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仲裁検討会(第2回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり



1 日時
平成14年3月11日(月)13:30〜17:20

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員)
青山善充(座長)、秋吉仁美、櫻井和人、谷口園恵、中野俊一郎、中村達也、本東信、松元俊夫、三木浩一、山本和彦、吉岡桂輔(敬称略)

(事務局)
大野恒太郎事務局次長、近藤昌昭参事官、後藤健企画官、内堀宏達参事官補佐

4 議題
(1)仲裁人及び仲裁廷についての検討項目案について
(2)仲裁廷の管轄(権限)についての検討項目案について
(3)仲裁手続についての検討項目案(その1)について

5 配布資料
検討会資料5:仲裁人及び仲裁廷についての検討項目案
検討会資料6:仲裁廷の管轄(権限)についての検討項目案
検討会資料7:仲裁手続についての検討項目案(その1)
参考資料8:UNCITRAL仲裁調停作業部会におけるモデル法(模範法)改正草案(抄)=仲裁廷による暫定的保全措置関係=
本東委員提出資料:仲裁合意の承継について

6 議事

(1) 仲裁合意の承継について

 本東委員から、本東委員提出資料について説明がされた。

(2) 仲裁人及び仲裁廷についての検討項目案について
 事務局から、検討会資料5について説明がされ、これについて次のような意見交換がされた(○:委員、□:座長、●:事務局)。

(仲裁人の数)
○「仲裁の目的の価額」によって人数を変えるのは、仲裁人選定後に請求が拡張されたときに扱いが難しい。
○実務的には、少額案件等、1人が望ましいものも多い。しかし、法律の規定が働くのは人数の合意が得られない場合であり、そうした場合のルールとすれば、1人とすると一方にとって不満な仲裁人に決めざるを得ないが、3人なら双方が自らの望む仲裁人を選べて比較的公平になる。原則としては3人が妥当と思う。
○原則を3人としてそれを1人に変えるのは、事案を軽く見るようでやりづらいのではないか。原則を1人として、慎重な判断の必要なものは、裁定合議のように仲裁人の側で人数を増やす方が使い勝手がよいと思う。

(仲裁人の資格)
○仲裁人への信頼が仲裁の根幹であるから、破産者等に依頼することはないと思う。破産者等は欠格事由とするのがよい。
○破産者等は、積極的に望ましくはないが、制限的に、こういう人はだめとする規定を置くのならば、自然人に限るという規定のみでよい。破産しても判断能力が欠けるわけではない。
○モデル法は、資格については、自然人と読める規定があるのみで、他に制限規定はない。資格制限を設けない方向が趨勢である。ADRの本質は当事者自治であり、当事者が自らの判断で信頼できる人を選ぶなら、破産者等でも問題ない。
○被後見人等を欠格事由として掲げる必要はない。心身の故障による職務執行の不能の場合を規定すれば、それでまかなえる。
○法人については、「***(常設仲裁機関)の仲裁による」という規定を無効とされては困る。法人を明示的に排除しなくてもよいのではないか。
○仲裁法試案13条(2)項の規定に内容的には異存はないが、この規定を置こうとすると(1)項が必要になる。自然人でなければならないと言い切るのにはためらいがある。
○法人そのものを仲裁人にする必要性は実務上皆無と思う。

(忌避事由、忌避事由開示義務)
○「不偏」と「独立」の区別は判然としない。独立は事件当事者との客観的関係を規律するものであり、不偏を担保するものと考えられる。不偏だけ規定すれば足りる。
○仲裁人の忌避事由は、裁判官の除斥・忌避事由よりは広いのではないか。
○一面では、仲裁手続は職権性が高く、それだけ仲裁人の権限が強く、また一審制であるから、仲裁人の公正性・中立性は裁判手続より高い必要があるが、他方、3人の仲裁なら2人は当事者によって選ばれるのであり、選んだ当事者の利益代表的側面もあるから、その者に裁判官と同じだけの中立性を要求するのは仲裁の本質に反する。仲裁人に要求される中立性が一律に裁判官より強いあるいは弱いとは言えない。
○民訴法23条(除斥原因)のような列挙を仲裁法に置くべきではなく、忌避のような一般的規定がよいと考える。仲裁は仲裁人の専門性に依存する事件が多く、代わりの者が見つからない場合も考えられる。そのような場合、両当事者から見て不偏であれば、一方との親族関係等があっても仲裁人として選任してよい。
○就任時に、仲裁人が忌避事由に当たる事由を開示することが重要である。開示があれば、選任時に当事者が判断できる。
○モデル法は、当事者が仲裁人を選ぶことをも規定しているのだから、「不偏・独立」はワンフレーズとして解釈すればよい。モデル法からはずれるのもどうか。

(忌避手続)
○三審制は絶対的要請ではないから、忌避手続に対する上訴を制限することは不可能ではないとは思う。ただし、憲法上の判断が絡むときの特別抗告を制限するのは難しいのではないか。
○忌避された仲裁人が自ら判断するのは、奇異な感じを受ける。
○常設仲裁機関の実務を前提とすれば、機関が判断すればよく、仲裁廷自身に判断させる必要はないが、アド・ホック仲裁は仲裁人の背後に仲裁機関がない。モデル法はアド・ホック仲裁をもカバーする規定だから、一時的には仲裁人に判断権を認めるべきである。いきなり裁判所へ不服申立てをさせることとすると、手続引き延ばしのために忌避申立てがなされるおそれがあり、裁判所に判断を求めるのは二次的でよい。

(忌避以外の退任事由)
○「後見等の開始」により当然に仲裁人の職を失うとすれば、欠格のときと同様、特別に規定するのは疑問がある。
□仮に、後見等の開始を欠格事由から落とすとすれば、退任事由からも落とすことになろう。破産者も同じである。
○仲裁人の辞任には、「正当事由」などの何らかの要件は必要と思う。仲裁人契約の解除については、全当事者が解約に合意したときは仲裁人が同意しなくても解除を認める例もあるように聞いている。
○仲裁人選任契約を委任と見るなら民法の委任解約の適用があるだろう。いつでも解除できるという規定が仲裁人契約にふさわしくないのならば、特別規定を仕組んでおく必要がある。

(仲裁人の権利義務)
○仲裁人の行為義務に関する規定を置くことがモデル法に反するとは思わないし、置いた方がよいとは思うが、それよりも免責規定を置くべきである。負けた側が不満を抱いて損害賠償等で訴えるおそれがあり、その不安を避けるための免責規定は望ましいし、必要である。免責規定は、常設仲裁機関の規則に置くより、法律で置いた方がいい。
○免責規定を置いた場合に、消費者契約法との関係で効力を生じるか。
○創設的に免責させる規定ではなく、確認的に規定する。仲裁手続に難癖をつけて訴えられるおそれもあるから、仲裁判断の内容だけでなく、手続運営もカバーする規定が必要がある。
○仲裁人の守秘義務についても規定を置く必要があろう。

(3)仲裁廷の管轄(権限)についての検討項目案について
 事務局から、検討会資料6について説明がされ、これについて次のような意見交換がされた。

(仲裁廷の管轄(権限)に関する仲裁廷自身の決定権限)
○約款に仲裁判断最終裁定条項が入っていた場合、消費者等に深刻な問題が生ずると思う。仲裁そのものがわかりにくいのに、仲裁廷の権限の有無についての判断を裁判所で争えないとの条項が入っていても、一般人には分からないのではないか。
○民事訴訟法上、訴権の放棄や不起訴の合意は広範に認めるのが通説である。仲裁判断最終裁定条項は一部不起訴の合意に近い。対象自体に当事者の処分権のないものは別だが、何もなくても訴権が放棄できるのだから、「仮に仲裁契約が無効でも訴権は放棄する」という合意が許されないと解するのは難しいだろう。上の意見は、合意の真正ないし消費者保護の問題ではないか。

(仲裁廷の管轄(権限)の有無についての判断の時期、方法及び判断に対する司法審査)
●肢(2)と肢(3)の実質的違いは、肢(2)は訴訟でいえば中間判決に当たり、書面によって判断を示したときに限り独立の不服申立てを許し、口頭で続行を宣言した場合は独立の不服申立てを許さないとする考え方である。肢(3)は口頭告知や黙示の判断がなされた場合でも独立の不服申立てを許すとする考え方である。手続促進の観点からは、ためにする不服申立てについては口頭で却下して手続を進めることが考えられる。
○裁判所からすれば、肢(3)を認めて、黙示の判断、訴訟指揮における心証開示のようなものを審理対象とするのでは、それが確定的な判断か否かが分かりづらく、判断しづらい。肢(2)は仲裁判断取消しの訴えと二重になるときどうするかに疑問が生じることを考えると、肢(1)がすっきりする。肢(1)か肢(2)がよいと思う。
○モデル法の立場は、仲裁廷は、続行して終局仲裁判断まで行くこともできるし、途中で先決問題として判断することもできるとの立場であり、肢(2)と肢(3)の区別はしていない。口頭での判断はいけないとは書いていないが、裁判で争うことが認められているから、書面による判断であることが前提であろう。内容的にも、モデル法が穏当と思う。
○黙示の判断がされて手続が続行された場合に、仲裁不許の訴え(申立て)を提起することは考えられると思う。
○裁判所が決定手続で判断すると仮定すると、終局仲裁判断の中で判断がされたなら最高裁に上訴できるのに中間判断でされたために最高裁に上訴できなくなるという違いを認めてよいかが問題となる。
○中間判断に対する不服申立手続と仲裁判断取消手続のいずれも決定手続とするなら、同じ対象についての判断だから既判力類似の作用を認めるべきである。
○モデル法は、遅滞なく不服申立てをする義務を課している。裁判所に訴えを提起しなければならないとの義務を課しているのに、終局判断後に再度争えるとするのは理解できない。
○仮に、仲裁判断に対する不服申立手続と仲裁判断取消手続のいずれもを決定手続としても、中間判断に対しては上訴不可として、仲裁判断取消決定に対しては抗告できると仕組むと、上訴の点でオーバーラップしないから取消しの訴えを認めるべきとの話が出ることも考えられる。

(仲裁廷の暫定的保全措置)
○UNCITRALの作業部会で、暫定的保全措置の発令手続と執行力について議論がされている。同部会での議論状況を紹介しておく。
 発令手続については、認められる保全措置の類型、一方的審尋による発令の可否、担保提供が大きな問題となっている。
 保全措置の類型は、日本の民事保全法に近い形で議論が集約されてきている。
 担保提供は、一方審尋による発令のときは義務づけるべきなどの議論もあったが、いろんな事件があるから仲裁廷の裁量に委ねるべきとの意見に収斂されつつある。
 今一番もめているのは、一方審尋による発令の問題である。コモン・ローの国が、仲裁は両当事者の平等取扱いが根幹だから一方審尋は考えられないと強硬に反対している。一方審尋を認める代わりに、発令要件を非常に細かく仕組んでいく案が出ていて、最終的な意見はまだ出ていない。
 執行力については、日本は当初は原則的に認めない旨の意見を述べたが、現在ではすべての国・常設仲裁機関・オブザーバーが執行力を認める意見である。執行力に関する条文案は既に示されているが、17条改正の議論が終わっておらず、ほとんど具体的議論がされていない。今回の部会でも全く議論されなかった。
○婚姻費用の分担等のように、仲裁手続中の現状維持や間接強制的なものを認めるのは分かるが、これを超えて財産保全等まで強権的にやるのはどうかと思う。そこまで含めるかによって後の議論が変わってくるのではないか。
○日本に立法の仕組みの近い国の話を聞くと、望ましいかどうかは別として、仮差押えや係争物仮処分等も含め、原理的にはすべてできると解される。現実には当事者に作為・不作為を命じるものが多いが、国際仲裁では仮差押えも少なくない。その場合でも執行申立てをしなければ現実の効果としては作為・不作為の命令と同じである。
○アンケート結果等を見ると、仲裁廷の保全措置には一種の心理的強制、抑止力を期待している人が多いのではないか。そういうものとして民事保全と別に仲裁廷の保全措置を設けることには異論がないように思う。ただ、更に仮差押えや登記等まで認めるかについては、かなり慎重に考えた方がいいような印象を受ける。承認・執行が必要な場合、裁判所での保全処分と別の措置を置く必要性は少ない。
○任意に履行すればいいとして対象を安易に広げると、執行力の付与される判断とされない判断が生じる。裁判所に申し立てれば執行可能なのだから、むしろ、執行力の伴うものは裁判所に執行の申立てをしてもらうのがよい。
○裁判所保全処分との関係については、裁判所に申し立てた方が効果的なものも少なくないが、高度専門技術に関する紛争などで裁判所の能力を超える事件等、裁判所の保全措置では緊急性・有効性に問題があり、仲裁廷が保全措置を出す方が望ましい事案も多い。
○仲裁が両当事者の合意に基礎を置くから暫定的保全措置の効力は第三者には及ばないとアプリオリには言えないのではないか。終局的仲裁判断に基づく差押えはできるのだから、合意に基づくから第三者に及ばないとは言えない。判決も当事者間にしか効力が及ばない点は同じである。政策的観点からは、第三者に対する効力を認めるのはいかがなものかと思うが、原理的にだめとは言えないと考える。
○暫定的保全措置を命令の形で発令するか中間的仲裁判断として発令するかも問題となる。

(4) 仲裁手続についての検討項目案(その1)について
 事務局から、検討会資料7について説明がされ、これについて次のような意見交換がされた。

(仲裁手続に関する基本的視点、仲裁地についての当事者の指定権及び補充規定)
○モデル法18条は訓示規定で、あってもなくてもさほど差はないが、他国で規定から落とした例がない。
○主張立証についての「十分な機会」の文言については、手続の迅速性との調整の工夫があってもよい。
○イギリス法は「合理的な」と規定している。

(職権探知主義)
○仲裁は訴訟に比べて職権性が高いと認識されているし、職権探知主義の運用は多いと思う。しかし、正面から規定することには躊躇を覚える。仲裁手続の捉え方は国によって異なり、規定を置くと誤解を招くおそれがある。
○民事訴訟における弁論主義の根拠は、対象となる権利関係が当事者の処分を許す点にあると解されており、この点は仲裁も同様だから、仲裁の専門性だけから職権探知主義を理由づけるのは難しい。かといって明示的に弁論主義を宣言する必要もなく、合意があれば合意に委ねればよいし、なくても仲裁人に任せればよく、この点の明文規定は不要と考える。
○実務上、職権で鑑定を採用することはよくある。

(仲裁手続の開始等)
○仲裁手続の開始時期の規定はモデル法21条にあり、特段の理由がない限り、仲裁法にも置くべきと考える。置いた場合に時効中断時期と一致させるかは、理論的必然の関係にはないが、連動させないと開始の規定を置く意味がかなり薄れる。あえて時点をずらすのは混乱を招くだけであろう。
○モデル法に時効中断時期の規定がないのは、時効に関する法制が国によって違いすぎていて統一的な規定が困難だからと思われる。
○実務的には、時効中断の規定は是非置いてほしい。仲裁手続開始時期との一致は、実務的には、「被申立人が申立書を受領した日」とすると、申立書が保管期間経過や所在不明で送達できない場合があり、このために時効中断時期が区々になるのはいかがなものかと思う。「仲裁機関が申立を受理した日」のような、明確な時点が定められるとよい。
○時効の根拠を権利の上に眠るものは保護に値しないことと考えると、権利者が仲裁の申立てをしたのに、仲裁人が選任されない、あるいは申立書が送達されないために時効が完成してしまうのはおかしい。ドイツ民法220条のように、権利者が自分の側で必要とされることをすれば時効中断を認めることも考えられるのではないか。これならばアド・ホック仲裁でも使える。
○仲裁手続開始時の特定は、他に、仲裁人の秘密保持義務の発生時点を画する機能もある。ただ、時効中断と違って、秘密保持義務については終了時点も定める必要がある。

7次回の予定
 次回(4月1日(月)13:30〜17:00)は、仲裁手続(その2)、仲裁判断及び仲裁手続の終了、仲裁判断に対する不服申立てについて議論することとなった。

(以上)