠で何が省略できるのか相当厳しく選別する必要がある一方、学生の立場に立って何が必要とされているのかを真剣に考える必要がある。
更に、それ以前の大状況として、法曹界がこの問題について何を期待しているのかという問題もある。法律は長く勉強すればよいのではなく、短くコンパクトにやって社会に巣立ち、成長していき、大学はそれに寄与する。こうした社会との連携の問題についても鮮明な形で提起していただき、ありがたい。

【説明者】
おっしゃるとおり、例えば法哲学の場合でも専門的な議論はどんどん細かくなっており、法科大学院生にとっても関心のある部分を選びながら、どのくらいの量を教えるかという二重三重の選別を迫られており、悩みである。法的思考の問題について扱うといっても、どういう内容について何回の授業を行うのか、毎年試行錯誤の連続であり、法哲学の進歩・深化に伴って議論も深まるので、選別作業は不断の形で付きまとう大きな問題である。
もう一つ個人的に感じるのは、学生のニーズはどうしても司法試験にどうやって合格するかというところにあり、教員も合格率を高めることで法科大学院のプレゼンスを高めようという方向にどうしても動いてしまう。基礎法学は余り司法試験に関係ないので、批判することは簡単だが、研究科の一員としてどううまくバランスを取った形で寄与できるかという考えが頭にあり、基礎法学の側が特に実務的なものに対してどういう対応を取るか、考えが迫られるところがある。従来であればある種挑戦主義でいればよかったが、現在は応用倫理の問題も然り、近現代の国家体制、法体制そのものに対する疑問・批判が出てきているのが法哲学界の一つの姿であり、やはりその関係性は不断に問われてしまう。正直なところ、試行錯誤の連続でなかなか先が見えないという状況ではある。

【説明者】
法曹になるために、例えば労働法で必要最小限何を教えなければならないかは、正直言って私にも良く分からない。私は学生に考える力がつくようにと思って授業をしているが、本当に力がついているか、いい法曹になるかは全く自信がない。学生には申し訳ないが、試行錯誤でやっていくしかないのではないかと感じている。これは恐らく今後10年くらいたってから、あの法科大学院で育った学生は良い法曹になっているという評価になるのではないか。
今年一つだけ分かったこととして、法科大学院の成績上位者がやはり司法試験に合格している。逆転している事例は非常に少なく、ある意味では法科大学院の成果が出てきている。
逆に、法科大学院が司法試験対策をやっているのではないかと言われるとそうかもしれないが、今は法科大学院の授業をきちんと積み重ねることが司法試験の合格に繋がり、ひいては良い法曹になっていくのではないかと思うしかない。

【説明者】
全く同意だが、先ほど委員が提起した問題は、例えば私の領域であれば企業が入札談合を行った場合、それが独占禁止法に反するのか、課徴金を科せられるのか、刑事事件になるのかということは、実務法曹の能力として育てる必要がある重要な教育だと思う。
他方、入札談合それ自体をどうやって防ぐかということは、法科大学院で養成する実務法曹とはまた違う観点の能力が必要であり、その教育は現在足りていないのではないか。恐らく色々な分野で同じようなことがあり、今後わが国の法制度を考えていく時に大切なことではないか。

【委員】
私も委員が提起した問題は非常に重要だと考えている。法科大学院で3年間教えてきた経験から、学生は知識的には幅広く勉強しているが、たぶん消化不良の状況に陥り、一部学生はもっと大切な基礎的な法的思考力や法解釈の力に問題があるのではないかと感じる。
多くの教員が法科大学院においては例えば比較法や立法論的な議論ができないという感想を持っているが、こうした力は国際的に通用するような法曹を生み出すためには不可欠な教育であろう。そうしたことを考えると、全ての項目について教えるということはある程度あきらめて、より重要なポイントについて教え、より望ましいものを付加していくということを全体として考えていく必要があるのではないか。自学自習と教育とのバランスという議論も以前から出ているが、こうした問題についてももう少しきちんと議論する必要があるのではないか。

【委員】
教育方法の問題点について、我々が担当する法律科目では未修者に対する対話型授業がどこまで効果的かということについて考え方が分かれているのだが、対話型形式のメリット・デメリットについてどう感じておられるか。

【説明者】
未修・既修の差については、未修者も1年生のときにきちんと勉強してくるので、先端科目をする時にはあまり差がないと感じている。私はソクラティックメソッドが良いと思っているが多少比重をつけて、この問題については講義で教えた方が良いという時は少し講義にウェイトをおき、今日はケースメソッドでという時には質問を多くして最後にまとめをするというように、濃淡をつけている。

【説明者】
学部で全く経済法を勉強していないという学生も実際にクラスに来るが、そうした学生が半期授業を受けた後、他の学生に比してレベルが低いかというと、そうでもない。基本科目ができる学生は、最初は戸惑うがある時期になるとできるようになる場合も結構多い。
ただ、ソクラテスメソッドの落とし穴として、授業中は上手に話し、対応もいい学生が答案を見ると文章が論理的でなく、下手であるという場合がかなりある。我々教員としては、司法試験にはそこのケアも必要だと感じている。

【説明者】
基礎法学全般に通じると思うが、法哲学はどうしても講義形式が中心になり、私もソクラテスメソッドはほとんどとっていない。私の場合、基本的にテキストのページを指定して読んでくることを前提に、その考え方について授業中に話し、学生にはそれを聞きながら考えるよう、考え方を捉えるように言っている。
ただ、例えば法的思考について扱う場合でもまず古典的な部分から入り、後に現代的な考え方、それに対する応答・批判という形で話を進めていくと、後半になると学生は前半の知識があるので質問が増えてきて、その質問に対してもできるだけ他の学生に思案させるようにしており、準ソクラテスメソッドと言えるのかもしれない。こうした方法にそれなりの意義はあるように思う。

6. 次回の日程
次回の日程は改めて調整することとなった。